―
フ ァム・ ミン・ ハ クの所説 を中心 に して
一
教育,b理学教室 高 取 憲 一 郎1.は
じ心ウに ソビエ ト心理学,お
よび社会主義諸国の心理学 において,「活動」の概念 の占める位置の重要性 に ついては,今
さら強調す る必要 はなか ろう。「活動」概念 は,心
理学がよって立 つ ところの重要な方 法論的,理
論的基礎 を構成 しているばか りではな く,ア
メ リカ合衆国で隆盛 を迎 えて現在 もなおそ の勢力 を保 っている行動主義心理学の「行動」概念 と,そ
の内容 と構造 において鋭 く対立 している とい う点 において もまた,
とりわ け重要な社会的,歴
史的,イ
デオ ロギー的意味 をもっている。 かつて,筆
者 は,ソ
ビエ トの心理学者ル リヤ とカナダの心理学者ヘ ッブを上ヒ較 しなが ら,両
者の 方法論の差違 と,そ
れ と密接 に関わ りあ う意識 に対す る見解の差違 について詳細 に論 じた(ぅ。ただ, その時点 においては,ル
リヤの神経心理学的分析 とヘ ッブの行動主義的方法の認識論的発展の深化 の水準の差違 を強調す るあ まり,「活動」概念 と「行動」概念の対立 が有 す るところの心理学全体ヘ の展望の違い,お
よびそ こか ら派生す る人間観の違い という点 について は示唆するだけで終 り,な
ん ら具体 的な展開がなされない ままであった。 ソビエ ト心理学で は,レ
オ ンチ ェフが「活動,意
識,人
格」とい う著書で,「活動」概念の理論的 分析 と展開 を精力的 に行 なっているが,ア
メ リカの行動主義心理学の批判 的分析 と関連 させつつ, 「活動」概念 を展開 させ,さ
らにその基礎 の上 に立 って,「活動の心理学」の構築 を提起 しているの は,レ
オ ンチェフの弟子でベ トナム社会主義共和国のファム・ ミン・ハ クである。 ソビエ トの心理 学研究者,
とりわけレオ ンチ ェフのグループのなかに,「活動」概念 に基礎づ けられた「活動の心理 学」の立場か らの,行
動主義心理学の検討 とい う仕事が見当 らない現状 において,ハ
クの一連 の論 文 は貴重 な労作 と考 えられ るし,「活動」概念 と「行動」概念 を考察するための重要な手がか りを与 えて くれ るもの と思われる。「活動」概念 と「行動」概念の比較検討 とい う作業 は,ま
た,「行動」 概念の批判 を媒介 として「活動」概念の内容の深化 と肥沃化 を図 るとい う,い
わば「活動の心理学」 をうち立てるための一つの過程 として考 えられ るのは当然の こととして,ベ
トナム人のハ クに とっ ては,ベ
トナム戦争の当面の敵であ り,戦
後 にまで もなおその強大な影響力 を残 しているアメ リカ 合衆国の思想的・ イデオロギー的 。社会心理学的影響力 と,ま
さに直接的 に対峙せねばな らぬ とい う国家的・民族的な必要 に迫 られ る とい う側面 も多いにあった ことは,容
易 に推察 され うる②。その 意味では,ハ
クのほうが レオ ンチェフよ りもはるかに厳 しい社会的・ 実践的要請の うえに,ア
メ リ カ合衆国の主要イデオロギーの一つである行動主義心理学の「行動」概念,お
よび人間観 を分析 し解明す るとい う義務 を負わ されているとも考 えられ るのである。 本稿では
,ハ
クの諸論文 とレオ ンチ ェフの著書 を紹介 しなが ら,心
理学 にお ける「活動」 と「行 動」 という二 つの概念 を考察 してい くことにする。2.ベ
トナ ム 心 理 学 の現 状 と フ ァ ン 。ミン・ ハ ク 本論 に入 る前 に,ベ
トナム心理学の現状 とファン・ ミン・ハ クについて簡単 に紹介 してお こう。 ベ トナムの心理学界の現状については,ほ
とん ど情報 らしい ものがわが国に紹介 されていないので 詳 しい ことは述べ ることはで きない。ただ,岩
崎允胤氏 らの報告0,あ
るいは岩名泰得氏 の報告ωに よれ ば,ハ
ノイにあるベ トナム社会科学院哲学研究所0のなかに,弁
証法的唯物論,史
的唯物論,ベ
トナム思想史,倫
理学,美
学,ブ
ル ジョア哲学および南ベ トナムの哲学批判,自
然科学の哲学な ど の研究部門 と並んで心理学部門が設 けぢれてお り,部
長 は ドー・ ロン(Do Long)で
ある。 したが って,心
理学関係の論文 も,同
研究所発行の研究雑誌「チェッ トホ ック」(Triot hOc,哲学)に掲載 されている(。。ファム・ ミン・ ハ ク
(Pham Minh Hac)に
ついて も詳 しいことはゎか らない。ただ1980年 7月 に東 ドイツのライプチ ヒで開かれた第22回国際心理学会のCongress News No.4171にハ ク氏 とのインタビュー記事が掲載 されている。それによると,「ベ トナム戦後の今の時代 においては
,ベ
トナム にとっては心理学の建設 という課題 よ りも一層重要な課題があるように思われるにもかかわらず, ベ トナムでは心理学が急速に発展 しているのはなぜか」 といぅ記者の質問に答 えて,ハ
クは次の よ うに述べている。「ベ トナム政府 は,科
学 の発展 とい うことを非常 に重視 している。民族解放闘争の 過程 で生 まれたベ トナム社会主義共和国の若い心理学は,ベ
トナムの一層の発展 に とってたいへん 重要であ り,現
在,約
1000名の心理学関係者がいる。ベ トナムの心理学 も,世
界の現代心理学の成 果か ら大 きな影響 を受 けているが,
とりわけ,ソ
ビェ トお ょび他の社会主義諸国の心理学の成果 に は多 くを学んでいる。」次に,「ベ トナム心理学の特徴 とは何か」 という質問に対する答 は,以
