発生 的認識論研究
(1):因
果性
毅育心理学教室高 取
憲 一 郎
ピアジェはプランギエ との対話 (ブランギエ,1985)の
なかで,因
果性 という言葉 の非常 にわか りやすい定義 を与 えている。 それ によれば,主
体 に とって対象 とは何か,主
体 は対象の反応 をどの ように説明す るか,
とい うことが因果性の問題であ り,そ
の際,説
明す るとは対象 に主体 の活動 に 類似 した操作,ま
たは主体 の操作 に類似 した操作 を付与す ることである。 ピアジェを直接引用すれ ば,「したがって,因
果性 とは,私
たちの操作 を,相
互 に影響 しあつている操作子 としての対象 に付 与す ることになるはずです。」(p.91)と い うことになる。すなわち,囚
果性 とは,ど
のように現実の 現象 を解釈す るか とい うことであ り,主
体が到達 しているある一定 のレベルの操作が対象 に付与 さ れた ものである。 さらに,ピ
アジェは,ブ
ランギエの「(あなたのおっしゃ りたいのは)対
象 にわたしたち人間の も のであるはずの特性 を付与す ることで(し ょうか)。」とい う疑間に対 して,「特性 を付与す るので は な く,対
象 は合理的 に行動す ると考 えるのです。すなわち,対
象 はわた したちの数学的操作 と同型 の行動 にしたがって相互 に影響 し合 っているのです。そして,そ
の構造がなかったな ら,わ
たした ちは対象 を理解す ることはないはずなのです。これ は魔法で はな く,西洋科学で は一般的信念です。」 (p.91)と答 えている。 このような因果性 に関す る短 い説明のなかに,わ
れわれ は,ピ
アジェの基本的立場 をうかがい知 ることがで きる。すなわち,因
果′性とは認識であ り,さ
らに,認
識 は対象の コピーで はな くて,主
体 の概念 によって対象が再構成 された ものであること。そして,主
体 にお ける操作 の獲得水準 に対 応 して認識 も変化 してい くこと。要す るに,同
書の別 の所で ピアジェの共 同研究者であるグ リュー バー も述べているような立場,すなわち;「科学 とは人間の精神 を通 して世界 を構成すること」(p.104) であるとい う構成主義 の立場が,囚
果性 とは何か という説明にも貫かれているのである。 ところで,ピ
アジェは以上 の ような囚果性 に関す る基本的見解 を説明す るために,し
ばしば運動 の伝達 に関す る実験 を引用 している。たしかに,
この実験 は因果性 を考 える上で説得的であ り非常 に参考 になる。 ピアジェが,シ
ェ ミンスカ とフェレイロの協力で行 なった とされ る第一 の実験 は (この実験 につ いて は,ブ
ランギエ,1985お
よび滝沢,1984を
参照 した), 4個
のボールBl,B2,B3,Cが
一列 に接触 して並べ られているときに,ボ
ールAが
斜面 を転がって きてBlに
ぶつかった とき,Bl,B
2,B3は
動 くことな くCだ
けが転が りだす とい う現象 を子供 はどのように説明す るか とい う問題で ある。 ピアジェは次のように子供 の説明 を段階分 けす る。4∼ 5才
児 はAが
Bl,B2,B3の
後 を通 って,高取憲一郎 :発生的認識論研究 (1):困果性
Cを
たた きに くると説明す る。6才
児 は,Aが
Blを
押 し,Blが
B2を
押 し,B2が
B3を
押 し,B3
がCを
押 しというように,そ
れぞれのボールが次のボールをたた くと考 える。 この場合 は当然,B
l,B2,B3の
ボール は少 しずつ動 くと説明 され る。7才
児 は,Bl,B2,B3の
中を「 はずみ」 あ るいは力が伝 え合い,横
切 ってい くと考 えるようになるが,し
か しまだ,Bl,B2,B3の
小 さな運 動 は認 めている。■才児 になる と,Bl,B2,B3は
動かない ままで,力
がAか
らCへ
と伝播 される と考 えるようになる。 ピアジェはこの最後 の段階 を,A=B,B=Cな
らぼA=Cで
あるとい う論 理的推移律 のレベル とみなしている。 このような,■
才児以上 に見 られ るような操作 を形式的操作 と呼んでいるわけだが,こ
の段階 において初 めて,前
の段階 (具体的操作期)に
見 られ る物理的量 の保存 とは異 なる,運
動 の保存 あるい はエネルギーの保存が獲得 され るとす る。 また,ピアジェは別 の論文 のなかで,なぜ7歳
頃か ら力がBl,B2,B3の
中を伝 わ るとい う思考, すなわち媒介的伝達 という観念が子供 に出現するか という点 に言及 している(ピアジェ,1979,p.120)。 これ は,非
常 に重要だ と思われ るので,こ
こで触れてお きたい。彼 によれば,7,8才
の子供達 は, 数学的特性である推移律A=B,B=Cな
らばA=Cを
理解 しはじめる。7, 8才
以前の子供 は,Aと Cと
を一緒 に見較べなければA=Cを
結論することがで きない。一度推移律が理解 され ると, それ はポールに対 して帰属 させ られ るのである。この部分 は,先
に引用 した,「因果性 とは主体 の操 作 を,相
互 に影響 し合 っている操作子 としての対象 に付与することである」(プランギエ,1985,p.
