新潟県内の山村・漁村の助産介助の歴史的比較検討
: 上越地方の大正・昭和初期生まれの開業助産婦の
聞き取り調査
著者
加城 貴美子, 高橋 初美, 小林 美代子, 和田
佳子, 笹野 京子, 阿部 正子, 高塚 麻由, 西方
真弓, 橋本 明浩
雑誌名
学長特別研究費研究報告書
巻
14
ページ
19-20
発行年
2003-06
その他のタイトル
Comparative Study of the History of Midwife
Assistance in the Mountain and Fishing Vilages
of Niigata Prefecture : A survey of Midwives
in Private Practice in the Joetsu Area Who
Were Boren during the Taisho and Early Showa
Eras
-19-新潟県立看護大学学長特別研究費 平成14年度 研究報告
新潟県内の山村・漁村の助産介助の歴史的比較検討
-上越地方の大正・昭和初期生まれの開業助産婦の聞き取り調査一
研究者(研究代表者) 加城貴美子1)
共同研究者 高橋初美2),小林美代子2),和田佳子1),笹野京子1),阿部正子1),
高塚麻由1),西方真弓1),橋本明浩3)
新潟県立看護大学(母性看護学)1)(看護基盤科学)3),新潟県立看護短期大学(助産学)2)
A Comparative
Study
of the History
of Midwife
Assistance
in the Mountain
and
Fishing
Vilages
of Niigata
Prefecture
' A survey of Midwives
in Private
Practice
in the Joetsu
Area Who Were Boren
during
the Taisho
and Early
Showa Eras
Kimiko
Kashiro
°,
Hatumi
Takahashi
2), Miyoko
Kobayashi
2\
Keiko
Wada °,
Kyouko Sasano °, Masako Abe u, Mayu Takatsuka
n, Mayumi Nishikata
1},
Akihiro
Hashimoto
°
l)Niigata
College
of Nursing,
2)Niigata
College
of Nursing,
キ-ワード.'助産師(midwife),歴史(history),面接(interviews)
目的
新潟県内の助産婦の母子保健活動の歴史を助産師学生の学習に還元するために,大正・昭和初期
に生まれた開業助産婦の戦後実施されてきた妊産褥婦への援助,保健指導,分娩介助,助産婦の地
域社会での役割・貢献内容を新潟県内の物理的特長から明らかにする.
本年度は,戦後の上越地方で実施されてきた助産婦活動について聞き取り調査を行ったのでここ
に報告する.
研究方法
1.対象:上越地方在住で大正・昭和初期生まれの助産師6名.
2.期間:2003年2月26日∼3月27日
3.内容:助産婦になった動機,開業時の概要,業務内容,指導内容,産育習俗など.
4.方法:半構成的質問紙による聞き取り調査.面接時にビデオ撮影,録音を行い,逐語録を作成
した.分娩介助に使用していた機器類を写真撮影して記録保存とした.
5.分析:面接内容から起こした逐語録およびフィールドノートより,助産婦のPhilosophy,助
産の技術,助産婦の私史,産育習俗との関わりについて項目ごとにまとめた.
6.倫理的配慮:調査にあたっては,事前に本調査の趣旨を口頭と文書にて説明し,研究に同意を
得た.説明時には,面接時の録音とビデオ撮影の同意も同時に得た.
