島根半島西部の中新世泥質岩層序と日本海拡大初期の水域 環境
野村律夫(島根大・教育,島根半島・宍道湖中海ジオパー ク)
Miocene stratigraphy of argillaceous sediments in the western Shimane Peninsula and early paleoenviornment in the formation of the Sea of Japan.
Ritsuo Nomura (Shimane Univ.; Shimane Peninsula, Shinjiko-Nakaumi Geopark) 島根半島西部の大社山塊は著しい中新統の火山岩類の発達によって特徴 づけられているが,山塊の南西部などには黒色頁岩層が分布している。この 黒色頁岩は流紋岩の溶岩やその火山砕屑物(火山性二次堆積岩,autoclastic fragments を含む)と指交関係にあることから,島根半島に広く分布する成 相寺層として扱われてきた(通商産業省,1967;鹿野ほか,1998)。しかし, 最近になって,流紋岩質礫岩にシジミ化石が発見され,成相寺層の下位層の 古浦層への対比が指摘されている(成相・野村,2017)。また,細粒砂岩と 頁岩のラミナ状互層や灰青色砂岩層の挟在,リップルマーク,小型の生痕化 石の存在など,半島中東部の成相寺層の黒色頁岩にはみられない特徴がある。 昨年の大社湾岸の黒色頁岩に関する講演に引き続き,この地域の泥質岩につ いて,野村ほか(2018)への対比を行い,有孔虫化石からみた日本海形成初 期の古環境について言及したい。 【岩相層序】 島根半島西部での古浦層は灰青色の中粒から細粒の砂岩を主体として, 山地南斜面の狭い範囲に分布している。この砂岩層からは,かつて松岡・ 岡本(1999)によって,海成~非海成の貝化石が報告されており,古浦層 としての位置づけは明確である。似た岩相が大社港の近くにもみられるが, 黒色頁岩層を伴っていることや流紋岩の火砕岩を頻繁に挟むことから成相 寺層として扱われてきた。しかし,数 10 メートルの厚さとなる黒色頁岩層 の分布は,山塊の南西斜面と笹子島,追石鼻に限られている。これらの地 域では乱泥流堆積物の特徴を有しており,層準についても笹子島と追石鼻 の南北 2 地点は層位的隔たりが少ないとみられる。 一方,北斜面の流紋岩火砕岩中に挟在する黒色頁岩は,日御碕を除き鷺 浦から唐川地域に東西にわたって連続して分布しているが,その層厚は限 られている。南斜面の黒色頁岩より上位に位置している。 【底生有孔虫化石層序】 試料は,できる限り風化による影響を受けていない黒色頁岩を採取し, テトラフェニルボロンナトリウム法を用いて処理した。結果は,昨年の結 果と同様に,大社湾岸や南西南斜面に分布する黒色頁岩からは,全く有孔 虫化石を見つけることができなかった。しかし,日御碕神社付近の頁岩や 鷺浦から唐川に分布する頁岩からは膠着質有孔虫化石(保存の悪い Cribrostomoides crassimargo など)が産出した。 このような地域地質の結果から以下のことが指摘できる。 ❶半島西部でも無化石帯と上位の化石帯が認され,その境界は流紋岩火砕岩 のなかにある。 ❷岩相層序と生層序を組み合わせると,大社西部の成相寺層下部の黒色頁岩 は,古浦層(上部)の概念に含まれる。そして, ODP127/128 と島根半島の有孔虫化石帯(野村ほか,2018)を参照すると, ❸日本海の拡大初期の約 17.75Ma 頃に海洋環境が大きく変化したこと(汽水 →海洋), ❹漸深海帯に相当する古水深がそれ以前に形成されていたことを示す。古浦 層の層序変化(砂岩層→含礫砂岩泥岩互層→頁岩層への変化)は急激な堆積 盆地の沈降によるものとみられる。 引用文献 通商産業省,1967,昭和 41 年度広域調査報告書;ODP127/128, 1990;鹿野 和彦ほか,1998,大社地域の地質.地質調査所;松岡敬二・岡本和夫,1999, 豊橋市自然史博研報,9,25-31.成相俊明・野村律夫,2017,島根県地学会 誌,32,13-15;野村律夫ほか,2018,地質学雑誌,124(2),95-109.