91)と
す るピアジェの見解 の補足説明 として適切 な表現である。 さらに先 を続 けよう。で は,11,
12才頃か らなぜ,最
後 の段階である,内
的な伝達 とい う観念が出現す るのか。 ピアジェによれば, それ以前 の年令 においては,推
移律 は直接観察 し得 る同等性 と差異性 にのみ適用 され,推
論 される 同等性 と差異性 にはまだ適用 されないためである。すなわち,論
理的推移律 の段階 にまだ達 してい ないか らである。 このために,日
に見 えない内的過程 における力の伝達 とい う観念が,■
,12歳
以 前の段階で は現われないのである。 次 に,や
は り,ピ
アジェ,シ
ェ ミンスカ,フ
ェレイロカS実施 して,ピ
アジェ とガル シアが報告 し た とされ る同種 の実験 の話 に移 ろう (この実験 は,VonOche&Doyle,1989と
こ紹介 されているもの である)。 今度 の実験 は,先
の実験 とは異なって,平
面上 にバー(B)が
固定 されていて,そ
れに接 してボールCが
置いてある。 そ こへ,ボ
ールAが
接近 して きてバーBに
ぶつか ると,ボ
ールCが
転 が りだす。 この説明 を子供 に求 めた ものである。 第一段 階 は,力
の伝達 を単 なる運動 の同時発生 と考 える段階である。すなわち,ボ
ールAの
運動 とボールCの
運動 は因果的には無関係 とみなす立場である。Aが
止 まってCが
動 き始 めただけだ と 考 えるのである。 この場合 は,バ
ーBが
,Aと
Cの
関係 を見抜 くのを妨 げてい る と思われ る。第二 段階 は,Aは
Bを
媒体 としてCに
作用すると考 え,Aと
Cの
運動 は単 なる同時発生以上 の ものであ るとみなす。 ただ,こ
の場合 は,バ
ーBが
媒体 として機能するといって も,あ
くまで も外部的媒介 として機能 しているだけである。 それ は,バ
ーBは
動 いていないのに,少
し動 いた と子供が指摘す ることによって もわかる。 この段階で は,運
動の内部的伝達 については子供 はまった く考 えない。 第二・ 三段階 (過渡的段階)で
は,Aの
運動 は媒体Bを
半ぼ外的に,半
ば内的 に通 って伝達 され る とする。すなわち,バ
ーBの
外的振動 および内部 の原子の運動 によって伝達 され る と考 えるのであ る。 この段階 になると,子
供 は,運
動 の伝達が観察可能 な仕方で行 なわれねばな らない とい う観念 か ら離れ始 めるのである。第二段階 は,運
動 の伝達 にはバーBの
振動 は必要で はな く,た
とえバー が固定 されていて静止 していて も,最
初 のインパルスが保存 され ることによ り,Aか
らCへ
と運動 が伝達 され ると考 える。すなわち,A=B,B=Cな
らばA=Cと
いう推移律 で説明 され るのであ鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
2号
(1993) 479
る。 以上の第二 の実験 において も,第
一 の実験 において とまった く同 じ認識 の発展段階 をた どってい ることは明 らかであろう。 ところで,因
果関係 には,物
理的因果関係 の他 に,意
図的因果関係がある。古 くは,仮
現運動 の 因果関係 を研究 した ミシ ョッ ト(Michotte,1946)の ものが著名であるが,最
近のジュネーブ学派 の 研究のなかで は,
トーメン(ThOmmen,1991)の
ものが興味深 い。 トーメンは,ま
ず,物
理的因果関係 と意図的 (あるいは トーメンは心理的 とか社会的 とも言い換 えているが)囚
果関係 の相違点 を次の三点 に求 める。第一 に,物
理的因果関係 は,外
的原因の行為 によって特徴づ けられ,そ
のために物理的対象の受動性 として表現 され る。一方,意
図的囚果関係 は,動
機づけあるいは欲求 という内的原因によって特徴づけられ,そ
のために行動の自発性 とい う 外観が与 えられ る。第二 に,物
理的囚果関係 における物理的対象 は,途
中で関係 の変化が生 じない ままで原因 となる行為 を受 け入れるのに対 して,意
図的因果関係 はその過程 の途中で関係 の変化が 生 じる。第二 に,物
理的対象 と物理的対象の間の囚果関係 の媒介 は物質 によってなされ るのに対 し て,意
図的行為 の媒介 はシンボルによって行 なわれ る。すなわち,人
間 は他者の発す るコ ミュニケ ーションシンボル を解釈することにより他者 の行為 に反応す る。 以上の ような前提か ら出発 して,
トーメンは,ハ
イダー とジンメル(Heider&simmel,1944)
の用いたアニメー ションフィルム(図1参
照)を, 4歳
か ら12歳までの児童162人に見せて,そ
のフ ィルムの中で生 じた出来事 の要約 をさせている。その結果,意
図的因果関係の知覚の発生 には三水 準 あることが明 らかになった。第一水準(6歳
ぐらい まで)は ,図
形が互いに接触す るときにのみ 社会的相互作用 を知覚する。ただし, 4歳
児で も運動 を行為 として記述す ることがある。第二水準(7歳
以降)は ,図
形が接近 していな くて も,動
いている図形 と図形 の間の因果関係 を知覚す る。 しか し,図
形 の運動 と運動の間の時間的関係 は一定 の限度内に保持 されることが必要である。第二 水準 (10歳以降)は
,フ
ィルムシナ リオの社会的状況 の因果的説明が現われる。同時 に,内
的動機 や心理的状態の叙述が特徴 となる。 図1
ハイダーとジンメルの使用 したフィルムの一場面 (Heider&simmel,1944よ り) さて,最
近 のジュネープ学派の研究 のなかで もう一つ因果性 にかかわる刺激的な研究がある。 そ れ は,モ
ンタンジェロのグループのい くつかの研究である。彼 らは,時
間 と因果関係 の間 には非常 に緊密 な関係があるとい うピアジェの指摘 (Piaget,1946)を 基 にしなが らも,し
か し,従
来,そ
の 二つが別々に研究 されて きた(Dionnet&Montangero,1991)と
い う問題意識か ら出発す る。 物理的事象の過去 と未来 を予想 させた論文(Dionnet&Montangero,1991)か
ら見てい こう。被 験者 は, 7歳
か ら12歳の児童60人である。実験Iで
は,ゾ
ウの男の子 と女 の子が,か
ろうじて一人高取憲一郎 :発生的認識論研究 (1):困果性 が乗れ るぐらいにまで小 さ くなった氷 (水上 に浮いている
)の
上 に,ス
ケー ト靴 を履いて向 き合 っ て立 っている絵 (モデルの絵)を
見せる(図2参
照)。 そして,水
と氷 の部分 を除いて,二
