大学志望動機に関する実証的研究 : 首都圏高校3年
生のライフスタイルと関連から
著者名(日)
斉藤 浩一
雑誌名
井上円了センター年報
号
4
ページ
214-192
発行年
1995-07-20
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002622/
大学志望動機に関する実証的研究
首都圏高校3年生のライフスタイルとの関連から斉藤浩一一w励
1.問題 本研究は、首都圏に住む高校3年生(受験生)の大学志望動機を明確 にし、高校における進路指導、生活指導および大学入学後のガイダンス、 学生相談、講義等で接する教官の学生理解に寄与し、さらに学生ニーズ に応える大学のあり方を模索する基礎資料を得ることを目的とする。 わが国の教育界では平成3年度の新学習指導要領が公表され「新しい 学力観一自己教育力」「児童・生徒一人ひとりの可能性を積極的に評価 し、豊かな自己実現に役立つようにすること」等が掲げられている(1)。 この改定の趣旨は高校までの一貫した教育システムの中で、子どもが主 体的に自身の意欲・意識を形成できず、偏差値による不安定な意識状態 等による病弊(例えばいじめ、登校拒否等)を少しでも改善していくこ とにあろう。 その問題の一例として、京都大学、筑波大学等ではかなりの新入生が 転学部、転学科を希望する②。これは、大学を志望する受験生が自分で やりたいことを持たず、偏差値に捕らわれて進学してしまうことが一因 と考えられる。この現象は不本意入学と呼ばれ、生徒が自身の能力・興 味・職業適性などを考えず、大学のブランドと偏差値だけで入学してし まうケースである。また、ここ2・3年のように大学入試の激戦期では 第一志望の大学に入れずすべり止めに入学するが、次年度にもっと難易 度の高い大学を目指す仮面浪人も流行していると言われる。松原が指摘 するように、毎年の大学中退者は全国で推定3万人にも昇る。現在、上の状況から受験生は、大学志望動機に自分自身の適性を見つ け、何を志向するか明確に持っていないように見える。さまざまな場面 での明確な目的意識や夢は、それ自体を達成させるためだけに存在する のではない。そこへ続く現在(いま)を充実させるためにも存在する。 「何を志向するか」明確な目的を持たない状況は、達成された大学生活 にも影を見せるが、大学を目指して勉強する高校や中学校の生活を充実 させる点でも不安を残す。 ここでの大学志望動機に関する意識は、彼らのトータルな教育環境の 産物と考えられ、人生の質そのものも左右しかねない。その意味で教育 の本質的問題と言えよう。現実的には、その実態を明確にすることが高 等学校の進路指導、生活指導の改善、大学教官の入学後のガイダンスや 講義等においての学生理解に意味を持つ。 現在日本の高校生は「現在志向的享楽タイプ」との結果が財団法人日 本青少年研究所から出ている(3)。それに対してある女子高校生がつぎの ように反論している。要約すると「受験生は現在をまったく楽しむ状況 になく、むしろその結果(現在志向の享楽)は願望を表しているのでは ないか。実際受験生である自分の毎日は受験勉強に追われ、ゆとりなど はまったくない。『よく遊び、よく学ぶ元気タイプ』『ボランティア活動 には積極的』とされるアメリカの高校生を日本の高校生に求めるのであ れば、まずこの受験戦争一点数や偏差値で自分の将来がきまってしまう 現状と自分のことだけで精一杯という毎日一から救ってください」と言 っている(4)。 前の青少年研究所の調査は、日本の高校生を学年、普通高校・職業高 校いわゆる進学校・非進学校を区分せずに、米・台湾の高校生と比較し ている。そこでは受験生と非受験生という区分はない。よって上のよう な反論が出たと推測される。現在の我が国の教育状況において、偏差値 の格差による進学校・受験生、非進学校・非受験生という区分を否定で
