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背臥位における呼吸介助が局所換気運動に及ぼす影響

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(1)理学療法学 第 368 43 巻第 5 号 368 ∼ 374 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 研究論文(原著). 背臥位における呼吸介助が局所換気運動に及ぼす影響* 高 山 雄 介 1)# 野 添 匡 史 2) 松 下 和 弘 1) 高 嶋 幸 恵 2)   間 瀬 教 史 2)  和 田 智 弘 1) 内 山 侑 紀 1) 道 免 和 久 3). 要旨 【目的】背臥位における呼吸介助の圧迫部位の違いが chest wall 各部位の局所換気運動に及ぼす影響につ いて,換気力学的に検討すること。【方法】健常男性 7 名(33.3 ± 7.3 歳)を対象に, 安静呼吸(以下, 安静), 上部胸郭介助呼吸(以下,上部介助),下部胸郭介助呼吸(以下,下部介助)における上部胸郭,下部胸郭, 腹部の換気運動を 3 次元動作解析装置で測定し,同時に胸腔内圧,腹腔内圧も測定した。【結果】上部介 助は上部胸郭,下部介助は下部胸郭の換気運動を有意に増加させた。一方,下部介助において,上部胸郭 は拡張した。呼吸介助中の胸腔内圧および腹腔内圧は安静に比べ有意に増加し,特に下部介助において腹 腔内圧はもっとも高い値を示した。【結論】上部介助,下部介助はそれぞれ圧迫部位の換気運動を増加さ せるが,下部介助では,上部胸郭は呼気中にもかかわらず拡張しており,介助による腹腔内圧の上昇が原 因と考えられた。 キーワード 呼吸介助,局所換気運動,換気力学. まで呼吸機能測定に用いられてきたスパイロメーター等. はじめに. では,局所換気量の測定が困難であったことが原因と考.  呼吸介助は,「患者の胸郭に手掌面を当て,呼気に合. えられる。呼吸介助による局所換気量への影響について. わせて胸郭を生理的な運動方向に圧迫し,次の吸気時に. は田上ら. は圧迫を解放することを繰り返すもの」と定義されてい. 中の肺の断面積において,介助側肺は非介助側肺に比べ. る. 1). 。その効果としては一回換気量の増加,換気改善, 2‒4). 5). の報告が唯一で,MRI で撮像した呼吸介助. て吸気位と呼気位の面積差が大きく,呼吸介助は局所換. ,我が国で行われてい. 気量増大に影響していると述べている。しかし実際の臨. る呼吸理学療法手技の中でもっともポピュラーかつ特徴. 床場面では,上部胸郭呼吸介助,下部胸郭呼吸介助とい. 呼吸困難感の軽減などがあり 1). 的なものとされている 。. うように様々な部位に呼吸介助を行うが,介助の圧迫部.  呼吸介助を施行する際の用手圧迫部位は,おもにその. 位の違いが胸郭各部位にどのように影響するかについて. 部位の局所換気量増大を目的に決定されることが多い. は明らかでない。. が,呼吸介助が胸郭の圧迫部位にどのように影響を及ぼ.  局所換気量を測定する方法として,3 次元動作解析装. すかについてはほとんど知られていない。これは,これ. 置を用いた胸壁(chest wall)体積測定法がある. *. Effects of Chest Wall Compression on Regional Chest Wall Motion in Healthy Male Subjects 1)兵庫医科大学ささやま医療センター (〒 669‒2321 兵庫県篠山市黒岡 5) Yusuke Kouyama, PT, MSc, Kazuhiro Matsushita, PT, Tomohiro Wada, PT, Yuuki Uchiyama, MD: Hyogo College of Medicine Sasayama Medical Center 2)甲南女子大学 Masafumi Nozoe, PT, PhD, Sachie Takashima, PT, MSc, Kyoshi Mase, PT, PhD: Konan Women’s University 3)兵庫医科大学 Kazuhisa Domen, MD, PhD: Hyogo College of Medicine # E-mail: koyamayusuke0120@yahoo.co.jp (受付日 2015 年 9 月 16 日/受理日 2016 年 4 月 25 日) [J-STAGE での早期公開日 2016 年 6 月 15 日]. 6). 。こ. の方法は,体表面に貼りつけた反射マーカーの座標変化 から算出した chest wall の体積変化と肺内部の換気量変 化が等しく,局所換気量として局所換気運動,局所肺気 量位として局所体積が測定可能なことから,近年様々な 運動中や体位の呼吸測定に用いられている. 7‒9). 。また,. このような局所換気量の変化を生じさせるには呼吸筋に よって生みだされる,もしくは胸郭に対して加えられる なんらかの圧変化が必要である。胸郭に対する徒手的圧 迫によって胸腔内圧が変化することは知られている が. 10)11). ,圧迫部位の違い,その圧変化が局所換気量に.

