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富士フイルムホールディングス、電力と蒸気を自然エネルギー由来100%に

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Academic year: 2021

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◼ 先進企業の自然エネルギー利用計画 (第11回)

富士フイルムホールディングス

電力と蒸気を自然エネルギー由来100%に

工場では風力・太陽光発電も拡大中

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1. 自然エネルギーの利用方針と導入計画

富士フイルムグループは名称が示すように、写真用のフィルムの製造・販売から事業が始まった。創業 は 85 年前の 1934 年(昭和 9 年)である。現在はフィルムやカメラの事業(イメージング)の売上高は 全体の 2 割以下になった。フィルムやカメラの製造で培った材料化学・光学・電子分野の技術を生かし て、太陽電池や液晶ディスプレイといった高機能材料、さらに医療用の画像診断システムや化粧品を含む ヘルスケア分野へ事業範囲が広がっている(図 1)。 図 1.富士フイルムグループの事業セグメントと売上高(2017 年度) 一方で米国ゼロックスと合弁の富士ゼロックスの売上比率がグループ全体の 4 割を超える。電子技術 を基盤とする富士ゼロックスが事業で使用するエネルギーは電力が主体だ。そのほかのグループ会社で は中核の富士フイルムを中心に化学系の製品が多く、製造工程では電力のほかに蒸気(熱)を大量に使用 する。グループ全体で CO2(二酸化炭素)の排出量を削減するために、当面は電力を自然エネルギーに 切り替えて、その後に蒸気も CO2 フリーで供給できるようにする方針を打ち出した。

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表 1.富士フイルムグループの概要

富士フイルムグループは 2017 年に「Sustainable Value Plan 2030(SVP2030)」を策定して、2030 年 度までに CO2 排出量を 30%削減(2013 年度比)する目標を掲げた。CO2 排出量の約 3 割はエネルギー の使用に伴うものだ。工場を中心に省エネ対策を進めてエネルギーの使用量を低減しながら、CO2 を排 出しない自然エネルギーの電力の使用率を高めていく。 目標達成に向けて、自然エネルギーの利用拡大を目指す国際イニシアチブの「RE100」に 2019 年 4 月 に加盟した。グループ全体で購入する電力の 50%を 2030 年度までに自然エネルギーに切り替え、さら に 2050 年度までに 100%へ引き上げる計画だ(図 2)。それと並行してガスを主体にしたコージェネレー ション(熱電併給)システムで供給している自家発電の電力と蒸気についても、CO2 を排出しない水素 などに転換していく。 図 2.CO2 排出量の削減に向けたエネルギー転換イメージ 自家発電(蒸気・電力)と購入電力の利用比率はほぼ上図のとおり 企業名 富士フイルムホールディングス株式会社  (富士フイルムグループの持株会社) 拠点数 グループ279社 (連結対象、2019年3月31日) 電力使用量 11億6700万キロワット時 (2017年度、グループ全体) 自然エネルギー 電力の利用率 実績:9% (2017年度) 目標:50% (2030年度)、100% (2050年度) 売上高 2兆4315億円 (2018年度、連結) 日本:1兆65億円、米州:4628億円、欧州:3153億円、 アジアほか:6488億円 (うち中国:2961億円) 社員数 7万2332人 (連結対象、2019年3月31日) 主要事業 ドキュメント、デジタルイメージング、グラフィックシステム、 ヘルスケア、高機能材料、記録メディア

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3 富士フイルムグループが全世界で年間に使用する電力のうち、すでに 1 億 kWh(キロワット時)以上 が自然エネルギーに切り替わっている(図 3)。2017 年度の電力使用量の 9%に相当する。このうちオラ ンダの南部にある工場で使用する風力発電が大半を占める(写真 1)。 図 3.富士フイルムグループの自然エネルギー電力使用量の推移 MWh:メガワット時(=1000 キロワット時) 写真 1.オランダのチルバーグにある工場に導入した風力発電設備

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4 チルバーグにある工場は欧州における基幹工場の 1 つで、1982 年に操業を開始した。長年にわたって 写真用の印画紙や印刷用の刷版を製造している。2011 年に 5 基の風車を設置して、工場で使用する電力 の 15%を自家発電に切り替えた。1 基の発電規模は最大 2MW(メガワット)で、合計 10MW になる。 さらに 2016 年 9 月にはオランダ南西部の北海に面した場所にある風力発電所と PPA(電力購入契約) を結び、自家発電分と合わせて工場で使用する電力の 100%を風力発電で供給できる体制になった。 富士フイルムグループでは自然エネルギーを利用するにあたって、経済合理性と環境面の両立を基本 方針にしている。「自然エネルギーは国や地域で導入コストに差があり、政府の補助などの違いもある。 そうした点を考慮して、経済合理性が成り立つ場所から自然エネルギーを導入していく」(富士フイルム ESG 推進部 環境・品質マネジメント部統括マネージャー 兼 富士フイルムホールディングス ESG 推進 部マネージャーの岩間秀司氏)。 この方針のもと、中国の東部にある工場の屋上に太陽光発電設備を 2018 年に導入した(写真 2)。発電 規模は 1.4MW である。「この工場では地域の補助制度の活用などにより、投資回収を短縮できる見込み」 (岩間氏)。今後も経済合理性を判断しながら、世界各地で自然エネルギーの利用を拡大していく。特に 工場を新設・増設する時には、最初から屋上に太陽光発電設備を導入すればコストを抑制できる。 写真 2.中国の工場の屋上に設置した太陽光発電設備 日本国内では、熊本県にあるグループ会社の富士フイルム九州が 2006 年にいち早く太陽光発電を導入 した。液晶ディスプレイの部材を製造する工場の建設に合わせて、管理棟の屋上に約 100kW(キロワッ ト)の太陽光発電設備を設置した。(次ページの写真 3)。管理棟の照明が使用する年間の電力量とほぼ同 量を太陽光発電で供給している。

