日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-32 360
-両価性の評価懸念様相による社交不安症状および不合理な信念の差異
○秋山 洸亮1)、永作 稔2)、笹川 智子3)、蓑崎 浩史4) 1 )一般社団法人リエンゲージメント、 2 )十文字学園女子大学人間生活学部、 3 )目白大学人間学部、 4 )広島修道大学 健康科学部 【問題・目的】 他 者 か ら の 両 価 性 の 評 価 に 対 す る 恐 れ(t h e bivalent fear of evaluation; BFOE)とは,他者か らの否定的評価,および肯定的評価のいずれに対して も恐れを有する社交不安症(SAD)に特徴的な認知的 要素である。昨今のSAD研究では,肯定的な評価に対 する恐れ(Fear of Positive Evaluation; FPE)が新 たな認知的要素として研究が進められている。FPEと は公の場で好ましい評価をされることに対する恐怖の こ と で あ る( 前 田・ 関 口・ 堀 内・W e e k s・ 坂 野 , 2015)。FNEとFPEはいずれも競争的な社会状況からの 回避を促す認知であり,FPEとFNEは互いに関連を示す ものの,異なる概念であるとされている(Rodebaugh et al., 2012)。また,FNEの高さは SAD症状の程度を 予測するが,それ単独では心理社会的機能上の困難を もたらす水準までは至らないことが示唆されている (Teale Sapach, 2015)。つまり,BFOEを強く有する者 こそが,重篤な社交不安症状を呈すると考えられる。 ところで,SADに対してCBTの効果が認められている が,30%の患者には効果が見られないという報告もあ る(Stain & Stein, 2008)。このような難治性のSAD に対しては新たな概念であるBFOEおよびFPEがその治 療の鍵となる可能性がある。しかし,本邦では日本語 版 Fear of Positive Evaluation Scale (FPES)が前 田ら(2015)によって開発されたばかりであり,BFOE およびFPEに関する研究の蓄積があまり進んでいない のが現状であると考えられる。また,BFOEを強める一 つの可能性として,否定的な思考などを生起させる不 合理な信念の強さが考えられる。信念とは出来事を 「〜でなければならない」「〜であるのが当然だ」と いった教条主義的・絶対論的にとらえてしまう認知ス タイルを意味する(金築・金築, 2010)。つまり,不 合理な信念が強いほど,社交不安が高まりやすい状況 において,「絶対に上手くいかない」などの破局的な 思考に陥りやすいことが考えられる。 以上のことからBFOEの様相によってSAD症状および 不合理な信念に生ずる差異について比較検討すること を目的とする。 【方法】 調査対象者:私立大学 2 校の学生301名(男性175名, 女性125名,不明 1 名,平均年齢19.42± 2 歳)を調査 対象者とした。 手続き:授業終了後に同意を得た大学生を対象に質問 紙調査を一斉実施した。調査にあたり,筆頭著者の所 属 機 関 の 倫 理 委 員 会 の 承 諾 を 得 て, 実 施 し た (2016.5.26/H28-3)。 調査材料: 1 )FPES(前田ら, 2015)は他者からの肯定的な評価 に対する恐れを測定する 1 因子10項目で構成されて おり,10件法で回答を求める。 2 項目の逆転項目は 用いず, 8 項目のみで合計点を算出する。2 )Short Fear of Negative Evaluation Scale(SFNE; 笹川・金井・鈴木・嶋田・坂野, 2004)は他者から の否定的な評価に対する恐れを測定する 1 因子12項 目で構成されており, 5 件法で回答を求める。 3 )Japanese Irrational Belief Test(JIBT; 森・長
谷川・石隈・坂野, 1994)は不合理な信念を測定す る 5 因子20項目で構成されており, 5 件法で回答を 求める。JIBTの合計得点を用いて不合理な信念を評 価した。
