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委員会設置会社とコーポレートガバナンス

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委員会設置会社とコーポレートガバナンス

山 岡 敏 秀 目次 1、はじめに 1-1、本稿でのテーマ全体に関わる問題意識の整理 1-2、コーポレートガバナンス観 2、委員会設置会社 2-1、会社法 2-2、伝統的な業務執行体制 3、委員会設置会社の状況 3-1、委員会等設置会社の状況 3-2、委員会設置会社の特徴 3-2、委員会設置会社の導入状況 4、会社機構論 4-1、会社機構論の原理 4-2、取締役会の無機能化~制度と現実~ 5、おわりに 1、はじめに  本稿のテーマは、「委員会設置会社とコーポレートガバナンス」である。 現在、コーポレートガバナンス①という問題は日本においても盛んに議論されている。この言 葉が根本的に何を意味しているかはひとまずおくとしても、概略、次のような意味においてと らえられている。  「公開株式会社=株式会社+証券市場」という環境のもとでなされる会社経営においてある 何らかのガバナンス改革を実施すると、効率性とともに健全性・透明性がバランスしつつ改善 される効果を会社にもたらすであろうものととらえられている。そのような効果をもたらすも のが、ガバナンス改革であるとされている。  そうすると平成17年の会社法によって新たに導入された委員会設置会社は、会社経営におけ る監督と執行を分離することによって会社経営の透明性を高めると期待されている。また意思 決定機能を執行場面へと委譲することによって機動的な会社経営がなしうるものと期待されて

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いる。

 実際、この委員会設置会社について積極的に取り組んできたHOYAにおいては、次のような ことが主張されている。

 「HOYAでは、資本に対するコストを上回る利益を生んだとき、企業価値が増大し、すべて のステークホルダーにご満足いただけると考えています。その実現のため経営指標にSVA (Share Holders Value added)を導入し企業価値の最大化を目標に経営に取り組んでいます。ま た、これまでHOYAグループについての体制確立に向け他社に先駆け取締役会の改革に取り組 んできました。2003年6月には委員会設置会社へと移行したことで、経営の執行と経営の監視 を明確に分離しました。経営の執行は4名の執行役により素早い判断と対応が出来る体制で、 企業価値の最大化に取り組んでおります。」(HOYAホームページより。2003年の段階は、委員 会等設置会社。)  ところが、日本企業の現実をみると、この委員会設置会社という新たな会社機関を選択して いる企業はきわめて少ないということである。  そこで本稿は、こうした日本企業の現実から、何故、この新しい会社機関が選択されること が少ないのかを問おうとするものである。  その際、この問をして、多様な性格を有するところのコーポレートガバナンス問題との関連 で考察しようとするものである。  そこで、まず、本稿総体の問題意識を簡潔にのべ、次に筆者の本稿の関わりでのコーポレー トガバナンスに関する理解を簡潔に整理しておこう。こうした整理をひとまずおこなったうえ で、本題を展開することにする。 1-1、本稿でのテーマ全体に関わる問題意識の整理  「委員会設置会社とコーポレートガバナンス」というテーマのもとでどのような問題意識が 設定されているのかについて、最初にできるだけ簡潔にのべておこう。以下にみられるよう な、次のような文脈のからみあいのもとで問題意識が設定されている。 ①、こうしたテーマを考察する際、そこではまず何よりも、コーポレートガバナンスという面 妖で厄介な言葉について最小限ふれておかざるをえないであろう。面妖で厄介な言葉というの は、例えば最も有力とされる米国のALI報告書(米国のアメリカ法律協会〔American Law Institute〕による『コーポレートガバナンス:分析と勧告』、Principles of Corporate Governance and Structure : Analysis and Recommendation)における定義の不在に典型であるように、コーポ レートガバナンスという言葉はしばしば定義されることがない。そしてまた、その他のコーポ レートガバナンスに関わる諸原則も同様であるが、強制力を有するものがほとんどないという ことである。  また、コーポレートガバナンスは時間とともにその姿を転変させつつ顕現させるという性格 がある。  それでもコーポレートガバナンス論議を整理すると会社主権論(会社は誰のものか)と会社 機構論(経営管理・組織に関わるガバナンス)に大別されると判断している。  尚、このコーポレートガバナンス観については次節で再度、整理しておく。

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②、我が国のコーポレートガバナンス論議においては、会社主権論(会社は誰のものか)とい う視点からのアプローチが当初から圧倒的であった。これは、1990年代の最初にバブルが崩壊 して日本企業の不祥事と、かの米国における機関投資家の株主行動主義という対照的な文脈で 紹介されたことが大きな要因と思われる。  コーポレートガバナンス論議が公開株式会社における「所有と経営との分離」を基底とする ものとすれば、それはたしかに当然の道筋ともいえる。制度上、株式会社のプリンシパルは株 主だからである。 ③、最近、我が国でもTOBによる敵対的企業買収がみられるようになった(ニッポン放送事 件・ブルドックソース事件、等)。ところが、この段階にいたって、すでに圧倒的な勢いを もっていた会社主権論の論調の中に、ことに買収防衛策の正当性をめぐる文脈の中で,株主利 益の最大化とか株主総会万能主義の復活といったものがみられるようになった。  こうした傾向がさらに機関投資家団体等(例、年金基金)のガバナンス原則(当然にして株 主利益を原則とする)と連動することによって、事態がいっそう株主主権論となっていく。  このことは、会社主権論(会社は誰のものか)が会社機構論を凌駕する事態であるともいえ る。そもそも議論の対象たる公開株式会社における「所有と経営との分離」という問題は、 「所有と経営との拮抗関係」でもあるとすれば、かかる状況はひとつの転倒ともいえる。ある いは少なくとも、プリンシパル-エーゼント関係が背後に退いてしまっている。  「所有と経営との分離」を制度上、予定したうえで公開株式会社の経営(業務執行)すなわ ち会社機構が存立しているという、いわば前提さえも覆しかねない。 ④、いうまでもなく会社の現実資本がそもそも順調に利潤を創出しない限り、すなわち会社機 構が健全でない限り株主利益も考察されえない。本来的に会社利益(会社が獲得した利益)が 主体であるはずである。また順調に創出されたとしても、利潤をどのように分配するのかも会 社機構の問題である。これが、「最初に株主利益ありき」へと誘導されるのはやはり転倒であ る。 ⑤、透明性・健全性の改善と効率性のバランスを内容とするガバナンス改革ではあるが、そも そもそのことが会社にとっての収益性にとってなんらかのネック(あるいは少なくとも±0) となるならば、本末転倒であろう。それゆえガバナンス改革の手段としての様々なメニューも 会社機構論からすると、既にある健全性・透明性等(および効率性とのバランス)を保持しう る限り拒否されるだろう。 ⑥、このようにみていくと、平成17年会社法によって導入されガバナンス改革に資するとされ る委員会設置会社という会社機関を日本企業の多くが導入しないのは、そこに少なくとも会社 機構論上の問題点が潜んでいると判断される。それは何故か、ということが本稿の問題意識で あり、「委員会設置会社とコーポレートガバナンス」というテーマで検討しようとするもので ある。  本稿でのテーマ全体に関わる問題意識の整理は、以上のようになる。そこで次に、本稿の テーマとの関連でコーポレートガバナンスに関する問題意識も、同時に簡潔に整理しておこ う。

