目次
1.序論 1-1.背景 ... 2 1-2.測定試料... 4 1-3 結晶構造因子 ... 5 1-4.試料振動型磁力計による磁化測定 ... 8 2.X 線磁気回折法(XMD 法) 2-1.原理 ... 9 2-2.放射光の偏光 ... 12 2-3.偏光因子... 12 2-4.X 線磁気回折(XMD) ... 14 3.X 線磁気回折測定実験 3-1.X 線磁気回折実験装置 ... 17 3-2.測定手項... 20 3-3.偏光因子評価 ... 22 3-4.測定データの処理 ... 30 4.XMD 実験による磁気形状因子測定結果 4-1.スピン磁気形状因子 ... 37 4-2.軌道磁気形状因子 ... 39 4-3.全磁気形状因子 ... 41 4-4.形状因子の比較 ... 43 5.フィッティング解析による磁気モーメントの推定 5-1.最小二乗フィッティング ... 44 5-2.解析結果... 55 6.考察 ... 57 7.まとめ ... 59 8.参考文献 ... 60 謝辞 ... 612
1.序論
1-1.背景 近年、量子効果のデバイスへの応用が進み、広く利用されている。その中で超微細化に よる材料の体積変化、形状変化は無視できない問題である。 このような問題に対し、インバー特性を示す材料が注目されている。この特性を持つ物 質は、特定の温度領域において膨張率が微小な値を示す。これは、磁気歪みによる体積変 化と結晶の格子振動による体積変化が互いに相殺しあい、全体として熱膨張がほぼ内容に 振る舞うためである。この起源について様々な研究が行われているが、明確な結論を得る までには至っていない。このインバー特性は、1897 年に Charles Edouard Guillaume が Fe0.64Ni0.36の組成を持
つ合金で発見した。この合金では、極低温から室温以上までの広い温度領域で線膨張係数 がFe、Ni の約 10%程と小さくなるのである。これは、Fe 原子の電子のスピン状態の変化 が原因であると考えられている。Fe の原子半径の大きい安定なエネルギー状態である高ス ピン状態と原子半径が小さく不安定なエネルギー状態の低スピン状態を持つことで知られ ている。Fe 原子の温度上昇中の状態を考える。温度が高まることで不安定な低スピン状態 の電子密度が増えることで原子が収縮する。一方、温度上昇による原子の熱振動が激しく なることで、原子同士の衝突を避けるように原子間距離が延び、膨張が発生する。この 2 つの現象が互いに打ち消し合うことで膨張率が微小な値を示す。
インバー特性を示す材料として、Fe-Ni 系の合金、Fe-Pd 系合金、Fe-Pt 系の合金が知ら れている。温度環境の厳しい分野での使用が主であり、発電施設の機器やブラウン管のシ ャドーマスク、実験装置等に利用される。加えて、強度の高さから精密機械部品、光通信 用のコネクタ等への応用も進んでいる。
我々はこの中でも、インバー合金として知られている規則相 Fe3Pt 単結晶について研究
3 1-2.研究目的 本研究では、規則相Fe3Pt 単結晶に放射光白色 X 線を用いた X 線磁気回折法を適用し、 磁気形状因子の測定を行う。LS 分離により磁気形状因子を、スピンモーメント成分(スピ ン磁気形状因子)と軌道モーメント成分(軌道磁気形状因子)に分離する。実験で得られ たスピンおよび軌道磁気形状因子に、双極子近似モデルによる最小二乗フィッティングを 適用し、スピン磁気モーメント、および、軌道磁気モーメントをFe と Pt の原子ごとに推 定する。 得れたスピンおよび軌道磁気モーメントを、磁気コンプトン散乱(Magnetic Compton Scattering : MCS)8)、磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism : MCD)10)、偏極
中性子法(Polarized Neutron Diffraction : PND)7)の測定結果と比較する。LMTO(Linear
Muffin-Tin Orbital)に基づくバンド理論計算8)9)により見積もられた各磁気モーメントとも
4
1-2.測定試料
規則相Fe3Pt 単結晶を用いて実験を行った。各パラメータを以下に示す。 直径 5[mm] 質量 0.8299[g] 格子定数 3.734[Å] 結晶構造 Cu3Au 型 fig. 1 試料写真 広島大学 圓山教授より提供5
1-3 結晶構造因子
Fe3Pt の様な合金などの 2 元系の物質では、複数の原子によって結晶が構成されている。 よって、結晶によるⅩ線回折に関連する結晶構造因子は、2種類の原子散乱因子を組み合 わせなければならない。結晶構造因子は計算によって求めることができる。(1-1)
Fe3Pt の結晶構造因子について説明する。 組成比はFe が 3 に対して Pt が 1 である。よって j は 1~4 になる。これは、Fe 原子を 3 個分、Pt 原子を 1 個分の計算することになる。それぞれの原子に 1~4 の数字を割り当てて 計算を行う。ここでは、原子1 を Pt、原子 2~4 を Fe と割り当てる。 次に、原子散乱因子fjについて説明する。計算する系列のj の番号に対応した原子散乱因 子を使用する。Fe の原子散乱因子は fFe、Pt の原子散乱因子は fPtとする。 また、hkl は各原子のミラー指数、(xyz)は各原子の座標になっている。 規則相 規則相Fe3Pt の基本格子は fig.2 のようになっている。Fe 原子と Pt 原子の 2 種類の原子 で構成された単純立方格子である。それぞれの原子が結晶内に規則的に配列している。つ まりどの位置にどちらの原子が存在しているかが決まっている。具体的には、立方格子の 頂点の位置にPt、面の中心の位置に Fe が配置している。 fig. 2 規則相における単位格子 この場合の結晶構造因子について考える。規則相Fe3Pt においては以下の式で表される。(1-2)
ミラー指数(hkl)が偶奇非混合、偶奇混合の場合に分けて考える。6 (hkl)偶奇非混合の場合 結晶構造因子を展開すると以下のような結果が得られる。
(1-3)
この様な条件の逆格子点で観測される反射を基本反射と呼ぶ。 (hkl)偶奇混合の場合 結晶構造因子を展開すると以下のような結果が得られる。(1-4)
この様な条件の逆格子点で得られる反射を超格子反射と呼ぶ事にする。この反射は、規則 相特有の反射である。 不規則相 不規則相では、基本格子はfig.3 のようになる。この状態においては、全体が平均化され た原子で構成されている。これは、原子配列の規則性が失われてしまい、原子の位置が入 れ替わってしまう部分ができてしまうためである。よって、確率論的に扱わなければなら なくなる。 Fe3Pt の場合、Fe が 75%,Pt が 25%の原子になる。立方晶の各格子点が平均化された原 子で占められている面心立方格子になっている。 fig. 3 不規則相における単位格子7 不規則相の場合、結晶内で平均化された原子が格子点を占めているとして扱う。Fe3Pt においては、
の比率のため、平均化原子散乱因子favは、
(1-5)
となる。不規則相における条件で結晶構造因子を計算する。(1-6)
不規則相の場合においてもミラー指数(hkl)の偶奇非混合、偶奇混合の場合に分けて考える。 (hkl)偶奇非混合の場合(1-7)
平均化原子散乱因子で構成はされてはいるが、規則相の場合と等しくなることが分かる。 (hkl)偶数奇数混合の場合 結晶構造因子を展開すると以下のようになる。(1-8)
この条件ではX 線の回折が生じない。8
1-4.試料振動型磁力計による磁化測定
試料の全磁気モーメントの測定を群馬大学地域共同研究イノベーションセンター所有の 試料振動型磁力計(Vibrationg Sample Magnetometer : VSM)で行った。VSM では、試料を 一定の振幅、周波数で振動させ、試料の磁化によって生じる磁束の時間変化を測定する。 測定結果をfig.4 に示す。横軸を磁場[Oe]、縦軸を磁化[[μB/f.u.]とした。
飽和全磁気モーメントは、6.68 μB/f.u.であること、および、飽和に必要な磁場は 6 kOe であることが分かった。 fig. 4 VSM による磁化測定結果
-1
0
1
[
10
4
]
-5
0
5
M
agn
et
izat
ion
[
B
/f
.u.
