日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-04 304
-社会的場面における心的視点が社交不安における認知行動的特徴に及ぼす影響
○佐々木 瞳1)、井上 和哉2)、富田 望3)、熊野 宏昭3) 1 )早稲田大学人間科学部eスクール(通信教育課程)、 2 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 3 )早稲田大学人間科学学 術院 【問題と目的】社交不安症 (Social Anxiety Disorder:SAD) は, 他者の注視を浴びる可能性のある社交場面に対する顕 著で持続的な恐怖または不安とそれらの回避を特徴と する精神疾患である (APA,2013)。SADは注意に関す る問題が指摘されている(藤原他,2007)。自己への 偏った注意として,社交不安者には,社会的場面にお いて「自己の内的事象(心配)に注目し過ぎる状態 」 と定義される自己注目 (今井,2011)がみられること が示唆されている (Gaydukevych & Kocovski, 2012)。 自 己 注 目 は,「 認 知 注 意 症 候 群 (C o g n i t i v e Attentional Syndrome : CAS)」と呼ばれる病理的な 症状を増強する要因である(Wells,2009 熊野他 監 訳,2011)。CAS は全ての感情障害に関連する非適応的 な認知処理様式であるとされる (Wells & Matthews, 1994)。CASの代表的な機能のひとつに他者への偏った 注 意 を 伴 う 脅 威 モ ニ タ リ ン グ が 挙 げ ら れ る (Wells,2009 熊野他 監訳,2011)。脅威モニタリング は,脅威的な刺激に注意を向けることにより,主観的 な危険を膨らませ,より脅威に対する感情的反応が高 められる(Wells, 2009)。また,CASにおける認知行 動的特徴として他者評価懸念 (Watson & Friend, 1969),心配 (Borkovec et al., 1983),安全確保行 動 (Clark & Wells, 1995)などが挙げられる。さら に,SAD傾向者が持つ特徴の 1 つとして,社交場面を 経験する際の視点取得がある。社交場面において取得 する視点には自分の視点からその場の状況を見る Field視点 ( F 視点) と他者視点を通して自分自身を 見るObserver視点 ( O 視点) があり,SAD患者は社交 場面では O 視点を取得し,非社交場面では F 視点を取 得する傾向があるとされる (Wells & Papageorgiou, 1999)。従来のSADに関する研究では, F 視点と O 視点 の 2 視点のみで社会的場面における心的イメージが論 じられ,SADの治療に導入される際は社交場面におい て取得する視点を O 視点から F 視点に転換することが 目的の 1 つとして行われてきた(今井,2013)。メタ 認知療法では,それらと並行して,ネガティブな思考 を回避せずに観察を続けるための「注意集中持続能 力」や相対化しながら観察するための「注意分割能力」 が必要とされ,自分自身を含めた様々な対象から距離 をおいた視点が重要とされている (今井,2013)。 F 視 点と他者評価懸念との間に相関が示されず,分割的注 意との間に相関が示され, O 視点については,他者評 価懸念との間に有意な中程度の正の相関が示されたこ とから, F 視点は適応的な視点を測定できていると考 えられていた (富田, 2017)。しかし,従来の F 視点 と O 視点に加えて自分自身とその場の状況の両者から 距 離 を お い た 視 点 で 観 察 し て い る D e t a c h e d Mindfulness視点 (DM視点)の存在が指摘され (富田, 2017),DM視点の獲得は,注意制御機能とSADの関係性 を繋ぐ変数となる可能性があり,この視点を用いるこ とで社交場面での視点がさらに適応的なものへと変容 する可能性がある(富田, 2017)。そこで本研究では, メタ認知療法における介入方法の基礎となるエビデン スが不十分であるため,社会的場面における心的視点 ( F 視点, O 視点,DM視点) と社交不安の認知行動的特 徴との関連を検討し,DM視点が注意制御の向上を通し て社交不安症状の低減に寄与する可能性を明らかにす ることを目的とする。 