(2) 背臥位における呼吸介助が局所換気運動に及ぼす影響. 369. 表 1 被験者の身体特性と呼吸機能 被術者. 年齢(歳) 身長(m) 体重(kg). BMI. VC(L) % VC(%). FEV1(L). FEV1%(%). 117.7. 3.53. 75.3. 3.54. 80.6. 3.46. 97.8. 4.99. 102.3. 3.25. 76.5. A. 31. 1.62. 60. 22.9. 4.69. B. 29. 1.74. 61. 20.1. C. 30. 1.74. 66. 22.1. D. 29. 1.84. 74. 21.9. 4.18. 90.1. 3.75. 89.3. E. 30. 1.66. 65. 23.6. 4.52. 98.8. 4.29. 84.9. F. 33. 1.84. 68. 20.1. 4.88. 110.9. 4.78. 97.4. G. 49. 1.75. 75. 24.5. 4.38. 113.2. 3.75. 83.5. BMI:body mass index,VC:vital capacity,%VC:vital capacity/predicted,FEV1: forced expiratory volume in one second,FEV1%:forced expiratory volume in one second/forced vital capacity. 図 1 呼吸介助部位. どのような影響を与えるかは明らかでない。. 腹腔内圧の経時的変化を測定した。各施行間は十分な休.  今回我々は,背臥位における呼吸介助中の局所換気運. 息をとった。. 動および局所体積を,3 次元動作解析装置を用いて測定. 2)呼吸介助. した。同時に胸腔内圧,腹腔内圧も測定し,呼吸介助に.  用手による圧迫部位は千住ら. より生じる圧が局所換気運動にどのように影響するかに. が両側の鎖骨下前胸部,下部介助が両側の乳頭よりやや. ついて換気力学的に検討した。. 下方で前胸部から胸郭外側とした(図 1)。介助の強さ. 対象および方法. 1). を参考に,上部介助. は,胸郭に均一に圧が加わり,被験者が痛みや不快感を 伴わない最大の強度で,呼気開始時から吸気開始直前ま. 1.対象. で実施した。また,被験者には呼吸介助中に意識した呼.  被験者は,喫煙習慣のない健常男性 7 名とした。呼吸. 吸をせず,リラックスするよう指示した。. 介助は,呼吸理学療法経験年数 8 年の男性理学療法士 1. 3)局所換気運動および局所体積算出方法. 名が行った。被験者の身体組成,呼吸機能は表 1 に示す。.  局所換気運動および局所体積算出は,Nozoe らの方 法. 12). に準じて以下のように行った。まず,被験者の体. 2.方法. 表面に直径 9 mm の反射マーカーを 62 個貼りつけた。. 1)測定手順. この際,呼吸介助者の徒手により反射マーカーが隠れな.  被験者の測定肢位は背臥位とした。そして,安静呼吸. い 位 置 に 貼 り つ け た( 図 1,2)。 カ メ ラ(Motion. (以下,安静) ,上部胸郭呼吸介助(以下,上部介助),. Analysis 社製,Eagle)は,被験者の左右に 4 台ずつ(上,. 下部胸郭呼吸介助(以下,下部介助)を 2 分間ずつラン. 下に 2 台ずつ)計 8 台設置した。被験者とカメラの距離. ダムに実施し,それぞれの chest wall 運動,胸腔内圧,. は 2 ∼ 4 m とし,カメラのシャッタースピードは 1/500.

