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Hemingway の独自性と限界 : 思考作用の停止をめぐって

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全文

(1)

Hemingwayの

独 自性 と限界

判 思考作用の停止 をめ ぐって一

英米文学教室

Hemingwayの

小説の多 くは

,単

純 な接続詞で結合 された出来事の継起 か ら成立 してお り

,余

な説明 。解釈や心理描写 を殆 ん ど持たない。簡潔性 を旨としているといって も過言ではない。 また 戦争 と闘牛

,釣

魚 と狩猟

,死

と性 という圧倒的な対象に

,登

場人物 は自ら没入 し

,感

覚 と行動以外 の他の要素の介在 を容易 に許 さず

,思

考の余地 ない状況下に生存す る。 その状況下で彼等が思考 に のめ りこむ機会が生 まれ ることもあるが

,感

覚作用のバネが 自動的に作用す るな どして

,彼

等の思 考作用 は再三 にわた り停止 させ られ る。 その思考作用の構造 。意義の解明 は

,Hemingwayの

独 自性の理解 に資す ると同時 に

,彼

の限界 をも浮彫 りにすると思われる。 1

Emest Hemingway(1899-1961)が

書 いた数多 くの作品は

,晩

年になるにつれて

,い

よいよ直 線的にのびる一本の太 い河の流れの如 きものである。極端に異質な作品 。支流は生 まれていない。 水源は一連の「ニ ック・ アダムス物語」であ り

,河

日近辺の静誰な流れ は tttι

Ott Ztt

α%″ 肋ゼ 膨αである。 しかし多少の蛇行点・転回点があるが

,思

考作用の中止の観点か らいえば

, 4脆

紀― ωι〃 んA夕η夕熔 が

,良

きにつけ悪 しきにつけ

,源

流 と河口を雑然 としたかたちで包含 している。 こ の論考では

,4虎

陀″

"力

夕体 を軸 に

,各

時代 を画する代表作 を前後 にす え

, Hemingwayの

作品を思考作用の中止に関 して考究 してみたい。

4晟

狭効ι〃 ヵ スタηィタ

s(1929)に

ついて。 この作では

,登

場人物が思考 にのめ りこもうとす る瞬 間,《 Don't think",《 StOp it"等の表現 と同時に

,彼

等の思考作用 は中断 され る。 この論考ではそれ らを考察の対象にしたが

,同

時 に《Don't say",《 Dontt talk"等の表現 も

,一

種 の思考作用の停止 と

見倣 している。 これ らはことごとくverbal levelで の思考作用の停止であ るが,《Don't think"等

と明言 されていないにかかわ らず

,そ

れが起因 とな り生 まれた表現,いわばnon―verbalの 思考作用 の停止の文 もある。 思考作用の停止に起 因す るnon‐verbalの 文は

,作

中に瀦漫 している。その代表例 を紹介 しょう。 追撃砲が宿舎に命中 し

,そ

こに居合せた

Henryは

傷 を負い

,救

急草で運 ばれ る。その途上

,担

架に 寝か された彼の真上 にいる兵士の傷 国か ら

,血

が吹 き出す。 その血 ははや く

,ま

たは遅 く

,あ

るい 明 俊 村

(2)

岡村俊明:Hemingwayの独 自性 と限界

は止 ま りまた どっ と流れ る。 その描 出 は非情 かつ詳細 にな されてい る。 その直後 に 《

IIe's dead l thinkデ 'I said.

The drops fen very sI。 、vly,as they fall fro■ l an icicle after the sun had gone.It was cold in the car in the night as the road chmbed.1

と描 かれ ているが,はな はだ簡 潔 かつ無 関心 の体 で あ る。人 間の死 に臨 んで も,《At the post on the top they took the stretcher out and put another in and we went on.''2と

,兵

士 た ち は 日常 の業 務 をはたす よ うに淡々 としてお り

,ま

た場面 も章 も直 ちに改 まる。 これが一種 の筆 の押 え とな り, 乾 いた タ ッチの背後へ読者 を誘 い

,物

思 わせ る効果 を もつ。 この表現 の特 質 は

,異

常 な事件 に呑 み こまれ て も

,作

者 は余分 な感情 的修 飾語 を一切 排 除 し

,事

実 を伝達 す る必要最少限の言葉 の み を使 用 し

,登

場人物 に余計 な感情 や思考 の余地 をな くし

,む

し ろその作用 を中断 させ る

,そ

の結果 この乾 いた文体 が生 まれ

,同

時 に彼 等 が その事件 にコメン トす る余裕 もな く

,直

ち に場面 が変転 す る こ とで あ る。 こうい う特質 を もつが,non‐Verbalな それへ の 論 究 はテーマの はなはだ しい拡散 を惹起 す るため,Verbal levelの思考作 用 の停止 と比較検 討 す る さい に限 つて

,考

察 の対 象 とす る。 まず この種 の思考作用 の中止 を

,第

一 範疇 と分類 したい。

次 に Verbal levelの 思考作 用 の中止 に論 を進 め よう。Rinaldiは

Henryと

次 の如 き会話 を交 わ す。

RtAll summer and an fan I've operated.I、 vork all the tilne.I do everybody's work.

All the hard ones they leave to me.By God,baby,I am becoming a lovely surgeon."

rΓhat sounds better."

〔RI never think.No,by God,I don't think,I operate.''3

ここで Rinaldiは医者 としてただただ手術 に没頭 してい る。彼 はその業務 を強 い使 命感 にか られて 必 らず しも果 していないが

,そ

の意義 を考 える暇 もないほ ど多忙で あ る。従 って この種 の思考作用 の停止 は

,後

出す る範 疇 に比 して

,い

まだ明確 な像 を結 ばず

,ま

た比較 的単純 な層 をその基盤 に も

・ つてい る。 これが第二範 疇で あ る。 思考の停止 は

,思

考 を生 む表現行 為 の停 上 に も通 じる。好例 を以下 に引用す る。 《

So you make prOgress with Tiss BarkleyP"

(く

We are friends."

You have that pleasant aif of a dog in heat."

