Chest Hooping
習得過程の分析
Motion Analysis and Metacognition of Chest Hooping
加藤 礼菜
Reina Kato
尾崎 知伸
Tomonobu Ozaki
日本大学文理学部
College of Humanities and Sciences, Nihon University
In this study, we discuss the acquisition process of Chest Hooping skills by body motion analysis as well as meta-cognition. Through the analysis, we successfully find useful insights on the developmental processes.
1.
はじめに
本研究では,腕をあげた状態で胸の上の部分でフラフープを 回すChest Hoopingという技を対象に,動作的側面と認知的 側面の二つの側面から,動作習得過程について分析を行う.動 作的側面からの分析では,腰の位置座標時系列を対象とした動 的時間伸縮法[1]による非類似度計算を通じ,動作の変遷を調 べる.また認知的側面からの分析では,メタ認知的言語化[2] の観点から,hex[3]により収集した気づきを対象に頻出語や 重要語の変遷を調べる.これらの分析を通じ,Chest Hooping の習得過程を考察する.2.
動作的側面からの分析
2.1
計測実験の設定
Chest Hooping未習得の大学生2名(被験者XとY)を 対象に,技を習得するまで,週2∼3回,1回約20分間の計 測実験を行い,腰の位置座標を計測した. 全実験期間49日の うち,15日間で計測を行い,被験者Xは計測7日目に,被験 者Y は12日目に,それぞれ技を習得した.なお本研究では, 10回以上連続してフラフープを回すことのできる状態を,技 を習得した状態としている.2.2
分析結果と考察
計測データの分析では,データを試行毎に分割するととも に,位置合わせ(中心座標の補正)などの前処理を施した後, 動的時間伸縮法[1]を用いて試行間の非類似度を求めた.なお 試行数は,被験者Xが218試行,被験者Y が157試行であ る.得られた非類似度行列を図1に示す.図では,色の濃さが 非類似度を表している.また,赤いラインはChest Hooping を習得した時点を示し,青いラインは分析結果から推測するブ レイクスルーの時点(動作の大きな変化が起きた時点)を示す. 分析結果より,被験者Xのブレイクスルーは実験5回目で あると推測する.また,被験者Y に対しては,大きな類似度 の変化は見られなかったが,初期と終期では類似度が低いた め,全体として動作の変化があったことがわかる.加えて,実 験11回目以降は類似度が小さく,安定しているため,11回目 がブレイクスルーであると推測する.一方で,被験者が技を習 得したのはそれぞれ7回目,12回目であり,ブレイクスルー 連絡先:尾崎知伸,日本大学 文理学部 情報科学科,〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40,[email protected] から多少遅れる結果となっている.この差については,後程, メタ認知による分析と合わせて考察を行う.3.
認知的側面からの分析
hex[3]とは,一辺45mmの正六角形をした白色無地のメモ 用紙であり,メタ認知的な“気づき”を書き留めるために利用 される.また書き溜めたhexを並べることで,“気づき”の間 のつながりを視覚化し,更なる“気づき”を誘発する. 今回の分析では,全計測期間(49日間)を動作習得前の3期 間A∼ Cと動作習得後のDの4つに分け,それぞれの期間 で被験者2名が記述したhexを並べてネットワークを生成し た.これらのネットワークを対象に,頻出語とネットワークの 中心となるhexを求めることで,Chest Hooping習得過程の 認知的な変遷を分析する.3.1
分析結果
表1に,各ネットワークにおける名詞・動詞の頻出語,上位 7件の変遷を示す.表中における数字は各ネットワークにおけ る順位であり,空白はその単語が出現しなかったことを示す. また,すべてのネットワークに出現した単語は排除している. 期間A∼ Bにのみ出現した動詞「挙」は腕の動作を示して いると推測する.この単語は,期間C∼ Dでは出現しておら ず,また,(表中には示さないが)名詞「腕」が期間Aに比べ期 間Dで頻度が低下していることから,Chest Hoopingにおい て腕の動作は関係がなかった,あるいは期間A∼ Bの期間で 腕の動作を習得したと考えられる.このことは,期間A∼ B ではランクの上位であったが,期間Dには出現していない名 詞「姿勢」についても同じことが言える.一方で,期間A,D 図1: 試行間の非類似度行列:被験者X(左),被験者Y(右)1
The 29th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2015
