“人的資本”の本質を探究する ─学際チームによるアフリカの産業人材の能力把握への挑戦─
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(2) 山 田 肖 子. 40. 図 1 本プロジェクトの技能評価の枠組み 出所:筆者作成. 育開発学,教育政策学を中心に,開発経済学,計量経済 学,人類学等の知見を持ち寄っており,いずれの学問分 野でも対応しきれなかった課題に対する独自の貢献がで きると考えている。また,本研究は,産業人材の技能評 価モジュールを開発し,実用化すると同時に,その成果 に基づき開発途上国(特にアフリカ)において,労働者 の能力の需給ギャップを解消するための政策提言をする ことを目的としている。そのため,国際共同研究は不可 欠である。科研の申請書作成時に Letter of Intent に署名 してくれた 3 名の他,表 1 にあるように,実際には,対 象 3 ヵ国において,収集したデータを用いた分析,共著 論文執筆を行う研究者を複数挙げている。. 4. 上記の研究者を共同研究者として選ぶに 至った経緯 エ チ オ ピ ア 教 育 省 TVET 担 当 副 大 臣(申 請 時) Teshome Lemma Wodajo 氏は,研究者ではないが,同国 の行政機構の特徴から,トップマネージメントの支持が 不可欠であり,同氏の積極的関与は本申請研究の強力な 裏付けになっている。実際に研究に参画するのは,教 育省が監督する連邦 TVET 短大(Federal TVET Institute) と連邦 TVET 機構(Federal TVET Agency)研究部に所 属する研究員である。 南アフリカ資格認定機構(SAQA)の Julie Redy 博士 は,同機構の副代表であるとともに,労働問題の研究者 でもある。また,エチオピアの Wodajo 氏とともに,研. 究代表者が以前実施していた科研(基盤 B)の中間報告 を兼ねて国際協力機構(JICA)と共催した TICAD VI フォ ローアップ・国際シンポジウム“アフリカの持続可能な 開発に向けた産業人材育成”(平成 29 年 2 月 23 日開催) においてパネリストを務めている。 ガーナの労働研究・政策研究所(Labour Research and Policy Institute)所長の Kwabena Nyarko Otoo 博士は,労 働経済学の専門家であり,同国最大の労働組合である Trade Union Congress を通じて労働者の訓練や雇用に関 してエビデンスに基づく政策提言をすることを目的に研 究を行っている。本研究との連携には非常に熱心であり, 複数のスタッフが論文執筆に関わる見込みである。 これら科研申請に参加してくださった共同研究者は, 我々が現地で技能評価を実施するための調整を行う中で 出会い,その後日本で開催したシンポジウムや現地での 政策提言ワークショップなどに参画していただく中で関 係性を構築してきた方々である。. 5. 研究の進展状況 前述の通り,複数の研究費を獲得しつつ数年がかりで 実施してきているので,本科研のみの成果を挙げること は難しい。しかし,2018 年度に採択された本科研では, 事例として取り上げたエチオピア,南アフリカ,ガーナ の 3 ヵ国において,縫製業の労働者と雇用者,TVET 教 員を対象に大規模データを収集するとともに,上述の各 国共同研究者及びその所属機関との論文共著や,それに.
(3) “人的資本”の本質を探究する. 41. 表 1 研究組織 ◦名古屋大学アジア共創教育研究機構・国際開発研究科教 授・山田肖子(日本). 総括(南アフリカ,エチオピア,ガーナでの試行に基づき汎用 的技能測定モジュールの開発と政策提言). ◦名古屋大学アジア共創教育研究機構・客員教授・野口裕 之(日本). 教育測定・テスト理論の観点から,技能測定モジュールの開発 及び分析への助言。. ◦京都大学アジアアフリカ地域研究研究科教授・高橋基樹 (日本). アフリカ経済論の観点から,中小・零細企業の技能蓄積につい て分析。. ◦名古屋大学国際開発研究科・准教授・クリスチャン・オチ 特にエチオピアにおける技能測定と政策提言を主導。計量経済 ア(日本・コンゴ民主共和国) 学の観点から分析。 ◦名古屋大学国際開発研究科特任助教・島津侑希(日本). エチオピアを中心に,TVET 卒業生の人類学的追跡調査を実施。. ◦名古屋大学アジア共創教育研究機構・日本学術振興会ポス 技能評価や質問票の開発及び教育測定の手法を用い,モジュー ルを精緻化。 ドク研究員・谷口京子(日本) ◦名古屋大学アジア共創教育研究機構特任助教・近藤菜月. 特にガーナを担当。TVET 卒業生の追跡調査。. ◦南アフリカ資格認定機構 (SAQA) 副代表・ジュリー・レディ 職能認定基準の設定,評価,教育カリキュラムの総括を行う機 (南アフリカ共和国) 関として,当研究への助言やデータ提供,政策提言のパートナー。 ◦ダーバン工科大学社会連携部長・ダレン・ブレンダン・ロー 南アフリカにおける技能測定モジュールの試行サイト・ダーバ タン(南アフリカ共和国) ンでのデータ収集,政策提言のパートナー。 ◦エチオピア国教育省職業技術教育担当副大臣・レンマ・テ 教育省下にある TVET Agency との研究協力の支援,当研究の成 ショメ(エチオピア民主共和国) 果を政策に反映する可能性を検討。 ◦アジスアベバ大学教育研究所長・ギルマ・ファンタイエ(エ エチオピアにおける技能測定モジュールの試行サイトでのデー タ収集,政策提言のパートナー。 チオピア民主共和国) ◦ガーナ国労働組合会議・労働研究・政策研究所長・クワベナ・ 職能認定基準の設定,評価,教育カリキュラムの総括を行う機 ニャルコ・オトー(ガーナ共和国) 関として,当研究への助言やデータ提供,政策提言のパートナー。 ◦ガーナ国職業技術教育評議会代表・フレッド・アサモア(ガー ガーナにおける技能測定モジュールの試行サイトでのデータ収 ナ共和国) 集,政策提言のパートナー。 注)研究者の所属は申請当時のもの。 出所:筆者作成. 基づく政策提言を行うことを目指している。 エチオピアでは,TVET の学生及び地場の中小企業 に加え,外資系企業が投資する二つの産業パークで総 計 1000 名ほどの参加を得て技能評価を実施した。また, ガーナでは,TVET や工科大学の学生,中小企業の労働 者に加え,インフォーマル・セクターの労働者も技能評 価に参加している。南アフリカでは,本プロジェクトに よる TVET と工科大学の学生の筆記試験が終わっている。 これまでの科研メンバーの研究成果としては,刊行済 み及び掲載決定した学術論文(英語 4 本,日本語 2 本), ポリシーブリーフ 3 種,政府への中間報告書などが挙げ られる。日本語での書籍も準備中である。また,エチ オピア,ガーナでの政策提言のための会議をそれぞれ 2018 年,2020 年に行った他,対象国の共同研究者の参 加を得て日本で国際シンポジウム(2017 年)も実施し ている。 また,対象 3 か国で評価モジュールの有効性を確認し. たうえで,研究期間中に,他国及び他産業にも適応しよ うとしており,現在,国際機関や政府等との協議を進め ている。. 6. 国際共同研究を推進していく上での工夫 や直面した課題およびその解決策 本研究は,3 ヵ国で展開するというデザインになって いるが,実施において,相手側の支援や関心の度合い, 更に日本側のキャパシティの制約などから,実施のタイ ミングや進捗にどうしても濃淡が出てしまう。また,研 究論文の共著に関心がある現地共同研究者が,データ収 集のための作業管理や調査アシスタントの指導にも協力 してくれるとは限らない。そのため,データ収集は日本 の研究チームが直接雇用した調査アシスタントを通して 実施しているのが実情である。また,政策的関心が高い テーマであるため,政府や産業界から前向きな反応があ.
(4) 山 田 肖 子. 42. るのは大変ありがたい一方で,研究としての新しさや精 度の高さを追及する前に簡単な分析に基づく現状把握と 提言が期待される。このように,タイムリーな調査実施 と発信を求められる状況で,現地側研究者を本当の意味 での研究パートナーとしていくためには,息の長い関わ りが必要と感じている。具体的に我々が取り組んでいる のは,技能評価の実施から,評価の結果得られたデータ 集積までのプロセスを標準化・簡略化すること,それに よって,研究に直結しない作業に割かれる時間を減らし, データ分析に注力できるようにすることである。更に, 現在のところ分析に関するブレーンストーミングはどう しても日本にいるメンバーが中心になってしまっている が,現地の共同研究者をもっと巻き込むことが必要と感 じている。. 7. 国際共同研究を行うにあたって感じたこ と,気づいたこと アフリカを研究フィールドにしていると,欧米やアジ ア等,他地域の研究コミュニティに対しては,口頭発表, 論文などの成果発信での関わりが中心になってしまい, なかなか一緒に分析・研究を行うところまでいかない。 研究対象国での政策的関与に直結したパートナーシップ と,成果発信のためのパートナーシップのバランスが難 しいと感じている。同時に,それを両方可能にするため には,研究チームの本体にかなりのキャパシティが必要 であり,研究の持続的発展の課題ともつながっている。. 実施対象国で技能評価に期待してくれる政府や関係者 の熱意に活力をもらいつつ,これを研究として高め,持 続していくために我々は今何ができるのかと,研究者と してだけでなくベンチャー企業の経営者のような葛藤を 抱える毎日である。「国際共同研究」のノウハウを語れ る段階には到底ない我々ではあるが,この原稿が,同じ ような苦労をされている他の学会員の方々と意見交換す るきっかけにでもなれば幸いである。. 注 1) 本稿で名前を挙げている海外共同研究者及び国内の研究分 担者の所属は全て科研採択時のものである。. 参考文献 Bowles, Samuel, Herbert Gintis and Melissa Osborne (2001) “Incentive-Enhancing Preferences: Personality, Behavior, and Earnings,” American Economic Review 91 (2): 155-158. Heckman, James J. and Yona Rubinstein (2001) “The Importance of Noncognitive Skills: Lessons from the GED Testing Program,” American Economic Review 91 (2): 145-149. Kurekova, Lucia, Miroslav Beblavy, Corina Haita-Falah, and Anna Thum-Thysen (2015) “Employers’ skills preference across Europe: between cognitive and non-cognitive skills,” Journal of Education and Work: 1-26. Pellizzari, Michele and Anne Fichen (2017) “A New Measure of Skill Mismatch: Theory and Evidence from PIAAC,” IZA Journal of Labor Economics 6 (1): 1-30..
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