(No67) H23.12.19..薬剤科
「慢性閉塞性肺疾患」について(治療編その 3)
運動耐容能を改善するために運動療法が行われます。
COPD の患者様では、呼吸困難のために運動を避けるようになることで運動機能が低 下し、さらに呼吸困難が悪化するという悪循環が知られています。そのため、運動療法 によって運動耐容能を改善することが大切です。【運動療法】
運動療法は呼吸リハビリテーションの中核であり、COPD 患者様の運動耐容能を改善 するために行われます。運動療法を行う際には、禁忌やリスクの有無を確認した上で、患 者様の症状や体力に合わせて運動の頻度、強度、持続時間、種類を決定し、それを継続し て定期的に行うことが大切です。 1.全身持久力トレーニング <平地歩行、階段昇降、踏み台昇降、自転車エルゴメーター、トレッドミルなど> ・ 運動療法の中では、下肢運動による全身持久力トレーニングが最も勧められる 2.筋力トレーニング <歩行、ハンドエルゴメーター、ウエイトトレーニングなど> ・ 歩行による下肢の筋力トレーニングが強く勧められる ・ 下肢運動による全身持久力トレーニングに上肢の筋力トレーニングを加えると、上 肢を挙上させたときの酸素消費量が低下し、体動に伴う呼吸困難が軽減する【その他の主な呼吸理学療法】
呼吸理学療法の中心は運動療法ですが、その他の主な呼吸理学療法には下表のような方 法があります。重症の COPD 患者様では、呼吸運動パターンの異常、筋・関節の柔軟性 の低下、筋力の低下、姿勢の異常などが認められます。このため、患者様が効率の良い運 動療法を行うための調整として、呼吸訓練、リラクセーションなどが行われます。また、 痰の多い COPD 患者様では、痰の喀出を容易にする排痰法が行われます。呼吸訓練 ・呼吸の効率を高める訓練 ・少しでも楽な呼吸法を練習し、呼吸法を習得したら、歩行、階 段昇降、入浴、洗髪などの日常動作時におうようする <口すぼめ呼吸> ン口をすぼめてゆっくりと息を吐く <横隔膜呼吸(腹式呼吸)> 息を吸うときに横隔膜を押し上げるようにして吸い込む リラクセーション ・呼吸補助筋の緊張をゆるめリラックスさせる方法 排痰法 ・気道内に溜まった痰を排出する方法 <体位排痰法> ン痰を吐き出しやすい体位をとる <スクイージング> ン患者様の呼吸に合わせて、協力者が空気をゆっくり押し出すよう に軽く圧迫する
体重減少のある患者様には栄養管理が行われます。
COPD では、多くの患者様に栄養障害が認められています。日本では約 70%の患者様 に体重減少が認められており、栄養評価や栄養治療などの栄養管理が行われます。 栄養障害の特徴 軽度の体重減少は脂肪量の減少が主体であり、中等度以上の体重減少は筋蛋白量の 減少を伴う蛋白・エネルギーが不足する栄養障害である 栄養障害の原因 気流閉塞、炎症性サイトカイン、喫煙や薬剤の影響、摂食障害や消化管機能の低下、 呼吸困難感、社会的・精神的要因などが複合的に関与している【栄養評価】
適切な栄養治療を行うためには、体重、食習慣、食事摂取時の臨床症状(呼吸困難や腹 部膨満など)の有無、咀嚼や嚥下の状態に関して評価を行なう必要があります。さらに食 事調査による栄養摂取量の解析、安静時エネルギー消費量(REE)などの評価も有用です。 体重測定はもっとも簡便な栄養評価法で、%標準体重(%IBW)や体重指数(BMI)が指 標として用いられます。定期的に体重を測定して、刑事的な体重変化を追うことも重要で す。%IBW による評価 BMI による評価 80 ≦ %IBW <90 軽度低下 低体重 BMI <18.5 70 ≦ %IBW <80 中等度低下 標準体重 18.5 ≦ BMI <25 %IBW <70 高度低下 肥満 25 ≦ BMI %IBW:実測体重 ÷ 標準体重×100 BMI:体重(kg)÷ 身長(m)2 COPD(慢性閉塞性肺疾患) 新しい肥満の判定と 診断と治療のためのガイドライン第 3 版 肥満症の診断基準(2000)
REE:resting energy expenditure IBW:ideal body weight BMI:body mass index
【栄養治療】
