1 答 申 書 第1 審査会の結論 本件審査請求は理由がないことから、棄却することが相当である。 第2 事案の概要 1 平成29年9月8日、処分庁は、平成29年度市民税・県民税におけ る扶養親族の調査において、審査請求人の子である〇〇〇〇及び〇〇〇 〇(以下「子」という。)を扶養親族とする申告が重複していることが判 明したため、審査請求人及び審査請求人の元夫で本件審査請求手続に参 加した〇〇〇〇(以下「参加人」という。)に対して、扶養親族調査書を 送付した。 2 処分庁は、平成29年〇〇月〇〇日に参加人から、同月〇〇日に審査 請求人から、それぞれ自身が子を扶養する旨の回答書を受理した。 3 平成29年〇〇月〇〇日、処分庁は、養育状況を確認するため、審査 請求人及び参加人に対し、再度、扶養親族調査書を送付した。 4 処分庁は、平成29年〇〇月〇〇日に審査請求人から、同月〇〇日に 参加人から、それぞれ自身が子を扶養する旨の回答書を受理した。 5 平成29年12月1日、処分庁は、平成29年度の地方税の賦課決定 に関し、子は、参加人の扶養親族に当たると判断した上で、審査請求人 に対して、平成29年度市民税・県民税賦課決定(以下「本件処分」と いう。)をした。 6 審査請求人は、平成29年12月7日付けで、審査請求書を提出した。 7 審理員は、平成30年3月2日付けで参加人に対し、審査請求への参 加通知を送付した。 第3 審理関係人の主張の要旨 諮問番号 平成30年度諮問第1号 答申番号 平成30年度答申第2号
2 1 審査請求人の主張 審査請求人は、おおむね次のとおり主張し、本件処分が違法不当であ るとして、本件処分の取消しを求めている。 ⑴ 審査請求人が平成28年〇〇月に申し立てた婚姻費用の調停で、 参加人から仕送りすべき額は毎月〇〇万円と決まったが、同月、銀行 の通帳及びキャッシュカードの使用停止手続がなされ、同年〇〇月 〇〇日まで仕送りがなかった。結局、平成28年〇〇月までにその半 分弱の〇〇〇円しか振り込まれていない。また、平成29年〇〇月に 離婚調停が成立し、審査請求人が親権者となり、以後、子どもたちを 扶養・養育している。 このような状況からすると、子は参加人の扶養控除における「生計 を一にする親族」に当たらなかったことは明らかである。 ⑵ 平成27年〇〇月に参加人と審査請求人及び子が別居した後、参 加人は子の健康保険の扶養を外した。それを受け、審査請求人は税の 扶養控除を審査請求人側に適用することを離婚調停で主張し、参加 人側より特に反論がなかった。 このような経緯からすると参加人側が平成29年度扶養控除を申 告してくることは想定できるものではない。 ⑶ 参加人は、〇〇〇の後遺症による〇〇〇による〇〇〇及び〇〇〇 があり、子どもたちを養育することはできる状態ではないし、平成2 9年〇〇月〇〇日に成立した離婚調停の場で参加人は長男の生年月 日、長女の名前及び生年月日を答えることができなかったことを調 査員から聞いている。そのような状態でも離婚調停の際、自分の署名 はできる状態であったが、処分庁から平成29年〇〇月〇〇日及び 同年〇〇月〇日付けで送付された扶養親族に対する調査書を参加人 が読み、理解し、即日署名捺印し、返送したとは到底思えない。 内容を理解した上の署名でなければ、その書類は無効になるのでは
3 ないか。 2 参加人の主張 参加人は、おおむね次のとおり審査請求人の主張に反論している。 ⑴ 婚姻費用の支払いについては、担当弁護士より最終的に清算するの で、払える額を送金すれば良いと言われていた。 給料の減額により、月〇〇万円から〇〇万円に減額したが、送金と は別に学費以外の引き落としがあり、実質月〇〇万円以上の支払いが あった。 平成28年〇〇月に送金がないのは〇〇月に審査請求人による計 〇〇万円の引出しがあったためである。また、銀行のキャッシュカー ドの使用停止の原因は、審査請求人が約束した医療費及びローンの支 払いを拒否し、参加人がその支払いに困ったためである。 審査請求人はキャッシュカードの使用停止以前に社内預金を引き 出したり、生命保険金計約〇〇万円を受領することで、財産分与時点 で〇〇万円弱を消費しており、すぐに生活に困ることはなかったと認 識している。 ⑵ 健康保険証の使用停止については、審査請求人が参加人の入院中に 無断で転居し、住民票を移したことに起因するものである。 参加人が勤務している〇〇〇〇では単身赴任以外、同居でない親族 は世帯主の健康保険に加入できないという社内規定があり、会社の判 断の下に審査請求人と子の健康保険は失効したものである。 ⑶ 参加人は、〇〇〇の後遺症による〇〇〇があり、即答することは難 しいが、説明を受ければ、理解は可能である。 3 処分庁の主張 処分庁は、おおむね次のとおり主張し、本件処分に何ら違法不当な点