I did not understand the word. 《Of a whatP"

He explained.

lFour'I said,《have that pleasent air of a dog who一 ―"

tく

Stop it,"he said.〔〔In a little while、 ve would say insulting things."He laughed.4

(3)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第30巻 第 2号

lo3

まで言わせない。友人関係 を維持す るために も

,究

極的誹謗

,あ

るいはショッキングな実相 は忌避 させ

,人

間 としての一線 は是が非で も堅持す るよう

Henryは

要請す るが

,そ

れが 敏StOp it"と な つて表明 されている。究極的「判断作用」5を忌避す る例 を

,第

二範疇 と分類 したい。

第四範疇のそれは,この作品で最 も繁出 し,また重要度が高いため

,焦

点 をあてて論 を進 めたい。

I could remember Catherine but l kne、 v l would get crazy ifl thought about her when l was not sure yet l would sec her,so I、 vould not think about her.6

上の引用の思考作用の中断は

,狂

気 を忌避する目当てを持つ。その中断の直後の《

Crazy",《

Dort

WOrry"の

繁出が この間の事情 を物語 つている。思考 は,そ の作用 を一旦停止 し人々の狂気 を忌避 し て も

,場

面が改 まると

,人

々 は忍耐の限度 を飛び越 え

,

ともすれば狂気の谷へ落下せん とするが,

再度の中止 を通 じて

,彼

等の神経 を宥め

,緩

和す る。倶悩 を減 じさせ

,狂

気 を忌避す ることは

,つ

かの まな りとも

,幸

福 を促 えようとす る彼等の姿勢 に通ずる。眠Oh let's not talk about it.Let's be

happy."7等 の表現が端的にそれを語 つている。思考作用の停止は

,蟻

の比喩で如実に呈示 されてい る如 く

,濃

いエ ヒリズムの影 を背負っている。丸太 に張 り付いている蟻 も

,激

しく燃 え始める火 を 前にして

,端

へ端へ と逃 げまどい

,つ

いに火中に落 ち

,死

ぬ。

8不

可避的に死 は襲来する。 この不可 避性が人々に取 りつ き

,離

れない。 しばしの幸福 に酔い しれている Catherineは

,妊

娠にふ と気付 く。途端 に彼女は《trapped"9さ れた と感 じるが ごときである。愛 し合 う二人の恋人の縁辺 に絶 えず 垂れ籠めている死の影が

,こ

の言葉 を吐かせた といえよう。不可避 とは知 りつつ も

,た

えず死 を忌 避 し

,忘

却 しようとす る心持が

,こ

の作品に最 も特色的な思考作用の停止であ り

,そ

の作用 は片時 な りとも

,そ

の影 を追 いや る行動 となる。次の引用

I、vas nOt made to think.I was made to eat.My God,yes.Eat and drink and sleep

with Catherine.10

に示現 されている如 く

,思

考作用の中止は

,食

,飲

,眠

る行動 と結合する。お りあれば飲食 を 恣にす る人々の性癖 は

,生

理的要求以上 に

,こ

の心持が顕在化 した ものである。

COgnac,brandy,

vermouth, wine等

の多種の酒名が言及 され

,獅

Ⅵne is a grand thing.It makes you forget an

the bad."11来計ょっドRtThis war is terrible,''Rinaldi said.《 Come on Well both get drunk and be

cheerful."Wが人々の飲酒癖の基盤 にある。ひたひた と寄せ くる死の影。追 い払い忘却 させ る行動 こ

,飲

酒であ り

,ま

た食事 であ り

,睡

眠である。 火中に落下 して燃 えつ きる運命 にある蟻 も,瞬時 な りとも安全 な場 をまさぐり逃げ まどうように, 思考の停止は

,Hemingwayの

特色たる一種の行動・ 逃亡のテーマを随伴 させ る。逃亡 は生 を求 め るあが きともいえる。

Henryは

戦場か らの脱逃 を図 り,Catherineと手 を携えスイスヘ逃 げのびる。 自身の悪い予感が的中 し

,Catherineは

産褥の床で息絶 える。今や ことごとく希望が断ち切 られた

Henryは

,茫

然 自失 しつつ も

,病

院 をあ とにしてホテルヘ歩いてい く。

第四範壽の思考作用の停止 は

,Catherineゃ

Rinaldiに 比 して圧倒的に

Henryに

多い。

Henry

こそ主人公である事情 とは別 に

,彼

は他の二人 とは異種 な思考 をその特質 としているためである。 その間の事情 を次に考察 しよう。

(4)

岡村俊明:Hemingwayの独 自性 と限界 イギ リス人Catherineは ィ タ リア軍 に身 を投 じ

,従

軍看 護婦 として参戦 して い る。彼 女 を参 戦 に 駆 りたてた ものは,刀 傷 を受 け,また上 背部 に銃傷 を負 った婚約者 を介抱することであつた。《

SOmething

picturesque"と 自 ら認知 せ ざるを得 ないわ けで ある。しか しどうあれ彼女 な りの理 由を持 つてお り, 強制 的 に兵役 に服 す る自国 の軍人 とは異 な り

,他

国 の軍 隊 に身 を投 ず るに は

,人

々 は無論理 由 を必 要 とし ょう。 それ にひ きか えアメ リカ人

Henryは

と りたてて持 つて いない。

(lrou're the AInerican in the ltalian armyP"she asked.

t(lres,ma'rn.'

ttIIow did you happen to do that?Why didn't you join up with usP"

I don't know,"I said.〔

Could l join no、 v'"

I'In afraid not now.Ten me.Why did you ioin up with the ltaliansP"tl was in ltaly,"I said,《 and l spoke ltahan."13

この引用 は

,自

か らの意志で参戦 した

Henryに , Catherineが

尋 ね る くだ りで あ る。

Henryは

そ の理 由 を深 く考 えない。 あるい は説明 を加 える と

,そ

れ は実相 か らスル リとすべ り落 ち る と知 って いる。両者 の思考 の特 質 は異 な って い るが

,次

の会話 は更 に明瞭 にそれ を示 して いる。

(tl don't knowデ 'I Said.(tThere isn't always an explanation for everything.''

Oh,isn't there?I was brought up to think there was."That's awfully niCe."

I〕o、ve have to go on and talk this way?"14

理 由 を求 めて初 めて安堵す るCatherineと 異 な り

,Henryは

理 由が真 相 を易1出す る とは思 わ ない。 か とい って さ らに明言す るでな く

,そ

れ以上説明 も加 えず

,関

心 を示 す素振 りも見せ ない。 これが

Henryの特 質 で あ る。

Henryに

Rinaldiを突 き合 わせ る と

,Henryの

思考 の特質 は一際瞭然 とす

る。Rinaldiは とこ とん突 きつ めて考 え

,あ

るい は説明 を加 える。彼 は

Henryと

Catherineの交 情 を快 り出 し

,さ

らに言明せず にはおれない。 この意 味でRinaldiは 《snake ofthe reason""で あ る。二人 の親 交が堅持 され るために は,《Please shut up"と

Henryは

Rinaldiの国 を塞がね ばな らない。 その直後 二人 は次 の よ うな話 を交わす。

(rrou are better when you don't think so deeply.''I said.