【方法】 対象者:大学生および社会人238名を対象とした。有 効回答 234名 (男性 95名, 女性142名, 性別不明 1 名,除外 4 名: 平均年齢 45.50±11.23歳, 有効回答 率99.3%) を分析対象とした。調査手続き: Google フォームを用いて,質問紙調査を実施した。調査材 料:( 1 )フェイスシート(回答者の性別と年齢)( 2 ) 注 意 の 焦 点 を 測 定 す る 尺 度 (Focused Attention Scale: FAS; 山田他, 2002) 脅威モニタリングの測定 ( 3 )心的視点取得尺度 (富田, 2017) 社交場面経験 時 に 取 得 す る 視 点 を 測 定「Field視 点 ( F 視 点 )」 「Observer視点 ( O 視点)」「Detached Mindfulness視
点 (DM視点)」の測定 ( 4 )短縮版 Fear of Negative Evaluation Scale (SFNE; 笹川他, 2004)他者評価懸 念の測定 ( 5 )Penn State Worry Questionnaire 日 本 語 版 (PSWQ; 本 岡 他, 2009) 心 配 の 測 定 ( 6 ) Avoidance Behavior In-Situation Scale (ABIS; 岡 島 他 , 2 0 0 6) 安 全 確 保 行 動 の 測 定 分 析 方 法:Pearsonの相関分析, 共分散構造分析 にて解析し た。 【結果】 相関分析の結果, F 視点と脅威モニタリングとの間 には中程度の正の相関があり(r =.41, p <.01), O 視点と脅威モニタリング,他者評価懸念との間には中 程度の正の相関を示した(r =.63;r= .56, p <.01)。
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-04 305 -またDM視点と他者評価懸念,安全確保行動との間には 弱い負の相関を示した(r =-.30;r=- .28, p <.01)。 共分散構造分析の結果, F 視点からSADにおける認知行 動的特徴に対してほとんど関連はみられなかったが, O 視点からは,他者評価懸念に対して強い正の影響を 示し(β= .70, p <.001),心配,安全確保行動,脅威 モニタリングに対して中程度の正の影響を示した(β = .43; β= .30; β= .40, それぞれp <.001)。また, DM視点からは,心配, 安全確保行動,他者評価懸念に 対して弱い負の影響を示した(β=-.31; β=-.31; β =-.28, それぞれp <.001)。図.共分散構造分析の結果 ( F 視点· O 視点·DM視点) 【考察】 SADの認知行動的特徴に対して,脅威モニタリング の影響が確認され, O 視点を F 視点に転換する状況へ の再注意法(SAR)の有効性を裏付ける知見が得られ た。また, O 視点をDM視点へ転換することで,社交不 安における認知行動的特徴を部分的に低減が出来るこ とが示唆された。本研究の結果から,SADに対して, DMを促進することの有効性が質問紙の結果から得られ たと言える。DM視点は,自分自身とその場の状況の両 者から距離を置いた視点と定義されており,MCTの観 点から考えると,メタ認知モードの状態であると考え られる。メタ認知モードとは,思考や信念は,外界に ある事物とは別の心の中の単なる出来事であると定義 されている(Wells,2009 熊野他監訳,2012)。この 点において,DM視点は F 視点· O 視点とは質的に異 なったものである可能性が考えられる。DM視点は新し い概念であり,研究が不十分であるため,今後さらな る検討が必要である。本研究では,非臨床群に対する 質問紙調査であり, SADに対する知見として一般化す ることには慎重になる必要がある。しかしながら, SADは,症状の連続性が仮定されているため,SADと注 意の向け方に関して,有用な知見が得られたと考えら れる。 【引用文献】
Wells, A. (2009). Metacognitive therapy for anxiety and depression. New York: The Guilford Press.(熊野 宏昭・今井 正司・境 泉洋 (監訳) (2012). メタ認知療法―うつと不安の新しいケース