1 【資料解説】
皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)
天理大学教授浜
田
秀
六、
『小箋記聞』の構造と開物プロセス
公巌『易学開物小箋記聞』は『易学開物小箋』の解 説 書 で あ る。 『 小 箋 』 の 各 図 表 は 序 文 の 後 に 以 下 の 順 序で並んでいる。 A七均分部図 B七均画象 C加画式 D蓍列画象 E勢作斜直之図 F近数開標八卦分配図 G知遠近法 H遠数開標八卦分配図 I取喩実法 J近数八卦置式 K遠数八卦置式 L八卦之情因四終之変以各生其意之軽重 M開字物之例・音記籌色図 こ れ に 対 し『 小 箋 記 聞 』 の 各 章 の 章 題 ( 翻 刻 で は ゴ チ ッ ク で 表 示 ) を 見 れ ば、 ほ ぼ『 小 箋 』 に 対 応 し て い るものの、いくらかのずれが認められる。その部分を 整理しておこう。 まず『小箋』A「七均分部図」については『小箋記 聞』の側に対応する章題が見られないが、巻頭の文章 は『小箋』の序文及び七均分部図の解説と見ることが できるので、実質的に対応しているといえる。以下L までは『小箋』と『小箋記聞』の間の対応は保持され ている。 『 小 箋 記 聞 』 に は、 L と M の 間 に「 遠 近 数 八 卦 置 式 之余弁」という一章が設けられている。これは直接対2 応 す る 図 表 が『 小 箋 』 に 見 ら れ な い。 『 小 箋 記 聞 』 に よる補足的な説明であり「 余弁 0 0 」という名称が選択さ れる所以である。 『小箋記聞』 の識語はこの 「遠近数八卦置式之余弁」 の章末、廿一ウにある。おそらく元の『小箋記聞』は この「余弁」の章で完結しており、公巌は『小箋』の M「開字物之例」の部分に対しては解説を与えなかっ たのである。 『 小 箋 』 M「 開 字 物 之 例 」 は「 均 」 字 を 例 と し て 開 物 ( 音 義 分 析 ) を 行 っ た も の で、 「 音 記 籌 色 図 」 が 付 された部分である。恵広本『小箋記聞』は識語のあと に も 開 物 の 例 が 続 く が ( 廿 一 ウ 貼 紙、 廿 二 オ 以 下 ) 、 こ れらは、公巌の記述を補足すべく筆録者恵広が追記し たものと考えられる。 『 小 箋 記 聞 』 読 解 に は 詳 細 な 注 解 が 必 要 で あ る が、 記述は難解であり、またあまりに煩瑣になるため、こ こでは『小箋』の機能の概略を記すにとどめておこう。 A七均分部図 七均分部図は十六韻摂を宮・商・角・徴・羽・ 変徴・変宮の七均に七分類する。 B七均画象 七 均 画 象 は 七 均 の そ れ ぞ れ に 音 義 と 画 象 ( 均 象 ) を 与 え る。 ま た 七 均 を 上 均・ 下 均 の 二 均 に 分類する。 C加画式 加 画 式 は 加 画 ( 清 濁 ) を 爻・ 等・ 物・ 文 に 分 け、 八 勢 ( 内 外 開 合 ) と の 組 み 合 わ せ に よ り 音 義 と 画象をそれぞれ導く。 D蓍列画象 蓍 列 画 象 は 蓍 列 ( 声 母 ) を 格・ 作・ 含・ 于・ 循・体・捭・離に八分類し、音義と画象を与え る、また蓍列を上動・下動に二分する。 E勢作斜直之図 「音 記 籌 色 図 」 の 画 象 の 置 き 方 ( 斜 直 ) に 関 わ る図である。八勢を元にして、八勢の音義と音 記籌色図の斜直を決める。 G知遠近法 「遠 近 」 は 直 接 に 音 韻 に は 対 応 し な い、 媒 介 的 概念である。これを蓍列と八勢の組合わせより 求める。 F近数 \ H遠数開標八卦分配図
3 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) 遠近の違いに従い、二つの分配図を使い分ける。 八 勢 と 開 標 ( 四 声 ) の 組 合 せ か ら 八 卦 の 音 義 を 導く。この音義には八卦が一ないし二含まれる。 I取喩実法 F・Hで求めた開標の音義末尾の八卦と、喩実 ( 四 等 ) の 組 合 せ か ら 八 卦 分 配 図 の 四 方、 東・ 西・南・北のどのカテゴリーを見るべきかを決 める。 F近数 \ H遠数開標八卦分配図 「取 喩 実 法 」 で 導 い た 四 方 の カ テ ゴ リ ー と 遠 近・喩実の組合せから喩実の八卦の音義を求め る。 J近数 \ K遠数八卦置式 遠近・八勢・開標の八卦、喩実の八卦から、開 標・ 喩 実 そ れ ぞ れ の 八 卦 の 画 象 ( 卦 象 ) を 求 め る。 開物の操作は複雑だが、その本質は音韻から音義・ 音記を導く作業である。これは音韻要素を入力とし、 最終的に音義・音記の出力を目的とした写像として考 え る こ と が で き る。 『 小 箋 』 の 本 質 は こ の 音 義 分 析 の 手続きをしめしたものであり、個々の図表はいわばそ れぞれの写像の演算として機能する。 例 え ば、 前 稿 で 述 べ た よ う に、 『 小 箋 』 の A「 七 均 分部図」を参照すれば「均」字の音韻要素「臻摂」か ら「商均」なる開物学概念を得ることができる。この ことは『小箋』M「開字物之例」に「臻摂為商均」と 述べられていることからも確認できる。この「xをy と為す」の論理を以下例えば 〔A七均分部図〕 (臻摂) →商均 と 表 示 す る こ と に し よ う。 〔 〕 内 は 写 像 と し て 機 能 す る『 小 箋 』 の 該 当 部 分 で あ る。 「 臻 摂 」「 商 均 」 と いった個別のカテゴリーを離れ、より一般的な上位概 念で示せば 〔A七均分部図〕 (十六韻摂) →七均 ということになる。つまりA「七均分部図」は韻摂か ら七均への写像の演算を示すものとして理解できる。 『小箋』A~Kを同様の記法で書いてみよう。 〔A七均分部図〕 (十六韻摂) → 七均 〔B七均画象〕 ( 七均 ) →七均の画象 (均象) ・七均の音義
〔C加画式〕4 (声母の清濁,八勢) →加画の画象・加画の音義 〔D蓍列画象〕 (声母の七音) →蓍列の画象・蓍列の音義 〔E勢作斜直之図〕 (八勢) →八勢の斜直の図・八勢の音義 〔G知遠近法〕 (蓍列,八勢) → 遠近 〔F近数 \ H遠数開標八卦分配図〕 ( 遠近 ,八勢,開標) → 開標の八卦 〔I取喩実法〕 ( 開標の八卦 の最終字,喩実) → 四方 〔F近数 \ H遠数開標八卦分配図〕 ( 遠近 , 四方 ,喩実) → 喩実の八卦 〔 J 近 数 \ K 遠 数 八 卦 置 式 〕 ( 遠 近 , 八 勢, 開 標 \ 喩 実 の 八卦 ) →開標 \ 喩実の八卦の画象 (卦象) L「八卦之情因四終之変以各生其意之軽重」につい ては、現段階でもその機能は明確でなく、上記から省 いている。またF「近数開標八卦分配図」とH「遠数 開標八卦分配図」は開標の八卦と喩実の八卦の二回使 用されることに注意されたい。 下線が付されているのは、アウトプットされた結果 をインプットする必要がある媒介的な要素である。例 えば、Aにより十六韻摂から七均がアウトプットされ るが、その七均をBにインプットすれば七均の画象と 音義が求められる。 すなわち 〔A七均分部図〕 (十六韻摂) → 七均 でアウトプットされた「七均」を、 〔B七均画象〕 ( 七均 ) →七均の画象 (均象) ・七均の音義 に代入できる。A・Bを合成すれば、写像 〔B七均画象〕 (〔A七均分部図〕 (十六韻摂) ) →七均の画象 (均象) ・七均の音義 が求められる。この作業を続ければ、ひとつの長大な 写像を得る。音義・画象を求める過程は複雑・長大な ものとなるが、音韻のインプットに対し音義と画象を 出力するというその本質はシンプルである。 ここで興味深いのは恵広による「追記」の部分であ る。開物は淇園学派の密儀であり、その詳細な過程に ついては分からないことが多い。特に、音義の確定後 には、個別の文字の解釈を得る作業が必要となるはず