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1-2、コーポレートガバナンス観  現在、コーポレートガバナンスという言葉が世界的な潮流となっている。それはとりもなお さず、「世界のコーポレートガバナンス原則」などといった言葉によって象徴的に表現されて いる。  筆者は、このコーポレートガバナンスという言葉を概略、現段階においては、次のように考 えている。  現在、世界的レベルにおいて資本制経済における会社経営を担う中心的な会社形態は、株式 会社制度である。この株式会社は、諸特徴すなわち全出資者有限責任・証券流通・会社機関・ 所有と経営との分離・開示制度・準則主義などを有している。この点、各国においても、ほぼ 共通の特徴を有する形で、世界的に共有されている会社制度である。  そして経済活動の中心的な担い手が株式会社であり、同時に、各国の巨大企業といわれるも のの担い手であると判断して誤りはなかろう。  他方で、資本制経済における経済活動は、その本性からしていうまでもなくグローバル化の 進展をいよいよ成熟化させているのだが、その際、世界的レベルでの経済活動の共通のインフ ラともいうべきこの株式会社制度の扱いがいやでも共通の課題となるであろう。ここにそもそ も、株式会社制度に関わる諸特徴に関して、あれこれと検討されざるをえない潜勢的で根源的 な理由があるといえる。  その際、株式会社制度=金融資本市場+株式会社とするならば、①、マーケット、と、②、 株式会社そのものに関わらせて、それぞれ証券流通・開示(会計)の問題や会社の経営機構の 問題が、検討の素材となるであろう。  さらには、株式会社制度は、社会一般の擬似的な縮図(とりわけ「民主主義の仕組み=社会 的意思決定」に関して)ともいわれるように、社会体制的な意味合いを根源的に有しているこ とも見逃すことはできない。これまで経済学・経営学に限らず、多くの先人達が、 株式会社 を社会体制的文脈のもとで考察してきたことはいうまでもない。  この文脈からすると、ことに「所有と経営との分離」に関わる経営者支配の問題はいうにお よばす、会社の経営機構そのものに労資共同決定を採用しているドイツの株式会社(制度)の 扱いがその典型であろう。  かくして、実際、マーケットや会計基準の国際標準化についてはすでに相当の議論がおこな われているところである。  そこで、もひとつの会社の経営機構の問題がマーケットの問題ともたぶんに交錯しながらも 議論されているところだが、その文脈こそ、いわゆるコーポレートガバナンスとして議論され ているものだと理解している。  この会社の経営機構の問題がマーケットの問題ともたぶんに交錯しながらなされている議論 を、もう少し絞り込むと、やはり、株式会社制度における「所有と経営との分離」を基底とし て発せられる問題ということになろう。  そこで、「図-1」を参照しよう。この図は、株式会社制度=金融資本市場+株式会社、を イメージとしてとらえたものである。この図から、コーポレートガバナンスとして議論されて いるものが俯瞰できる。ことに我が国でなされているコーポレートガバナンス議論をオーソ

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ドックスに類型化すると次のみっつになろう。 A~会社主権論(会社は誰のものか) B~会社機構論(経営管理や組織に関わる問題) C~企業の社会的責任論(CSR論) C~企業の社会的責任論(CSR論)を企業のステークホルダー論と置き換えたとしても、 コーポレートガバナンス議論の中心は、Aの会社主権論(会社は誰のものか)やBの会社機構 論(経営管理や組織に関わる問題)であり、ことに会社主権論(会社は誰のものか)の文脈で 議論されることが圧倒的に多いと判断される。  たしかに、コーポレートガバナンス議論を、株式会社制度における「所有と経営との分離」 を基底として発せられる問題としてとらえるともっともなことのように考えられる。株式会社 制度において、主人はあくまで株主で経営者は代理人だからである。  また、我が国では長い間、株式会社制度における「所有と経営との分離」という問題が、株 式会社支配論として考察されてきたということもその大きな理由であろう。「所有と経営との 分離」という問題より、もっぱら「所有と支配との分離」に関心がむけられてきた。それゆえ 現在でも、コーポレートガバナンス議論が、「コーポレートコントロールとコーポレートガバ ナンス」という文脈において盛んに議論されているところでもある。  他方、Bの会社機構論(経営管理や組織に関わる問題)においては、株式所有の問題を前提 とするビジネスリーダーシップ論や最近では経営戦略論との連関、および制度上の会社機関論 などに焦点があてられてきたと考えられる。また、株式所有の分析を意識しても、経営者支配 を積極的に認定することによるその独自の体制的意義に着目するバーリ=ミーンズ型の株式会 社革命論が伝統的に根強いといえる。  ところで、我が国のコーポレートガバナンスの問題を、会社主権論(会社は誰のものか)と 会社機構論(経営管理や組織に関わる問題)に大別した場合、現段階の状況からすると次のこ とに重ねて注意する必要があると考えられる。  もともと会社主権論がリードするかたちで、この議論がおこなわれてきたが最近の敵対的企 業買収とこれに対する防衛策との関連で、会社主権論が株主主権論そのものに陥っているので はないのかということである。  本稿では、会社機構論(経営管理や組織に関わる問題)を中心にして展開せざるをえないだ けに少しふれておこう。  この点で注目されるのが、平成17年に公表された「企業価値・株主共同の利益の確保又は向 上のための買収防衛策に関する指針」(経済産業省・法務省)と「企業価値報告書」(企業価値 研究会)である。  こうした報告書は、今後、増加するであろうと予想される敵対的企業買収からの防衛策とし て企業はどのような基本的スタンスが必要であるのかを解説したものである。そこで企業価値 を高めるような手法が、攻守どちらにおいても正当性を有する可能性が大であること。少なく とも、企業価値を毀損しないかぎり敵対的企業買収は正当性を有するにいたると説いているの である。  問題は、この企業価値の内容であって、会社経営の結果としての会社利益をいっているの

