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第12回山梨医科大学CPC記録:膵頭部癌に対し膵頭十二指腸切除術施行後21日目に急死した1症例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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症例提示 茂垣雅俊助手(外科学1) 症 例: T. W. 68 歳,男性。無職(元会社員) 主 訴:体重減少 現病歴:平成8年3月からの5ヶ月間で9 kg の体重減少を認めた。近医を受診し,血清 CA19-9 の上昇と腹部 CT で膵頭部と肝右葉 に腫瘤を認めた。膵頭部癌肝転移の診断で 10 月 14 日当院紹介,入院となった。 既往歴: 20 歳時,虫垂炎で虫垂切除術を施行 される。53 歳時,内痔核に対し White head 手術を施行される。69 歳時,背部脂肪腫摘 出術を施行される(当院第2外科)。20 歳代 から高血圧を指摘され入院時まで内服加療中 であった。 家族歴:長男が結腸癌のため 35 歳時,結腸切 除術を施行されている。 患者背景:アレルギーなし,飲酒歴なし,喫煙 歴なし。 入院時身体所見: 身 長 : 1 6 3 c m , 体 重 : 5 4 . 6 k g , 体 温 : 37.2°C,脈拍: 72/min,整。 血圧: 132/80mmHg。 皮膚:黄染なし,浸潤度正常。 表在リンパ節触知せず。 眼球鞏膜:黄染なし,眼瞼結膜:軽度貧血あり 頚部:甲状腺の腫大なし。 胸郭:左右対称,心音正常,心雑音なし,呼吸 音正常,肺雑音なし。 腹部:平坦,軟,圧痛・反跳痛なし,腸雑音正 常,肝・脾・腎,腫瘤を触知せず。 四肢:浮腫なし,運動制限なし。 直腸指診:以前の内痔核手術時の,瘢痕を触知 する以外異常なし。 神経系:異常なし。 入院時血液検査所見では CA19-92,300 U/ml, KMO-1 6,930 U/ml と腫瘍マーカーの上昇を 認める以外に異常値は認めなかった。心電図 は normal sinus rythm であったが,non-spe-cific intra-ventricular conduction delay を認 めた。スパイログラムでは% VC98.1FEV1 % 97.5 %と正常範囲内であった。 入院後経過: 10 月 23 日に ERCP を,25 日に血管造影を 施行した。T.bili は徐々に上昇し 11 月 11 日 第 12 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成9年 12 月3日(水)午後5時 15 分 場所:臨床講堂大講義室 司会:松本由朗教授(外科学1),川生 明教授(病理学2)

膵頭部癌に対し膵頭十二指腸切除術施行後

21 日目に急死した1症例

要 旨:症例は 68 歳,男性。アレルギーの既往はない。5カ月間で9 kg の体重減少を認め,近 医を受診し膵頭部癌,肝転移を診断されて平成8年 10 月 14 日本院に入院した。11 月 12 日膵頭 十二指腸切除術を施行,その 21 日後にウログラフィンによる瘻孔造影を施行後,眩暈,嘔気が 出現し,10 分後呼吸困難が出現,チアノーゼを認め,呼吸停止。気管内送管も効果なく呼吸停止 から 10 分後心停止,死亡した。臨床的には死因として肺動脈塞栓,造影剤によるショックが疑 われたが,剖検の結果,肺に新鮮動脈塞栓はなく,気管および気管支内腔に多量の泡沫状分泌物 と粘膜に高度の浮腫,好酸球浸潤を認め,造影剤が原因のアナフィラキシー反応による気道閉塞 が死因と推定された。

(2)