IIove you,baby,"he said.《 You puncture:ne、vhen l become a great ltalian thinker. But l know many things l can't say.I kno、 v more than you."16

Henryは

彼 に思考作用の停 止 を促 が してい る。Rinaldiは Catherineと 異 な り,《Sentimental"で

も無picturesque"で もない。彼 は思考 の停止 をす るの は まれ で

,腐

臭 のただ よ う暗部 を易」出 し

,情

容赦 な く白 日の も とに さ らそ う とす る。その暗部 を認 知 しなが ら も

,無

関心 を装 い放任 す る こ とは,

スム ーズな人 間関係 に要請 され る時 もあ る ものだ。少 くとも

Henryは

それ を実感 してい る。掌 握 し た実相 を

,思

考 や表 現 で緩 和 させ る こ とを知 らないRinaldiは

,戦

争 への恐怖 の度 合 いを一層 強 め,

(5)

鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第30巻 第 2号 いるが,その掌握の一歩手前で踏 み とどまり,究明・ 言明の思考作用 を中断する。 いわば Catherine と Rinaldiの 中間に位置す る。 したがって思考の中断が

Henryに

繁出す るの もうな づ ける。 その 停止は,現 実の暗部 を根本的に解明せず,また死が背後か ら迫って くるにまかせ るため,特に

Henry

は思考作用の中断をたえず持つ。 この作の特質 は

,究

極的誹謗や真相の掌握 を忌避する第二範疇の思考作用の停止が

,Henryに

頻 繁にあ らわれ

,し

か もこの範疇 はご く自然 に第四範蔦に移行することにある。即 ち

,忍

耐の限度 を 越 えて苦悩する際

,そ

の煩間を一時的に止め

,狂

気 を忌避する安全弁 ともいえる思考作用の停止 と な り

,生

への もが きにも似た逃亡 とい う行動 と同時に

,つ

かの まの幸福 を覚 える行動一裁群 食 。眠 ― へ と拡散することである。 次 に

Hemingwayの

各時代 を代表する他の

3作

品 と比較 したい。 初期短編の一つ れ 肋籍 (1927)を まず姐上にのせ よう。 その作中で

01e Andresonを

二人のギ ャングが付 け狙 う。彼等の殺害の意図を小耳 にはさんだ

Nickは

、 こっそ り

Andresonの

アパー ト ヘ行 き,知らせ る。

Andresonは

その情報 にもた じろかず,逃亡 もせず,警察への通報 にも無関心で, ただ言葉少なに壁 に向い

,死

を待 ち受 けている。打ち沈んで立 ち帰 った

Nickは ,Georgeと

会話 を交 じえる。

I'rn going to get out of this town,''Nick said.

ttlres,''said George.〔 〔That's a good thing to do."

(I can't stand to think about hirn waiting in the roo■ l and knowing he's going to get

it.It's too damned awful."

wenデ'said George,〔you better not think about it,"17

Georgeが

傍 らか ら援助 していることと相倹 つて

,Nickの

思考作用の停止 と逃亡が

,こ

こに認 め ら れ る。生命の危険に身 をさらされているのは、

Nickで

な く

Andresonで

あ り

,彼

自身の死の影 に 浸蝕 され るには

Nickは

若す ぎるといえようが

,彼

は元ボクサーの身の上 を慮 ると忍耐で きず

,町

か ら逃亡すること以外 に自身 を救 う道 はない と気付 く。死の影一 狂気の危惧一 思考作用の停止剤 亡が二人の人間に分離 している点が この小説の特色だが

,こ

れ らは後の作では一人 に体現 されて く る。κゲ′″絡 では第二範疇(員「 ち一人の殺 し屋がぺ らぺ ら殺害の真相 をしゃべ り

,他

方の殺人者 はそ の言明 を忌避 させ るといった もの

)な

らびに第四範疇の停止が数多いが

,死

の直接的な暗い影 と思 考作用の停止が

,二

人の人間に分離 して存在 している点

,お

よびその停止 と逃亡が

4n兜

紗θ〃 ヵ /1夕η夕ιsの

Henryに

比 して

,あ

ま りにも直接的に接合 している点で

,い

かに も若い

Nickに

ふ さわ し い とはいえるが

,そ

こに物足 らなさを覚 えるのは否めない。

4員

盟効房′力4ルタ,sょ り10年以上経過 してЯ♭γレ物θ切 励ι

a"T97る

(1940)が出版 された。 この作の思考停止 ははるかに進展 を見せている。橋梁爆破の使命 を負 った

JOrdanに

とって

,緊

張 が迫 って くると

,余

分 な こと一切 は考察の対象 とはならない。

(6)

岡村俊明:Hemingwayの独 自性 と限界

it out clearly and take everything as it came along,and nOt worry.rro worry Was as bad as tO be afraid.It sirnply made things more difficult.18

この種 の言明が何度 か繰 り返 され る。次 の引用 もこの一 つの例 であ る。

You have only one thing to do and you must do it.Only one thing,hell,he thought.If

it、vere one thing it was easy.Stop worrying,you、vindy bastard,he said to hirnself. Think about something else.19

彼 はおび えず現状 を的確 に把 え

,た

だ橋 梁爆破 に向 ってひたす ら行動 を起 すのみで あ る。恐怖 や狂 気 の回避 と拡散化 された行動 が思考停 止 の第 四範疇 に属 したが

,こ

の作 品 にあ って はそれが 目標 と 定 めた行動 に向か う。 即 ち

,4n雅

効 ι〃 ヵ4夕η

%sで

は飲・ 食・ 眠の一種 の行動 に拡散 し

,そ

れ ら は見据 え られた一個の 目的で はな く,拡散 した気 晴 し,一時 の幸福感 の追求 にす ぎなか ったが,Яθγ η力θ物 励ι

a〃

駒 燃 を もって始 めて

,思

考 の 中止 は単一 の 目標 を達成 す るた めの行 動 を生誕 させ る。 これ を第五 範疇 と呼称 しよ う。

Jordanは

,《You are the instruments to do your duty."20と 自

ら判 断 し

,他

の一切 を他 ち全神経 を行動 に集 中す る。思考 にのめ りこ もう とす る と,「 おれ は思想 家 で はない。 ただ橋 を破壊 すれ ば よい」 と自 らた しなめ る。 その理 由 は《there is a bridge and that bridge can be the point on、 vhich the future of the human race can turn."21 で 茂)り, ま大:〔〔I am for the Republic.… and the Republic is the bridge."22で ぁ り

,人

間 は設定 した 目的 を遂行 す る

た めの道具 であ り

,目

的実行 のためには 《Neither you nor this old man is anything."231こ す ぎな い と考 えて い るか らであ る。作者 は熟慮 に熟慮 を重 ねた末 目的 を設定 してい る。 登場人物 た ちが こ の 目的 を達 成 す るためには

