体育における「学び」の問い直し
Society 5.0を見据えた現代の社会においては,学校そのもののあり方を含め,教育や
「学び」のあり方が問い直されています.新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大
という状況は,このような動きを前倒ししたという側面があると感じています.新型コ
ロナウイルス禍に見舞われたこの1年間は,学校におけるこれまでの体育という営みの
あり方に対して新たな「問い」が向けられるとともに,ICTを活用した授業の取り組み
や学校,家庭,地域が連携した学びのあり方などが模索されています.とりわけ,実技
教科としての特徴を持つ体育においては,「学び」の環境を含め,その内容や方法のあり
方が問われていると思います.
体育という営みは,運動やスポーツという文化を「教えること」「学ぶこと」から構成
されています.「教えること」はこれまでも「社会的な営み」として認知され,制度や組
織などを中心に社会科学の分野でも多様な研究が行われてきました.一方で「学ぶこと」
はどちらかと言えば「個人的な営み」と捉えられる傾向が強く,主に個人を対象とした「心
理学」の領域が大きな役割を果たしてきたように感じます.しかしながら,近年では,「学
ぶこと=学習」を「社会的な営み」として捉える動きも活発になってきています.文化
人類学者(社会人類学・科学技術人類学)の福島真人は「思考や学習は,どこではじまり,
どこで終わるのか,その境界が曖昧な運動性を帯びていて,それゆえ視点を心理学的な
接写から,社会科学的な引きへとフレームを変えていけば,そこにまた別の形象が浮か
び上がってくる」(福島真人,2010,「学習の生態学」,東京大学出版会)と指摘し,その
「運動性」(動的な側面)という特徴について「生態学(エコ・システム)」というキーワー
ドを用いて説明しています.
「体育」という営み,とりわけ学校教育において運動やスポーツという文化を学ぶ営
みは,「学び」が「自己(身体)」「他者」「モノ」との関わりの中に生成するという考え
方を出発点にしながら,学校という枠組みを超えて地域における多様な他者,多様な組
織と有機的に結びつきながら「拡張する」という考え方に発展しつつあります.今後は,
体育における学びの「運動性」(動的な側面)に着目しながら,「身体」「創造性」「挑戦」
「非言語的な対話」などのキーワードを軸に,これまでの「学び」のあり方を問い直すこ
とが求められていると思います.本誌における研究の蓄積を通して,体育という「実践」
の中から,体育という枠組みを超えた新たな「学び」のあり方が生成されることを期待
しています.
北海道教育大学岩見沢校 山本 理人
巻頭言