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10μmの微小な粒子1個の情報から新しい白色LED用蛍光体を開発
~画期的な新材料開発の手法「単粒子診断法」を確立~ 平成26年 7月 15日 独立行政法人 物質・材料研究機構 概要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田資勝)サイアロンユニットの広崎尚登ユニット長、 武田隆史主任研究員らの研究グループは、合成粉末試料中から取り出した 10μmの極微小な粒子 1 個 の情報からでも新しい蛍光体1)を開発でき、従来の開発スピードを大幅にアップする新手法を確立しま した。また既にこの手法を用いた新しい白色 LED 用蛍光体の開発にも成功しました。 2.白色 LED2)は省エネルギー、長寿命、小型、水銀フリーの光源として照明や液晶バックライトとし て急速に普及しており、今後は車のヘッドライト、大規模照明などその応用範囲は拡大の一途をたどる と予想されています。蛍光体は白色 LED の演色性を高める(自然光に近い照明を実現する)役割を担う 白色 LED に欠かせない材料であるため、今後の応用範囲の広がりに伴い発光色、発光強度などでさらに 高性能の新しい蛍光体が求められています。しかし、これまでの手法を用いた蛍光体開発では、新しく 合成した蛍光体の均一な粒子を得ること(単一相化)や大きな粒子を得ることに多大な労力と時間を必 要とするため、開発が極めて困難になっていました。 3.本研究グループは、従来、新蛍光体の開発には利用できなかった極微小の粒子 1 個の情報から新蛍 光体を開発する手法を確立し、この手法を「単粒子診断法」と名付けました。新しい蛍光体を開発する 際には、通常、この蛍光体は粉末状態で生成されますが、多くの場合、この粉末一粒一粒が異なる組成 を持っています。従来はその中でも均一で大きい粒子しか利用できませんでした。しかし残りの微粒子 にもまったく新しい蛍光体粒子が含まれている可能性があります。今回確立したのは、従来は分析が不 可能だったこうした微粒子 1 個の情報を用いて新しい蛍光体の開発をおこなう手法です。 4.選び出した微粒子の蛍光体 1 個は、結晶構造、組成、発光特性を明らかにし、単一組成の粉末の大 量合成に展開します。結晶構造解析には大型の単結晶が、量子効率測定には多量の粉末が必要でしたが、 装置の改良や独自の装置開発により、蛍光体 1 個でも測定が可能となりました。「単粒子診断法」と名付けたこの新手法を用いて Ba3N2-Si3N4-AlN 系から黄色蛍光体 Ba5Si11Al7N25:Eu2+と青色蛍光体
BaSi4Al3N9:Eu2+を開発しました。他の組成系も含めると 40 個以上の新しい蛍光体を見出しています。
5.白色 LED の性能向上には蛍光体の性能向上が欠かせません。本手法を用いることで新蛍光体の開発 が加速され、蛍光体の性能向上、白色 LED の新用途に向けた展開が進むと期待されます。この「単粒子 診断法」は蛍光体以外の分野でも展開可能であり、従来の粉末合成では困難となっていた分野での新材 料開発が進むと期待されます。
6.本研究成果は、Chemistry of Materials 誌に掲載予定で、ACS Editors' Choice Article に選ばれ ました。
研究の背景 白色LED(発光ダイオード)は省エネルギー、長寿命、小型軽量、水銀フリーの光源として照明や液 晶バックライトとして急速に普及しており、今後は車のヘッドライト、大規模照明など応用範囲がさら に広がると予想されています。白色LEDは青色LEDや紫外線LEDから出た光を蛍光体に当て白色光を作り 出します。蛍光体は白色LEDの演色性を高める(自然光に近い照明を実現する)役割を担う白色LEDには 欠かせない材料です。窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体の開発により蛍光体の発色を細かく制御できるよ うになり、昼光色、昼白色、電球色など様々な色温度の白色LEDが可能になっています。今後の応用範 囲の広がりに伴い、発光色、発光強度などでさらに高性能の新しい蛍光体が求められています。 蛍光体は母体物質3)にユーロピウムやセリウムなどの希土類元素を添加することで合成されます。こ のため新しい母体物質を見つけることが新しい蛍光体の開発につながります。これまでの新しい蛍光体 の開発方法は、1)既知物質ではあるが蛍光体母体として研究されていない物質を利用する方法、2) 粉末合成から試行錯誤的に新しい母体物質を開発する方法が取られていました。1)ではすでに既知物 質は調べ尽くされています。2)の方法では出発組成、合成条件の最適化により、新しい蛍光体を単一 相4)に近づける努力が必須です。新しい蛍光体の発光特性、結晶構造、組成を明らかにするためには単 一相を得ることが欠かせないからです。しかし、実際の合成では、原料の揮発による組成ずれ、るつぼ 内部での不均一な反応などにより、目的物の単一相化には多大な労力、時間を要します。また既存の蛍 光体の方が安定なものが多く、合成の過程では、生成しやすい既存の蛍光体が新しい蛍光体の中に不純 物として生成することも新蛍光体の単一相化を困難にします。こうした理由から新蛍光体の開発は困難 になっており、新たな開発手法が求められていました。 研究の成果 本研究グループは、従来の手法に代わる画期的な蛍光体の開発手法として微小粒子1個の情報からで も新しい蛍光体を開発できる方法を確立しました。