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小学校教育におけるフォーカシング活動の効果検証のための予備的研究

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Academic year: 2021

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(1)

小学校教育におけ る フ オーカ シ ング活動の効果検証のための予備的研究

A Pilot Study of Effects of a Focusing Practice in Elementary School Students

松 本

剛*

小 橋 洋 子**

M ATSUMOTO Tsuyoshi KOBASHI Yoko

小学 6 年生への 「 フ オー カ シ ン グ実習」 の効果につい て検討 し た。 「か ら だの感 じ」 に関す る尺度 を作成 し 、 「 フ オー カ シ ング実習」 の継続実施前後に尺度 を用い て実習継続の効果 を検討 し た。 質問紙調査 を因子分析 し た結果、 12項目か ら な る 2 因子解が得 ら れた。 第 1 因子に 『「か ら だの感 じ」 への気づ き』、 第 2 因子に 『不確定な 「か ら だの感 じ」 と のやり と り 』 と 命名 し た。 プロ グラ ムを継続 し た ク ラ ス におい て 「 フ オー カ シ ン グ実習」 を24回継続 し 、 実施 し な か っ た ク ラ ス と の間で 2 要因分 散分析 を用いて前後比較 し た結果、 非実施 ク ラ スには継続実施前後での下降がみら れた。 プロ グラ ムを継続す るこ と によ っ て、 児童はか ら だへの認識 を持 ち続け る こ と がで き る よ う に な る と い う 効果が推察 さ れる。

This study investigated the ef fects of Focusing practice on 6 grade students in primary school. A questionnaire about bodily feeling was administered the paper questionnaires before and after each focusing practice. The Focusing practices were per- formed on some students for 24 times continuously. As a result of the factor analysis, 2 factors consisted of 12 items, named as “awareness in the recognition of body” and “touching with uncertain feelings of body”. When comparing those students with the non-continuous per form ing students, as a result of two factor variance analysis decreasing before and after the Focusing practice for non-continuous performing students. This result infers that the continuous Focusing practice has the effect on children the ability to keep their feelings of body.

キ ーワ ー ド : フ オー カ シ ング, 小学校, 教育実践, か ら だへの意識

Key words : Focusing, elementary school, educational practice, recognition of body

I 問題 と 目的 小学校 におけ る フ オー カ シ ン グを活用す る教育実践の 取組は、 こ れま で妹尾 (1997) , 伊藤 (2002) , 土江 (2003) をは じ め と し て数多 く が紹介 さ れて き た。 こ れ ら の実践は、 現在求 め ら れる こ と が多 く な っ た情動教育 の一 環 と し て児 童 に フ オー カ シ ン グ体験 を提供す る も の で あ り 、 教育 に フ オー カ シ ン グ を導入す る こ と の意義 が 示 さ れる も ので あ る と 考え ら れる。 た だ し 、 こ れら は対 象が小学生 と い う こ と も あ っ て実践報告が中心 と な っ て お り 、 授業の有効性 につい て統計的 な手法 を用い て前後 比較す る な どの検証が十分 に さ れてい る と ま ではいえ な い o 幼児期 と 比べ る と児童期は、 極めて現実志向が強 く な り 、 頭で考え る傾向が増す こ と によ っ て、 か ら だで直接 何か を感 じ取 るよ り も自分の周 り にあ る外界 によ り 興味 を示す傾向が強ま る。 し か し、 小学校高学年 に入 る と 、 そ れま での外界への指向の強い児童期 を脱す る児童 も 見 ら れるよ う にな る。 自分自身 に目 を向け る こ と が多 く な る傾向 がみ ら れる こ れら の児童は、 内界 に指向 し てい く 青年前期への入口の時期にある と いえ、 6 年生はその過 渡期であ る と いえ る。 (松本, 2013) こ のよ う な時期に あ る児童 に と っ て、 自分自身 の 「 か ら だの感覚」 を通 じ て自分 の感情や思考 にふ れる よ う な体験は意味深い も の に な る と 考え ら れる。 そ こ で、 本研究では 「 か ら だの感 じ」 にかかわる取 り 組みを小学校 6 年生に 2 ケ月間実施 し て日常的に 「から だの感 じ」 に注意 を向け る ための教育実践 を 続け、 その 効果 を検証す る こ と を目的 と し た。 その効果検証のため に、 ま ず日常的 に児童が どの程度 「 か ら だの感 じ」 に注 意 を向け てい るか を測定す る尺度 を作成す る。 6 年生 を 対象に質問紙調査 を行い、 その回答 を も と に し て小学生 用の 「か ら だの感 じ」 にかかわる尺度 を用い て教育実践 の検証 を行 う 。 こ れら の実践 と 検証 を通 じ て、 フ オー カ シ ン グを応用 し た学校教育 におけ る取組の有効性 を統計 的 に検証す る こ と を試みた。

II 方法

本研究に際し、 A 市立 B 小学校 と c 小学校の学校長、 ク ラ ス担任 に目的及び実践方法について文書及び口頭で 説明 し授業 と 調査に関す る承諾 を得 た。 その後、 保護者 に向け て文書 で授業 と 調査 につい て説明 し 、 実践への協 力 を得 る こ と につい て確認 し た と こ ろ、 全員 の了 解 を得 る こ と がで き たので、 全員 を対象 と し て本研究のための 調査 と 実践 を開始 し た。 * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻生徒指導実践開発 コ ース 教授 * * 神戸市立木津小学校 平成28年10月24 日受理

(2)

1 . 研究 I 「小学生用からだの感 じ 尺度」 の作成 小学校高学年 を対象 と し た 「 から だの感 じ」 を どの程 度認知 し てい るか を調査す る た めの質問紙 と し て、 「小 学生用か ら だの感 じ尺度」 (以下 「から だ尺度」 ) を作成 し、 B ・ c 小学校の 6 年生94名から回答 を得た。 なお、 「 か ら だ尺度」 作 成 に際 し て、 そ の妥当 性 を検討 す る た めに 「 ス ト レス尺度」 (嶋田 ら, 1994) (以下 「 ス ト レス 尺度」) を同時に実施 し、 両者の相関を検討 し た。 2 . 研究 II フ オー カ シ ングを応用 し た教育実践の有効性 小橋 (第 2 筆者) は小学校現職教論であり 、 大学院に おい て松本 (第 1 筆者) の指導のも と で フ オー カ シ ン グ を学 び、 学外 の フ オー カ シ ン グの研 修会に も 参加 し た大 学院 2 年目に、 本研究のための実践活動 を行 っ た。 小学 校 で児童 に対 し て フ オー カ シ ン グの第 1 段階で あ る 「 ク リ ア リ ン グ ・ ア ・ スペ ース (空間づ く り )」 を教育現場 で一斉 に実施で き る よ う に考案 さ れた実習 「 こ こ ろの整 理箱」 (村山, 1984) を週1回、 また今の自分の心の状態 を 天気 に見立 て て 確認す る 「 こ こ ろ の天気」 (土江 , 2003) の授業 を週 2 回、 8 週間に亘つて B 小学校 6 年 生児童 を対象 に実施 し た。 こ れら の フ オー カ シ ン グ体験 が、 児童の 「 か ら だの感 じ」 に どのよ う な変化 を も た ら せたかについ て、 実践群 (B 小学校児童) 、 統制群 (c 小学校児童) に対 し て、 実践前 ・ 中 ・ 後に 「から だ尺度」 への回答 を求め る と と も に、 実践群 を対象 と し た自由記 述への回答、 個別面談の実施 を実施 し 、 「 か ら だの感 じ」 にかかわる取 り 組みの効果 を検証 し た。

m 研究 I ( 「小学生用からだの感じ 尺度」 の作成)