一般に%IBW<90%の場合は、栄養障害の存在が示唆され、栄養治療の適応となります。 栄養障害が高度になると栄養治療の効果が低下するため、早期の介入が望ましいとされて います。特に中等度以上の体重減少患者様(%IBW<80%)では、除脂肪体重(LBM) の減少を伴うことが多く、積極的な栄養補給療法の適応となります。
LBM:lean body mass
● 食事指導 ・ エネルギーや栄養素の摂取量が減少している場合には、その是正を行なう ・ 体重を増加させるには、実測 REE の 1.5 倍以上のエネルギー摂取が必要である ・ 高エネルギー・高蛋白食が基本である ・ 蛋白源としては、分子鎖アミノ酸を多く含む食品の摂取が勧められる ・ リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)は呼吸筋の機 能維持に必要であり、特に P の十分な摂取が重要である。また、COPD では骨粗 鬆症の合併頻度が高い為、Ca の摂取も重要である。 ・ 肺性心を合併する場合には、塩分を 7~8g 以下に制限するが、利尿薬の使用時に は K を補給する。 ● 栄養補給療法 ・ 食事摂取量を増やすことが困難な場合や、中等度以上の体重減少患者様に適応を考 慮する ・ 実測 REE の 1.5~1.7 倍のエネルギー摂取を目標とする ・ 炭水化物主体や脂肪主体の栄養剤があるが、炭水化物の過剰投与は二酸化炭素の産 生を増加させて換気の負担になる可能性が指摘されている
呼吸不全のある患者様には酸素療法が行われます。
慢性呼吸不全を伴う COPD 患者様では、不足する酸素を補うために酸素療法が行われ ます。安定期には在宅で「在宅酸素療法(HOT)」が行なわれますが、日本では在宅酸素 療法を受けている患者様の約5割が COPD による慢性呼吸不全です。COPD では、1 日 15 時間以上、酸素を吸入する「長期酸素療法(LTOT)」を行なうと患者様の生命予後を 改善することが明らかにされています。HOT:home oxygen therapy LTOT:long term oxygen therapy
【酸素療法の対象】
一酸素療法を導入する際は、慢性呼吸不全の定義に基づく、薬物療法などの十分な治療 を行なっても 1 ヶ月以上、低酸素血症が持続していることを確認する必要があります。ま た、患者様本人だけでなく家族にも酸素療法の必要性や機器の取り扱いなどについて説明 する必要があります。 在宅酸素療法の適応(2004 年 4 月厚生労働省基準) 1. 対象疾患 (1) 高度慢性呼吸不全例 (2) 肺高血圧症 (3) 慢性心不全 (4) チアノーゼ型先天性心疾患 2. 高度慢性呼吸不全例の対象患者動脈血酸素分圧(PaO2)が 55Torr 以下の者、及び PaO260Torr 以下で
睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者であって、医師が在宅 酸素療法を必要であると認めた者。適応患者の判定に、パルオキシメーターに よる酸素飽和度(SpO2)から求めた PaO2を用いることは差し支えない。
【酸素療法の方法】
長期酸素療法では、動脈血ガス分析で PaO2が 60~65Torr 以上、出来れば 70~ 75Torr を目標に酸素吸入を行ないます。また、酸素時間については、1 日 18 時間以上 が望ましいとされています。酸素供給装置には酸素濃縮器、液化酸素、酸素ボンベなどが ありますが、現在は酸素濃縮器が最も多く使用されています。COPD では禁煙が治療の 前提ですが、酸素には火傷や火災の危険性があるため、特に酸素療法を行う際は禁煙の徹 底を確認します。≪主な酸素供給装置≫
酸素濃縮装置 ・家庭用電源を用いて空気中の窒素を取り除き、酸素を濃縮して供給 する・ ・40%と 90%の酸素を供給できるタイプがあり、現在は 90%が主 流である・ ・電源を使用しているため、外出時には携帯用の酸素ボンベを用いる 液化酸素装置 ・酸素を-183℃以下で液化し、貯蔵したもので、ほぼ 100%の酸素 を供給できる・ ・設置型と携帯型があり、外出時には設置型から携帯型に液化酸素を 充填する・ ・携帯型は、携帯用の酸素ボンベに比べて小型・軽量であり、長時間 使用できる≪主な投与方法≫
