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慶鹿義塾大学医学部の共同動物失政施設
下
田
耕
治
慶磨義塾大学医学部
は じめ に
慶磨義塾大学医学部は東京の山手線 の内側 に位
置 して います が、かえって地価が高 く敷地 を広 げ
る ことができず、 また、周 りが住宅地 であるため
建物 の高層化がで きません。都 内の一等地 という
立地 条件 を維持 しつつ教育 ・研究環境 を向上 させ
るた め に、私 どもは 「スク ラップ andビル ド」
とい う標 語の もとに、古 くなった建物 を取 り壊 し
空 いたスペー スに新 しいビル を建て る という方針
を執 ってお ります。昨年完成 した総合医科学研究
棟 も古 い木造 の建物 と運動場を取 り壊 した跡地 に
建て られ ました。
総合医科学研究棟 (図 1)は延べ床面積24,400
m-で 、その うち約7,OO
O
m2はコア部門 として既存
の教室 (解剖学 、医化学、生理学、薬理学 、分子
生物学、先端 医科学 .法医学な ど)が入居 し、約
6,000mtは リサー チパー クとして利用 され ます。
リサ ーチパー クは100-200m'の研 究 スペー ス を
一定期間 (3年 または 5年)個 々の研究 グルー
プに提供 します.研 究 グルー プは医学部専任教
員を一人以上含 め ば 自由に組織 す ることが可能
で、他の大学や研 究機 関、企業の研 究者が参加
できます。評価委員会が提 出された研 究 プロジ
ェク トを審査 し、 リサーチパー クの理念 に適 っ
た内容の研究である と判断 され た場合、研究 ス
ペースが提供 され ます。各研 究 プロジェク トは
政府か らの補助金や製薬企業 の委託研究費な ど
資金が確約 されて いる ものです。 リサーチパー
クは文部省学術 フ ロンテ ィア事業の理念 に基づ
き、医学部や病 院 に蓄積 された病気や ヒ トに関
する貴重なデー タ を最大限 に活用 し、既存 の枠
に囚われない有意義 な研 究 を行 い、その成果 を
社会に還元 して い <ために設立 され ま した。同
時に停滞 しが ちな研 究組織 を活性化 し、不足 し
がちな研究資金 を広 く社会か ら導入 しよ うとい
うものです。研 究 スペー スを使用す るにあた り
利用料金 を徴収 しますが,金額 は医学部に隣接
図1 総合医科学研究棟の完成予想図
<設備 > 鉄 骨 ・鉄 筋 コ ノク リー ト追。地 下2 <施設 > 共同利 用 実験 室 、 リサ ー チパ ー ク
階 、地119階 、塔 屋 1階 、述 べ床 面 (57ユニ ソ ト),RI実 験 セ ンター 、ハ
械 241
O
Om
J ィ テ ク リサ ー チ セ ン タ ー 、 共 同 動 物
実験 施 設
3
L
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図2 共 同動物実験施設 リ †リア区域 (地下1階) の レイ アウ ト
す るオ フ ィス ビル の賃 貸料 を参 考 にそ の半額程度
に抑 えて あ ります 。た だ し、資 金 に余裕 の あ る民
間企 業が グル ー プ に入 る場 合 は研 究 費総額 に応 じ
た賛 助 金 を別 に徴 収す るな ど、弾 力的 に運用 され
ます 。 リサ ー チパ ー クか らの収 入 で 総合 医科学研
究 棟 を運 営 し,医学 部 ・病 院 にか か る新 たな負担
を最 小 に しよ う と 目論 んで お ります 。
共 同動 物 実境 施 設
新 しい共 同動物 実験施 設 は総 合 医科 学研究 セ ン
ター 内 に設 け られ 、地 下
1
階 にバ リア区域 (図
2
)
、
