香川大学農学部学術報告 第29巻算62号235∼239,1978 235
発根困難な観賞樹のさし木繁殖
Ⅰクロガネモチ(JJβ.方れ舶微ねTHUNB.)の発根の可能性
五井 正憲,長谷川 暗,西原 裕,庵原 遜
STUDIES ON THE CUTTINGS OF DIFFICULT−TO−ROOT
SPECIESIN ORNAMENTAL TREES AND SHRUBS
I SuccesfullRooting・in Softwood Cuttingsof〟β.X r・Otunda TI‡UNB.
MasanoriGoI,AtsushiHASEGAWA,Yutaka NISHIHARA
and
YuzuIuIHARA
Sllmmary
Therootingabilityof cuttingsofdifficulトtoNrOOtSPeCiesHexroiundaT王王UNB.WaSStudied・
Results were as follows:
1.Softwood or semi−SOftwood cuttingsfromthe male tree pre−treated withNAAsolutions at
O,25and50ppm for two hours were plantedin coarse vermiculitein the plastic basket
underintermittentmistduringthe summerin1975.The cuttings made on May31rooted
COnSiderably,eSpeCiallyit was true ofthoseuntreated withNAA.While mostofthecuttings
plantedinJune orlater did not root.
2.The cuttings from water sproutsof the male tree rooted more easily than those from
normalshoots when theywere pre−treated with NAAat O and25ppm OnJ11ne22,1975.
3.Thecuttings from†he male tree pre−treated witha concentratedNAA sol11tion(2500ppm
in50%ethanol)on August2and/or August30,1975,rOOted at69and56%respectively.
On the other hand,those treated withlowerlevels of NAA rooted not at a11.
4.The cuttings from the female tree rooted assameasthosefromthemalewhen theywere
treated with the concentrated NAA solution on August2,1975.
摘 要 クロガネモチ・のさし木発根の可能性を検討し,以下の結果を得た. 1.季節的な発根の可能性を調べるため,1975年5月31日から9月27日紅かけて,NAAO∼50ppm処理後ミストざ しを行った結果,5月31日区のNAA対照区では高率で発根し,NAA処理区でほ30%ていど発根した.しかし,6月 以後把.さし木しても,はとんど発根しなかった. 2.萌芽技は普通枝よりもよく発根した. 3.NAA2500ppmで処理サーると,8月2日あるいは30日に.さし木して一も,それぞれ69%,56%の発根率となった. しかし,低濃度(50ppm以下)のNAA処理では,全く発根しなかった.
4,8月2日にNAA高濃度処理後ミストざしすると,雌株成木からのさし穂も雄株からのさし穂も,はば同様によく
五井正志,長谷川唱,西原 裕,庵原 遜 香川大学農学部学術報告 236 発根した. 緒 p さし木は,園芸作物の栄養繁殖法としてほ最も重要なものである.−般にさし木繁殖される観賞樹の多くほ,露地ざ しでもよく発根するが,はとんど発根しない種類もまたかなりある(101=2・1描16).露地ざしで発根しない種類の中に
は,かキジソやミスト装置の利用によってよく発根するものもあるが,それでもなお発根しないものがある(3′16)
発根の難易性紅ついては,栽培学的,形蘭学的あるいは生化学的観点から研究されてきてはいるが,発根困難な原因は種類や品種に騰有な内的要因にあるばあいが多く,まだ解明されていない点が多い($)
われわれは,園芸的に価値のある木本でさし木発根に問題の多い種類について,その間題の原因とその作用機構を究 明して実用的なさし木法を明らかにするために,この研究を計画した・ クロガネモチは実物花木とくに庭園用樹として重要な花木であるが,雌雄異株であるため,果実を着ける雌株のみを 殖やそうとする時は,栄養繁殖に凝らぎるを得ない.しかし,この種は,成木(とく紅雌株)からのさし木繁殖が困 難(2・4) であるため,…般に.は接木で繁殖されている小ところが,この種子は,早くても採種後2年目でなければ発芽 しない(2)ので,台木養成上にも問題がある. われわれは,さし木と接木(とくに種子発芽)の両面から,クロガネモチの繁殖につレ、て研究しているが, ここで ほ,さし木について得られた知見のいくつかを報告する. 材料および方法 庭園用に植栽されている推定70∼80年生の雄株と30∼40年生の雌株を母株としたが,雌・雄性と発根との関係に関す る実験以外では,雄株のみを使用した.さし穂は新栴からとり,基数5枚,長さ10cmに調整し,約半日水あげ後にNAA,AgNOいなどで処理し,ただちにミスト下(30分あたり30秒)で租バーミキュライトにさし木した・ミスト壷ほ
#610黒色カンレインヤ1枚のしゃ光を行った以外,温度や光の調節ほしなかった小なお,実験は1975年と1976年紅はば 同じ方法で行ったが,結果は同じ傾向であったので,ここでは1975年の結果を宰ほする・ 実験結果および考察 実験て.さし木時期と発根との関係 木本の発根の難易は季節によつて異なる(り6),クロガネモチに.おいても,季節によって−は発根しやすい暗があるの ではないかと考.え.て,この実験を行った. 1975年5月31日,6月25日,8月2日および30日,9月27日にそれぜれさし穂を作り,NAA O,25または50ppm あるいは発根戯制物質除去紅有効といわれるAgNO8(9)50ppmの単独2時間処理,あるいはそれらの組み合せ処理後, 1区50本ずつミストざしを行った.3月後に調査した結果は,第1表の通りであった.Tablel.The rooting of cuttings ofIlexroiunda T=UNB・plantedon different