4 ) Liebowitz Social Anxiety Scale 日 本 語 版 (LSAS; 朝倉・井上・佐々木, 2002)は社交不安症 状を評価する24項目から構成されており, 4 件法で 回答を求める。LSASの合計得点を用いて社交不安症 状を評価した。なお,市販されている同尺度を購入 の上,使用した。 【結果】 両価性の評価懸念様相による分類 BFOE様相による社交不安症状および不合理な信念の 差異を検討するため,FNEとFPEの得点を標準化し, ユーグリット平方距離によるWard法に基づく階層的ク ラスター分析を行った。各クラスターに分類された人 数や分布(Fig.1)から 4 クラスターでの分類が妥当 であると判断した。 4 クラスターが抽出されたことに ついては,Lipton et al. (2016)においても,同様 に研究がなされている。なお,クラスターはそれぞれ ( 1 )FNE高群(21.6%),( 2 )FPE高群(20.8%),( 3 ) 両高群(34.7%),( 4 )両低群(24.5%)と解釈された。 この解釈の妥当性について確認するためにFNEおよび FPEの標準得点を用いて,それぞれのクラスターを独 立変数とした 1 要因分散分析を行った結果,クラス ターの主効果が認められた(FNE;F (3, 245) =171.4 ; FPE:F (3, 245) = 133.6 ;p <.001)。その後,多 重比較を行った結果,両高群および FNE 高群とその
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-32 361 -ほかの群の間で有意な差が認められた(p <.001)。 また,両高群およびFPE群とその他の群の間で有意な 差が認められた(p <.001)。したがって,クラスター の解釈は妥当であると判断した。 クラスター間の社交不安症状の差異の検討 クラスター間における社交不安症状を比較するため に,クラスターを独立変数,LSASの合計得点を従属変 数として一要因分散分析を行った(Fig.2)。その結 果,クラスターの主効果が認められた(F (3, 245) = 17.18, p <.001)。その後,多重比較の結果,社交不 安症状は両低群と他群の間で有意な差が認められた (p <.001)。また,FNE高群と両高群の間でも有意差 が認められた(p <.01)。 クラスター間における不合理な信念の差異の検討 クラスター間における不合理な信念を比較するため にクラスターを独立変数,不合理な信念を従属変数と して一要因分散分析を行った。その結果,クラスター の 主 効 果 が 認 め ら れ た(F (3, 245) = 11.51, p <.001)。その後,多重比較の結果,両高群とFNE高群 間(p <.01),FPE高群,両低群間(p <.001)で有 意な差が認められた。 【考察】 本研究では,BFOEの様相によって分類し,比較した 結果,FNEとFPEの双方が高い両高群においてSAD症状 および不合理な信念が有意に高いことが確認された。 つまり,BFOEを強く有する者が重篤な症状を呈する可 能性が高いと考えられる。従って,BFOEを強く有する 者に対しては,不合理な信念やスキーマ等に着目した 介入の有用性が示唆された。一方で,FPE高群と両高 群においてはSAD症状に有意な差が認められることは なかった。この点に関して,Lipton et al. (2016) の研究では有意な差が認められており,これまでの報 告と異なる結果になっている。一方で,FPESを作成す る際,前田ら(2015)はWeeks et al.(2013)のFPE とFNEの社交不安への影響力の違いについて指摘して おり,本邦においてはFNEよりも FPEは影響力が高い 可能性が報告されていることや,秋山・永作・笹川 (2016)のSelf-Compassionを加えたBFOEモデルの検討 においてもFNEよりもFPEの方が社交不安および回避行 動に強い影響力を有しているという結果が得られてい ることから,本研究において FPEと両高群との間で有 意な差が出なかったことに関しては今後,文化差を考 慮して検討していくべき課題と考える。 【主要引用文献】 秋山洸亮・永作稔・笹川智子(2016). 社交不安症傾 向 と 他 者 か ら の 評 価 に 対 す る 恐 れ お よ びSelf-Compassionの関連. 日本認知・行動療法学会大会プロ グラム・抄録集, 42, 350-351.