の結果 と 考察 1 . 「 から だ尺度」 作成のための項目調査 本研究で実施す る 「 から だ尺度」 を作成す る ために、 「 か ら だの感 じ」 尺度 (桑野, 2002) 、 「 フ オーカ シ ン グ 的体験様式の日常化に関す る質問項目」 (上菌, 2004) を参考 に調査項目 を考案 し た。 その際、 フ オー カ シ ン グ 体験者に し か理解で き ない と 思われるよ う な 「気がかり と 間 を お く 」 「 距離 を と る」 と い う 表現 や、 児 童 には意 味 がわか ら ない で あ ろ う と 思 われる 「自分 の感 じ た も の を信頼 で き る」 のよ う な表現は修正、 ま たは削 除 し 、 子 ども で あ り フ オー カ シ ン グ未体験者 で あ る児 童 に も 分 る よ う な文章表現 と す る よ う に し た。 ま た、 A 市立 B 小 学校 6 年児童35名、 A 市立 c 小学校 6 年59名の計94名 に対 し て、 「日常感 じ るか ら だの感 じ」 に関す る ア ンケ ー ト を行 っ て集 め ら れた 「 か ら だの感 じ」 に関わ る記述か ら抽出 さ れた項目 を追加 し た。 その後、 K J 法 を用い た整理 を行い、 「 から だの感 じ」 受容を測定する内容と し て妥当であるか否かを検討 し た。 こ れら の一連の検討 を経て、 42項目の中から18項目が質 問紙項目 と し て抽出 さ れ、 小学 6 年生を対象 と し た本研 究 におけ る実習評価のための 「 か ら だ尺度」 作成のため の質問紙調査が作成 さ れた。 2 . 質問紙調査の実施 x 年 5 月、 A 市立 B 小学校 6 年 1 組 (35名) 、 C 小学 校 6 年 1 , 2 組 (59名) の計94名を対象 と し て、 「から だ尺度」 を実施 し た。 回答は 4 件法 と し、 4 (いつも あ る) 、 3 ( と き どき あ る) 、 2 (め っ たにない) 、 1 (ま っ た く ない) で得点化す るこ と と し た。 ま た、 妥当性 を検 討 す る ため、 児 童 には先述 し た よ う に 「 ス ト レ ス尺度」 への回答 を同時に求めるこ と と し た。 教示は担任教師が 行 っ た。 3 . 因子分析結果 因子分析 (主因子法, バリ マ ツク ス回転) を行 っ た結 果、 2 因子解におい て解釈可能 な因子が抽出 さ れ、 因子 負 荷 が 1 つの因子 に つい て.39以上、 かつ他の因子 と の 負荷量の差が.10以上あ る12項日 を選出す る こ と と し た。 (Tablet ) 累積寄与率は33.9% で あ り 、 十分で はない と 思われるが、 因子 の解釈の し やす さ な どか ら こ こ ではそ のま ま採用す る こ と と し たい。 ま た、 内的整合性 を検討 す る ために α係数 を算出 し た と ろ、 第 1 因子は.755、 第 2 因子は.702 と い う 値が得 ら れた。 第 1 因子の 6 項目には、 「自分の 「 から だの感 じ」 を 大切 にす る」 「 がんばっ てい る自分 に気づ く 」 「 こ う 感 じ て い る んだ と 気づ く 」 「 感覚 がわか る」 な ど、 自分 のか ら だの感 じ に気づ い た り 、 わか っ た り す る内容が含 ま れ てい る こ と よ り 、 『「 か ら だの感 じ」 への気づ き』 と 命名 し た。 一方、 第 2 因子の 6 項目には 「自分に聞いてみる」 「 注意 を向け る」 な ど、 は っ き り し てい な い自分 のか ら だの感 じ につい て自分 に聞い てみたり 、 注意 を向け たり す る内容 が含 ま れてい る こ と か ら 、 『不確定 な 「 か ら だ の感 じ」 と のやり と り 』 と 命名 し た。 4 . 「 から だ尺度」 と 「 ス ト レ ス尺度」 と の相関 児童のから だへの関心 と ス ト レ ス反応 と し ての身体へ の関心 と の間の相関 を確認す る こ と に よ っ て、 本尺度の 妥当 性 を検討 す る こ と がで き る ので は な い か と 考 え 、 「 か ら だ尺度」 と 「 ス ト レ ス尺度」 と の相関 を求 め た。 「 ス ト レ ス尺度」 は、 児 童の 「 最近の心や体の調子」 を 回答す る質問紙 と し て作成 さ れ、 項日 が最近の気持 ちや 体の状態 に どの く ら い あ てはま るかについ て 4 段階で評 定 を求 め る も ので あ る。 最初 に、 「 か ら だ尺度」 合計得点 と 「 ス ト レ ス反応」 合計得点の間で ピ ア ソ ンの相関 を求めた と こ ろ、 有意な 相 関は認 め ら れな か っ た。 次 に、 「 か ら だ尺度」 各因 子 得点 と ス ト レ ス反応合計得点の相関 (Table2) を求めた と こ ろ、 「 か ら だ尺度」 第 2 因子 と ス ト レ ス反応合計得 点の間に有意な相関が認めら れた (r = .350, p<.05) 。 ま た、 「 か ら だ尺度」 第 1 因子 と ス ト レ ス反応合計得点の 間には負 の相関に有意傾向がみら れた (r =

-

.325, p<.1)。

(3)

