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高齢者福祉施設における沖縄戦体験の語りの実態調査 : 語りに対する施設従事者の対応と想いを中心に: 沖縄地域学リポジトリ

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Title

高齢者福祉施設における沖縄戦体験の語りの実態調査 :

語りに対する施設従事者の対応と想いを中心に

Author(s)

吉川, 麻衣子

Citation

沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of

Humanities and Social Sciences(17): 77-83

Issue Date

2015-03-03

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/19064

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〈調査報告〉

高齢者福祉施設における沖縄戦体験の語りの実態調査

―語りに対する施設従事者の対応と想いを中心に―

Investigation about the Actual Narratives on the Battle of Okinawa Experience in

Welfare Facilities for Elderly Persons: Focusing on the Correspondence and Feelings

of Facility Professions for Narrative of the Memories of the War.

吉川 麻衣子

要 約  沖縄県内の高齢者福祉施設において、入居者・利用者の沖縄戦体験の語りを施設従 事者がどのような想いで対応しているのかを明らかにすることが本稿の目的である。 255 名を対象とした調査の結果、ベテラン職員よりも若手職員の方が、戦争で家族 や友人等を亡くした体験や悲惨な戦争体験の語りを多く聴いていることが示唆された が、語られることに戸惑いを感じ、体験者の語りを抑制する対応が目立った。今後は、 戦争体験等の語りへの対応に関する施設職員研修、認知症高齢者の自発的なナラティ ブを活かした心理的援助技法の開発が必要である。 キーワード:沖縄戦体験、高齢者福祉施設、語り、回想、記憶 Ⅰ 緒 言  人生の統合期には人生の捉え直しを始める(Erikson,1982;村瀬・近藤訳,1989)。回想によっ て過去の葛藤と向き合い受容していく中で、自己の人生の有限性を受け止め、肯定的な自己像 を持ち続けることができるようになるという。長田・長田(1994)は、「わが国の高齢者の場合、 戦争に纏わる体験は、否定的な体験として回想に影響を与えているため、戦争によって自らの 人生がくるわされたという怒りや、戦争のせいで思うような人生を送ることができなかったと いう憤りの感情が呼び起こされ、人生に対する後悔の念や残された時間が少ないという絶望感 などがもたらされる可能性がある」と指摘している。吉川・田中(2004)は、沖縄県の戦争体 験者は、首都圏及びその周辺地域の体験者と比して、戦争体験の記憶を想起するたびに苦痛を 感じ、現在の健康状態にまで負の影響が及んでいる方が多いことを示唆した。  また筆者は、2004 年に沖縄県内 7 地域で「沖縄戦体験を語らう場」を立ち上げ始めた(吉川, 2008)。語らいの中で、「戦後これまで一度も戦争の話は口にしたことがない」、「家族にも自ら の戦争体験は語りたくない」と言っていた方が、70 年の時間をかけて自らの体験を言葉にし、 語り始める。同時代を生きた者たちの語りに刺激され、あるいは、「今、語っておかないと逝け ない」と各々の感懐を打ち明ける。「戦争の話はもう聴きたくない」と家族に言われ、「もう語 らないでおこう」と心に決めた方々が互いの体験や戦後の苦労を語らい労い合う。そのような

