eLISAによる
重力波コスモグラフィーと
Hubbleパラメータ問題
理化学研究所 iTHES
久徳浩太郎
共同研究者:瀬戸直樹(京大)
Kyutoku, Seto MNRAS 462 2177-2183 (2016)
Kyutoku, Seto arXiv:1609.07142
目次
1. Hubble tension(Hubbleパラメータ問題) 2. 連星ブラックホールからの重力波とeLISA 3. 重力波コスモグラフィー
1. Hubble
tension
Hubble tension?
近傍天体観測 vs CMBで3.4sigma~9%の差
Riess+ (2016)
近傍天体観測 CMB
Dark radiation?
CMBを変更する立場 dark baryon dark matter dark energy dark radiation… 慎重な検討が必要 Riess+ (2016)ボイド?
低密度領域にいれば膨張は速く見えていいが z>0.1まで見てこれほどの影響とは考えづらい Marra+ (2013) Wojtak+ (2014) 2013年時点のtension近傍宇宙の距離測定:距離梯子
100Mpcくらいの観測ならIa型超新星爆発や Tully-Fisherなど銀河に対する経験則を用いる 信頼性…?
本研究の目的
Hubble定数を近傍宇宙の天体観測で知るには (光度)距離-赤方偏移の比較が基本的な手段 𝐷 𝑧 ≈ 𝑐𝑧/𝐻0 電磁波での観測では光度距離を求めるために 距離梯子が必要になり、系統誤差は非自明 重力波によって独立な検証を行う手段の提案 - 近傍宇宙での標準音源 “standard siren”2. 連星ブラック
ホールからの
重力波とeLISA
重力波の初検出:GW 150914
GW 150914のパラメータ
重力波観測からは質量・光度距離がわかる
(この赤方偏移はconcordance cosmologyから)
連星ブラックホールの性質
1. ブラックホールが今までの理解より重い GW 150914は(29 + 36)太陽質量…低金属量? - GW 151226は(14 + 7.5) 2. 合体レートが高い 9-240 Gpc^(-3) yr^(-1)? 質量分布やレートは 今後わかってくるだろう LIGO&Virgo (2016)https://www.elisascience.org/ files/images/eLISA_Orbit.jpg Klein+ (2016)
eLISA / LISA
100万km程度の腕を持つ宇宙重力波検出器 mHz帯に感度、デザイン・観測期間は検討中多波長重力波天文学?
多波長重力波天文学?
合体しない連星
合体しないで延々回っている連星が多数見える - (準)単色波近似がよく通用する - 検出数は概ね「チャープ質量」に対しℳ10/3 Kyutoku-Seto (2016) 3年以内に合体 多波長eLISAの利点
Q. 宇宙で見るメリットはあるのか? A. ある • 距離の決定精度がいい 検出器の較正精度がLIGOより上がる(予定な) ので、振幅の決定精度が高く、距離も決まる • 方角の決定精度がいい 地上検出器は複数台のネットワークを用意して 到来時刻の差を比較する (<10,000km) 宇宙検出器は自身の運動によるDopplerシフトLIGOの位置決定精度
複数検出器の間の到来時刻差から決めている 母銀河を決める どころの話ではない 今後改善しても O(10)平方度程度 http://ligo.org/detections/images/localization-comparison-gw150914-gw151226.jpg3. 重力波
重力波による距離測定
観測される重力波波形は大雑把には ℎ 𝑡 = 𝐹 𝜃, 𝜑, 𝚤, 𝜓 ℳ 5/3𝑓2/3 𝐷 cos Φ 𝑡 Φ 𝑡 ≃ 2𝜋 𝑓𝑡 + ሶ𝑓𝑡2/2 + ⋯ ሶ 𝑓 = 96/5 𝜋8/3ℳ5/3𝑓11/3 • 位相を見ると質量など系の物理量がわかる • 振幅を予言できるので、距離𝐷が決まる ただし方角・連星の向きと相関する: 𝐹問題:赤方偏移との縮退
赤方偏移𝑧からの信号は𝑓/ 1 + 𝑧 に伸びる 一般相対論にはスケールがないので 𝑡 → 𝑡 1 + 𝑧 , ℳ → ℳ 1 + 𝑧 , 𝐷 → 𝐷(1 + 𝑧) と変換すれば振幅・位相とも不変になってしまう 重くて遠い連星=近くて軽い連星 • 光度距離は読み取ることができる • 赤方偏移は原理的にわからない - 中性子星連星では縮退を解きうる(省略)母銀河からの赤方偏移決定