Tablet 「 児童用 から だの感 じ 尺度」 の因子分析結果 Fl F2 < 第 1 因子 「か ら だの感 じ」 への気づき > 10頭で あれこ れ考え る よ り 、 自分の 「から だの感 じ」 を大切にす る 5 がんばっ てい る自分に気がつ く 6 「自分は今、 こ う 感 じ てい るのだ ( よ ろ こ んでい る、 悲 し んでい る な ど) 」 と 気づ く 11 自分で力 を入れてい る感覚がわかる 14 リ ラ ッ ク ス で き てい る自分に気がつ く 9 気持 が し ん どい と き 、 友 だ ち と し やべ つた り 、 体 を動 か し た り す る と 、 す っ き り す る < 第 2 因子 不確定な 「から だの感 じ」 と のや り と り > 13気持 が し ん どい と 感 じ る と き は、 「こ の し ん どい感 じはい っ たい 何 な のかな ? 」 と 自分に聞い て み る 12 「自分は今、 どんな風に感 じ てい るのかな」 と 自分に聞い てみる 15困っ た と き 、 「自分は ど う し たい ? 」 と 自分自身に聞 く 3 自分の中の 「す っ き り し ない感 じ」 に注意 を向け る 7 白分の気持 ち を抑 え込 んでい る こ と に気がつ く 1 自分の中に あ るは っ き り し ない 「か ら だの感 じ」 を感 じ る 9 5 4 6 5 6 5 4 5 5 3 9 6 6 5 4 4 3 2 9 0 5 6 8 4 0 7 0 9 8 0 2 2 0 0 1 1 1 6 2 8 6 0 9 8 5 2 1 1 1 2 0 0 1 1 4 9 6 9 5 6 2 4 4 3 9 7 7 5 5 4 3 累積寄与率 18. 32 33. 93 Table2 「 から だの感 じ」 受容尺度各因子 と ス ト レ ス反応尺度合計得点 と の相関 「か ら だの感 じ」 第一因子 「から だの感 じ」 第二因子 ス ト レ ス反応合計得点 - . 3251 350* * p<.05 † p<.1 Table3 「 から だの感 じ」 受容尺度各因子 と ス ト レ ス反応尺度各因子 と の相関 「か ら だの感 じ」 第一因子 「から だの感 じ」 第二因子 身体的反応 抑 う つ ・ 不安感情 不機嫌 ・ 怒 り の感情 無気力 . 167

-

. 259

-

. 294 438

*

429

*

481

**

244 141 さ ら に、 「 か ら だ尺度」 各因 子 と ス ト レ ス反応因子 と の 相関 (Table3) を求めた と こ ろ、 「 から だ尺度」 第 1 因 子 と ス ト レス反応 「無気力」 (r =

-

.438, p<.05) との間

に有意 な負 の相関がみら れた。 「 か ら だ尺度」 第 2 因子 と ス ト レス反応 「身体的反応」 (r = .429, p<.05) 、 「抑う つ ・ 不安感情」 (r = .481, p<.01) と の間に も有意な相関 がみ ら れた。 5 . 研究 I (「小学生用 から だの感 じ 尺度」 の作成) の 考察 「 か ら だ尺度」 は、 児 童の フ オー カ シ ン グ体験が日常 の 「 か ら だの感 じ」 への気づ き に どのよ う に影響 を も た ら す か を測定す る ために開発 し た も ので あ る。 先述 し た よ う に、 作 成 に あ た っ ては、 フ オー カ シ ン グ未経験者、 と り わけ小学生に も わかいやすい項目群にな るよ う に平 易 な質問文 にす る こ と を意識 し たが、 『「 か ら だの感 じ」 への気づ き』 と 『不確定 な 「 から だの感 じ」 と のやり と り 」』 の 2 因子 を得 た こ と から 、 小学生で も回答が可能

* *

p<.01

*

p ,<.05 な質問紙が作成で き た と 思われる。 た だ し、 2 因子につ い ての内的整合性 を α係数の算出によ り 検討 し た結果で は、 第 1 因子、 第 2 因子 と も に.8以上の値 を得 る こ と は で き ず、 2 因子の信頼性は十分 な も のであ る と はいえ な い結果 と な っ た。 し か し、 .7以上の値 を得 るこ と はで き、 各項日 が 「 か ら だの感 じ」 尺度 と し て、 重要で あ る と 判 断す る こ と がで き る こ と か ら、 本研究では本尺度 を こ の ま ま採用す るこ と と し た。 一方、 本研究では先述 し たよ う に、 2 因子 と 「から だ 尺度」 の相関を求めた結果、 第 1 因子 (『「から だの感 じ」 への気づ き』) と ス ト レ ス反応 「無気力」 と の間 に負 の 相関がみら れた。 ま た、 第 2 因子 (『不確定 な 「 から だ の感 じ」 と のやり と り 』) と 「身体的反応」 「抑う つ ・ 不 安感情」 と の間に有意な相関がみら れたこ と か ら、 妥当 性につい ての検証 も一定の可能性 を示す こ と がで き た と 思 わ れる。

(4)

「 から だ尺度」 第 1 因子 (『「から だの感 じ」 への気づ き』) と 無気力 と の間に 5 %水準で負 の相関がみら れた ( Table3) が、 自分のか ら だの感 じ を大切 に し てい た り 、 今 の感情や リ ラ ッ ク ス し てい るか力 が入 っ てい るかに気 づ き やす か っ た り す る子 ども た ちは、 「 集中で き ない」 「 や る気がで ない」 「力 がわかない」 と い う 状態 にな り に く い と 考え ら れる こ と か ら 、 負 の相関がみ ら れる こ と は 妥当 であ る と 考え る。 一方、 第 1 因子にあ る 「がんばっ てい る自分」 「 リ ラ ッ ク スで き てい る自分」 「す っ き り」 と い っ た感覚への回答 が、 「無気力」 の低 さ と の関係 を 表 し た結果で あ る と い う 可能性 も あ る。 いず れにせよ、 「 か ら だの感 じ」 が無気力 と の負 の相関 を表 し てい る こ と は妥当 な結果で あ る と 考え る。 ま た、 「 から だ尺度」 第 2 因子 (『不確定な 「から だの 感 じ」 と のやり と り 』) と ス ト レ ス反応合計の間に相関 がみら れた (Table2) こ と は、 自分のから だの感 じ に注 意 を向け たり 、 は っ き り し ない自分自身 の感覚 につい て 自覚 で き た り す る児童は、 「 ス ト レ ス尺度」 の諸項目へ の自覚があ る と い う こ と を示 し てい る と い う 関係性 を表 し てい る と 考え ら れる。 ま た、 「 し ん どい」 「す っ き り し ない」 「 気持 ち を抑 え込 んでい る」 な どが、 ス ト レ ス反 応 と し て表 れた結果が相関 と し て示 さ れた と も 考え ら れ る o 一方、 「 から だ尺度」 第 2 因子 と ス ト レ ス反応の 「抑 う つ」 ・ 「不安感情」 因子と の相関 (Table3) において、 両者 と の間 に 1 %水準 で相関がみら れた こ と は、 「 か ら だの感 じ」 に対 し て注意 を向け る こ と と 、 「 な んだか怖 い感 じがす る」 「気持 ちが沈 んでい る」 「 な んと な く 、 心 配で あ る」 な どの不確定 な感情に気づ こ う と す る こ と と の間の関連 を示 し てい る。 ま た、 「 か ら だ尺度」 第 2 因 子 と身体的反応の間に も 5 %水準で相関がみら れたこ と から 、 「 から だ尺度」 第 2 因子が示す と こ ろの、 「 から だ の感 じ」 に対 し て注意 を向け る こ と と 、 「 あ たま が く ら く ら す る」 や 「 か ら だが だ るい」 「気持 ち がわ るい」 な どと い つたから だの反応 を感 じ取 る項目 と の相関が示 さ れた。 こ れら の結果は、 ス ト レ ス反応 と し ての 「 か ら だ」 の 感覚が示 さ れてい る と い う 可能性が高い と 考え る。 但 し、 か ら だか ら の 「気づ き」 を測定す る と い う フ オー カ シ ン グの特性 を考え る と 、 その様相 を示す結果で あ る と ま で は言い切 れず、 身体 と 精神状態の相関 を示 し てい る に過 ぎない と い う 側面 を残 し てい る。 今回は ス ト レ ス にみ ら れる身体反応に着目 し て 「 ス ト レ ス尺度」 を採用 し たが、 今後 の検証ではか ら だか ら の気づ き の プロ セ ス に つ なが る尺度で、 児童で も回答 で き る内容 を どのよ う に検証す る かに つい て議論 を続け る必要があ る と 考え る。 今後 に 課題 を残す も のの、 内容の一致や相関 を考慮 し て、 「 か ら だ尺度」 の一定の妥当性につい て検討 し た と 思われる。