5 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) だが、上述のような機械的処理は不可能である。管見 で は、 『 小 箋 記 聞 』 ほ ど 詳 細 に 開 物 の プ ロ セ ス が 開 示 さ れ て い る 事 例 は 限 ら れ て お り、 「 追 記 」 で 示 さ れ て いる開物の事例は、その意味でも貴重なものと言える。
七、音記籌色図について
以 下 で は、 特 に M に 付 さ れ た「 音 記 籌 色 図 」 ( 音 記 と も ) と 呼 ば れ る 特 異 な 図 に 焦 点 を あ て て 記 述 し て い き た い。 こ の「 音 記 籌 色 図 」 は、 『 易 学 開 物 』、 『 開 物 三 十 二 例 』 ( 国 会 図 書 館 所 蔵 ) な ど 開 物 学 関 係 の 写 本 類 に見られるものだが、刊本では示されないため、開物 学 の 部 外 者 の 目 に は 触 れ る こ と は な か っ た。 『 虚 字 詳 解』 写本 (筑波大学付属図書館) 、『助字詳解』 写本 (天 理 図 書 館 ) に は、 「 開 物 」 の プ ロ セ ス に 関 わ る 音 記 籌 色図が書き込まれているが、版行された『虚字詳解』 『助字詳解』にはこの記号は示されない。 『詩経一枝附 録』は稀有な例外である。 『 小 箋 』 を 扱 っ た 浜 田 一 九 九 三 で も、 音 義 の プ ロ セ スについて一応の分析はできたものの、音記の部分に 関しては、ほとんど理解することができなかった。現 時 点 で も す べ て が 解 明 で き た わ け で は な い が、 『 小 箋 記聞』の記述をたどることによりいくらかは理解可能 となった。 音記籌色図の本質を一言で言えば、漢字音を記号化 した図ということになる。漢字音の分析は、漢字の組 合せによる反切、もしくは韻図によるのが通常の方法 であった。淇園はいわば第三の方法として、この特異 な発音記号を編み出したのである。この「記号」は易 図の論理で貫かれている。つまり表示されている形は 規約により選択された恣意的な表示ではなく、対象と 類似性により必然的に結びついている、意味を持つ形 なのである。パース記号論の用語を借りれば、音記籌 色図はシンボルというよりは、むしろイコンに近い。 淇園はこの形の論理についてほとんど説明していない が、形の意味に関わる議論を積極的に示しているとこ ろは、 『小箋記聞』の特異なところであろう。 音記籌色図は籌象を示す小さな記号の組合せで表現 される。この場合の籌象は「画象」と呼ばれることが 多 い。 『 小 箋 』 の B 七 均 画 象・ C 加 画 式・ D 蓍 列 画 象・J近数八卦置式・K遠数八卦置式に示されている の は、 音 記 籌 色 図 を 構 成 す る た め の 画 象 で あ る。 「 七 均」の画象は「均象」 、「八卦置式」に描かれている開6 標・喩実の画象は八卦を元にしているため「卦象」と も 呼 ば れ る。 『 小 箋 』 の 目 的 の 一 つ が 音 記 籌 色 図 の 構 成 に あ る 以 上、 『 小 箋 記 聞 』 の 分 析 は こ の 画 象 の 論 理 と そ の 正 当 化 を 問 う こ と に な る。 し か し、 こ こ で は 『 小 箋 』 の い わ ば 技 術 的 な 叙 述 を 逐 一 た ど る こ と は な るべく避けて、音記籌色図に問題を限りたい。 七・一、音記籌色図の描き方 音記籌色図を描くためには先のA~Kの図表により 七均・蓍列・加画・開標・喩実の画象を求める必要が あるが、個別の画象を求めるだけでは完成しない。五 種の画象を具体的にどう構成するかということが重要 な問題となる。 音記籌色図をどう描くかということは、少なくとも 五つの要素を持っている。ア四角い空間内のどこに画 象を配置させるか、イ個々の画象をまっすぐに描くか 傾 か せ る か ( 斜 直 ) 、 ウ 複 数 画 象 の 上 下 関 係 を ど う す るか、エ画象本体を上下どちらの向きに描くか、オ画 象をどういう順番に描くか。特に開標・喩実の画象に ついてはイ・ウが問題となってくる。 まずア「空間配置の基本」について述べよう。これ は『易学開物』下巻の「籌色式」に示されている。恵 広本『易学開物』の「籌色式」を図1に示す。 最初に七均・蓍列の二種の画象を使用し、音記籌色 図の四隅を決定する。七均は「上均・下均」に二分さ れ る が、 「 上 均 」 の 画 象「 徴・ 羽・ 変 宮・ 変 徴 」 は 右 上 に、 「 下 均 」 の「 宮・ 商・ 角 」 は 右 下 に 置 か れ る。 蓍列 (記動) も 「上動・下動」 に二分されるが、 「上動」 の画象 「循・体・捭・裏」 は左上やや中央よりに、 「下 動」の「格・作・含・于」は左下に置かれる。 例えば「均」字の場合、七均は商均であり、下均、 よって画象 は右下に置く。また蓍列は「格」であり 下動、よって画象 は左下に置かれることになるが、 図1
7 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) Mの音記籌色図でもそのように描かれていることが確 認できよう。 音 記 籌 色 図 の 中 央 に は 残 り 三 種「 開 標・ 喩 実・ 四 終 」 の 画 象 が 置 か れ る こ と に な る が、 「 開 標・ 喩 実 」 については複雑な手続きが必要となる。これについて の『小箋記聞』の記述も分かりやすくはない。やはり 『 易 学 開 物 』 や 国 立 国 会 図 書 館 所 蔵『 開 物 三 十 二 例 』 の 開 物 例 か ら 帰 納 し つ つ、 『 小 箋 記 聞 』 の 記 述 を 照 ら し合わせて読み解く必要がある。ただし、 『易学開物』 は大量の写本が残されているものの、音記籌色図につ いては明らかに誤写と思われるものが多い。また京都 大学付属図書館所蔵の淇園自筆本『易学開物』は完成 前の草稿であり、開物の例を挙げない。したがって、 ここでの提案も、確定とは言えないことを了解された い。 開標と喩実は最終的にJ「近数八卦置式」K「遠数 八卦置式」で画象が決定される。これを枠内に置くと き は、 E「 勢 作 斜 直 之 図 」 を 参 照 し な が ら、 「 八 勢 」 の 違 い に よ っ て、 開 標 と 喩 実 そ れ ぞ れ の イ 斜 直 お よ び ウ画象間の上下関係を決める必要がある。 イ 斜 直 に つ い て は 八 勢 が「 開 」 の 場 合 は、 「 斜 」 に、 「 合 」 の 場 合 は「 直 」 に な る。 こ れ は「 勢 作 斜 直 図 」 の直方体の傾きによって表現されている。またウ上下 関係は「内合」 「外開」では開標が上で喩実が下、 「内 開 」「 外 合 」 で は 開 標 が 下 で 喩 実 が 上 の 組 み 合 わ せ と なるが、この上下関係も「勢作斜直図」で示されてい る。 「 均 」 字 の 場 合 な ら「 内 合 」 で あ る か ら E に 従 い 斜 直 は「 直 」、 上 下 関 係 は 開 標 を 上 に、 喩 実 を 下 に 垂 直 に描くことになる。M「音記籌色図」で「坎化離」と あるのが開標の画象、その下に「震化巽」とあるのが 喩 実 の 画 象 で い ず れ も「 直 」 の 形 で 描 か れ、 開 標 の 「坎化離」が上にあることを確認できよう。 このような煩雑な作業は、当然のことながらミスを 伴う。先に『易学開物』には誤写が多いことを述べた が、 『 小 箋 記 聞 』 も そ の 例 に 漏 れ な い。 十 五 オ・ 十 六 ウに見られる「乾」字の開標の画象は興味深い事例で ある。 まず「乾」字は遠数・外開・平声であり、H遠数開 標八卦分配図により開標の八卦は「震化巽」となる。 「震化巽」 の画象のアウトプットはK 「遠数八卦置式」 の 右 上「 神 」 の と こ ろ で 得 ら れ る ( 図 2) 。 と こ ろ で、