赤方偏移は電磁波観測で母銀河から抜き出す どうやって母銀河を当てるかが問題 [Schutz 1986] • 重力波観測で位置決定精度を出す 宇宙検出器だとそれなりに可能かもしれない! • 電磁波対応天体を見て位置を絞る 中性子星を含む連星はGRBとかキロノヴァとか 恒星質量ブラックホール同士の場合は…過去に提唱されたeLISA宇宙論
• 超大質量ブラックホール同士の合体 z>1からの信号が主なターゲット(不定性大) 銀河が一緒に合体するので電磁波で光りうる • 超大質量ブラックホール+恒星質量天体 z>0.1からの信号が主なターゲット(不定性大) 銀河は統計的に処理する(クラスタリング) 100Mpcくらいの距離を調べられるものはない予想されるeLISAでの決定精度
Takahashi-Seto 2002のFisher解析に基づく 7mHz、100Mpcだと信号雑音比は𝜌~20 (BH質量、観測期間、検出器デザインに依存) Δ𝐷 𝐷 ∼ 0.1 𝜌 20 −1 ΔΩ ∼ 3.6 × 10−4 str 𝜌 20 −2 𝑓 7mHz −2 - 1平方度くらい(地上検出器はO(10)平方度)母銀河探し
光度距離𝐷を元に赤方偏移カタログから探す 𝑧 = 𝐻0𝐷/𝑐 • 光度距離測定の統計誤差Δ𝐷 ∝ 𝐷2 • 𝐻0を(一時的に)仮定する誤差∝ 𝐷1 • 銀河の特異速度による誤差𝜎/𝐻0 ∝ 𝐷0 とりあえず簡単のため両端だけを考える 大きめの特異速度𝜎 = 1000km/sを使って Δ𝐷total = Δ𝐷 2 + 𝜎/𝐻0 2位置がよく決まる銀河の数
ℳ = 28𝑀⊙, 𝑅 = 100 Gpc−3 yr−1を仮定
~60 ~15
Hubble決定に伴う誤差
• 母銀河が大きめ(𝑀∗ > 109𝑀⊙)のとき 60個くらいの連星に対して母銀河が決まる 距離の統計誤差やショットノイズは問題なさそう ボイドの影響は受ける (cosmic variance) 2-3%? - これは今回見たい効果だと考えてもよい • 母銀河が小さめ(𝑀∗ > 107𝑀⊙)のとき 15個くらいしか使えないので諸々厳しくなる ただし連星の母銀河を調べること自体はできる連星ブラックホールの母銀河
低金属量のものは軽い銀河が多いという話も… - 典型的な母銀河 - ブラックホールの出自 これら自体も重要で eLISAで答える問題 [e.g., Nishizawa+ (2016)] Lamberts+ (2016)4. 将来展望と
まとめ
将来展望
• もう少し具体的なHubbleの決定精度は?
- 母銀河を一つに絞り込めなくても統計的処理 もっと遠くの連星まで使って数を稼げるかも
[樽屋さんの話、see also W. Del Pozzo and A. Sesana (in prep.)]
• Hubbleパラメータを測る以外の使い道は? - 連星ブラックホールの母銀河探査だけ見ても
(地上検出器では不可能な)目標ではある - bulk flowなどは測れるかもしれない
まとめ
• 重い恒星質量ブラックホールはeLISAなどの 宇宙重力波検出器でも観測できる • 現実的な観測時間内に合体するものよりは ほぼ単色の連星がたくさん検出されるだろう • eLISAは3次元的な位置決定精度がいいので、 独力で母銀河を推定可能かもしれない • 重力波で測る光度距離を銀河の赤方偏移と 組み合わせれば~100MpcでのHubble定数を 新たに測れるかもしれない距離梯子
Riess+ (2016)
過去に考えられてきた重力波源
• 超大質量ブラックホールの連星 • 超大質量ブラックホール+恒星質量天体 • 系内の連星白色矮星(ノイズにもなる) • 宇宙論的起源 etc. 今まで 「系外の恒星質量ブラックホールの連星」 は基本的に考えられてこなかった (系内の連星ブラックホールはSeto 2016)単色波近似
パラメータ依存性が見えやすい、例えば 検出期待数も かなりよく再現する (合体するもの除く) 分布を考えると検出数は〈ℳ10/3〉にsensitive Kyutoku-Seto (2016)位置決定
エラーの推定はTakahashi-Seto (2002)に基づく 母銀河が一つに絞れる可能性がある - BH-BHに対しては地上からはまず無理 Kyutoku-Seto (2016) 銀河の 数密度は 典型的に 0.01Mpc^(-3) と言われる ことが多い 各振動数での ベストケース離心率によるシナリオ判別
球状星団などで作ると離心率が大きくなるので 100個も見れば統計的には十分に判別できそう 分布のモデル依存性… 観測した連星ブラックホールの数 Nishizawa+ (2016) 縦軸: オッズ比の対数 Breivik+ (2016)LIGOのキャリブレーション
銀河の質量関数
近傍ではよく測られている=今は概ね十分 軽い方はincomplete?
GAMAサーベイ Baldry+ (2012)