,非

情 な可酷 な現 実 を数多 く飛 び越 えね ばな らないが

,彼

等 は しゃにむ に突進 す る。

JOrdanは

,Henryの

如 く目的の不確 かな行動 で はな く

,生

命 を代 償 に して まで

,日

的 を完遂 す るた めの行動 をす る。 ピー ン と張 りきった神経 を緩和 せ んため

,《

Don't worry"等の随 伴が惹起 す る思考の中断 もみ られ るが

,直

ち にそれ も第五 範疇 に移行 す るのが主人公

JOrdanの

特 色 で ある。彼 は最後 に敵弾 にイトれ るが

,仲

間 とともに逃亡 す る素振 りもみせ ない。最後 まで踏 み止 ま り敵 を迎 え うつ。恋人

Mariaは

彼 の傍 で戦 死 の覚悟 を決 めるが,慰You are me now.",│〔

We both

go in thee.",《 The mein thee."24と Jordanは彼 女 を退 去 させ る。JOrdan自身 に とって逃 亡 も出 口

も塞 かれ てい る。 これ まで思考停止 は逃亡 のテーマ と結合 していたが

,こ

の作 品 で その停止 は

,最

後 まで見据 え られた苛 酷 な現実 と

,意

識 的 に設 定 された確 た る行動 が両者 を接合 してい る。

勁 θ

O彦

フ豚αηα%″ 肋ι ttα (1952)に至 る と

,こ

の特 質 は一層の展 開 をみ る。 老人 はマー リンを

釣 り上 げ よ うと試 み るが

,そ

の大 魚 は一切 姿 を見せ ない。やがて老人 は堪 えがた くな る。 す る とこ の ような叙述が なされ る。

Then he rested against the bow.He rested sitting on the un‐ stepped mast and sail and tried nOt tO think but only to endure.25

彼 は苦闘 し

,耐

え忍ぶ。また壁ButI Willshow him what a man can do and what a man endures,"26 と一途 に堅忍す る。《Don't worry"等の随伴によ り生起 した緊張緩和の思考中止 に留 まらず

,忍

(7)

鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第30巻 第2号

107

の極限 という負のバネが最大限に働 き,日 標 を完遂す る行為へ と

,即

ち第五範疇にそれ は移行 す る。 第四は第五の思考中止 に移行する前段階である。老人 は心の動揺 をしずめるものを想起 しないわ け ではない。例 えばラジオがあれば素敵だろうと思 う。す ると直 ちに《Think of what you are doing. You must do nothing stupid."27と 自ら戒め

,目

標た る行動に全身・ 全霊 を集中させ る。

老人 は少年がいれば助か る と思 うが

,現

実 にはそれ も叶わない。極限状況におかれた老人 は

,一

時的に しろ苦悶を霧散 させ ようと図 るが

,そ

の思考 を中断 させて

,大

魚を釣 り上 げる行動のみに全 身 を集中させ る。 この作では第四は必 らず第五範疇へ移行する。 老人 はマー リンを釣 り上 げて安堵 したの もつかの ま

,鮫

が来襲 して くるが

,い

かに悪化 した状況 に投 げ こまれて も

,決

して争闘を放棄 しない。出回は閉塞 されてお り

,彼

は定めた唯―の行動 に全 力 を傾 けざるを得ない。

この作の今一つの特色は,nOn‐Verbal levelの 思考停止が数多 くみられることで もある。

4兌

玖効ι〃 力4夕物

Sで

論究 した筆の押 え と場面の転換 ばか り`でな く

,堅

固な筈の物 自体のぶ くらみによる もの で もある。例 えば思考のフィルタにかけて分離 させ られ

,練

りあげられた「老人」「海」「マー リン」 は

,各

時点で余計 な説明 は附加 されないが

,や

がて個々の輪郭が膨れ上が って

,そ

れが多元な意味 を持 ち始めると

,途

端に場面が転換 し

,固

有の物 自体 に立ち還 る。 しか しそれは度々繰 り返 され, ついに象徴的な様相 を歴然 と呈するに至 る。勿論 κケ′力烙 ゃ

4几

廃 ″ゼ〃力4夕ηタパにおいて,「壁」 や「雨」等 も類似の効果 を担 ってお り

,い

わば「客観的相関物」2Sは

Hemingwayの

初期の短編以 来の特色であるが

,こ

の作ではそれ ら以外 にも「鮫」「少年」「観光客J「ライオ ン」と多種 にわた り, いや力強い素描 は多かれ少なかれ

,こ

とごとくふ くらみを担 っている。

したがつて この作に特有 な Verbal levelは

,non_verbal levelの

思考停止 と相倹 つて

,T力

ι

O″ Zα%α%プ 肋ι膨

,を

簡勁かつ象徴的な ものに深めている。 なお

,思

考作用の停止の全体的意義 については

,後

述 したい。 II

Hemingwayは

先輩作家の特質 と彼 自身の資質 をフルに活用 したが

,こ

れは思考作用の中止 に関 して も例外ではない。両要素 を考察 しなが ら

,作

品 をも晩み合わせつつ

,作

品外の視点か ら思考作 用の中止 を浮彫 りにす るとどうなるだろうか。

He■lingwayは t(allrnodern American literature comes fronl one book by h/1ark Twain called

Fr2誘力うιtt Fゲ %%."29と 肋 誘″肋η Fケ

%%を

過大 と思 えるほ ど評価 している。 この熱 っぱい肩入

れか ら彼が学 び とつた ものは何か

,そ

れ を模索 したい。

無論彼 に影響 を与 えた人 は,SherW00d Anderson,Gertrude Stein,The Kansas City Starの 記 者等々 と多彩な顔ぶれだが

,ま

た これ らの人達 はそれぞれの時点 において

,看

過 しがたい痕跡 を彼 の心 に刻みつけたであろうが

,思

考作用の中止の観点か らいえば

,彼

等 は所栓枝や葉 にす ぎない。 根幹 となって彼の文学的営為 を形成 し続 けて きた もの は

,Mark Twainの

Frp誘″bιη Fケ%ηでぁ

る。

助 誘″う

7ヮ

F'%η (1884)とこは

,Hemingway文

学の特色 として知 られるようになった非情 の リ ア リズムの存在 を

,ま

ず指摘で きる。例 えば飲 んだ くれの

BOggsが

ColoneI Sherburnに 殺 され る 時

,殺

害寸前の

BOggsの

苦悩の表情

,死

体 に悲痛 な叫びをあげなが ら取 り縫 る彼の娘

,興

味 しん し

(8)