]
Magnetic Field [Oe]
9
2.X 線磁気回折法(XMD 法)
2-1.原理 2-1-1.X 線磁気散乱断面積 電子と電磁場の相対的な相互作用を表すハミルトニアンは以下の式で示される。 (2-1) e:電荷 m:電子の静止質量 h:プランク定数 A(r)は電磁場のベクトルポテンシャルであり、フォトンの生成と消滅演算子 , を用いて 以下のように表わされる。 γ γ γ γ (2-2) V :量子化体積 k :散乱ベクトル (2-1)式に二次の摂動までを取り込んだ遷移確率の黄金則を適用すると、散乱断面積を得る 事が出来る。第一頄では電子電荷によるトムソン散乱断面積、第二頄では電子の軌道運動 による磁気散乱断面積、第三頄と第四頄からスピン運動による磁気散乱断面積をそれぞれ 得ることが出来る。 (2-1)式のを展開していくと、磁気モーメントと X 線の相互作用を含んだ散乱断面積は、X 線磁気回折理論より次の式のように表わされる。 γ (2-3) i:虚数単位 re:電子の古典半径 γ= ħ ε, ε’: 入射 X 線及び散乱 X 線の電場ベクトル方向の単位ベクトル n(k) : 電子電荷密度のフーリエ変換(電荷散乱因子、構造因子) P:電子の運動量 s:スピン r:電子の座標 ekγ:電磁波偏光ベクトル(γ=1,2) k:電磁波角振動数 ħ : X 線エネルギー mc2:電子の静止エネルギー10 L(k),S(k) : 軌道及びスピンモーメント密度のフーリエ変換(ベクトル量) (2-4) k0 : 入射 X 線の波数ベクトル k’: 散乱 X 線の波数ベクトル (2-5) (2-6) ここで一軸性の強磁性体を考える。磁気モーメントは量子化軸に沿って測られる。量子化 軸方向の単位ベクトルをρ としてベクトル量を以下のように表わす。 (2-7) (2-8) この式において、スカラー量 L(k),S(k)がそれぞれ軌道磁気モーメント、スピン磁気モーメ ントの磁気形状因子となる。すると全磁気形状因子は以下のように表わされる。 μ (2-9) ボーア磁子をμBとして、|k|→0 における μBL(0), μBS(0)がそれぞれ軌道磁気モーメントと スピン磁気モーメントに相当する。 散乱断面積を示す(2-3)式において、絶対値の中の第 1 頄は電荷散乱振幅、第 2 頄は磁気散 乱振幅を表しており、それぞれF,B とする。具体的には以下の示すようになる。 (2-10) γ (2-11) これを用いて(2-3)式を書き換える。 (2-12) この式における各頄について考える。この式において第一頄が電荷散乱頄、第二頄が電荷 散乱と磁気散乱の干渉頄、第三頄は純磁気散乱頄を示している。各頄の大きさについて見
11 積もりを行う。それぞれの大きさに関与するものとして、γ と γ2、全電子に対する磁性電子 の割合について注目する。具体例としてFe の場合を考える。入射 X 線のエネルギーが 10keV とする。γ は以下のようになる。 γ γ (2-13) 次は、磁性電子の割合について考える。Fe の場合全電子数は 26 である。このうち 2.2 が磁 性電子になっている。よって全電子に対する磁性電子の割合は (2-14) になる。以上の結果から電荷散乱頄に対して電荷磁気干渉頄、純磁気散乱頄の相対的な大 きさは、それぞれ10-3、10-6程度になる。純磁気散乱頄の抽出は非常に困難であることか ら、本研究では電荷磁気干渉頄を抽出し利用する。 この電荷磁気干渉頄の抽出にあたり以下の2 点の条件を満たす必要がある。 (1)電荷散乱頄と電荷磁気干渉頄が同一の逆格子点において観測される。 (2)入射X 線に楕円偏光 X 線を用いる。 まず(1)については、電子電荷の配列周期と磁気モーメントの配列周期が同一である強 磁性体を利用する。試料が強磁性体であることが測定条件なる。 次に(2)については楕円偏光の虚数成分を利用するためである。円偏光の電場ベクトル は以下の式のようになる。 ε ε εRは右回り円偏光、εLは左回り円偏光をそれぞれ示している。電荷散乱と磁気散乱の干渉 頄は虚数成分である。よって円偏光の虚数部を利用することで実数成分として観測が可能 になる。 (2-15)
12 2-2.放射光の偏光 一般に光の偏光状態はストークスパラメータで説明される。このパラメータをP1,P45,Pcの 3 種類の記号で定義する。P1は直線偏光度、P45は斜め45 度直線偏光度、Pcは円偏光度を それぞれ表す。 本実験では、散乱面を水平方向としてこれをx 方向とする。そして、x 線の進行方向と散乱 面に対して垂直方向をy 方向とする。 各ストークスパラメータは、P1がx,y 軸方向の直線偏光の偏り、P45がxy 軸に対し 45 度方 向への直線偏光の偏り、Pc は円偏光の程度を示す。これらは以下のような関係を示す。 (2-16 ) 不等号の関係にあるときは部分偏光状態、等号の関係であれば完全偏光状態である。 2-3.偏光因子 本実験では偏光因子fPが重要な意味を持つ。 fP,PL,Pcの関係について考える。完全偏光状態であればP45の成分を無視することが出来る。 この場合、 (2-17) という関係が成り立つ。実際の実験においては蓄積リングの電子軌道面付近横長のだ偏偏 光を利用する。この想定からPL >0 であるとして PCにより偏光因子fPを示すと以下のよう になる。 (2-18) この式の軌道面における振る舞いを考える。軌道面においては円偏光成分が 0 になる。よ ってPc →0 となると fP →∞となってしまう事が分かる。放射光と磁気モーメントの磁気的 相互作用は円偏光によるものであるはずであるが、軌道面において磁気効果が限りなく大 きくなり発散してしまうという矛盾した結果である。 この原因は完全偏光を仮定してしまった事にある。これは、蓄積リングの電子ビームサイ ズがゼロになるような放射光源が理想的な点光源であると考えた状態である。しかし、現 実の蓄積リングの電子ビームは有限の大きさをもち、放射光は必ず部分偏光になってしま う。偏光度をP として偏光度の関係を考え直すと fPは以下のようになる。
13
(2-19)
この様に部分偏光であるとすれば、軌道面における偏光因子fPは0 になり、矛盾のない結
14 2-4.X 線磁気回折(XMD) 実験概要 X 線磁気回折実験は、電磁波と強磁性体との磁気的な相互作用に基づく磁気散乱実験であ る。 他の実験法と比較すると共鳴効果を利用しない特殊な方法であり、スピンと軌道の磁気 成分の測定を行える唯一の方法である。 実験の概略について以下に示す。 試料は単結晶の強磁性体とする。この試料を外部磁場により磁化させる。そして回折格子 面に対し、ブラッグ角θ を 45°(散乱角 2θ=90°)設定して放射光 X 線を入射させる。この 時、磁化方向とX 線の入射方向の間の角度を α とする。 測定は磁化の向きが+の場合の回折強度 I+と磁化の向きが-の場合の回折強度 I-につい て行う。もし、X 線と磁化した試料との間に磁気的な相互作用がなければこの 2 種類の回 折強度は等しくなるはずである。しかし、磁気的な相互作用があるのであれば異なる回折 強度になる。この回折強度の相対的な変化をR として以下のように示す。 (2-20) R は磁気効果、あるいは flipping ratio と呼ばれる。通常は 10-3程度以下の非常に小さな値 となる。白色楕円偏光放射光を用いてブラッグ角を45°(散乱角を 90°)に固定することで 本実験では磁気効果の値を増大させている。 本実験では磁気形状因子を得ることが出来る。これは逆格子空間へ磁気モーメントの密 度分布をフーリエ変換したものである。従って、磁気形状因子の逆フーリエ変換により磁 気モーメントの実空間密度分布を求めることが出来る。さらに、角度 α の選択により、ス ピン磁気形状因子、軌道磁気形状因子、全磁気形状因子を個別に測定することが可能にな る。これは、LS 分離と呼ばれ、X 線磁気回折法の最大の特徴あると言える。 磁化方向 入射X 線 回折X 線 fig. 5 X 線磁気回折略図 試料
