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小児脳梗塞の1 例

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小児 脳MRI

小児脳梗塞の 1 例

鈴 木   大,高 柳   勝,田 邊 雄 大

新 妻   創,横 山 未 央,齋 藤 秀 憲

高 橋   怜,楠 本 耕 平,佐 藤   亮

曽 木 千 純,鈴 木 力 生,水 城 直 人

近 岡 秀 二,北 村 太 郎,西 尾 利 之

大 浦 敏 博,大 竹 正 俊

仙台市立病院小児科 は じ め に  脳梗塞はさまざまな原因による脳血管の血流障 害が一過性または持続性に生じ,支配領域の脳組 織が虚血性壊死に陥る疾患である.小児脳梗塞は 小児人口 10 万人に 5 人前後といわれており,成 人に比べ稀な疾患である1)  小児では,成人のような脳血管の動脈硬化を背 景とするのではなく,全身疾患等により血栓が形 成され,また脳血管形成異常や血管炎により血管 の狭窄・閉塞を生じた結果,脳虚血をきたすとさ れる.従って基本病因が多彩であることが小児の 脳梗塞の最大の特徴である1)  近年,水痘罹患後に発症した小児脳梗塞症例の 報告が散見される2,3).今回,私たちは水痘罹患の 9カ月後に発症した脳梗塞の 1 小児例を経験した ので報告する. 症   例  患児 : 5 歳, 男児  主訴 : 右上下肢不全片麻痺  家族歴 : 特記事項なし  既往歴 : 4 歳 3 カ月時(発症 9 カ月前),水痘 に罹患し,順調に経過した.  現病歴 : 当科入院前夜の 19 時頃,突然右片側 (口,顔面,上肢)に麻痺が出現し右半身が重くなっ たと泣き出した.救急車を要請したが救急隊到着 時,麻痺は消失しており自宅観察となった.21 時頃,再度右片麻痺が出現し当院救命救急セン ターを受診した.受診時,明らかな四肢麻痺およ び神経学的異常所見は見られず,脳 CT 画像にお いて異常は認められなかった.経過観察中の 22 時頃,3 度目の明らかな右片麻痺が出現し,40∼ 50分間の観察後に改善を認めた.入院を勧めた が家族の希望あり一旦帰宅とした.翌日起床後よ り 4 度目の右片麻痺が出現し入院となった.経過 中明らかなけいれんや意識障害は認めなかった.  入院時身体所見 : 身長 116 cm,体重 24 kg,体 温 37.0°C, 脈 拍 数 102/分, 血 圧 105/56 mmHg, SpO2 96% (room air),意識は清明であったが,右

口角下垂,鼻唇溝浅表化および構音障害を認めた. 徒手筋力テスト(MMT)では 右上下肢 3/5,左 上下肢 5/5 であった.バレー徴候は右上下肢が陽 性であった.右手の回内・回外運動は拙劣であり, 右跛行が見られた.深部腱反射に左右差は認めら れなかった.  入院時検査所見(表 1): 検血一般に異常はな く炎症反応も陰性であった.血液生化学検査に異 常は見られず,血清補体価は正常であり,抗核抗 体,抗カルジオリピン抗体も陰性であった.トロ ンボモジュリン(TM)は 4.3 FU/ml,トロンビン ・ アンチトロンビン III 複合体(TAT)は 17.0 ng/ml とそれぞれ上昇が認められた.プロテイン C 活 性およびプロテイン S 活性は正常であった.そ の他,抗水痘・帯状疱疹ウイルス IgG 抗体の上 昇を認め,水痘の既感染を示した.入院当日(第

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2病日)に施行した脳 MRI T1 強調画像(図 1-A) では異常は認められなかったが,T2 強調画像(図 1-B)および FLAIR 画像(図 1-C)において左レ ンズ核から尾状核に淡い高信号域を認め,拡散強 調画像(図 1-D)では同部位に高信号域を認めた. 以上より新鮮脳梗塞(レンズ核線状体動脈支配領 表 1. 入院時検査所見 WBC 11,100/μl AST 30 IU/l C3c 127.4 mg/dl RBC 502×104 /μl ALT 9 IU/l C4 24.5 mg/dl Hb 13.2 g/dl LDH 424 IU/l CH50 49.4 U/ml Ht 38.9% TP 6.7 g/dl ANA <×20 Plt 37.4×104 /μl Alb 4.4 g/dl 抗 CL-β 2GPI抗体 <1.2 U/ml CRP 0.12 mg/dl BUN 9 mg/dl 抗 CL IgM 抗体 2 U/ml ESR 8 mm/hr Cre 0.3 mg/dl Thrombomodulin 4.3 FU/ml PT 71.0% Na 137 mEq/l (基準値 2.1 ∼ 4.1 FU/ml)

