【はじめに】
足関節周辺の脂肪組織として、アキレス腱、踵 骨 上 縁、 長 母 指 屈 筋 に よ り 構 成 さ れ る kager’s triangle 内 に kager’s fat pad( 以 下、KFP) が 存 在する。園部1)は、KFP は足関節底背屈時のアキレ ス腱や長母指屈筋腱の滑走性を補助しており、アキ レス腱断裂および手術後では、KFP の癒着、線維化 が生じ、底背屈時の移動量が減少し、特に底屈動作 において移動量が大きいため、踵骨方向への移動量 が減少すると報告している。また Theobald ら2)は、 KFP の癒着、線維化の残存は、足関節底屈時のアキ レス腱や後踵骨滑液包の滑走障害を引き起こし、歩 行時の疼痛発生と関係していたと報告している。し かし、これらの報告では、客観的な指標を用いて移 動量の評価を行えていないため、明確な効果判定が 行えていない。臨床において、触察による評価が主 であり、実際の動きに関して体表からは確認できな いため、感覚的な評価しか行えていないのが現状で ある。 KFP の評価ツールの 1 つとして、超音波診断装置(以 下、エコー)が用いられる。エコーは無侵襲かつ比 較的簡便に行うことができるため、臨床の場面で有 用な評価の一つである。しかし、エコーを使用する にあたり、機器の特性、プローブの操作方法によっ て検者内、検者間で誤差が生じる可能性がある。エ コーを用いた組織の評価について、Jan ら3)は、内 側広筋厚の評価における検者内信頼性は 0.81 であっ たと報告しているが、検者間信頼性についての検討 はされていない。Ghazzawi ら4)は、健常成人に対 しエコーを用いて KFP の評価を行い、KFP 遠位端が 後踵骨滑液包へ滑り込むことを報告しているが、エ コー評価における KFP 計測の検者内・検者間信頼性 は示されていない。また、林5)は、エコーは KFP を 簡便に観察できる反面、足関節底背屈動作時の動態 は描出が難しく、定量化が困難であると報告してい る。 足関節可動域制限を有する症例に対し、KFP の移 動量がどの程度が制限されているか、エコー評価で の客観的指標を示した報告は我々が調査した範囲で は渉猟し得なかった。また、エコーを用いた KFP 評 価における検者内、検者間信頼性を検討した報告も 渉猟し得なかった。足関節可動域制限を有する症例 に対して、 KFP の移動量の評価は、疼痛や可動域制 原著
健常成人に対する超音波診断装置を用いた
kager’s fat pad 測定の信頼性および移動量の検討
*伊藤 創
1)葉 清規
1)土師 敬弘
1)国広 友美
1)藤井 尚輝
1)松田 陽子
1)谷田 玲
2)要旨
「背景」本研究目的は、健常成人に対して、エコーでの kager’s fat pad(以下、KFP) の測定の 検者内・検者間信頼性、および移動量の検討することである。 「方法」対象は健常成人 15 名 15 足とした。測定肢位は、足関節中間位、底屈位とし、それぞれ の肢位でエコーを用いて KFP を描出した。測定方法は、アキレス腱に対し、長軸方向にプロー ブを当て、踵骨に付着するアキレス腱を描出し、後踵骨滑液包遠位端からアキレス腱付着部の 踵骨隆起までとした。検者は 4 名とし、測定回数は各肢位で 3 回実施した。 「結果」ICC(1、1)は検者 4 名共に各肢位で 0.81 以上、ICC(2、1)は中間位で 0.77、底屈位で 0.80 であった。KFP の移動量は、中間位と比較し、底屈位で有意に減少した。 「結論」エコーによる KFP 測定の検者内・検者間信頼性は良好であった。KFP は底屈に伴い踵骨 方向へ移動した。 (理学療法の臨床と研究 30:65-68,2021)
キーワード kager’s fat pad、超音波診断装置、検者内・検者間信頼性
* Reliability and moving distance of the Kager’s fat pad measurement using ultrasound imaging in normal adults 1) 医療法人社団おると会 浜脇整形外科リハビリセンター リ
ハビリテーション科
Department of Rehabilitation, Hamawaki Orthopaedic Clinic
2) 医療法人社団おると会 浜脇整形外科病院 整形外科 Hamawaki Orthopaedic Hospital
(受付日 2020 年 8 月 23 日/受理日 2020 年 10 月 27 日)