岡村俊明

:Hemhgwayの

独 自性 と限界

んと周囲を取 り巻 く群集の表情 を

,Huckは

感情の動 きを微塵 も見せず

,ま

たセンチメンタル に堕 することな く

,目

もそらさず活写 している。30 HuCkはそれ以上深 く考 えようとしない。思考 によっ て絡みこんで くる社会的交雑物が

,い

かに人間の裸の感覚 と感受性 を強烈に麻痺 させ

,人

間 を安易 な妥協 に追 い込 むか を

,Huck自

身認知 しているか らである。

非情の リア リズムについて

,Hemingwayと

Huckleberry Finnの 類似の指摘は目新 しい もので

はな く

,今

さらとりたててい うほどの ことはない。問題 は

'F情

の リア リズム とセ ッ トされた思考作 用の停止 も 肋 諺″うιtt Fゲ%η に垣間見 られ

,そ

れが

Hemingwayに

多大 な影響 を与 え

,人

目には 思わぬ耽湯ぶ りと映 った点である。 その思考作用の停止の好例 をあげ

,論

究 したい。

第十八章で

Grangeford家

Shepherdson家

の宿怨のため

,追

いつめ られた少年

Buckは

,木

に登 っていた

HuCkの

眼前で射殺 される。 その際

Huckは

《It made me so sick l most fell out of

the tree,I ain'ta―going to teH α〃that happened一一―it would make me sick again if l was to do

that."31と

,思

考不能の状態 とな り

,非

情 に描写す る彼 に してはめず らしく

,真

実の活写 をしば し保

留する。 また次 の如 き好例 もみ られ る。

途中か ら

Huckと Jimの

筏 に乗 り込んで きた悪漢kingと

dukeは

,っ

ぃに奴隷競売 とい う冷酷 な手段 を考 えつ く。彼等は泣 き くずれる黒人の娘たちを地獄の

Memphisへ

と売 りとばすが

,そ

の 光景 を見て

Huckは

,

I thought them poor giris and them niggers would break their hearts fOr griefi they cried around each other,and took on so it rnost rnade me down sick to see it.92

と述べ

,こ

こで も《SiCk"と な り

,彼

の思考のメカニズムは停止す る。 この種の例 はまだみ られる。 kingと

dukeの

二人の悪漠 も

,さ

まざまな悪事 を働 いた後

,つ

いに正体 を見破 られ

,捕

えられ,

タールと羽毛 を身体 中に塗 りた くられ,リ ンチにか けられて

,殺

される。その際 にもやは り

Huckは

,

、、ren,it made me sick tO see it.¨ .It was a dreadful thing to see.Human beings ια

%be

awful cruel to one anOther.33

と浴れ出る感情 に圧倒 されて

,余

儀 な く思考の停止 をす る。

この ように非情の リア リズムは

,そ

の代償 として神経がそれ に堪 えきれない時

,思

考の停止 を招 来 し

,そ

れによって落差 を埋め,も との非情の状態に還帰 し

,や

がて行動の世界 に至 ることである。 例えば既述 した

Buckの

殺害 に対 して,《get out of that awful country"34と

HuCkは

逃避 を願 う。 逃避 も一種の生 を求 める行動ではあるが

,消

極的側面 を持 つている。

Huckは

積極的な行動 もす る。

HuCkは

思考 に行 き詰 って

,Miss Watsonに

手紙 をしたためる。35その行為 によって彼の挫折感 は 霧散す る。思考では解決 し得ぬ問題 も行動 によって永解す る。

これ らの要素 を勘案す ると

,Hemingwayは

′力誘″うじη Fゲ

%%の

非情の リア リズムによって影

響 を受 けたばか りでな く

,浴

れ出る感情,思考作用の停止お よび行動 とい うパ ターン剤 の創作の 根本的要因― まで

,自

か らの血肉 として取 り込んでいることがわか る。

次に

Hemingwayの

資質 について考察 を加 えよう。少年時代の

Hemingwayの

資質 は,《

TO a

remarkable degree,the child was father to the man i many traits of Ernest's boyish character held on with only slight modifications well into his adult life."36の 如 く受 け継がれ

,彼

は成人 に

(9)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・ 社会科学 第30巻 第2号

lo9

達 している。 また彼 の生への関わ り方 と作品 は驚 くほどの一致 を見せている。両者の極 めて強い一 体化 こそ

Hemingway文

学の特徴 といえようが

,同

時に作品ではばや けてい る輪郭

,あ

るいは故意 に彼が隠蔽 しようとした面 を

,彼

の伝記的事実 を探 ることにより

,浮

かび上が らせたい。

Hemingwayの

父親 は,Ernestが幼少の頃 より,自然 を知 り愛す る性癖 を植 えつけた といわれる。 父親 は戸外で火 を起 こし

,鳥

や魚を料理 し

,ま

た斧 を使 うすべ を教 えた。 また銃や釣具 を注意深 く 取扱 う方法 も示 した。37また他の野外生活の仕方 《flushing iaCkSnipe on the prairies,walking

through dead grass or harvest fields where corn stood in shocks,passing by grist or.… ■111ls

or tracking lumber dams."38を 身 をもって教示 した。 《fraid a nOting"39と ぃ ぅ

maXimは

3才

の彼が 口にした ものであ り

,ま

た父が彼 にたた きこんだ 勇気 と忍耐心 をErnestは終生持ち続 けた。 その一つの例 を見たい。

Hemingwayが

野営 をしていた時

,一

団のギャングが襲 つて きた。一味 はテン トをはったロープ を切 り

,持

ち物 を森へ と奪 い去 ろうとした。

Hemingwayは

怯 まず手近かにあった斧 を取 り上 げ, 彼等の一人 に向かって投げた。鼻 をかすめて

,か

ろうじてそれは外れた。実際ギャング団は友人が 仕組 んだ遊びの集団 とわか つて,彼 はホッ ト胸 をなでおろす一幕 もあつた。40 Hemingway 17才の出 来事である。 彼 は各種のスポーツに も関心 を持 つた。

5フ

イー ト4イ ンチ とフッ トボール選手 としては小柄で あつたが

,フ

ッ トボールに興味 を示す。 しか しどちらか というと

,ボ

クシングな どの個人プレイの スポーツに,よ り熱中した。また雪解時の急流ではカメー漕に情熱をもや し,11linois R erか ら Starved

Rock State Parkへと

, 5日

間かけて

,漕

ぎ下 った。 この種のスポーツは一種の争闘であ り

,そ

か ら生 まれる緊迫感 にえもしれぬ喜びを見出 したか らである。急流での鱒釣 りに熱中 した彼 は,領It

was great romantic funデ 'Ernest thought,〔くfighting them in the dark in the deep sunht river."41