下の ようで′ある。「ベ トナムの心理学者 は,ベ トナムの教育 を再生す るための科学的基礎づけをすること によって国の発展 に貢献 している。 とりわけさしせ まった問題 は,新
生ベ トナムに必要 な社会主義 的人格 を形成す るための科学的根拠 を提供するために,人
格心理学の研究 をす ることである。」最後 に,「ハ クの専門領域 とは何か」 という質問に対 しては,ハ
クは,「人格形成過程 を明 らかにす るた めに,疎
外 された (distorted)人格発達の過程 を現在の中心的研究分野 としてい る」と答 えている。 以上のイ ンタビュー記事 によって,ベ
トナム心理学界のあ らましと,ハ
クについての若干の情報 は得 られた と思 う。 とにか く,ベ
トナム心理学で は,ア
メ リカ思想の影響の強い南部の人々の教育 と人格形成 をどうするか,
とい う困難 な作業 も含むところの新生ベ トナム社会主義共和国の人間形 成,人
格形成 という課題 を解決す ることが当面の大 きな使命である0。 さて,ハ
クは,現
在,ベ
トナム教育科学 アカデ ミとの副総裁であるが,そ
の前10年間 ほどモスク ワ大学 に留学 し,ル
リヤ,レ
オ ンチェフ両教授の指導 を受 けたようである。われわれが入手 してい る彼 の文献 は,ほ
とん どがその当時,両
教授の指導下に書かれた ものであるが,全
体 的に見ればレ オンチェフの影響が強い と言える。われわれの入手 している彼の文献 を以下に年代)贋に列挙 してお こう。1. ShOrt‐
Term Memory in Patients with Left(Dominant)FrOntal Lbbe Lesions.
2. View of Soviet Psychologists on Beha orism.Pッσヵο′9ξ力,1976,19,163-172.
3. 3HaЧ eHИe PaHHИ x Pa6oT Л. G. BЫ
「 oTcК
oro ДЛЯ Pa8BИ TИЯ GoBeTcltoЙ ΠcИxoIOrИИ.
BECTH.MOCK.YH―
TA.CEP.口
CИXOЛO「ИЯ.1977, N3, 11‐20。(ソ ビエ ト心理学 の発展 に対 す るヴ ィゴツキーの初期 の著作 の意義
,モ
ス ク ワ大学通報,〈心理学〉
,1977,No3,11-20)な
お,
この論文 はPaД8ИXOBCЦИЙ,Л.A
との共著 で あ る。4. CyД Ь6Ы Б ИxeBИopИ3Ma : COЦ ИaЛЬHЫЙ BИ xeBИ opM8M CК ИHopa. 】 ο7rpοc, Ic″ ″ο力οr/〃
1977,」照2,73‐82.
(行動主義 の運命:スキナーの社会行動主義
,心
理学 の諸問題,1977,No2,73-82)
5。 Zur Frage des Gegenttandes der Marxistischen Psychologie.In A,Kossakowski(Herg.)駒 ι力θテ昭″ ケ
%Sο
z力′λ物クs.Berlin:VEB Deutscher Verlag der Wissenscha■en,1980,280-284. 文献1は
,左
半球 前頭葉 損傷 患者 の短期記憶 を研 究 した ものであ り,ル
リヤの指導 で神経心理学 的分 析 を行 な って い る。 これ は,わ
れ われ の手元 にあ る彼 の唯一 の実験論文 で あ る。文献2, 3,
4,は
レオ ンチ ェフの指導の下 に活動概 念 と行動概念 の比較検 討,お
よび行動主義 批判 を行 なった もので あ り,理
論 的論文 で あ る。文献5は,お
そ ら くベ トナム に帰 ってか ら著 した もの と考 え られ るが,レオ ンチ ェフ理論 に従 いなが らマル クス主義心理学 の対 象 と方法 について述 べ,「活 動 の心 理 学 」 あ るいは心理学 にお ける「活動一人格 アプ ローチ」 を提起 してい る。 そ こで本稿 で は, 1以
外 の理論 的論文 を紹介 しなが ら,論
述 してい くこ とにす る。 3。 「 マ ル ク ス主 義 心 理 学 の対 象 」 論 文 (文 献5)に
つ い て 文献5は,ハ
クが ソビエ ト心理学ぅとりわ けレオ ンチ ェフの活動理論 を吸収 しなが ら「活動の心 理学Jの
スケ ッチを叙述 した ものである。 この文献で は,ソ
ビエ ト心理学のい くつかの主要な概念 と中心的テーマが散見 されるので,そ
れ らを箇条書 き的に抜 き出 して,活
動の心理学の全体像 を概 観 してみたい。(i)活
動の心理学 (PSych010gie der T工 tigkeit):「マル クス主義的な活動概念 を基礎 とす る心理学は
,マ
ル クス主義心理学 として理解 す ることが で きる。換言すれば,人
間の対象的活動 とい うマルクス主義 のカテゴ リーは,マ
ル クス主義心理学 の概念装置の中で,中
心的な重要な位置 を占めている。要約すれば,マ
ルクス主義心理学 は活動の 心理学 と呼ぶ ことがで き,そ
れは新 しいタイプの心理学である。」(P.280,下
線部 は原文斜字体)(1)活
動の心理学へのヴィゴツキーの貢献: 「(ヴィゴツキーの論文 `行動の心理学の問題 としての意識 〔1925)″ は一一高取)活
動の心理 学の最初のプログラム と見 なす ことがで きる。 この論文の中で,ヴ
ィゴツキーは次の ような思想 を 中心的な見解 としていた。すなわち,個
別科学 としての心理学 は,歴
史的・ 社会的・ 労働 的・ 意識 的存在 としての人間の意識および行動の研究 にその努力 を向 けねばな らない。 この出発点 は以下の 帰結 に至 る。すなわち,心
理的な もの,す
なわち意識その ものの問題 の解決は,動