IV 研究 II ( フ オー カ シ ン グ を応用 し た教育実践

の有効性) の結果 と 考察

1 . 実践内容 ( 1 ) 実践 と検証の計画 X 年 5 ・ 6 ・ 7 月の 8 週間、 A 市立 B 小学校 6 年 (35 名) の実践群に対 し て、 「心の天気」 (週 2 回朝の会の時 間帯計16回) と 「 こ こ ろの整理箱」 (週 1 回計 8 回) を 実施 し た。 ま た、 「 こ こ ろの整理箱」 を実施 し た 8 回の う ち、 後半 5 回には 「から だの感 じ」 に注意を向けや く す る た め の ボ デ イ ワ ー ク を 取 り 入 れ た。 ま た、 日 常 の 「 か ら だの感 じ」 の変化 を検証す る ため、 学校規模が近 い近隣の A 市立 c 小学校 6 年 (59名) を統制群 と し て、 両群に対 し て実践前、 実践中、 実践後の同時期に 「から だ尺度」 に回答 を も と め、 そ れら の得点 の比較 に よ っ て 実習の効果 を検証 し た。 ( 2 ) 実践内容 5 月に B 小学校 6 年 と C 小学校 6 年の児童に、 「から だ尺度」 と 「 ス ト レ ス尺度」 への回答 を求めた。 そ れ以 後の実践中、 実践後 におけ る測定では、 小学生用 「か ら だの感 じ」 尺度のみに回答 を求めた。 実施時期 につい て は、 1 回日 を プロ グラ ムの実践前、 2 回日 を プロ グラ ム I の終了後、 3 回日 を プロ グラ ム II の終了後 と し た。 プ ロ グラ ムは実践群 (B 小学校 6 年) のみに実施 し、 プロ グラ ムを前半 と 後半 に分け て前半 を プロ グラ ム I と し て 3回、 後半 を プロ グラ ム II と し て 5 回行 う こ と と し た。 プロ グラ ム I ( 1 ~ 3 回日) では 「 こ こ ろの整理箱」 の みを行い、 プロ グラ ム II ( 4 ~ 8 回日) では 「 こ こ ろの 整理箱」 を行 う 前に 「 か ら だの感 じ」 を味 わう ための ボ デ イ ワ ー ク を取 り 入 れた。 な お、 プロ グ ラ ム I ・ II の初回 には、 そ れぞ れ 「 こ こ ろ」 と 「 から だ」 に関す る簡単 な し く みに関す る授業 を 行 う こ と で、 児童が 「 こ こ ろの整理箱」 や 「 こ こ ろの天 気」 を行 う 意味 を少 し で も 理解 さ せ、 児童が授業 に対 し て疑心暗鬼に な ら ない よ う 配慮 し た。 具体的 には、 プロ グラ ム I で は 「 こ こ ろ っ て な んだ ろ う 。 どこ にあ る の だ ろ う 。」 と い う 問 いかけ を児 童 に問 いかけ る こ と を導入 と し 、 「 こ こ ろ」 を整理す る こ と で気 にな っ てい る こ と を確認 し た り 、 そ れを批判 す る ので は な く や さ し く 認 め たり す る こ と に取 り 組む授業 で あ る と い う こ と を児童に 伝 え た。 ま た、 プロ グラ ム II では、 気がかり な こ と があ る と ま ず、 「 か ら だ」 が反応す る こ と 、 そ れを無視 し て 頭で解決 し よ う と す るのではな く 、 本当 の思いや気持 ち、 自分は どう し たいのかな どに日 を向け る こ と に つい ての 授業で あ る と 伝え てい る。 2 . 効果検討の結果 と 考察 ( 1 ) 実践群 と 続制群間の 2 要因分散分析 小学生用 「 から だの感 じ」 尺度の因子別得点 を従属変 数と し て、 群 (2) x 時期 (3) を独立変数と する 2 要因

(5)

分散分析を行 っ た。 分散分析の結果、 第 1 因子において

時期の主効果が有意であり (F(2,174) = 10.73, p<.001) 、

交互作用に有意傾向がみら れた (F(2,174) = 3,05 p<.1) 。 (Table4) そこ で、 時期 (3) を独立変数 と す る単純主効 果の検定 を行 っ た結果、 統制群のみに時期間 に有意差が みら れた (p<.001) 。 多 重比較 を行 っ た と こ ろ、 実践前 と 実践中、 実践前 と 実践後の間 に有意な差がみら れた。

第 2 因子においては、 時期間 (F(2,174) = 4.524, p<.05)

と群間 (F(2,174) = 9.38, p<.01) の主効果に有意差がみ ら れた。 (Table5) ま た 、 合 計 得 点 に お い て は 、 時期 間 (F(2,174)