とその間の事情 を語 つている。 この闘争 と緊迫感 は

,さ

らに刺激の強いスポーツヘ

,た

えず危険を 伴なう死 と隣 り合わせの大物釣や狩猟

,闘

牛な どのスポーツヘ と

,彼

を駆 りたてた。死が彼 を魅了 した といってよい。 彼 は成人 して新聞記者 としてスター トした時点で も

,す

ぐ現場 に馳せ参 じ,そ こか ら

reporけ

る が,42その仕事 に も飽 き足 らな く思い

,義

勇兵 として戦場 に参加 し

,死

の危険の多い前線へ 自ら志願 し

,再

三な らず九死 に一生 を得た。死が彼 に とりつき

,

もはや離れていない ことがわかる。 彼の生得の資質に根 ざしているこれ らの特色 は

,Hemingwayの

人生 と同時 に小説の中核 を形成 している。 この資質 は血 肉を通 じて父か ら委譲 され

,ま

た父の感化 によって更 に発展 していった も のである。彼が もの した作品で も度々直接的に父を描写 していることか らも

,こ

の間の事情 はうか がえよう。 それに比 して作品で「母」を見出す ことは極 めて困難 といわ ざるをえない。「母のイメイ ジ」 こそ

,Hemingwayの

作品を

,ま

た思考作用の停止の秘密 を開 く重大 な鍵である と思われる。 彼の母 は音楽学校 を卒業 し

,一

時 はニュー ヨークの

Madison Square Gardenで

プロのオペラ歌 手 としてデ ビューする手筈 になっていたが

,舞

台の強い光線 に彼女の視力 は耐 えられず

,余

儀 な く その道 を放棄 した。43結婚 して

4人

の子の母親 となった後 も,彼女 は芸術生活 に立 ち帰 ることを夢想 してぃた。44その母親の芸術家気質 を受 けつ ぎ

,Hemingwayは

音楽の道ではないが

,絵

画 にも抜群 の鑑識眼を備 えるようになる。45また自然の愛好 にして も

,大

ぶ りな父 とは異 な り

,彼

は小 さな只や 小鳥の観察

,顕

微鏡で丹念 に物 を観察する態度 を持つ。

Bakerに

よれば,眠Emest,中 t00k after his mother than his father."46でぁ り

,母

親の 目に映 った Ernestは

(10)

岡村俊明:Hemingwayの独自性 と限界

As soOn as he had learned to stop ttfighting hilnself and everybody else,"said Grace, he would turn into a〔くfine man."47

で あ った。《fighting himself and everybody else"は 彼 の作 品 に登場 す る さ まざ まの人々 の生 の姿 勢

,換

言 すれ ば「父 の イ メ イ ジ」 で あ る とすれ ば

,格

聞 「停止」 の後顕在 化 す る姿

,作

品の陰 にひ そか に息づいている 《

fine man"は

,鋭

敏 で

,感

受性 が強 く

,ま

た心や さ しい

Ernestで

はなか ろ

うか。 しゃ くりあげて泣 く図は

Hemillgwayか

らは想像 もで きないが,He Was also very tender‐ hearted,ttcrying bitterly over the death of a fly he had tried to receive on sugar and、 vater."48

と母

Graceの

みが語 りえた彼の仁愛 と柔弱は

,彼

自身の性質であ り

,ま

Emestの

作品の「母の イメージ」ではなかろうか。では彼 は小説の中で「母のイメージ」 を容易 に示 さず

,ま

た無論殆 ん どといってよいほど母 を描かず

,ひ

たす ら非知性的

,非

感性的人間のみを追 い求めているが

,

これ はどう説明すべ きか。 よ く注意す るならば

,彼

等の行動 もその基盤 に

,感

覚があ り

,そ

れ こそ「母 のイメージ」 を解明 する鍵が存在 していると思われ る。勿論 いかに冷酷無比 な人 といえども

,感

覚・感情 は持 っている。 しか し右顧左HUしている人々 を行動 に駆 りたてる力 は

,一

般的にいって

,彼

等の主義主張

,善

悪の 判断

,直

感等複数の要素であるのに比べて

,Hemingwayの

行動原理 はただ一つ

,感

覚・ 感情であ るとい うことになると

,尋

常でない ことにわれわれは気がつ く筈である。彼 は善悪 を判断する際に も,《 MOrals are what you feel good after."40と 感覚がその基盤 にある。 しか し作品では

,無

表情 な客観物 と粗野な行動 にみち浴れてお り

,感

覚・感情 は容易にその姿を見せないか ら

,一

層厄介で ある。 これ らの取扱いには心す る必要があろう。

Hemingwayは

素材 を

,鋭

敏で

,繊

細で洗練 された感覚 という濾過器 にかけて こし

,感

覚が濾過 しない ものを不純物 として取 り除 き

,客

観物 と行動的状況 という殺風景 な までに非情の純粋液でみ た している。その純粋液 こそ

,特

にnon‐verbalな 思考中止の基盤である。われわれは濾過 された純 粋液 を問題 にするが

,そ

の濾過器の存在 には注意 を向けていない。 その存在 こそ「母のイメージ」 ではなかろうか。 また作中で人々が死 にさらされれば,恐怖 という感覚 もあふれて くる。この感覚 も<fraid a nOthing" という「父のイメージ」 と異な り,「母のイメージ」であ り

,ま

た これ こそVerbal levelの思考作用 中止の前提である。彼 はこの「母の―メイジ」 をも海面下に沈 めようとす る。三度 にわたって「母 のイメージ」 を作品の前面か ら拒否 したわ けである。彼が頑固なまでに拒否 した「母のイメージ」 こそ

,死

に取 り憑かれ

,自

らも父 と同 じ く銃 による自殺 をし,「父のイメージ」一辺倒 と思われ る作 品の裏面 に潜む ものである。 したが ってわれわれは

,海

面下 をも取 り入れ ることによって

,氷

山の 全貌 を把握で きる如 く,「父母のイメージ」を結婚 させ ることによって

,Hemingway文

学の正 しい あ りようを

,ま

た思考作用の停止 を認知で きるといえよう。 III

Hemingwayの

作品の特質 は

,既

に述べたが

,死

と隣 り合わせに生 きた人々が

,死

が もた らす不 安 。緊迫感の中で

,抵

抗 し戦 って きた こと

,そ

れ を基盤 として思考作用の停止 と余分 な説明の排除, 簡潔性が生 まれていることである。 この特質で全ての作品は貫かれているが

,な

かには例外 もない わけではないc「余分 な説明」と「思考作用の横途Jおよび「死 へ の安住

Jの

み られ る作品を取 り上 げ,

(11)

鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第30巻 第2号 それ らの要素 は作 品 に溶 け こんで いるか

,そ

れ とも反 目 し

,浮

き上 って作品 を失敗 とさせ てい るか を考 え

,従

来 とは逆 な面 か ら

,思

考作 用 の停 止が

Hemingwayに

とって必要不可決 の要素 で あ る こ とを証 明 したい。 「思考」が充満 している代表的作品 は 駒 FrFυια%プ河肋ι Ar9チ (1937)であろう。 その顕著 な現 れ は

, JOyceば

りの内的独 自の形式を踏む 「第十章」 と「第二十六章」 といえる。 第十章で主人 公

Harryは

《got a family and,¨ got tO eat and feed them."50の ため

,密

輸や殺人 を犯 し

,な

次の悪事 を練 っている。その際彼 は長 い独 自の形式 をとる。次 に

Harryは

死去 し

,彼

の妻

Marie

と娘二人 は後 に残 され る。父の死 を概嘆する娘 に,「『お しゃべ りはお よし』マ リイは言った。『後生 だか らお しゃべ りはよしとくれ』」51と 命 じ