15 2-5.LS 分離 XMD 実験の特徴である LS 分離について説明を行う。 X 線の入射方向と試料の磁化方向を特定の角度にすることで、スピン磁気形状因子、軌道 磁気形状因子、全磁気形状因子を選択的に測定することが可能になる。これはXMD 法特有 の性質である。ここで、異常分散頄を無視できる場合の磁気効果R について以下に示す γ μ α α μ α (2-21) スピン磁気形状因子、軌道磁気形状因子、全磁気形状因子の関係は以下のようになってい る。 μ μ μ (2-22) これらを踏まえたうえで入射X 線と磁化方向との角度 α について考える。各磁気形状因子 μL(k), μS(k), μT(k) は α に対する依存性が異なる。この性質を利用し、μL(k), μS(k) の選択的 測定を行うことが出来る。具体的には、0°, 45°, 90°, 135°の場合である。以下にそれぞれの 場合の関係について示す α γ μ α γ μ μ α γ μ μ γ μ α γ μ このように、各磁気形状因子を個別に測定できる。それぞれの実験配置を L 配置、L+S/2 配置、T 配置、S 配置とする。本研究では、L 配置、S 配置、T 配置の 3 種類による測定を 行う。 (2-23)
16 fig. 6 S 配置 fig. 7 L 配置 fig. 8 T 配置
17
3.X 線磁気回折測定実験
本研究室では高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーBL3C(KEK-PF-BL3C)に てX 線磁気回折測定装置の構築を行ってきた。この章では本装置について述べる。3-1.X 線磁気回折実験装置
以下はKEK-PF-BL3C で撮影した X 線磁気回折測定装置の写真である。 fig. 9 XMD 実験装置写真(KEK-PF-BL3C)18 fig. 10 実験装置概略図 電磁石によって磁化させた試料によるX 線回折強度を Ge 半導体検出器にて測定する。磁化 方向を変化させたときの、回折強度の変化から磁気形状因子の測定を行う。 測定時には電磁石により±2.15[T]の磁場を試料に印加している。磁気散乱成分が最大になる ようブラッグ角を45°とする。実験に用いる X 線は放射光白色 X 線である。よって強度が 非常に強く、様々な波長成分を含んでいる。以下に入射X 線強度のエネルギー分布の計算 値を示す。この計算はSPECTRA99 を用いて行った。計算に用いたパラメータは後の章で 解説するが、2011 年 10 月のデータを使用している。
19 fig. 11 入射ビーム強度エネルギー分布(2011 年 10 月)
0
10000
20000
30000
0
1
2
3
[
10
13
]
Energy [keV]
10
20
Int
ens
it
y
[cou
nt
]
20
3-2.測定手順
測定は以下の手項で行った。 1. ラウエ写真による格子面設定 ラウエ写真によって、入射 X 線が目的の回折面に入射しているかを設定する。実験系 は電子制御されているため精密な操作が可能である。また、試料は、ゴニオメータに よって手動での作業も可能になっている。これらを利用し目的の結晶方位に合わせる。 2. 散乱角設定 この実験装置においては、ブラッグ角θ を 45°に固定して行う。これは、様々なエネル ギー成分を含む白色X 線を利用しているために可能となる。 試料を回転し、目的の回折を得る。このとき試料を回転させるため、1. の作業を精密 に行っておく必要がある。 3. 磁場の印加 電磁石により特定の結晶方位に磁場を印加し、試料を磁化させる。電磁石の制御はプ ログラムによって行われている。磁場をかけることにより回折スポットが多尐変化す ることがあるため、再度スリット等の調整を行う。この段階では磁場はプラス方向に してある。 4. ビームサイズ設定 X 線の経路にあるスリットによって、検出器の性能に合わせ強度の調整を行う。強すぎ る場合には、試料に当たるビームの面積自体を小さくすることで適切な強度に設定を 行う。Ge 半導体検出器に入る全Ⅹ線強度が 105 cps を超えないようにする。 5. 軌道面測定(OS) 軌道面から±0.3mm の範囲で回折強度の変化を確認する。理論的には軌道面を挟んで強 度変化グラフが対称になるはずである。もしならない場合は、試料に当たるビーム位 置等の設定を再度行う必要がある。 6. XMD 測定 自動測定プログラムにより実際に磁気形状因子の測定を行う。測定は軌道面の上側、 下側の二点でそれぞれ磁場の方向をプラス方向、マイナス方向にして回折強度を測定 する。21 7. 蛍光測定 後に蛍光除去を行うため蛍光のみの測定を行う。試料を±0.8 程度回転させ回折スポッ トを検出器の受光部から外す。場所による偏りを減らすためにXMD 測定を行った軌道 面から上下に外した位置で、蛍光プロファイルを測定する。 以上の手項で、一つの反射面につきS 配置、L 配置、T 配置の測定を行う。
22
3-3.偏光因子評価
偏光因子の評価を行うためにFe 単結晶の XMD 測定を行った。 測定用いたのは、ミラー指数(220)反射面である。S 配置にてスピン成分の測定を行った。 評価方法には二つの方法を用いた。 一つは軌道面から±1 mm 程度の範囲の磁気効果 R の変化を測定し理論計算により求めた 磁気効果と最小二乗法による比較を行った。 軌道面の測定(OS)による評価も行った。軌道面から上下± 0.3 mm の範囲での強度変化を 測定する。磁気効果による評価と同様に理論値と最小二乗法を利用し評価する。 これらにより決定したパラメータを用いて解析に利用する偏光因子の計算を行う。 Fe 単結晶試料 偏光因子の評価に当たり測定を行ったFe 単結晶試料について説明する。 結晶は体心立方構造である。格子定数は2.8665[Å]である。 fig. 12 Fe 単結晶 体心立方格子 本研究における実験において光源のパラメータは、①2010 年 11 月以前、②2010 年 11 月 ~2011 年 3 月、③2011 年 10 月以降の 3 つの期間で変化した。①の期間については群馬大 学鈴木氏の論文3)を参照した。 ②と③の期間におけるパラメータ評価について以下に示す。 評価に当たり、磁気効果の測定結果を軌道面から対称の位置で平均化した。磁気散乱理論 より軌道面の上下では符号の反転した結果が得られることが分かる。よって平均化した測 定結果を反転させ軌道面の上下反対側の測定結果として比較に用いた。 理論磁気効果の計算にはSPECTRA99 を用いた。 ②2010 年 11 月~2011 年 3 月23 X 線の垂直方向の発散角度 y' [μrad]が、27.678~33.502 の場合の比較結果を示す。 fig. 13 Fe(220)磁気効果の軌道面近傍での変化 以下に最小二乗法による残差を示す。 fig. 14 磁気効果の測定値と理論値の残差の二乗和
-1
0
1