「8 乾 」 字 の 八 勢 は「 外 開 0 」 で あ る か ら E に 従 い、 音 記 籌色図に書き込むとき斜直は「斜」で開標の上に描く 必要がある。確かに十五オに書き込まれた「乾」字の 開標の画象は図2を四十五度ばかり左に傾けた「斜」 の 形 態 を 取 っ て い る ( 図 3) 。「 乾 」 字 の 開 標・ 喩 実 の 音記を本来「斜」に書くべきである事は、静嘉堂文庫 所蔵 『周易成卦解』 や国立国会図書館所蔵 『成卦俗釈』 に残された「乾」字の音記籌色図でも同様であること から確認できる。ところが十六ウの「乾」字の音記籌 色図では、開標の画象震化巽の部分を二本の斜線で消 したあと欄外上部に書き直している (図4) 。 これはいったん「直」で誤記したものを「斜」の形 に直しているのである。より正確に言えば、画象の下 半分、陰籌の部分は図3同様「斜」の形で描かれてい るのだが、上半分の陽籌の垂線の部分および横の「震 化巽」の文字が「直」に描かれてしまっている。欄外 の書き直しはそれを訂正しているが、図3に比べれば あまりうまく描けているとは言えない。 さて、上記の問題をさらに複雑にするのは「重勢」 の問題である。開物学で使用される『補正韻鑑』には、 「外 開合 4 4 」や、 「内 合開 4 4 」といった開と合が組み合わさ れた複合的なタイプが多く含まれる。開物学では「内 合 4 」のような開合が単一のものを「単勢」 、「外 開合 4 4 」 のような複合的なタイプを「重勢」と呼ぶ。重勢につ い て『 小 箋 』 は「 如 重 勢 則 右 為 開 標 左 為 喩 実 ( 重 勢 の 如きは則ち右を開標となし左を喩実と為す) 」 と述べるが、 図2 図4 図3
9 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田)『小箋記聞』十五オの画象 ([十五オA] ) に示してある ように、重勢の音記は横二行で書かれる。少し細く述 べれば、重勢の場合の斜直の別を確定する必要がある ([ 十 五 オ A ] の 場 合 は 両 方 と も 直 立 し た 形 で 描 か れ て い る) 。 『 小 箋 』 に は 重 勢 の 斜 直 に つ い て は 述 べ て い な い が、 『 易 学 開 物 解 』 に は 重 勢 も 含 め た 斜 直 の 指 定 が 示 さ れ ている。その背景となる考え方はおそらく以下のよう なものであった。例えば重勢の「外開合」の場合なら ば、これは「外開」+「外合」と二つの単勢に分解で きる。この前半部は開標を示し右側に、後半部は喩実 を示し左側に描く。それぞれの斜直は単勢の場合を組 み合わせて得られる。 「外開」の斜直は「斜」 、よって 右 側 の 開 標 の 画 象 は「 斜 」 に 描 く。 「 外 合 」 の 斜 直 は 「直」 、よって左側の喩実の画象は「直」に描く。 な お、 斜 直 の 図 で は「 開 標 」「 喩 実 」 の 語 が 上 下 逆 に描かれるものがある。エに関わる要素であるがこの 導き方は現時点では不明である。 以上音記籌色図の開標・喩実の画象の配置について 述べた。この画象のさらに左に加画の画象を置けば、 全体はほぼ完成する。重勢の場合は左側にある喩実の 画象のさらに左に描く。単勢の場合は、開標・喩実の 画象は縦に並ぶ訳だが、加画の画象は喩実の画象の左 に置き、斜直も喩実の画象と一致させ平行に書くのが 通 例 の よ う だ。 『 小 箋 』 M「 音 記 籌 色 図 」 で 喩 実 の 画 象「震化巽」の左に加画の画象「爻」が同様に「直」 の形で置かれているのを確認されたい。 七・二、画象配置の順番 画象は単に描けばよいというものではなく、オ「描 く 順 番 」 も 指 定 さ れ て い る。 『 小 箋 記 聞 』 で は 音 記 籌 色 図 の 描 き 順 を 示 し た と み ら れ る 数 字 が 二 十 三 ウ 「孝」字の音記籌色図 ([廿三ウA] ) に示されている。 それによれば画象は 一 「角均」 ⇨二 「爻」 ⇨三 「記動下動含」 ⇨四 「坤 形尚艮」⇨五「巽形尚乾」 の順番で描かれたことになる。これをより一般的な開 物学カテゴリーで表示すれば 一「 七 均 」 ⇨ 二「 加 画 ( 四 終 ) 」 ⇨ 三「 蓍 列 」 ⇨ 四「開標」⇨五「喩実」 ということになろう。画象を最終的にアウトプットす る機能を持つ『小箋』の図をこの順番に並べると、
10 一〔B七均画象〕⇨二〔C加画式〕⇨三〔D蓍列 画象〕⇨四・五〔J近数 \ K遠数八卦置式〕 ということになる。これは『小箋』の図を前から見た 順番と一致している。つまり『小箋』を順に見ながら 確定した画象をしかるべき配置で一ずつ置いていった と い う こ と が 分 か る の で あ る。 『 小 箋 』 が 開 物 早 見 表 であることがここからも分かる。 またこの順番は音義的分析としての開物とも合致す る。 『 小 箋 記 聞 』 に は 開 物 全 体 の プ ロ セ ス に つ い て の 記述がある。 開物の時は、七均四終八始八勢開標喩実四終と次 第するなり (「取喩実法」十七オ) 『易学開物解』 「開物諸画ヲ呼ブノ次序ノ事」 、『易学開 物』 「明開物呼諸画之次序」 、『象式大意』 「呼名之次序」 でもおおむねこの順番を示している。 これを加画と名ることは、音記のときに初に均と 加画と八始とを以て、文字の大義を尽すことなり、 爾るに八勢と開標〈四声〉喩実〈四等〉とを以て、 更に大義の中の義象を詳にするときに、その終り に復この加画の象を加ふることなり (「加画式」 七 ウ) これによってまとめれば、開物のプロセスには (1)七均+四終 (加画) +八始 (蓍列・記動) (2)八勢+開標+喩実+四終 (再呼加画) の二段階が存在するようである。ただし『小箋記聞』 七ウに引用された『易学開物』では「名ノ大義」を定 め る も の と し て「 均 画 」 と「 加 画 」 を 挙 げ ( 凡 ソ 均 画 ト 与 加 画 相 ―合 シ テ 、 以 作 二其 ノ 名 ノ 大 義 ヲ 一者 ナ リ 也 ) 、 八 始 を 含 め ていない。 以上音記籌色図を中心に解説を行ってきた。残念な がらこの入り組んだ操作が何を根拠にして生じたのか、 またそもそも音義分析の根拠はいかなるものかといっ た 基 本 的 な 事 が、 い ま だ 理 解 に は 至 っ て い な い。 「 開 物」という操作に注がれた膨大な労力とその意味する ところの解明は、まだかなり先のことと言わざるを得 ない。
八、凡例追記
本稿では前稿同様、先に対応する『易学開物小箋』 の 図 を 写 真 版 で 提 示 し、 そ の 後 に 対 応 す る『 小 箋 記 聞 』 本 文 の 翻 刻 を 提 示 す る。 『 小 箋 記 聞 』 各 章 の 章 題 は太ゴチックで書き、六節で示したアルファベットを11 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) 付 し た。 た だ し 最 終 章 の 章 題「 易 学 開 物 小 箋 記 聞 追 記」は私に付したものである。 画象の類はなるべく行内に収めたが、それが困難な ものは[ ]内に丁数と連番を付し、翻刻の末尾に一 括して掲載した。画象は陰陽を青・赤の対立で表記し て い る が や や 色 が 薄 く 見 え る の が 朱 筆 に よ る 赤 籌 ( 陽 爻に相当) である。 『 小 箋 記 聞 』 に は、 同 一 の 階 層 に 属 す る こ と を 示 す 記号が工夫されているが、類似の形の記号で示した。 七ウ「まづ清音……」八オ「次に爻等物文……」の上 に 付 さ れ て い る「
〽