4 はないとして、本件審査請求の棄却を求めている。 ⑴ 扶養控除の対象となる扶養親族について 地方税法上、扶養親族は、納税義務者の親族でその納税義務者と生 計を一にする必要があるが、子と同居している審査請求人及び別居し、 婚姻費用を支払っている参加人の双方が子と生計を一にしていると 認められる。 ⑵ 2以上の納税義務者がある場合の扶養親族の所属について 2以上の納税義務者の扶養親族に該当する者がある場合には、これ らの納税義務者のうちいずれか1の納税義務者の扶養親族にのみ該 当するものとみなされ、その決定方法については、納税義務者の提出 する申告書等の記載によることとされているが、それらによっていず れの納税義務者の扶養親族とするかを定められないときは、当該2以 上の納税義務者のうち前年の地方税法(昭和25年法律第226号) 第32条第1項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計 額(以下「基準合計額」という。)が最も大きいものの扶養親族とさ れる。 本件において子は、双方の扶養親族として重複しており、処分庁が 実施した調査によっても、いずれの納税義務者の扶養親族とするかを 定めることができなかった。 そして、参加人の平成28年中の基準合計額は、審査請求人の当該 額を上回っていたことから、子は、地方税法上、参加人の扶養親族に のみ該当するものとみなされる。 また、審査請求人は、実際の生活状況を踏まえて、いずれの扶養親 族に属するかを判断すべき旨を主張するが、地方税法上、住民税の賦 課決定に関して、重複する場合、基準合計額の最も大きいものの扶養 親族とされるのであり、実際の養育状況により決するものではない。 よって、平成29年度の地方税の賦課決定に関しては、子は参加人
5 の扶養親族に当たる。 以上のような状況の下、処分庁は、本件処分を行った。 ⑶ したがって、処分庁は、公正・明確な判断基準の下、参加人を子の 「生計を一にする者」と認定し、参加人に扶養控除を適用したのであ るから、審査請求人を「生計を一にする者」とせず、平成29年度市 民税・県民税の賦課額を決定した本件処分が、実情に合致せず不適法 であると述べる審査請求人の主張には理由がない。 第4 審査会の判断 審査会における諮問に係る判断は、審理員の意見とほぼ同旨であり、 その要旨は、以下のとおりである。 1 争点に対する判断 処分庁による本件処分が違法不当であり、取り消されるべきかについ て、以下判断する。 ⑴ 扶養控除の対象となる扶養親族について ア 地方税法第23条第1項第8号及び第292条第1項第8号は、 道府県民税及び市町村民税(以下「住民税」という。)における扶養 親族とは、納税義務者の親族でその納税義務者と生計を一にするも ののうち、前年の合計所得金額が 38 万円以下である者をいう旨を 規定している。 イ そして、「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするもの ではなく、別居している場合であっても余暇には起居を共にするこ とを常例としている場合や、親族間において常に生活費、学資金、 療養費等の送金が行われている場合には、生計を一にするものとさ れている。なお、同居している場合には、明らかに互いに独立した 生活を営んでいると認められる場合を除き、生計を一にするものと される(所得税基本通達(昭和45年直審(所)30)2-47)。