-0.002
-0.001
0
0.001
0.002
Z[mm]
m
agn
et
ic
ef
fect
26
28
30
32
34
0.5
1
1.5
[
10
-6
]
σy'[μrad]
Δ
2
σy’[μrad] -:27.678 -:28.961 -:30.174 -:31.3348 -:32.4416 -:33.50224 次に強度比による評価を示す。Z[mm]が軌道面の位置になる。 fig. 15 Fe(220)軌道面近傍での回折強度比変化 最小二乗法による残差を示す。 fig. 16 回折強度比の測定値と理論値の残差の二乗和
-0.2
0
0.2
0.6
0.7
0.8
0.9
1
1.1
-
: 27.678
-
: 28.961
-
: 30.174
-
: 31.3348
-
: 32.4416
-
: 33.502
Int
enci
ty
R
at
io
Z[mm]
28
30
32
34
0
0.005
0.01
0.015
σy'[μrad]
Δ
2
σy’[μrad] -:27.678 -:28.961 -:30.174 -:31.3348 -:32.4416 -:33.50225
磁気効果の評価では y'=30.174 μrad、強度比による評価では y'=31.3348 μrad という 結果が得られた。結果はほぼ等しいと言える。発散角 σy’の決定に当たり、一点当たりの測
定時間が磁気効果測定の方が長いので発散角 y'=30.174 μrad を採用した。一点当たりの 測定時間は、強度比の測定は10 秒、磁気効果の測定は、400 秒程度である。また、磁気効 果が最大になる位置で行うためには、軌道面から±0.5 mm が最適の測定位置であると判断 した。
26 ③2011 年 10 月以降 ②のデータと同様に磁気効果の測定結果を平均化し比較を行う。ドットにより磁気効果 の測定値を示している。色つきの実線により発散角 y' ごとの磁気効果の理論値を示してい る。以下の図には発散角度 y' [μrad]が 24.87~33.502 の場合の結果を示している。 fig. 17 Fe(220)磁気効果の軌道面近傍での変化
-0.001
0
0.001
-0.002
-0.001
0
0.001
0.002
Z[mm]
m
agn
et
ic
ef
fect
[%
]
-
: 24.87
-
: 26.32
-
: 27.678
-
: 28.9601
-
: 29.2083
-
: 29.454
-
: 30.176
-
: 31.3348
-
: 32.4416
σy’[μrad] -:24.87 -:26.32 -:27.678 -:28.961 -:29.2083 -:29.454 -:30.174 -:31.3348 -:32.441627 fig. 18 磁気効果の測定値と理論値の残差の二乗和 残差の2 乗和による評価で発散角 y’[μrad]が 29 程であれば大きな差がないことが分かる。 よって29.2083 μrad の場合が適当であるとする。
24
26
28
30
32
2
3
4
[
10
-6
]
Δ
2
σy'[μrad]
28 fig. 19 Fe(220)回折強度比の軌道面近傍での変化 fig. 20 回折強度比の測定値と理論値との残差の二乗和
-0.0002
0
0.0002
0.6
0.8
1
σy'[μrad]
Int
enci
ty
R
at
io
- : 29.2083
- : 29.454
-
: 30.176
-
: 31.3348
- : 32.4416
- : 24.87
-
: 26.32
- : 27.678
-
: 28.9601
24
26
28
30
32
0
0.01
0.02
0.03
Δ
2
σy'[μrad]
σy’[μrad] -:24.87 -:26.32 -:27.678 -:28.961 -:29.2083 -:29.454 -:30.174 -:31.3348 -:32.441629 強度変化による評価では、発散角 y’が26 μrad 程度の値が最適であると考えられる。よ って26.32 μrad の結果を採用する。 以上の結果をまとめると、磁気効果による評価では29.2083 μrad であり、強度変化によ る評価では、26.32 μrad が最適であると結果が異なった。約 3 μrad の差が出来てしまった。 しかし、この程度の差であれば大きな偏光因子の差にはならない。そのため、測定時間が 長い磁気効果の結果を採用する。この③の期間における偏光因子の計算には、発散角 y’ =29.2083 μrad とした。
30
3-4.測定データの処理
X 線磁気回折法によって磁気効果が観測されるまでの行程について説明をする。 まず、測定により4 種類の回折強度分布データが得られる。 1、 磁化方向がプラスの場合の右回り楕円偏光による回折強度 2、 磁化方向がマイナスの場合の右回り楕円偏光による回折強度 3、 磁化方向がプラスの場合の左回り楕円偏光による回折強度 4、 磁化方向がマイナスの場合の左回り楕円偏光による回折強度 このデータを1 と 4、2 と 3 で足し合わせ利用する。前者を Ip、後者を In とおく。この二 つのプロファイルの和を全体の強度とする。 (111)反射 S 配置の測定結果を例にとり、説明 を行う。以下にIp,In のグラフを示す。 fig. 21 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた Ip0
10
20
0
0.5
1
1.5
[
10
8
]
Energy[keV]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
Fekα,β 222 Pt L α Pt L β 333 444 55531 fig. 22 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた In
0
10
20
0
0.5
1
1.5
[
10
8
]
Energy[keV]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
Fekα,β 222 Pt L α Pt L β 333 444 555 Pt L γ32 磁気効果の抽出 得られたプロファイルから磁気効果を抽出する。磁気効果 R と XMD 測定プロファイル Ip,In は、以下の様な関係を持つ。 これは、全体の強度に対してのIp と In の強度差の割合である。よって磁気効果を求める ために、Ip と In の和と差のプロファイルを用意しなくてはならない。和のプロファイルで は、測定データから蛍光X 線を分離し、回折 X 線のみのデータとする必要がある。この操 作を蛍光除去と呼び、蛍光X 線のみの測定データを用いて処理を行う。 以下処理の操作を示していく。Ip と In の差のプロファイルを示す。 fig. 23 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた Ip-In
0
10
20
-2
-1
0
1
2
[
10
5
]
Energy[keV]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