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沖縄大学人文学部紀要 第 17 号 2015 活動が約 10 年続いている。  まもなく沖縄戦終焉から 70 年目を迎える。沖縄戦を直接体験し記憶を持つ方々は 80 歳を超 えている。介護が必要となり、高齢者福祉施設で生活している方々も多い。地上戦が展開され た地に暮らすということは、想起のきっかけとなる場所や音やニオイが生活の至る所にあると いうことである。こうした年齢時期と地域性を鑑みると、沖縄戦体験者の自発的な語りに、高 齢者福祉施設ではどのように対応しているのか、その対応にあたる施設従事者の想いはいかな るものかを把握し、高齢となった戦争体験者への寄り添い方を検討すべき時期にある。そこで、 本研究は、高齢者福祉施設における入居者・利用者の沖縄戦体験の語りの実態について、施設 従事者の対応と想いの視点から明らかにすることを目的とする。 Ⅱ 方 法 1.調査対象者  沖縄県内(離島含む)の高齢者福祉施設 120 ヶ所 (特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付 有料老人ホーム)に対し、各施設につき 10 枚の調 査用紙を郵送配布した。職種や雇用形態に関係なく、 施設入居者・利用者と日常的に接する機会のある職 員で、「勤務中に沖縄戦体験者の語りを聴いたこと がある者」を対象にアンケートへの回答を求めた。 有効回答数は 255 名、平均就業年数は 9.4 年であり、 職種の詳細は表 1 の通りである。年代は、20 代が 87 名、30 代が 65 名、40 代が 41 名、50 代が 32 名、 60 代以上が 30 名であった。 2.調査時期  予備調査は 2012 年 8 月~ 10 月に 5 施設を対象に行われ、本調査は 2013 年 5 月~ 6 月に行 われた。予備調査は、質問項目の検討のために実施されたものであり、本稿では本調査の結果 のみを分析する。 3.調査内容  予備調査の結果をもとに、本調査の内容は以下の 7 点とした。  (1)頻度:「沖縄戦の体験話を聴いたことがありますか」。6 件法で回答を求めた(①まった くない、②これまでに数えられる程度ある、③年に数えられる程度ある、④月に数えられる程 度ある、⑤週に数えられる程度ある、⑥ほぼ毎日ある)。  (2)場面:「どのような場面で語られることがありますか」。複数回答可の項目(①食事・介 助場面、②相談場面、③レクリエーション場面、④ベッドサイド、⑤その他)を設けた。その 他については自由回答を求めた。  (3)内容:「どのような内容を語られることがありますか」。複数回答可の項目(①戦闘体験、 ②学徒動員、③徴用、④疎開、⑤収容所生活、⑥戦地をさまよう、⑦人を殺めた、⑧目の前で家族・ 友人等を失った、⑨種々のエピソードが断片的に、⑩その他)を設けた。その他については自 由回答を求めた。  (4)契機:「どのようなきっかけで語り始めることがありますか」。複数回答可の項目(①映像、 表 1 調査対象者の職種と人数 職 種 対象者数 医師 2 看護師 35 リハビリ専門職 (理学療法士、作業療法士、言 語聴覚士、臨床心理士) 59 臨床心理士 10 介護福祉士 92 支援相談員 18 ケアマネージャー 15 社会福祉士・精神保健福祉士 11 その他 13

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②新聞記事、③ 6 月 23 日、④ 8 月 15 日、④戦没者の命日、⑤戦闘機やヘリの音、⑥雷などの 大きな音、⑦他者の戦争の語りを聴いて、⑧突然に、⑨その他)を設けた。その他については 自由回答を求めた。  (5)対応:「沖縄戦体験の語りにどのように対応することが多いですか」。単一回答の項目(① 相手が話し終えるまで傾聴する、②話を変える・そらす、③場所を変える、④他職種(心理士 など)につなぐ、⑤戦争の話は聴きたくないと言う、⑥話すのをやめさせる、⑦その他)を設 けた。その他については自由回答を求めた。  (6)想い:「沖縄戦体験の語りを聴いた時にどのような想いになりますか」。複数回答可の項 目(①辛くなる、②大変だったのだなと思う、③正直聴きたくない、④困る、⑤ちゃんと聴きたい、 ⑥時間がない、⑦心配になる、⑧その他)を設けた。その他については自由回答を求めた。  (7)その他:戦争体験者の語りへの対応の仕方で、気になっていることや困っていることを 自由記述で回答を求めた。 4.倫理的配慮  調査用紙の返却があった各施設責任者に、再度調査の趣旨説明を行い、結果公表の際には、 施設と個人が特定できないよう配慮する旨の同意書が交わされた。調査結果は、今後の対応に 活かせる形で各施設にフィードバックを行うこととした。 Ⅲ 結 果  1.語りを聴く頻度  日頃、入居者・利用者と接する中で、どのぐらいの頻度で「沖縄戦体験の語り」を聴いたこ とがあるかについて、職員の年代別に結果を集計した(表 2)。年代ごとに回答傾向に相違が認 められるかを確かめるため r × k ×χ2検定を行ったところ、20 代および 30 代の職員の方が、 40 代以降の職員よりも「沖縄戦体験の語り」を聴く機会が多い傾向にあることが示唆された。 (χ 2(20)=15.05,p<.01) 表2 語りを聴く頻度の年代別回答傾向(単一回答)   20 代 30 代 40 代 50 代 60 代以上   度数 (%) 度数 (%) 度数 (%) 度数 (%) 度数 (%) まったくない 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) これまでに数えられる程度 0 (0) 0 (0) 2 (4.9) 0 (0) 2 (6.7) 年に数えられる程度 1 (1.1) 3 (4.6) 21 (51.2) 6 (18.8) 13 (43.3) 月に数えられる程度 22 (25.3) 18 (27.7) 10 (24.4) 14 (43.8) 8 (26.7) 週に数えられる程度 53 (60.9) 39 (60.0) 4 (9.8) 7 (21.9) 5 (16.7) ほぼ毎日ある 11 (12.6) 5 (7.7) 4 (9.8) 5 (15.6) 2 (6.7) 2.語られる場面  質問項目 1 で“まったくない”に回答した者はなかったので、全対象者 255 名に対し、どの ような場面で「沖縄戦体験の語り」がなされているのかを複数回答可で尋ねた。その結果、相 談場面での語りが 192 件(75.3%)でもっとも選択率が高く、次いでベッドサイドが 169 件 (66.3%)、食事・介助場面が 51 件(20%)、レクリエーション場面が 15 件(5.9%)の順であった。