には 2.4 mg/dl となった。11 月 12 日膵頭十 二指腸切除術,門脈ポート留置術を施行した。 リンパ節の郭清は肝転移があるため,1群の み行った。手術時間は 10 時間 17 分,出血量 は 1.260 ml,輸血は MAP 4単位,FFP18 単 位 を 行 っ た 。 術 後 当 初 か ら 右 側 腹 部 の Winslow 孔に留置したドレーンから胆汁を流 出を認め,胆管空腸吻合部の縫合不全が疑わ れた。しかし,汎発性腹膜炎の所見はなく, 限局しているものと思われた。術後4日目よ り経腸栄養を開始,歩行も可能となった。 術後1週間目より飲水を,翌日より流動食を 開始した。また,術後9日目より化学療法 (5-FU250 mg/day,CDDP5 mg/day)を開始 するも,nausea,vomiting 強く,1コース (5日間)を施行したところで中止となった。 また,術後9日目からドレーンからの排液が 1,000 ml を超えるようになった。補液を十分 に行い尿量は保たれ,脱水の所見はなかった。 術 後 1 7 日 目 か ら は 浸 出 量 は 4 0 0 ∼ 500 ml/day と減少してきた。術後 19 日目に 38.5°C と突然発熱がみられた。IVH カテー テルを感染源と考え抜去,翌日より解熱した。 術後 21 日目にウログラフィンによる瘻孔造 影を施行した。胆管が一部造影されたが,血 管の抽出はみられなかった。瘻孔造影施行後 より,眩暈,嘔気が出現,早々に帰室し,ベ ットにて安静を保っていたが,帰室約 10 分 後より呼吸困難が出現。チアノーゼを認め, すぐにマスク換気を施行,ソルメドロールを 計2 g 静脈内投与したが効果なく,呼吸停止 となった。気管内挿管を行い強制換気を行う もチアノーゼは改善せず,呼吸困難出現から 約 10 分後に心停止となった。更に心肺甦生 を行うも反応みられず,12 月3日 13 時 45 分 死亡を確認した。 臨床的死因: ①肺動脈塞栓②造影剤によるショックが疑わ しく②に対してステロイド剤の投与を行って いるが効果なく,また造影剤も瘻孔の肉芽組 織内と胆管内に少量注入されているのみであ り,造影剤の吸収という観点からは②は考え 難く,①と考える。 画像診断 市川智章助手(放射線医学) 造影剤アレルギーが死因かどうかが焦点とな る症例である。一般にヨード造影剤は非イオン 性とイオン性に分けられるが,浸透圧が高いこ とにより,後者の方が副作用は多い。副作用に は即時型と遅延型があるが,本例の場合もしこ れが造影剤アレルギーだとすると検査中に悪心 を訴え始めていることから,前者と考えられる。 ショックに至るような重篤な副作用は圧倒的に 前者に多い。副作用報告はほとんど血管内注入 時に起きたものであるが,本例のように管腔や 腹腔内に投与した場合でも,造影剤は吸収され るので,副作用を起こす危険性は考えられる。 また,ショックを起こすような重篤な場合は, たとえテストアンプル(1 ml)のような少量 投与でも起き,投与量の大小は基本的に関係な い。このようなことを考え併せると,本例でも 造影剤ショックが起きたと考えられなくはない が,以前に同じイオン性造影剤で検査をした既 往があることからその可能性は低い。しかし, 感作型のアレルギーの可能性はなお否定できな い。しかし,過去に非血管内投与でかつ,死に 至る重篤な感作型アレルギーを起こした例の報 告はなく,もしこれが造影剤ショックによる死 亡例だとするときわめてまれなケースと考えら れる。 (画像省略) 検査値分析 尾崎由基男教授(臨床検査医学) 検査データについては特にコメントなし。 瘻孔造影施行直後より,眩暈,嘔気が出現し たため放射線部より病棟へ帰り,帰室 10 分後 より呼吸困難,呼吸停止が起きている。判断が 困難であったと推測するが,眩暈,嘔気が起き た時点で anaphylaxis を疑い,steroid 投与を行 えば,あるいは救い得たのではないだろうか。