」、 十 八 ウ 貼 紙 で 示 さ れ た 問 と 答が対であることを示す「 問)」・ 「 (答 」がそれに該当す る。 な お、 本 研 究 は JSPS 科 研 費 JP20K00118 、 及 び「 二 〇二〇年度天理大学 学術・研究・教育活動助成」の 助成を受けたものである。 (『易学開物小箋』C「加画式」 ) (『易学開物『小箋記聞』本文 七ウからの続き) 加画式 〈『易 ( 1) 学開物』 上 【四十五左】 同中巻 【四紙左】 上巻 【十 四紙】対映焉〉 〈頭注〉 《『解 ( 2) 』【八紙左】 『 開物 』上【四十八左】云、凡 ソ 均画 ト 与加画相 ―合 シテ 、 以作 二其 ノ 名 ノ 大義 ヲ 一者 ナリ 也、其 ノ 均皆為 二未 サルノ ㆑ タ声 ニセ 之精胚 ト 一、 加画 ハ 所 ノ ㆑終 二成 ス 其 ノ 胚切 ヲ 一之実種 ナリ 也、記動 ハ 明 二 セル 其所 ノ ㆑ 志 ス 之実 ヲ 一者 ナリ 也、 勢 ハ 者明 二 セル 其 ノ 機用 ノ 所 ノ ㆑従之方 ト 与 ヲ 一㆑勢 也、 開標喩実 トハ 又因 テ 下以 テ 二其 ノ 勢 ノ 之所 ヲ 一㆑遇、 細 ニ 分 ツ 二其 ノ 意 象 ノ 之微義 ヲ 一者 ナリ 也、及 テ 二声 ノ 末 ヘニ 均音 ノ 之彰 レ 聞 一 コユルニ 也、 ( 3)12 其 ノ 名 物 ノ 之 義 始 テ 全 備 上 ス ル ニ 、 譬 ハ 猶 ヲ 二母 ノ 孕 事 終 テ 而 其 ノ 子 乃生 一 ルカ 也、 又【四 ( 4) 十九右】云凡 ソ 開物 ノ 均画之次 ニ 呼 テ 二加画 ヲ 一、復於 テ 二 喩実 ノ 之後 ニ 一、再 ヒ 呼 フ ㆑之 ヲ 者 ハ 、即均音 ノ 彰 ハレ 聞 ユルノ 之義 ナリ 也、蓋 シ 均 ハ 唯有 テ 二其 ノ 形勢 一 ノミ 、而無 二其音 一、為 二之 カ 音 ヲ 一者 ハ 加画 ナリ 也、是 ノ 故 ニ 加画其 ノ 前 ニ 先 ツ 呼 フ ㆑之 ヲ 者 ハ 、与 ㆑均合 二 スル 其 ノ 音 ヲ 一者 ナリ 也、其後再 ヒ 呼 フ ㆑之者、与 ㆑均成 ス 二其 ノ 音 ヲ 一者 ナリ 也、 又 上【 十 ( 5) 五 左 】 云、 四 終 ノ 爻 等 物 文 ハ 、 周 易 及 古 易 ニ 、 皆 必 再 ヒ 用 ユ ㆑之 ヲ、 蓋 シ 其 ノ 一 先 ツ 用 テ ㆑之 ヲ 、 以 乗 二 シ テ 之 ヲ 於 其 均 ニ 一、 而 及 二其 ノ 終 リ 一再 ヒ 用 テ ㆑之 ヲ 、 以 テ 終 ル 二其 ノ 物 義 ヲ 一者 也、 此 レ 譬 ハ 如 シ 下射 ル 者之目 ニ 有 テ 二其 ノ 的 一、而 シテ 後 ニ 其 ノ 所 ㆑発 スル 之 箭、至 カ 中於其 ノ 的所 ニ 上也、是 ノ 故 ニ 其用 ルコト 雖 ㆑再 スト 、而其 ノ 為 ㆑ コトハ 物 ヲ 則一 ナリ 也、学者切 ニ 亦勿 三 シテ 誤 リ 認 テ 為 二 コト 二物 ト 一而 可 ナリ 也、 》 これを 加画 と名ることは、音記のときに初に均と加画 と八始とを以て、文字の大義を尽すことなり、爾るに 八勢と開標〈四声〉喩実〈四等〉とを以て、更に大義 の中の義象を詳にするときに、その終りに復この 加画 の象を加ふることなり、余の象はみなひとたび呼です むことなれども、これは大義を取るときも、小義を分 つときも、 二 ふた たび呼で其義を全ふする所のものゆへに、 更に 復 また 加へて、其義を成す所の画なりと云ふこゝろを 以て 加画 と名けたるものなり、 またこれを四終とも名るなり、ものかず四つあるゆへ に四といひ、音記の義を成すの終りに加ふる所のもの なるによりて、終と名けたるものなり、
〽
まづ 清音 、 次清音 、 濁音 、 清濁音 と記してあるの は、 『 韻 鏡 』 に 於 て 清・ 次 清・ 濁・ 清 濁 と 分 け て あ る 所 の『 韻 鏡 』 の 名 目 な り、 こ れ ま た〈 『 開 物 』 上【 十 四左以下】爻等物文説云云同中巻【四紙左】云云〉今 の 音 記 に 四 終 と 云 ふ も の が ら は 、『 韻 鏡 』 に 就 て 云 へ ば 、 清 次 清 等 の 四 つ の こ と ( 八 オ ) な り と 云 ふ し る し を つ けたるなり、〽
次に 爻等物文 とあるは、八始の七気のかゝる所の 数によりてあらはるゝことは、 『 易原 』 ( 6) 【上十八紙】に 於て弁じたるが如し、 〈頭注〉 《『 開 物 』 上【 十 五 左 】 云、 易 ニ 別 ニ 有 テ 下蓍 列 ニ 所 ノ ㆑用 之 爻 等物文 ト 与 中四終 ノ 爻等物文 上不 ㆑同 カラ 、学者切 ニ 勿 ト 二誤 リ 認 テ 以 テ 為 一㆑ ル コト 一 ト 也、 》 ○ 画 を爻と名るは、数で云へば一の数にあたるによ ( 7)13 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) りて、 画を以て爻としたるものなり、その義は次に 釈してあるなり、 又作 とあり、これは八勢によりて、其義が或は陰と なり、或は陽となる、其わけは黒籌は彼我を以て分つ ときは、我に属するの象を標したるなり、赤籌は彼に 属する象をあらはしたるものなり、 八勢の中に於て、内開のときに爻等物文を云ときは、 みな黒籌を用るなり、外合のときも同じく黒籌を用る なり、其わけは内開は我より彼へゆく所の象なるによ りて、 我 われ が動て彼へゆくと云ふ上にあらはるゝ所の爻 なるによりて、我に属するなり、よりて黒籌を用ひた るなり、然れども我より彼へゆくと云ふ象なるにより て、列るときは上の方へ列るなり、之れに由りてまづ 爻とありて、黒籌を 挙 あげ たるなり、これは我を 形 かた 取 どる の黒 籌なれども、音記のときは彼の位にすわるによりて、 上に属する故に、爻とありてまづ上に黒籌を挙るなり、 次 に 又 作 ( 八 ウ ) と あ り て 赤 籌 を 標 し た る の は、 こ の ときは外開と内合との象なり、外開は彼より 来 く るによ りて、彼このものが此方へ 来 く る、彼このもようものが らが 来 く ることなり、内合は「 彼 か し こ のものを我内に持つ」 の象ゆへに、陽に属するなり、これは爻等文物ともに 同じことなり、然れども列るときは下に列るなり、彼 より 来 く る彼を内にもつによりて、彼れのものなれども 列るときは下に位するなり、彼れより我に 来 き て、我位 にすわるによりて下に列るなり、又しかれどもものが らは彼より来るものゆへに赤籌を用るなり、そこで黒 籌が上にありて、赤籌は却て下に在るなり、等物文も その義同じことなり、 此四つの中に於て、爻と物とは陽数にして、等と文と は陰数なり、次第を以て云ふときは、爻転して等とな り、等転して物となり、物転して文となることなれど も、陰陽を以て云ときは、爻等と一対〈ひとくみ〉な り、物文と一対〈ひとくみ〉となるなり、陽爻が為に 陰等があらはれ、陽物によりて陰文があらはるゝと両 対になるなり、
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次に其義を釈して 爻 0 を「 うつりにする 」と云は、 ものがらのことでなしに、ものがらのもようのかゝり てくることを云なり、これに二つありて、外転と内転 によりて分るゝなり、外転なれば彼れに属するにより て 実 物 と な る な り、 内 転 な れ ば 我 に 属 す る 故 に 神 気 (九オ) のあつかひの虚になるなり、 故に外開外合のときは、其物がらが実になるによりて、14 爻実 と云たは外開外合のときに実物となるによりてな り、外転に属する実物となるときのことなれば、其実 物のものがらのことではない、実物の上にそなへたう ごきのもようがこちらにあらはれてくるなり、又は向 にあらはれてあると云ふものがらにそなへた、そのそ なへたやうすの 景 かげ のうつるようにみゆるときに爻と云 なり、又内開内合のときなれば、心の内のおもわくに なりて実物と云のではなきなり、今こゝに於て富士の 山と云やうなときに、 眼 め の前にはなけれども、心の内 にうかべて云ふ故に内転は虚なり、このときに爻と云 のは、神気にそなへた所のやうすが、それへかゝりて ゆくことなれば、内転〈開カ〉なり、もつた所にあら はるゝことなれば内合となるなり、実物でなしに心の おもわくのやうすになる処で、うつりの義を云が内転 の義なり、内転なれば我と構へた処へ、彼の神気を持 つ、その所持の神気は虚なり、外合として向へのきた るものは実物なり、そこで彼に属するによりて実物と なると云ふなり、そこへ神気がゆくが内開なり、 外合は彼ののきたる処へ、実物の我をはめたるこゝろ もちなり、外開のときは、彼れから我に来たる実物の 処に、神気が動くなり、実の処に虚が動き、虚の処に 実 が ( 九 ウ ) あ ら は る ゝ な り、 か ま へ た る 実 物 の 処 に 非れば神気は動かず、虚なる処に非れば実はあらはれ ぬなり、虚なる処には実がうごき、実の処には虚がう ごく、たがひちがひなり、 映 0 の字は「向にもちてある 所のもようが、こちらの方へうつることになる」を云 なり、 ○ 等 は、 「 は り あ ひ た つ に す る 」 と は、 こ れ も 外 転 な れば実物になる、よりて物のなりふりが、二つたがひ にまけずおとらずに、相対してゐることを云ときに等 と云なり、又内転の虚になるときは、ものがらのもよ うが、二つひつぱりあいになるやうにみへるときに等 と云なり、故に「等実 ナルハ 為 二物態 ノ 対峙 ト 一、虚 ナルモノハ 為 二 物 况 サマ 〈 さ ま 〉 ノ 相 耦 ト 一」 と い ふ な り、 態 は、 「 そ れ に も つてうごく所のかまゑがさだまりてそなへてある」を 云ふなり、 峙 0 は、 「ものからがその縁をはなれて、 つゝ と 立 て あ る こ と に な る 」 を 云 な り、 况 0 は、 興 と 同 じ こ ゝ ろ で、 「 そ れ に も つ た や う す が、 よ く 人 の 気 を 乗 のら す や う に な り て あ る 」 を 云 な り、 耦 0 と 云 は、 「 向 の も のを我方のあいてにとりてはたらく」を云なり、 〈頭注〉 《 た と へ ば 耦 は 木 こ び き 挽 の 両 方 に 柄 ゑ の あ る 鋸 のこぎり を 以 て、 両 方
15 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) から 挽 ひ くやうなもようなり、ひつぱりあひにありてあ ることなり、 》 ○ 物 0 を「 あわせなすにする 」と釈せり、実物で云とき に は、 如 三 シ地 ノ 之 成 二 ス カ 其 全 形 一 ヲ と あ り て、 大 地 の 大 地 た る所の形を成就してゐると云ようなことを云い、或は 材木多く聚りて宮室を成してゐると云ようなが外転の 物なり、内転の虚なれば、 為 二所 ノ ㆑執之成合 シテ 立 一 ツト とあ り て、 心 を 以 て 思 ( 十 オ ) ひ は か り た 所 が、 思 ひ は か りたなりふりの 出 で け る 来 もようを指すときに 物 と云なり、 彼 あのもの 人 はかふいふ事を云ふて、かふいふ事をしたからは、 彼 あれ が心は主人を大切にする心にきはまりたと云やうに、 思 おも わくの義筋がそろふことになりたるを 物 と云なり、 成合 0 0 といふは、 彼 あれ と 此 これ と 合 あは して一つ形に成りたること なり、 彼 あの 人があゝ云ふからは、いよ〳〵 私 わし が可愛のぢ やと云ふ物象が立つを 成合立 と云なり、講釈を聞て、 それをなるほどこふいふ義ぢやと、心にひとかたまり、 まるまりたるを 物 と云ふなり、 彼 あれ と 此 これ とつきあはせた 処に象の立つを物と云ふなり、 ○ 文 を「 すわりにする 」と釈せり、外転の実物にする ときは、ものゝそこへゐすわりのついたことを云ふな り、それら 為 二 ナス 物 ノ 之停居 ト 一と云へり、 停 は、向へづら 〳〵とゆくべきをば、それがゆかずにそこへすわりに なるを云ふなり、停 ム ㆑船 ヲ など云ふの類の如し知るべし、 内 転 の 虚 で 云 へ ば 為 二所 止 ノ 之 托 著 ト 一と あ り、 そ れ な れ ばこれにきわまりたことぢやなどゝ、心のゐすわるや うになりたるを内転の文と云ふなり、 托著 とは、 托 は ものをたよりにして、それについてゐることなり、 著 は向の内にぴつたりとついてはなれぬことなり、 △「 凡加画等 」とは、既に従来弁ずるが如し、思てし るべし、 〈『開 ( 8) 物』上【四十五左以下】明 下 シテ 因 テ 二蓍列 ノ 上下動 ニ 一生 二 加 画 ノ 俾 ト 自 ト ノ 之 分 一下 動 ヲ 為 ㆑俾 ト 上 動 ヲ 為 ノ ㆑自 ト 之 義 ヲ 上 云 云 『解 ( 9) 』【六紙以下】対映〉 (十ウ)
16 (『易学開物小箋』D「蓍列画象」 ) 蓍列画象 〈易 ( 10) 学開物上 【十三右】 同 【二十九左】 中巻 【二紙右】 〉 〈頭注〉 《『 開 物 』 上【 五 左 】 云、 蓍 列 今 所 謂 七 音 ハ 、 古 者 其 類 為 ㆑八 ト 、今立 テ 二其総名 ヲ 一曰 二蓍列 ト 一、蓋 シ 易 ノ 蓍策 ノ 数 ノ 之所 二本 キ 生 一 スル 者 ニシテ 、而有 ㆑成 ㆑ コト 列 ヲ 、故云 二蓍列 ト 一 云 云》 齶音格、 此 ノ 義為 二我境 ノ 之 所 ト 一㆑当 タル とは、 まづ 格 といふ は、感格或は格物ともいふなり、心に思ふことがひと かたまりになりて、わがめさきにあたるやうになるこ と を 格 と 云 ふ な り、 『 大 学 』 に 格 物 と い へ る も、 孝 な れば、父に向ふて如 ク ㆑此 ノ の行ひを為すが孝と云ものぢ やと、孝の徳のもようの全体が、心の内にわかりて、 めさきに立つように成りたことを 格 と云ふなり、これ は上静下動の声なり、故に色を陰にかたどりて、黒籌 を用ひて画せるなり、 此 籌象は、 これは向にかくれてある、其かくれて あるものが、心のめさきにあらはれてくるやうに成り た処から云ふのぢやによりて、如 キ ㆑斯 ノ の象を画せるな り、其 ノ 義の 本 もと づく所は、 [十ウA]下喉位から七気が かゝりて、地極の下の処に⃝動く、こちらの神気の動 く処に、向に静にしてあらはれてある処に在るを云ふ、 故に 我境 と云は神気の動きなり、向の上静の処に物を なしてゐるを、七気の当りにするなり、たとへば人に 向て太平楽を云はんとすれども、己れが身分に 徒 い た づ らな どのあるのが、 眼 め の前に立て、太平楽の云はれぬと云 やうなが、我あたりになると云所なり、 〈頭注〉 《『 開 物 』 上【 三 十 右 】 云、 格 ノ 之 為 ル 二我 境 ノ 之 所 ト 一㆑当 者 ハ 、 譬 ヘハ 如 キ 下己 カ 身坐 二 シテ 堂中 ニ 一、而目睹 中 ルカ 其 ノ 当前 ノ 之牆壁 ヲ 上、 目 ノ 所 ハ ㆑及即我境也、牆壁 ハ 即其 ノ 所 ㆑ ナリ 当 ル 也、 》 ○ 細歯々舌循此 ノ 義為 二彼 ノ 道 ノ 之 所 ト 一㆑従 とは、 「 かれがそ う に す る 」 と 云 こ と な り、 [ 十 ウ B ] 神 息 位 か ら 七 気 ( 十 一 オ ) が か ゝ り て あ り、 そ の 象 を か く の 如 く 画 ( 11) ( 12)
17 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) せり、 彼 む か ふ が動いて我れが静なり、 循 と云は、そのもの について、こちからがそれにはなれずにゆくを 循 とい ふなり、今は彼れのが 我 こち にそふてくるなり、 彼 かし こにう ごく動が、 我 こち らの方についてくることなり、 彼 む か ふ が 我 こ ち ら の 方についてくるなり、 彼 む こ ふ の虚象なるものが、 我 こち らにそ ふになりてくることなり、向ふに鳥が飛ぶと云ふ、其 鳥が我がめさきのとゞく所へずつとついてくるを云ふ なり、 〈頭注〉 《『開 ( 13) 物』 云、 循 ノ 之為 ル 二彼 ノ 道 ノ 所 ト 一㆑従 フ 者 ハ 、 譬 ヘハ 如 キ 三飛鳥 ノ 之過 二虚空 ヲ 於我前 ニ 一、飛鳥 ノ 之所 二循 ヒ 従 フ 一、即 チ 彼 カ 之道 ナリ 也、有 カ 二我 ニ 在 一 ルコト 故 ニ 曰 ㆑ ナリ 彼 ト 也、 》 上動の声なる故に、赤籌を用ひて画せるなり、 この 画は彼なり、 この画はそふにすると云めじるしなり、 こちらにそふてくる象なり、 ○ 正歯作此義為 二我方 ノ 之 所 ト 一㆑摂 スル とは、 「われにしおこ す に す る 」 と 云 ふ こ ゝ ろ な り、 [ 十 一 オ A ] 上 喉 位 か ら七気がかゝりて、 彼 む か ふ が静にして 我 こち が動くと云ふ、上 静下動の声なり、 作 0 といふは、今までなかりたことを、 しだしてゆく事にするを 作 と云ふなり、故に 此 ノ 義為 二 我 カ 方 ノ 之 所 ト 一㆑摂 スル といふは、 「 われにしおこすにする 」 と云ふこゝろなりと云ふなり、 摂 