(3) 370. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 図 2 反射マーカー貼りつけ位置,体積分画および computed model Vrcp:pulmonary rib cage volume,Vrca:abdominal rib cage volume,AB:abdomen volume. 秒とした。反射マーカーの 3 次元座標は,サンプリング 周波数 100 Hz でデータ解析ソフト(MotionAnalysis 社 製,EVaRT5.03)に取りこみ,経時的な座標データを 抽出した。そして,得られた座標データから 219 個の四 面体を作成し,それらを合計することで chest wall 全体 における換気運動変化を算出した。さらに,chest wall 体積(chest wall volume:以下,Vcw)を上部胸郭体 積(pulmonary rib cage volume: 以 下,Vrcp) ,下部 胸郭体積(abdominal rib cage volume:以下,Vrca) , 腹部体積(abdomen volume:以下,Vab)に分画し, 各部位の換気運動変化も算出した(図 2)。. 図 3 食道・胃バルーン法の模式図 Pes:esophageal pressure,Pga:abdominal pressure. 4)胸腔内圧,腹腔内圧測定方法(図 3)  圧データの測定は,圧測定用のトランスデューサー (チェスト社製)を使用し,食道・胃バルーン法. 13)14). 終末呼気位の各部位の体積差である⊿ Vcw,⊿ Vrcp,. を用いて,胸腔内圧は食道内圧(esophageal pressure:. ⊿ Vrca,⊿ Vab,終末吸気位・呼気位の局所肺気量位. 以 下,Pes) の 変 化 を, 腹 腔 内 圧 は 胃 内 圧(gastric. の指標として終末吸気位と終末呼気位の各部位の体積,. pressure:以下,Pga)の変化を測定することにより求. 圧の指標として終末吸気位と終末呼気位の Pes,Pga と. めた。バルーンカテーテルは長さ 10 cm,直径 1.2 cm. した。これらは呼吸数,一回換気量の安定した連続 5 呼. のバルーンを直径 2 mm のポリエチレンチューブにつ. 吸から平均値を算出した。解析は安静,上部介助,下部. けたものを使用した。Pes はバルーンカテーテルを鼻腔. 介助におけるそれぞれの項目について反復測定による一. より 45 cm 程度挿入し,食道内に位置させ,バルーン. 元配置の分散分析を行い,有意差を認めた場合はボン. に 0.2 ml の空気を入れて測定した。Pga はバルーンカ. フェローニの方法にて多重比較を行った。すべての検定. テーテルを鼻腔より 60 cm 程度挿入し,胃内に位置さ. は統計解析ソフト SPSS15.0J for windows を使用し,有. せ,バルーンに 2 ml の空気を入れて測定した。バルー. 意水準は 5%とした。. ンカテーテルの挿入は医師が実施した。挿入後圧波形を 確認し,吸気時に Pes は陰圧に,Pga は陽圧に変化する. 倫理的配慮,説明と同意. ことを確認し,最大吸気・呼気を行っても正しく圧変化.  対象者全員に本研究の方法,目的を説明し,書面によ. が生じることを確認したうえで測定した。これらの測定. る同意を得た。また,本研究は兵庫医科大学倫理委員会. は被験者の食後 3 時間以上経過後に実施した。トランス. の承認を得て実施した(承認番号 1315)。. デューサーからの信号は,3 次元動作解析装置からの信 号と同期させて EVaRT5.03 に取りこみ,解析を行った。. 結   果. 5)統計学的解析. 1.局所換気運動(表 2).  検討項目は,局所換気運動の指標として終末吸気位と.  ⊿ Vcw は,安静に比べ上部介助と下部介助は有意に.

(4) 背臥位における呼吸介助が局所換気運動に及ぼす影響. 371. 表 2 局所換気運動 安静. 上部介助. 下部介助. ⊿ Vcw. 0.50 ± 0.06. 1.58 ± 0.28 **. 1.40 ± 0.34 **. ⊿ Vrcp. 0.07 ± 0.03. 0.81 ± 0.14 **. ‒ 0.14 ± 0.09 **††. ⊿ Vrca. 0.09 ± 0.03. 0.43 ± 0.11 **. 0.90 ± 0.20 **††. ⊿ Vab. 0.33 ± 0.06. 0.34 ± 0.17. 0.64 ± 0.26 **††. 平均±標準偏差 単位:L *:vs 安静 p<0.05,**:vs 安静 p<0.01,†:vs 上部介助 p<0.05, ††:vs 上部介助 p<0.01 Vcw:chest wall volume,Vrcp:pulmonary rib cage volume, Vrca:abdominal rib cage volume,Vab:abdomen volume. 表 3 終末吸気,呼気位の局所体積 安静. 上部介助. 下部介助. 終末吸気 Vcw. 23.6 ± 1.6. 23.5 ± 1.6. 23.6 ± 1.5. 終末呼気 Vcw. 23.6 ± 1.7. 21.9 ± 1.5 **. 22.2 ± 1.6 **†. 終末吸気 Vrcp. 13.0 ± 0.9. 12.9 ± 0.8. 12.6 ± 0.8 **††. 終末呼気 Vrcp. 12.9 ± 0.9. 12.1 ± 0.8 **. 12.7 ± 0.8 *††. 終末吸気 Vrca. 4.4 ± 0.8. 4.4 ± 0.7. 4.5 ± 0.8 *††. 終末呼気 Vrca. 4.3 ± 0.7. 4.0 ± 0.7 **. 3.6 ± 0.7 **††. 終末吸気 Vab. 6.2 ± 0.7. 6.2 ± 0.7. 6.3 ± 0.7. 終末呼気 Vab. 5.9 ± 0.6. 5.9 ± 0.7. 5.7 ± 0.7. 平均±標準偏差 単位:L *:vs 安静 p<0.05,**:vs 安静 p<0.01,†:vs 上部介助 p<0.05,††:vs 上部介助 p<0.01 Vcw:chest wall volume,Vrcp:pulmonary rib cage volume,Vrca:abdominal rib cage volume,Vab:abdomen volume. 高値を示した。⊿ Vrcp は,安静,下部介助に比べ上部. べ有意に低値を示した。終末呼気 Vrca は,安静に比べ. 介助は有意に高値を示した。また,下部介助は安静に比. 上部介助,下部介助は有意に低値を示し,上部介助に比. べ有意に低く,全 7 例で負の値を示した。これは,下部. べ下部介助は有意に低値を示した。終末呼気 Vab は安. 介助時の上部胸郭が呼気中に拡張していることを示す。. 静,上部介助,下部介助の間に有意差を認めなかった。. ⊿ Vrca は,安静に比べ上部介助と下部介助は有意に高 値を示し,下部介助は上部介助に比べ有意に高値を示し. 3.胸腔内圧,腹腔内圧(表 4). た。⊿ Vab は,安静,上部介助に比べ,下部介助は有.  終末吸気 Pes は,安静,上部介助,下部介助の間に. 意に高値を示した。. 有意差を認めなかった。終末吸気 Pga も,安静,上部 介助,下部介助の間に有意差を認めなかった。一方終末. 2.終末吸気・呼気位の局所体積(表 3). 呼気 Pes は,安静に比べ上部介助,下部介助は有意に.  まず終末吸気位において,終末吸気 Vcw は,安静,. 高値を示した。終末呼気 Pga は,安静に比べ上部介助,. 上部介助,下部介助の間に有意差を認めなかった。しか. 下部介助は有意に高値を示し,下部介助は上部介助に比. し局所毎に見てみると,終末吸気 Vrcp は,安静,上部. べ有意に高値を示した。. 介助に比べ下部介助は有意に低値を示した。一方終末吸 気 Vrca は,安静,上部介助に比べ下部介助は有意に高. 考   察. 値を示し,吸気位の増大を認めた。終末吸気 Vab は,.  本研究は,呼吸介助による圧迫部位の違いが局所換気. 安静,上部介助,下部介助の間に有意差を認めなかった。. 運動に及ぼす影響について換気力学的に検討したはじめ.  次に終末呼気位において,終末呼気 Vcw は,安静に. ての報告である。本研究結果から,上部介助と下部介助. 比べ上部介助,下部介助は有意に低値を示し,上部介助. により生じる圧のパターンには差があり,局所換気運動. は下部介助に比べ有意に低値を示した。これを局所毎に. も異なることが明らかになった。. 見てみると,終末呼気 Vrcp は,安静に比べ上部介助,.  これまで報告されてきた呼吸介助中の換気量変化につ. 下部介助は有意に低値を示し,上部介助は下部介助に比. いては一回換気量に関するものがほとんどであ.