222 333 444 555 (3-1)33 次に、和のプロファイルについて考える。白色光を利用しているため、測定データには 回折強度だけでなく、蛍光強度も含まれている。よってこのままでは適切な解析を行えな い。蛍光成分の除去を行うために蛍光のみを測定したデータ用いる。以下はそのデータで ある。 fig. 24 Fe3Pt 蛍光測定結果 1 keV 付近に大きな電気的ノイズが検出されているが、蛍光、回折強度には影響のないエネ ルギー帯のため、この成分については無視をする。回折強度の測定と蛍光の測定は測定時 間を同じだけ確保することが困難なため、蛍光のデータの倍率補正を行う。以下に蛍光成 分を含むIp+In のグラフを示す。
0
10
20
0
1
2
[
10
6
]
Energy[keV]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
ノイズ Fekα Pt L α Pt L β Fekβ Pt L γ34 fig. 25 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた Ip+In 回折成分が重なっていない蛍光成分を利用して倍率を決定する。今回はFe の Kα と Kβ、 Pt の Lα と Lβ を利用した。以下に Ip+In と倍率補正を行った蛍光データを示す。 fig. 26 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた Ip+Inと蛍光の倍率補正後の強度
0
10
20
0
1
2
3
[
10
8
]
Energy[keV]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
0
10
20
0
1
2
3
4
[
10
8
]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
Energy[keV]
・ : Ip+In
・
: X-ray Fluorescence
35 蛍光成分がほぼ一致している事が分かる。これらを使用した蛍光除去の結果を以下に示す。 fig. 27 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた Ip+In(蛍光除去後) 最後に各反射成分毎に積分を行う。それによって求められた磁気効果を以下のグラフに 示す。
0
10
20
0
1
2
3
[
10
8
]
Energy[keV]
Int
enci
ty[
cou
nt
]
36 fig. 28 Fe3Pt(111)S 配置測定で得られた磁気効果 R 以上の様な操作を行うことで磁気効果を求める。この手項は、軌道磁気形状因子、全磁気 形状因子を求める時も同様に進める。
0
10
20
-0.5
0
0.5
Energy[keV]
Ma
gn
et
ic
ef
fect
[%
]
222 333 444 55537
4.XMD 実験による磁気形状因子測定結果
測定によって得られた磁気効果 R より、磁気形状因子を求めた。基本反射および超格子 反射の観測を行った。 以下に、スピン磁気形状因子、軌道磁気形状因子、全磁気形状因子を示す。ここでは、 横軸は波数k[1/Å]、縦軸は磁気形状因子 μ(k)[μB]としている。4-1.スピン磁気形状因子
XMD 法による S 配置による測定結果を示す。 ●は基本反射、○は、超格子反射の測定結果である。 詳細な値は、表に記載してある。基本反射と超格子反射で傾向が異なっていることが分 かる。これは構造因子の違いによるものである。 また、各反射とも測定誤差を含んではいるが、表示の縦軸のオーダーに対し非常に小さ なため、図中では確認できなくなってしまった。 fig. 29 スピン磁気形状因子測定結果38 table. 1 スピン磁気形状因子μS測定データ hkl E [keV] R [%] ΔR γ fp F k [Å] μS[μB] ΔμS[μB] 300 7.04 -0.157 0.009 0.014 7.01 38.02 0.40 -0.88 0.03 400 9.39 0.108 0.002 0.018 6.86 76.97 0.54 0.93 0.01 600 14.09 0.038 0.006 0.028 6.72 56.71 0.80 0.16 0.02 900 21.13 0.030 0.069 0.041 6.65 17.41 1.21 0.03 0.04 1000 23.48 0.027 0.028 0.046 6.64 36.66 1.34 0.05 0.03 220 6.64 0.145 0.003 0.013 7.04 96.49 0.38 2.17 0.03 330 9.96 -0.053 0.007 0.019 6.83 32.74 0.57 -0.18 0.02 550 16.60 0.008 0.024 0.032 6.68 22.60 0.95 0.01 0.02 660 19.92 -0.101 0.016 0.039 6.65 42.63 1.14 -0.23 0.03 770 23.24 -0.009 0.081 0.045 6.64 15.70 1.33 -0.01 0.04 420 10.50 0.090 0.002 0.021 6.81 70.96 0.60 0.65 0.01 840 21.00 0.000 0.014 0.041 6.65 40.67 1.20 0.00 0.02 310 7.42 -0.046 0.004 0.015 3.10 37.27 0.42 -0.54 0.03 620 14.85 0.003 0.004 0.029 2.97 54.41 0.85 0.02 0.02 930 22.27 -0.077 0.026 0.044 2.93 16.43 1.27 -0.14 0.03 410 9.68 -0.041 0.004 0.019 3.04 33.21 0.55 -0.33 0.02 820 19.36 -0.025 0.011 0.038 2.94 43.71 1.10 -0.14 0.04 610 14.28 -0.029 0.010 0.028 3.93 25.96 0.81 -0.10 0.02 222 8.13 0.050 0.002 0.016 4.21 85.04 0.46 0.89 0.02 444 16.27 -0.022 0.006 0.032 4.14 50.59 0.93 -0.12 0.02 555 20.33 -0.038 0.012 0.040 4.16 41.87 1.16 -0.13 0.03 113 7.79 0.002 0.002 0.015 4.22 87.51 0.44 1.41 0.02 226 15.57 0.005 0.005 0.030 4.14 52.39 0.89 -0.04 0.02 339 23.36 0.019 0.019 0.046 4.17 36.84 1.33 -0.04 0.04 114 9.96 -0.045 0.004 0.019 4.18 32.74 0.57 -0.25 0.01 228 19.92 -0.029 0.006 0.039 4.16 42.63 1.14 -0.11 0.01
39
4-2.軌道磁気形状因子