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か、それとも端的に株主利益を暗黙の内に想定しているのかということである。この点、アン ビバレントな内容をもつが、「企業価値とは、会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力 等株主の利益に資する会社の属性又はその程度をいう」(「企業価値報告書」)との指摘もみら れる。  かかるアンビバレントな内容をもつ企業価値という言葉は、今後の政治的経済的環境の次第 でどちらかへのいっそうのシフトを強めるだろう。少なくとも、その方向性として「株主の利 益に資する会社の属性又はその程度」であることは可能性として強いといえる。  そして、こうした言葉の開発が有する無視しえない効果として次のことも指摘しておかねば ならない。すなわち実際に敵対的企業買収が発生した際に法に与える効果である。実際、ブル ドックソース事件では、次のように述べられている。  「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値が毀損され、会社の利益ひい ては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰 属主体である株主自身により判断されるべきもの」(『判例タイムズ』1259、41頁)としてい る。  かかる論点との関連で次のことにはぜひとも留意しなければならないだろう。(「図-1」を 参照)  まず、資本制経済における企業は、M-C…P…C’-M’(M=貨幣、C=商品、…P…= 生産過程、M’-M=利潤=ΔV=付加価値としている)という運動を反復循環している。こ の公開株式会社が、仮に出発点のMを株式発行によって資金調達をすると、当該株式会社は、 諸株主と連関していく。また、C’を実現するにあたって多くのステークホルダーとも関連し ていく。  諸株主への分配であれ、多くのステークホルダーとの関連であれ、そもそも公開株式会社の 現実資本の運動が反復循環されない限り、効率性と健全性・透明性、等とのバランスの関係は 生れない。そして、この順調な反復循環が何故、なしうるのか、あるいは逆に機能不全になる のかといった問題は、会社機構論(経営管理や組織に関わる問題)の領域である。  そこで当該の公開株式会社が、効率性に対する健全性や透明性を改善すべき、なんらかのガ バナンス改革を実施したことによる付加価値をΔVCG=Value creation by corporate governance、 としよう(「図-1」を参照)。  これに対して、当該のガバナンス改革を実施しなかった場合の付加価値を単にΔVとしよう。  もし、ΔVCG>ΔVであると予想されるか、あるいは現実の結果となれば好ましいものとし て当該企業によって、そのガバナンス改革は選択されよう。  問題は、ΔVCG<ΔVの場合である。社会的に相当の影響が発生するようなケースを除外す れば多くの企業が、当該のガバナンス改革を断念するだろう。  しかし、株主利益のために、あるいはなんらかの外部の利害関係者のために、ΔVCG<ΔV という結果を招来することは許されるだろうか。少なくとも、現段階の諸状況からすると株主 利益のためならば、断行せざるをえないような雰囲気があるかもしれない。  本稿での中心的課題たる会社機関、ことに委員会設置会社を考察する際にも、少なくともΔ VCGとΔVの関係が意識されて展開されている。

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 そこで以下、委員会設置会社を中心とする会社機構論の検討へとうつろう。 2、委員会設置会社 そこでいよいよ、第2章で取り上げようとするのは、平成18年5月に会社法が施行され、新たな 選択手段として会社機関が導入されたことに関わる文脈での「委員会設置会社とコーポレート ガバナンス」の問題である。 2-1、会社法  すなわち、平成17年に、日本の会社を規整するものとして商法にかわって会社法が新たに導 入され、平成18年5月に施行されるにいたった。この会社法については、導入されたばかりの こともあり、また、その多くの新機軸をうちだしているとされる体系についても様々に議論さ れているところである。  会社法は、これまでの会社(合名会社・合資会社・株式会社・有限会社)に対して、有限会 社を廃止して新たに合同会社を新設している。廃止された有限会社は、概念上、株式会社と同 一視されるようになった。  また、多くの資本制経済の国において経済活動の主役である株式会社についても、多様な観 点から新たな規整の仕方を導入している。会社法における株式会社のとらえ方そのものについ ては、これまでの公開株式会社(上場会社)・非公開株式会社(非上場)という区別から、単 に公開会社と非公開会社という区分を設定していることである。すなわちこの規定からは、証 券市場を使っている株式会社であるのかどうなのか、ひいては一般に上場会社からイメージさ れる所有と経営との分離した大規模な株式会社であるのかどうなのかはわからなくなった。  かかる規定ぶりは、零細な株式会社が圧倒的に多い日本の会社生態の現状に対応して、会社 法体系の起点に群小会社(中小の株式会社=非公開会社=全部株式譲渡制限会社)を措定して いることに理由がある。また同時に会社機関の設計にあたり定款の自治の拡大を促し、会社の 実情に合わせて多様な機関を選択できる規定ぶりとなっている。  さらに会社経営の機動性を増大させるべき、企業金融の分野においての規整ぶりも注目され ている。種類株式(株式種別化政策のためのツール)を豊富に導入して、自己株式取得・剰余 金の配当を条件つきながら取締役会決議で実施できるようにしている。  ところで、ここ数年、日本に限らず世界的にも展開されている企業改革すなわちコーポレー トガバナンス改革という流れの中で、会社法は、会社機関選択のひとつとして委員会設置会社 を導入している。この委員会設置会社は、伝統的な取締役会設置会社と比較すると、取締役会 の業務執行における監督機能と執行(実行)とを明確に分離することを意図したものである。 それゆえしばしば、米国型会社機関の実情により一層、接近した会社機関であるといわれる。  この委員会設置会社は、平成14年の商法改正で導入された委員会等設置会社を継承する形で 導入されている。しかし、企業改革すなわちコーポレートガバナンス改革という世界的な流れ を意識しての委員会設置会社の導入ではあったが、日本企業でこの会社機関を選択している企 業の数はきわめて少ない(平成20年12月で109社、上場企業のおよそ5%程度)。  そこで第2章では、この委員会設置会社導入をめぐって日本企業が何故、選択しようとしな

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いのだろうか、ということをいわゆるコーポレートガバナンス問題との関連で考察してみよう というのがここでの直接的な問題意識である。  企業改革とかコーポレートガバナンス改革に資するといわれる委員会設置会社を何故、積極 的に選択しようとしないのか。というよりは、その選択状況からするとほとんど選択されない のは何故だろうか。この一見、いわば負(マイナス)なる態度の発現と感じられる日本企業の 機関選択の動向から、コーポレートガバナンス問題をあえて考えてみようというのが狙いであ る。この点をもう少し述べておくと次のようなことである。  すなわち、会社法においては、その機関設計においてなんといってもこれまでの伝統的な取 締役会設置会社とともに委員会設置会社を新たに導入していることが注目される。この委員会 設置会社はそれまでの委員会等設置会社の継承およびさらなる進化を目的として導入されたも のと考えられる。  委員会設置会社とは、会社機関とりわけ取締役会(および代表取締役)における会社経営= 業務執行における監督機能(チェック機能)と執行(実行)とを明確に分離して、名実ともに 米国型の会社機関モデル(あるいは理念)を導入しようとするものである。  委員会設置会社の導入が注目され、期待されていたのは次のような文脈による。次節でみて いこう。 2-2、伝統的な業務執行体制  まず、資本制経済における株式会社の基本的性格やさらには会社法体系そのものをどのよう にとらえるかといった根源的な議論はひとまずおくとしても、資本制経済における主要な会社 形態たる巨大公開株式会社においては会社機関といわれるものの存在が不可欠である。  資本制経済における巨大公開株式会社は、「公開株式会社制度=株式会社+証券市場」とし てとらえられる。それゆえ、証券市場(資本市場)すなわち社会的資本(あるいは社会資本) を背後に有する公開株式会社においては、多数の参加者(株主と潜勢的株主たる投資家)から なる大規模団体での経営が遂行されるとの想定から、「所有と経営との制度上の分離」のもと に会社機関が設計されていると考えられる。もちろん、この会社機関の設計については、国に よって種差があるのはいうまでもないが、我が国の場合、ひとまず次のように理解できる。  我が国の場合、株式会社経営の枢要な力点は株主総会権限とされるものの会社経営そのもの は制度上、業務執行として取締役会(および代表取締役)が担うものとして設計されている。 この業務執行は、「会社経営=業務執行=意思決定+執行(実行)」からなるものとして設計さ れ、その担い手は取締役会(および代表取締役)である。そして、会社経営=業務執行という 際、意思決定の担い手が取締役会、執行(実行)の担い手が代表取締役である。  我が国の「業務執行=意思決定+執行(実行)」の規定ぶりは、昭和25年の法改正(戦後の 最初の商法)において米国型の会社機関をお手本として設計されたといわれる。だが、そのあ りよう・現実は、モデルとされた米国と相当程度に乖離していたというべきである。 この点 をここですこし見ておこう(〔図-2〕を参照)。  〔図-2〕は、業務執行=意思決定+執行(実行)を当該会社における対内面と対外面から 図解したものである。対内面とは、当該会社の経営における設計・生産・人事・財務・販売、