(5) 372. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 表 4 胸腔内圧・腹腔内圧 安静 終末吸気 Pes. ‒ 0.58 ± 2.52. 上部介助 ‒ 0.70 ± 3.52. 下部介助 ‒ 1.45 ± 3.20. 終末呼気 Pes. 2.38 ± 2.67. 8.91 ± 3.76 **. 8.30 ± 2.94 **. 終末吸気 Pga. 6.16 ± 4.91. 6.12 ± 5.35. 6.22 ± 5.34. 終末呼気 Pga. 2.99 ± 4.18. 8.71 ± 5.94 **. 15.55 ± 8.09 **††. 平均±標準偏差 単位:cmH2O *:vs 安 静 p<0.05,**:vs 安 静 p<0.01,†:vs 上 部 介 助 p<0.05,††:vs 上 部 介 助 p<0.01 Pes:esophageal pressure,Pga:gastric pressure. 図 4 呼吸介助時の局所換気運動および圧変化 Pes:esophageal pressure,Pga:gastric pressure,Vrcp:pulmonary rib cage volume,Vrca:abdominal rib cage volume. り 2)3)15),伊橋ら 2) は上部介助と下部介助の一回換気. て換気力学的に考察する。まず,終末呼気 Pga が上部. 量は安静呼吸より大きくなるものの,両施行間に差はな. 介助に比べ下部介助で高値を示しており,これは今回. いと報告している。しかし,これらはスパイロメーター. 我々が用いた下部介助が,上部介助に比べ圧迫部位が尾. を用いた研究であり,呼吸介助が圧迫部位における局所. 側で,胸部よりむしろ腹部を縮小させる圧迫を加えるた. 換気に対してどのように影響しているかは確認すること. め生じると考えられた。この呼気時の Pga の上昇は,. ができない。そこで本研究は,3 次元動作解析装置を用. 横隔膜を介して胸腔内圧を上昇させ,呼気が促される。. いて局所毎の chest wall 換気運動を測定した。その結. それと同時に,胸郭全体の拡張方向への圧として作用. 果,安静呼吸に比べて上部介助,下部介助ともに呼吸介. し. 助中の⊿ Vcw は大きくなっていた。さらにこれを局所. 4b)。上部介助でも胸腔内圧は上昇するが,呼吸介助者. 毎に見てみると,上部介助は⊿ Vrcp を増加させ,下部. の徒手圧により上部胸郭の拡張が抑制され,下部介助と. 介助は⊿ Vrca および⊿ Vab を増加させていた。すなわ. 異なり上部胸郭が縮小すると考えられた(図 4a) 。. ち,それぞれの呼吸介助は,徒手による圧迫部位の局所.  次に呼吸介助時の局所肺気量位変化について,局所体. 換気運動を増大させていることが明らかになった。. 積の結果から考察する。まず,吸気においては,終末吸.  一方下部介助では,⊿ Vrcp は全例が負の値を示した。. 気 Vcw は安静,上部介助,下部介助で差を認めなかっ. この現象は,下部介助中の Vrcp が呼気時に減少せず,. た。しかし局所毎では下部介助における終末吸気 Vrca. むしろ増加することにより生じていた。この原因につい. は増加しており,呼吸介助による吸気の増大はないとす. 16). ,呼気中の上部胸郭が拡張すると考えられた(図.