,思

考作用 を打ち切 りなが らも

,Marieは

夫への追懐 と生 活の不安 を胸 にこめて

,最

後の全章 にわた り

,自

らの内面で思考 し

,そ

れを独 自の形式で語 る。 この小説 には

,密

入国

,密

輸入

,裏

切 り

,射

ち合 い

,銀

行強盗

,殺

,革

命 といった行動的事件 にこと欠かない。いや他作 と比 して も圧倒的に多 く

,ス

リラー まがいの要件 を具備 している。 そう いう死 と対峠 した

,緊

迫 した過度の行動的事件 と同時 に

,章

全体 におよぶ「思考」や余分 な説明が 存在 している。 そ して この作品の大部分 をしめるのは

,や

は りhard―bOiled realismで ぁ り

,あ

の 独特の単綴語 と単純な接続詞か らなる文である。作品全体 としてみ るな らば

,切

羽詰 った行動的事 件 と冗漫に流れ る思考の充満 と独特な乾いた文体が うま く絡みあっていず,従って この観点か らも, 駒 Яあια%″ 肋 υιハリチは失敗作 と断定 されざるをえない。

JOyCe流

の意識の流れ

,内

的独 自は

,Hemingwayの

作品にあっては

,不

釣合である。ともすれば 全体 を冗漫 とし

,彼

の特色た るSimplicityも 欠如 させ る。説明的内面描写は枝 とな り

,種

々の色 あい の葉 とな り文 を飾 り立てるため

,Hemingwayは

それ を忌避 し

,幹

そのものを描写 したい と念 じ,「散 文 は建築だ。室内装飾ではない。バ ロークは過去だ」52と断 じた ことがあったが

,そ

の呪縛か ら腕 き 出るこの種の試み もした。 しか し緊迫感

,行

動的事件お よび独特 な文体 を捨てない限 り

,余

分 な説 明や思考作用の充満 を同時 に取 り入れ ることの至難性 を

,彼

は認識 したのではなか ろうか。 他の もう一つの失敗作4ε陶齢 励ι Rttγ α%″ 励力the T陀盗 (1950)を も取 り上 げてみ よう。 こ の作品 は他の作 と甚だ しく異 な り,「死 へ の安住」 を持 ち

,し

たが って思考作用の中止 を持 たない。

Hemingwayは

たぇず死 に魅せ られてお り

,そ

の不安

,緊

迫感の中で抵抗 し

,戦

,生

命力 にみ ち浴れた人物 を創出 してきた。その逆の例が この作 の主人公

CantweH大

佐である。 大佐 は第一次・ 第二次の両大戦 に参加 し

,特

に第二次大戦では彼 の率い る連隊 をほ とん ど全滅 さ せたか どで

,降

格 させ られた苦い経験 をなめている。私生活 においては

,三

度の結婚 に失敗 し

,今

や娘 ほ どの年の異 なる19才の伯爵令嬢Renataに 熱 を上 げている。今大佐 は鴨打 ちに来てお り

,そ

れ以外すべて回想の形式で語 られ

,最

後近 くで再 び現実 となる。大佐 は TrieSteへ 帰 る車 中で

,心

臓発作 のため急死す るのが

,こ

の作の荒筋である。

Hemingwayの

小説で

,狩

猟 といえば

,ラ

イオ ンや犀等 というハ ンターを死の危険 に陥れ るもの ときまってお り

,鴨

とはいかにも異常な感 を与 える。少 くとも生の緊迫感のなかで行動す る状況 を 惹起 しないが

,思

考作用の中止 を反証する好材料が最終章 に見出され る。大佐 は自問 自答す る。

So、vhat the hell do you have to worry about,boy?

(12)

岡村俊明:Hemingwayの独 自性 と限界

nothing to be done.Let's be certainly hope not.53

既 に見 てきたように,《WOrry about"54は思考停止 の直前 に きた言葉 で あ るが,この作 の主人公 は,

思 い惑 うタイプの人 間で はない と自 ら断定 し

,し

か もその境 地 に十分 に安堵 してい る。無論 その直 後彼 は思考 を停止 す る必 要 はない。将軍

JacksOnが

死 の直 前 に言 つた とい う 《Order A,P,Hill to

prepare for action.… .No,nO,let us cross over the river and rest under the shade of the trees."55 にあやか り

,彼

も死 の直前 には行動 も闘争 もせず

,車

のバ ックシー トに もたれ,「 死」に安 住 し

,溶

けこむ よ うに死 の住人 とな る。 主人 公 が死 の境 地 に安住 し

,何

らなす ところを知 らず に至 る と

,作

その もの もハ リと緊迫感 を失 くし

,そ

の作 は失敗 と堕 して しまっている。 また無論 ここで は思考作用 の停止 は必要 とされ て いな ヤゝ。 これ らの失敗作 を勘案すれば

,Hemingwayに

特有な要素 は、苛酷な死 とその状況下で観念 をオ ブジェ化 し

,ひ

たす ら行動 に向か うこと

,こ

れ らに完全 に合致 した独特 な文体 とこれ らと密接 に結 合 した思考作用の停止であることを

,わ

れわれは認知せ ざるを得 ない。余分な要素 は排除 され

,純

化され

,そ

の結 果 彼の特 異な文体が生 まれる

,と

同時 に作 品 をもの す るまでに至る彼の思 考 作 用 も

,作

中での思考作用の停止 も

,彼

が信奉 している世界 を純化する役 目を担 っていることも

,理

解 せざるを得ない。 なぜな ら、無論彼の「思考」 は上 に掲 げた状況 を純化 して描 きこむ ことにあつた が

,そ

の「中止」 も

,こ

れ まで とは異種の世界 を想像 し

,行

動 しかね まじき人々 を

,単

一の世界 に 限定 させ (第五範疇の思考作用の中止

),ま

たは「狂気の安全弁」としてその落差 を埋め

,

もとの世 界に人々 を復帰 させ (第四範疇

),真

相 を忌避す るな どして もとの交友関係 を復元 させ (第二

),そ

の世界 をたえず純化する働 きを担 っているか らである。第一範疇 は言わず もかなである。 既に述べた

Hemingwayに

特有 なすべての要素は

,密

接不可分であ り

,単

独 に切 り離 されること はで きない。彼が切 りとり異種 な世界 を構築 しようと企図すれ ば

,そ

の試みは失敗 と帰す。彼が完 成 したそれ らの要素 は一枚岩の如 く揺かず

,純

化以外の種々の挑戦 を撥 ね付 けてきた。 そ こにこそ 彼一人がその基盤 に立脚 し構築で きた独特な世界があ り

,逆

に一歩 も踏み外せない世界のため

,そ

こに包含 された彼の限界 もある。

Hemingwayの

視点 は

,世

界 は

,そ

の長所 とはうらはらに

,狭

少 化 されざるを得 ない。同時代の作家Faulknerを例 に とる と

,彼

の作品には

,ゴ

シック・ロマ ンス, ギ リシア悲劇

,キ

リス ト教的アレゴリとさまざまな要素が存在 し

,な

おかつそれ らは作品全体の有 機性 を不思議 と壊 さない。Faulknerは

,物

を入れ るいわ ば大 きい容器 を持 ってお り,その容器は形 があって,時には形がない。そういうしたたかな柔軟性 を彼 は持 つている。この点に関 しては,Heming―

wayと Faulknerは

まった く異質である。 では

Hemingwayに

Faulknerな みの大 にして融通無碍の容器 を持たせ ることが肝要であつたか というと

,必

らず しもそ うではな く

,そ

の容認 は彼の全存在の否定につなが りまじきものである。

Hemingwayの

容器 に

,既

述 した密接不可分な要素が盛 られ,その整然 さが尊 ばれる一二近に一つの 欠如 も彼の作品を駄作 と化す とい うジレンマをそれ は持つ。彼 は各要素の存在 とい う基盤 に立 ち, 多少の増減 に主な関心 を示 し