物 の行動 と人間 の行動 を区別するところの まさにあの行動様式の分析 を通 じてのみ見出す ことが可能である。 この ような行動様式のなかの中心的な ものは労動活動 (Arbeitstatigkeit)で ある。」(P,280-281) ′(│‖)活
動の心理学へのル ビンシュテインの貢献:「ルビンシュテインの `
カール・マルクスの諸労作における心理学の諸問題
(1934〕″という有名
な論文 において
,人
間の心理学への活動論的アプローチは,新
しい,明
確で正確 な形態 にまで洗練 された概念把握 に至 った。マルクス主義心理学の全体的な概念構造にとって,`主体 と客体 の弁証法 (Diattktik vOn Subiekt und Objekt)″ としての活動 という理解 を基礎 に置 くことの不可避性が強 調 された。`主体 と客体 の弁証法″としての活動 とい う思想 によれば,人
間 と人間 を取 り囲む現実 と の関係 は,活
動的相互関係 (tatige wechselbeziehung)と して決定 される。」(P.281)(iV)意
識 と活動の統一の原理: 「(意織 と活動の統一の原理 は一―高取),現
代心理学の最 も重要な成果の一つである。 だが し か し,
この原理の方法論的意味に真 に対応 しようとすれば,活
動の心理学的・対象的内容 を活動の 構造 の心理学的分析 によって明 らかにす ることが必要不可欠である。」 「(レオ ンチェフの研究 は以下の ことを明 らかに した。一―高取)連
合の成立や心像 の生成過程は
,実
践 (Praxis)や行為(Handlung)や
目標 (Ziel)と いうような人間の活動 に とって特徴的なカテゴ リーな しでは理解す ることができない。実験的事実は次の ことを明 らかにした。つ まり
,さ
まざまな刺激の効果 は,被
験者の行 なう活動の内容 に依存 している。意識 された目標 に向 け られた 主体 の行為 は,連
合 をひき起 こすための,そ
してあれ これの材料が刻印づけられ るための根本条件 である。」(P.281) 「(ガリペ リンの研究 は以下の ことを明 らか にした。一―高取)概
念や言語的思考の形成 と発展 は,社
会的・歴史的遺産 の体系の獲得の過程 である。 その獲得過程 は,操
作 と行為の適切 な組織化 の基礎の上 に生ずる。主体 が獲得す る概念 は,現
実の模写の一般化で もあ り,ま
たその模写の形成 にとって必要不可欠な操作や行為の体系の一般化で もある。……… (ガリペ リンによ リーー 高 取)具
体 的な心理学的材料 にもとづいて,生きた活動の過程における対象化 (Vergegenstandlichung) の過程,な
らびに人類 の創造 した対象的世界 を主体 が獲得す る過程が,初
めて明確 に証明 された。 (ガリペ リンによれば――高取)そ
れぞれの行為 は,行
為の像 (Bild)と 労働手段の像 (Bild)を 含む定位 的基礎(Orientierungsgrundlage)の 上 において常 に経過 してい く。その像 は活動 によって 現実化 され る。対象はこの過程 においては活動の 目標である。その とき,対
象は主体 の表象のなか においては,活
動が向 けられている未来の結果 として与 えられている。 この過程 は,次
の ことに基 礎づ けられている。すなわち,行
為主体 は初 めの状態 と終 りの状態 との間の関係 をつ くり出す。換 言すれば,主
体 は動機 (Mot)と
活動 目標 (Tatigkeitsziel)を 互 いに結びつけている関係 を認識 している。」(。 (P.281‐282)
・ 「(ザポロジェツは `随意運動の発達 (1960)″ という著書のなかで,以
下の ことを明 らかに した。 一一高取)随
意運動(Willkurbewegmg)は
,活
動 と同 じく常 に対象的性格 をもっている。随意 運動が行 なわれ る対象的条件 を活動の内容へ ととり込むためには,主
体 はこの条件 に関 して定位的 行為 (Orientierungshandlung)を 行 なわねばならない。 この定位的行為を媒介 として,頭
の中に こ の条件 の模写がつ くり出される。その模写が随意運動を調節する。」(P,282) 「(以上 に述べてきた ことは,レ
オンチェフの次のテーゼを支持す る。一―高取)す
なわち,意
識現象 としての心理的機能 は,活
動 を遂行するための真の契機(Moment)で
ある(『活動,意
識,` 人格』を参照の こと)。 しか し,こ
の ように理解す ることは,全
体的人間的活動の心理学化 を行 な う ということを意味 しない。そのようにすることは,心
理的なもの と具体的活動 との同一視 に通 じる。 この ような誤 った理解 は,マ
ルクス主義的な活動の とらえ方 と行動主義的行動概念 との明瞭な区別 の欠如 によって生ずる。J(P.282)
「(レオ ンチェフによれば一―高取)心
理的反映 は,そ
の反映 を生 み出 し,そ
の反映 によって媒介 され るところの人間的活動の契機 と不可分である。」(P.282)
(V)活
動 を分析する必要性: 「′い理的現象 は,人
間的活動の構造の分析の基礎 に立 って研究 されねばならない。すべての心理 的機能 と心理的過程 は,活
動の構成要素 として研究 されねばな らない。すなわち,個
々の心理過程 は次 のような視点 によって考察 されねばならない。 どのような動機が′心理的機能の形成 と経過 を決 定す るのか,心
理的機能 はどのような行為か ら構成 されているのか (どのような意識的目標へ心理 的機能 は向 けられてい るのか),心
理的機能 はどのような手段 (Mittel)に よって実現 されるのか。」 (P.282)(Vi)主