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沖縄大学人文学部紀要 第 17 号 2015 その他として、“家族など面会者がいるとき”、“朝の散歩時”、“天候が悪い日”、“同じ地域の出 身者を見つけたとき”が挙げられていた。また、“他人の話をどこまで理解できているのかが分 からない利用者が、映像や写真を見たときに戦争の話をし出すことに驚かされる”という記述 があった。 3.語られる内容  「沖縄戦体験の語り」の内容について、複数回答可で尋ねた結果を全体の選択率(各項目に対 して全体 255 名の何%が選択したか)で示した(図 1)。“家族・友人などを亡くした体験”の 語りが 74.1% でもっとも多かった。対象 者が回答する際に想定した高齢者の認知 機能レベルは不明だが、様々なエピソー ドが“断片的に”語られることも 69.4% と高かった。 4.語られる契機  勤務中、どのようなきっかけで「沖縄 戦体験の語り」が始まることがあるのか について、複数回答可で尋ねた結果を全 体の選択率で示した(図 2)。もっとも 選択率が高かったのは、“映像(戦争関 連の報道やドキュメンタリー番組等)” で全体の 74.9% が選択していた。次い で沖縄の慰霊の日である“6 月 23 日” の前後に語られることが多く(67.5%)、 米軍や自衛隊の戦闘機の重低音やオスプ レイ等の騒音が聞こえてくると「戦争の 時はね…」と語り始める場面に遭遇した 者も 64.7% と多かった。 5.語られた時の対応  「沖縄戦体験の語り」があったときに、 どのように対応することが多いかを単一 回答で尋ねた結果を図 3 に記した。  “話すのをやめさせる”(35.7%)、“話を変える・そらす” (34.9%)と回答した者が顕著に多かった。  その他としては、“その時々で対応は異なる”(3 名) が挙がっていた。また、“大事な話なので最後まで聴き たい気持ちはあるが、業務に追われてそれどころでは ないことが多い”(14 名)という意見があり、14 名と も 20 代の職員であった。“聴きたくないとは言わないが、 聴きたくない素振りをする”(9 名)という意見もすべ て 20 代の職員であった。 6.語られた時の想い 図 1 沖縄戦体験として語られる内容に関する全体の選択率 (複数回答可) 図 2 沖縄戦体験が語られる契機に関する全体の選択率(複 数回答可) 図 3 沖縄戦体験が語られた時の対応(単