= 11.30, p<.001) 、 群間 (F(2,174) = 4.21, p<.01) と もに

主効果に有意差がみら れ、 有意な交互作用 (F(2,174) = 3.09, p<.05) も みら れた。 そ こ で、 時期 (3) を独立 変数 と す る単純主効果の検定 を行 っ た結果、 統制群 にの み時期間に有意差 (p<.001) がみら れた。 多重比較を行っ た と こ ろ、 時期間、 群間のすべ て におい て有意 な差がみ ら れた。 (Table6) ( 2 ) 実践群内の小学生用 「 からだの感 じ」 尺度得点に よ る 3 群の比較 プロ グラ ム実施前 に行 っ た実践群 の 「 か ら だ尺度」 の 得点 を低中高の 3 群 に分け、 そ れぞれの群がその後 どの よ う に変化 し たかを検証 し た。 3 群は平均値±SD / 2を 基準 に し て得点の低い順 に低群、 中群、 高群 と し、 2 因 子 と合計のそ れぞれに関 し て 2 要因分散分析 (Table7) を実施 し た。 その結果、 第 1 因子におい て、 有意な交互

作用 がみ ら れた (F(4,56) = 3.05, p<.01) 。 (Table8,

Figure4) そ こ で、 時期 (3) を独立変数 と す る単純主効 果の検定 を行 っ た結果、 低群 におい て時期間 に有意差 (p<.05, 前<中, 後) がみら れ、 高群におい て も時期間に 有意差 (p<.05, 前>後) がみら れた。 一方、 第 2 因子と 合計 にお い ては、 有意 な結果はみ ら れな か っ た。 ( 3 ) 3 群分け低群 と 高群の質的分析 ① 第 1 因子低群 低群は第 1 因子において 1 回目 と 2 回目間で有意に得 点が上昇 し た。 低群の児童の得点上昇の要因 について、 「 こ こ ろの整理箱」 に関す る特徴的 な記述や面談結果 を も と に児童個別の変化 を検討す る。 女児 D には、 若干 の得点上昇がみら れた。 記述内容 は、 気がかり 、 心配 ご と と か ら だの感 じ に関す る こ と で あ っ た。 授業 を き っ かけ に し て、 筆者 と の面接 を希望 し たので、 計 7 回の面接 を実施 し た。 面接ではやや情緒不 Table4 小学生用 「 からだの感 じ」 尺度第 1 因子の分散分析結果 実践前 実践中 実践後 交互作用 平均 SD 平均 SD 平均 SD 実践群 統制群 17. 48 3. 19 18. 64 3. 22 17. 00 3. 22 16. 33 4. 31 16. 29 3. 49 14. 86 4. 91 3. 05 † Table5 小学生用 「 から だの感 じ」 尺度第 2 因子の分散分析結果 *p<.001 †p<.1 実践前 実践中 実践後 交互作用 平均 SD 平均 SD 平均 SD 実践群 統制群 13. 29 3. 23 11. 88 3. 75 12. 90 3. 53 11. 17 3. 62 12. 68 3. 98 9. 90 3. 74 1. 37 Table6 小学生用 「 から だの感 じ」 尺度 合計 **p<.01 実践前 実践中 実践後 交互作用 平均 SD 平均 SD 平均 SD 実践群 統制群 30. 77 5. 07 30. 52 5. 90 29. 90 5. 55 27. 50 6. 80 28. 97 6. 23 24. 76 7. 88 3. 09 * Table7 学生用 「 からだの感 じ」 尺度の 3 郡分け ***p<.001 *p,<.05 合計 第 1 因子 第 2 因子 低群 27点以下 15点以下 11点以下 中群 28~ 32点 16~ 18点 12~ 13点 高群 33点以上 19点以上 14点以上