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等の機能を表現している。最も単純な企業組織とされる職能別組織であれば、それぞれの職能 (機能)につきどのように意思決定がなされ、誰が執行(実行)の担い手なのかを表現しよう とするものである。  それに対して対外面とは、当該会社の会社外部に対する代表権を表現している。それゆえ、 業務執行のうち意思決定については、対内面・対外面ともに取締役会が担っているものの、執 行(実行)の担い手については、ことに対内面が問題となってくる。我が国においては、長い 間、この執行(実行)のうちの対内面の担い手が誰であるかについて制度上の規定が曖昧で あったと評価されている。何が曖昧なのかについてここでは最小限ふれておこう②。尚、〔図 -2〕において、代表取締役の範囲が一部、意思決定と執行(実行)の領域と交わっているの は、それぞれ日常的なものについては代表取締役自身によって可能であることを意味する。 〔図-2〕  この曖昧さを象徴する言葉として、例えば、使用人兼務取締役というものがある。この使用 人兼務取締役とは、具体的には○×メーカーの営業部長や、△△銀行の名古屋支店長であるよ うな担い手を意味するといわれる。いわゆる現場のトップが取締役を兼務しているということ である。  そうすると、一方で執行(実行)の担い手が、他方で取締役会のメンバーとなっているなら ば、あるいはそのような関係性が存在するならば、自らの成果をして自ら評価・監督している ということになる。取締役会(および取締役)は、意思決定のみならず執行(実行)に対する 監督機能という義務をも有するからである。  そこで法は、平成14年にいたって初めて制度上の内容を以下のように規定するにいたった。  すなわち、代表取締役・代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって会社の 業務を執行する取締役として選定された者(選定業務執行取締役)とされた。  この問題すなわち監督と執行(実行)の未分離ということに対して、我が国で最初に挑んだ のが1997年に執行役員制度を導入したソニーである。ソニーの取り組みは、対内面における執 行(実行)を執行役員に担わせ、かつ取締役会の監督機能という網の目から明確に分離しよう とする試みであったと言える。この執行役員制度は、当時のコーポレートガバナンス論議の潮 流とともに「監督と執行(実行)の分離」という視点から、会社経営の健全化に貢献しようと するものであったと評価される。  その後、平成14年に商法改正が実施され、2003年から委員会等設置会社という機関設計が新 たに導入された。この委員会等設置会社という会社機関モデルは、ソニーを初発とする執行役 員制度の理念を現実へと体現させようとするものである。この機関設計において特筆されるべ きは、この改正によって初めて対内面の担い手が曖昧であるという我が国の機関設計が克服さ

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れ、それを担う者が業務担当取締役と規定されたのである。  また、後述するように、この機関設計は、会社法における委員会設置会社の姿にあと一歩と 迫る内容をもつものであった。この制度の導入とともに、ソニー・東芝・日立製作所が相次い で移行していった。  かくして平成17年に、我が国の会社経営を規整する主要な枠組みとしての会社法とともに委 員会設置会社という制度が導入された。委員会設置会社の骨格は次のようになっている。 ①、伝統型の取締役会設置会社における「監督と執行(実行)の分離」の未分離という問題を 克服すべき、取締役会(および取締役)から執行(実行)という領域を解放しようとする ものである。そして取締役会は監督機能に専念し、執行(実行)を執行役に担わせる。こ の執行役は、取締役会によって選任される。また、執行(実行)は取締役会によって委任 されたものがその内容となる。この執行役は、米国型会社機関でいうオフィサーにいっそ う近似したものである。 ②、伝統型の取締役会設置会社とは異なり、監査役(会)は存在しない。取締役会に、指名委 員会(取締役の選任および解任案の決定)・報酬委員会(取締役・執行役の報酬決定)お よび監査委員会(取締役・執行役の監査)というみっつの委員会が設置される。ただし、 みっつの委員会のメンバーはそれぞれ過半数が社外取締役でなければならない。  ところで、我が国の企業経営におけるコーポレートガバナンスの改善という流れの中でみた 場合、近年の執行役員制度の導入→委員会等設置会社および委員会設置会社の導入はあたかも ひとつの強い趨勢であるようにうかがえる。だが、現実は決して、そのような趨勢と企業経営 上の効果との関係にはなってはいない。委員会設置会社という機関設計を導入している企業は きわめて少なく、旧来型の執行役員制度を種差を伴う形で採用している企業が圧倒的に多いと いうのが現状である。  そこで、第2章での問題意識をあらかじめ若干、述べておこう。  まず、コーポレートガバナンスという問題は多様性をもつとはいえ、おおよそ次のようなフ レームワークを最低限、共有して議論されていることは間違いないだろう。すなわち「公開株 式会社=株式会社+証券市場」からして、会社経営は所有と経営の制度上の分離を予定して取 締役(経営者)に委任あるいは受託されているとして設計される。そうすると、株主→株式会 社の関係は、株主→取締役(経営者)なる関係に転変する。かくしてこの関係を「プリンシパ ル-エーゼント」関係とか、取締役会をして受託経営者層(trusteeship management)と呼ばれ る所以である。  かかる基底的関係をもとに、企業の大規模化に伴う株式所有の分散化と経営管理機構の複雑 化、等がみられるや取締役(経営者)はプリンシパル(株主)とどのような関係になりつつあ るのだろうかという問題が発生する。また、米国のように証券市場の流動性が高いとテンダー オファーおよび敵対的企業買収の発生や機関投資家の台頭による発言力強化(行動主義)、等 の諸問題がみられる。さらに敵対的企業買収がブームとなるやそれに伴う防衛策とその効果に よる経営者支配天国(経営者の無責任)的状況が問題視されるにいたる。  逆に我が国のように証券市場の流動性が低く、ことに株式相互持合いのような現象がみられ る国では、きわめて特異な条件で取締役(経営者)がプリンシパル(株主)から自立している

