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日本サイトメトリー学会創設30 周年の歩みと今後の展望

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに 2020年,日本サイトメトリー学会 (JCS) は創立 30 周年を迎えました。多くの学会においては,創立後は もちろんのこと,その創立に至る過程で様々な問題を 抱え,紆余曲折の末最終結論に到達したということが, 決して稀ではありません。JCS も例外ではなく,フロー サイトメトリー (FCM) という研究技術の日本での普 及をめぐって,多くの諸先輩方が御苦労された結果で あると思われます。本稿では,JCS 創立 30 周年を契 機として,これまでの JCS およびそれに関連した歴史 的な流れを紹介させていただきます。 Ⅱ.JCS 誕生への道のり JCSは,学会としては 30 年の歴史ということになり ますが,日本における FCM 研究の歴史を紐といてみま すと,さらに 20 年以上さかのぼることになります。 FCMの世界における技術革新の幕開けは,佐々木 功典 JCS 元理事長が以前本誌で紹介されたように1) , Wallace Coulterによる細胞算定の原理および流体によ る細胞数の計測器実用化に始まります (写真 1)。その 後,Mack Fulwyler によりセルソーターが開発され (写 1) 日本サイトメトリー学会 理事長 2) 関西医科大学 内科学第一講座

日本サイトメトリー学会創設 30 周年の歩みと今後の展望

野村 昌作

1)2)

Essentials of 30th anniversary and the future perspective in Japan Cytometry Society

Shosaku Nomura 1)2)

1)

Shosaku Nomura: Chief Director, Japan Cytometry Society

2)

First Department of Internal Medicine, Kansai Medical University

Key words : 日本サイトメトリー学会;創設 30 周年;学術集会;学術機関紙;認定制度

特別寄稿

写真 1 細胞数計測器の実用化

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真 2),さらに Van Dilla によるアルゴンレーザー搭載 の現在の基本的な FCM の開発へとつながっていきま した1) 。FCM の世界への普及に呼応した形で,やがて 国際的な学会設立への動きが進められ,1971 年に国 際サイトメトリー学会 (ISAC) の第 1 回目の学術集会 が Mortimer L. Mendelsohn 会長のもとで開催され,そ の後 1 ∼ 2 年の周期で会合が継続的に続けられること になりました。ISAC の開設は,まさに FCM を用いた 研究・技術の有益な情報交換の場の提供を可能としま した。 ISACの設立から約 10 年後,日本においても FCM 研究の活発な動きが生まれ始めました。JCS の前身で ある FCM・Cell Biology 研究会が 1983 年に誕生し,関 東地区を中心として活動が始まりました。その翌年, 関西地区では関西フローサイトメトリー研究会が発足 し,当時は東と西に同じような研究会が存在する事に なりました。それぞれの研究会で主要な役割を果たさ れた先生方については,前述の佐々木功典 JCS 元理事 長の文献に詳しく記載されています1) 。ただ,どちら の研究会も,会合の記録集や論文掲載誌を発行し,そ れぞれの活動状況を後世に伝えるべく努力を行ってい ました(図 1)。私は,この頃大学院生として FCM を 用いた血液の研究を行っており,その成果を関西フ ローサイトメトリー研究会で報告していました。当時 この研究会を牽引していた河本圭司元 JCS 理事長は, 東西で 2 つの同じような研究会があるのは不自然で あり,日本のこの分野の発展のためにも,2 つの研究 会は合併すべきだとおっしゃっていました2) 。その言 葉通り,その後二つの研究会は話し合いを重ね,1990 年にひとつの学会として統一されることになりまし た。その際,従来のフローサイトメトリーにこだわら ず,細胞の持つ特性を計量的に研究し,広く計量細胞 学を研究する学会として JCS が誕生したわけです。そ して翌年の 1991 年には天神美夫会長のもと,記念す べき第 1 回 JCS 学術総会が開催されることとなりまし た(写真 3)。 Ⅲ.JCS 始動 第 1 回 JCS 学術総会の開催は,日本における FCM 研究者に大きな刺激と希望を与えるきっかけとなりま した。私も含め当時の若手の研究者たちは,この学会 で FCM に関する研究を発表することが,研究者とし てのルーチンの流れであると自覚すると同時に,有益 な情報交換を様々な形で体験することができたのでは ないかと思われます。JCS 学術集会は,歴代の学術会 長の御努力により,毎回すばらしい業績をあげること ができ,現在まで 30 回開催を続けています (図 2)。 JCS設立当初の頃は,ISAC との連携も進められ,国 際学会への積極的な参加 (写真 4) や,国際シンポジ ウムの開催 (写真 5) およびジョイントミーティング なども実施されました。日本の FCM 研究のレベルアッ プのためには,何より世界との連携が重要であるこ とを,当時の JCS を牽引していた先生方は強く感じて おられたと推察いたします。さらに,癌 DNA 研究会 との合併を果たした第 10 回の学術総会 (杉下匡会長) では,FCM の巨匠である Herzenberg 教授を招請され たことは本学会の大きな出来事として記憶に残って います (写真 6)。現在,この様な世界との連携がやや 希薄になっているのは,誠に寂しい限りであり今後の JCSの課題の一つと言えます。 JCS学術総会での,各会の総合テーマや発表内容を プログラムで振り返ってみますと,この 30 年で FCM が果たす研究における役割や位置づけが大きく様変わ りしてきていることがわかります。学術総会の初期 の頃から,FCM 研究は,固形がんを主体とした DNA ploidyとがん診断に関する研究と,血液成分を題材に 図 1 研究会記録集・論文掲載誌 写真 3 第 1 回 JCS 学術総会

