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児童の自尊感情の発達に関する実践的研究

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Academic year: 2021

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児童の自尊感情の発達に関する実践的研究

著者

虎杖 真智子

学位名

博士(教育学)

学位授与機関

大阪総合保育大学大学院

学位授与年度

2014

学位授与番号

第1号

URL

http://doi.org/10.15043/00000001

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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論文の概要及び審査結果の要旨

氏名(学籍番号):虎杖真智子(7129501) 学位の種類 :博士(教育学) 学位記番号 :第1号 学位授与の要件 :大阪総合保育大学学位規程第12条 学位授与の日付 :平成27年3月15日 学位論文題目 :児童の自尊感情の発達に関する実践的研究 論文審査委員 :主査 小林芳郎(大阪総合保育大学教授・修士(教育心理学)) 副査 渡辺俊太郎(大阪総合保育大学准教授・博士(心理学)) 副査 鎌田次郎(関西福祉科学大学大学院教授・修士(学術)) 〔1〕論文の概要 本論文は、小学校算数科授業における学力の向上と自尊感情の高揚の相互的な関連性を 実践的な実験により立証したものであり、「児童の自尊感情の発達に関する実践的研究」 という題目に基づき、7 章から構成されている。 第Ⅰ章では、自尊感情の発達に関する従来の諸研究を取り上げ、まず、自尊感情の意義 について、内外の研究者の所説の歴史的経過を踏まえ、基本的には「自尊感情には、現実 自己と理想自己の不一致についての個人の評価のことで、全体的な面(多面にわたる自己 価値観)と特殊的な面(特殊的な活動や行動に関する自己価値観)の二つの側面があり、 特 殊 的 な 自 尊 感 情 を 高 め る こ と は 全 体 的 な 自 尊 感 情 に 影 響 さ れ る 」 と す る 見 解 (Lawrence,D. 2006)に依拠し、自尊感情は自己に関する肯定的ないくつかの感情から構 成されており、それらを包括するものであると見做すのが適切であるとする概念規定をし た。 続いて、児童・生徒の自尊感情に関する本邦の諸研究を分析し、自尊感情の形成度の水 準が学校教育の実践上の諸問題と多様な関連性を持つ等の、研究における問題が明らかに され、本研究の展開の必要性に関わる教育実践的な諸事実を指摘した。 第Ⅱ章では、従来の内外の研究を精細に検討し、児童・生徒の自尊感情を高めることを 目的とする多くの研究では、友達・教師等との対人関係、学級集団力学、学習における目 標志向性・自己効力感・自己有能感・学力の進歩など、本研究に関連する諸研究の結果を 集約し、特に、従来の諸研究から、学力の向上と自尊感情の高揚との間には強い相関的な 関係が認められるところを指摘した。