観性 と人格 「(主体 は一― 高取)心
理活動の主観′性 (SubiektiVitat)と 呼 ばれ る。主観性 は主体 の能動性 (Akt itat)と 熱情 (Leidenschaft)を 含 む。J(P.283)「
主観性 は,当
然の ことに,さ
まざまな進 化の段階においてさまざまに現われ る。人間の人格の水準においては,主
観性 は人格的意味 (ある 出来事の人格 に とっての意味)に
おいて現われ,具
体化 される。」(P.283) 「活動に基礎 を置 くアプローチは,活
動 によ り生ぜ させ られ,活
動の内的契機 として現われ ると ころの心理的な新形成物 (Neubildung)と しての人格 とい う考 えを仮定 している。人格 は,そ
れゆ えに,主
体 と客体 との相互関係 の特性 をある程度 まで自ら決定 す るところの,先
天的に決定ずみの ` 内的諸条件″の総体 として理解す ることはで きない。」(P.283)(v‖
)活
動一人格 アプローチ (Tatigkeits‐ Pers6nlichkeits‐Zugang):
「研究対象であるすべての心理現象 は
,さ
まざまな活動が実現 され る過程 において,し
か も人格 の活動 として,分
析 され る。(原文斜字体)」 (P.284) 「一般心理学的活動理論 においては,活
動の担い手 としての人間が問題 なのではな くて,社
会的 諸関係 の主体 としての人間が問題 なのである。 それゆえに,人
間の心理現象 は,主
体が活動 を行 う 際に入 りこんでいる彼の現実の生活,活
動の諸関係,そ
して社会的関係 の分析 を基礎 にして,考
察 されねばな らない。換言すれば,心
理現象は人格の社会的 コンテキス トにおいて考察 されねばな ら ない。ベ トナム社会主義共和 国(SRV)の
状況 にあてはめて考 えるな らば,人
間 (そして彼の心理 的な もの,彼
の意識)は
わが国 において起 りつつある革命 (生産諸 関係の革命的変革,科
学―技術草 命,文
化イ デオロギー革命)の 前提であ り結果であるという一般的理論的確認 を考慮 に入れ ること なしには,心
理学研究 は考 えられない。」(P,284)4.「
活 動 」 概 念 につ い て ハ ク とラズ ィホフスキーの共著である文献3は,ヴ
ィゴッキーの初期著作の ソビエ ト心理学 にお ける意義 を扱 った ものである。「活動J概念の発端 はブィゴツキーにあると考 えるのは周知の事実で あるが,い
かにしてヴィゴッキーのなかにその構想がで きあが っていったのか を,文
献3によって みてみよう。 ヴィゴッキーが,ソ
ビエ ト心理学界 に登場 して きたのは,10月
革命 お よび内戦の後 であった。 当 時の国内的な混乱 と新生社会主義の建設 という現実は,心
理学者 に対 して,工
業の回復 と再建 のた めの労働 の心理学 (HCИX。工OrИЯ TpyД嵐)の
発展 を要求 し,さ
らに文化革命,初
中等教育の全面的 再編,戦
時中に放置 していた子供 の問題 な どを解決す るために,児
童心理学 と教育心理学 に対 して 新たな要求 を提起 した。 この ような状況下 において,曽
時の心理学者たちは,問
題 を期待 にこた えて解決するためには
,そ
れ まで支配的であった ところの,生
活か ら遊離 した,科
学的根拠のない観 念論哲学 に基礎 を置 く心理学理論 を,批
判的に再構築することが必要であった。 またデヴィゴッキーの指摘 するように,当
時の心理学 は,二
つの陣営へ と大 きく分裂 していた。 それは,自
然科学的心理学 と精神主義的心理学の対立であ り,ヴ
ン トの記述的心理学 とデ ィルタイ の了解的心理学の対立であった。両陣営の対立 は,和
解不能の観 を呈 していたが,ブ
ィゴッキーは, この対立 は本質的には,唯
物論 と観念論の対立であるととらえて,対
立 の危機 を乗 り越 え,独
自の 新 しいタイプの心理学理論 (ヴイゴッキー自身の言葉 によれば,マ
ルクス主義心理学)を
創造す る ために,次
のような研究 プランを実行 に移 した。 (1)現代心理学の流れ を正 しく方向づけるために,現
代心理学の状況 を分析す ること。 (2)具体的科学 としての心理学 にふ さわ しい弁証法的唯物論的な命題 を仕上 げるために,方
法論的 研究 をす ること。 (0心理学諸分野の特殊法則 の諸現象 を明 らか にするために,実
験室的研究 によって新 しい事実を 収集すること。 この ようなプランに基づいて始 められたヴィゴッキーの,第
一歩 ともい うべ き業績 は,次
の2つ である。1925年 Co3HaHИ e raК ■po6ェeMa HcИxo】0「ИИ HOBeДeHИЯ.(行動の心理学の問題 としての意識)
192526年
ИcTopИЧecКИЙ cMHcЛ HcИXOЛOrИЧeoКo「o КpИ 3ИCa.lb理
学の危機の歴史的意義)これらの論文の中で
,ヴ
ィゴッキーは
,心
理学が当面する危機から脱出するためには
,人
間の意
識の問題を行動の心理学の中心問題 とすべきことを提唱した。
「意識は,行動
(口oBeネ。
HИe)の 構造
の問題である。
(ヴィゴツキー
,1925,C.181)」、
ところで,こ
こでい う「行動」 は行動主義の意味する「行動」 とは異 なる。1925年の論文で,ヴ
ィゴツキーが「行動」 とい う語 を使 ったのは次のような意味においてであった。第一に,行
動 は刺 激 に対する外的反応の体系 に帰せ られることはで きない。「反射ではな く行動 を,そ
のメカニズム, 組成,構
造 を研究せねばならない。(1925,c.180)」 さらに,ヴ
ィゴツキーは,人
間の行動 と同義 に,生