dates during the summer after some preMtreatmentSu Percent of rooted cuttings
PIe−tIeatmenta
May31 June25 Aug.2 Aug.30 Sept.27
68。0% 3.3%
6“7% 32.0 0 3.30%
0%
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 Cbeck NAA 25ppm NAA 50ppm AgNO850ppm−+NAA25ppm
−+NAA50ppm
36.0 0 36.0 0 12.0 0 4.0 0 a.Basaldippingln eaCh solution for two hours.発根困難な観賞樹のさし木繁殖 第29巻第62号(1978) 237 すなわち,5月31El区でほ発根しやすく,とくにNAA対照区では発根率が68%に達した.NAAまたはAgNO8区 では,発根率は30%あまりであったが発根状態はよかった.しかし,これらの組魂合せ処理区では,カルス形成の魂で はとんど発根しなかった.これらのことほ,AgNO8が発根細制物質とともに,発根を促進する物質をも除去すること を示している.6月25日以後のさし木でほ,処理のいかんにかかわらず,発根ははとんど認められなかった. これらの結果から,クロガネモチの新梢は伸長直後にほ発根しやすいが,その後時間が経つにつれて発根し難くなる と考えられる. 実験2ル 萌芽故にこおける発根 普通のさし木で発根しなくても,爾芽枝をさすと発根しやすい(1・2・8).クロガネモチは生長カが強く飛芽枝が発生 しやすいので,1975年6月22日に萌芽枝と普通枝のさし穂を作り,NAA Oまたは25ppm処理後濫.ミストぎしを行 った. その結果は第2表の通りで,萌芽枝からのさし穂は普通枝のさし穂よりもよく発根した.新芽枝が発根しやすいの
Table2.The rooting of cuttings from water sprouts and normaI
shootsinJgβ。方r〃ね‘〝dαT‡IUNB.
Percent of rooted cuttings Pre−tIeatment
Water sprout Normalshoot %
ClleCk 24.0 12.O
NAA25ppm 36.0 0
The cuttings tIeated with each solution were plantedin
COarSe Vermiculite11nderintermittent mist onJune22,1975.
は,枝椅の木化が遅れているため,発根躇書物質の蓄蔵が少なく,親戚そのものが若く分裂しやすいことなどによると 考えられている(1,8).クロガネモチにおけるこの実験(1,2)の結果や,幼木からのさし穂の発根(2)から考える と,厨芽枝が発根しやすいのは上述のような理由によると考えられる. 実験3.高濃度オーキシンの発根促進作用 発根困難樹種に.は,切口におけるカルス形成が盛んなものと,カルス形成さえ認められないものとがあるが,クロガ ネモチは前者のタイプである 植物の組織からの形態形成一不定芽と不定根の形成−は,オー・キシ∵/・サイトカイエン比によって決定されるという 考えがある(17).すなわち,比が大きい時は不定根が,小さい時は不定芽が,それぞれ形成され,中間のときはカルス 形成が優先する. この考え方に立つと,クロガネモチのさし穂における著るしいカルス形成ほ,サイトカイニン紅対する内生オ−キジ ンの不足を示している.しかし,これまでの実験でほ,25または50ppmのNAA処理の発根促進効果ほ認められなかっ た.この事実から,つぎのことが考えられる. 1)オーキシ∵/やサイトカイエン含塁は不足しないが,発芽後時間が経つにつれて発根CofactoI・(7)が減少するた め発根しない. 2)内生サイトカイエンは多く,オ−キンンは変化しないかあるいほ減少する・そのため,か−キレン・サイトカイ ニソ比は小さく,また低猥度の外生オ−キジソの補給によっても比は大きくならず,したがって発根しない・ CofactoI・の本質は不明であるから,2)の点について実験した・2)の仮説が正しいとすれば,−般紅用いられるよ りも高濃度のオーキシソを処理すれば,発根は促進される筈である・このような観点から,1975年8月2日と30日に,
NAA O,25,50ppmまたは2500ppm処理(50%ユタノ・−ル溶液5砂処理)後に.ミストぎしを行った・
踏果は第3表の通りで,NAA2500ppm区でのみ高率で発根し,また発根状態もよかった。この結果ほ,前述の仮 説を証明するものである.五.井正窓,長谷川暗,西原 裕,庵原 遜 香川大学農学部学術報告
Table3.Effect of concentrated NAA solution on theIOOting of
euttingsinI[(r10[zL,Ida THLTNB. 238
Percent of rooted cuttings
NAA
COnCentIation Cutting date
Aug.2 Aug.30 ppm 0 25 50 2,500 69.0 56.0
Softwood orsemi−SOftwood cuttings pIe−treated with each
solution,for two hours at 50 ppm orlower and five
seconds at2500 ppm,Were plantedin coarsevermiculite
underintermittent mist. 実験4.母株の雌・雄性と発根との関係 樹木の雌株と雄株では,生長反応に差がある?3)この研究でも,多くの果実を着ける雌株の枝は栄養的に不安定であ ると考えられたので,主に雄株を材料とした.しかし,さし木の目的が雌株の繁殖にあることから,雌株と雄株の発根 能が質的に異なるとすれば,その点を∴明らか紅しておく必要があった. 1975年8月2日に,雄株と雌株の着花していない枝とからさし穂を作り,NAA Oおよび2500ppmで処理後さし木 した.そ・の結果,発根率には差がなかった(寛4表)ル したがって,従来言われている雌株の発根カの低さほ.,本質的
Table4.The rooting of cuttings from the male and the female
StOCk plantsinIle方rOtunda T王IUNB.