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のではないのかという問題提起がなされるにいたる。この自立というのは、いわゆる「経営者 支配」という内容ではなく、徹底して株式所有を基底としながらも経営者支配天国(経営者の 無責任)が発生しているのではないのかという問題提起である。  このようにコーポレートガバナンスという問題は、取締役(経営者)が株主との委託-受託 関係にあることから発生している。あるいは株主の代理人であることから発生している。  そしてさらには、公開株式会社は背後に証券市場=社会的資本(あるいは社会資本)を有す るから潜勢的株主たる投資家との関係も重要な問題領域となってくる。  公開株式会社は以上のような問題が発生しうるという可能性を内包しているからこそ株主や 潜勢的株主たる投資家との関係を良好なものにするために努力しなければならない。また、実 際、相当の努力をしている。  この良好な関係形成のためのひとつの手段が、取締役会(代表取締役)が担うところの会社 経営=業務執行における「監督と執行(実行)の分離」であり、これを現実化せしめるものが 委員会設置会社である。 3、委員会設置会社の状況 3-1、委員会等設置会社の状況  1997年にソニーが米国型の会社機関モデルたる執行役員制度を導入してから、我が国でも業 務執行における「監督と執行(実行)の分離」という問題が、コーポレートガバンナス論議の ひとつの主要な論点として取り上げられるようになった。そしてついには平成14年に委員会等 設置会社というモデルが我が国でも導入された。委員会等設置会社の骨格については、〔図- 3〕を参照。 (〔図-3〕~委員会等設置会社の取締役会[平成14年商法改正より])  さらに平成17年の会社法によって、それまでの委員会等設置会社をあらためて、委員会設置 会社が導入された。  まず、委員会設置会社の伝統的な取締役設置会社に対する特徴を整理しておこう。そして次 に可能な限り入手可能な資料をもとにして、我が国における委員会設置会社の導入状況を調べ てみよう。そして第三に戦後の法改正の流れからすると取締役会そのものは、ことに株主総会 に対していっそう機動性・自立性を高めているのではないのかということにふれておこう。

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3-2、委員会設置会社の特徴 〔図-4〕は、委員会設置会社③の骨格を表している。この図を参照しながらこの会社機関の特 徴をみておこう。 〔図-4〕~委員会設置会社の取締役会と業務執行[平成17年会社法より])  会社法では、その2条において、会社法が展開するいわばキーワードの一覧が配列されてい る。この会社法2条における言葉の定義一覧によると委員会設置会社とは、「指名委員会・監 査委員会および報酬委員会を置く株式会社」とされているにすぎない。また、かつての委員会 等設置会社と比較すると取締役会および会計監査人を設置する会社であれば、その会社の規模 に関わりなく委員会設置会社を選択できる。  しかし、その内容からすると大枠としては次のようにいえるだろう。  ソニー等による執行役員制度の導入(1997年)→委員会等設置会社(2002年)という系譜か

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らして、委員会設置会社は、業務執行における「監督と執行(実行)の分離」によってコーポ レートガバナンスの改善に資するという流れからの導入であると考えられる。  伝統型の取締役会設置会社における「監督と執行(実行)の分離」の未分離という問題を克 服すべき、取締役会(および取締役)から執行(実行)という領域を解放しようとするもので ある。そして取締役会は監督機能に専念し、執行(実行)を執行役に担わせる。この執行役 は、取締役会によって選任・解任される。また、執行(実行)は取締役会によって委任された ものがその内容となる。この執行役は、米国型会社機関でいうオフィサーにいっそう近似した ものである。  伝統型の取締役会設置会社とは異なり、監査役(会)は存在しない。取締役会内部に、指名 委員会(取締役の選任および解任案の決定)・報酬委員会(取締役・執行役の報酬決定)およ び監査委員会(取締役・執行役の監査)という三つの委員会が設置される。ただし、三つの委 員会のメンバーはそれぞれ過半数が社外取締役でなければならない。  そこで、かかる委員会設置会社についての特徴を列挙しておこう。 ①、委員会設置会社では、使用人兼務取締役が禁止されているように、なんといっても業務執 行における「監督と執行(実行)の分離」をねらいとしたものである。ただし、取締役と執行 役の兼務は認められる。 ②、取締役会が担うものは、会社法が定める基本事項(経営の基本方針)すなわち「業務執行 のうちの意思決定」・「取締役および執行役の執行(実行)の監督」・「執行役の選任および解 任」・「代表執行役の選定・解職」である。この基本事項を除き、業務執行の意思決定に関わる ものを執行役に委任できる。かかる委任は、伝統型の監査役設置会社では、取締役に委任でき ない。執行役に委任できるものとして、「重要財産の処分」・「多額の借財」・ 「支配人等の選任・解任」・「株式の分割、無償割当、募集株式」、等がある。 ③、取締役会によって執行役が選任され、執行役の中から代表執行役が選定される。代表執行 役は、一般の代表取締役に関する規定が準用される。執行役は取締役との兼任が可能である。 ④、委員会設置会社と執行役の関係は委任関係であること。従って、これまでの会社と取締役 の関係にみられたものと同等の文脈が発生する。すなわち善管注意義務・忠実義務を負い、会 社や第三者責任に対して責任が発生して株主代表訴訟の対象となる。 ⑤、会社法では、「剰余金の配当」・「自己株式取得」につき、例外的に定款で取締役会に委任 できるようになった。これは、伝統的な監査役会設置会社においても同様である。 ⑥、従来型の実査する機関としての監査役から、内部統制システムによる監査となる。 3-3、委員会設置会社の導入状況  我が国の企業経営におけるコーポレートガバナンスの改善に役立つものと期待された委員会 設置会社であるが、その導入状況はきわめて少ない。  (表-1)をみよう。この表は、日本監査役協会が調査している平成20年12月3日時点にお ける委員会設置会社の数とその上場区分を示したものである。

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(表-1)委員会設置会社の数と上場区分 (出所、日本監査役協会ホームページ・平成20年12月3日現在の数値)  日本監査役協会の調査によると、現時点で、我が国企業のうち伝統型の監査役設置会社が約 95%、委員会設置会社が約5%である。また、その他上場とは、マザーズ・ヘラクレスおよび JASDAQである。非上場で注目されるのは、野村グループの子会社・明治安田生命および (株)ゆうちょ銀行である。  この表からすると、有力上場企業による選択がきわめて少ないということ、あえて言えば皆 無ともいえる状況である。  また、(表-2)をみよう。(表-2)は委員会設置会社を選択している有力上場企業であ る。(表-1)で委員会設置会社の選択がきわめて少ないことをみたが、(表-2)における有 力企業の状況を検討してみると特有の理由によるところの選択がみいだされる。  オリックス・HOYAは経営理念の次元において、そして現実においてもこれまで長らく コーポレートガバナンス改革問題に熱心に取り組んでいた会社である。  ことにオリックスの会長は、一連の企業制度改革に関する潮流に積極的に関わってきた中心 的経営者である。  ソニー・東芝・三菱電機といった会社は、総合電機メーカーとして海外市場とそこでの投資 家を多分に意識している。ことにソニーは、米国型ガバナンスモデル導入(執行役員制度)の 先駆的役割を果たしてきたのは周知のところである。  ところで有力企業をみていくと,こうした会社と同じような動機でもって委員会設置会社を 選択しているかとなるとかなり事情が異なっている。  日立グループ・野村証券グループがそうであり、ことに日立グループはグループとしての戦 略的な子会社経営の実行のためのひとつの手段として選択していると考えられる。すなわちグ ループ経営の視点から、子会社管理の機動的な手段として委員会設置会社を選択していると察 せられる。つまり、子会社化を実践していく際に委員会設置会社を選択していると子会社への 幹部派遣を実施する際に、社外取締役に関する会社法上の規定から好都合だったということで ある。  また、もともと外資系の傘下にあって、その外資系親会社の経営モデルと調和させんがため に委員会設置会社を選択しているとおもわれる企業もある。その典型が新生銀行や西友、等で ある。  また、(株)カネボウ化粧品のように委員会設置会社に移行しつつも、その後、花王グルー 全体 日立グループ 野村グループ 一部上場 53社 15社 1社 二部上場 4社 1社 0社 その他上場 15社 0社 0社 非上場 37社 1社 13社 合計 109社 17社 14社