匹のゾウ の姿だけが描 いてある別 の紙 を与 え,モ
デルの絵 の前 に何が起 ったか,後
に何が起 るのかを絵 に結 かせ る。要す るに,モ
デルの絵 の過去 と未来 を描かせ る。 その後で,な
ぜそのような絵 を描 いたの かを口頭で説明 させ る。 図2
子供に与えられる絵:(a)は
最初に見せ られる絵,(b)は
子供に描き加えさ せるための絵 (Dionnet&Montangero,1991よ り) 結果 として, 4種
類 のシナ リオが得 られた。 シナ リオ1は,原
因 は瞬間的で (たとえば,船
,ク
ジラ,波
な どが氷 にぶつか る),結
果が直ちに現 われ る(氷が砕 ける)タ イプ。 シナ リオ2は
,原
因 は持続的かつ進行的で (たとえば,雲
間か ら太陽が突然現われ,そ
の後,こ
の太陽が氷 をじわ じわ ととかす),結
果が直 ちに現われ る(氷が砕 ける)タ イプ。 シナ リオ3は
,原
因 は持続的かつ進行的 であるが,結
果が直ちには現われないで,遅
れて現われるタイプ。たとえば,①
二匹がスケー トを していて氷 に傷 をつける,②
二匹はさらに滑 り続 けるので,ま
すます傷がつき,氷
はとけ始める, ③二匹は,小
さい氷の上 に乗っている(モデルの絵の説明),④
二匹は水のなかに落ちる,
というよ うな例である。 シナ リオ4は
,原
因は持続的で恒常的 (たとえば,初
めか ら太陽が輝いていて,最
後 までずっと照 り続 けている),結
果は進行的であるが遅れて生 じる。たとえば,①
二匹は太陽の下 でスケー トをしている,②
少 しずつ太陽は氷をとかす,③
太陽は氷 をとかし続 ける,二
匹は小 さい 氷の上に乗っている(モデルの絵の説明),④
氷 はとけ続 けて,や
がて二匹は水のなかに沈む,
とい うような例である。 被験児を7-8歳
児, 9-10歳
児,H-12歳
児の二つのグループに分 けて,シ
ナリオのタイプご との分布 を見てみると (表1参
照),原
因 と結果の間に時間の経過が入 るシナ リオ3と 4の 人数 は, 表1
シナ リオタイプ別および年齢別の被験者数 (Dionnet&Montangero,1991よ ',) シナ リオ1 2 3 4
7 8歳(n=20) 6 10 4 0
910歳(n=20) 8 6 4 2
1112歳(n=20) 1 2 8 9
計(n=60) 15 18 16 11
鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
2号
(1993)7-8歳
児で は4人
,11-12歳
児で は17人と,年
令 の上昇 とともに増力日していることがわかる。モ ンタンジェロたちは,こ
の ことか ら,因
果関係 の説明のなかに時間が挿入 され るか どうかが発達の 目安であると考 えている。 実験Hは
,2/3ま で水 の入 った容器 の断面図が描いてある絵 を与 えて,ど
のような経過 を経て水が 氷 になるか というプロセスを描かせ る。その後で,今
度 は,逆
に氷が水 になるプロセスを描かせ る。 さらにその後,も
し,強
力 な冷蔵庫 のなかに入れ るな どして凍結 のプロセスが速 くなった場合 にも 描かれたの と同 じ絵が使 えるか否か を尋ね る。 結果 は,水
か ら氷への変化,お
よび氷か ら水への変化が可逆的であ り,一
枚 の同 じ絵で事足 りる とす る点で,年
令差 は見出されなかった。 ただ,急
速 に冷却 されてプロセスが速 くなった場合の対 応 は年令 によって異なる。すなわち,年
少児 は絵 の枚数 を減 らす ものが多いが,年
長児で はプロセ スのいかんに関係な く枚数 は同 じであると考 える。 また,実
験Iと実験Hの
間 には内在的な関連 はないが,全
体 として9-10歳
頃 を境 目にして変化 が生 じていると彼 らは考 えている。 次 に,前の論文 と同様 の視点で はあるが,場面 を少 し変 えて実験 した論文(Montangero&Parrat―Dayan,1992)を
見てみよう。 被験者 は, 8歳
か ら12歳の児童59人である。実験Iでは,ウ
オル ト・ デ ィズニーの漫画のキャラ クターのアヒルが,台
所 の壁 に取 り付 けてある戸棚 の中にあるジャムの ビンを取 ろうとして,椅
子 の上 にさらにスツールを置 き,さ
らにその上 に本 を置 くとい う非常 に不安定 な足場 を作 り,本
の上 に乗 ってジャムのビンのほうへ手 を仲 ばしているとい う絵が与 えられ る。 また,こ
の絵 の中で は, アヒルの手足が震 えているように描かれている。 その とき,子
供 に与 え られ る課題 は,見
ているこ とをすべて言 うこと,お
よび,何
が起 るかを言 うことである。 結果 は,三
水準 に分 けられ る。 水準1は,通
時的思考 の欠如 している段階である。人物 の叙述 のみに とどま り,時
間的展開には 言及 しない。 この水準1は,二
つの下位水準 にさらに分類 される。 水準laは ,時
間的展開に も,現
在存在 しない出来事 にも言及 しない。 また,年
少児で は叙述の 並置が見 られる。例 を引 くと,AUD(7,9)「
ア ヒルがいる。 ジャムがある。戸棚がある。弓│き出 し がある。本がある。スツールがある。椅子がある。」SAB(8;8)「小 さいア ヒルが ジャムの ビンをつか もうとしている。 そして,ガヽさなスツール,椅
子,本
の上 に乗 って,ビ
ンをとろうとしているが, 届かない。」CYN(12ゃ
)「椅子 の上 に乗 つているのがいる。台所 にい る。戸棚 のジャムのビンを 探 している。」 水準lbは ,通
時的思考 を欠いているが,部
分的な通時的思考が見 られることもある。例 を引 く と,CЁ
D(10,8)「小 さい子供が,椅
子 とスツール と本のうえに乗って,ジ
ャムのビンをとろうとして いる。その下には家具がある 。・・」 DIC(8,2)「ジャムのカップがある。それから,・・・・スツ ールの上に椅子がある,そ
して小 さなアヒルがいる。スツールの上に本がある。小さい小 さいアヒ ルが,そ
の上に乗ってジャムのビンをとろうとしている。」 水準2は
,不
十分なが ら通時的思考が存在する段階である。例 を見ると,FRA(劣
4)「一人の子供 が何か食べるものをとろうとしている。椅子の上に乗って,さ
らに台 と本 を置いている。彼 は,震
えている。」 SЁ B(9,4)「椅子 とスツール と本の上 に乗って,ジ
ャムのビンをとろうとしている。 ぐ らぐらしているので,落
ちかかっている。」 水準3は
,通
時的思考がで きる段階であるが,二
つの下位水準 にさらに分類 され る。高取憲一郎:発生的認識論研究 (1):因果性 水準
3aは
,ジ
