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第30回山梨医科大学CPC記録:肝門部空腸吻合(葛西法)術後19年で死亡した先天性胆道閉鎖症の1例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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症例提示 毛利成昭医員(外科学 2) 症例:K.N. 19 歳,女性。(ID126-783-6,AN1281) 主訴:吐血 既往歴:昭和 54 年 12 月 肝門部空腸吻合術 昭和 58 年 3 月 食道離断術 昭和 58 年 12 月 Roux-Y 脚内逆流防止弁作成 平成 1 年 5 月脾臓摘出術 以上,国立小児病院で手術。 平成 4 年 3 月国立小児病院からの紹介で当科 で Follow up することになった。これまでに 吐血,胆管炎のため 19 回の入退院をくり返 していた。 現病歴: 1 週間前から階段昇降時の息切れが見 られるようになった。また体動時の動悸,全 身倦怠感が強くなったため平成 10 年 6 月 11 日入院となった。 入院時現症:身長 144 cm,体重 55 kg,体温 36.7°C,脈拍 90 bpm,血圧 102/60 mmHg, 皮膚,眼球結膜の黄染が強い。眼瞼結膜に貧 血認めず。腹水貯留なし。四肢に浮腫は認め ない。 入院時血液検査データ: WBC 6750/µl, RBC 3.70 × 106/µl, Hb 11.3 g/dl,Ht 31.5 %,Plt 235 × 103/µl,

TP 9.1 g/dl,Alb 3.0 g/dl,ChE 145 IU/l, ZTT 18.1 KU,TTT 7.3 KU,T.Bil 18.6 mg/dl, D.Bill 12.2 mg/dl,ALP 2786 IU/l,LAP 189 IU/l,γ-GT 378 IU/l,LDH 298 IU/l, AST 271 IU/l, ALT 127 IU/l, BUN 22 mg/dl,Crtn 0.7 mg/dl,UA 6.7 mg/dl, Na 127 mEq/l,K 5.2 m Eq/l,Cl 94 mEq/l, Ca 9.5 mg/dl, Fe 75µ/dl, T.Chol 189 mg/dl,TG 69 mg/dll,PT 11.4 sec, PT 活性値 63.3 %,APTT 35.3 sec,Fibrino-gen 451 mg/dl 入院後経過:胆汁排せつ障害による肝硬変,肝 不全と診断し入院の上,安静加療とした。経 口摂取が進まず 6 月 25 日から IVH による栄 養 サ ポ ー ト を 開 始 し た 。 7 月 4 日 血 中 NH3183µg/dl と上昇,ラクツロースの投与 を開始した。7 月 22 日悪寒,戦慄を伴う発 熱,左側腹部痛を認め,動脈血液培養から大 腸菌が検出された。抗生物質,Î−グロブリン i 第 30 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 11 年 10 月 6 日(水)午後 5 時 15 分∼ 7 時 場所:臨床講堂大講義室 司会:高野邦夫講師(外科学 2),川生 明教授(病理学 2)

肝門部空腸吻合(葛西法)術後 19 年で死亡した

先天性胆道閉鎖症の 1 例

要 旨: 19 歳の女性。出生 2 カ月後,先天性胆道閉鎖症の診断で肝門部空腸吻合術を施行され, 4 年前から当院で follow up していた。その間,吐血と胆管炎で 19 回入退院を繰り返していたが, 労作時の息切れ,動悸,全身倦怠感で入院,高度の黄疸を認め,肝不全と診断し,IVH による栄 養サポートを開始したが,ブドウ球菌による感染を併発し,入院 6 カ月後に死亡した。剖検上, 肝は高度の胆汁性肝硬変の像を呈し(肝重量 1,270 g),肝実質の広範な壊死,化膿性胆管炎と膿 瘍の形成が認められた。肝門部胆管と空腸との吻合部およびその周囲の肝内胆管には通過障害は 認められず,臨床的に問題とされた閉塞性黄疸の原因は末梢の膿瘍形成を伴う化膿性胆管炎と胆 汁結石による胆管の閉塞が主因と考えられた。また側副血行路としては下部食道に静脈瘤を認め, 直腸粘膜下静脈叢の拡張が認められたが,肺には動静脈シャントの形成は確認されなかった。