地 下2階 に ク リー ン区域 、地 上4階 に動物手術室
が新 設 され ます 。 これ に既 存 の イ ヌ舎 を加 えて 、
総 面積 は約
2
,
2
0
0
mZにな ります 。 この面積 は他 の
私 立 大学 と比 べ て広 い方 で は あ りませ ん し、国公
立 大 学 に比べ る と半分 以下 の広 さで あ ります 。 こ
れ だ けで は動 物 実 験 の スペー ス と して十分 で はあ
りませ ん が 、 当 医学 部 で は
「
c
e
nt
r
al
i
z
at
i
o
n
と
d
e
c
e
nt
r
al
i
z
at
i
o
n
」
を組 み合 わ せ た柔 軟 な システ
ム を採 用 し、 医学 部全体 の動物 実 験 を管 理 してお
ります。 中央 施 設 で あ る共 同動 物 実験 施 設だ けで
学 部 内のす べ て の要求 を満 たす こ とは事実上不可
能 で あ り、か つ非効 率で あ るた め 、個 々の研 究室
が独 自に動物 実 験 室や飼 育 室 を設 けて も差 し支 え
な い とい う ものです 。料金 シス テ ム も各研 究室が
独 自 に飼 育 す る 場 合 と共 同動 物 実 験 施 設 を利 用
す る場合 とで 不公 平 が生 じな いよ うに、受益 者
負担 のル ー ル を厳 密 に適 用 します 。飼 育 器 材 や
消耗 品の み な らず 、飼 育委 託 費や飼 育設備 の減
価償却 費 を含 めた維 持管 理 費 を計算 し、 これ を
基 に利用 料 金 を算 出 します 。 現 在予定 して い る
S
P
F
動物 の飼 育料 金 は 、マ ウス は
1
ケー ジ、 ラ
ッ トは1匹 あた り、120円/1日です 。
共 同動 物 実 験 施設 の レイ ア ウ トを作成 す る と
き一番頭 を悩 ませ た ことは 、利用者 に利 用 しや
す く感 染 の拡 大 を如何 に防 ぐか とい う問題 で す 。
従来
S
P
F
動物 飼 育 区域 は実 験 者 、飼 育者 お よび
飼 育器材 はす べ て一方 向 に移 動 し、清浄 廊 下 側
か ら動物 室 を通 って汚 染廊 下 側 へ抜 ける とい う
動線が一般 的 で した。私 た ち も初 め は一方 向 の
飼 育 システ ム を執 ろ うと考 えてお りま したが 、
実験動物 中央研 究所 な どの ア ドバイ ス によ り、
使用 目的 に応 じた複 数 の 区域 に分割 し、そ れ ぞ
れ を独 立 に管 理 す る方 が感 染 の拡 大 防止 に都 合
が良 い とい う結 論 に達 しま した。 さ らに、バ イ
オバ ブル (図 3)とい う新 しい飼 育 シス テ ム を
採 り入れ る こ とで 、大 きな 動物飼 育室 を細 分 化
し、それ ぞれ を独 立 したバ リア空 間 とす る こ と
によ り、多様 なニー ズが混 在 す る医学 部 の動物
実験 に対 応 して い こうと考 えて お ります 。また 、
通常 の動物 施 設 で はオー ル フ レッシュの換 気 方
式が一般 的 で あ ります が 、 当施 設で はエ ネル ギ
3
9
図3 バイオバブル
- 節約 のため に 70-80%の空気 を再循環す る こ
とがで き、脱臭および加湿 が可能な露点浴方式の
空調 システムを採用 しま した。
共 同動物実験施設のバ リア区域 は図
2
のよ うな
レイ アウ トにな ってお ります。バ リア区域での飼
育動物 は ラッ トとマウスです。バ リア l以外は陽
圧で 、漉過 された空気が供給 され ます。左上のバ
リア 1はいわ ゆる感染性微 生物 を用 いた動物実験
も可能なエ リアで、陰圧 、密閉空間でエアー ロッ
ク式 の扉 を使用 してお ります。飼育器材は搬入 ・
