微小環境におけるNrf2活性化はNrf2活性化悪性がん
の進展を抑制する
著者
林 真貴子
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19127号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129222
(書式18)課程博士 1
学
位
論
文
要
約
博士論文題目 微小環境におけるNrf2 活性化は Nrf2 活性化悪性がんの進展を抑制する 東北大学大学院医学系研究科 医科学専攻 生体機能学講座 医化学分野 学籍番号 B6MD5101 氏名 林真貴子 Nrf2 は酸化ストレスおよび求電子性物質による刺激から細胞保護遺伝子の発現を誘導することによって細 胞を保護する転写因子である。Nrf2 は、刺激誘導時にのみ活性化するよう抑制因子 Keap1 によって厳密に制 御されており、ゆえにKeap1 遺伝子が機能欠失を引き起こす体細胞変異は、恒常的に強力な Nrf2 活性化を引 き起こす。この体細胞変異パターンは、特に肺腺がんに多く確認されており、がん細胞にとって増殖や抗がん 治療への耐性獲得などに有利に働く。そのため、がん細胞のNrf2 を阻害する薬剤が、Nrf2 活性化がんに対す る治療薬として開発が目指されている。その一方で、Nrf2 が本来担う生体防御/異物排除機能の観点から、本 研究ではがんを取り巻く周辺の微小環境でのNrf2 の活性化に着目した。そこで、がん微小環境における Nrf2 の活性化が特にNrf2 活性化を伴うがんの進展を抑制するか検証を試みた。検証方法として、2 種類の Keap1-flox マウスであるKeap1FBマウスおよびKeap1FAマウスを用いた。これらのKeap1-flox マウスには非常にユニークな特徴がある。まず、Keap1FB マウスは Cre 酵素誘導性の組み換え前は野生型マウスと同程度の Keap1 の発現
程度を示し、Nrf2 は活性化しないように抑えられているが、組み換えが起こると Keap1 の欠失によって Nrf2 が強力に活性化する。続いて、Keap1FAマウスではCre 酵素誘導性の組み換え前から既に全身で Keap1 遺伝子
がノックダウン状態となっているため、Nrf2 の活性化が起こっている。Cre 組み換え酵素の発現によって
Keap1FAマウスのKeap1 遺伝子もノックアウト状態となり、Nrf2 は強力に活性化する。これらの特徴を持つ 2
種類のKeap1-flox マウスと、肺腺がんマウスモデルを組み合わせた。この肺がんモデルは、Cre 組み換えによ
って活性化型Kras を発現し がんとなる KrasG12Dマウスの肺に、恒常的Cre 組み換え酵素発現アデノウィル
スを投与することで肺腺がんを誘導するモデルである。これらのモデルを組み合わせることで、Keap1 欠失に よるNrf2 活性化がんが、野生型と同程度の Nrf2 活性状態、あるいは Keap1 ノックダウンによる Nrf2 活性化(本 論文ではNrf2-charged と記載)状態の がん微小環境中に存在する状況を作り出した。その結果、本研究で Nrf2 活性化肺がんマウスモデルの作成に成功し、さらにその生存が、Nrf2-charged がん微小環境によって延長する ことを見出した。また、Nrf2-charged がん微小環境で形成された Nrf2 活性化肺がんの腫瘍サイズは、野生型が ん微小環境にて成立した腫瘍よりも縮小しており、特に前-浸潤性の腫瘍形成が抑制されていた。Nrf2 活性化 がんを形成した肺においては、がんの進展に伴う炎症細胞の浸潤が促進していた。この炎症細胞の浸潤に注目 し、組織免疫染色実験によって微小環境中の免疫細胞における Nrf2 活性化を調べたところ、マクロファージ
(書式18)課程博士 2 において Nrf2 の活性化が起こっていることを認めた。ここから、がん宿主体内のがん微小環境を構成する多 様な細胞の中でも、特に免疫細胞が がんの進展抑制に関与する仮説を立てた。そこで、Keap1FA マウスの Nrf2-charged がん微小環境のうち、血液細胞の Nrf2 のみについて Nrf2 全身欠損マウスの骨髄を移植すること によって欠失させた。その結果、Nrf2 活性化がんの進展は抑えられなくなり、対照群の Keap1FAマウス骨髄を 移植したマウスと比較して肺には大きな腫瘍が形成された。これらの結果より、がん微小環境における Nrf2 活性化は、Nrf2 活性化がんの進展を抑制し、さらに微小環境の中でも、免疫細胞を含む血液細胞での Nrf2 活 性化が がん抑制において重要であることを明らかにした。