鼻カニューレ ・細いチューブを鼻に装着する・ ・美容上、めがねのフレームに吸入チューブを装着したものがあるCOPD の増悪にはこのように対応します。
増悪期の COPD の管理下では、短時間作用性気管支拡張薬、ステロイド薬、抗菌薬の 使用を基本とした薬物治療などが行なわれます。また、COPD の増悪は、患者様の QOL や呼吸機能を低下させ、更に生命予後も悪化させることから、その予防が大変重要となり ます。COPD の増悪の定義
COPD の増悪とは、呼吸困難、咳、喀痰などの症状が日常の生理的変動を超 えて急激に悪化し、安定期の治療内容の変更を要する状態をいう。但し、他疾患 (心不全、気胸、肺血栓塞栓症など)の合併による増悪を除く。 COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第 3 版【COPD の増悪】
≪増悪の主な症状≫
・ 増悪の主な症状は、呼吸困難の悪化、痰の増加や膿性化である ・ 気道感染によらない増悪でも痰の量が増加するが、細菌感染時には痰の膿性化が見≪増悪の頻度≫
・ COPD の病期が進行しているほど、増悪の頻度が高い ・ 換気補助療法を必要とする増悪患者様では、1 年間の死亡率は 40%で、3 年後に は約半数が死亡したと報告されている≪増悪の主な原因≫
・ 増悪の原因として多いのは、呼吸器感染症と大気汚染であるが、約 30%の患者様 では原因が特定できない COPD の増悪の予防と対処 安定期の患者様には、COPD の増悪の予防と対処の方法について、予め指導してお く必要があります。COPD の増悪の予防には、禁煙、ワクチン接種、吸入ステロイド 薬や長時間作用性気管支拡張薬などの使用が有効です。COPD の増悪事の対処法とし ては、増悪に伴う症状を早期に発見し、重症化する前に短時間作用性気管支拡張薬を吸 入、ステロイド薬や抗菌薬を内服するなどの適切な薬剤の使用や、医療機関への連絡、 受診のタイミングなどについて、患者様を指導しておくことが重要です。【増悪期の管理】
増悪時の呼吸困難の悪化に対して最初に行う治療は、短時間作用性気管支拡張薬の吸入 です。≪増悪の重症度分類≫
・ COPD の増悪の重症度は、一般に呼吸困難の悪化、痰の増加や膿性化を指標とし て、下表のように分類される 軽症 呼吸困難の悪化、喀痰量の増加、喀痰の膿性化のうち 1 つと、5 日以内 の上気道感染、他に原因のない発熱、喘鳴の増加、痰の増加、呼吸数ある いは心拍数の 20%以上の増加のうち 1 つ以上が見られる・ 中等症 呼吸困難の悪化、喀痰量の増加、喀痰の膿性化のうち 2 つが見られる 重症 呼吸困難の悪化、喀痰量の増加、喀痰の膿性化の全てが見られる ・ この重症度分類は、COPD の増悪時に抗菌薬を使用するかどうかの判断の目安と して有用である。重症の場合には抗菌薬が有効なことが多く、抗菌薬の使用が勧め られている。また、中等症の場合には、痰の膿性化があれば、抗菌薬の使用を考慮 する。≪増悪時の主な薬物療法≫
・ COPD の 増 悪 時 の薬 物 療 法の 基 本 は、 抗菌 薬 ( antibiotics )、 気 管 支 拡 張 薬 (bronchodilators)、ステロイド薬(corticosteroids)の使用であり、「ABC ア プローチ」と呼ばれている。 気管支拡張薬 ・短時間作用性β2刺激薬が第一選択である。心循環系の副作用などの 問題がなければ、30~60 分毎に反復投与する・ ・効果が不十分な場合には、短時間作用性抗コリン薬の吸入を併用し ても良い・ ・pMDI による吸入が不十分な場合には、スペーサーを用いるか、ネ ブライザーによる吸入を行う ステロイド薬 (全身性投与) ・増悪の原因に関らず、呼吸機能と低酸素血症を改善して回復までの 期間を短縮し、早期再発や治療の失敗率を減らす・ ・安定期の病期がⅢ期(高度の気流閉塞)以上の増悪症例、入院管理 が必要な症例、外来管理でも呼吸困難が高度な症例では、ステロイ ド薬の使用が勧められている・ ・外来管理では、プレドニゾロン 30~40mg/日の 7~10 日間の使 用が一般的である 抗菌薬 ・痰の膿性化があれば、細菌感染の可能性が高く、抗菌薬を使用した 方が治療の成功率が高い・ ・NPPV などの換気補助療法が必要な症例では、抗菌薬の使用が勧め られている