の字は、しめてゐる ことなり、外のものではゆかぬ、こちでなければなら ぬと、しめてゐることなり、粉などの風に散るを、水 を以て 練 こね て、外へにげぬやうに取りしめておくを 摂 と 云ふなり、その象を かくの如くに画せるは、循のと き は 彼 れ の が、 我 こち に そ ふ て く る こ と な り、 ( 十 一 ウ ) 今作のは このもちまへを、外へやらぬやうにするが この画なり、外へにがさず我もちまへにしてゐるす がたなり、 この我もちまへにとりしめてゐるこゝろ なり、 〈頭注〉 《『 開 ( 14) 物 』【 三 十 左 】 云、 作 ノ 之 為 ル 二我 方 ノ 之 所 ト 一㆑摂 ス ル 者 ハ 、 譬 ヘ ハ 如 三張 テ ㆑羅 ヲ 以 テ 待 二 ツ カ 鳥 ノ 之 離 カ 一㆑ ゝ ル ヲ 之 レ ニ 、 鳥 自 従 二其 ノ 飛 路 ニ 一者 ヲ 、 而 我 ニ 設 テ 二其 ノ 所 ノ ㆑当 キ ㆑離 カ ゝ ル 之 物 ヲ 一、 欲 二以 取 ト 一㆑ 之 ヲ 、是 ノ 羅 ノ 之内 ハ 我方 ナリ 也、欲 ㆑取 二之 ヲ 於其 ノ 飛路 ニ 一故 ニ 曰 ㆑摂 ト 也、 》 彼 む か ふ は文のすわりとなりてあるなり、それをこちらから ものをなしにかゝるによりて、 われにしおこすにす と 云 ふ な り、 我 と は、 下 動 の 声 な る ゆ へ な り、 我 場 処 〈 境 〉に 於 て 今 ま で な か り た こ と を 、し お こ し 、な し お こすことにするを云ふなり、さすれば 彼 む か ふ の方をめあて
18 にして、我方になしおこす事にすると云ふこゝろなり、 ○ 舌体此 ノ 義為 二彼 ノ 物ノ之 所 ト 一㆑着 ク とは、 「 かれがつける に す る 」 と 云 ふ こ ゝ ろ な り、 [ 十 一 ウ A ] 垂 位 よ り 七 気がかゝりてあるなり、 彼 む か ふ が動いて 我 こち が静なり、上動 下静の声なり、 体 0 といふは、あるべきものがらが、こ ちの方につきそなはりてあることを 体 と云ふなり、手 足の如きものを五体と云ふは、からだにそれだけのも のゝ、そなはりついてある所を指して 体 と云ふなり、 故に虚字に用るときは、向のものがらにこちらからつ いて、ものがらの内のひとそなへになりてゆくを 体 す ると云ふなり、よくかのものをつくるとするなり、 か れがつけるにする なり、 〈頭注〉 《又 ( 15) 云、 体 ノ 之為 ル 二彼 ノ 物 ノ 之所 ト 一㆑著 ケル 者 ハ 、 譬 ヘハ 如 シ 下人 ノ 在 テ ㆑ 彼 ニ 、自引 テ 二其 ノ 衣 ヲ 一、被 中著 ント 之 ヲ 於其 ノ 体 ニ 上也、 『解 ( 16) 』【十 右】云又身を以て物にもたれつくが如きを云なり》 彼 む か ふ がこちらの方につけるにするなり、 彼 む か ふ も物 我 こち らも物、 彼 む か ふ が動て 我 こ ち が 静なるなり、彼が方から我方のひとつの道 具 の や う に ( 十 二 オ ) な り て、 離 れ ぬ や う に な り て く るを、彼れが 着 つ けるにすると云ふなり、 かれが こ れにつけるにするなり、故にこの象をば かくの如に 画せるなり、 ○ 浅喉含、 此 ノ 義為 二我内 ノ 之 所 ト 一㆑含 ム とは、 「 われにのけ て も つ に す る 」 と 云 ふ こ ゝ ろ な り、 [ 十 二 オ A ] 齶 位 から七気がかゝるなり、上静下動の声なり、故に我を 主とするなり、 彼 かし こに等となりて立つものを、それが 我方の内にふくむことにするを云ふなり、 含 0 といふは、 彼 む か ふ のものがらをば、 我 こち のかまへの中に、そつくりとだ きこんでゐることなり、口ちの内にすもゝをそつくり 含 ん だ と 云 や う な き み を 云 な り、 故 に 為 二我 内 ノ 之 所 ト 一㆑ 含 ム と云なり、 〈貼紙〉 《 含 と い ふ は、 物 と 物 と ひ つ ゝ き た る 所 に、 そ の 気 の 我方にのきてもつをいふなり、我と人と相ひ 搏 うつ に、彼 の力の強きを知りて、こいつ強いと思ひて引く気を我 内にもつなり、捭はその反にて、向がこちのつよきを 知りて、向の気が彼れにのくことにするなり、 》 〈頭注〉 《 又 ( 17) 云、 含 ノ 之 為 ル 二我 内 ニ 之 所 ト 一㆑含 者 ハ 、 既 ニ 作 シ 既 ニ 体 ス レ ハ 、 則我神別 ニ 起 テ 二於中 ニ 一、以 テ 含 ム 二其 ノ 作体相含 スルノ 之後 ヲ 一也、 譬 如 下我 与 ㆑人 相 搏 ツ 之 間 タ ニ 、 我 心 ニ 感 シ 中知 ル カ 彼 ノ 中 ノ 之 強 弱 ヲ 上是 ナリ 也、 》
19 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) それをば われにのけてもつにする と訳するこゝろは、 向のはりあひ立つものを、そつくりひきうけてもつこ とにするなり、 このうちは我がかまへなり、そこで [十二オB]彼のものを 除 のけ て、 [十二オC]我にもつに す る な り、 ○ 唇 捭、 此 義 為 二彼 ノ 識 ノ 之 所 ト 一㆑別 と は、 「 か れにのきたるにする 」 といふこゝろなり、 [十二オD] 上歯より七気がかゝるなり、上動下静の声なり、 〈頭注〉 《 又 ( 18) 云、 捭 ノ 之 為 ル 二彼 ノ 識 ノ 之 所 ト 一㆑別 ツ 者 ハ 、 我 持 二 テ ハ 之 ヲ 其 ノ 含 一 ムニ 、則彼 ニモ 神亦起 二 リテ 感 ス 於彼 ノ 内 ニ 一、是 レ 其 ノ 所 二識 ノ 別 ツ 一 之 神 機、 為 下既 ニ 不 ㆑ シ テ 在 二其 ノ 際 所 ニ 一、 欻 ( 19) チ 存 中 ス ト 其 ノ 離 遠 ナ ル 之処 ニ 上、譬 ハ 如 シ 下彼 モ 亦其 ノ 心 ニ 感 中我力 ノ 之強弱 ヲ 上也、 》 捭 0 と云ふは 我 こ ち ら に持つたものを、 彼 む か ふ に取りて 除 のけ ることに す る を 云 ふ な り、 彼 む か ふ の 方 で 我 こ ち ら を わ け て も つ な り、 [ 十 二オE] 我 こち らのことを、彼れに[十二オF]のきたる にするなり、 [十二オG] 我 こち にもつたものを 除 のけ て、 [十 二オH] 彼 む か ふ にもつことにするなり、 ○ 深喉于、此 ノ 義 為 スル ㆑位 二 ニシ 承 ケルニ 於我 ニ 一とは「 われにとこ ( 十 二 ウ ) ろ に す る 」 と い ふ こ ゝ ろ な り、 [ 十 二 ウ A ] 下 より七気がかゝりて、末を上喉位に取るなり、上 静下動の声なり、 〈頭注〉 《『 開 ( 20) 物 』 云、 于 ノ 之 為 ㆑位 シ 二承 ル ニ 於 我 ニ 一者 ハ 、 我 感 已 ニ 立 テ 、 則内 ニ 設 ㆑位 ヲ 以 テ 承 ル ㆑物 ヲ 焉、即 チ 于 ナリ 也、 》 于 0 といふは、 彼 む か ふ のものが、我さす処へすわる〈位〉こ とになるを云ふときに 于 と云ふなり、黄鳥遷 ル 二于灌木 ニ 一 といふときに、 于 の字あるは、鴬などの飛をみて、灌 木の処に 止 とま るであらふと、 位 す わ り 処をこちらからところに するなり、鴬が飛かふをみて、 彼 あ の灌木のあたりに 止 とま るであらふと思ふに、ちやうど止り処をこしらへて待 てゐたやうに、その処に遷りたと云ことをあらはす為 に、于の字を用ひたるなり、そこで 彼 む か ふ が 我 こち のゆきばし よになりて、まちてうけて〈承〉ゐるやうになること なり、漱艸承 ト 二趺座 ヲ 一いふも、 苔 こけ などが 生 はへ て、 我 こち からす われば、すわる 処 ば し よ をこしらへて、まちうけてゐたやう なと云ふこゝろなり、 ○ 舌歯裏、此 ノ 義 為 ナス ㆑隠 二背 ニスト 於彼 ニ 一とは、 「 かのうらて にする 」と云ふこゝろなり、 〈頭注〉 《 同 ( 21) 云、 裏 ノ 之 為 ル ㆑隠 二背 ス ト 於 彼 ニ 一者 ハ 、 指 二 ナ リ 彼 ガ 感 ノ 之 所 ヲ 一㆑ 在 ル 二於其 ノ 体内 ノ 之隠背 ニ 一〈カクレタルウシロニ〉也、 》 [ 十 二 ウ B ] 下 歯 よ り 七 気 が か ゝ り 垂 位 に 至 る な り、