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5 写真 3.富士フイルム九州の本社管理棟の屋上に設置した太陽光発電設備 富士フイルムグループでは 2013 年から、事業場で自家発電した電力をグループ内で活用する取り組み も実施している。静岡県にある X 線用のフィルムなどを製造する富士宮事業場では、天然ガスを利用し たコージェネレーションシステムを導入して、電力と蒸気を自家消費している。 このコージェネレーションで発電した余力をグループの拠点にも供給する。電力会社の送電網を利用 してグループ会社に電力を送ることができる「自己託送」の制度を活用した。当初は東京電力の管内に限 定していたが(図 4)、現在は北陸や九州の拠点にも電力を供給している。 図 4.自家発電の電力をグループの各拠点に供給(2013 年の開始当時)

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6 富士宮事業場の発電余力を利用することによって、各拠点の電力需要のピークを抑制できる。その結 果、契約電力を合計で 30%以上も低減できた。合わせて地域全体の電力の安定供給にも貢献できている。 「富士宮事業場から、どの拠点に電力を送ると、需要を抑制するうえで最も効果的か、毎年見直してい る。もともと夏の昼間に発生する電力需要のピークを抑えるために始めたことで、効果の高い工場を選ん で電力を供給するようにしている」(岩間氏)。 自己託送の仕組みは太陽光発電の余剰電力にも応用できる。工場に設置した太陽光発電設備で日中に 余剰電力が生じたら、自己託送で他の拠点に供給すれば、ピーク電力を自然エネルギーで抑制することが 可能になる。富士フイルムグループにはグループ全体の電力供給を一括で管理するシステムがある。グル ープ全体で最適化を図り、電力の使用量を削減しながら自然エネルギーを拡大する狙いである。 富士フイルムグループが全世界で使用するエネルギーの量は年々減っている。特に日本国内では石油 (重油など)の使用量が 2013 年度から 2017 年度の 5 年間で半分近くまで減少した(図 5)。工場で使用 するコージェネレーションの燃料を CO2 排出量の多い重油から排出量の少ない天然ガスに移行した効 果である。 図 5.富士フイルムグループのエネルギー使用量の推移。TJ:テラジュール 電力の使用量を見ると、国内では最近の 5 年間で 9%少なくなった。海外の電力使用量は横ばいだが、 そのうち 15%が自然エネルギーに切り替わっている。今後さらに国内・海外ともに省エネ対策を進めて 電力使用量を削減しながら、購入する電力を自然エネルギーに切り替えて CO2 排出量を減らしていく。

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7 国内でも自然エネルギー100%の電力の価格を調査し具体的な検討に入った。自然エネルギーの電力を 調達する手段として証書を購入する方法もあるが、最終的な手段にとどめる方針だ。可能な限り自家発電 と購入電力を自然エネルギーに転換して、実際に排出する CO2 を削減していく。 さらに省エネに関しても手を緩めない。LED 照明などエネルギー効率の高い機器を導入する対策だけ にとどまらず、事業場の生産計画まで見直す。事業場で生産計画を立てる時に、エネルギーの担当部門も 加わって、エネルギー効率も考慮した高効率生産を推進している。できるだけ多くの生産ラインを同時に 稼働・停止させれば、コージェネレーションの運転時間を短縮できて、エネルギーの消費量を減らせる。 製造・生産管理・エネルギーの各部門が一体となって、全体最適の視点で高効率生産を目指す。 CO2 排出量の点では、コージェネレーションで使用するガスも重要な課題だ。化学系の工場では大量 の蒸気を必要とするため、今後もコージェネレーションを使ってエネルギーの効率を高めていく。コージ ェネレーションに伴う CO2 排出量を削減するには、自然エネルギー由来のガスに転換する方法が最適で ある。その有力な候補として、CO2 フリーの水素などに期待をかけている。 「当社はこれまでに蓄積した自家発電のノウハウがある。産業界でも水素をコージェネレーションに 利用できる技術は確立しつつある。現時点で CO2 フリーの水素はコストとインフラが実用レベルになっ ていないが、国やエネルギー供給会社などにも働きかけて実用化を推進していきたい」(岩間氏)。