PT-INR 1.27 K 5.1 mEq/l TAT 17.0 ng/ml APTT 39.8 sec Cl 106 mEq/l (基準値 < 3.0 ng/ml)

Fibg 279 mg/dl BS 248 mg/dl Protein C activity 98% AT III 117% T-Cho 174 mg/dl Protein S activity 143% FDP <2.5 μg/ml TG 53 mg/dl VZV IgG (EIA) ( + ) D-dimer 0.77μg/ml LDL-Cho 113 mg/dl VZV IgM (EIA) (−)

図 1. 脳 MRI 画像    A : 第 2 病日(T1 強調画像)異常所見を認めない.    B : 第 2 病日(T2 強調画像)左レンズ核から尾状核に淡い高信号域を認める(矢印).    C : 第 2 病日(FLAIR 画像)左レンズ核から尾状核に淡い高信号域を認める(矢印).    D : 第 2 病日(拡散強調画像)左レンズ核から尾状核に高信号域を認める(矢印).    E : 発症 6 カ月後(T1 強調画像)左レンズ核から尾状核に低信号域を認める(矢印).    F : 発症 6 カ月後(T2 強調画像)左レンズ核から尾状核に高信号域を認める(矢印).    G : 発症 6 カ月後(FLAIR 画像)左レンズ核から尾状核に低信号域を認める(矢印).    H : 発症 6 カ月後(拡散強調画像)左レンズ核から尾状核に低信号域を認める(矢印).

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域)と診断された.MR angiography(MRA)で は中大脳動脈を含め,頭蓋内の主幹動脈に閉塞・ 狭窄病変は認められなかった(図 2-A).  入院後経過(図 3): argatroban(スロバスタン® 選択的トロンビン阻害薬)の持続点滴静注および cilostazol(プレタール®,抗血小板薬)の内服で 治療を開始した.第 3 病日には右上肢の挙上が軽 度可能となり,右跛行の改善傾向も認められた. また右口角の挙上がみられるようになり,水分摂 取でのむせも消失したため嚥下食から食事を開始 した.また右上肢協調運動,右手指巧緻運動およ び顔面運動改善を目的にリハビリテーションを開 始した.第 4 病日より argatroban を持続点滴静注 から 1 日 2 回静注投与へと変更し,第 8 病日に終 了とした.第 10 病日に施行した脳波では異常は みられず,第 11 病日に施行した心臓超音波検査 では,心収縮は良好で明らかな疣贅はなく,弁逆 流および中隔欠損は認められなかった.上下肢運 動は徐々に増加し,滑舌は改善し発語が増加した. 第 14 病日に退院としたが,退院時の MMT 四肢 は 5/5 であり,右跛行は消失したが滑舌の軽度異 常は持続した.  退院後経過 : 退院時,巧緻運動に軽度の左右差 がみられリハビリテーション専門施設を紹介した 結果,日常生活でのリハビリテーションの方針と なった.退院後は外来にて経過観察し,退院 2 週 後の TAT 値は 2.9 ng/ml と基準値となった.その 図 2. 脳 MRA 画像    A : 第 2 病日 : 中大脳動脈を含め,頭蓋内の 主幹動脈に閉塞・狭窄病変は認められなかっ た.     B : 発症 6 カ月後 : 左中大脳動脈 M1 が対側 よりも全体的に細く,特に M1 近位より 1/3 程度のところに狭窄所見を認めた. 図 3. 臨床経過