表1:各ネットワークにおける頻出語 名詞 A B C D 腰 7 32 29 最初 6 31 姿勢 7 6 31 リズム 32 2 10 足・脚 16 3 14 後ろ 21 4 29 力 32 4 29 スピード 16 3 体力 7 上半身 9 31 7 今 32 7 動詞 A B C D 挙 6 12 当 7 5 10 押 2 5 合 5 4 開 8 5 引く 16 5 出来 5 3 続け 7 上 13 14 7 でともにランクが高い部位は「上半身」であることから,腕で なく,上半身全体の動きがChest Hoopingにおいて重要であ ると考えられる. 期間B∼ Cに出現した動詞「合」と期間B∼ Dで出現し た名詞「リズム」により,期間B以降ではタイミングを合わ せることを考えていたことがわかる.また,期間B∼ Cにの み出現した名詞「最初」より,特に回し始めのタイミングを重 要視していたことが推測される. 期間Cでのランクが高い動詞「引く」「押」は,体の動かし 方を示している.期間C以降,体の前後の動かし方について の話題が多くなったようである.また期間C∼ Dにかけて, 動詞「出来」が多く出現し,動作の習得を実感していることが 分かる. 期間Dにのみ出現した単語は,「続け」と「体力」である. Chest Hoopingを長く動作を行うには体力が必要であるため, 動作習得後は長くフラフープを回し続けるための記述が増えた と考えられる. 以上の結果を踏まえ,メタ認知的な“気づき”の関心は,(1) 各部位の動き,(2)最初のタイミング,(3)全身の動き,(4)習 得した動き,の順に移り変わったと推測される. 次に,各ネットワークに対してネットワーク分析[4]を適用 することで中心となるhexを特定し,どの様な項目が“気づ き”を整理する際に重要な役割を果たしたかを概観する. 表2に,次数中心性が最大(次数6)のhexの内容を示す. 結果より,期間Aでは体の動き,期間Bではフラフープの動 き・体の動き,期間Cでは体とフラフープの動きのタイミン グ,期間Dでは体の動き,に関する記述が中心的な役割を果 たしていることが推察される.また詳細は割愛するが,各期間 における固有ベクトル中心性が高いhexに対しても同様の傾 向が確認でき,これは頻出語による分析結果とも整合する.
3.2
考察
以上紹介した認知的側面からの分析から,Chest Hooping 習得までに以下の6ステップを経ていたと推測する. 1. 体の部位の動きについて考える 2. 関連の無い体の部位の動きに気づく 3. フラフープの動きについて考える 4. 体とフラフープの動きのタイミングについて考える 表2: 次数6のhex A • 右手がどうしても下に下がってしまうから,両手を頭上 で組むようにしてみた • 何かをやろう (腕を上げるなど) と意識しすぎると失敗 してしまう.体の力を抜いてやった方が良い. • 大きく動かしても,小さく動かしても,必要な動作は同 じだと思う • 腕は上に挙げていた方が良いと思う.姿勢を保つために. B • フラフープを回すときの角度が大事だと思う.斜めになっ ていると,失敗する. • 目線と姿勢は何かしら関係があると思う. C • フラフープが大きいため速度がゆっくりになったので,タイミングを合わせるのが難しい. D • 100 回以上回せた。少々楽に回せるようになったからだ と思う • もっとスピードを落として、ラクに動かせるようにしたい • 背中を押す感覚がつかめた 5. フラフープを動かすための体の動きに気づく 6. 継続して回すための動きを考える 動作分析の結果より,身体の動きにブレイクスルーがあって から,実際に技を習得するまでに一定の期間があることが示さ れている.このことを認知的側面と合わせて考察すると,ブレ イクスルーが確認された時点は概ね第3ステップ,技を習得し た時点は第5ステップに該当すると考えられることから,両 者のずれは,身体の動きとフラフープの動きのタイミングを合 わせる期間であったと推察される.4.
まとめ
本研究では,Chest Hooping習得過程について,動作的側 面と認知的側面の二つの側面から分析を行った.その結果,身 体の動きを習得した後,フラフープとのタイミングを合わせる 過程を経て,技を習得していることが示唆された. 今後の課題としては,各部位間の協調動作の分析や,動作と フラフープ間の関連性の分析があげられる.道具を考慮した身 体部位間の協調動作を詳細に分析することで,Chest Hooping 習得過程のステップがより詳細かつ明確になると考えている. 謝辞 本研究に際して,hexをご提供頂くとともにその使用方 法について丁寧にご指導いただきました慶應義塾大学SFC研 究所上席所員西山武繁氏に深く感謝致します.参考文献
[1] 内田誠一:DPマッチング概説 ∼基本と様々な拡張∼,信 学技報, PRMU2006-166, pp.31–36 (2006) [2] 諏訪正樹:身体知獲得のツールとしてのメタ認知的言語 化,人工知能学会誌,Vol.20, No.5, pp.525–532 (2005) [3] 西山武繁,諏訪正樹,三浦秀彦,松原正樹,佐山由佳:文房 具による身体的メタ認知の促進,人工知能学会研究会資 料,SIG-SKL-07-02,pp.9-13 (2010)[4] Derej K, Hansen, Ben Shneiderman and Marc A. Smith:Analyzing Social Media Networks with NodeXL, Mougan Kaufmann (2011)