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Table 8 「小学生用からだの感じ尺度」 第 1 因子の各群比較 実践前 実践中 実践後 交互作用 平均 SD 平均 SD 平均 SD 低群 中群 高群 13. 56 1. 13 17. 11 0. 93 20. 46 1. 66 15. 89 3. 02 15. 44 3. 21 18. 85 2. 58 15. 67 3. 04 14. 67 4. 03 17. 85 2. 94 3. 05 ** 安定 な傾向 を示 し 、 ネ ガテ ィ ブな考え を話す こ と も あ っ た。 「 こ こ ろ の整理箱」 に おい て も ネ ガ テ ィ ブ な考 え や 思い を記述す る こ と が多 く 、 塗り つぶ し たり 炎 を描い て も や し たり と い う 表現が見 ら れた。 最後の 2 回は 「何 も 出な く な っ た」 と 記述 し た。 第 1 因子得点は小 さ な上昇 がみら れたが、 第 2 因子得点は下降 し た。 男児 E は、 最初から 最後ま で具体的 な記述 を し なか っ た。 た だ し 、 最後の感想 には 「悩 み事 がなぜ出 て こ ない んだ ろ う 。 こ こ ろ と か ら だがつ なが っ てい るのは不思議 だ。 で も 、 い やな こ と を思 う と か ら だが変 に な るので、 つ なが っ てい るのか も し れない。」 と 記述 し た。 日常 で はから だの感 じ の変化 に若干気づ く よ う にな っ たこ と が 伺え る。 女児 F は、 1 ・ 2 回日 の感想 に具体的 な気がかり を 記述 し、 感想 には 「少 し ら く ? にな っ たかも ? 」 と 記載 し た。 後半 は何 も 書かない日 が多 か っ たが、 最後の回 で は箱 に何か を書 き そ れを塗り つぶ し てい た。 その際には、 感想 に 「 も し か し た ら 、 ち よ つと だけ ス ツキ リ ? 」 と 記 述 し ていた。 前半で第 1 因子得点が上昇 し、 後半にかけ て維持 し てい た。 女児 G は、 前半ほと ん ど何 も 出 て こ ず、 「心の中が も や も や し た」 な どの感想がみ ら れた。 後半 の 3 回は箱に 自分 な り に絵のよ う な も の を描 き、 消 し ゴムで消 し たり 塗り つぶ し たり し ていた。 「消 し た ら す っ き り し た」 「 モ ヤモ ヤがあ り 何かわか ら なか っ た。 で も 、 今 ま で の中で 一番す っ き り」 な ど整理箱の効果 と 思われる よ う な感想 がみら れた。 女児 H は、 前半 あ ま り 意味がわか ら な か っ た ら し く 、 気がかり が出 て き て も どう し た ら いい のか困 っ たよ う な 様 子 で あ っ た。 後半 、 ボデ イ ワ ー ク が始 ま り 、 「 ボ デ イ ワ ー ク を や っ た と き は少 し ス ツキ リ し た。 し んけ んにや る と と っ て も 気持 ち よ か っ た。」 と い う 感想 を書 い た。 最後の回 には 3 個の箱 に気がかり と か ら だの感 じ が書か れて お り 、 ふ た を し た り 塗 り つ ぶ し た り し て い た。 「 出 し て み る と ス ツキ リ し た。 楽 し か っ た。」 と の感想 を 述 べた。 前半で第 1 因子得点が上昇 し、 後半にかけ て維持 し てい た。 後半 ボデ イ ワ ー ク が始 ま る と 、 そ れに よ っ て かな り リ ラ ッ ク ス し た様子 も 見 ら れた。 第 1 因子におい て 1 回目は低群に属 し、 その後、 得点 が上が っ た児童の 「 こ こ ろの整理箱」 に関す る記述 ・ 発 言 を概観す る と 、 女児 D ・ 男児 E におい ては大 き な変 化 を見出せ なか っ た も のの、 筆者 と の面接 を通 じ て自分 自身 にふれる体験 を進め る こ と がで き た と 思われる。 女 児 F ・ G ・ H に関 し ては、 い ず れも 「 こ こ ろ の整理箱」 に気がかり や心配事 を書 く こ と を通 じ て、 そ れを自分 な り に処理 し たり 、 そ れら に目 を向け る よ う な態度 を示す よ う な変化 を見せたり し てい る。 低群には、 授業の進行 に つ れて自分自身 のか ら だの感 じ にふ れる と い う 感覚 を 理解 し てい つた児童が多 い こ と がわかる。 ② 第 1 因子高群 高群は元々か ら だの感 じ を日常か ら 感 じ取 っ てい るは ずの群であ る。 第 1 因子において高群は、 その後 2 回目、 3 回目と 有意に得点が下降 し た。 高群の児童の得点下降 の要因 につい て、 児童個別の変化 を検討す る こ と によ り 考察す る。 男児 I は、 実践の全体 を通 じ てほ と ん ど何 も 記述 し て い なか っ た。 但 し 、 1 度 だけ 、 意味のわか ら ない言葉 を 箱 い つぱい に書 い た こ と があ り 、 「 ち よ つ と だけ す っ き り し た感 じ」 と 感想 を記述 し た。 男児 I は、 ほと んど記 述 し てい ない こ と やその様子か ら 、 質問紙の意味 が十分 に把握 さ れてお ら ず、 本来は高群 に属 さ ない児 童で あ っ た可能性が高い。 女児 J は、 毎回気がかり を も と にから だの感 じ を表出 (「胸 のあ た り が痛い」 「 ス ツキ リ し た」 「 お な かがむずむ ずす る」 「 い ら い ら し て く る」 ) し た。 後半は書いた箱に ふた をす る、 塗り つぶす な どの表現行動 も見 ら れた。 同 じ よ う に、 男児 K も豊かな表現を続け た。 1 回目にち よつ と し た心配事 が出 て き た よ う で、 「胸 がむ し や く し やす る」 と か ら だの感 じ を描い た (炎の描写) 。 整理がで き た と き には 「真黒 にな っ て落 ち着い た」 な どの感想が書 か れて い た。 箱 にふ た を し た り 、 石 を のせ た り し て も 整 理がで き ない と き は 「気持 ち が悪い」 と い っ た記述がみ ら れた。 最終回では、 母親の病気 を心配す る気持 ち が記 述 さ れ、 「 か ら だの感 じ」 を書 く 部分 に塗 り つぶ さ れた ● があ り 「黒 い晴 れ」 と 表現 し てい た。 ま た、 裏 には 「嵐」 の落書 き も あ っ た。 女児 J、 男児 K は、 高群の中にあ っ て現状 を維持 し た 児童で あ る。 こ れら の児童は 「 こ こ ろの整理箱」 に気が かり やいやな こ と 、 心配 ご と を書い た り 、 自分 な り に そ れを処理 し た り し てお り 、 か ら だの感 じ に対 し て敏感 に 反応 し た よ う に思われる。 こ れら 2 名に関 し ては天井効 果に よ り 、 1 回日以上には得点が上がり に く かっ たので