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プに編入されることによって、編入先の会社機関に追随して、監査役会設置会社に再移行した 会社もある。つまるところ外資系企業グループであるのか、あるいは国内の伝統的な監査役会 設置会社に編入されるかによってのみ、当該企業の会社機関の選択がなされているにすぎない。  このようにコーポレートガバナンス改革という委員会設置会社本来の趣旨・目的からする選 択そのものもきわめて少ないといえる。  それゆえ、例えば、日立グループは完全子会社化を実践していくのだが、委員会設置会社を 選択しても監査役会設置会社に再移行していかざるをえないグループ会社もある。日立エーア イシー(株)・日立化成商事(株)・日立ハウステック(株)などは、再び監査役会設置会社に 再移行した。  尚、こうした会社とは別に委員会設置会社を選択しているユニークな会社もある。ピープ ル・ノジマ、等の会社である。かつての商法下における委員会等設置会社はみなし大会社とい う適用があったが、会社法のもとでは基本的に会社の規模が問われることはない。また、取締 役会と会計監査人とを置く会社は、定款によって委員会設置会社を選択できるものとして会社 法は規定している。  ここで、会社の規模がきわめて小さいベンチャー企業の(株)ピープルについてみておこ う。(株)ピープルは、2008年1月現在、従業員37人・資本金3880万円、株主1297名の会社で ある。経営の内容は玩具の開発に重点投資するベンチャー企業で、JASDAQに上場している。 こうした規模の小さい会社の会社機関をみると、取締役会・執行役と三委員会とのメンバーに かなりの重複があることがわかる。  ピープルの実際の取締役会のメンバーを、A・B・C・D・E・Fとする。このうち、取締 役会における社内取締役が、A・B、取締役会における社外取締役がC・D・E・Fである。 そしてピープルの執行役は3名からなり執行役会がある。執行役会のうち、代表執行役がA・ Bであり、残り1名の執行役は取締役会に属さないGである。  さらに監査委員会のメンバーをみると、C・D・E・Fとなっている。また、報酬委員会の メンバーは、C・D・Bである。最後に、指名委員会のメンバーは、E・D・Aとなっている。  このようにみていくと、きわめて小規模な会社が委員会設置会社を選択した場合、監督と執 行(実行)との分離からして会社経営を透明化するという趣旨にマッチしているのかどうかは 論者の判断によるほかはないであろう。次のように簡潔に図式化するとより明らかとなる。 (図-5を参照) 「図-5」

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 図をみると、19のポストのうち、兼任によって7名の人数でまかなうことかできることを示 している。ことに監査委員会(C・D・E・F)のうち、そのまま(C・D・E・F)として 取締役会の社外取締役となり、三委員会のうちの残りの委員会においても兼任していることが わかる。  また、こうした有力企業が選択した後に、これに続いて委員会設置会社を選択している有力 企業が、現在のところあらわれていない。 (表-2)委員会設置会社を選択している主な企業  次に株式会社東京証券取引所による『東証上場会社 コーポレートガバナンス白書2007』 (2007年3月)による調査から、委員会設置会社に関わる状況を検討してみよう。この調査の 対象は、2006年10月末における東証上場企業(一部・二部・東証マザーズ)である。委員会設 置会社を選択している上場会社そのものがきわめて少ないことには留意しながらも、このいわ ゆる東証ガバナンス白書によると、次のような特徴を列挙できる。 ①、(連結)売上高・(連結)従業員・(連結)子会社数が多い会社ほど、委員会設置会社を選 択している会社の割合が高い。 ②、取締役会議長の属性について、監査役設置会社においては社長が取締役会議長を努める割 合が約82%。委員会設置会社では、会長が議長を務める割合が約54%である。 また、東証一部においては、(連結)従業員・(連結)売上高・(連結)子会社数が多い会社、 すなわち規模の大きい会社ほど会長が取締役会議長を努める割合が高い。 ③、三つの各委員会における社外取締役の比率は次のとおりである。指名委員会で約69%、報 酬委員会で約71%、監査委員会で約79%である。残りはそれぞれ社内取締役となっている。監 査委員においては、全員がその会社の執行役・使用人および子会社の業務執行取締役・執行 役・使用人でないことか求められているからである。 また、社外取締役が委員長を務める比率は、監査委員会において約48%、報酬委員会において 約44%、指名委員会において約41%である。 ④、最も注目すべき調査結果は次のようなことであろう。すなわち制度上(法定されている) の取締役会・監査役(会)・委員会設置会社における委員会との関連で、「特にそうした機能を 強化又は代替するプロセスを各社の実情に合わせて導入するなどの工夫を行う会社が少なから ず存在する」(報告書、32頁)との考えから調査していることである。  報告書がこのように述べていることは注目に値するし、同時に、次のようなことをいわば慣 性としてうけとられていることだろう。  すなわち我が国企業の業務執行においては、(法定されている)制度上の取締役会(および 代表取締役)による業務執行に対して事前的・実質的に代替するものとして常務会、等が存在 しているといわれる。この任意の機関としての常務会は、我が国企業の歴史的事情(敗戦によ ソニー HOYA オリックス コニカミノルタホールディングス 東芝 三菱電機 日立グループ 野村證券グループ

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る財閥解体と、ことにGHQによる会社経営の民主化政策[労働組合の容認・株主権の強化な ど]とのその後の有力企業[経営者]との拮抗関係など)を濃厚に反映しながら形成されて いったと考えられている。  そして我が国の企業経営、ことに監督と執行(業務執行)といったコーポレートガバナンス 問題に関わる文脈においては、取締役会の背後に事前的・実質的にあるいは代替的に機能する ものとして常務会、等の役割を考慮にいれることは必須である。しかし、任意の機関であるこ と、また各社の実情に対応して種差があること、そして何よりもその詳細については公表され るという性格のものではないだけにいよいよ注目されるところとなる。  そこでこうした常務会・経営会議に言及している会社の割合は、経営会議=約43%、常務会 約14%であった。また、執行役員制度の導入については約41%である。  さらに広く経営全般に対するアドバイスや評価を行うことを目的とした機関としての諮問委 員会等(具体的には、「アドバイザリー」・「懇談会」・「協議会」・「諮問」)について約12%が言 及していた。  尚、かかる取締役会の背後に事前的・実質的にあるいは代替的に機能するものとして常務 会・経営会議、等の役割については、若干のケースを参照しながら検討する。その際、問題と されるのは、いうまでもなく何故、委員会設置会社の導入はきわめて少ないのかということで ある。  そこで以上の検討をふまえたうえで、委員会設置会社の導入が何故、極端に少ないのかを次 章の会社機構論でさらに考察していこう。 4、会社機構論  これまでの検討から、最終章では、次のことを展開していきたい。すでにのべたように、い わゆるコーポレートガバナンス論議といわれるものは、会社主権論と会社機構論とに大別され た。現在の状況のように、マーケット主義・貯蓄から投資へ・規制緩和・株主資本主義・株主 利益・株主の富の極大化、等々の言葉が乱舞していると、実際に利潤を生み出すところの現実 資本の次元すなわち会社機構論がいつのまにか背後に退く危険性が大である。  そこでまず、改めて筆者のイメージする会社機構論の一般的原理を提示し、かつ、筆者の総 体的なコーポレートガバナンス観をのべておく。  そして本稿の一貫した問題意識であった委員会設置会社に関わる問題について検討していこ う。 4-1、会社機構論の原理  コーポレートガバナンス論議に関わる委員会設置会社の選択に関わる問題を、次のようなス ケルトンにおいてとらえている。このスケルトンについて述べておこう。その際、「図-1」 を参照しよう。  「図-1」で、現実的対象として扱う株式会社は、所有と経営が分離した大規模な公開株式 会社であり、「公開株式会社制度=株式会社+証券市場」としてとらえられるものである。ま た、当該の株式会社は財を産出するメーカーのようなタイプを想定しよう。また、企業金融に