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した血球表面マーカーによる診断学的研究の二つの流 れがありました。当初は DNA ploidy とがん診断に関 する研究が高い比率を占めていた感じがありますが, その後,幹細胞を中心とする再生医療が注目されるよ うになり,そういった演題も増加しはじめました。日 本の幹細胞研究の代表的存在である第 17 回学術総会 会長の中内啓光先生や,第 21 回学術総会会長の薗田 精昭先生の学会へのご貢献は多大なものがあったと思 われます。また移植医療,あるいは免疫学の急速な発 展に伴って,学術総会での発表演題は時代の流れに決 して遅れることなく常に最先端の研究テーマを含有し ており,その方向性は iPS 細胞研究から直近では AI 図 2 JCS 学術総会歴代会長一覧 写真 4 国際学会 (ISAC) への参加 写真 5 岩手で開催された国際シンポジウム 写真 6 Herzenberg 教授の招請

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時代に向けた研究テーマへと発展してきています。も ちろん,必要かつ基本的な部分に関連するものとして は従来からの古典的な手法,あるいは日常的なテーマ に関するものも扱われています。さらに,最近は学術 集会の定番となってきた症例カンファレンスも FCM の日常診療における役割を確認する大きな意義をもっ たセクションであると思われます。 Ⅳ.JCS の果たす役割 JCSは設立から現在に至るまで,5 人の理事長 (写 真 7) を配し,理事・評議員・一般会員の皆様の協力 のもとに,時代に即した活動を展開してきました。日 本サイトメトリー技術講習会もその活動の一環の一つ であり,基礎コースと応用コースに分けて教材を用い ながら実施されてきました (図 3)。現在基礎コースは, 後述する 「認定サイトメトリー技術者」 認定試験の指 定講演会および初心者のための入門講習会として開催 しています。一方,応用コースは主に機器のメーカー のサポートの元に,より専門的・実践的な技術を修得 する講演会であり,毎回当番会長のもとに小人数での 講習会をおこなっています (写真 8)。 JCSは,学会としての学術機関誌を学会創立当初 か ら 発 刊 し 続 け て い ま す。 機 関 誌 名 は 「Cytometry Research」 であり,投稿論文に対して査読者による入 念なチェックシステムが構築されており,これまで に優秀な論文を多数掲載しています (図 4)。機関誌は 2016年 (Vol.26, No1) からは電子化が確立され,「科学 技術情報発信・流通総合システム」 (J-STAGE) により Web上で公開されています (図 5)。 JCSの設立は,わが国における計量細胞学の発展に 大きく寄与しましたが,残念ながらデータの精度管理 に関しましては,その信頼性に関して答えに窮する状 況も稀ではありませんでした。そのため,他の関係分 野の学会 (日本臨床衛生検査技師会,日本臨床細胞学 会,日本臨床検査医学会,日本臨床検査同学院,日 本検査血液学会) と協力し,2000 年に 「日本サイトメ トリー技術者認定協議会」 が発足し,日本サイトメト リー技術者認定制度の設立に至りました (図 6)。最近 は多くの医師あるいは検査技師の方がこの認定を受け られ,認定制度の重要性が全国的にも認知されるよう になってきました3)。なお,この協議会に関しては, 2011年から私が会長を務めさせていただいておりま す。