20 裏 とは、 我 こち の 目 め のつく、其むかひの目のつかぬ方にな りてあるを云ふなり、 彼れにうらてにもつて、 我 こち の 目 め にみへぬ所にもつなり、上動下静の声なる故に、彼 の方のうらてへまわりて、 我 こち の目のつかぬ方にまわり てあるなり、衣服などの表へみゆる、そのうらの方へ ま わ り て み ゑ ぬ 方 に な り て あ る 処 を う ママ ( 十 三 オ ) う ら てと云ふ、 隠背 の義思うて知るべし、この八始は七気 の動きについて弁ずることなり、然れども一〳〵にそ れ を 弁 釈 し て は、 容 易 な ら ず、 故 に 今 は 略 し て そ の 大 あ ら ま し 概 を 弁 ず る も の な り、 其 本 は 蓍 列 の 八 始 に 七 気 が かゝりて、爻等物文の分配する所について、其義をみ ることなりとしるべし、 因 ち な み に格循等の八始の注釈あり、 『 易原 』上【六紙左】冠注これなり、 ○ 格 は「この方のうけにするを、向のうちのすわりあ る に 引 か け て、 こ ち ら を、 そ れ が か ゝ る は づ み に す る」とは、 [十三オA] ○ 循 は、 「 そ れ が う ご き そ ひ ゆ く す ぢ を、 間 あ ひ た の す わ り あるに持にし、こちらのかゝることにしゆく」 、 [十三オB] たとへば、惣嫁を買ひにゆくに、こふすれば向からひ つかゝりてくると云ふことを合点して、それをすわり にして、知らぬ顔でゆきて、向からひつかゝらせるや うにしてゆくが如き気味なるを循と云ふなり、其余は 弁ずるに暇あらず、準知して可なり、 (十三ウ) (『易学開物小箋』E「勢作斜直之図」 ) 勢作斜直之図 〈『開 ( 23) 物』上【三十四左】同 ( 24) 【八紙右】同 ( 25) 中【二紙左】 同 ( 26) 『解』 【十二左】 『開 ( 27) 物』 上 【十七左】 同 ( 28) 上 【五紙右】 〉 〈頭注〉 《『開 ( 29) 物』上【三十四右】云、凡 ソ 勢 ハ 者記動已 ニ 明 二 セルノ 其 ノ 志 ノ 所 ヲ 一㆑当 ニ ㆑注 ク 二之物 ニ 一之後 ナリ 、 因 テ 又示 ス 下所 ㆑当 ベキ ニ ㆑想 フ 二其 ノ 形 勢 ヲ 一之 方 ヲ 上者 ナ リ 也、 然 シ テ 而 勢 ハ 無 シ 二自 形 一、 唯 因 二其 ノ 開 標 ト ( 22)
21 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) 喩実 ト 八卦 トノ 画象 ノ 斜直 ニ 一、以見 二其別 ヲ 一者 ナリ 也、八卦 ノ 画 象 ノ 斜 直、 当 ヘ シ ニ ㆑須 ユ 三先 審 二 ル コ ト ヲ 其 ノ 各 象 ノ 本 末 ヲ 一、 右 末 左 本 ヲ 為 二外開 ト 一、下本上末 ヲ 為 二外合 ト 一、左末右本 ヲ 為 二内開 ト 一、 上 本 下 末 ヲ 為 二内 合 ト 一、 如 二重 勢 ノ 一則、 右 ヲ 為 二開 標 ト 一、 左 ヲ 為 二喩 実 ト 一、 凡 ソ 外 転 ノ 四 勢 ハ 、 皆 視 二之 ヲ 其 ノ 象 ニ 一者 ナ リ 也、 合 ハ 為 ル ㆑指 三 スト 於其 ノ 受 ヲ 二物 ヲ 之量内 ニ 一者也、内転 ノ 四勢 ハ 、皆 想 フ 二之 ヲ 其 ノ 法 ニ 一者 ナリ 也、開 ハ 為 ㆑想 ト 二於其 ノ 行動 ノ 之法 ニ 一者 ナリ 也、合 ハ 二為 ル ㆑想 ト 三於其 ノ 受 二 ルヲ 物 ヲ 之量内 ニ 一者 ナリ 也、又 ( 30) 上【五 右 】 云、 古 ハ 者 開 ヲ 称 ㆑闢 ト 合 ヲ 称 ㆑闔 ト 、 外 開 内 合 ヲ 曰 ㆑来、 内 開 外 合 ヲ 曰 ㆑ 往 ト 、 往 来 ハ 乃 以 二其 ノ 勢 ヲ 一言 者 也、 故 ニ 今 立 テ ㆑名 ヲ 曰 ㆑勢 ト 、 又 ( 31) 【 十 七 左 】 往 来 説 云 云 又 ( 32) 中【 二 紙 左】云、此 ノ 勢 ノ 於 ル 二声物 ニ 一、並 ニ 皆象 ル 二之 ヲ 其 ノ 向背分合之 勢 ニ 一者也、凡諸 ヲ 曰 二外勢 一者、並皆 ナ 以 二物 ノ 之自然 ノ 之動 ヲ 一言 フ 者 也、 諸 ヲ 曰 二内 勢 ト 一者、 並 ニ 皆 以 二人 ノ 意 ニ 象 ㆑物 ヲ 之 状 一言者也、 》 外 開 訓 シ テ 為 二自 リ ㆑彼 レ 来 一 ル ト と は、 ま づ こ の 八 勢 の 義 は、 もとづく所は四象より出たることなり、その四象の中 に於ても、別して神卦に就て云ふ所なり、神卦といふ は、正しく平声に当る所なり、平声は声の 本 もと なり、故 に神卦の平声に就てその義を論ず、その中に於て四象 の六爻を天地人と分つときは、二爻づゝに分つて、三 才 の 象 を み る こ と、 『 易 原 』 四 象 の 下 に 於 て 已 に 弁 じ たるが如し、これを天地の二つと分つときは、おのづ から人位が没して天地の二つとなるわけは、天地合し て人となるによりて、人を分てばもとの天地にかへる ことは理の必然なり、然るにその神卦に就て天地をみ るときに、坎の卦と震の卦とが地に属し、兌の卦と離 の卦とが天に属するなり、この天地を分つて彼我とす るときは、天ははるかにのきて向に立てばこれを彼れ とし、地はわが依りて立つ所のすわり 処 ゙ なれば我と称 するなり、天地を以て人間を分つときは、 身 か ら だ は地につ いてある故に地に属す、その地に属するの 身 か ら だ の虚なる 処に、神気のうごくが、天に属する所なれども、畢竟 坤乾の象なれば、地に属するを以てもとゝす、故に中 間 の ( 十 四 オ ) 人 間 が 彼 と さ す と き は 天 の 象 な り、 我 とさし 此 こゝ とさすときは地の象にあること、その義また 明了なることなり、 〈頭注〉 《 又 ( 33) 中【 三 右 】 云、 凡 ソ 称 二外 内 ト 一者、 其 義 並 ニ 由 テ ㆑中 ニ 而 起 ル 、蓋 シ 天 ヲ 為 ㆑外 ト 為 ㆑上 ト 、地 ヲ 為 ㆑内 ト 為 ル ㆑下 ト 者 ハ 、由 ル 下 人 在 二其 ノ 中 ニ 一起 中 ス ニ 之 カ 其 ノ 称 ヲ 上者 ナ リ 也 、 聞 ク ㆑之 者 及 物 ヲ 為 ㆑外 、 称 ㆑ ス ル 之 者 ヲ 為 ス ㆑我 ト 者 ハ 、 亦 由 ル 下神 気 之 用 在 テ 二其 中 ニ 一而 起 上 ル ニ
22 者 ナ リ 也 、 是 ヲ 以 曰 ハ ㆑外 ト 者 、 又 必 有 テ ㆑内 為 ル 二之 カ 対 伏 ト 一者 ナ リ 焉 、 曰 ハ ㆑内 ト 者又必有 テ ㆑外為 二之 カ 対伏 ト 一者 ナリ 焉 云 云》 然 る に 神 震 の 卦 を 以 て み る と き に、 四 象 の 春 象 〈風雷益【震下巽上】 〉かくの如くにして、その位は已 に地に属して、その地に属する所の初爻が陽とあらは れてあるが震卦の象なり、しかれば彼の天に位すべき ところの陽爻が、我位する所の地中にあらはれてある の 象 な る に よ り て、 自 ㆑彼 来 る と す る の 義 と な る な り、 外開 と云ふも、 外 と云は内外を以て云ふときに 内 は我 なり 外 は彼なり、彼れとする所の外より開けてあらは るゝのが、 直 すぐ に内の我方に来るの象となること故に、 春象の震〈神カ〉卦在る処を名て外開とす、 〈頭注〉 《 又【 三 ( 34) 右 】 云、 曰 ハ 二外 開 ト 一者、 我 ト 与 ㆑ 神 値 二 其 ノ 物 ノ 之 来 一 ルニ 者也、 》 その外開の象を立てたるときに、 横 よこ 斜 すぢかい に立てゝあり、 よ こ す ぢ か い に し て 自 ㆑ 彼 来 ク ル ㆑ 我 ニ の 象 と し て、 開 標 〈 四 声 〉 喩 実〈 四 等 〉 を 列 る の が、 外 開 の め じ る し と いふものなり、其中に於て 本末 とあるは、 本 は開標な り、 末 は喩実なり、これは卦を列るときに、明かに分 るゝなり、これもたゝ 斜 よこすぢかひ にしたるによりて、自 ㆑彼来 ル ㆑ 我 ニ の 象 と 云 で な け れ ば な ら ぬ と 云 道 理 は な