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2 このような本研究に関連するこれまでの自尊感情についての諸研究の結果と課題を踏ま えて、本研究では以下の目的により実践的実験を展開した。 即ち、第一に、算数的自尊感情測定尺度を開発する。第二、学校での授業場面、特に算 数科の授業に焦点をおき、算数科の学力の伸長を促し、算数自尊感情の高揚に有効な算数 科授業プログラムを新しく作成する、第三に、新しく作成した授業プログラムを実際の授 業で実践し、学力を相関連して、算数自尊感情を高め全体的な自尊感情にも積極的な効果 をもたらすか否かについて検証する、第四に、このような自尊感情の高揚は学力の向上に 寄与するかについて実践的に検証する、ことを目的とした。 第Ⅲ章においては、算数自尊感情測定尺度の開発について述べた。個人の特殊的な自尊 感情の形成は、個人の生活場面に依存しているところが多とされる。そこで、本研究では 算数科の授業場面で算数自尊感情を測定した。算数科の授業場面では、児童の学習活動に 対する直接的なフィードバックの経験過程が多くあり、必然的に生ずる自他評価により、 自尊感情を獲得する機会に恵まれやすいからである。 算数自尊感情測定尺度(中学年・高学年版)の作成では、正規の心理検査標準化の手続 きを取った。 まず、本検査に使用する質問項目を決定するために予備検査を実施した。O 府下の小学校 4 学年、5 学年の児童を対象とし、所定の回答用紙に算数科の授業を受けている時の気持ち 3 つとその理由の記入を求め、回答を「気持ちカード」として全てカード化し、得られた 460 枚の気持ちカードを「プラスの気持ち(281 枚)」と「マイナスの気持ち(179 枚)」 のカードに分類した。プラス、マイナスの気持ちの理由についても数個の基準でカテゴリ ー化した。その結果に基づき質問項目 30 個を選定したが、その過程では、本研究に関わる 専門性を有する 5 名の判断者により KJ 法を用いた。 本調査では、算数自尊感情測定尺度の構成項目を決定し、測定尺度を創成した。O 府下の 小学校 4 学年の児童を対象とし、予備調査で選定した質問項目 30 個の各項目に対し「あて はまらない(1 点)」、「どちらかというとあてはまらない(2 点)」、「どちらかという とあてはまる(3 点)」、「あてはまる(4 点)」とする 4 件法で回答を求めた。回答結果 については因子分析を行い、意欲因子 9 項目、解決因子 6 項目、理解因子 4 項目の 3 因子 19 項目からなる算数自尊感情測定尺度を決定した。本尺度については統計的な検定を行い、 その結果、十分なる妥当性、信頼性が支持され、本邦で最初の算数自尊感情測定尺度が作 成された。 なお、算数自尊感情測定尺度の作成過程では、児童の算数科の授業に対する感じ方が明 らかにされ、それを授業改善にいかにつなげていくか、被調査校全体で考える機会となっ た。同時に、次章の算数科の授業で自尊感情を育成するための具体的で有効な授業プログ ラムを作成する根拠が得られた。 第Ⅳ章では、前章の結果を受け、算数科の授業で児童の学力の向上と自尊感情の高揚を 志向した算数科授業プログラムの作成について述べた。

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3 本プログラムの作成にあたっては、小学校学習指導要領における算数科に関する中教審 の答申や改訂学習指導要領(2008)に明示されている算数科の目標に準拠している。文部 科学省による全国学力・学習状況調査(2013)の結果や被調査校の算数科授業における児 童の実態などから、被調査校において算数科授業で改善を要する課題が明らかになり、授 業プログラム作成に有効な手掛りが得られた。 このような被調査校における算数科の授業の現実についての認識を共有することによ り、全教師の積極的な賛意と協力が得られ、教師全体の算数科授業に関する研修が計画的 に進み、児童の自尊感情の高まりと関連づけられる授業を本研究のルートに組み入れる実 践的研究の展開を図ることができた。 教師全体の研修過程で提案した授業内容は、児童の思考の流れを的確に取り入れ主体性 に留意した学習過程(1 時間の授業の流れ)を重視する授業づくりに関するものとした。 本研究で使用する算数科授業プログラムの作成にあたっては、これまでの被調査校の児 童の実態に関する諸検討の結果に基づき「大阪の授業 STANDARD」(大阪府教育センター, 2012)に示されている 5 つの指導視点に依拠し、被調査校教師全体の意見を十分考慮し、 算数科の授業づくりのポイント(具体的な内容は省略)を設定し、算数科授業プログラム 作成の基本的な枠組とした。 この 5 つの指導ポイントには「有能感」「共感性」「有用感」「自己効力感」「コミュ ニケーション能力」など自尊感情の重要な構成要因である「自己価値観」の一層の成長を 促す児童・教師相互的な関わりが生起することが期待できる特質を内在させている。 さらに、算数科の授業づくりに関する全校的な研修を介して、児童の算数科の学力や自 尊感情の実態に相応しい授業プログラムや授業形態についての検討も促し習熟度別の授業 の必要性を提唱し、適性処遇交互作用の視点を取り入れることにした。 算数科の授業において、学力が伸長し自尊感情が高揚するのに有効な授業プログラムは、 作成の経過を含めて提示したが、1 時限単位で授業における学習過程に児童の思考の流れと 主体性を重視し、学力と自尊感情の促進を図るものである。 具体的な学習活動、指導、支援のための留意点、評価の観点、授業形態については、既 述の通り「大阪の授業 STANDARD」を被調査校の教育実践に実際に対応させている。 即ち、授業プログラムの基本的枠組は、第一に「課題に出合う:課題設定」、第二は「結 びつける:既習の知識や経験を課題の解決に結びつける」、第三は「向き合う:一人で課 題に向き合う」、第四は「つなげる:考えを発表する」、第五は「振り返る:学習を振り 返る」として、新しい算数科授業プログラムの作成に活用した。 新しい算数科授業プログラムに取り入れるカリキュラムの内容は、学年進行に沿い位置 付け、学習単元は「直方体と立方体」とし、単元の目標と評価の視点を設定し、学力を評 価する基準とした。 本授業プログラムの指導計画(全 13 時間)は、第一次は直方体と立方体(6 時間)、第 二次は面や辺の平行と垂直(4 時間)、第三次は位置の表し方(2 時間)、第四次はためし