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2. 期待する効果と今後の課題

富士フイルムグループが持続可能な社会を目指して 2017 年に策定した「SVP2030」では、事業活動で 排出する CO2 を削減するだけではなく、製品やサービスを通じて社会全体の CO2 削減に貢献していく 方針を掲げた。グループ全体の事業活動で排出する CO2 の累積量と、製品やサービスで削減できる CO2 の累積量を、2030 年度までに同等にする(図 6)。累積の排出量を累積の貢献量で相殺することによって 気候変動の抑制に寄与する考え方である。 図 6.富士フイルムグループの CO2 貢献量・排出量の長期目標 2030 年度までに累積で 5000 万トンの貢献量を達成して、累積の排出量と同程度にすることが目標だ。 この長期目標に対して、2017 年度までの累積貢献量は 463 万トンになり、進捗率は 9%である。今後 2030 年度に向けて取り組みを加速させなくてはならない。 社会全体の CO2 削減に貢献する代表的な例として、富士ゼロックスが提供するコピー機などの出力機 器を対象にした「次世代型マネージド・プリント・サービス」がある(次ページの図 7)。顧客の事業所 におけるコピーや印刷の利用状況を専門スタッフが分析して、機器の配置や種類を最適化する。印刷枚数 の削減と電力使用量の削減を通じて、CO2 排出量の削減に貢献する。 2015 年度と 2016 年度の 2 年間の実績では、出力機器の設置台数を 23%削減して、印刷枚数を合計で 8 億 1000 万枚も減らすことができた。CO2 排出量は 2 年間で 1 万トン以上を削減した。さらに使用済 みの出力機器を再生することによって、廃棄物の削減、資源の節約、製造時のエネルギー使用量の抑制に つながる。再生した機器の導入率は現在までに 40%を超えた。

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9 図 7.「次世代型マネージド・プリント・サービス」の提供イメージ 富士フイルムグループ全体の CO2 排出量を製品のライフサイクル全体で見ると、2017 年度には 46% が素材などの調達段階で発生している。このほかには製造段階で 28%、輸送段階で 9%、使用段階で 15%、 廃棄段階で 3%である。2013 年度と比べると、すべての段階で CO2 排出量の削減が進んでいる(図 8)。 SVP2030 で掲げた 2030 年度の目標(2013 年度比で 30%削減)の達成は十分に可能な状況にある。 図 8.製品ライフサイクル全体の CO2 排出量の実績と目標 ライフサイクルの各段階における主な CO2 排出源は、調達段階ではアルミニウム、製造段階では電気 やガスなどのエネルギー、使用段階ではコピー機やプリンターなどの出力機器である(次ページの図 9)。 このうちエネルギーの使用に伴う排出量は省エネと自然エネルギーで削減し、出力機器による排出量は 次世代型マネージド・プリント・サービスなどで削減していく。

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10 図 9.CO2 排出量の内訳(2017 年度) PET:ポリエチレンテレフタレート、TAC:トリアセテート このほかに残っている CO2 の主な排出源はアルミニウムである。富士フイルムが印刷会社や新聞社に 供給する刷版の材料にアルミニウムを使う。コンピュータの出力データから印刷機の刷版(プレート)を 作る CTP(Computer To Plate)と呼ぶ製品だ。富士フイルムでは CTP の材料として欠かせないアルミ ニウムを再生して利用する「クローズドループサイクル」を実施している(図 10)。 図 10.アルミニウムを再生して利用する「クローズドループリサイクル」 CTP 版/PS 版:オフセット印刷用の刷版材料 通常アルミニウムは原材料のボーキサイトを精錬して製造するが、その過程で大量の電力を消費する。 これに対してクローズドループサイクルでは、印刷会社などで使用済みの CTP を回収してアルミニウム を再生し、新しい CTP を製造する。

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11 アルミニウムの回収・再生に必要なエネルギーは従来の精錬と比べて少なくて済み、CO2 排出量を削 減できる。新たにボーキサイトからアルミニウムを作る必要がなくなり、貴重な資源の節約にもなる。 富士フイルムグループでは原材料の削減・再生や省エネによる経済効果を年度ごとに算出して、対策に かかったコストと比較する。これを重要な指標として経営レベルの意思決定に生かす。経済効果は社内だ けではなくて、産業廃棄物や CO2 排出量の削減といった社外の経済効果も加味する。そうするとコスト をはるかに上回る経済効果を得られることがわかる(図 11)。特に 2011 年度以降は、コストに対して約 2.5~5 倍の経済効果を上げている。 図 11.富士フイルムグループの環境保全活動におけるコストと経済効果 (環境会計ガイドラインに基づいて算出) *本レポートの内容はヒアリング実施日(下記)の時点の情報です。 *図と写真は富士フイルムホールディングスの提供によるものです(表 1 を除く)。 ヒアリング実施日:2019 年 6 月 26 日 レポート作成者:石田雅也(自然エネルギー財団 シニアマネージャー)

参照

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