6 ウ 本件において、参加人は、子と別居しているものの、婚姻費用の 支払いをしていた。 婚姻費用とは、婚姻中に発生する夫婦の生活維持費であり、離婚 が成立する平成29年〇〇月〇〇日まで、審査請求人と参加人は、 婚姻費用を分担する必要がある(民法(明治29年法律第89号) 第760条)。 本件における参加人の婚姻費用の負担月額について、審査請求人 は〇〇万円、参加人は〇〇万円(平成28年〇〇月から〇〇万円に 学費を加えた額)と主張している。審査請求人が提出した平成29 年〇〇月〇〇日付け調停調書及び参加人が〇〇家庭裁判所〇〇支 部に提出した平成29年〇〇月〇〇日付け主張書面においても最 終的な婚姻費用額は確定できないが、最終的に離婚調停が成立して いることに鑑みると両者の主張額の範囲内であると推認される。 本件における参加人の婚姻費用の実支払額について、審査請求人 は婚姻費用の支払いが毎月ではなく、平成28年〇〇月から同年〇 〇月までの間に〇〇〇円しか支払われず、教育費は審査請求人が負 担したと主張している。 これに対し、参加人は、送金が滞ったのは審査請求人が平成29 年〇〇月に参加人の預金通帳からキャッシュ カードで〇〇万円引 き出したことが原因であること、送金とは別に学費やその他の引き 落としがあり、月額〇〇万円以上の支払いがあったことを主張して いる。 エ 先述のとおり、婚姻費用とは婚姻中に発生する夫婦の生活維持費 であり、参加人の主張のとおり、振り込まれた現金以外に食費や子 の学費に充てるための経費の支出も婚姻費用の支出に当然含まれ るものである。 この観点から審査請求人及び参加人から提出された資料を確認
7 すると、平成28年〇〇月から同年〇〇月までの間に、審査請求人 の主張する婚姻費用送金とは別に、キャッシュカードによる〇〇万 円の引出しを除いてもなお、参加人の通帳から食品購入費、子の学 費等と推定される金銭が定期的に引き落とされ、この期間の参加人 の婚姻費用支払額は合計〇〇〇円、1月当たりの支払額は〇〇〇円 であり、参加人は、婚姻費用として推認額に比して一応十分な額を 常に、審査請求人に対して、支払っていたことが認定できる。 オ したがって、参加人は常に子の生活費等を送金していたと認めら れ、参加人と子は生計を一にしていたといえるから、子は参加人の 扶養親族に当たる。 一方、審査請求人は、子と同居し、現に養育していることは、参 加人も認めるところであって、子は審査請求人の扶養親族にも当た る。 ⑵ 2以上の納税義務者がある場合の扶養親族の所属について ア 2以上の納税義務者の扶養親族に該当する者がある場合には、こ れらの納税義務者のうちいずれか1の納税義務者の扶養親族にの み該当するものとみなされる(地方税法第23条第3項及び第29 2条第3項)。 そして、その決定方法については、納税義務者の提出する申告書 等の記載によることとされているが(地方税法施行令(昭和25年 政令第245号。以下「令」という。)第7条の3の4第1項及び令 第46条の4第1項)、それらによっていずれの納税義務者の扶養 親族とするかを定められないときは、当該2以上の納税義務者のう ち前年の基準合計額が最も大きいものの扶養親族とされる(令第7 条の3の4第2項及び令第46条の4第2項)。 イ 本件において、子は、⑴オ記載のとおり、審査請求人及び参加人 という2人の納税義務者の扶養親族に該当する。そして、双方が提
8 出した申告書等の記載によると、子は、双方の扶養親族として重複 しており、処分庁が実施した調査によっても、いずれの納税義務者 の扶養親族とするかを定めることができなかった。 そうすると、前述のとおり、2以上の納税義務者のうち前年の基 準合計額が最も大きいものの扶養親族となるが、本件審査請求にお いて、参加人の平成28年中の基準合計額が、審査請求人の当該額 を上回っていたことについては、双方ともに争っていない。したが って、子は、地方税法上は、参加人の扶養親族にのみ該当するもの とみなされる。 ウ 審査請求人は、参加人が〇〇〇による後遺症により、実際に子を 養育することはできないこと、審査請求人の方が参加人より子の養 育にかかる費用の負担が大きいことなど、実際の生活状況を踏まえ て、いずれの扶養親族に属するかを判断すべき旨を主張する。 しかし、地方税法上、住民税の賦課決定に関して、扶養親族が重 複する場合の決定方法は、⑵アのとおりであって、実際の養育状況 により決するものではないから、審査請求人の主張する事実がある としても、当該判断の結論に影響するものではない。 エ よって、平成29年度の地方税の賦課決定に関しては、子は参加 人の扶養親族に当たる。 ⑶ 審査請求人の平成29年度市民税及び県民税について ア 個人市民税及び県民税の額は、前年中の所得金額を基礎として算 出されるところ、審査請求人の平成28年中の合計所得金額は、〇 〇〇円である。 イ 合計所得金額が 350,000 円を超え、扶養親族等がいない場合は、 所得割、均等割共に課税となることから、審査請求人は、いずれも 課税の対象となる。 ウ 課税所得金額は、⑶アの合計所得金額から所得控除を差し引いた