Percent of rooted cuttings
NAA treatment
Male Female
% %
Cbeck 6.7
2500ppm 69.0
The cuttings were treated with NAA for five seconds on
August2,1975. なものでなく,着果に.よる二次的なものであると考えられる. 結 ここに述べた実験結果は,発根困難と言われるクロガネモチの雌株成木のさし木が可能であることを示した.実験1 および2の結果は,若い枝の発根は容易であることを明らかにしたが,オ■−キシ∵/の無効性から考えると,若い組織中 には内生オ−・キジソが多いとも考えられる.枝が老化すると,組織の老化とともに内生オ−キジン含盟が低下するよう である.これらの実験的証明は,今後の研究に待たれる・ 実用的にほ,若い者果していない枝のミストざし,あるいは成熟した枝の高濃度オーーキ㌢ン処理によるミストざしに よって,クロガネモチ雌称のさし木繁殖が可能である。
発根困難な観賞樹のさし木繁殖 算29巻算62号(1978) 239 文 (1)藤井利蛋編著:園芸植物の栄養繁殖,29・−117, 東京,誠文堂新光社(1968). (2)後藤利率:植木生産の諸問題2観党樹の繁殖, 園芸学会昭和50年秋季大会シ∵/ポクエ.−ム要旨, 93−103(1975). (3)川合 宏,鹿野昭一・,斎藤 清:野生樹の繁殖濫 関する研究(ⅠⅠ)数種の野生樹の緑枝挿の発根把 及ぼすミ.スト法とIBAの影響,造園雑誌,37 (4),22−27(1974). (4)川田 訂,後藤利幸,西村和明,安松 潔:花き のミスト繁殖法紅関する研究 種類,品種に関す る試験(算1報),大分県温泉熱利用農業研究所研 究報告,(1),1−11(1975). (5)川田 計,後藤利幸,西村和明,安松 潔:花き のミスト繁殖法紅関する研究 散布方法(散布間 隔,散布時間)紅関する試験,大分県温泉熱利用 農業研究所研究報告,(1),12■−21(1975), (6)川田 計,後藤利率,西村和明,安松 潔:花き のミスト繁殖法紅関する研究 発根剤の利用に.関 する試験,大分県温泉熱利用虚栄研究所研究報告, (1),22−31(1975). (7)LEE,C.ⅠⅠ.,McGuIRE,J.J・,KITCHEN,J.T.:
The relationship between rooting cofactors Of easy and difficult−tO−rOOt Cuttings of three clones of Rhodod(lldl−0]]、7..1JJtC/. ぶoc.月b㌢≠.∫cよ,g4,45−48(1969), (8)町田英夫:さし木のすべて,東京,誠文堂新光社 献 (19ア4). (9)大山浪雄:さし木の発根阻害物質に.関する研究 (欝3報)ジョクワスギのさし木の発根をよぐす る処理法,日林誌,37,95−99(1975). (10)杉浦孝蔵:広葉樹の挿木紅ついて(籍1報)発根 と挿付季節との関係,日林誌,37,305−308 (1955). (11)杉浦孝蔵:広葉樹のさし木に/ついて(発ⅠⅠ報)発 根とさしつけ季節との関係,日林誌,39,139− 141(1957). (12)杉浦孝蔵:広葉樹のさし木について(欝ⅠⅠⅠ報) 発根とさしつけ季節との関係,日林誌,朋,356− 359(1959). (13)杉浦孝蔵:アズ■キの繁殖に.関する研究(Ⅰ),農学 集報,8,63−・66(1960). (14)杉浦孝蔵:広葉樹のさし木について(第ⅠⅤ報)発 根とさしつけ季節との関係,日林誌,43,68→71 (1961). (15)杉浦孝蔵:広葉樹のさし木について(欝Ⅴ報)発 根とさしつけ季節との関係,日林誌,43,106… 109(1961). (16)田村輝夫,綿原孝夫,伊藤窓作:観賞樹の挿木に 関する研究(策1報)挿木時期と借着率につい て,国学雑,26,45−53(1957).
(17)WEAVER,R.J.:Plant Growth Substances in Agriculture,118−145,SanFrancisco,W. H.F工・eeman and Company(1972).