活 (ЖИ8HЬ)と か労働 (TpyД)とい う語 を使 っていることか らわかるように,行
動 という語 のなかに,人
間の実践的行動 とい う意味 を含 ませている。第二 に,動
物 の行動 とは厳格 に異なる人 間の行動 という意味で使 っている。動物 の行動 には,経
験の相続 とか,個
人 によ り獲得 された経験 とかいうものはないが,人
間の行動 には,歴
史的でかつ増幅 された経験 (yД BoeHHЬIЙ oHЫT)が
含まれ る。「人間は
,肉
体的に相続 された経験 のみを利用す るのではない。われわれの生活,労
働,行
動 は前の世代 の経験の幅広い利用 ということに基礎 を置いている。それは,生
誕 を通 じて父か ら子 へ と伝 えられるものに尽 きはしない。そういう経験 を歴史的経験 と呼ぶ。(1925,C.182)」 また, 動物では,行
動 は環境 に対 す る受動的適応 として実行 されるが,人
間で は,行
動 は自分 自身 に対 し て環境 を能動的に適応 させ るとい う形で実行 される。「(人間の行動である一一 高取)労
働 は,手
の 運動や材料 を変形 させ ることにおいて,以
前 に労働者の表象の中で これ らの運動や材料のモデル と して実行 された ところの もの を くり返す。(1925,C.183)」 この叙述 に見 られ るところの,人
間行 動の必然的契機 としての意識 とい う考 え方によ り,意
識 は行動の心理学の中心問題 とな りうるし, 行動の構造の問題 とな りうるとヴィゴッキーは考 えた。 以上述べた ことと関わ るわ けだが,次
にヴィゴツキーが行なった ことは,人
間の心理的生活 の基 本単位 を探究 し,発
見するとい うことである。 それは,ま
さに,マ
ルクスが「資本論」におい て, 経済生活の基本単位 を「商品」の概念のなかに見出 したの と同様 に,心
理学者 は,心
理的生活 を分析す るための基本単位 を発見せねばな らなか った。 その単位 を発見 して こそはじめて
,高
次心理過 程 の真の分析が可能である。 ヴィゴツキーが このように考 えた理由は,た
とえば行動主義の行 な う ように,高
次心理過程 を刺激―反応 (S―R)の
要素的成分へ分解す ることは,高
次心理過程 の質的 独 自性 を失 なわせ ることである。 それ は,ち
ょうど,水
の分子 を水素原子 と酸素原子 に分解す るこ とによって,水
の本質が研究で きないの と同 じである。 それを避 けるためには,高
次心理過程の質 的独 自性が保存 されるような適当な単位 (eДИHИЦa)を
探す ことである。 人間の心理的生活の この基礎単位 こそが,「活動」であ る。ヴィゴツキーが1925-26年の論文の題銘 に記 したように,「建築家の無視 した石(КaMeHЬ)が最 も重要なものになった」のであ る。すなわち, 「建築家の無視 した石(=活
動――高取)が
,マ
ルクス主義の体系的分析 と結合 されて,新
しい心 理科学 とい う建物 の最 も重要な位置 につ くことになった」(ハク&ラズィホーフスキー,P.19)の
で あった。5,「
行 動 」 概 念 につ い て 文献2で
は,ソ
ビエ ト心理学 か ら見た行動主義心理学に関す る批判点が3点
あげ られている。第 一 に,「行動」には反応 とい う意味 は含 まれ るが,行
為 とか活動 という意味は含 まれない。ハ クの文 章 を引用す ると,「行動主義の研究 においては,観
察 されるのは外的および内的刺激 によって決定 さ れる身体運動のみであ り,そ
のために,偽
似行為(quasi‐action)の カテゴ リーが生 じている。要す るに,行
動主義には反応(reaction)のカテゴリーのみがあ り,行
為(action)のカテゴ リーはない。 したがって,活
動(act ity)のカテゴ リーが ない。」(P.169)第
二 に,「行動の誤 まった理解のた めに,行
動主義 は心理学的現象 を生理学的現象や生物学的現象 に機械的に還元す るとい う「行動主 義的還元主義 (behavioristic reductionism)」 (P.169)に 陥 っている。すなわち,行
動 の法則 は生 理学的法則や生物学的法則 に還元 され る。 よって,ア
ンツィフェロワ(1974,「外国心理学 における 唯物論的思想」P.59)の指摘す るように,「哲学的基礎か ら判断すれば,行
動主義 は還元主義型の自 然科学的唯物論」であ り,「(この一―高取)還
元主義 は,独
自の主題 を失なわせ ることによって, 心理学 をおびやかす」(レオ ンチェフ1972「
′b理
学 における活動の概念」P.12)の
である。 さら に,行
動主義的還元主義 は,行
動理論 をつ くるための鍵 としてSとRの 二つの要素 とその結合 を全面 的 に重視す るとい う要素主義 (elementalism)と,有
機体への刺激の影響 と効果器 に生ず る反応の みに注意 を集 中するとい う末拾主義 (peripheralism)の 二つの側面を合せ もっている。 このために ハ クが指摘す るように,「還元主義の克服 こそが,人
間の科学的心理学 を目ざす人々の今 日的課題 と なっている」 (P.170)の である。第二 は,行
動主義 は記述的性格 をもつ,と
い うことで ある。 この 記述的性格 は,行
動主義心理学 に とっては,真
理 は外か ら直接見 ることので きるもので あるという 認識論か ら与 えられるものであるが,そ
うい う立場か ら得 られ る法則 とは,直
接的観察 という手段 によ り得 られたデータの一般化 に他ならない。 以上 の論述 をふ まえた上で,行