ャムをとるためにお こなわれ る行為 に正 しい順序で言及 し (椅子,ス
ツール,本
の順 に置 く),目
的(ジャムを とる)に も言及す る。ただ し,流
れが途中で途切れ るような もの もあ る。例 を引 くと,CЁ
D(10,9)「これ は ドナル ドだ。ジャムのビンをとろうとしている。ビンをとるた めに,椅
子を置 き,次
に本 を置 き,そ
して ビンをとる。」SHE(党
8)「椅子 の上 にア ヒルがいて,ジ
ャムを探 している。彼 は小 さいので,戸
棚 に届 くように とスツール と本 を持 って きて,ジ
ャムを探 している。」 VIR(10;10)「 ドナル ドがいる。彼 は登 る中0彼は椅子 とスツール と本 を持 って きて, その上 に登 り,そ
して彼 は台所 にいる。戸棚が開いていて,そ
して彼 はジャムのビンを探 している。 少 し揺れてい るので,彼
は落 ちるだ ろう。」(この例 の場合,彼
は台所 にい るとい う箇所が流れが途 中で途切れているところである) 水準3bは
,通
時的思考が完全 になる段階である。3aと
の違いは,流
れが途 中で切断 されない とい う点である。例 を見 る と,FLO(10,5)「ア ヒルが,そ
の上 に乗 ろうと思 って椅子 を持 って きた。 ジャム を探すために。 しか し,そ
れで は間に合わなかった。 そこで,彼
はスツール と本 を持 って き て,そ
の上 に乗 つて,そ
してジャムのビンを探 している。」 ELI(10,7)「 これ はフィフィだけど, 小 さいのでジャムのビンがつかめない。 そこで,椅
子 を置いたけど,ま
だ低 い,そ
こでスツールを 置いたけどまだ低い,さ
らに本 を置いて ようや く届いて,戸
棚 にさわれた。 しか し問題 は,転
ばな い ようにしていかにしてジャムをとるかだ。彼 は,少
し不安 そうな顔 をしてい る。」 以上 の三水準 における年齢別 の人数分布 を表 したのが,図
3で
ある。 水準1 水準2 水準3 年 齢 図3
通時的思考の水準ごとの被験者分布 (Montangero&Parrat‐ Dayan,1992よ り)実験Hは
,一
人の人間が
,赤
ちゃんから大人になるまでの経過を表している9枚 の絵を見せて
,それらが何を表しているかを言わせる。9枚 の絵の内容は
,①
はいはいをしている赤ちゃん
,②
玩
具で遊んでいる子供
,③
父親に連れられて幼稚園へ行っている4歳 児
,④
教室で勉強している小学
生
,⑤
小学校の高学年 (10-■歳
),⑥
ドイツ語を勉強している中学生
(12-13歳),②
バイクに乗
っている高校生
(15歳),③
車を運転している青年
,⑨
青年が父親になり
,子
供を抱いている
,で
あ
る。
結果 は,三
水準 に分 け られ る。 水 準1は,並
置 あ るい は列挙 の段 階 で,一
つ一 つ の絵 を説明 して終 わ つて しまう。例 を示 す と,DIM(考
9)「これ は赤 ちゃん,こ
れ は玩具で遊 んで い る,学
校 だ よって教 えて い るパ パ,学
校 へ行 っ ■ 日 田 パ ー セ ン ト鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
2号
(1993) 483
ているところ,勉
強を始めている,も
っと大 きくなった ところ,バ
イクに乗つているところ, もっ と大 きくなったので車に乗っている,それからパパになった。みんな同じ子供です。」SEB(12つ)「と っても河ヽさい,そ
れか ら大 きくなる,そ
れか らパパが学校へ連れていっている,そ
れか らもっと大 きくなる,そ
れから小学生になる,そ
れか ら高校生になる」 水準2は , 9枚
の絵が部分的に統合 される段階である。例,CЁ
L(9→)「赤ちゃんの時 と,
もっと 大きくなった時のこと」NIC(10,1)「
これは人の成長,こ
れは赤ちゃんだし,こ
れは (以下同様 にして一枚一枚述べてい く)。 これは赤ちゃんが成長 して大人になるまでだ。」 水準3は , 9枚
の絵が完全に統合 される段階である。二つの下位水準に分かれる。 水準3aは
, 9枚
の絵が一つの図式で説明される。例,TON(9,3)「
これは,小
さいときか ら大 き くなるまでの人間の一生です。」DIM(9お
)「子供の頃から大人 になるまでです。」 水準3bは
,顕
著な統合を示す段階であり,〈一生〉〈成長〉く歴史〉というような言葉 を用いて表 現される。例,JOЁ
(9")「これは子供が成長 してい くところです。」LOU(10,11)「
これは彼の一 生です。彼 は成長 していきます。」 以上の三水準における年令別の人数分布 を表 したのが図4で
ある。 60 パ I lz 40 ン ト 20 0 水準1 水準2 水準3 年 齢 図4
統合の水準ごとの被験者分布 (Montangero&Parrat・ Dayan,1992よ り) 最後 に,生物学的現象を題材 にした興味深い研究にも触れておこう(Maurice‐Naville&Montanger・ o,1992)。8歳
か ら11歳までの子供52人を対象にして二つの実験 を行 なっている。 実験Iは,病
気 になって半 ば枯れかかっている松 の木 の写真 を見せて,こ
の木の過去 と未来 を描 くように求める。 その後で,描
いた絵 の説明 をさせ る。結果 は,二
つの水準 に分かれた。 水準1(8-9歳
)は
,進
行性 の欠如 あるいはプロセス間の不連続 として特徴づけられ る段階で, 過去,現
在,未
来の間に関連性がない。 この段階で は,描
かれ る絵 の枚数 はせいぜい3枚
ぐらいで ある。二つの下位水準 に分かれる。水準
laは,進
行性の欠如である。例,Marie‐Christine Q9)(図
5a)「(1)初 めは,葉
があつたけど
,こ
れは(写真)ほ とんど落ちてしまった。(枯れた木 は将来 もこのままか どうかを尋ねると) はい,そ
うです。」(彼女の場合 は,絵
は過去を表す1枚
しか描かない) 水準lbは
,プ
ロセス間の不連続である。この場合,過
去 は成長 として,未
来は偶然的な突発的 な現象 として記述する。例,Eleonore(靴3)(図 5b)「(1)今よりもた くさん棄があつた。それ はこれ (写真)よ
りも若かった。(2)風
が吹いて葉が落ちてしまった。」 ■ 日 田鳥磁犀報舞穀鋼研隣辮昔 袖謡響 第3う 巻 第
2号
(1粥
3)tel ttenne
Model
高取憲一郎 :発生的認識論研究 (1):困果性 水準
lCは
,水
準 1と 水準2の
過渡的段階であ り,季
節 をつなぎ役 として用いることにより,過
去 と未来が初 めて関連づ けられ る。例,Carlos(且6)(区 5c)「 (1)イヽさか った。(写真)秋
だか ら葉 がな くなった 。中 0これ は病気 だ,葉