XMD 法による L 配置による測定結果を示す。 ●は基本反射、○は、超格子反射の測定結果である。 測定値は、0 μBを中心としたごく狭い範囲に分布していることが分かる。測定値の多く は、0[μB]に近い値となっている。 基本反射系列、超格子反射系列の傾向の差異がみられないことからも軌道モーメントは ほぼ凍結していると考えられる。 fig. 30 軌道磁気形状因子測定結果40 table. 2 軌道磁気形状因子μL測定データ hkl E [keV] R [%] ΔR [%] γ fp F k[1/Å] μL[μB] ΔμL[μB] 300 7.04 -0.009 0.64 0.01 7.01 38.02 0.40 0.037 0.027 400 9.39 0.013 0.31 0.02 6.86 76.97 0.54 -0.079 0.013 600 14.09 0.000 0.42 0.03 6.72 56.71 0.80 0.002 0.018 700 16.43 -0.014 0.61 0.03 6.68 22.83 0.94 0.015 0.027 800 18.78 0.021 0.64 0.04 6.66 44.88 1.07 -0.038 0.028 900 21.13 0.035 1.05 0.04 6.65 17.41 1.21 -0.022 0.046 1000 23.48 0.006 0.84 0.05 6.64 36.66 1.34 -0.008 0.037 330 9.96 -0.001 0.31 0.02 6.83 32.74 0.57 0.002 0.013 550 16.60 0.078 0.27 0.03 6.68 22.60 0.95 -0.082 0.012 420 10.50 0.004 0.22 0.02 6.81 70.96 0.60 -0.019 0.010 630 15.75 0.032 0.46 0.03 6.69 23.79 0.90 -0.037 0.020 840 21.00 0.002 0.55 0.04 6.65 40.67 1.20 -0.003 0.024 310 7.42 -0.001 0.33 0.01 3.10 37.27 0.42 0.008 0.031 620 14.85 0.002 0.25 0.03 2.97 54.41 0.85 -0.010 0.025 820 19.36 0.003 0.32 0.04 2.94 43.71 1.10 -0.012 0.032 610 14.28 -0.001 0.27 0.03 3.93 25.96 0.81 0.002 0.020 444 16.27 -0.021 0.01 0.03 4.14 50.59 0.93 -0.115 0.038 555 20.33 -0.021 0.02 0.04 4.16 41.87 1.16 -0.077 0.054 226 15.57 -0.007 0.00 0.03 4.14 52.39 0.89 -0.041 0.019 339 23.36 -0.015 0.02 0.05 4.17 36.84 1.33 -0.041 0.037 228 19.92 -0.016 0.01 0.04 4.16 42.63 1.14 -0.043 0.020
41
4-3.全磁気形状因子
XMD 法による T 配置による測定結果を示す。 ●は基本反射、○は、超格子反射の測定結果である。 スピン磁気形状因子と似た結果が得られた。基本反射系列、超格子反射系列ごとの傾向 も似ていることが分かる。これは、軌道磁気形状因子が非常に小さいことと関連している。 fig. 31 全磁気形状因子測定結果42 table. 3 全磁気形状因子μT測定データ hkl E [keV] R [%] ΔR [%] γ fp F k[1/Å] μT[μB] ΔμT[μB] 300 7.04 -0.240 0.007 0.014 7.01 38.02 0.40 -0.95 0.03 400 9.39 0.160 0.002 0.018 6.86 76.97 0.54 0.98 0.01 500 11.74 -0.116 0.011 0.023 6.77 29.88 0.67 -0.22 0.02 600 14.09 0.065 0.006 0.028 6.72 56.71 0.80 0.20 0.02 700 16.43 0.247 0.026 0.032 6.68 22.83 0.94 0.26 0.03 800 18.78 0.111 0.013 0.037 6.66 44.88 1.07 0.20 0.02 900 21.13 0.364 0.069 0.041 6.65 17.41 1.21 0.23 0.04 1000 23.48 0.074 0.029 0.046 6.64 36.66 1.34 0.09 0.04 220 6.64 0.214 0.003 0.013 7.04 96.49 0.38 2.25 0.03 330 9.96 -0.161 0.007 0.019 6.83 32.74 0.57 -0.39 0.02 440 13.28 0.017 0.005 0.026 6.73 59.37 0.76 0.06 0.02 550 16.60 0.032 0.016 0.032 6.68 22.60 0.95 0.03 0.02 660 19.92 -0.039 0.017 0.039 6.65 42.63 1.14 -0.06 0.03 770 23.24 -0.099 0.078 0.045 6.64 15.70 1.33 -0.05 0.04 420 10.50 0.169 0.002 0.021 6.81 70.96 0.60 0.86 0.01 630 15.75 0.150 0.022 0.031 6.69 23.79 0.90 0.17 0.03 840 21.00 0.055 0.019 0.041 6.65 40.67 1.20 0.08 0.03 310 7.42 -0.060 0.004 0.015 3.10 37.27 0.42 -0.50 0.03 620 14.85 0.025 0.004 0.029 2.97 54.41 0.85 0.16 0.02 930 22.27 -0.057 0.031 0.044 2.93 16.43 1.27 -0.07 0.04 410 9.68 -0.060 0.004 0.019 3.04 33.21 0.55 -0.35 0.02 820 19.36 -0.003 0.010 0.038 2.94 43.71 1.10 -0.01 0.04 610 14.28 0.017 0.010 0.028 3.93 25.96 0.81 0.04 0.02 222 8.13 0.120 0.004 0.016 4.21 85.04 0.46 1.52 0.05 444 16.27 -0.009 0.013 0.032 4.14 50.59 0.93 -0.03 0.05 555 20.33 -0.073 0.030 0.040 4.16 41.87 1.16 -0.18 0.08 336 17.25 -0.021 0.051 0.034 4.15 21.73 0.98 -0.03 0.08 113 7.79 0.111 0.002 0.015 4.22 87.51 0.44 1.50 0.03 226 15.57 -0.026 0.007 0.030 4.14 52.39 0.89 -0.11 0.03 339 23.36 -0.008 0.031 0.046 4.17 36.84 1.33 -0.02 0.06 114 9.96 -0.068 0.007 0.019 4.18 32.74 0.57 -0.27 0.03 228 19.92 -0.027 0.015 0.039 4.16 42.63 1.14 -0.07 0.04