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病理所見と診断 小宮山明助手(臨床検査医学) <病理所見>(剖検番号 1146) 死後1時間 45 分に解剖を行った。 身長: 163 cm,体重: 53 kg,結膜に貧血(+), 黄疸(−),瞳孔に左右差を認めなかった。 リンパ節腫脹(−),上下腹部正中切開瘢痕 およびドレナージ孔をみとめた。 気管,気管支:内腔に泡沫状痰を認めた。粘膜 には肉眼的軽度の出血を認めた。組織学的に 喉頭から肺門部気管支にかけて著明な浮腫, 好酸球浸潤を認めた。好塩基球は明らかには 同定できなかった。(図1) 肺(左 740 g,右 750 g):肉眼的に両側肺にう っ血,胸膜出血,肺動脈血栓(+),組織学 的に全体に汎小葉性の肺気腫と,血管内に好 酸球浸潤を認めた(図2,3)。肺動脈内に 見られた血栓および散在性に肺細小動脈内に 見られた血栓には明らかな器質化を認め,陳 旧性のものと考えられ,周術期にできた可能 性が示唆された。 心臓(330 g):冠状動脈に明らかな硬化を認 めないが,心室部では急に細くなりゾンデが 通らず,angiospasm が示唆された。左室割 面では全体にまだらな赤色調を呈した。組織 学的に心筋の contraction band necrosis,心 筋線維の断裂および間質出血が見られ,(図 4)全体にわたる急性の心筋虚血と考えられ た。 食道傍に母指頭大の腫瘤をみとめ,組織学的 に異所性甲状腺であった。 腹部:膵頭部癌術(膵島十二指腸切除,膵管空 腸吻合,総胆管空腸吻合,胃空腸吻合,膵管 および腹腔ドレナージ術,門脈ポート)であ り,上行結腸内側に嚢胞,腹水 200 ml(淡 血性)を認めた。嚢胞は膵頭部から連続して おり,臨床症状を考えると膵液瘻からの膵液 の貯留と考えられた。膵頭部リンパ節および 下大静脈周囲には癌の転移が認められた。ま た,肝(約 1,200 g)には両側多発性の結節 性癌転移を認めた。(図5) 腎(左 140 g,右 135 g):肉眼的に強いうっ血, 嚢胞形成が認められ,組織学的にボウマン嚢 に著明な液体貯留が認められ,心肺蘇生時の 輸液によるものと考えられた。 図1.肺門部気管支粘膜の組織像。気管支壁には著明な浮腫と平滑筋の断裂,炎症細 胞浸潤が見られる(H .E. 染色,× 200).

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その他の所見として心肺蘇生術によると考え られる軟部組織出血(頸部,傍気管,縦隔, 右後腹膜),心嚢腔出血(50 ml)が認められ た。また,前立腺過形成がみられた。 <病理診断> 1 :膵頭部癌(中分化型腺癌),術後状態 1)癌の浸潤,転移 血行性転移:肝 図3.血管内に多数の好酸球が認められる。微小血栓形成は見られない(H .E. 染色, × 400) 図2.肺組織像.びまん性肺気腫が両側肺に認められた.(H .E. 染色,× 40)

(5)

リンパ行性転移:膵頭部リンパ節,傍大動 脈軟部組織 2)膵液瘻および嚢胞形成 2 :呼吸器系:顕微鏡的喉頭・気管浮腫および 好酸球浸潤,急性肺気腫,肺好酸球浸潤, 陳旧性肺血栓症(肺動脈血栓と肺内器質化 血栓) 3 :心血管系:びまん性心筋梗塞,間質出血, 細動脈硬化症 4 :泌尿器系:腎うっ血,ボウマン嚢∼尿細管 拡張,腎門部軟部組織出血,腎嚢胞 5 :その他 1)異所性甲状腺 2)前立腺結節性過形成 3)蘇生術後の状態(縦隔,後腹膜出血,心 嚢出血) 直接死因:呼吸不全 病態分析 小宮山明助手(臨床検査医学) 本症例は胆道造影後に急変し死亡した症例で あるが,本症例の死因として考えられる病態の 機序として,造影剤によるアナフィラキシー反 応から,血管透過性亢進,血管および気道の平 滑筋攣縮,分泌亢進を来たし,これにより,気 道の閉塞を来たし,呼吸困難から低酸素血症と なったものと思われる。また,低酸素血症およ び血管自体の平滑筋攣縮からびまん性の心筋障 害をきたしたと考えられる(図6)。臨床症状 は心筋障害による心原性 shock および,血管攣 縮による末梢循環障害による shock となったと 説明される。

図4.心筋に見られた contraction band necrosis(PTAH 染色,× 200).

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アナフィラキシーショックの初発症状は呼吸 困難,循環不全,痙攣,チアノーゼ,悪心, 嘔吐,めまい等であり,これらの症状がおお むね 20 分以内に出現する1).これらの臨床 症状も本症例がアナフィラキシーショックを 示唆していると考えられる。今回,数回の造 影剤投与が行われているが,ウロキナーゼが 用いられたのは最初の ERCP 検査と今回のみ であり,ERCP 検査時に感作が起きたと考察 する。 参考文献

1) Delage C, lrey NS: Anaphylactic deaths: a clinico-pathologic study of 43 cases. J Forensic Sci, 17: 525–540, 1972.

参照

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