結 果 ・考 察 1 . 対 象 の 概要 : 対 象 の年 齢 は, 7 8 歳 ∼ 8 4 歳 (平 均 8 0 .7 歳 ) の 6 名 で あ った. 産 婆教 育 を受 け た時 期 は, 昭和 6 年 ∼昭 和 2 2 年 で あ った. 開業 時 期 は , 昭和 12 年 ∼ 昭 和 2 9 年 で あ り, 開 業 時 の 年 齢 は , 2 1 歳 ∼ 2 9 歳 (平均 2 5 .0 歳 ) であ った. 開業 以 降 の助 産 職 の通 算 年 数 は , 5 0 ∼ 6 4 年 (平 均 5 6 .6 年 間) で あ った . 現 役 の助 産 師 は, 4 名 で あ っ た (T ab le 1 ) . 2 . 産 婦 との連 絡 方 法 ・交 通 手 段 : 分 娩 時, 家 人 か ら産 気 づ い た様 子 だ と迎 え が あ り, 家 人 と と も に, 徒 歩 や 自転 車 で 産婦 の も とへ 出 か け てい た . 降 雪 時 に は, ス キ ー, 藁 沓 , カ ンジ キ な ど に, 捉 灯 や懐 中 電灯 を持 ち な が ら, 1 里 ∼ 2 里 , の道 程 を 2 ∼ 3 時 間 歩 い て産 婦 の下 へ 出 かけ て い た . 通 信 や交 通 手 段 が ほ とん ど な く, 新 潟 県 上 越 地 方 の大 雪 の 中 で も, 地 域 に根 ざ し活 躍 して い る助 産 婦 の姿 が伺 え た. 終 戦 後 ま もな く, 優 先 的 に 自宅 に 電話 を入 れ , 分 娩 時 の連 絡 も電 話 とな った. そ の 頃 か ら, バ イ クを使 用 す る助 産 婦 もい た. 助 産婦 は, 通 信 手 段 の必 要 性 か ら, 地 域 で も優 先 的 に電 話 の導 入 が 図 られ てい た . 3 . 習 俗 との関 わ り : 妊 娠期 は, 胎 動 を感 じる よ う にな った妊 娠 5 ヶ月 の戊 の 日に着 帯 を行 った. 腹 帯 は, I安 産 に な る」 とい う縁 起 をか つ ぎ 7 尺 5 寸 3 分 の長 さ で あ った. 分 娩 時, 穣 れ る か らと, 自宅 の居 室 の畳 を取 り払 い, 藁 を敷 き分 娩 を させ よ う と した 家 や, 出産 後 は, 出血 や 産後 トイ レが 近 い の で, 藁 の 上 な らば垂 れ 流 しにで き るた め藁 を敷 い ただ け, あ るい は牛 を飼 って い た場 所 に藁 を敷 い て産 室 にす る家 もあ った. 胎 盤 は, 各 家 で 堆 肥 や庭 に埋 め るな どの始 末 してい た. 埋 め る方 向 は, 各 家 の 鬼 門 の方 向で あ った . ま た, よな と り (胎 衣) の お 婆 さん とい う, 胎 盤 を集 め る人 が い て, 分 娩 が あ った 家 を回 り, 胎 盤 を集 め る こ と を生業 と して い た人 もい た. 胎 盤 や産 湯 の扱 い は, 地 域 の習 俗 に従 い なが ら も, 助 産 婦 は , 出産 に伴 う衛 生 環 境 を変 化 させ てい く関 わ りを行 って い た と言 え る. 地 域 に無 資格 の取 り上 げ婆 さ んが い る地 域 もあ った. 産褥 期 は, 帯 あ け ま で は, 不 浄 だ か ら 自宅 の産 室 か らで な い よ うに し, 家 族 と は一 緒 に食 事 もで きな か った. 部 屋 を出 る時 に は, 草-20-Table1 属性 年 齢 助産婦暦 産婆学校 活動地域 訪問時の交通手段 他の資格 A 83 歳 58 年 昭和 18 年 上越 自転車 ・バイク 大雪の時藁 看護婦 ・保健婦 受胎調節実施指導員 児童保護司 B 78 歳 53 年 昭和 2 1 年 直江津 自転車 ・バイク スキー ・かん じき 看護婦 ・保健婦 受胎調節実施指導員 児童保護司 C 84 歳 53 年 昭和 6 年 直江津 徒歩 ・家人の迎え D 78 歳 57 年 昭和 14 年 新井 自転車 ・バイク 看護婦 E 78 歳 50 年 昭和 22 年 新井 自転車 ・バイク 保健婦 F 83 歳 58 年 新井 自転車 ・徒歩 家人の迎え 鞋 を履いて出 るように していた. 