43
4-4.形状因子の比較
スピン磁気形状因子と軌道磁気形状因子の和が全磁気形状因子である。よってスピン磁 気形状因子と軌道磁気形状因子を足し合わせたものを全磁気形状因子と比較した。以下の 図ではその比較を行っている。 fig. 32 μTとμS+μLの比較 全磁気形状因子が、スピン磁気形状因子と軌道磁気形状因子の足し合わせたものとほぼ等 しい。これは、LS 分離が正常に行われていることを示している。44
5.フィッティング解析による磁気モーメントの推定
5-1.最小二乗フィッティング
5-1-1 スピン磁気モーメントおよび軌道磁気モーメントの導出 Fe3Pt のスピン磁気形状因子 FM,S(k)および軌道磁気モーメント FM,L(k)は以下のようにな る。 μ μ μ μ μ μ μ μ 上の式では、Pt, Fe のスピン磁気形状因子を μS,Pt(k), μS,Fe(k) とし、軌道磁気形状因子を μL,Pt(k), μL,Fe(k)としている。双極子近似モデルでは、各原子のスピン磁気形状因子は以下 のように表される。 μ μ Pt と Fe のスピン磁気モーメントをそれぞれ fS,Pt, fS,Feで表している。 軌道磁気形状因子では以下の式で表される。 μ μ Pt と Fe の軌道磁気モーメントをそれぞれ fL,Pt , fL,Feで表している。 これらの関係を利用し、Pt と Fe のスピン磁気モーメントおよび軌道磁気モーメントをフ ィッティングパラメータとして、最小二乗法による評価を行う。 最小二乗法の基本として残差の二乗和Δ を考える。理論磁気形状因子 FM,clcと実測磁気形 状因子FM,obsの残差の二乗和は以下のようになる。 評価の基準は、この残差の二乗和が最小になるものが最善であることである。この処理は スピン磁気形状因子、軌道磁気形状因子ごとに行う。 (5-4) (超格子反射) (基本反射) (超格子反射) (基本反射) (5-1) (5-3) (5-2)45 5-1-2.フィッティングパラメータの導出
磁気形状因子の理論値と測定値の残差の二乗和Δ について考えて行く。本研究の測定にお いては基本反射と超格子反射を得ることが出来た。よって基本反射系列では i=n とし、超 格子反射系列ではi=m と置く。また、式の簡略化のため FM,clc,i(k)を Fci、FM,obs,iをFoiと置
き換え記述する。磁気モーメントの評価は、スピン磁気モーメント、軌道磁気モーメント 毎に行う。スピン磁気モーメントの場合、 , を、 と置き換え、軌道磁気モーメントの場合、 , は と置き換えて、導出式に適用する。 残差の二乗和Δを基本反射、超格子反射の場合に分けて考える。基本反射系列では , 超格子反射系列では とする。以下にこれを示す。 この二つの式を合わせたものを残差の二乗和Δ として取り扱う。以下の式で与えられる。 (5-7) (5-8) (5-9) (5-5) (5-6)
46 と表す。 Pt の磁気モーメント fPtについて解いていく。fPtで偏微分を行うと、 となる。Δが最小にするため、微分が 0 になると置く。この式を展開し、磁気モーメント で整理すると以下のようになる。 ciを基本反射の場合cn 、超格子反射の場合cmとすると以下のようになる。 以上の(5-11)式を、 により、書き換えを行うと以下の式のようになる。 Fe について解いていく。fFeにて偏微分を行う。(5-10)式と同様に結果を 0 と置き、Δが 最小になる場合を考える。 (5-10) (5-11) (5-13) (5-15) (5-14) (5-12)
47 この式を展開し、磁気モーメントで整理すると以下のようになる。 diは基本反射の場合dn 、超格子反射の場合 dmとすると以下のようになる。 同様に簡略化のために以下のように置き換える。 これらによって(5-15)式は のように表される。(5-13)式、(5-17)式の 2 つの結果を行列式にまとめる。 この行列式を磁気モーメントについて解く。 これにより磁気モーメントμPt μFeが求められる。 (5-16) (5-18) (5-20) (5-21) (5-19) (5-17)
48 5-1-3.最小二乗フィッティングの解析誤差 スピン磁気モーメントおよび軌道磁気モーメントの誤差 原子ごとのスピン磁気モーメントの誤差ΔμPt,S , ΔμFe,S 、軌道磁気モーメントの誤差ΔμPt,L , ΔμFe,Lを求めて行く。C1, C2に含まれる誤差をΔC1, ΔC2とすると以下の式で表す事が出来 る。 ΔC1,S , ΔC2,Sはスピン磁気形状因子の誤差 により以下のようになる。 ΔC1,L , ΔC2,Lは軌道磁気形状因子の誤差 により以下のようになる。 以上のように、スピン磁気モーメントの誤差と軌道磁気モーメントの誤差を求める。 (5-22) (5-23) (5-24)
49 5-1-4.双極子近似モデル 解析にはFe+1 価~+4 価、Pt+1 価~+5 価を利用し双極子近似モデルにより行った。Fe につ いては、International Table11)から引用したデータにより計算を行った。Pt については群 馬大学小林ら6)により計算された数値を引用した。 双極子近似モデルにより、Fe と Pt のスピン磁気形状因子とスピン磁気モーメントは(5-2) 式で表される。Fe と Pt の軌道磁気形状因子と軌道磁気モーメントの関係は(5-3)で表され る。(5-2)式と(5-3)に含まれる , は以下 の式で表される。 jL,(k⋅r) :L 次球ベッセル関数 (L=0,2) RFe(r), RPt(r) : 磁性電子の動径波動関数 k : 散乱ベクトル (5-25)
50
fig. 33 Fe+1 価~+4 価における<j0,Fe(kr)>
fig. 34 Fe+1 価~+4 価における<j2,Fe(kr)>
0
0.5
1
1.5
0
0.5
1
<j
0
(k)
>
sin
Å]
-
: Fe+
-
: Fe2+
-
: Fe3+
-
: Fe4+
0
0.5
1
1.5
0
0.5
<j
2
(k)
>
sin
Å]
-
: Fe+
-
: Fe2+
-
: Fe3+
-
: Fe4+
51 fig. 35 Pt+1 価~+5 価における<j0,Pt(kr)> fig. 36 Pt+1 価~+5 価における<j2,Pt(kr)>
0
0.5
1
1.5
0
0.5
1
-
: Pt+
-
: Pt2+
-
: Pt3+
-
: Pt4+
-
: Pt5+
sin
Å]
<j
0
(k)
>
0
0.5
1
1.5
0
0.5
-
: Pt+
-
: Pt2+
-
: Pt3+
-
: Pt4+
-
: Pt5+
sin
Å]
<j
2
(k)
>
52 5-1-5.最小二乗法による最適な組合せ評価 前頄で示した , を用いてフィッティン グ解析を行った。全ての価数組み合わせで測定した磁気形状因子との残差を求め、残差の 二乗和によって評価をした。結果をfig.37 に示す。横線で示した範囲が Fe 価数に対応し、 それに組み合わされているPt は価数ごとに色分けをしている。 スピン成分の結果より、Fe3 価、Pt1 価の組合せが適当であると考えられる。軌道成分の 結果ではPt1 価の組合せであれば問題が無い様である。 fig. 37 スピン磁気形状因子の測定値とフィッティングによる理論値の残差の二乗和
0.38
0.39
0.4
0.41
Fe+
Fe2+
Fe3+
Fe4+