,新

しい要素の盛入れ を認 めず

,い

わば彼の容器の蓋 をぴった り開ざ していた。 その入れ物 は単なる床間を飾 ざる置 き物ではな く

,彼

の生来の資質 を材料 として作 り出 された生存 そのものであつた。生存 と大 きくかけ離れた創作 は,彼には至難であつた。

Hemingway

はそれ を堅持 し

,ま

すます磨 き上 げて純化・完成 させ

,そ

の致達点 をT力ι

O″

″肋 αηプ 励ι ttα

(13)

鳥取大学教育学部研 究報告 人文 。社会科学 第30巻 第2号

■3 に 持つ。ために彼 は世界的文豪 としての名声 をほしい ままとした時期 を持 った。 この論考では

,入

れ物の堅持 は当然の前提 として きたが

,そ

の枠内で も現在の

Hemingway像

以 上の発展の萌 を示 した作品がみ られないか とい うと

,必

らず しもそ うではない。純―でな く拡散化 された行動 をもつ

4n胞

″ι〃ヵ4夕η夕ι

sが

それである。思考作用の中止の観点 に立てば

,そ

れは過 渡期の作品であるが

,い

わば到達点 とは異 なる分岐点の可能性 も争んでいた。この方向にHeming‐

Wayが

ひた走 つていれば

,T力

ι

O″

フИαηα%″ 滋ι ttα とは異 な り

,現

在 とは違 った評価 を享受 し ていたかもしれない。 思考作用の停止は彼の独特 な世界 を構築 し

,世

界文学史上 に彼 自身の独 自な地位 をしるした と同 時に

,他

の要素の介在 を容認せず

,そ

こか ら起 因する純一性 を,弱点 ともしいい うるな らば弱点 を, IIBす ことにもなった。いわばこのジレンマを包摂 しているのを覚悟 して

,Hemingwayは

それ を根 本か ら改めることな く

,ま

た敗者 となるを恐れず

,無

器用なまでにス トイックに

,ま

た痛 ましいほ ど倫理的につ き進 んでいったが

,そ

れが彼の生涯であ りまた彼の文学 であつたともいえよう。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 江 Ernest Hemingway,4Я2π¢ "′ 乃 4跨タタs(New York:Scribners,1929),p61 lbid,p61 1bid,p167 1bid,p27 論理学 で は,思考 作 用 の形 成 を概 念,判断 お よび推理 の二 つ とす る。 速 水 滉 『論理 学む(岩波書 店,1916), 32頁参照。

4脆

″ω房′ゎ4″ηηs, p231 1bid,p2791 lbid,pp.327-28. Ibid,p139 1bid, p233 1bid, p154 1bid., p168 1bid,p22 1bid,p■8 1bid, p170 1bid, p170

Ernest Hemingway fttR力¢κ′夕修容''in 4〃♂

%げ

ithο2ど Йレろ%珍¢″ (New YOrk:Scribner's,1927), pp,95-96

Ernest Hemingway,Яο″

"五

″ο物 肋θ】ο′′a9′/6N(1940;rpt. 【iddlesex:Penguin Books,1964), p■ 2

1bid , p45 1bid , p45 1bid , p45 1bid , p54 lbid , p45 1bid , pp 436-37

(14)

岡村俊明:Hemingwayの独 自性 と限界

25 Ernest Hemingway.勁¢0″ Ma″ クカ″ チカ¢S9α (New York:Scribner's,1952), p46

26 1bid , p66 27 1bid , p48

28 ウ ィ リャム・ オー コナー編 『現代 小 説 の すが た』(南雲堂,1961)所載 の レイ・ ウ ェス ト「 アー ネ ス ト・ ヘ ミ ング ウェイ報 受性 の失 敗コ,139貫参照 。

29 Lionel Trilling,tttιカカb¢ /1ノ

S玉

″,"in T/2¢ L力ιЙα′r%″ηgゲηr7チカ% (London:Mercury Books,1950), p

l17

30 Mark TWain,aο″ S,py9″ and FF2ひカカう″

?Fぬ

η (rpt New York:The Modern Library,1922), pp,

418 ff.

31 1bid,p387(引

用文 中の イ タ リックス は原文 の ま ま) 32 1bid.,pp 464-65 33 1bid.,p520 (引 用文 中の イ タ リックス は原文 の まま) 34 1bid,P,388 35 1bid,Chap xxxlx

36 Carios Baker,ど物 公r ttρ″

,印

り :A Ltt Sサο9 (New York:Scribner's,1969), p■ 7.

37 1bid,p9 38 1bid,p9 39 1bid,,p5 40 1bid,p28 41 1bid.,P24 42 佐伯 彰 ―編 『ヘ ミング ウ ェイ』(20世紀 英米 文 学案 内

,研

究社,1966),26買. 43 Baker,p2 44 1bid.,p.7. 45 1bid,p.17 46 1bid.,p62. 47 1bid.,p62 48 1bid,p.5 49 Ray West,ftt Л2拓第υ〃′ヵ4枠″島″in β力 公サrrp物

'印

り rc々チヵ夕盗 げ Яο%″ Mttο″Ar9υ♂hed,Carlos

Baker (New York i Sc bner's,1962), p30

50 Ernest Hemingway,aο FFFク♂,″″FrFク?N。ナ(1937;rpt,New York:GrOsset&Duniop,1944), p.49 51 1bid,p255

52 志賀勝編 ,『 ヘ ミング ウ ェイ研 究』(英宝社,1954),88買。

53 Ernest Hemingway,4ε抱硝 力¢Rみ¢″α″ブ カゎ 肋♂rTc盗 (1950;rpt,Middlesex,Penguin Books,1966), p.236

54 Cf 4捻

修ωι〃 ル4,η夕容,pp l15,138,233,etc 55 4♂℃SS励¢R力¢/,%″ カカ 励¢T櫂盗,p.236

参照

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