助産婦 は, 出産 に伴 う祝い, 帯あけ, 出産祝 い, お七夜 (出産後 7 日日), 命名式, 誕生祝 ( 1 歳の誕生 日) 等 に呼 ばれ ることもあ った. オ ムツは, 神様 ・仏様 ・太陽 に 『ばち』 が当た らない ように干す習慣 があ った. 4 . 地域 との連携 : 産婦人科 医 と日頃か ら連携 をと り, 異常時には, 約束 ・指示で使用す る薬 剤を 決めてお き, 緊急時 は連絡 し, 産婦 の 自宅へ来 ても らうこともあ った. 医師 か らの信頼 を得 られ る よう, 講習会や勉強会, 助産婦 の連絡会 など, 母子の命 を守 る体制作 りに普段 か ら心がけていた. その土地 (活動地域) で生 まれて仕事 をす るため, 家庭 の中の様子がわか り, 地域の人か らは何 で も相談 され, 可愛が られた. 助産婦 とい うよ り, 保健婦 として関わ ることも多 く, 兼務 していた時 期 もあ った. 助産婦は, 地域 の中で妊産褥婦 に関わ る助産業務 としての関わ りに加え, 保健指導 の 専門職 と しての役割 を担 い, 地域社会 に貢献 していた と言える. 5 . 戦後間 もない時代 の関わ り : 低所得の人か らは, 分娩費 が貰 えな く, 自分の子 どもの古着 をや る とい うこともあ った. また, 嫁 で小遣い を貰 ってないため妊婦検診 を受け られない妊婦 もお り, 利益抜 きで, その ような, 経済的 に苦 しい妊 婦達 の支 えに もな っていた. 分娩時 に使用 す る褥布団 などは, 藁 を燃や した灰や, ボ ロキ レ, 新 聞な どの身近 にあるもの を最大 限利用 し, 衛生材料 を補 よう援助 ・指導を行 っていた. 6 . 妊産婦へ の援助 と周囲への働 きかけ : 自宅 での作業や家事 な どの労働 を出産間際 まで行い, 栄 茸 も休息 も十分に取れず, 家族や姑 に気 を使 っていた嫁 に対 し, 助産婦は常 に妊産婦 の見方 と して 家族 にも保 健指導 を行 ってきた. 1 回の妊婦健診 に 30 分∼ 2 時 間を要 し, 妊娠 ・分娩 ・育児の指 導のほか に, 妊産婦 の相談 など も受 けた. 時 には, 姑 との コ ミュニケーシ ョンのと り方 を話 し, 姑 に嫁の代弁 を し, 妊産婦の話 を聞 き, 思いや りの心 を もって接 し精神 的な支 え とな ってい た. 妊娠 中毒症 や貧血 の対策 のための食事指導を行 った. 農村 の嫁 は, 魚の尻 尾や頭 しか与 え られず, お粥 と梅 干の低 蛋 白の食事が ほとん どのため, 栄養状態が悪 く, 家族, 特 に姑 への食事指導 を働 きかけ た. 分娩指導 と して, 赤 ちゃんの 『出よう』 とい う力によ り, 産婦 の 『産 もう』 という力が一緒 に な った ら, 『良いお産』がで きると説 明 し, 「お産 は痛 くな らな くては産 まれ ない」, 「それ を耐え る か ら育児 もできる」 と励 ま した. 助産婦 は, 産婦 と児が本来持 ってい る 『産む力 ・生 まれ る力』を 引 き出す ような. 関わ り方を していた と言える. 結論 平成 14 年度の助産師の聞き取 り調査について, 聞き取 りができた内容についてまとめた. 大 正 ・昭和生まれの上越地方の助産婦の活軌 妊産褥婦の生活 と受診状況が明らかになった.・現在聞 き取 り調査の途中で, 当初の目的である比較検討するまでの聞き取 り調査を終了していない. 今後 は聞き取 り調査 していない内容とさらに聞き取る助産師を多 くして助産学の教育に組み込むことが 出来るようにしてい く予定である.