動主義心理学の代表者 とハ クが見 なすスキナーの理論 をどのよう に分析 しているかを,文
献 4に よってみてい こう。 ハ クは,ス
キナーの行動主義の概念体系のなかか ら,「オペラン ト」,「オルガニズム」,「文化」の 三つ を主要な概念 として とり出す。 まず,「オペ ラン ト」か ら見てみよう。 スキナーは,オ
ペ ラン ト反応 は自発するものであ り,オ
ル ガニズム自身 によ り生み出され るものであると考 えているのだが,果
して このオペ ラン ト概念 によってオルガニズムの能動′性を主張す ることが可能であろうか。すなわち
,オ
ペ ラン トの概念 によっ て,オ
ルガニズムの反応性 (一受動性)の
原理 を克服で きたであろうか。 これに対す るハ クの答 え は,否
である。「オペ ラン ト反応 は,本
質的には他の条件反応か ら何 ら原理的 に区別 されえない。自 分のオペ ラン トをもって して も,ス
キナーはフ トソン主義 (行動の反応的,受
動的性質――高取) か ら決 して解放 され はしない。 というのは,人
間行動 を,オ
ルガニズムヘ直接作用す る刺激 に対す る機械的・外面的な反応の総和 に帰せ しめるという点 において,彼
自身が まぎれ もな くワ トソン主 義であることは明 らかだか らである。」(P.74)すなわち,ォ
ペ ラン ト反応が,あ
たか もまった く刺 激のない状態でオルガニズムが自発的に反応 してい るように見 えて も,そ
の反応 をひ き起 こす刺激 は個々のオルガニズム ごとには異 なっていて も,実
際には何 らかの刺激が存在するのである。 さらにまた,オ
ペ ラン ト行動は直接的強化がなければあ りえないということからも,受
動的性質 をまぬがれえない。 スキナーの研究対象が,オ
ペ ラン ト反応 と強化 という二つの変数間の関数関係 とな らざるをえなかった ことか らわか るように,強
化 (すなわち外部刺激の フィー ド・バ ック作用 であ り,
これ も刺激である)一
刺激 と反応 とい う行動主義の図式が,こ
こに も残存 している。 以上の ことか ら,「オペ ラン ト関係 は,原
理的に 《インプ ッ トーー ァゥ トプ ッ ト》の直線図式の限 界を越 えることはない」(P.75)し,ス
キナー理論 においては,「S―R行
動図式はその力 を完全 に保 持 してい る。」(P,75)し
たがって,「ォルガニズムの反応性,す
なわち受動性の原理 もまた完全 に 保持 されている。」(P.75) スキナーのオペ ラン ト行動の概念が,人
間行動へ適用 される とどうなるか。 それは,ち
ょうど, スキナー箱 とラッ トあるいはハ トの関係が,社
会 と人間の関係へ と転写 され ることになる。 スキナ ー箱が,ラ
ッ トに とっては能動的に働 きか けている対象のように見 えなが ら,実
はラッ トはスキナ ー箱 によって強化 を媒介 としてコン トロールされているの と同様 に,人
間 も社会によってコン トロ ール され る受動的な存在で しかない。強化,オ
ペ ラン ト行動,反
応性 の原理 は,「スキナーの社会行 動主義の基礎 をなす もの」 (P.75)で あるが,ス
キナーにおいては,人
間 と社会 とは互いに相 いれな い ものなのである。 レオンチェフが批判するように,「(スキナーの社会行動主義 においては一― 高 取)人
間に とって社会 は,人
間が不適応 にならないで生存す るために,無
理や り適応 させ られ る外部環境のようなものにすぎない。それはちょうど動物が
,外
部の自然環境に無理やり適応させられ
る の と 同 じ で あ る 。」 (ЛeoHTЬ eB A.H."Д eπTeЛLHOCTЬ ,CosHaHИ e.Л ИЧHOOTЬ.″「 活 動 ,意 識 ,
人格」1975,P.83) 次にオルガニズムの分析 に移 ろう。スキナーにおいては,「オルガニズムは種々の環境 に応 じて種々 のオペ ラン ト行動 を産出するもの」(P.75)と考 え られている。オペ ラン ト行動 を産 出す るもの とし ては
,人
間 も動物 も区別 はない。 ヴィゴッキーが人間の行動 と動物の行動 を厳格 に区別 したのに対 して,ス キナーは動物 の研究で得 られたあらゆる結論 を人間へ と当てはめる。スキナーに とっては, 「人間 はイヌ以上の何 もので もな く,科
学的 (一関数的あるいは行動主義的 ― ′ヽク)分
析 の範囲 内では,人
間 はイヌ と類似 している」(P76)の
である。 さらに,ソ
ビエ ト心理学 との著 しい差異 を示す点であるが,ス
キナーは,心
理学 は人格的本質 と か,心
理状態,感
情,人
間の性格 などを明 らかにす ることはで きない と考 えている。 したが って, スキナーによれば,心
理学 はその注意 をもっぱら行動 と個体 としてのオルガニズムの生活条件 の間 の機械的関係 に集中すべ きである。人間の内的構造 を無視 して,人
間 を単 なる行動 をひ き起 こす と ころの物理的 システム とみなす思想は,フ
トソンの考 えた「分解で きない原形質のかた ま り」 とし ての人FHEとい う思想 をひき継 ぐものである。か くして,ス
キナーによって,人
間 は「理想 も目的 も計画 もない ままに行動するシステム以外の何 もので もな くなった」(P.78)し
,ス
キナーの社会行動 主義の完成 によって,「人間の機能 と役割 を環境の作用によって完全 に機械的に置 き換 える」(P.77) とい う地平 に まで到達 した。 最後 に,文
化の分析 をみてみよう。 スキナーにおいては,文
化 とは社会的環境 であ り,結
局の と ころ,社
会的状況 に帰せ られ る。 ところで,社