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ついては、証券市場のみを考えることにしよう(借り入れを捨象しているのではない)。  この株式会社は、現実資本(利潤を生み出す資本)と株式擬制資本(証券取引)からなる。 そして資本制経済における企業は、運動の帰結として利潤(付加価値=ΔV〔デルタVとす る〕)の獲得を使命としている。そしてこの図において、資本の運動とともに、矢印が、①→ ②→③→④(④→①→②……)と反復循環している。  ①と②は、生産(商品による商品の生産)した財を消費者に販売するという企業の主要な活 動とともに当該企業の利害関係者との関わりを示し、②は獲得された付加価値=ΔVの株主へ の還元を表現している。かかる①・②の企業活動から、諸株主が当該会社にどのようにコミッ トするのかを③で表現している。  そして④は、様々な法・ルール・原則・規制・勧告、等を通して企業が会社機構のうちに体 現した企業改革(いわゆるコーポレートガバナンス改革)の成果を通して、新たな会社機構の もとで産出された付加価値=ΔVを表す。これを簡潔にΔVCG(デルタVCG=ΔVCG= Value creation by corporate governance〔コーポレートガバナンス改革をともなった付加価値〕) とする。  繰り返すが、資本制経済における企業は、運動の帰結として利潤(付加価値=ΔV〔デルタ Vとする〕)の獲得を使命としている。それゆえ、付加価値=ΔVの創出と企業改革(ひいて はコーポレートガバナンス改革)との関係は、「効率性」(より大なる付加価値=ΔVの創出) と「公正性・健全性・透明性」との拮抗関係としてとらえられよう。  当該企業が、なんらかの企業改革(ひいてはコーポレートガバナンス改革)の選択肢を受け 入れ、それを体現したのならば、本来の付加価値=ΔVとの比較考量によってΔVCGを産出 しようと努力するだろう。「効率性」と「公正性・健全性・透明性」の両者において、ともに 満足な結果がもたらされるからこそ、ある選択肢を受容するだろう。  あるいは、制度設計が相当程度、異なる場での事業展開においては、本来の付加価値=ΔV を一定程度、犠牲にしてもある選択肢を受容することはあるだろう(結果として、ΔVCG< ΔV)。  しかし、一般に、「効率性」と「公正性・健全性・透明性」との拮抗関係からして、資本制 経済における企業が、本来の付加価値=ΔVを犠牲にしてまで、ある企業改革(ひいてはコー ポレートガバナンス改革)の選択肢を受け入れるとは判定しがたい。もちろん、その付加価値 =ΔVが、法令違反の次元を伴うケースは論外ではあるが。  そうするとこの図からも推測できるように、これまでのいわゆるコーポレートガバナンス論 議の主要な中身は、A(会社主権論)やB(会社機構論。これまで会社機関論が中心。)、それ に伝統的な企業の社会的責任論との関連でCSRが展開されてきた。  A(会社主権論)とB(会社機構論)は、もともとメダルの両面の関係にあるが、機関投資 家の台頭(株主行動主義)や「敵対的企業買収と防衛策」、等の新たな問題が提起されるにい たっている。CSRも企業のステークホルダーを考察するうえで無視できない分野ではある。 このようにコーポレートガバナンス論議を整理していくと、本稿の問題意識である「何故、委 員会設置会社の選択が少ないのか」ということは、図のうちのA・B・Cの中で、直接的には B(会社機構論)に関わることであろう。

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 そして、B(会社機構論)はこれまでA(会社主権論)とメダルの両面ともいうべき関係と して、会社機関論として議論されてきた。しかし、問題は当該企業のピラミッドの頂点に位置 するトップマネジメントのうちの取締役(会)にのみ関わるものではないと推測される。  取締役会(代表取締役)から全般経営層に続いて、ミドルマネジメントから現場管理者、ひ いては企業内分業の現場の次元にまで関わる経営管理・組織機構のうちに、「何故、委員会設 置会社の選択が少ないのか」という解答がみいだされるのではないのか。このことを筆者は、 次のようなア~オのようなイメージでとらえている。 ア、一定の規模を有する企業組織をひとつの三角形(ピラミッド)とみなせば、いわゆるトッ プマネジメント(層)は、抽象的には「考える」層であり、その下位に現場(一定の階層 からなる執行=実行の担い手が活動する場)が存在する。 イ、アと同様に一定の規模を有するひとつの三角形(ピラミッド)からなる企業組織において は、社会的分業のもとでの企業内分業が存在し、必然的に時間差を伴う調整が不可欠とな る。調整は縦横的な検討を伴い、解決には時間を伴うが、基本的には結果としてヒエラル キー的に実行されるだろう。最終的には、取締役会の意思決定(了解)として。 ウ、ア・イからして、企業組織内に生じた諸関係・諸事情・諸問題ことに重要な問題(ことに 重要だとする選択)を解決すべく、三角形の底辺および中位から上位(トップマネジメン ト〔層〕)への伝達はどのようにしてなされるのか。おそらくそこにはなんらかの、ほど よい層にいる管理者による調整(少なくとも正確な情報整理)が不可欠となろう。この 「ほどよい」ということに、しばしば指摘される使用人兼務取締役あるいはその亜種のよ うな担い手が発生する原因となるのではないのか。もちろんその「ほどよさ」は当該の企 業そのもの(何を産出する企業であるのか)や企業組織の具体的有り様(職能別・事業 別・カンパニー制・持株会社、等)如何であろう。 エ、そしてア~ウを基礎として、我が国の多くの企業では伝統的に次のようなスタイルで調整 (問題処理)がなされていったといわれる。それが取締役会(代表取締役)を実質上、補 佐する役割としての常務会(全般的管理者層ともいわれる)や経営会議、等である。かか る常務会や経営会議において既に一定程度決着済みの議案・解決策、等を取締役会におい て追認するにすぎないといわれている。それゆえ我が国においては、株主総会のみならず 取締役会においても、その無機能化・形骸化がしばしば主張される。と同時に、イでのべ たヒエラルキー的な実行も、実際は意思決定過程が不透明であり、責任の所在も多分にあ いまいにされる構造であるとしばしば評価されている。 オ、これこそ決定的に重要であるのだが、それでもこのような伝統的な会社経営=業務執行か ら依然として脱却しない(旧来型の執行役員制度を上場企業の95%が選択)というのな ら、我が国の企業経営者は、コーポレートガバナンス問題に対して次のような理解をもっ ているのではないのかという推測ができるのではないのか。    すなわち、コーポレートガバナンス問題とは、根源的に、取締役(経営者)が株主との 委託-受託関係にあることから発生する文脈のものとしてはとらえられていないのではな いか、ということである。ことに「図-1」のA(会社主権論)の問題としてとらえるこ とに希薄ではないのか。