9 額である。 審査請求人の場合、所得控除は、〇〇〇円(医療費控除〇〇〇円、 社 会 保 険 料 控 除 〇 〇 〇 円 、 生 命 保 険 料 控 除 〇 〇 〇 円 、 基 礎 控 除 330,000 円)であるから、〇〇〇円が課税所得金額となる(地方税 法第20条の4の2第1項により、1,000 円未満切捨て)。 エ 所得割は、納税義務者の所得金額に応じて課税されるものである が、その額は、⑶ウで算出した課税所得金額に税率(市民税 6%、 県民税 4%)を乗じた額から調整控除及び税額控除を差し引いた額 である。 なお、調整控除とは、人的控除額の差に基づく負担増を調整する ための減額措置であるが、課税所得金額が 200 万円以下の場合は、 人的控除額の差の合計額と課税所得金額のいずれか少ない方の額 に 5%(市民税 3%、県民税 2%)を乗じた額が控除される。 審査請求人の場合、人的控除額の差の合計が〇〇〇円、課税所得 金額が〇〇〇円であるため、市民税及び県民税の所得割額は、それ ぞれ以下のとおりとなる。 (ア) 市民税所得割額 (イ) 県民税所得割額 〇〇〇円×6%= 〇〇〇円 …① 調整控除 〇〇〇円×3%= 〇〇〇円 …② 税額控除 〇〇〇円 …③ 市民税所得割額 ①-②-③= 〇〇〇円 〇〇〇円×4%= 〇〇〇円 …① 調整控除 〇〇〇円×2%= 〇〇〇円 …② 税額控除 〇〇〇円 …③
10 オ 均等割の課税額は、納税義務者の所得金額の多少にかかわらず一 定であって、平成29年度の市民税均等割額は 3,500 円、県民税均 等割額は 1,500 円である。 カ ⑶エ及び⑶オにより、審査請求人の市民税合計額は〇〇〇円及び 県民税合計額は〇〇〇円(地方税法第20条の4の2第3項により、 100 円未満切捨て)と算出され、平成29年度合計年税額は〇〇〇 円となる。 ⑷ 以上により、処分庁は、地方税法の規定に基づき、審査請求人の平 成29年度における市民税・県民税の賦課額を決定しており、本件処 分が違法又は不当であったとはいえない。 なお、審査請求人が指摘するように、所得税法(昭和40年法第3 3号)及び所得税法施行令(昭和40年政令第96号)の規定による と、その年において既に一の居住者が申告書等の記載によりその扶養 親族としている場合には、当該親族は、当該居住者の扶養親族とする こととされているが、地方税法上、住民税の賦課決定に関して、重複 する場合の決定方法は、現状においては、処分庁の主張するとおりで あり(つまりは、所得税と地方税では扶養親族の決定について法令の 違いがあり)、所得税に関する法令の存在が結論に影響するものでは ない。 2 付言 その他の審査請求人の主張について付言しておく。 審査請求人は、税の扶養控除を審査請求人側に適用することを離婚調 停で主張し、参加人側より特に反論がなかった経緯からすると、参加人 側が平成29年度扶養控除を申告してくることは想定できなかったと 主張するが、審理関係人より提出された資料からは、そのような事実を 県民税所得割額 ①-②-③= 〇〇〇円
11 認定することはできないし、また、当事者の調停における主張、あるい は何らかの約束等の存在が扶養親族の決定に影響を与える ものではな い。 審査請求人は、処分庁から同年〇〇月〇〇日及び同年〇〇月〇〇日付 けで送付された扶養親族に対する調査書を参加人が読み、理解し、即日、 署名捺印し、返送したとは、到底思えないとも主張するが、参加人の状 態が意思能力を欠くような状態にある、あるいは調査書等の書類が参加 人の意思に基づかずに作成されたと認めるに足る証拠はない。 いずれの主張も本件審査請求の結論に影響を与えるものではない。 第5 結論 以上のとおり、本件審査請求は理由がないことから、棄却することが相 当である。 第6 調査審議の経過 審査会による調査審議の経過は、以下のとおりである。 平成30年 6月13日 審査庁からの諮問 平成30年 7月19日 審議 平成30年 9月13日 審議 平成30年10月24日 審議