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勤務中に「沖縄戦体験の語り」を聴いた 時の想いについて、複数回答可で回答を 求めた結果を、全体の選択率で示した(図 4)。“困る”が全体の 68.2%、“心配にな る”が全体の 55.7% と選択率が高かった。 一方、“ちゃんと聴きたい”という想いも 49.0% と約半数が選択していた。その他 として、“身内の話なら聴けるが、入居者 の話はどこまで聴いたらいいのかがわか らない”、“(聴いた後の)フォローができ ないから怖い”、“小学校の時に行った壕で の怖い体験を思い出してしまうので嫌であ る”が挙げられた。 7.対応で気になる点  「沖縄戦体験の語り」に対応する際、日頃から気になっていることや困っていることを自由記 述で回答を求めたところ、次のような意見が挙がった。  “体験を泣きながら話す利用者の話をどこまで深く聴いていいのか”、“聴きこまない方がいい のか”、“楽しい話に誘導した方がいいのか”、“戦争のことを全く話さなかった方が突然話し出 した時にどのように対応したらいいのかがわからない”といった戸惑いが多く挙げられていた。 また、“重度の認知症があり日常会話も困難な方が、戦争体験を繰り返し語っているのはなぜな のか”、“家族には話さないのに、我々職員にはよく戦争の話をするのはなぜなのか”といった 疑問も多かった。 Ⅳ 考 察 1.沖縄戦体験の語りに対する施設従事者の対応と想い  本研究の結果から、高齢者福祉施設における「沖縄戦体験の語り」の実態が明らかになった。 入居者・利用者は、経験豊富な 40 代以降の職員よりも若い世代の職員に自らの体験を語ること が多いようだ。高齢者の語り・回想の研究において、孫世代への語りは未来を託したいという 意思のこもった語りであることが指摘されている(黒川,2005)。しかしながら、家族や友人を 亡くし、空腹に耐えながら生きてきた方々の語りに対して、“聴きたくない素振り”を見せたり、 “業務に追われてそれどころではない”という態度で接したりという対応が目立った。無論、業 務の煩忙さゆえにそうせざるを得ない側面もあるだろうが、話すのをやめさせたり、話を変え たりする行動の背景には、“どこまで深く(きちんと)話を聴いていいのかわからない”という 戸惑いがあるように推察される。“大事な話だ、ちゃんと聴きたい”という想いは強く持ってい るのだが、対応の仕方がよく分からないために、戦争体験者たちの自発的な語りを妨げてしま う対応をとっているのかもしれない。特に、20 代、30 代の職員には、“戦争体験の話は平和教 育の一環として戦争体験者の話を聞いたことはあるが、自らの祖父母も戦争を体験していない” 職員も多い。  岡庭(1979)は、1964 年に沖縄県内の精神障害者の在宅調査を行った際、「沖縄のどこに行っ ても、住民から『戦後患者が急増している』とよく聞く」と述べている。また、吉川(1979)は、 図 4 沖縄戦体験が語られた時の想いに関する全体の選択 率(複数回答可)

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沖縄大学人文学部紀要 第 17 号 2015

沖縄県には精神分裂病患者(当時)が圧倒的に多く見られ、しかもその病気の好発年齢は 30 歳

以上に偏在するとして、「これは沖縄戦と無関係ではない」と述べている。阿鼻叫喚とも表現さ

れる沖縄戦が、当時の人びとに与えた精神的影響は計り知れない。さらに、体験した年齢時期 という観点から述べると、社会的変動による影響をもっとも受けるのは青年期であり(Baltes, Reese, Lipsitt, & Lewis,1980)、老年期においてもっとも回想されやすいのは、最近の 10 年くらいであるが、それ以前では青年期の時期であるとされる(Rubin, Wetzler, & Nebes,

1986)。その回想されやすい時期に、衝撃的体験をした場合、当時の記憶は凍結されたままモザ イク状に残存する。戦火を生き延び、今日まで生きておられる方々の記憶の奥底には、当時の生々 しい記憶が点在していると考えられる。そのため、とくに認知症を患う戦争体験者が多い高齢 者福祉施設においては、「沖縄戦体験の語り」が非常に断片的になるのではないかと考えられる。 おそらく、筆者が実践している「沖縄戦体験を語らう場」で語られるナラティブよりも聴き取 りが難しいのであろう。前後の脈絡なく語られ、しかも受け止めることが容易ではないあまり にも衝撃的な内容に対し、“どのように対応していいのかがわからない”という想いを抱く職員 の実態も理解できる。  筆者は、戦争体験の記憶を心奥に留まらせず、すべての体験者に語らせるべきだと主張した いのではない。体験者の自発的な語りを無碍に扱っている現状に一石を投じたいのである。繰 り返し同じ内容を語る高齢者は日常的に見ても少なくない。当然、それは認知症の一症状だと いう説明の方が通説であるし、最期に語られる内容に込めた意味を確認するすべはない。しかし、 人生の最期に語られることは、その人の人生においてもっとも大切にしてきたこと、後世へ伝 え残したい事柄であるように筆者には感じられる。本研究の結果を受けて、今後は、高齢者福 祉施設のみならず、高齢となった戦争体験者たちの語りをどのように聴き受けるかを広く伝え ていく必要がある。まずは本研究の協力対象者に対して結果をフィードバックし、戸惑いを感 じているのは自分だけではないのだということを共有した上で、対応の心得について学ぶ機会 を是非つくりたい。そして、認知症高齢者の自発的なナラティブを尊重し、心理的ケアとして 活かす技法の開発が必要であろう。今回示されたように、“映像”を媒介として語りが始まるこ とは多い。重度の認知症を患い、話(言語)だけでは記憶の想起が難しい方でも、映像や写真 が補助的にあれば生き生きとした表情で話ができる方は多いため、その実践的知見を活用した 技法の開発に取り組みたい。 2.沈黙を解いて語り出すとき  戦後 70 年、戦争体験に纏わる感懐を心奥に秘めた人々がいる。人生最期のワークとしての意 味を持ちながら、「沖縄戦体験を語らう場」に参加している人々がいる。語りを終えて間もなく 逝去されようとする方の傍らで、「語り残したい」という強い想いと「語ることができた、聴い てもらえた」という安堵の想いを筆者は感じてきた。彼らにとって「語る」ということは、まさに、 筆舌に尽くしがたい dying work の意味合いを含んでいるのである(吉川,2013)。  本研究に関わった施設従事者から、次のような文章が調査用紙に添付されていた。  「昨年担当していた方からこのようなことを告げられたことがあります。とても印象的な言葉 だったので、よく覚えています。『戦争の話はこれまでしたくなかった。思い出すと辛くなる からね。でも、私はあと少しだと思う。自分が一番よく分かる。だから、最後に少しだけ勇 気を出して、戦争の話をしようと思った。それは、自分の人生を狂わせた出来事であったと