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はないかと 考え ら れる。 一方 、 男児 L は、 何 も 出 て こ な い日 も あ る が、 出 て く る日 には前向 き に受け入 れやすいこ と 、 例えば 「実習 が楽 し みだ」 と い っ た内容 を記述 し た。 日常 の男児 L の行動か ら す る と 、 過剰適応の可能性 を否定で き ず、 心 配 ご と 、 気がかり な どネ ガテ ィ ブ と 思 われる表現内容へ の抵抗 の可能性が考え ら れる。 意識的 か どう かに関 わら ず、 表出内容 を本人が限定 し て い る と す れば、 男児 L への今後の関わり には配慮 が必要で あ る と 考え ら れた。 第 1 因子において 1 回目に高群に属 し た児童には、 質 問紙の意味 の把握 に課題がみ ら れてい た り 過剰適応 の傾 向 がみ ら れてい た り す る児童が含 ま れてい る。 高群 には 天井効果に よ っ て得点上昇 がみ ら れない児 童 も含 ま れて お り 、 得点 が下降す る傾向がみら れた と 考え ら れる。 3 . 研究 II ( フ オー カ シ ン グを応用 し た教育実践の有効 性) の考察 ( 1 ) 実践群 と 続制群の比較について 統制群においては第 1 因子、 第 2 因子、 合計すべての 得点 が有意 に下が っ たが、 実践群 には統計的 に有意な変 化が見 ら れる範囲にはない。 実践群 と 統制群の比較 を行 っ た結果では、 小学生用 「 から だの感 じ」 尺度の第 1 因子 におい て交互作用 に有意傾向があり 、 合計 におい て交互 作用が 5 %水準で有意であっ た。 しかし、 交互作用に有 意傾向 がみ ら れた と し て も 、 実践群 の得点はか ろ う じ て 現状 を維持 し たが有意 に上昇 し てい ない こ と 、 さ ら に統 制群の得点が有意に下が っ た理由がは っ き り し ない こ と を考え る と 、 「 こ こ ろの整理箱」 「 こ こ ろの天気」 に顕著 な実践効果がみら れた と い う こ と は難 し い で あ ろ う 。 第 2 因子に関 し ては、 変化 を認める こ と がで き なかっ た。 こ の結果は、 本実習 におい て全体 と し ては、 具体的 なから だの変化 に着目す る と い う こ と ま ではで き たが、 内面 の感 じ にふ れる と い う 段階に ま ではま だふ れら れて い ない と い う こ と を示唆 「す る も のであ る と 考え る。 以 下に述べ る 「高群」 の児童の第 2 因子得点が低下 し てい る こ と を勘案 し て も 、 本実習 によ る効果 と し ては、 から だの具体的 な変化 にま では着目 で き るが、 ま だそ れら を 内的 な変化 と し て受け と め る には至 ら な か っ た と 考え ら れ る。 当 初児 童 は 、 プ ロ グ ラ ムの期 待 さ れ る 効 果 で あ る 、 『日常的 に 「 から だの感 じ」 に注意 を向け、 受け入 れる と い う 状態』 には至 っ てい なか っ た。 実践群、 統制群両 群 の子 ど も た ち は、 調査 によ っ て日常 あ ま り 意識す る こ と のない 「 か ら だの感 じ」 に注意 を向け る こ と を求 め ら れた。 実践群 ではその後 「 か ら だの感 じ」 に注意 を向け 続け る機会 を得 た こ と に な る が、 実践群 の児童はそ れに よ っ て、 得点 が低下す る こ と な く 維持 に つ なが っ たのだ と 考え ら れる。 一方、 統制群の子 ど も たち にはその機会 はな く 、 同 じ質問に対 し て意識的 に特別視す る こ と も な かっ たため、 2 回目、 3 回目と得点が変動す るこ と にな っ た と い う 可能性があ る。 た だ、 こ のこ と は本研究の実験 計画や実践内容な どの不十分 さ に起因 し てい る可能性が 大 き く 、 今後の追試や条件整備 を整え た形での実践、 検 証が必要で あ る。 本研究におい ては、 実践群の得点維持がこ の後実践 を 続け た場合 どのよ う に変化 し てい く のか、 ま た、 統制群 の得点 が下降 し た こ と が、 子 ども の 「 か ら だの感 じ」 へ の注意 と 受容は何の関与 も な さ れなけ れば下が る傾向 を 示す と い う こ と を表 し てい るのか、 あ るいは、 統制群 が 特殊 な条件 を も っ てい たこ と が原因 で あ るのかは不明 で あ る。 追試 を繰 り 返 し 、 子 ど も の様子や置か れた環境 を よ り 精査す る こ と が必要で あ る と 思われる。 ま た、 どの よ う な関わり に よ っ て 「 か ら だの感 じ」 への注意 と 受容 を日常化す る こ と がで き るのか も検討す る必要があ る と 思 わ れ る。 本研究におい ては、 実践群 を依頼 し た学校が単学級で あ っ たため、 統制群 を他の学校 に依頼す る こ と に な っ た。 で き る だけ校区 の環境や学校の規模、 学級数、 子 ども の 特質等、 総合的 に近い集団であ る と 思われる学校 を選出 し たつ も り ではあ るが、 両者の集団 に少 な か ら ず違いが あ っ た こ と は十分 に考え ら れる。 同 じ学校の 2 つの ク ラ ス を実践群、 統制群 と し て行 っ た実践に比べ る と 、 今回 の実践は同 じ条件下で実施で き なか っ た と 言 わ ざる を得 ない。 今後の実践研究において考慮すべき課題であ る と 考え る。 ま た、 小学生に対 し て質問紙に よ る測定 に よ っ て実践 の効果検証 を行 う こ と に限界があ るのではないか と も考 え ら れる。 小学校の最高学年 と いえ ども個人差を考え る と 、 今回の質問紙の意味 を どれだけ の児童が正確に理解 し て答え る こ と がで き たかと い う こ と には疑間 を持 た ざ る を得 ない。 児童が質問紙 を正確に理解 し て自分 を振 り 返り 答え ら れなか っ た場合、 その効果 を数字で判断す る こ と は難 し い。 質問紙作成の際、 可能 な限り 平易 で分か り やすい表現にす る こ と を心がけ たが、 さ ら に改良す る 必要があ る と 思われる。 必要に応 じ て半構造化面接や自由記述、 教師の行動観 察な どを併用す る こ と によ っ て、 多角的 に実践 を評価す る こ と が求め ら れる。 本研究では、 個別の事例 を検証す る こ と によ り 、 数字以外 に表 れた効果の検証の記述 を試 みる こ と と し た。 ( 2 ) 3 群分けによ る考察 個別の事例 を検討す る こ と に よ り 、 低群 ・ 高群 と も に 実践 を通 じ て 「 か ら だの感 じ」 に気づ く よ う に な り 、 そ れを日常化へ と 広げ る こ と がで き てい る子 ども の存在、 ま た、 高群 で あ っ て も そ れが本当 に定着 し てい る のかが 疑わ し い子 ど も の存在 を見出す こ と がで き た。 こ れに よ り 、 今後の子 ど も への 「 から だの感 じ」 への気づ き に関