搬 出 ともに両扉のオー トク レー ブを通 して滅菌 さ
れ 、微 生物 の外部への拡散 を阻止 します。 この区
域 だけは床敷交換 と給 水は実験者が行 います。 こ
れ は感染性微 生物 を使 用 して いるために、そ の微
生物 の特徴 を熟知 して いる研究者 自身が直接動物
に触 る方が、私たち動物飼育者が触 るよ りも安全
で ある と思われ るか らです。バ リア
2
は遺伝子操
作動物 を飼 育実験する区域 です。 ノックアウ トマ
ウスや トランスジェニックマウスの飼育増 に対応
す るため設 け られた区域で、収容 ケー ジ数 を増や
す ため前後
2
段 にマウスケー ジを置 くことができ
る奥行 きの深 い構造の飼育 ラックを使用 します。
バ リア
3
は従来型の
S
P
F
動物飼 育実験 区域です。
ここで も奥行 きの深い構造の飼育 ラックを使用 し
ます。バ リア 4は 3つ の大 きな部屋 か ら成 ってお
ります.部屋のなかには 大小のバイオバ ブル (図
3)が置 かれ 、そ の中には普通 の飼 育棚 が置かれ
ます。バイオバブルは大 きな ビニール アイソ レー
ター の一種 と考 えることができます。 ビロと呼ば
れ る天井部分 にプロアーか らヘパ フィルター を通
った空気が供給 され、 ピロの下面 に開いた多数の
小 さな穴か ら空気がバ ブル の中に噴 出 し、床面の
隙間 を通 って外部 に流れ出ます。浮遊する塵攻は
他 のケー ジに入 る前 に気流 によって床や外部 に吹
き飛 ば され る ということです。 また、フロアーを
逆 向 きに接続すれば陰圧バ ブル として も使用可能
で、感染 した動物 を封 じ込める ことがで きます。
様 々な大 きさのバ ブル を作 ることが可能で、研
究規模 に応 じた大 きさのバ ブル を選択すること
が で き ま す 。 こ の バ イ オ バ ブ ル は 米 国 の
bi
o
Bu
b
bl
e
,I
n
c
.
が 開発 した もので 、わが国で
は慶磨義塾大学 医学部 に初めて導入 され ます。
地下
2
階 にはク リー ン動物飼育室が設け られ
ます。特 に、バ リア区域 としての構造 を してお
りませんが、ク リー ン動物 区域 と して ウサギ、
ネコ、モルモ ッ トや 、動物施設か ら搬 出再搬入
を予定 して いるマ ウス ・ラッ トの飼 育場所 とし
て利用 します。そ の他 、地下l階のバ リア区域
外 にアイ ソレー ター室 を設 け、動物 の検疫や汚
染動物のク リー ン化 を独 自に行お うと考 えてお
ります。地上4階 に設 け られ る動物 手術室はイ
ヌや ブタな ど比較的大 きな動物 の手術 のために
使われ、通常の手術室 のはか
X
線 シール ド
)
L-ム、電磁
ソー
ル ドルー ムおよび回復 室が設置 さ
れ ます。予算 の都合で まだ最低 限の備 品 しか備
わ ってお りませ んが 、 スペース を確保 してお く
ことで将来の発展 に対応 して行 けるもの と考 え
てお ります。
東京都心 に位置 し、スペースおよび予算が と
もに限 られ るとい う悪条件の もとで 、いかに効
率の良い動物実験施設 を整備す るか ということ
は大 きな問題で あ ります。 これ を解 決す るには
今 回の慶磨義塾大学 医学部 の新 しい共 同動物実
験施設はまだ まだ不十分であると言わ ざるを得
ませ ん。今回採用 したバイオバ ブル も当初は ど
のよ うな ものか想像 で きず、導入 に疑 問が出さ
れ ま したが、実物 を見学する ことによ りその有
用性が確認 され ま した。 このシステムは構造的
には単純です が、新 しい発想 の機能的な実験動
物飼 育 システムで あ り、将来 は多 くの施設で採
用 され るであろうと思われ ます。