がな くなっていっているので。(2)夏
なので元気 になった。」 (この場合,病
気 による変化 と季節 による変化 を混在 させていることに注 目) 水準2(9-10歳
)は
,過
去 と未来 を関連づ けることによ り,変
化 の進行性が表現で きる段階で ある。この場合,葉
が落 ちるとい う外的物理的形態変化の進行 によって,病
気 の進行が表現 され る。 子供 の描 く絵 の枚数 は平均5枚
に増 える。二つの下位水準 に分かれ る。 水準2aは
,外
的形態変化 に依拠 した漸進的変化 を表現で きる段階で,葉
の失われる量 と病気の 進行が対応 させ られ る。 また,葉
の落下 に加 えて,枝 ,葉,幹
な どの色 の変化 にも言及 され る。例, Beniamin(乳6)(図 5d)「(1)最初 は,
もう少 し葉があった。(2, 3,お
よび写真)少
しずつ葉が落 ちていった。(4)枝
が責色 にな り始 め,樹
皮が乾 いて くる。」 水準2bは
,水
準 2と 水準3の
過渡的段階であ り,未
来 の変化 に関す る考 え方 にもう一つ別 のプ ァリエーションが現われ る。すなわち,病
気 により木が枯れる とい う考 え方以外 に,人
間が介入す ることによって木が病気か ら再生す るとい う考 えである。例,Etienne(10,9)(図5e)「 (1)上のほう に も下のほうに も多 くの枝が あった。(2)下のほうが裸 にな り始 める。(写真)これ は病気の木です。(3)だ
んだん悪 くなる。上 のほうの葉がな くなってい く。根元 は昆虫 によって被害 を受 け始 める。 (4)枯れている。(5)多分,木
を良 くすることがで きるだろう,幹
を切 ることによって。(6)再び 成長 しはじめている。」(この場合,こ
の段階が水準 2と 3の過渡的段階 と考 えられ るのは,木
の根 元が昆虫やネズ ミによって外部か ら害 を受 けるとい う発想であ り,そ
れ は,外
的変化 とこの後で現 われ る内的変化 とをつな ぐもの とみなされ るか らである) 水準3(11-12歳)は ,内
的変化 に依拠 した連続性が表現で きる段階であ り,子
供 の描 く絵 の枚 数 も平均11枚と増加す る。例,Roger(11,)(図
5f)「(1)健康です。(2)このあた りが,観
光客 に人 気のある場所 になった。人々がや って きて,色
々な ものを捨てる。 これ は,バ
ナナの皮。木 の葉 と 葉 の間に隙間がで きている。(3)葉
と葉 の間の隙間が広が る。汚染 されてい る。 ます ますた くさん の人がやって きて,ま
す ます隙間が広が る。(写真)ます ます病気 になる。(4)さ らに病気 になって, ほ とん どの葉が落 ちて しまった。(5)ほ とん ど裸 になった。乾いて枯れ始 めた。(6)腐
り始 めた。 この水準 は以下の二つの下位水準 に分かれ る。 水準3aは
,内
的生物学的変化 に依拠 した連続的プロセスである。た とえば,「水が汚染 され,そ
の水が根 に入 る。 さらに,樹
液 とともに上 ってい き,至
る所へ広が る。木 はもう栄養 を吸収で きな い。弱 ってい き,ま
す ます抵抗力がな くなる。」 水準3bは
,変
化の原因が多様 に とらえられ るようにな り,い
くつかの可能性が想定 される。す なわち,多
様性が現われ る。た とえば,「それ は,木
が十分なl_A抗力 を持 っているかいないか とか, 季節,あ
るいは土壊 の種類 によ ります。」「 ます ます悪 くなって枯れ るか,あ
るいは,抵
抗力が十分 にあって良 くなるか,あ
るい は,生
きているか ぎりこのままの状態でい くか,ヤゝずれかです。」実験Hは
,一
本の木が枯れていく経過を写した5枚 の写真をランダムに提示して
,①
時間的順序
にしたがって正しく並べさせる。②その後で, 1枚 目から5枚 目までに要する時間
(タイムスパン
)を尋ねる。③写真 1枚 ごとの時間間隔が同じか異なるかを尋ねる。④並べられた写真の順序を逆方
向に変えることができるかいなか
(すなわち
,変
化の可逆性が存在するかいなか
)を
尋ねる。⑤病
気が
,他
の木に伝染するかいなかを尋ねる。
結果を
,実
験
Iの水準に沿ってまとめると次のようになる。
鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第35巻 第
2号
(1993)水準 1で は
,①
はできる。②はたいへん短 く
,数
日から数週間であり, 9歳児でも1年 ぐらいで
ある。③は
,半
数の被験児は間隔は同じと答える。⑤は
,外
的事象により瞬間的に伝染すると考え
る。
水準 2で は
,②
は平均 5年 ぐらいに増加し
,③
も不規則になり
,④
では病気のプロセスは非可逆
的であることを確信 しているが
,な
かには人工的な可逆性について言及する場合もある。⑤につい
ても
,子
供のほうから自発的に言及する。
水準 3で は
,②
はさらに増加し
,場
合によっては1世紀にわたるケースもある。③は
,気
候や木
の耐久性によってリズムは異なると考える。⑤では
,伝
染は内的で急速になる。
以上 の結果 を表 に ま とめた ものが,表
2と表3で
あ る。 表2
通時的思考の発達(Mau Ce―Na lle&Montangero,1992よ り)
水準 視点
変化 の型
結果 静的
不連続的
単一 の結果
,瞬
問的擬似可逆性 配列的
連続的
もう一つ別の結果
非可逆性 外的関連 通時的
連続的
可能性の範囲が拡大
可逆性 内的関連 表
3
通時的思考の水準別被験者数(n=52)
(MauttCe―Na lle&Montangero,1992よ り) la lb lc 2a 2b 3a 3b (注)10歳 児の人数 は13人 に満たないが,原
論文 のままに しておいた ところで,今 まで紹介 して きた一連 の実験 の結果 を,モ ンタンジェロ自身が別 の論文(Montangero,1992)で
次 の よ うに ま とめてい る。年令の増加に伴って
,と くに
7-8歳
児 と10-12歳 児を比較 して指摘できることは :①変化のタ
イムスパンが長 くなる。②変化のプロセスと時間のプロセスが分化する
(たとえば
,水
か ら氷への
変化で
,急
速に冷却した場合に
, 7-8歳
児では絵の枚数を減 らすことがあるが
,11-12歳
児では
そのままである
)。③想像上の変化を表現する絵の枚数が増加 し
,質的に異なったものになって くる。
④年長児の場合は変化のなかにも連続性がある。すなわち
,あ
る状態は一連の変化のプロセスの中
の一つのステップとみなされ
,日
に見えない内的プロセスが想定され
,前
の段階で生じた事象によ
