受容体エンドサイトーシスを制御する 子の生理的意義
下
川
哲
昭
は じ め に 代表的な受容体型チロシンキナーゼ (RTKs)である上 皮増殖因子受容体 (EGFR)はリガンドである EGF と結 合後, 二量体形成, チロシンリン酸化に引き続き多様な 子との結合等を介して生理機能を発現します. その後, 細胞内に内部移行しエンドゾームを経てリソゾームでの 解やリサイクル過程に選別されます. この機構は過剰 なシグナルの曝露から細胞機能を守る情報伝達のダウン レギュレーションとして極めて重要な仕組みで, 様々な 子と機構が複雑かつ精巧に関わっています. 私は文科 省の在外研究員としてスウェーデン・ルードヴィックが ん研究所への赴任以来, EGFR や神経成長因子受容体 (Trk) のエンドサイトーシスの機構について RING 型の ubiquitin ligaseとして機能する Cblや Cblの結合 子 である CIN85 (Cbl-interacting protein of 85 kD) の機能 に焦点をあて研究を進めています. RTKs 解における Cbl, CIN85の役割 初めに私 達 は EGFR の エ ン ド サ イ トーシ ス と Cbl, CIN85の役割について詳細に検討しました. リガンド からのシグナル伝達を終えると Cblは CIN85をモノユ ビキチン化します. このモノユビキチン化はエンドゾー ムへの sorting signalとして働きます. さらに Cblは EGFR をマルチモノユビキチン化します. Cblやユビキ チン化された CIN85, EGFR は endophilin を含めたエ ンドサイトーシス複合体を形成して一緒にエンドゾーム に輸送され 解過程へ移行するとの新しい知見を得まし た. また, 神経細胞は成長因子によって突起伸展する際, 成長因 子 受 容 体 に 結 合 す る 機 能 子 で あ る ArgBP2, Cbl, Pyk2 が細胞膜上に存在する lipid rafts にリクルー トされ複合体を形成し, 神経突起伸展における lamel-lipodiaの形成を仲介することを発見しました. さらに Cblは神経成長因子 NGF 存在下で NGF 受容体チロシ ンキナーゼである TrkA の 解を介して部 的にダウン レギュレーションを制御しており, この過程には TrkA のチロシンリン酸化と Cblとの結合, Cblによる TrkA のユビキチン化が必要であることを見出しました. CIN85欠損マウスは多動である 次に CIN85の個体における生理的意義を明らかにす る目的で CIN85欠損マウス (CIN85 KO) を作製しまし た. このマウスは行動学的解析により多動性が認められ ました. 多動の原因としてドーパミン及びその受容体の 動態変化が挙げられます. 随意運動の発現と制御を担う 線条体における CIN85 KOのドーパミン含量は野生型 に比べて有意に高値でした. 一方, CIN85は受容体の制 御 子なのでドーパミン受容体の動態を解析したとこ ろ, CIN85 KOの線条体におけるドーパミン受容体は ドーパミン刺激でエンドサイトーシスが抑制されシナプ ス後膜上に過剰滞留していることを発見しました. さら にクラスリン形成の調節因子で初期エンドサイトーシス における細胞膜の内側への弯曲と陥入を引き起こす en-dophilin が CIN85の欠損によりリクルートされず,その 結果ドーパミン受容体の正常なエンドサイトーシス機構 を破綻させドーパミン刺激の過剰を招き多動を誘発して いると結論しました. 249 Kitakanto Med J 2014;64:249∼250 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科応用生理学 平成26年5月26日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科応用生理学 下川哲昭研 究 の 進 展 CIN85 KOは前述の「多動性」に加え「育仔放棄」を 示します. CIN85 KOは野生型と比べて産仔数に差はあ りませんが, 正常な母マウスに見られる哺乳・保温体位 を示さず新生仔は出生後 3日以内にそのほとんどが死ん でしまいます. 現在までの研究で, 妊娠期の視床下部-下 垂体系におけるドーパミン-プロラクチンシグナルの異 常が原因の一つであることが解ってきました. 育児放棄 に関する病態と発生機序は医学的に精査されていませ ん. 厚生労働省の平成 23年度社会福祉行政業務報告に よると, 児童虐待の相談種別対応件数 59,919 件のうち, 31.5%が「保護の怠慢・ネグレクト」が占めるとのこと. この数は「身体的虐待」に次いで多く年々増加傾向にあ るそうです. 法制度や行政の充実とともに, CIN85 KO による育仔放棄の発症機序を解析しその成果をヒトの社 会病理的 野に還元することは意義のある事と えてい ます. お わ り に この 9 月で 20年間務めた群馬大学を辞し高崎 康福 祉大学に移ります. 現教室主任の鯉淵典之教授と先代の 三浦光彦先生のもとで有意義な研究生活を送れたことは 本当に幸せでした. 京都大学理学部長であった故日高敏 隆氏の「学問は教わるものではなく,自 でやるもの」の 通り, 自由に研究を展開させていただきました. 環境が 変わっても一研究者として生命現象の本質に向き合う毎 日でありたいと願っています. 文 献
1. Haglund K, Shimokawa N, Szymkiewicz I, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2002; 99 : 12191-12196.
2. Haglund K, Ivankovic-Dikic I, Shimokawa N, et al. J Cell Sci 2004; 117: 2557-2568.
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