会的状況 とは,一
人の人間が他の人間か ら受 ける強 化事象のセ ッ トにす ぎない。 ここで また,強
化 という言葉が登場 して くるわけだが,ス
キナーに と っては,一
人一人の人間 は他の人間 との関係 においては刺激であ り,か
つ同時 に強化である。人間 関係 でさえもが,強
化 と刺激一反応関係 にす りかえられてい くわ けである。だか らハ クが1旨摘す る ように,「諸個人 は常 に行動するものであ り,環境 に対 する行為 を自発 し,社会的秩序 を維持 しつつ, これ らの行為の結果 に依存 しなが ら自分 自身で変化 してい くもの」(P.78)と して とらえられる。ま た,上
に述べたように,文
化 とは人間が他 の人間か ら受 ける強化事象のセ ッ トであるか らこそ,「文 化 は,文
化 を実行 している人々の生存 を促進す るところの,人
々の行動か ら成 っている」(P78)と も規定 され うる。 スキナーにおいては,人
間 と社会 との関係 と同様 に,人
間 と文化 との関係 もまた,人
間 にとって は生存のための強化 を与 えて くれ るものにしかす ぎない。 そこには両者の間の複雑 な相互変換や相 互移行 とい う考 えは見 られない。ここで もまた,レ
オ ンチェフの引用 をしてお こう。「人間 は,社
会 を単 に自分の活動 を適応 させねばならない ところの外部条件 としてだけ理解す るのではない。社会 的条件 その ものが,人
間の活動の動機や 目的,さ
らに活動の手段や方法 をもた らす ということが主 要な点なのである。換言すれば,社
会が人間個々人 を形成す るところの活動 をつ くり出す。 もちろ ん,こ
のことは,人
間の活動 は,社
会的諸関係や社会の文化 を個人のなかに とりこむだけであると いうことを決 して意味 していない。社会や文化 と活動 とを結びつける複雑な変換や移行が存在する 以上 は,一
方を他方 に直接還元 して しまうことは決 してで きないのである。」(前掲書.P,83)
スキナーの ように;オ
ペ ラン ト行動 と強化の枠組でのみ人間 と社会の問題,あ
るいは文化の問題 をとらえて しまうと,た
とえば,自
由 とか尊厳 というような「人生の意義 に関わ るようなあ らゆる 問題 は,強
化のいかんに帰せ られて しまう」(P.80)のであ り,単
純明快ではあるが,無
機的で機械 的な結末に至 るのである。 まして,現
代資本主義社会 においては,社
会の強化事象のセッ トを所有 するのは資本家階級 にほかな らず,そ
の他の多 くの人間 は,自
己の運命 をなげきなが らその コン ト ロールをただ受 けるだけの存在にしかすぎないのである。 この点にこそ,ス
キナーが現代アメ リカ 社会で受 け入れ られ る素地があるのであ り,「社会行動主義 と矛盾す ることな く,資
本家階級 は万能 の強化 を専有 している」(P.81)の
である。 以上のように,ハ
クはスキナーの社会行動主義のなかに,行
動の反応的・受動的性質,「分解で き ない原形質のかた まり」 としての人間,人
間行動 をコン トロールす る学 としての心理学 (ス キナー のいわゆる社会工学)な
どの,行
動主義心理学 に本質的な諸 テーゼを発見 した。 ま とめ にか え て これ まで,ハ
クの所説 を中心 にして,
とくに「活動」 と「行動」 の二つの概念 を検討 して きた。 しか し,両
概念の差異 についてはまだ十分 には明 らかにされていない と思 う。 そこで,
これ まで述 べて きた部分か ら,そ
れぞれの概念の特徴 を示す箇所 を拾い出す とともに,レ
オ ンチ ェフの「活動, 意識,人
格」の主 に第3章
(「′い理学における活動の問題」(Iol)か ら該 当す る箇所 を拾い出す ことによつて
,両
概念の差異 の一覧表 を試論的 に作成 してみたい。なお,表
中,示
されたページ数 はレオ ンチェフのロシヤ語版の該 当ページである。ページの表示のない ものは,
これ まで本稿でふれてき 「活動」 と「行動」の比較対照表 (試論) 動 活 行 動 意 味 生活過程 (R81) 生活,労
働,実
践的活動 と同義 生活の加算的単位 ではな く,全
体的な単位 (ユ81) 対象的世界 において主体 を定位 させ ること をその現実的機能 とす る ところの心理的反 映によって媒介 された生活の単位 (R81) 人間の心理生活の基本単位 行為 や活 動 で はな く反応,身
体 運 動 基 本 図 式 3項図式 (ユ81)(2頂
図式の中間に中間項=主
体の活動 とそれに応 じた条件,目
的お よび手段 を含む)2項
分析図式(R75)(主
体 の受容系 に対す る作用→ この作用 によってひ き起 されて生 ずる客観的および主観 的な応答現象)S→ R図
式 要素主義,末
袷主義 構 造 内的 な矛盾,分
裂,変
形 を は らん だ 過 程 (R12) 自己 の構造,自
己 の 内的 な移行 と転化,自
己 の発達 を もつ システム (R81) 階層構造 を もつ (R103)│:岳
王巨
稔
に
手
属
活動 は分析 されねばな らない 刺激 に対す る外的反応の体系 刺激 に対する機械 的・外面的な反応 の総和 外部か ら観察可能 な もののみを対象 とする ことか ら,記
述的性格 をもつ 内的構造 は無視 され る 人間は「分解できない原形質のかた まり」 (フ トソン) 主 体 と 客 体 の 関 係 主体 と客体 の両極 の間で相互移行が行 なわ れる過程 (R81) 主体 と客体 の弁証法 としての活動 人間 と環境 との相互関係 は活動的相互関係 である 反応性,受
動性 意 識 と の 関 係 心理的反映 を生み出す と同時に,心