って次の段階を説明できるようになる。⑤自主的に通時的視点をとることができるようになる。③
10歳ぐらいが転換点になっている。
さて
,以
上のような問題関心から出発して
,わ
れわれは次のような実験を行なった
(実験は
,杉
原 こまきが実施 した)。 [目的]モ
ンタンジェロたちのグループは,因
果性 と通時的思考 の間に関連があることを主張 して 歳 歳 歳 歳高取憲一郎 :発生的認識論研究 (1):因果性 いるわ けだが
,意
図的因果性 あるいは社会的知覚 における因果性 の認識 と通時的思考 とは関連があ るか どうかを検討す るb [方法]被
験者 は,保
育所 の年長児10人 (平均年齢6;3,範
囲5,9∼
6;6),小
学校2年
生13 人(平均年齢7;11,範
囲7:6∼ 8,6),小
学校4年
生11人 (平均年齢10:1,範
囲9,7∼
10:6),小
学校6年
生10人 (平均年齢12,0,範
囲11,7∼ 12;6),大
学生14人 (平均年齢22;5,
範囲21:4∼24,3)の
計58人である。実験 Iでは
,ThOmmen(1991)に
な らって,Heider&Simmel(1944)が
使用 したの とほぼ同 じ アニメ (90秒)を
新 たに作成 して,小
型 ビデオ再生装置 により個別 に被験者 に提示 し,何
が起 った かを言わせ,そ
れ をテープコーダーに録音する。アニメは五つの小 セクションに区切 り,そ
の都度, 被験者 に口頭 による叙述 を求める。全体 のシナ リオ と各セ クションの所要時間 は次に示す とうりで ある。 セクション1:T(大
三角形・ 黄色)が
家 (黒枠 の長方形・ ドアの部分 は白)の
ほうへ行 く。 ド アを開 けて,家
の中へ入 り,
ドアを閉める。(17秒) セクシ ョン2:t(小
三角形・緑)と
C(小
円 。赤)が
現われ,
ドアの周 りを動 く。Tが
家 を出 て,tの
ほうへ行 く。Tと
tが喧嘩 をしてTが
勝 つ。二人が喧嘩 をしている間,Cは
家 の中へ入 る。Tも
家 の中へ入 り,
ドアを開める。(18秒) セクシ ョン3:Tは
家 の中でCを追いか ける。tは
家 の外枠 に沿 って ドアのほうへ行 く。tが
ド アを開 けて, Cは
家か ら出る。tとCは
ドアを開める。(11秒) セクシ ョン4:Tも
家か ら出ようとするがなかなか ドアを開けることがで きない。tと Cは
家 の 前で互 いの周 りを回 る。 そして何回か くつつ きあう。Tは
やっ とドアを開けて家か ら出 る。Tは
家 の周 りに沿 って,一
緒 に逃 げるtと Cを追 いか ける。tと Cは
その場 を去 る。(29秒) セクション5:Tは
家 の外壁 を数回たた く。壁 は壊れ る。(15秒) 実験Hは
実験 Iに ひ きつづ き行 な う。Dionnet&Montangero(1991)の
使用 した二匹の男女 の子 ゾウがスケー トしている場面 を,男
女 の人 間の子供が水 の上 に浮かんだ二つの氷 の上でスケー トし ている場面 に変 えた ものを使用す る。 このモデル となる絵 の過去 と未来 を描かせ るために,二
人 の 子供 だけを残 した絵 を用意 し,被
験児 に何枚か与 えて,絵
を描かせ る。その後で,そ
れ らの絵 に基 づ きなが ら説明 を回頭で させ る。 それ は,テ
ープコーダーで録音 され る。 [結果]実
験Iの結果 より,意
図的因果関係 の知覚 の発生 には,二
つの段階 と,さ
らにそれぞれ に 二つの下位段階があることが明 らかになった。 段階laは ,6歳
ぐらい までで,本
実験で は年長児が相当す る。アニメの叙述 は物理的,機
械 的, 非意図的であるが,こ
の段階の何人かの子供 はきわめて単純 なあるいは直観的な意図的叙述 を示す 者 もいる。いずれにして も,こ
の段階で は叙述 は短 く,簡
単である。例 をあげると,N.T.(6;6,女
)「①入っている。②また,こ の赤いのが入った。③このな
,え
―と
,線
のがな
,あ
のな
,え
―と
,赤いのが出た。④責色いのが出た。それだし
,緑
のやあがなくなった。⑤つっこんできた。
」
K.T.Q2,男
)「①三角
,入
った。②丸がこの中に入った。③三角だけが残った。④三角だけがここに出
とる, 1個 だけ。⑤三角がこの中に入った。
」 意図的叙述の例
,M.T。 (6お,女
)「①閉じこめられ
た。②もう一人
,閉
じこめられた。③閉まった。④開いて帰っていった。⑤開いて, もう一個閉じ
こめられた,も う一回。」
K.N。(比■
,男
)「①怪獣が森に来た。②火事になった。③どろぼうが入
つてた。④死んだ
,誰
かが。⑤家が崩れた。
」
段階
lbは,7歳
から
10歳ぐらいまでで,小学校 2年生と4年生がこれに該当する。
laと
同様
鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
2号
(1993) 489
に,ア
ニメの叙述 は物理的,機
械的,非
意図的であるが,一
部 の被験者 において は,相
互作用 を表 す動詞や意図的な意味 を含む動詞 (たとえば,逃
げる,お
いてけば りにす る,追
いかける,な
ど) を部分的に使用す る。 また,前
の段階に比べ ると,叙
述が長 く,か
つ,き
め細か くなる。例:N.H.
(8,1,女)「①四角の中に三角の形が入 りました。②三角が出てきて,大 きい三角が
,それで,丸 と
,丸が大きい三角と一緒に入 りました。③丸が出てきました。④三角とかが四角からでてきて
,丸
と
ちっちゃい三角が見えなくなりました。⑤三角が四角にぶつかって
,四
角が割れて
,三
角が割れた
四角の中に入 りました。
」
M.A.(9,7,男 )「① この白い棒がこうやつて行って
,こ うやって戻った。
②三角 と赤い丸が
,こ
の四角の中に入った。③赤い丸が出て
,三
角だけになった。④三角が出て
,小さいほうの三角と赤い丸が消えた。⑤三角がまた中に入った。
」 意図的な動詞あるいは相互作用
を表す動詞を用いた表現が
,部
分的に見られる例
:T,Y。 (7,10,男)「④小さい三角と丸が逃げて
,大きい三角だけが残っている。
」
H.T.(盈7,男
)「③緑のやつが白いところを開けたら赤が出て
,この責色の三角がおいてけばりにされちゃった。」
S.I。(10",女
)「⑤大きい三角がいらいらして
,四角い壁みたいな所が崩れて
,大
きい三角が中に入ってきた。
」
T.O.(9,10,女)「④大きい三角が
,ちっちゃい三角と赤い球を追っていた。
」
段階
2aは
,12歳 ぐらいで
,小
学校 6年 生が該当する。物理的
,機
械的
,非
意図的叙述は少数派
になり
,部
分的に意図的な動詞あるいは相互作用を表すような動詞を使用する者の割合が増加し