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後著変なく経過し,発症 6 カ月後に脳 MRI 画像 再検のため入院した.手の巧緻運動機能の改善が 認 め ら れ, 脳 MRI T1 強 調 画 像( 図 1-E), FLAIR画像(図 1-G)および拡散強調画像(図 1-H)において低信号域病変を,T2 強調画像(図 1-F)において高信号域病変を認め,左基底核の 陳旧化した硬化巣を示した.MRA では左中大脳 動脈 M1 が対側よりも全体的に細く,特に M1 近 位より 1/3 程度のところに狭窄所見を認めた(図 2-B).MRA のみでは狭窄部位の評価が難しいた めカテーテル造影検査など更なる検査の必要も考 えられ,他院脳外科を紹介したが,経過順調のた め血管造影は不要との返事であった.    発症後 1 年 4 カ月における脳 MRI 画像および MRA画像は発症 6 カ月後における結果と同様で あり,身体所見としては手の巧緻運動機能にわず かの左右差がみられるのみである. 考   察  小児脳梗塞の原因疾患としては,脳血管形成異 常,心疾患,血管炎,血液・凝固異常,代謝異常, 外傷など多彩である1).欧米の原因分類では原因 が明らかでない特発性が約 30% と最も多い4) されるが,本邦においてはもやもや病が虚血性脳 血管障害の原因として最も多く1),欧米の原因分 類を当てはめることはできない.  本症例においては,脳梗塞発症時に見られな かった中大脳動脈の狭窄所見が発症 6 カ月後に認 められ,血管炎の存在が確認された.本症例では 脳梗塞発症 9 カ月前の水痘罹患歴があり,水痘罹 患後の血管炎による脳梗塞の可能性が考えられ た.近年,水痘罹患後に脳梗塞を発症した小児例 の報告が散見される2,3).水痘罹患後の脳梗塞の頻 度は水痘感染 15,000 例に 1 人の頻度とされ,臨 床上の特徴として水痘感染後 12 カ月以内(平均 5.2カ月)に発症し,片麻痺で発症することが多い. 季節性などはなく,性差や年齢に特徴はない.ま た画像上の特徴としては,ほとんどの症例が基底 核の脳梗塞であり,それ以外の梗塞巣としては中 大脳動脈領域,特に近位部の M1 領域に血管狭窄 像を認めることが多い.小児の動脈性脳梗塞の 1/3近い原因であるともされている5)  水痘罹患後血管炎による脳梗塞の診断は,① 水痘発疹から 1 年以内に脳梗塞を発症したもの, ② 片麻痺による発症,③ MRI でのレンズ核線 条体領域限局の虚血像,④ MRA での前大脳動 脈,中大脳動脈,内頸動脈での狭窄像,⑤ PCR 法による髄液中の VZV-DNAの証明,もしくは VZV-IgG indexの上昇などから総合的に判断され る3).今立ら2)は水痘不顕性感染後に脳梗塞をき たした 3 歳男児例を報告し,髄液 VZV-DNA PCR は陰性であったが VZV-IgG indexは 15.16 と高値 を認めた.また森ら3)は水痘罹患 4 カ月後に脳梗 塞をきたした 1 歳男児例を報告し,今立ら2)と同 様に髄液中 VZV-DNA PCRは陰性であったが, VZV-IgG indexが 21.5 と高値を示したことから水 痘罹患後血管炎による脳梗塞と診断した.本症例 では脳脊髄液検査が未施行であり,水痘感染が原 因と断定できなかったが,①∼④ を満たしたこ とから水痘罹患後血管炎による脳梗塞の疑いとし た.  脳梗塞は成人同様,患児の予後を改善させるた めにはできるだけ早期の診断と治療の介入が必要 となる.しかし小児の脳梗塞では症状が非特異的 であり,また非常に稀であるという認識から診断 の遅れる可能性が指摘されている6).本症例にお いても入院までに間欠的な麻痺症状を 3 度繰り返 しており,診断に苦慮し治療開始までに時間を要 した.  脳梗塞の診断においては画像診断が中心とな る.最も早期に検出可能なのは,脳 MRI 拡散強 調画像であり,発症後 1∼3 時間程度で細胞性浮 腫のため水の拡散が低下し,高信号域病変を呈す る1).時間の削減,費用対効果,迅速な診断およ び放射線被曝の回避の点からも拡散強調画像が有 用である6).また血管狭窄部位の検索には MRA が有用であり必須である.本症例でも左中大脳動 脈に狭窄部位があり,左大脳基底核の梗塞巣の責 任血管と推定された.  小児脳梗塞に確立された治療指針はなく,成人 の「脳卒中治療ガイドライン 2009」が参考とな る7).同ガイドラインでは脳梗塞急性期の治療と