(6) 背臥位における呼吸介助が局所換気運動に及ぼす影響. 373. る過去の報告 2)3) と異なる結果となった。本研究では. は呼気中にもかかわらず上部胸郭は拡張しており,下部. 下部介助における終末呼気 Pga がもっとも高く,この. 介助による腹腔内圧の上昇が原因と考えられた。. Pga の上昇が横隔膜を頭側にストレッチすることで横隔 膜の張力を増大させ,その後の吸気運動増大による下部 胸郭の拡張につながったと考えられた。呼気において は,安静に比べて上部介助では終末呼気 Vrcp および Vrca が低下し,下部介助では終末呼気 Vrca が低下し ており,それぞれ介助部位の局所体積を減少させて いた。  これまで呼吸介助による圧迫部位の違いが局所換気運 動に及ぼす換気力学的影響については知られていなかっ た。本研究結果から,上部介助,下部介助はそれぞれ圧 迫部位の換気運動を増大させるが,下部介助では,呼気 中にもかかわらず上部胸郭は拡張することが明らかに な っ た。 ま た, 上 部 介 助 で は 呼 気 時 に Vrcp お よ び Vrca を低下させることで一回換気量を増大させ,下部 介助では呼気時に Vrca を低下させるだけでなく,その 後の吸気時に Vrca を拡張させることで一回換気量を増 大させていることが明らかになった。そして,これらは 下部介助による Pga の上昇が強く影響していると推察 された。以上より,本研究結果は,臨床場面で局所の換 気運動増大を目的に呼吸介助を実施する根拠のひとつに なり得ると考えられた。  本研究の限界として,呼吸筋の筋活動は測定していな いため,呼吸介助実施に伴う圧変化が,被験者そのもの の随意的な呼吸変化の影響を受けた可能性は否定できな い。介助の強さについても,定量化が困難であり,被験 者間で差が生じた可能性は否定できない。また,本研究 の対象は健常男性であり,測定肢位は背臥位である。性 別や疾患,姿勢により呼吸機能は変化するため. 17‒19). ,. 必ずしも本研究結果をすべての患者にあてはめることは できない。しかしながら,本研究で用いたバルーン法は 対象者に身体負担を及ぼすものであり,実際の患者に対 して容易に実施できない。よって,実際の臨床場面では, 視診,触診などにより収集した情報や様々な換気データ から,局所換気について検討していく必要があると考え られた。 ま と め  呼吸介助中の chest wall 運動を 3 次元動作解析装置で 測定し,圧迫部位の違いが局所換気運動に及ぼす影響に ついて換気力学的に検討した。上部介助,下部介助はそ れぞれ圧迫部位の換気運動を増大させるが,下部介助で. 文  献 1)千住秀明,神津 玲,他 : 呼吸理学療法標準手技.医学書 院,東京,2008,pp. 92‒103. 2)伊橋光二,斎藤昭彦,他 : 呼吸介助手技が肺気量分画に与 える影響.理学療法学.1989; 16: 267‒272. 3)山崎 允,上村洋充,他 : 用手的呼吸介助手技施行時の肺 気量分画の変化と横隔膜の移動距離の観察.日本私立医科 大学理学療法学会誌.2008; 25: 113‒116. 4)丸川征四郎 : 改訂増補 ICU のための新しい肺理学療法.メ ディカ出版,大阪,2000,pp. 142‒163. 5)田上未来,居村茂幸,他:呼吸介助が局所換気変化に及ぼ す影響 Dynamic MRI を用いて(会議録).理学療法学. 2010; 37: 1276. 6)Cala S, Kenyon C, et al.: Chest wall and lung volume estimation by optical reflectance motion analysis. J Appl Physiol. 1996; 81: 2680‒2689. 7)Sanna A, Bertoli F, et al.: Chest wall kinematics and respiratory muscle action in walking healthy humans. J Appl Physiol. 1999; 87: 938‒946. 8)Aliverti A, Dellaca R, et al.: Optoelectronic Plethysmography in Intensive Care Patients. Am J Respir Crit Care Med. 2000; 161: 1546‒1552. 9)Aliverti A, Stevenson N, et al.: Regional chest wall volumes during exercise in chronic obstructive pulmonary disease. Thorax. 2004; 59: 210‒216. 10)Bredge M, Jennifer A, et al.: Manual vibration increases expiratory flow rate via increased intrapleural pressure in healthy adults: an experimental study. Aust J Physiother. 2006; 52: 267‒271. 11)Shannon H, Striger R, et al.: Effect of chest wall vibration timing on peak expiratory flow and inspiratory pressure in a mechanically ventirated lung model. Physiotherapy. 2010; 96: 344‒349. 