け れ ど も、 自 ㆑彼 来 る の 象 と 立 つ べ き や う が な き ゆ へ に、 斜 に し て赤籌を用るが外開のしるしなり、 ○ 外 合 訓 シ テ 為 二彼 ノ 之 内 一 ニ ス ト と は、 わ れ を か の 内 ( 十 四 ウ ) に も つ と 云 ふ こ ゝ ろ な り、 其 内 に 我 を も つ の 義 な り、 〈頭注〉 《『開 ( 35) 物』中【三右】云、曰 ハ 二外合 ト 一者、我与 ㆑神値 テ 下彼物 之 合 中 ル ニ 於 彼 ニ 上斥 サス ㆑之 也、 凡 ソ 外 合 ハ 其 ノ 所 ノ ㆑合 ス ル 之 物 有 テ ㆑実、 而 其 ノ 承 合 之 所、 乃 為 二雖 ㆑有 ナ リ ト 而 荒 歯 之 位 ト 一也、 合 開 ト 々合 トモ 、皆当 ニ 二以 ㆑此準知 ス 一 、》 四象にもとづくときは、夏の象の離の卦によりて云ふ なり、 離卦 〈火地晋 【坤下離上】 〉 象は位は天にありて、 陽中に一陰あるは、我に位するの陰が陽中にあるによ りて、我を彼の内にもつとも、その内にすとも云ふな り、このときはすぐに籌を立てゝ、開標を下に列ね、 喩実を上に列ぬるのが、外合のならべかたなり、然る にこの外合を赤青を以て分つときは、青籌にせねばな らぬなり、みな赤籌を用るは宜からざるなり、 内開 と 外合 とは青籌にして、 外開 と 内合 とは赤籌にいたすべ きことなり、これも後に音記の卦を列るときに分るゝ
23 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) ことなり、すぢかいを 斜 とし、ますぐを 直 とする故に、 勢作 ス 二斜直 ヲ 一之図 と云なり、 ○ 内 開 訓 シ テ 為 ス 二自 ㆑我 往 一 ク ト と は、 「 わ れ よ り そ れ え ママ ゆ く に」 といふこゝろなり、 秋象にして沢山咸 【艮下兌上】 卦象なり、 〈頭注〉 《又 ( 36) 云、曰 二内開 ト 一者、我 ト 与 ㆑神象 二物之所 ヲ 一㆑往也、 》 内開 は我が内がよくひらけて、彼の天の方へ往く相た なるによりて、兌卦の象が、位は陽位にありながら、 陰籌がその初にあらはれてあるのは、我よりして彼こ に往きたる所のすがたなれば、兌卦をめざして 内開 と し、訓して われよりゆく と云ふなり、 ○ 内合訓 シテ 為 二我 カ 之内 一 ニスト とは、 「 彼を我内に持つ 」と 云 (十五オ) ふこゝろなり、 〈頭注〉 《又 ( 37) 云、曰 ハ 二内合 ト 一者、我与 ㆑神貌 三物 ノ 之合 ヲ 二於我 ニ 一也、凡 内 合 ハ 其 所 ㆑合 ス ル 之 物、 有 テ ㆑虚 而 其 ノ 承 ル ㆑合 ヲ 之 所、 乃 為 二 雖 ㆑無而実当 ノ 之位 ト 一也、 合開 ト 々合 ト 皆当 ニ 二以 ㆑此準知 ス 一 、》 四象の中に於ては冬象天水訟の卦象なり、坎の卦をめ あてにして、我内に合して持つの象なり、故に開標を 上に列ねて、喩実を下に列ぬ、赤籌を用ひねばならぬ なり、坎卦のわがうちにすとは、離卦の反なり、彼を 我内に持つの象明かなり、 ○ 本 ヲ 為 二開標 ト 一末 ヲ 為 二喩実 一とは、本末のしるしを釈す る な り、 如 二 キ ハ 重 勢 ノ 一則 右 ヲ 為 二開 標 ト 一、 左 為 喩 実 ト 一と は、 開標を右に列ね、喩実を左りに列るなり、たとへば乾 の 字 震 化 巽 の と き に、 こ れ 開 標 な り、 艮 象 尚 坤 〈とまるもようをうちにもつ〉これ喩実なり、 「 とまる も よ う を 内 に も つ 」 と は、 と ま り て は 向 な る ゆ へ に 陽 籌 な り、 彼 れ を う け る と き は こ れ な り、 外 開 内 合 な り 、 又 作 内 開 外 合 な り 、 外 開 内 合 の と き は 、 彼をめあてとし、内開外合のときは我を主とする故に、 この別あるなり、 とまりてはわれなる故に 陰籌なり、 重勢の如きは左右にこれを分つなり[十五オA]音記 の処に至てしるべきなり、 開標 とは木のさきの処を標 といふなり、今はめあてのことなり、その外開なるか 内開なるかと云ふめじるを開きあらはすを開標と云ひ、 そ の め あ て の 中 の 実 を さ と す を 喩 実 と 云 ふ な り、 ( 十 五ウ)
24 (『易学開物小箋』F「近数開標八卦分配図」 ) 近数開標八卦分配図 〈『 開 ( 38) 物 』 上【 三 十 六 左 】 同 ( 39) 中【 三 紙 左 】 同 ( 40) 『 解 』【 十 七右】 〉 これは開標は内外をしるしてあるによりて、外合で平 声を取るときは神離なり、上声を取るときは乾象而巽 なり、去声を取るときは乾而巽形なり、入声を取ると きは坤而艮用離と、これは記してある通りまちがいな きなり、さりながら其わけを云ときは、四象に就て云 はねばならぬなり、外合は夏の象なり、故に八始から 外合へ入りて平声を取るときに、外合の平声は近数な れば、夏の象の離の卦を取る、これを平声の卦とす、 上声を取るときに乾象而巽と、乾象が上声になるなり、 これ外合の上声なり、外合の去声は、巽形に乾を兼ね て、乾而巽形と取るなり、 去 ( 41) は巽なり離は器なり〈未 審 〉、 入 声〈 法 〉 を 取 る と き に 坤 而 艮 と 取 る な り ( 42) 、 坤 は形なり、艮は象なり、取りてその用離ともどるなり、 内合は冬象なり、そこで内合平声は、坎の卦を取りて、 平声の卦とす、上声は坤而艮象で、艮が上声なり、去 声は坤なり、坤形而艮と取るなり、法は向で取る故に、 入声は乾 ( 43) 而巽用坎なり、乾と巽と二つで入声なり、内 開 は 秋 の 象 な り、 ( 十 六 オ ) 平 声 は 兌 な り、 上 声 は や はり乾なり、巽而乾象なり、去声は巽なり、巽形而乾 なり、入声は艮 ( 44) 而坤用兌なり、外開は春象なる故に震 が平声なり、上声は艮なり、坤 ( 45) 而尚艮象なり、去声は 坤なり、坤 ( 46) 形而尚艮なり、入声は巽乾なり、巽 ( 47) 而乾用 震なり、 何 どこから 処 入りても四声みなかゝりて四声が出るな り、
25 【資料解説】皆川淇園門人公巌口授・恵広筆記『易学開物小箋記聞』について(下)(浜田) (『易学開物小箋』G「知遠近法」 ) ㋑ ( 48) 知遠近法 〈『開 ( 49) 物』上【十八紙右】同 ( 50) 上【六紙左】 〉 〈頭注1〉 《十 ( 51) 九紙左》 〈頭注2〉 《十 ( 52) 六紙右 『 開 物 』 上【 六 紙 左 】 云、 「 凡 ソ 易 ノ 之 情、 動 ト 与 ㆑変 依 リ 、 静 ト 与 ㆑通 依 ル 者 ハ 、 為 二其 ノ 常 ト 一、 四 象 所 ㆑告 ル 蓋 如 シ ㆑是 ノ 、 然 シ テ 而 以 ㆑勢 ヲ 乗 二 レ ハ 蓍 列 ニ 一、 則 其 ノ 変 或 ハ 与 ㆑静 相 依 リ 、 通 或 ハ 与 ㆑動相依 ル 、是 ヲ 曰 二分誇 ト 一、々々以行 ( 53) フ ㆑数 ヲ 者名 テ 曰 ㆑ 遠、 依 テ ㆑常 ニ 以 テ 行 フ 二其 数 一者 ヲ 名 曰 ㆑近 ト 、 此 乃 所 ― 謂 遠 近 之 数 ナ ル 者 ナ リ 也 」、 又【 十 八 右 】 云、 「 近 数 ハ 者 其 ノ 卦 ノ 情、 譬 ハ 猶 ヲ 二行 クニ 之聚 テ ㆑足 ヲ 而 シテ 後 ニ 進 カ 一也、遠数 ハ 者、其 ノ 卦之 情、譬 ハ 猶 二行 クニ 之翔 一 ルカ 也」 云 云》 格作含于が、外開合、外合、内開、内合開なれば、近 数の字としるべし、循体捭裏亦准して知るべし、遠数 はこれに反知して可なり、そのわけは『易 ( 54) 原』上【八 紙左】内外開合因 テ 生 二遠近 ノ 教 ヲ 一図幷【九紙右】に対映 してみるべし、其例を出さば、齶声の如き、上は静に して文等なり、下は動にして爻なり、外開は彼より来 るの象となるによりて、上静下動の動にて止るなり、 故に変通をかけると静変動通となるなり、故に格の外 開では遠数の声となるなり、内開なれば下の動より始 りて彼れ往く故に、変通をかけると動変静通となる、 故 に 内 開 齶 声 は 近 数 と な ( 十 六 ウ ) る な り、 委 し く は 『易原』に至てしるべし、