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4 (1 時間)である。 また、被調査校で既に実践してきている、学習内容による児童の習熟度別区分を必然的 に採用し、「がっちりコース(基礎コース)」と「たっぷりコース(発展コース)」の 2 つのコースを設けたが、コースの決定にはステップを置き、最終の決定は可能なかぎり児 童の主体的な判断に委ねている。なお、学習指導案はコース別にそれぞれ作成したが、担 任教師の各コースの児童の特性を配慮した学習等の支援をしているものの、指導内容は同 一である。 第Ⅴ章では、算数科授業プログラムの実践的実験とその効果の検証について述べた。 本実践的実験の仮説は第一に、算数科授業プログラムを実践すると、児童の算数自尊感 情は高まる、第二は、児童の算数自尊感情が高まると、全体的な自尊感情も高まる、であ る。 本実験では、教育の現場における実践的な研究であるための制約により、準実験統制群 法を用いた。実験群(算数科授業プログラム実施)は O 府下 A 小学校の 4 年生、統制群(算 数科授業プログラム非実施)は同府下 B 小学校の 4 年生で、両被調査校の学校の諸属性は ほぼ等質である。 実験群の場合、算数科授業プログラムの実践は、平成 25 年 10 月下旬から 12 月初旬にか けての 13 時間、担任と少人数指導担当教師が行った。統制群では算数科授業プログラムを 使用しない普段通りの授業を一斉指導のもと、実験群の場合と同じ授業期間で実践した。 本実験における自尊感情の測定は、実験群の場合、算数自尊感情と全体的な自尊感情を 10 月中旬(事前検査)と 11 月中旬(中間検査)と 12 月中旬(事後検査)に測定し、統制 群では 10 月中旬(事前検査)と 12 月中旬(事後検査)に測定した。 また、算数科の学力については、実験群において、10 月中旬にレディネステスト(事前 検査)、12 月中旬に単元評価テスト(事後検査)で測定した。 一方、自尊感情の測定では、本研究で新開発した算数自尊感情測定尺度とそれに加え自 尊感情尺度(Rosenberg,M. 1965)を使用した。 本実践的実験では、算数科授業プログラムの実施により、児童の特殊的な算数自尊感情 は統計的に有意に高まることが実証された。他方、全体的な自尊感情は若干高まる傾向が 生ずるにとどまったが、実験群は統制群に比べ、測定下位項目で測定値は全体的に安定し ており、算数科授業プログラムによる学習により、児童の全体的な自尊感情の安定性が維 持される効果が認められた。 第Ⅵ章においては、算数自尊感情の高揚の算数科学力の向上に対する積極的な効果を実 践的実験で検証した結果を述べた。 被調査者は、第Ⅴ章で実験対象として示した実験群の児童である。これらの児童から一 定の層段階的な手続きにより、算数自尊感情が非常に高揚した児童と低下した児童の二群 を抽出し、両群の学力を算数科授業プログラムの開始時と終了時に学力検査で測定し、学 力の上昇について分析した。