●
: Pt+
●
: Pt2+
●
: Pt3+
●
: Pt4+
●
: Pt5+
53 fig. 38 軌道磁気形状因子の測定値とフィッティングによる理論値の残差の二乗和 採用したFe+3 価と Pt+1 価の について以下に示す。 fig. 39 Fe3+における
0.0852
0.0855
0.0858
Fe+
Fe2+
Fe3+
Fe4+
●
: Pt+
●
: Pt2+
●
: Pt3+
●
: Pt4+
●
: Pt5+
0
0.5
1
1.5
0
0.5
1
sin
Å]
<j
R
(k)
>
-
: j0
-
: j2
-
: j0+j2
54 fig. 40 Pt+における
0
0.5
1
1.5
0
0.5
1
-
: j0
-
: j2
-
: j0+j2
sin
Å]
<j
L
(k)
>
55
5-2.解析結果
フィッティング結果を以下に示す。fig.41 がスピン磁気形状因子、fig.42 が軌道磁気形状 因子の結果である。基本反射と超格子反射ごとに分けて示している。点は磁気形状因子、 実線が原子モデル理論曲線になっている。 fig. 41 スピン磁気モーメントフィッティング結果56
fig. 42 軌道磁気モーメントフィッティング結果
波数 0[1/Å]における原子モデル曲線の値が磁気モーメントに相当する。上の図の結果を table.4 にまとめる。
table. 4 スピンおよび軌道磁気モーメント評価結果
spin orbital total Pt[μB/atom] 0.61±0.24 -0.10±0.10 0.51±0.26
Fe[μB/atom] 1.99±0.01 0.01±0.01 2.0±0.01
Fe3Pt[μB/f.u] 6.58±0.24 -0.07±0.09 6.51±0.26
全磁気モーメントについてはスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントの結果の和を示 している。
57
6.考察
スピン磁気形状因子、軌道磁気形状因子、全磁気形状因子の測定データより、スピン磁 気形状因子と全磁気形状因子が概ね一致することが分かった。加えて、軌道磁気形状因子 はほぼ 0 であり、これらの結果から軌道磁気モーメントはほぼ凍結していることが示唆さ れる。 フィッティング解析によって得られた、規則相Fe3Pt の Fe、Pt 原子毎のスピン磁気モー メントおよび軌道磁気モーメントをTable5 に示す。各欄内の3行目の値は、Fe3Pt 構成単位(formula unit : f.u.)の各磁気モーメントを示す。また、全磁気モーメントは、スピン 磁気モーメントと軌道磁気モーメントの和の値である。まず、軌道磁気モーメントは誤差 範囲内でゼロに近い値であった。また、全磁気モーメント(スピン磁気モーメント+軌道 磁気モーメント)は、VSM による磁化測定値よりも尐し小さな値を示したが、誤差範囲内 で一致しているといえる。 解析結果を他の実験と比較する。Pt-L 吸収端での磁気円二色性(MCD)実験10)により得 られた Pt の軌道磁気モーメントは正の値であり、本研究で得られたものとは逆であるが、 どちらも非常に小さく、ゼロに近い。絶対値に注目するとほぼゼロに近い値といえる。磁 気コンプトン散乱(MCS)実験による Fe3Pt のスピン磁気モーメント8)、偏極中性子回折 (PND)実験7)により評価されたFe と Pt の全磁気モーメントを、本 XMD 実験結果と比 べると、それぞれ、近い値となっている。よって、本XMD 実験では、他の実験と比較して 矛盾しない結果が得られたといえる。 バンド理論により見積もられた磁気モーメント 8),9)と比較すると、バンド理論ではFe 原 子の全磁気モーメントが大きな値を示している。バンド理論計算では結晶中の原子が基底 状態にあることを仮定しているのに対し、実験は室温で行っているので、この不一致は温 磁気モーメントの温度変化による可能性がある。
58 table. 5 磁気モーメントの比較 スピン磁気モーメント 軌道磁気モーメント 全磁気モーメント XMD Pt : 0.61±0.24[μB/atom] Fe : 1.99±0.01 [μB/atom] 6.58±0.24 [μB/f.u.] Pt : -0.10±0.10 [μB/atom] Fe : 0.01±0.01 [μB/atom] -0.07±0.10[μB/f.u.] Pt :0.51±0.26 [μB/atom] Fe : 2.00±0.02[μB/atom] 6.51±0.26[μB/f.u.] MCS8) 6.16[μB/f.u] - - MCD10) Pt : 0.03[μB/atom] Pt : 0.08[μB/atom] - PND7) - - Fe : 2.03[μB/atom] Pt : 0.36[μB/atom] Band Calc LMTO8) - - 0.56[μB/atom] 2.63[μB/atom] Band Calc LMTO9) - - 0.33[μB/atom] 2.56[μB/atom]
59
7.まとめ
1.規則相 Fe3Pt 合金の X 線磁気回折実験を行ない、スピン磁気形状因子 μS(k)、軌道磁気 形状因子μL(k)、および、全磁気形状因子 μT(k)を測定した。スピン磁気形状因子は結晶方 位による異方性が小さく、軌道磁気形状因子はゼロに近い値を示した。また、全磁気形 状因子はスピン磁気形状因子にほぼ等しい値を示した。 2.実測されたスピン磁気形状因子および軌道磁気形状因子に、双極子近似モデルによる 最小二乗フィッティングを適用した。Fe、Pt 原子毎のスピン磁気モーメントおよび軌道 磁気モーメントを導出した。他の放射光や中性子実験により得られた結果と比較し、矛 盾しない結果を得た。 3.バンド理論計算により見積もられた Fe、Pt 原子当たりの全磁気モーメントと比較を行 ったところ、バンド理論では Fe 原子の全磁気モーメントが大きく見積もられていた。理 論計算は基底状態を仮定しているが、本実験は室温で行われているので、Fe 原子の全磁 気モーメントの不一致は温度に関係していると考えられる。 4.本研究から、Fe3Pt への XMD 実験が有用であることが分かった。今後、スピン、軌道 および全磁気モーメントの温度変化の観測が課題である。60
8.参考文献
1) 伊藤正久 日本結晶学会誌 44,365-372(2004) 2) 伊藤正久 日本放射光学会 Vol.12,No.4 Sept.,(1999) 3) 鈴木宏輔 平成 21 年度 群馬大学大学院工学研究科博士学位論文 4) 浅見雅史 平成 22 年度 群馬大学工学部学士学位論文 5) 佐藤綾子 平成 22 年度 群馬大学大学院工学研究科修士学位論文 6) 小林幸次郎他、第 24 回日本放射光学会年会 2011 年 1 月 10P149 7) Y. Ito et al., Sol. Stat. Comm. 15 (1974) 807.8) J. W.Taylor et al., Phys. Rev.B65,224408 (2002). 9) M. Podgorny, Phys. Rev. B43 (1991) 11300.
10) H. Maruyama et al., J. Magn. Magn. Mater. 140-144, (1995) 43. 11) International Tables For X-ray Crystallograpy Vol.Ⅳ(1974)
61