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して,1)血栓溶解療法,2)急性期抗凝固療法,3) 急性期抗血小板療法,4)脳保護薬が挙げられて いる.血栓溶解療法は発症後 3 時間以内の成人虚 血性脳血管障害が適応となり,rt-PA(alteplase) の静脈内投与が強く推奨されているが,小児での 適応はない.急性期抗凝固療法では発症後 48 時 間以内で病変最大径が 1.5 cm を超すような脳梗 塞には,本症例において投与した選択的トロンビ ン阻害薬の argatroban が推奨されている.急性期 抗血小板療法としてはトロンボキサン合成酵素阻 害薬である sodium ozagrel および aspirin が推奨 されている.本症例で使用した cilostazol は一過 性脳虚血(TIA)の急性期治療と脳梗塞発症防止 に aspirin に次いで推奨されている抗血小板薬で あり,最近本邦における大規模臨床試験の結果か ら aspirin に対する非劣性が報告されている8).脳 保護薬としては抗酸化薬である edaravone の静脈 内投与が推奨されている.  全身状態が安定次第,早期のリハビリテーショ ンの開始が推奨されている.小児の脳組織は,成 人とは異なり可塑性が高く,同じ程度の虚血侵襲 が加わっても小児の方が予後はよいとされ,早期 のリハビリテーション開始は予後の改善および合 併症の減少に有効である1).本症例では第 2 病日 から抗凝固療法および抗血小板療法を開始し,速 やかに全身状態が安定したことから第 3 病日より リハビリテーションを開始し,退院前には巧緻運 動および滑舌に軽度異常を残すのみにまで改善し た. 結   語  1) 間欠的に右片麻痺を呈し,脳 MRI 画像に て脳梗塞と診断された 1 例を経験した.麻痺を繰 り返したが,当初は持続的な症状ではなかったた め早期診断が困難であった.  2) 選択的トロンビン阻害薬および抗血小板薬 の投与,さらに早期のリハビリテーションにより 速やかに改善が得られた.  3) 発症 6 カ月後の MRA で発症時にはみられ なかった中大脳動脈狭窄病変が認められ,血管炎 の存在が確認された.臨床経過から水痘罹患後の 血管炎による脳梗塞が疑われたが,脳脊髄液の水 痘・帯状疱疹ウイルス関連検査を施行しておらず 確定診断とはならなかった.  稿を終えるにあたり本症例の診断・治療に際し て,ご指導ご助言を頂きました当院放射線科石井 清先生,当院脳神経外科仁村太郎先生,宮城県拓 桃医療療育センター萩野谷和裕先生および宮城県 立こども病院脳神経外科白根礼造先生に深謝いた します.  なお, 本論文の要旨は第 209 回日本小児科学会 宮城地方会(2010 年 6 月, 仙台市)において発表 した. 文   献  1) 糸見世子 : 脳梗塞・静脈洞血栓症.小児疾患診療の ための病態生理 2(『小児内科』『小児外科』編集委 員会共編),第 4 版,東京医学社,東京, pp 669 -673, 2009  2) 今立真由美 他 : 水痘不顕性感染後に脳梗塞を発 症した 1 例.日児誌 113 : 1413-1417, 2009  3) 森 達也 他 : 水痘罹患 4 か月後に脳梗塞をきたし た 1 例.日児誌 114 : 510-514, 2010

 4) Roach ES et al : Management of stroke in infants and children : a scientific statement from a Special Writing Group of the American Heart Association Stroke Council and the Council on Cardiovascular Disease in the Young. Stroke 39 : 2644-2691, 2008

 5) Askalan R et al : Chickenpox and stroke in childhood : a study of frequency and causation. Stroke 32 : 1257 -1262, 2001

 6) deVeber GA : Delays in the timely diagnosis of stroke in children. Nat Rev Neurol 6 : 64-66, 2010  7) 篠原幸人 他 : 脳梗塞・TIA.脳卒中治療ガイドラ

イン 2009(脳卒中合同ガイドライン委員会),協和 企画,東京,pp 45-127, 2009

 8) Shinohara Y et al : Cilostazol for prevention of second-ary stroke (CSPS 2): an aspirin-controlled, double -blind, randomized non-inferiority trial. Lancet Neurol

図 1. 脳 MRI 画像    A : 第 2 病日(T1 強調画像)異常所見を認めない.    B : 第 2 病日(T2 強調画像)左レンズ核から尾状核に淡い高信号域を認める(矢印).    C : 第 2 病日(FLAIR 画像)左レンズ核から尾状核に淡い高信号域を認める(矢印).    D : 第 2 病日(拡散強調画像)左レンズ核から尾状核に高信号域を認める(矢印).    E : 発症 6 カ月後(T1 強調画像)左レンズ核から尾状核に低信号域を認める(矢印).    F : 発症 6 カ月後

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