また、既に、この手法を用いて多くの新しい蛍光体 を見出すことに成功しています。この手法を「単粒子診断法」と名付けました。 新しい蛍光体は、単一相化が困難な場合でも、極微小な粒子として生成物中に含まれています。多く の場合、これらの粒子1個は、極微小でも単一相であることに注目し、その微小粒子1個の情報を用いて 新たな蛍光体を開発する手法です。選び出した蛍光体粒子1個だけからでも結晶構造、組成、発光特性 を明らかにし、粉末の大量合成に展開するというものです。 「単粒子診断法」による新蛍光体開発の流れを図1に示します。設計組成に従い原料を各種割合で混 合し焼成を行います(図1(a))。生成物を紫外線ライトで照射しながら顕微鏡で観察すると、様々な 種類の発光粒子が観察されます(図1(b))。これらの粒子の中から、発光色、結晶の大きさ、形など を参考にしてピックアップします(図1(c))。粒子をガラスキャピラリーに付け短時間の単結晶X線構 造解析で格子定数を求め、粒子が新物質であるかのスクリーニングを行います。この時点で既知物質、 新物質の判断ができるとともに、アモルファス物質や微粒子凝集体も除去されます。新物質と判断され た場合は詳細な単結晶X線構造解析、EDS測定5)を行い、結晶構造、組成を明らかにします(図1(d))。 従来は単結晶X線構造解析を行うには大きな単結晶6)が必要であり結晶成長の実験が必要でしたが、高輝 度のX線源や集光ミラーを用いることで通常の合成で得られる10μm程度の大きさの結晶でも結晶構造 解析可能となりました。光学特性評価としては、顕微分光法7)を用いて蛍光体1粒子の励起スペクトル、 発光スペクトル、発光スペクトルの温度変化(温度特性)、量子効率を測定します(図1(e))。蛍光 体の量子効率測定はこれまで多量の粉末試料で積分球とキセノンランプを用いて測定されていました
図 2、3 に「単粒子診断法」を用いて Ba3N2-Si3N4-AlN 系から開発した新規黄色蛍光体 Ba5Si11Al7N25:Eu2+
と新規青色蛍光体 BaSi4Al3N9:Eu2+の結晶構造、発光の様子を示します。Ba5Si11Al7N25:Eu2+結晶は針状の形
をしており斜方晶の対称性を持ちます。(Si,Al)N4の 4 面体ネットワーク構造の間に、8、10、11 配位構
造を持つ 3 種類の Ba(Eu)位置があり 570nm に発光波長を持つ黄色発光を示します。BaSi4Al3N9:Eu2+は単
斜晶の対称性を持ち 500nm に発光波長を持つ青色発光を示します。これらは一例で、他の組成系も含め ると 40 個以上の新しい蛍光体を見出しています 波及効果と今後の展開 白色LEDの性能向上には蛍光体の性能向上が欠かせません。本手法「単粒子診断法」を用いることで 新蛍光体の開発、性能向上が加速され、白色LEDの新用途に向けた展開が進むと期待されます。また将 来の紫外線励起白色LED、蛍光体の新たな応用分野への展開も期待されます。 「単粒子診断法」は蛍光体以外の材料でも展開可能と考えられます。従来の粉末合成では新物質探索が 困難となっていた分野でも適応可能で、新物質探索とそれに伴う材料開発の進展が期待されます。 用語解説 (1) 蛍光体 外部からの励起エネルギーを吸収し光に変換する物質。無機物質、有機物質、薄膜、粉末など様々な 種類があるが、白色 LED 用蛍光体としては無機粉末材料が実用化されている。 (2) 白色 LED LED(発光ダイオード)と蛍光体の発光の混色により白色を得ている。省エネルギー、長寿命、小型 軽量、水銀フリーの光源であり普及が急速に進んでいる。 (3) 母体物質 蛍光体では母体物質に希土類元素などを添加して合成される。母体物質により発光色や発光強度のお およその性質が決まるため、母体物質の開発が重要となっている。 (4) 単一相 1 種類の構造を持つ物質で構成されているもの。 (5) EDS 測定 エネルギー分散形の X 線分光測定のことで、電子顕微鏡と併用することで微小領域の組成分析ができ る。 (6) 単結晶 原子配列の規則的な周期構造を持つ物質で、結晶のどの位置を取り出しても方位が同じもの。 (7) 顕微分光法 微小な領域の光を顕微鏡を用いて観測すること。顕微ラマン分析、顕微赤外光分析、顕微蛍光分析な どがある。
問い合わせ先 (研究に関すること) 〒305-0040 茨城県つくば市並木1-1 独立行政法人物質・材料研究機構 サイアロンユニット サイアロングループ 主任研究員 武田 隆史(たけだ たかし) TEL:029-860-4304 FAX:029-860-4706 E-mail: [email protected] (報道担当) 〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 企画部門広報室 TEL:029-859-2026 FAX:029-859-2017 掲載論文
題 目 : Discovery of new nitridosilicate phosphors for solid state lighting by the single-particle-diagnosis approach
著者:Hirosaki Naoto, Takeda, Takashi, Funahashi Shiro, Xie Rong-Jun 雑誌:Chemistry of Materials
図 2 単粒子診断法で開発された新規黄色蛍光体の結晶構造図と発光の様子