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限などの原因特定や、治療の効果判定の指標の一つ となるため、客観的指標を提示することは有用であ ると考える。さらに、エコーでの評価にあたり、そ の評価の信頼性を調査することは、評価自体の質を 把握する上で必要である。 本研究は、健常成人に対して、KFP 評価における 検者内、検者間信頼性を調査し、足関節中間位と底 屈位における KFP の移動量を検討することを目的と した。
【対象と方法】
1.対象 対象は、整形外科疾患の既往が無く、日本整形外 科学会および日本リハビリテーション医学会6)が推 奨する足関節参考可動域に制限がなく、関節弛緩性 のない健常成人 15 名 15 足(男性 7 名、女性 8 名、 平均年齢 28.4 ± 2.5 歳)とした(表 1)。なお、事前 に G*power 3(Heinrich-Heine-University、free software)を用いて、検出力分析を行った(有意水 準 α = 0.05、 検 出 力 80 %、 効 果 量 d = 0.8)7)。 本研究で対応のある t 検定で解析を行うにあたり、 必要標本数は 12 例以上と算出され、対象者数は基 準値を上回っていることを確認した。 2.方法 (1) 測定肢位 腹臥位で足部をベッドから出した状態で、足関節 底背屈 0 度かつ回内外 0 度(以下、中間位)と、底 屈 45 度位で実施した。各肢位の可動域は東大式ゴ ニオメーターで計測し、角度の保持はエコー評価時 に評価者が徒手的に固定をして実施した。また、長 母趾屈筋の筋活動が生じることで KFP の滑走性に影 響がある可能性があるため、足趾、足関節はできる だけ脱力した状態で行った。なお、本研究は KFP の 移動量が大きいとされる底屈位と中間位で比較を 行った。 (2) エコーでの測定方法 評価機器は、超音波診断装置(Viamo sv7:SONY 社製)を用い、12MHz のリニア型プローブを使用した。 KFP は、先行研究2、3)を参考にし、アキレス腱に対し、 長軸方向にプローブを当て、踵骨に付着するアキレ ス腱を描出し、後踵骨滑液包区域の KFP 遠位端から アキレス腱付着部の踵骨隆起までの距離を KFP 距離 と定義した。測定部位は、KFP 遠位端から踵骨隆起 の頂点までの距離とし、本機器に搭載されている「計 測」機能を用いて測定した(図 1)。 測定者は理学療法士 4 名(経験年数:6 年目 1 名、 8 年目 2 名、9 年目 1 名、エコー使用年数:3 年目 1 名、 1 年目 3 名)とし、測定回数は各肢位で 3 回実施し た。なお、当院では、日常診療において、運動療法 の補助としてエコーを使用できる環境である。また、 KFP のエコー描出について、本研究前に十分練習を 行った。 (3) 統計解析 Ⅰ.各測定の検者内・検者間信頼性 中 間 位、 底 屈 45 度 位 で KFP の 測 定 に 対 す る 検 者内・検者間信頼性を級内相関係数(Intraclass correlation coeffi cients:以下、ICC)で算出した。 その値をもとに、Speaman-Brown の公式を利用して、 必要測定回数、人数を算出した。目標とする係数値 は 0.81 以上とした8)。 Ⅱ.中間位と底屈位での KFP 距離の比較 KFP 距離の比較について、検者 4 名の各計測値の 平均値を使用した。中間位、底屈位それぞれの KFP の測定値の平均の差を、対応のある t 検定で解析し た。なお、統計解析は R2.8.1(CRAN、freeware)を 使用し、有意水準は 5%とした。 - 66 -Journal of Physical Therapy Practice and Research (30) 2021
表1 対象者の基本情報 図1 KFP の超音波画像 A:足関節中間位 B:足関節底屈位 ᛶูࠉ (ྡ) ⏨ᛶ䠖7䚷ዪᛶ䠖8 ᖺ㱋 (ṓ) 28.4±2.5 ㌟㛗ࠉࠉ(cm) 166.1±7.9 య㔜䚷䚷䚷 (kg) 61.7±9.1 ()ෆࡣ༢ A B
3.倫理的配慮 本研究については、医療法人社団おると会臨床研 究倫理審査委員会による承認(承認番号:3002-29) を得て実施している。
【結果】