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5 その結果によると、算数自尊感情全体を大きく高揚させた児童は、それをかなり低下さ せた児童より、算数科の学力で上回る学力を獲得していることが統計的に有意な傾向で認 められた。さらに、算数自尊感情の各因子別に算数科の学力の向上を検討してみると、意 欲及び解決の二因子で、統計的に有意に学力が伸びる傾向にあることが実証された。 これらの検証結果に基づくと、算数自尊感情が高まることを志向した授業を実践するこ とが、着実に算数科の学力を伸ばすことをもたらすと結論でき、算数自尊感情の高揚と算 数科学力の向上との間には双方向的な関連性が存在しているという、教育実践的な事実が 示されているといえる。 第Ⅶ章では、本実践的研究の成果について総合的な考察・まとめを行うと共に、今後の 研究課題に関して論じた。本研究では、従来の自尊感情に関わる諸研究の結果を踏まえ、 算数自尊感情測定尺度を開発し、さらに、算数科学力の伸長を促し、特殊的な算数自尊感 情と全体的な自尊感情の育成に有効と思われる算数科授業プログラムを作成し、実践的実 験を実施したところ、これらの自尊感情の高揚と学力の向上との間には、積極的な相関性 があることが見出される成果が得られることを検証したのである。 本研究は今後の研究課題を多く内在させているが、その一部について触れておく。今回 の実践的実験は、既述の通り約三か月間に時期を限っており、今後は年間通しての実践に 有効な授業プログラムを作成し、自尊感情および学力の促進を図るための実践的な研究が 必要である。 また、本研究の成果を活用し、主要教科である国語科や他の教科などについても、各教 科の特質を十分検討し、さらに学年も 4 学年に限らず、他学年においても、自尊感情の高 揚を目指した授業に対する取り組みが特別活動などへの展開も含め、学校全体の協力体制 を堅持しつつ、継続的に実践されることも大切な課題となる。 本研究の実証結果は、特定の小学校二校の児童に対して試みた実践的実験によるもので あり、その普遍性には限界がある。したがって、研究対象とする児童が在籍する学校を、 その所在地も含め拡大していくことは重視すべき課題として残された。 本研究は、その目的につき、全教師の理解を図り、教師の全面的な賛同と協力を得てな された実践的研究であった。研究の課題は限られていたが、算数科についての学校として の課題を教師全体で共有し、その認識のもとに実践的実験に取り組むという、教育現場の 具体的な実践では得難い成果を上げたことは特筆しておきたい。このような実践的実験の 授業を学校全体の教育活動に取り入れるための努力を意欲的積極的に持続していくこと は、今後の重要な課題である。 〔2〕審査結果の要旨 本論文は、現場の教育実践の実態に基づく喫緊の課題を取り上げ、算数科における学力 の向上と自尊感情の高揚との相互的な関連性を実践的実験により明らかにした研究である。

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6 本研究で重視されるべき特質は、被調査校において全校的な協力を得て行われているとこ ろにあり、注目に値する。 本研究のような実践的実験は実施すること自体に教育実践の現場では多くの制約を内在 させている。一方、この種の実験的なアプローチは、現場での教育実践の必須な研究とし て、期待が寄せられてきているものである。 本研究では、研究に伴う独自の困難の解決を図るべき努力を可能な限り重ねつつ研究が 展開されている点は、大いに評価されてよい。 自尊感情については、従来多様な所説があるが、本研究では、それらを綿密に検討し、 算数自尊感情が新しく概念規定されている。さらに算数自尊感情測定尺度が、正規の標準 化手続きに拠り開発されており、その研究上の貢献は少なくない。 本研究は、児童における算数科の学力の進歩と自尊感情の高まりとの積極的な相関性に ついての分析、検討を目的としており、したがって、被調査校の教育現状を的確に考慮し、 実験対象の学年を選定している。また、自尊感情を構成する諸要因から、算数科教育に不 可欠な要因を精査して取り上げ、授業プログラムを創案し実践しているが、授業の展開に は適性処遇交互作用の視点が詳細に位置付けられており、現場での教育の期待に適確に応 えるものである。 本研究では、統制群も加える実験的手法が導入され、創案授業プログラムの実践により、 学力の向上が着実に進み、本研究で開発した尺度で測定した算数自尊感情も高まる成果が 得られている。さらに、算数自尊感情の高揚が算数科の学力の進歩をもたらすことも検証 されている。なお、本研究は統計的な分析が精密に行われており、研究結果の客観性は十 分に保証されている。 本研究は所期するところを実践的に実証し、今後の研究の発展にきわめて有用な課題を 示唆しており、教育実践に寄与する可能性も大きい。 よって、本論文は、博士(教育学)の学位を授与するにふさわしい論文と認める。

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