現在は,改定された新しい教材をもちいて (図 7), まず講義を行い,その後認定取得のための試験を実施 しています (写真 9)。受講者がここ数年右肩上がりで 増加していることは,日本の FCM 技術者の将来像を 考えた時,誠に喜ばしいことと思います。 写真 8 日本サイトメトリー技術講習会(応用コース) 図 3 日本サイトメトリー技術講習会教材 写真 7 JCS の歴代理事長 写真上段左から、野村和弘初代理事長、河本圭司 2 代目理 事長、佐々木功典 3 代目理事長、下段左から、薗田精昭 4 代 目理事長、野村昌作 5 代目理事長。

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図 5 Web ジャーナル「Cytometry Research」 図 4 学会機関紙「Cytometry Research」

図 7 日本サイトメトリー技術者認定協議会・審議会組織図

図 8 講習会の新教材 写真 9 講習会風景

Cytometry

Japan Cytometry Society

Volume 30, Number 1 July 2020

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Ⅴ.JCS の今後の展望 FCMは最先端の技術として研究の世界に登場し, 瞬く間に標準的かつ必須の研究手法として定着しまし た。そして現在ではその応用範囲は,この機器が開発 された当初には想像もつかなかったほどの技術革新に よってなお進化し続けています。今後も試薬や関連部 品の改良あるいはコンピューターの能力の加速に呼応 して,FCM の機器としての価値観はおそらく無限大 の可能性を秘めているものと思われます。FCM の用 途は,それを利用している分野・部門によって大きく 異なります。例えば移植医療においては,プリミティ ブな幹細胞をいかに同定し採取するかが最も重要な課 題であり,FCM の解析およびソーティングの技術は まさにその質問に対する的確な答えを提供してくれま した。また,本文中にも紹介しましたように免疫学の 進歩や,再生医療の発展には目を見張るものがあり, これら医学に関する分野での研究手法として FCM は, 必須のそして安定した地位を獲得したのは紛れもない 事実であります。FCM は今後はさらに上の地位を目 指して進化しつづけていくものと思われますが,その 方向性と到達点に関しては,正直私の想像範囲を遥か に超えたものであるような気がいたします。JCS 設立 からあっという間の 30 年でしたが,FCM の進化につ いていくためには,JCS も決して歩みを止めるわけに はいきません。今後,50 周年,あるいは 100 周年を 目指して JCS の会員諸氏が奮闘されることを期待申し 上げて本稿の筆をおかせていただきたいと思います。 謝 辞 本稿作成において,故河本圭司元 JCS 理事長からお 預かりした数多くの資料を参考にさせて頂きました。 この場を借りて厚く御礼申し上げます。 参考文献 1. 佐々木功典 : サイトメトリー学会 25 年を振り返っ て.Cytometory Res 27: 57-59, 2017. 2. 野村昌作:故 河本圭司先生を偲んで . Cytometory Res 29:37-38, 2019. 3. 野村昌作,小賀厚徳:日本サイトメトリー技術者 認定の現状と今後の展望.Cytometory Res 29:11-16, 2019.

図 7 日本サイトメトリー技術者認定協議会・審議会組織図

参照

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