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同時に、自分にとっては非常に大事な出来事だった。その戦争を語らずにいることは、自分 の中からその時期の記憶を消すということ。だから、語り残したい。自分の人生のすべてを この世に残したい。』という言葉です。勤務が終わってからメモしました。こういう気持ちを 持った方と私は仕事をしているのだと分かってから、それまでは戦争の話を聴くのは正直う んざりだと思っていたけれど、考え方が変わりました。」  本研究において明らかになったことは、高齢者福祉施設の職員が「沖縄戦体験の語り」に際 して抱える戸惑いであるが、同様の想いが家族にもあるかもしれない。家族やその周辺の人び とにも、体験者の自発的な語りを軽視する風潮がないだろうか。「おじぃやおばぁは、戦争の話 をするから嫌だ。もう聴きたくない」と、つい口にしてしまってはいないだろうか。そのため、 “家族には話さないのに、我々職員にはよく戦争の話をする”ようになるのではないだろうか。 “どこまで深く話を聴いていいのか”その加減は非常に難しい。相手の状態を見ながら判断しな ければならない。時には、語りの視点を変えたり、口を挟んだりという対応が必要な場合もある。 ただ、語りたい時に、そこに聴く相手が居てくれることの意味が甚大であることは、いかなる 対象にとっても至極当然であり、沈黙を解いて壮絶な体験を繰り返し語ろうとする高齢者にとっ ても例外ではないはずだ。 【付 記】  本調査にご協力を頂いた高齢者福祉施設関係者の皆様、ご多忙中にもかかわらず調査実施を ご快諾下さったことに感謝申し上げます。有難うございました。そして、沖縄戦で尊い犠牲を 払われたすべての御霊に心よりご冥福をお祈り申し上げます。 文 献

Baltes,P.B., Reese,H.W., Lipsitt,L.P., & Lewis,P. (1980) Life-span developmental   psychology. Annual Review of Psychology,31,65-110.

Erikson, E.H. 村瀬孝雄・近藤邦夫(訳)(1989)ライフサイクル―その完結― みすず書房

(Erikson, E.H. 1982 The life cycle completed: A review: New York: W.W.Norton.)  黒川由紀子(2005)回想法―高齢者の心理療法― 誠信書房

長田由紀子・長田久雄(1998)高齢者の戦争体験の人生における意味と老年期の適応に関する 研究 平成 7 年-平成 9 年度科学研究費補助金(基盤研究 C)研究成果報告書 .

Rubin,D.C., Wetzler,S.E. & Nebes,R.D. (1986) Autobiographical memory across the life span. In David C. Rubin(Ed.) Autobiographical memory. Cambridge: Cambridge University Press. Pp.202-221. 吉川麻衣子(2008)沖縄県における「戦争体験者中心の語り合いの場」の共創に関する研究― 調査と実践の臨床心理学的・社会的・歴史的意義― 九州産業大学大学院博士学位論文(未刊行) 吉川麻衣子・田中寛二(2004)沖縄県の高齢者を対象とした戦争体験の回想に関する基礎的研 究 心理学研究,75(3),269-274. 吉川麻衣子(2013)「沖縄戦体験を語らう場」の実践的意義―「戦争に奪われたもの」を取り戻 していった 80 歳女性の物語を通して― 沖縄大学人文学部紀要,15,51-59. 吉川武彦(編)(1979)沖縄における精神衛生の歩み 岡庭武 沖縄県精神衛生協会 

参照

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