1.各測定肢位における検者内信頼性(表 2) 全検者、各肢位において、ICC(1、1)は 0.81 以 上の高値で、必要測定回数は各肢位 1 回で十分な信 頼性を保証できる結果であった。95%信頼区間(以 下、95% CI)の下限値においても高値であり、測定 の標準誤差(standard error of measurement 以下、 SEM)は低値であった。 2.各測定肢位における検者間信頼性(表 3) 検者 4 名の検者間信頼性 ICC(2、1)は、中間位 で 0.77(95% CI 下限値:0.63)、SEM は 0.81、底屈 位で 0.80(95% CI 下限値:0.68)、SEM は 0.77 であり、 必要測定人数はそれぞれの測定肢位で 2 人であった。 3.中間位、底屈位における KFP 距離の比較(表 4) 中間位 10.7 ± 1.8 ㎜、底屈位 8.6 ± 2.0 ㎜であり、 中間位と比較し、底屈位で有意に減少した(p < 0.05)。なお、各測定値に影響する独立変数は抽出 されなかった。【考察】
エコーでの KFP 評価の信頼性について、Landis ら8) によるカッパ係数の指標を ICC の判定に応用した 基準では、ICC の値が 0.81-1.00 の場合は、almost perfect と判定している。また、対馬9)は、ICC は 点推定値であるため、信頼区間の確認が必要である としており、さらに ICC の値は被験者の個人差によっ て値が変わるため、信頼性の範囲制約性が問題とな ることから、測定の SEM も比較して判断することを 推奨している。 本研究の結果、検者内信頼性について、4 名の検 者それぞれ、足関節中間位、底屈位共に ICC の値、 および 95%信頼区間の下限値が 0.81 以上であり、 バラつきの指標とされる SEM の値も低値であるため、 エコーを用いた KFP の評価は高い信頼性が得られた。 必要測定回数の結果から、1 回の測定で十分な信頼 性が得られる測定方法であると考える。ただし、ラ ンドマークである踵骨隆起を確実に描出することで 評価の信頼性が得られると考えるため、エコー操作 はある程度練習が必要であると考える。 - 67 - 理学療法の臨床と研究 第 30 号 2021 年 表2 各測定肢位における検者内信頼性 表3 各測定肢位における検者間信頼性 表4 足関節中間位、底屈位における KFP 距離の比較ICC(1,1) 95㸣ಙ㢗༊㛫 ICC(1,3) 95㸣ಙ㢗༊㛫 SEM 95㸣ಙ㢗༊㛫 ᳨⪅A KFP(୰㛫) 0.98 0.97-0.99 0.99 0.98-0.99 0.14 0.11-0.20 0.09 KFP(ᗏᒅ) 0.96 0.97-0.99 0.99 0.98-0.99 0.17 0.13-0.25 0.18 ᳨⪅B KFP(୰㛫) 0.98 0.97-0.99 0.99 0.97-0.99 0.11 0.08-0.16 0.09 KFP(ᗏᒅ) 0.97 0.96-0.99 0.98 0.97-0.99 0.14 0.11-0.21 0.13 ᳨⪅C KFP(୰㛫) 0.96 0.93-0.99 0.99 0.97-0.99 0.11 0.08-0.25 0.09 KFP(ᗏᒅ) 0.95 0.93-0.98 0.99 0.98-0.99 0.15 0.11-0.23 0.22 ᳨⪅D KFP(୰㛫) 0.98 0.97-0.98 0.98 0.98-0.99 0.11 0.08-0.16 0.09 KFP(ᗏᒅ) 0.97 0.96-0.99 0.98 0.97-0.99 0.16 0.11-0.23 0.13 KFP, kager’s fat pad
ICC, Intraclass correlation coefficients: ⣭ෆ┦㛵ಀᩘ SEM䠈Standard error of measurement䠖ᶆ‽ㄗᕪ
Spearman-Brownࡢබᘧ ࡼࡿಀᩘ್
ICC(2,1) 95㸣ಙ㢗༊㛫 ICC(2,4) 95㸣ಙ㢗༊㛫 SEM 95㸣ಙ㢗༊㛫
KFP(୰㛫) 0.77 0.63-0.93 0.93 0.82-0.98 0.81 0.65-0.90 1.27 KFP(ᗏᒅ) 0.80 0.68-0.94 0.94 0.85-0.98 0.77 0.68-0.98 0.58 KFP, kager’s fat pad
ICC, Intraclass correlation coefficients: ⣭ෆ┦㛵ಀᩘ SEM䠈Standard error of measurement䠖ᶆ‽ㄗᕪ
Spearman-Brownࡢබᘧ ࡼࡿಀᩘ್
୰㛫 ᗏᒅ ᭷ព☜⋡ ຠᯝ㔞 KFP䛾㊥㞳(mm) 10.7±1.8 8.6±2.0 <0.05 d =0.72
KFP, kager’s fat pad ᖹᆒ್±ᶆ‽೫ᕪ ()ෆࡣ༢