,意図的因果性に基づ く叙述に全体 として移行する者もごく少数ではあるが現われる。例
:K.T.(1乳4,男
)「①三角形が白いものを動かして中に入っていった。②今度は
,三
角形が丸だけを入れて
,ちっちゃい三角形を外に出した。③大きい三角形が小さな赤い丸を追っかけていって
,そ
れで
,青
い小さな三角形が逃がしてあげた。④今度は
,大
きな三角が出てきて
,小
さな三角と丸を追いかけ
ていつた。⑤横から大きな三角が枠を壊して中に入った。」 E.N(12ぉ
,女
)「①人が
,部
屋ってい
うか
,家
の中へ入った。②友達が遊びにきて
,ど
うしてか一人だけ入れてもらえなかった。③今度
は
,一
人が家のなかに閉じこめられたというか。④家を出て遊びに行った。⑤部屋を壊してしまっ
た。
」
段階2bは
,大
学生 の段階であるが,こ
こになると,ほ
とん どの者が意図的,因
果的叙述 に移 る が,心
の内面の叙述 をした り,ス
トー リー性 のある叙述 をした りす る者 も現われ る。例:HO(2乳
4,女
)「①三角形がだんだん四角に近づいてきて,な
んか ドアみたいな所 を開けて中に入 りました。 ②赤い丸 と青い小さな三角形が,そ
の初めの四角形に近づいてきて,そ
れで,入
り口みたいなとこ ろで,な
んか話 し合ってるみたいな感 じになって,そ
れで,黄
色いのが出てきて,責
色い三角形が 緑の三角形を “待っててね"と
いう感 じになって,そ
れで,赤
いのを連れて中に入 りました。③黄 色の三角形が,四
角の中で,赤
い丸の後をついていってるような感 じで,そ
れで,赤
い丸が外に出 たら,緑
の三角形が黄色が出ないようにっていう感 じで,ぴ
たっとドアを開めました。④黄色の三 角形が外に出たそうにして,う
ろうろしてて,そ
れで,外
に出られたら,緑
の三角形 と赤い丸が, 責色に追いかけられるようなかたちで逃げていきました。⑤黄色の三角形 は,
どうしたらいいかわ からないみたいにうろうろして,初
めの四角形を壊 してしまいました。」 ス トー リー性のある例: Y.F。 (21,7,女)「①単に三角印が この四角の中に入った。② この青いちっちゃい三角が黄色を助 け ようとしたんだけど,赤
と喧嘩 して,あ
っ,赤
と戦争 して,黄
色 を助 けようとしたのだけど,運
よ くこの四角の檻の中か ら出ていって,黄
色 を助けたんだけど,そ
れで,赤
を入れて,だ
けど黄色が 失敗 して中に入ってしまった。③ さっきの話 とちょっとずれるけど,実
はスパイだったとか,緑
が。 で,黄
色が “わ―い,ラ
ッキー,出
れるわ"とかって思ったら,赤
だけ入れて閉 じこめてしまった。高取憲一郎 :発生的認識論研究 (1):因果性
④怒った黄色が一生懸命がんばって出ようとして出て
,二
人を
,二
人 じゃなかった
,二
つの三角を
追いかけまわした。⑤ “こんなところぶち壊してしまえ"と 思って
,ぶ
ち壊 しにかかった。」
以上の結果をまとめたものが
,表
4で ある。
表4
実験I(ア
ニメ実験)に
おける叙述のタイプ別被験者数 叙述 のタイプ 物理的1
物理的2
意図的1
意図的2 年長児 2年生 4年生 6年生 大学生 7 6 5 3 1 1 6 6 5 2 2 1 0 2 9 (注)物理的2と は,全
体 としては物理的な叙述であるが,意
図 的あるいは相互作用的な動詞を部分的に使用しているもの; 意図的2と は,意
図的な叙述に加えてス トーリー性をも表 現 しているもの 次に,動
いている二つの対象の相互作用 を表す動詞「追 う (追いか ける)」 と「逃 げる」,お
よび 内面的心理的な状態 を表す表現 を使用 した者 の人数 を示 したのが,表
5で
ある。 この表 を見て明 ら かなように,「追 う」と「逃 げる」とい う動詞 は, 6年
生で急激 に増加 し,大
学生で はほ とん どの者 においてその使用が認 め られ る。 この人数分布 は,表
4の分布 と対応 している。 この二つの動詞が 使用で きるか どうか とい う点 は,意
図的,社
会的因果性 の知覚 を考 える際 に,鍵
にな りそうである。 また,内
面的,心
理的な状態 を表す表現 は,大
学生で急激 に増力日し,そ
の他の年齢で はほ とん ど認 められない。具体的に示す と,年
長児で は「三角が怒 った」, 4年
生で は「大 きい三角がイライラし てて」,大
学生で は「怒 った責色が」,「どうした らいいかわか らないみたいにうろうろして」,「追い ついていけなかったので怒 って」,「 くや しが って,八
つ当 りとい うか」,「むかつ くか ら大 きい三角 形が壁 に八つ当 りして壊 して しまった」な どが見 られ る。 表5
実験I(アニメ実験)│こおける,動
詞「追 う」「逃げる」および内面 を表す表現 を使 用ずる被験者数 0 0 0 0 2 「追 う」 「逃 げ る」 内面 を表 す 表現 年長児 2年生 4年生 6年生 大学生 0 2 1 4 13 1 0 1 0 5 実験Hの
結果 より二つの段階があることが明 らかになった。 段階1は, 6歳
ぐらいまでで,年
長児が相当す る。 この段階で は,氷
という物質の時間変化 を叙 述す る通時的思考 も一部 の子供で は見 られ るが,大
部分 の子供 の場合 は,並
置的叙述か行動 の単な る継時的叙述かのいずれかである。並置的叙述 の例 :N.K,(6お,男
)「スケー トをやっ とった,ス
キ ーにも出 とった,そ
れで,う
―ん,ソ
リの練習やっとった。」K.T.Q2,男
)「最初 はスケー ト場 か らしょうるところ,南
極か らしょうるところ,こ
こは氷 の上がスケー ト場 の とこ,道
が凍 った場鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第35巻 第
2号
(1993) 491
か,海
が凍 った場か らしょうる。」 行動の継時的叙述 の例:M.T.(働6,女
)「ぶつか つて,お
てて をつないで帰 った。仲良 し。」N.T.(q6,女
)「はい とつた,ス
ケー ト靴 をいまさっ き,そ
の次 は 行 ってスケー トをやった。その次帰 った,遊
んで。」 M,Y.(5ρ,女
)「海でなあ,遊
んでた。それ か らな,後
か らな,こ
こにきて,ス
ケー トをした。二人 はこの後 そっちの海 の方へ帰 った。」 A,K. (働3,男
)「氷 の上 にこっちは乗 って,次
にここの水 に行 った。そして次 にこっちの水 に行 った。」 物質の時間的変化 を叙述 してい る(通時的思考)例:Y.Y.(5,9,女
)「滑 りょうつて とけて きた。み んな とけちゃったか ら,だ
か ら,は
まっちゃった。」 段階2は
さらに二つの下位段階 に分かれ る。 段階2aは
,段
階 1に 見 られた,並
置的叙述や,行