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製剤の投与で軽快したが,7 月 29 日から黄 疸が増悪(T.Bil 24.6µg/dl)した。8 月 8 日 には,T.Bil 27.7µg/dl となりソルメドロール 1,000 mg × 3 日の投与を開始した。8 月 17 日胃十二指腸内視鏡検査では食道静脈瘤は大 きくなく破裂の危険性は低いものと考えら れ,十二指腸潰瘍が認められた。8 月 30 日 か ら 羽 ば た き 振 戦 が 認 め ら れ N H3は 211µg/dl まで上昇した。その後,NH3は 300µg/dl 台を下回ることはなかった。9 月 15 日 IVH 刺入部が感染し膿瘍を形成,外科 的ドレナージを行った。ドレナージ後も排膿 が続いた。小康状態が続いたが,11 月 18 日 から意識レベルが低下。11 月 29 日 39˚C の発 熱,血液培養からブドウ球菌が検出された。 12 月 1 日から排尿が停止,12 月 2 日午後 6 時 30 分永眠された。 剖検の目的: 1)先天性胆道閉鎖症による胆汁排泄障害の存 在する部分はどこにあったか。 2)門脈圧亢進症に起因する側副血行路の発達 の程度。 3)肺内に門脈圧亢進症に起因する変化は認め られたか。 検査値分析 矢冨 裕助教授(臨床検査医学) 質問: T-Chol(189 mg/dl)のデータが肝硬変 にしては良好で,Alb,ChE など他のデータ と解離している印象がある。これは胆道を介 したコレステロールの異化障害が肝臓におけ る Chol の合成低下をマスクしたものと解釈 してよいか? 回答:そうかも知れない。 質問: PT 値が低下しているが,これが本症例 の出血の原因になった可能性は? 回答:一般に PT 活性値 63.3 %が出血傾向の原 因になるとは考えられない。 病理所見と診断 中沢匡男大学院生(病理学 2) (剖検番号 1281) 死後 12 時間 40 分,開胸,開腹にて解剖。 <病理所見> 身長 140 cm,体重 59.2 kg,腹部膨満。眼球 結膜に黄疸著明。瞳孔左右ともに径 6 mm 大, 正円形。体表リンパ節は触知せず。腹水なし。 胸水;左右とも淡黄色で少量。心嚢水;黄色で 少量。腹部に手術瘢痕。 1.肝臓(1270g):右葉肝内胆管には黒色の結 石数個と膿様物質の貯留を認めた。全体に胆 汁のうっ滞が強く,肝内胆管周囲には強い線 維化がみられ,太い胆管を中心にして放射状 に線維化が伸びている。左葉は全体に完成さ れた再生結節の形成がみられるが,右葉の一 部では線維化のみで,結節のみられない部分 もあった。肝門部総胆管と空腸が吻合されて おり,吻合部およびその周囲には明らかな胆 汁通過障害はみられなかった。(組織学的所 見)①肝硬変 ②肝細胞のほぼ全体にわたる 壊死 ③化膿性胆管炎と膿瘍 ④肝内胆管増 生,偽胆管形成 ⑤胆汁うっ滞。 2.肺(左 410 g,右 640 g)および気管:両側 の肺には,高度のうっ血が認められた。気管 支粘膜には充血がみられ,少量の分泌物が貯 留していた。(組織学的所見)①うっ血水腫 ②両側気管支肺炎と慢性気管支炎(軽度)。 3.心臓(290 g):心筋には壊死,出血はみら れない。冠動脈にも粥状硬化,狭窄はみられ なかった。また線維化も認めなかった。(組 織学的所見)著変なし。 4.腎臓(左 250 g,右 240 g):肉眼的には,著 変を認めなかった。(組織学的所見)尿細管 内の胆汁性円柱。 5.消化管:食道下部に静脈瘤の形成がみられ た。胃粘膜にはびらんを認める。びらんから の点状出血がみられたが,消化管出血は認め られなかった。(組織学的所見)①食道静脈 瘤 ②直腸痔静脈の拡張,うっ血。 <病理診断> 1.先天性胆道閉塞症術後および脾摘出術後 状態 2.胆汁性肝硬変症 3.化膿性胆管炎および肝内胆管結石(最大 ii