検者間信頼性において、ICC の判定基準の 0.61-0.80 で substantial を満たしているが、ICC の下限 値が低値、かつ SEM が高値であり、検者間で高い信 頼性が得られたとは言えない結果であった。した がって、必要測定人数の結果を加味して、エコーで の KFP 評価は、最低 2 名以上の検者で行うことで高 い信頼性が得られると考える。しかし、臨床上、1 名の対象者に対して、2 名以上で評価を行うことは 現実的に難しいため、効果判定を行う際は、できる だけ同一検者で実施することが望ましいと考える。 KFP の測定について、本研究の結果、足関節中間 位と比較し、底屈位で KFP の距離が減少した。これは、 Ghazzawi ら4)の報告と同様に、底屈運動に伴い KFP 遠位端は踵骨側(アキレス腱と踵骨の間隙)へ移動 したことを意味したと考える。今回の調査で、エコー を用いて KFP 移動量の定量化が可能となったことに より、理学療法などの治療を実施する際の効果判定 の指標として利用できると考える。 本研究の限界として、対象が健常成人であり、実 際に足関節疾患や足関節可動域制限が生じている症 例が対象でないことが挙げられる。また、評価部位 が KFP の遠位端のみの評価であり、KFP 全体の滑走 性の評価になっているかどうかは不明であり、年齢 や身長、体重などの個人因子が KFP 距離に影響する か否かについても不明である。臨床においては、足 関節疾患において背屈制限が生じることも経験する が、背屈時の KFP の移動量の検者内・検者間信頼性や、 背屈時の KFP 移動量についても不明である。さらに、 エコーの経験年数の違いによる影響について検討で きていない点も挙げられる。 今後の課題として、アキレス腱断裂術後や下腿の 骨折などにより足関節可動域制限が生じた症例に対 する KFP の評価が必要であると考える。また、背屈 時と底屈時の移動量の差の検討や、KFP 距離に対す る年齢や身長、体重などの個人因子の影響について の調査、KFP 描出におけるエコー経験年数の違いに よる影響の調査、足関節可動域制限と KFP 移動量と の関連を調査するなど、より詳細な定量化が必要で はないかと考える。
【結論】
健常成人に対し、エコーを用いて KFP を描出し、 描出の信頼性、移動量の比較を行った。検者内、検 者間信頼性は共に良好であった。KFP は、足関節底 屈動作に伴い、KFP 遠位端は踵骨側(アキレス腱と 踵骨の間隙)へ有意に移動した。KFP のエコー評価 は有用である可能性がある。【利益相反】
本論文に関連し、開示すべき利益相反はない。【参考文献】
1) 園部俊晴 : アキレス腱断裂の術後リハビリテーショ ン.Sports medicine 27:14-20,20152) Theobald P, Bydder G, et al .; The functional anatomy of Kager's fat pad in relation to retrocalcaneal problems and other hindfoot disorders. J Anat 208: 91–97, 2006
3) J a n M H , L i n D H , e t a l . ; D i f f e r e n c e s i n sonographic characteristics of the vastus m e d i a l i s o b l i q u u s b e t w e e n p a t i e n t s w i t h patellofemoral pain syndrome and healthy adults. Am J of Sports Med 37: 1743-1749, 2009
4) Ghazzawi A, Theobald P, et al.; Quantifying the motion of Kager's fat pad. J Orthop Res 27: 1457-1460, 2009 5) 林典雄:理学療法士における超音波画像診断装置の可 能性.理学療法学 44:44:26-31,2017 6) 米本恭三,石神重信・他:関節可動域表示ならびに測 定法.リハビリテーション医学 33:207-217,1995 7) 水本 篤,竹内 理:研究論文おける効果量の報告の ために-基礎的概念と注意点-.英語教育研究 31: 57-66,2008
8) Landis JR, Koch GG; The measurement of observer agreement for categorical data. Biometrics 33: 159-174, 1995
9) 対馬栄輝:SPSS で学ぶ医療系データ解析.東京図書株 式会社,2007,pp195-214
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