理的反 映によって媒介 されている人間の活動のモ メン トと一体化 した形で心理的反映 をその 中にはらんでいるような分析単位 (R13) 意識 と活動の統一 意識 は活動の必然的モメン ト オペ ラン トと強化 ですべ て説明可能 で あ り, 意識 な どは仮定 すべ きで はない (スキナー の場合)た部分 か らの拾 い出 しであ る。 江 (1)高取憲一郎
「ル リヤ心理学 の現代的意義―― ヘ ッブ との比較 を通 じて一――」 ソビエ ト心理学研究,23 号,P35-48,1977. (2)アメ リカのイデオ ロギーを直接批判 した論文 としては,フ ォン・ ヒエ ンの「性 の退廃 と現代 アメ リカ文化一 ― 解放前の南ベ トナムの生活 をめ ぐって一――」1974と「 アメ リカ的 『消費』生活様式 について」の二論文 ぃ
が岩名泰得 (編訳)「ベ トナム革命 とマルクス主義哲学」青木書店,1976に紹介 されてい る。 13)岩崎允胤,島田豊,芝田進午 「ベ トナム との学術交流について」 唯物論研究, 2号
,P143-146,1980
. (4)岩
名 (編訳)前掲書 「ベ トナム哲学の現状 と課題」生
(5)参
考のために住所 を記 してお く。The Social Sctence Committee,27 Tran Xuan SOan,Hanoi,SocialistRepublic of Viet Nam
(6)「チェッ トホ ック」 は1973年 4月 に第1号が創刊 されたが,創刊号か ら現在 までの心理学関係の論文 をあげ てお く。 なお,この文献 リス トは,岩名 (編訳)の前掲書 の「 チ ェッ トホ ック」総 目次,およびマル クス主 義研究セ ミナー「 マル クス主義研究年報」,合同出版,1977年版-1980年版 の「海外のマル クス主義 研究 の動 向」か ら抜 き出 した ものである。 ドー・ ロン 「新たな情勢 における革命的意志 の鍛練 と心理学」
3号
,1973 ファム・ タ ッ ト・ ゾン 「ヶい理学の基本問題」9号
,1975 ファム・ ホアン・ ザー 「′い理学 における人格 の問題 に関す る初歩的研究」 10号,1975 ドー・ ロン 「マル クス・ レーエ ン主義心理学 と新 しい人間の建設 の問題」 11号,1975 人 間 と 動 物 巌 密 に区別 す る 動物 の行 動 は,経
験 の相続 とか,個
人 に よ り獲 得 され た経験 とい う内容 は含 まない 動物 の行動 は環境 への受動 的適応 で あ る 人 間の行動(=活
動)は,歴
史 的 で かつ増幅 された経験 を含 む 人 間 の行 動 は,環
境 を能 動 的 に適 応 させ る 区別 しない (スキナーの場合) 社 と 人 間 活 動 は社会 関係 の体 系 の中 に含 まれた系 活動 の存在形態 は,物
質 的 な らび に精神 的 交 通 (Verkehr)の手 段 と形 態 に よ っ て規 定 され る(R82)
社 会 は社会 を構成 してい る諸個人 の活動 を 生産 してい る(R83)
社 会 的諸条件 その ものが,人
間 の活 動 の動 機 と目的,活
動 の手段 と方法 を もた らす (R83) 人 間の活動 を,人
間 と,人
間 に対 立 す る社 会 との間 に存在 す る もの とす る(R83)
人 間個 人 と社会 を対 立 させ る考 え方(R
83) 社 会 は人 間 をコ ン トロ∵ルす る とい う思想 (スキナーの人 間工学) 人 間 に とって社会 は無理 や り適 応 させ られ る外部環境 社会 的環 境 は強化事象 の セ ッ トファム・ ミン│ハク 「行動心理学における人間のFFIg題と現代心理学の方法論の建設」
11ュ
1975 ハー・ ヴィー 「児童の活動 と心理的発達J 14号
,1976 フアム・ ミン・ハク 「スキナーの心理学 といわゆるアメ リカ的自由精神の崩壊J 15号
,1976ファム・ホアン
・ザー
「ぶたたび人格の問題について」
16号
,1977 ↓
ファム・ ミン●ハク 「行動心理学か,活動の心理学か」 17号,1977 ファム・ホァン・ザー 「『人格』概念について,ならびに外部からョントロールされうる人格の構成要因と科 しての社会的評価について」 21号,1978 ,ファム・ ミン・ハタ 「マルクス主義心理学の1対象につと―ヽて」 23号,1978 ハー・ ブィー 「児童の学習活動における認識過程」
21号
,197り 9' Cttvess Newsは宮嶋邦明氏 (京都府立大)よ り提供していただぃた。記して感謝する.。 18)革命後のベ トナムの状況│ま,本多勝―「ベ トナムはどうなっているのか?J朝日新聞社,1977.お よび吉沢南 「ハノイで考える」 東京大学出版会,1980な どにくわしいぅ0)ガ
リペ リンの「知的行為の多段階形成理論」については,駒
林邦男「現代ツビエ トの1教妄二学習諸理論」明 │ 治図書,1975の 第 6章 に詳細な紹介 と検討がある。10
レォ ンチ ェ アの原本 は, Лeo■■LeB, A.H. "Д
。■TeェL“OCTる. 601■aH五0. Л菫=章0●Fi刀
HO工ИTИ8Д
aT, Mt, 1975で
あるが,原
本 と合せて ドィッ藷版であるLe t'ev,A.NⅢTatigkeit,Bew!βtsein,PeFSO1lichlceit'説uttgakt:Klett,1977も 参照した。なお
,訳
文については,黒
田直実!小
島広光両氏の訳(ソビエ ト心理学研究,16号 ,1973),お よび西村学j黒日直実画氏の訳 (ア .エヌ.レオンチェフ
「活動と意識と大格」明治図書.19801を利用させていただいた。
こ
(昭和56年51月15日受理)
IB