12)Nozoe M, Mase K, et al.: Measurements of chest wall volume variation during tidal breathing in the supine and lateral positions in healthy subjects. Respir Physiol Neurobiol. 2014; 193: 38‒42. 13)Benditt J: Esophageal and gastric pressure measurements. Respir care. 2005; 50: 68‒75. 14)Milic J, Mead J, et al.: Topography of esophageal pressure as a function of posture in man. J Appl Physiol. 1964; 19: 212‒216. 15)梅田幸嗣,上村洋充,他:用手的呼吸介助手技の相違によ る横隔膜移動距離の差異について.日本私立医科大学理学 療法学会誌.2008; 25: 81‒84. 16)West J:呼吸生理学入門正常肺編.メディカルサイエンス インターナショナル.東京,2009,pp. 115‒117. 17)木原一晃:呼吸介助法.難病と在宅ケア.2012; 17: 1‒4. 18)黒沢 一:エッセンシャル 6 回シリーズ原理の理解から解 釈まで②肺気量.呼吸.2010; 29: 897‒971. 19)Romei M, Mauro A, et al.: Effects of gender and posture on thoraco-abdominal kinematics during quiet breathing in healthy adults. Respir Physiol Neurobiol. 2010; 172: 184‒191..

(7) 374. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 〈Abstract〉. Effects of Chest Wall Compression on Regional Chest Wall Motion in Healthy Male Subjects. Yusuke KOUYAMA, PT, MSc, Kazuhiro MATSUSHITA, PT, Tomohiro WADA, PT, Yuuki UCHIYAMA, MD Hyogo College of Medicine Sasayama Medical Center Masafumi NOZOE, PT, PhD, Sachie TAKASHIMA, PT, MSc, Kyoshi MASE, PT, PhD Konan Women’s University Kazuhisa DOMEN, MD, PhD Hyogo College of Medicine. Purpose: The aim of this study was to investigate the mechanical effects of chest wall compression on regional chest wall motion during quiet breathing in healthy male subjects. Methods: Seven healthy male subjects were participated. Total and regional chest wall motion was measured by optoelectronic plethysmography in the supine position during quiet breathing with upper rib cage compression and lower rib cage compression. We also simultaneously studied pleural and abdominal pressures. Results: Upper rib cage volume was increased during upper rib cage compression, and lower rib cage volume was increased during lower rib cage compression. Upper rib cage volume was, however, decreased during lower rib cage compression. Pleural and abdominal pressures were increased during chest wall compression as compared to during quiet breathing, particularly in the case of abdominal pressure during lower rib cage compression. Conclusion: We concluded that chest wall compression increases regional chest wall volume of the compressed chest. However, lower rib cage compression decreases upper rib cage volume by increasing abdominal pressure. Key Words: Chest wall compression, Regional chest wall motion, Respiratory mechanics.

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