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す る取 り 組みへの課題が整理 さ れた。 ① 第 1 因子の検討 第 1 因子 (「 から だの感 じ」 への気づ き) は、 自分の か ら だの感 じ に つい て気づ い た り わか っ た り す る と い う 内容 を持 つ。 第 1 因子では 3 群の間で実践の前後におい て有意 な交互作用 がみ ら れたので単純主効果 を行 っ た と こ ろ、 高群の得点が実施前よ り 実施中、 実施後にかけ て 有意に低下 し てい た。 ま た、 低群の得点が実施前よ り 実 施中にかけ て有意に上昇 し てい た。 低群の得点が実践 を経て上昇 し たこ と は 「 こ こ ろの整 理箱」 「 こ こ ろの天気」 を行 う こ と で今 ま で日常では気 付 かなか っ た 「 か ら だの感 じ」 に触 れ、 そ れが日常的 に 「 か ら だの感 じ」 に触 れる よ う に な り 、 そ の状態は プロ グラ ムが終了 す る ま で維持 さ れた こ と を表 し てい る。 ま た、 低群の子 ど も た ち の 「 こ こ ろの整理箱」 の記述 を検 討 し た と こ ろ、 低群の中で第 1 因子の得点が上がっ てい る子 ど も た ちは 「 こ こ ろの整理箱」 の中で、 最初はよ く わか ら ない様子 で あ っ たが、 徐 々に何 ら かのか ら だの感 じ を捉 え、 記述す る よ う に な っ てい る。 「 こ こ ろ の整理 箱」 を実施す る段階では 「全 く 何 も 出 て こ なか っ た」 児 童が、 「 普段、 か ら だの違和感 を感 じ る こ と があ る」 と 記述す る よ う に な っ た児童 も 見 ら れた。 低群 では、 実践 前は 「 から だの感 じ」 には無頓着 で あ っ た子 ども たち も 、 「 こ こ ろの整理箱」 「 こ こ ろの天気」 を実践 し てい く こ と で 、 「 か ら だの感 じ」 に気づ く よ う に な っ た と 思 われる。 一方、 高群の得点が有意に降下 し た背因 には、 先述 し たよ う に、 本実習 に よ る効果 と し て、 か ら だの具体的 な 変化 にま では着目で き るが、 ま だそ れら を内的 な変化 と し て受け と め る には至 っ てい ない こ と の現 れで あ る と 考 え る こ と が で き る。 高群 の中 には 「 こ こ ろ の整理箱」 「 こ こ ろの天気」 の実習 を通 し て自分自身 を表現 し ない 複数の児童がみら れた。 本当 の 「から だの感 じ」 への気 づ き の大切 さ を理解 し、 そ こ ま で自分の 「から だの感 じ」 の本質的 な気づ き に至 っ てい ないのでは ないか と 思われ る児童が含 ま れてい る可能性が示唆 さ れた と いえ よ う 。 高群の中で第 1 因子の得点 が下が っ た児童は、 「 こ こ ろ の整理箱」 では最初か ら最後ま でほと ん ど何 も 出 て こ な か っ た と い う 傾向 がみ ら れた。 本研究 で考え る 「 か ら だ の感 じ」 の意味 を再度伝え る ための工夫が必要で あ る。 ま た、 あ る児童 にお い ては 「楽 し みな こ と」 を繰 り 返 し 記述す る も のの、 日常の行動 か ら 過剰適応の可能性 を 否定 で き ず、 心配 ご と 、 気がかり な ど悪 い こ と にふ れる こ と への抵抗が示 さ れた可能性が考え ら れた。 一方、 高 群 で あ っ て得点 を最後ま で維持 し た児童では、 最初か ら 一貫 し てか ら だの感 じ に つい ての記述があ り 、 そ れを自 分 な り に処理 し よ う と す る試みを行 う 傾向 を示 し た。 単 に統計結果のみ を も と に検討す るのでは な く 、 児 童個々 の変化や傾向 を把握す る こ と に よ り 、 本研究の効果 を多 角的 に検討 で き た と 思われる。 ② 第 2 因子の検討 第 2 因子 (『不確定な 「から だの感 じ」 と のやり と り」』 因 子 ) は、 「自分は今、 ど んな 風 に感 じ て い る のか な」 と 自分に聞い てみたり 、 は っ き り し ない 「 から だの感 じ」 に注意 を向け たり す る と い っ た内容 を持 つ。 本研究で実 施 し た 「 こ こ ろの整理箱」 「 こ こ ろの天気」 では、 自分 の心 に問いかけ たり 、 気持 に注意 を向け たり す る内容で あ り 、 こ の第 2 因子の内容に直接触 れる も ので あ っ たに も かかわ ら ず、 第 2 因子におい ては、 高群、 中群、 低群 すべ て におい て現状維持の結果で あ り 実践の効果 を子 ど も た ち の日常 に認 め る こ と はで き なか っ た。 福盛 ・ 森川 (2003) は、 FMS 第 1 因子 「体験過程に 注意 を向け る態度」 と GHQ と の間には有意な相関がみ ら れな か っ た こ と か ら 、 「自分 の内面 を よ く 感 じ て い く 過程では、 なかなか感 じ がは っ き り し ない と き も あ れば、 受け入 れがたい感情に出会う 時 も あ り 、 そ う い う と き に で も受容で き るので なけ れば、 内省は苦痛に な る」 と 考 察 し てい る。 も と も と 「 か ら だの感 じ」 に注意 を向け る 習慣がない子 ども た ちが本研究で行われた日常 におけ る か ら だへの内省 を進め る こ と がなか っ た と い う 本研究の 結果は、 福盛 ・ 森川の指摘 を裏付け る も の と な っ た。 「 こ こ ろ の整理箱」 「 こ こ ろ の天気」 を実施す る際に は自分自身 の課題 を整理 し た り 、 気持 が楽 に な る と い っ た体験 を し たり し た と し て も 、 児童は日常的 にこ のよ う な体験が持 続 さ れる わけ では ない。 日常、 常 に 「 か ら だ の感 じ」 に注意 を向け る生活は苦痛 を伴 う 側面 も あ る と 思われ現実的 で はない と い う 側面 も あ る。 意識 し た時 に 自分 のか ら だに ア プロ ーチ で き る こ と を学べばよ い と 考 え る こ と も で き 、 今後の児童への伝え方に配慮す る こ と が必要で あ る と 考え る。 終 わ り に 本研 究は、 こ れま で の小 学校 におけ る フ オー カ シ ン グ を活用す る教育実践の取組の有効性 を統計的 に検証す る こ と を試み るパイ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ で あ っ た。 実際に取 り 組 んで み る と 、 小学生 に曖昧 なか ら だの感 じ に関す る 質問紙調査 を実施す る困難さ や、 因子分析結果の確実性、 その妥当性を検証す る方法、 統制群 ・ 実践群双方の得点 の下降 な どへの解釈 な ど、 今後 に多 く の課題 を残す研究 結果 と な っ た。 但 し 、 当初の目的 で あ る 「小学校 におけ る単 な る実践報告ではな く 、 実証研究への取組」 に関す る試みと し ては今後へのな んら かの示唆 を残す研究にな っ た と 考え る。 今後 も 、 課題の整理 と 検証 を継続 し たい と 考え る。

文献

福盛英明 ・ 森川友子 2003 青年期におけ る 「 フ オーカ

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シ ン ク的態度」 と 精神的健康度 と の関連 「体験過程 尊 重尺度」 (The Focusing M anner Scale; FMS) 作成

の試み 心理臨床学研究 20, No6, 580-587 伊藤義美 2002 フ オー カ シ ン グの実践 と研究 ナ カ ニ シヤ出版 桑野浩明 2002 フ オー カ シン グ効果に関す る一研究~ 「 か ら だの感 じ」 尺度の作成 と そ の検討 人間性心理

学研究 No20, 1, 19-29

松本剛 2013 児童期~ 青年前期におけ る発達課題と 生 徒指導 兵庫県教育委員会 『兵庫教育』 No 748, 4-7 村山正治 1984 フ オー カ シ ン グの教育への展開 小学 校 で の実践 を中心 に一 フ オー カ シ ン グ ・ フ ォ ー ラ ム

1 (2), 1-4

妹尾光男 1997 箱イ メ ージ書き込み法一 フ オー カ シ ン グに よ る開発的教育相談の試み, (池見陽編, フ オー カ シ ン グへの誘い一 個人的成長 と 臨床 に生かす 「心の

実感」, 30-43)

嶋田洋徳 ・ 戸 ケ崎泰子 ・ 坂野雄二 1994 小学校用ス ト レ ス反応尺度の開発 健康心理学研究 7, 2, 46-58 土江正司 2003 フ オー カ シン グー 「感 じ」 の表現 と こ こ ろの天気一 児童心理 No56, 6, 159-171 上菌俊和 2004 長期的 フ オー カ シング体験が日常に及 ぼす効果についての一考察 時間的展望の視点から 人間性心理学研究 No22, 1, 23-32

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