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 少なくとも、そのような文脈では理解されていないということではないのか。あるいはあっ たにしても、かかる根源的な次元からするガバナンス問題に関して、ある種の消極的な視点・ 態度が見いだされるのではないのか。  つまり、委託-受託関係という受託経営者層(trusteeship management)といった問題意識よ りも、それが背後に退いた形での個別企業内部でのよりよい経営そのもの(その目的として は、究極的には効率性指標としてのΔVの拡大であろう)を機軸にしているのではないのか④  そうすると、もっといえば一般に理解されているコーポレートガバナンス問題、すなわちA (会社主権論)でもなく、あるいはA(会社主権論)とB(会社機構論)をメダルの両面とし てでもなく、特有の二分法が存在しているともいえる。  しかし、繰り返すが、このことはとりもなおさず資本制経済における企業として、究極的に は効率性指標としてのΔVの拡大を意識しているということであろう。あるいは、A(会社主 権論)といった次元をよくよく考慮にいれたとしても、B(会社機構論)の次元を重視した経 営のスタンスにある。というよりは、経営者として当然の仕事をしているとも判断できる。 4-2、取締役会の無機能化~制度と現実~  先の東証調査にもあるように,我が国では,取締役会が実行すべき機能の実質的担い手とし て常務会が存在するといわれる。最近では経営会議という名称が多いようである。  本稿の課題である、「何故、委員会設置会社の導入が少ないのか」という問に答える際、こ の経営会議・常務会なるものの存在理由を考察することが不可欠となる。この点を次のように 検討しよう。  ひとつはそれが発生した歴史的経緯であり、もうひとつは現実からの必要性、ということで ある。まず前者から検討してみよう。この点、日本がかのアジア太平洋戦争に敗北して、GH Qによる占領体制によって戦後を開始したことの意味である。同時に戦後の最初の商法である 昭和25年商法が米国型の会社機関を採用していることである。  こうした環境にあって、①、戦後の財閥解体等の占領政策との対抗関係、②、GHQによる 会社経営の民主化、ことに株主権の強化、③、これらに対抗すべき解体後の新経営者層が企業 の自立性を強化すべき努力せざるをえなかった。そして同時に米国型の会社機関の特徴たる意 思決定と執行との分離という方式も、当時の経営管理者層にとってそう簡単には受容できな かったであろう。  ところが皮肉なことに、むしろ米国において執行の担い手たるオフィサー達が意思決定を し、それを取締役会が承認して、かつオフィサーが業務執行するという方式をそれなりに理解 していたのかもしれない。  それゆえ米国の会社経営と日本の会社経営の仕組みは、現実(あるいは結果として)におい て驚くほど相似であるとしばしば評価されるところである⑤  次に経営会議・常務会のような存在が現実に発生するのは、文字通り、現実が教えてくれる ところである。こうした点を理解するには、あれこれの裁判を材料とするといっそう明確にな る。ここでは、かの大和銀行事件に関する裁判をみておこう。  この事件に関して、裁判所は、「大和銀行のような巨大な組織を有する大規模な企業におい

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ては、頭取あるいは副頭取が個々の業務についてつぶさに監督することは、効率的かつ合理的 な経営という観点から適当でないのはもとより、可能でもない」、としている。 そしてポイントは次の箇所である。  「取締役の行った情報収集・分析、検討などに不足や不備がなかったかどうかについては、 分業と権限の委任により広汎かつ専門的な業務の効率的な遂行を可能とする大規模組織におけ る意志決定の特質が考慮に入れられるべきであり、下部組織が求める決裁について、意志決定 権者が、自ら新たに情報を収集・分析し、その内容をはじめから検討し直すことは現実的では なく、下部組織の行った情報収集・分析、検討を基礎として自らの判断を行うことが許される べきである」、と。  そうすると重要な案件であるほど、取締役会に直近のなんらかの組織が求める決裁という形 で最終的に承認されていくだろう。あるいは逆にいえば、取締役会の意思決定とされるもの は、同時に監督機能を十分に内包した概念ということになる。  こうして一定程度の組織においては、取締役あるいは取締役会レベルと下部組織との間にお いて、なんらかの柔軟な接合体が必須ということになる。  既にみたように、資本制経済における企業は、M-C…P…C’-M’(M=貨幣、C=商 品、…P…=生産過程、M’-M=利潤=ΔV=付加価値としている)という運動を反復循環 している。かかるゴーイングコンサーンのありようからすると、意思決定には機動性が要求さ れるところである。そして法もまた、かかる判断の基礎に、「信頼の権利」をトップマネジメ ントに付与していると考えられる。  ところで、こうした次元の問題を、事例をみながらいま少し検討してみよう。 事例1、執行役員制度の導入時の東芝法務部長の発言 「そもそも当社の出発点は、『日本では取締役会が眠っていた』という、まさにそこなのです ね。当社の場合、執行部の意思決定の場としましては、常務以上で構成される経営会議があり まして、ここで議論が尽くされ社長が意思決定をしていました。それを取締役会で形式的に オーソライズするという形でやってきたわけです。  しかし、それではいかにももったいない、やはり、取締役という経営監視機能を持ったポジ ションにある人がいるのであれば、その人たちにニュートラルな視点も入れてもっと議論をし てもらって、クオリティの高い経営判断をしてもらいたいと考えたわけです。」 (商事法務研究会編『執行役員制の実施事例』別冊商事法務№214、平成10年) 事例2、委員会設置会社導入後の東芝法務部長の発言⑥ 「委員会型を採用した場合、意思決定が取締役会にほとんど行かなくなり、日常的な経営の意 思決定は経営会議で行うことになります。委員会型を採用していない普通の会社では、いわゆ る経営資源に絡む重要な事項、人、モノ、金、組織に関する意思決定は取締役会が行います。  ところが委員会型では、これらの多くを執行役、つまり経営会議に任せるというコンセプト になります。つまり、普通の会社では、執行サイドが意思決定しても、最後は取締役会でもう 一度意思決定するということで、取締役会が『最後の砦』になっている。委員会型ではこれが ないわけです。ですから、委員会型の会社では、執行サイドの意思決定の前に法務等のリスク のスクリーニングをきちんと行うことが非常に重要になってくる。」

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