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径約 1 cm) 4.胆汁うっ滞性黄疸 5.食道静脈瘤 6.肺のうっ血水腫 7.気管支肺炎と慢性気管支炎(軽度) 8.その他 a.心臓(290 g);著変なし b.両側卵巣の多発性卵胞嚢胞 c.膵臓(150 g);著変なし d.甲状腺(11 g);著変なし e.副腎(左 3 g,右 3.5 g);著変なし f.大動脈粥状硬化症(軽度) g.軽度過形成性骨髄 h.身長 142 cm,体重 59.2 kg 直接死因:肝不全 <考察> 本症例は先天性胆道閉塞症にて生後 2 ヵ月で 肝門部空腸吻合術を受けた 19 歳の女性である。 一般的に吻合術後,腸管からの上行性感染を繰 り返し,このため肝内胆管が月齢とともに変性, iii 図 3. 吻合部近傍の肝内胆管。胆管の壁は線維性 に肥厚し,好中球浸潤が著しくみられ,化 膿性胆管炎の像である。また,一部は肉芽 組織化している。H.E.染色,100 倍。 図 2. 肝左葉。高度の線維化により区画された再 生結節がみられ,胆汁性肝硬変の像である。 アザン染色,20 倍。 図 4. 門脈域には胆汁うっ滞,胆管増生,偽胆管 の形成を認める。また,好中球浸潤を伴っ ており,活動性の炎症がみられる。H.E.染 色,100 倍 図 1. 肝臓の割面。末梢の太い肝内胆管を中心に放 射状に線維化が伸びており,上行性の胆管炎 が繰り返されたことを示唆している。左葉は 全体に完成された再生結節の形成がみられる が,右葉の一部では線維化のみで,結節のみ られない部分もあった。肉眼像。肝の実質内 には,肝細胞の広範な壊死を認める。H.E.染 色,20 倍。

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途絶するとされている。門脈域に偽胆管の形成 がみられるが,これは肝の線維化に伴って肝細 胞が再生,化生を起こしたもので胆汁の輸送に は関与していない。本症例においても術後胆管 炎を繰り返し,これにより胆汁うっ滞を起こし て,徐々に肝硬変,肝機能低下が進行したと考 えられる。このような状態で,敗血症性ショッ クによる循環障害を契機に肝細胞が壊死を起 し,急激な肝不全となり死亡したと考えた。 本症例においては,肝門部肝管と空腸吻合部 およびその周囲の肝内胆管に胆汁の通過障害は 認められなかった。したがって胆汁通過障害の 原因としては,胆管炎および膿瘍,肝内胆汁結 石により肝内末梢の胆管での閉塞を考える。 側副血行路の発達については,下部食道に静 脈瘤を認め,直腸の粘膜下の静脈叢の拡張,う っ血がみられた。肺内にはうっ血水腫を認める が,動静脈シャントの形成は明らかではなく, 門脈圧亢進症による変化は認められなかった. 考察 久保雅子部長(山梨県立中央病院小児外科) 本症例は術後 19 年を経過した胆道閉鎖症と いうことで非常に興味深い症例であった。病歴 (労作時の息切れ,太鼓ばち指)から,肝硬変 による肺動静脈瘻の形成の有無,胆管炎とその 後遺症による肝内 cyst 形成の有無および肝硬変 の進行度に興味が持たれた。 剖検結果で印象深かったのは,肝硬変の進行 の度合いが肝の部位によって異なること,また 広範な胆管炎および肝細胞壊死,偽胆管の形成 など肝の変化が著明であったのに比べ,他の臓 器の変化が比較的軽度であったことである。肺 に関しても肝硬変に特有な所見が認められなか ったのは意外であった。 本症例は術後胆管炎を繰り返し,門脈圧亢進 症を合併し,肝移植の適応と考えられたが,家 族が望まず,施行出来なかった。生体部分肝移 植は家族や社会的な条件が整わないと施行困難 なことがある。年齢からみても脳死肝移植の対 象となり得たとおもわれた。 胆道閉鎖症の治療成績は早期診断・早期手術 にかかっている。新生児期の黄疸の鑑別診断を 速やかに行い,生後 60 日以内に手術を施行す ることが肝要である。この時期を過ぎると肝臓 の変化が不可逆性となり,肝線維化から肝硬変 に移行していくからである。 手術は肝門部空腸吻合術(葛西手術)を行う。 術後の黄疸消失率は手術日齢 60 日以内では 91%であるが,それ以後徐々に低下し,90 日 以降では 17%に低下する。手術が成功した後 も続発する合併症の管理が重要である。約半数 が上行性胆管炎に罹患し,重篤な門脈圧亢進症 (食道静脈瘤,脾腫),肺動静脈瘻,肝硬変など を併発する。続発症無く治癒するものは半数以 下である。 1989 年より生体部分肝移植が行われるよう になり,現在約 900 例に施行されている。生存 率は約 80 %であり,患児の QOL は飛躍的に 向上する。 iv

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