動 の継時的叙述が減少す るのに伴 つて,物
質 (氷)の
時間的変化 (通時的思考)が
大部分 を占めるようになる。 この段階 は,小
学校2年
生か ら6年
生 までの広い範囲にわたる。例 :A.K.(8,6,女)「最初 はここの氷がだんだん とけて きて,こ
こ が とって も小 さ くなったか ら,最
後 には海 のなかに落 ち ました。」 E.N.(1砒6,女
)「まず,男
の子 と女の子が滑 っていたけど,そ
こに太陽が出て,
とけちゃって,そ
れで最後 には,こ
うい う川の中 に入 っちゃった。」 K.T.(12〕,男
)「最初 は大 きかった氷が,あ
ったか くつて,だ
んだん割れて, 河ヽさ くなって,最
後 には前 より河ヽさ くなった。」 段階2bは
,通
時的思考が確立 された上 にさらに,男
の子 と女 の子の二人 の人間関係 の相互作用 に関わ るス トー リーにまで言及 され る。大学生が相 当す る。 また,こ
のグループには,氷
の変化の 可逆性(気温の上昇のため一度 とけた氷が,や
がて夜 になることによって気温が下が り,再
び凍 る) にふれ る者 も現われ る。例 :Y.Y.(2乳4,女
)「最初 は,こ
うい うふ うに,大
きい水 に二人がいたん だけれ ども,波
に削 られて,だ
んだんその氷が分かれて きて,そ
れで,二
人が乗 ってい るところが, だんだん小 さ くなって きて,そ
れか らいつのまにか,一
人 しか立てないようなスペースになったん だけども,結
局,こ
の氷 は二つ くっついて,二
人が一緒 の水 に乗 つて,後
は小 さい氷 になって,海
に流 されて しまい ました。」 可逆性 の例 :T.R.(2乳4,男
)「昼間か ら夜 まで遊 んでいて,外
の氷の はった湖で,そ
して,昼
間にあんまり暑 くなった ものだか ら,氷
が とけだ した。 それで,つ
いにひ びわれが はいって,こ
れが2番
です。3番
の状態 は,
とけて しまった,あ
るところが。 そうしてい るうちに,夜
になって冷 えて きて,ま
た氷が はって しまった とい うのが4番
です。」 以上の,実
験Hの
結果 をまとめた ものが,表
6で
ある。 表6
実験H(氷
の変化)に
おける,叙
述のタイプ別被験者数 叙述 のタイプ 並置的行動 の継
物質の時
二人の人間の 時的叙述
間的変化
間の相互作用 年長児 2年生 4年生 6年生 大学生 2 1 0 0 0 5 2 1 1 1 0 0 0 0 6 次 に
,モ
デルの絵以外 にどの くらいの枚数 を描 いたか を見てみると,ほ
とん どの被験者がモデル よりも過去の絵 を1枚
,未
来の絵 を1枚
の計2枚
である。年長児では1枚
も描かなか った者が10人 中4人
でその他 の者 は2枚, 2年
生で は2枚
以上が2人 (3枚
と4枚), 2枚
が10人, 0枚
が1人
,4年
生お よび6年
生で は全員が2枚
,大
学生で は2枚
以上が4人 (4枚
1人, 3枚 3人 ),そ
の他の高取憲一郎 :発生的認識論研究 (1):因果性 者 は
2枚
である。 このように,描
かれた絵 の枚数 という点 においては,モ
ンタンジェロたちの言 う ような年齢 とともに枚数が増加す るとい うような事実 は顕著 には認 められない。 次 に,氷
が とけるあるいは河ヽさ くなることの原因であるが,
これについては,被
験者が最初か ら 言及 している場合 もあれば,追
加質問 されて答 えた場合 もある。ただ,す
べての被験者 について追 カロ質問 していない とい う問題点があるので,大
まかな ことしか言 えないが,以
下の ようになった。 年長児で は,10人
中9人
が,「暑 くなった」「暖かい」「太陽が昇 った」な どである。2年
生で は,上
と同様 の原因 を答 えた ものが13人中8人
。4年
生で は同様 の原因が11人中6人
。6年
生で は同様 の 原因 は10人中3人
で,こ
の6年
生 の段階では,そ
の他の原因 として「 ジャンプしてひびが入 った」 とか「体重が重かった」が現われ る。大学生で は,「暑 くなった」「体重が重かった」「波 による衝撃」 な どが現われ る。 このように,不
完全 なデータで はあるが,年
齢 の上昇に ともない原因 と結果 の間 に時間が挿入 されて くるというモ ンタンジェロたちの指摘 とは異なって,む
しろ,年
齢が増加 して い くにつれて,原
因の多様性が現われ ると言 えそうである。 最後 に,実
験Iの結果 と実験Hの
結果 をクロスさせた表 を示す(表7)。 これか ら明 らかなように, 物理的叙述の水準 (物理的1)は
,通
時的思考 と非通時的思考が混在 しているが,部
分的 に相互作 用 を示す動詞 (たとえば「追 う」「逃 げる」)を
用 いる水準 (物理的2)で
は,ほ
とん どの者が通時 的思考 を示 している。 また意図的,因
果的知覚 を示す水準 (意図的1および2)の
被験者 の大部分 は,通
時的思考および男女間の関係の相互作用 を表現す る段階 に達 している。 この ことか ら,両
者 の間には緊密な関連があることがわか る。 表7
実験 Iと 実験Hの
結果のクロス表 氷 の変化 の叙述 のタイプ 並置的行動 の継
物質の時
二人の人間の 時的叙述
間的変化
間の相互作用 ア述 二 の メタ のイ 叙 プ 物理 的1 物理 的2 意 図的1 意 図的2 計 3 0 0 0 3 22 20 14 2 58 [考察]実験Iの結果 を分析 した表 4と 表5を合わせ考 えると
,意
図的知覚 は2年
生か ら4年
生 (7 歳か ら10歳)の
あた りを過渡期 として, 6年
生 (12歳 ぐらい)で
確立 しはじめる。 ただ,物
理的2 の水準,す
なわち相互作用 を表す動詞や意図的な動詞の部分的な使用がで きる水準 を,意
図的因果 関係 の叙述 として分類 して しまえば, 2年
生 ぐらいか ら確立 しはじめ, 6年
生で はほぼ完全 に確立 す るといえる。 実験Hの
結果 よ り,通
時的思考 は2年
生(7歳
か ら8歳
)ぐ らいでほぼ形成 されている。 これ は, モ ンタ ンジェロの結果 よりも少 し早い。 実験IとHを
合わせて考 えると,通
時的思考 は意図的因果性 よ りも早 く形成 され る。 ただ し,上
に述べたように,実
験Iの物理的2の水準 を意図的因果性が成立 しているもの とみなせ ば,通
時的 思考の形成 と意図的因果性 の形成 は一致する。鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第35巻 第
2号
(1993) 493
文
献
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