きうる者がいるだろうか。 学歴社会という言葉が出て久しい。大学の志望動機に関する調査は主 に、教育社会学や教育心理学の分野で行われてきた。麻生・潮木(1977) は日本社会における学歴の効用を示し、それを大学進学動機の中核とし て位置づけた(5)。浜田(1975)(6)や井上ら(1975)(7)さらに渕上(1984)(8)が、 大学志望動機について実証的研究を行っている。これらは1970年および 1980年代を代表する大学志望動機と捉えられる。大学志望動機は受験生 の意識であり、社会の変化によって影響を受ける。 現在の日本社会では、進学校か非進学校に高校進学するかによって人 生が決まるという点で、中学生がもっとも厳しい生活環境にあると言え よう。結果として進学した学校がさらに大学に進学できるか否かによっ て、受験勉強に専念する・か、放棄するかまったく異なる高校生活(ライ フスタイル)を持ちうる可能性がある。それが本研究で実証する第一の 仮説である。 また受験生活が孤独で余裕のない、自身にとって望ましくないもので あるなら、「受験戦争と偏差値、余裕のない生活から救って欲しい」とい う上の高校生の言葉に示されるように、大学志望動機の中に「その生活 から解放されたい」つまり大学生になることは楽しむことのない辛い受 験生活からの解放であり、偏差値から解き放される意味があるという第 2の仮説が提示できる。 さらに、その受験生活が孤独であるなら社会性を持つ(恋人・友達を つくる、サークル等の集団に帰属する)、社会生活を送る技術(対人関係) を身に付ける等を大学生活に望むという動機が見られよう。これが第3 の仮説である。 2.方法
2−1 調査対象
被験校4校はA県に立地し、都心より40km圏内、それぞれ半径10kmに 隣接している。A校は私立大学附属高校であり、大学進学率が70%を越 し、国立大学に若干名、ほぼ30%未満が附属大学、他が他の私立大学に 進学する。B校は中高一貫の私立高校であり、ほぼ半数の100名が現役で 国公立大学に、他が東京6大学を初めとする有名私立大学に進学する。
C校は県内NO3の進学校であり、5分の2が国公立大学、他が有名私
立大学に進学する。D校は県内1、2を争う進学校であり、5分の3が 国公立大学、他が有名私立大学に進学する。これら4校は全てが併願可 能校であり、県内の業者テストにおいてA校の偏差値が60、B、 C、 D 校は65を越す難関校である。 被験校4校が存在するA県のこの地域は、都内のベッドタウンであり、 人口密集地域と言え、保護者の大学進学に対する意識は全国的には平均 よりは上にあると思われる。子どもは小学校から塾に通い、高校進学、 大学進学に備える。 各被験校4校における被験者の性別、文系・理系の進路希望別の員数 を表1に示す。 また、対照となる一般の高校生、米・台湾の高校生については、前に 挙げた千石らが行った『高校生ライフスタイル調査一日・米・台湾高校 生比較』を採用した。その被験者の基本属性は表2に示している。2−2 調査手続
調査は1994年7月、各被験校4校の先生にお願いし、ホームルーム等 の特定の時間を利用し行った。対照となる千石らの調査は前年の10∼11 月に行われたものである。2−3 質問項目
調査に先立ち、受験生の大学志望動機の測定項目を作成するために、 浜田、井上ら、渕上の先行研究を基に、A高校の生徒ほぼ30名を中心に 「なぜ大学に進学するか」という内容でインタビューした。上記の結果得られた項目を実際の高校3年生20名に高校3年生に理解可能か、また 適切かを検討してもらった。さらに、現役の大学生5名に質問紙に答え てもらい、追加または訂正の作業をした。大学志望動機の質問項目はす べて5段階評定尺度を採用した。また、一般高校生との比較検討するた めのライフスタイルについての項目は、原則として上記千石らの研究に おける質問項目を採用し、質問紙の内容が過多にならぬよう「両親と同 居しているか」等は削除した。 3.結果および考察
3−1 大学志望動機についての因子分析
大学志望動機35項目につき因子分析(主因子法・バリマックス回転) を行った結果、その固有値が1.0以上で統一的な解釈が可能な6因子解を 採用した。回転後の因子負荷重を表3に示す。.40以上因子負荷重のある 項目をまとめ点線で囲んだ。 第一因子は「社会的に高い地位を得るためには大学を卒業することが 必要だから」「結婚のとき不利」「就職に有利」「職業の資格をとる」とい う将来の社会生活を考えた項目と「とにかく大学生になりたい」「進学す るのは当たり前」「せっかく進学校に入ったから」「小さい頃から何とな く思ってきた」「カッコイイ」等、これまでの生活で作られてきた無意識 に近い項目、「協調する態度を身に付ける」「社会で役立っ一般教養を身 に付ける」「リーダーシップを身に付ける」等、社会的生活に必要な態度 を身に付ける項目、さらに「友人を作る」「合コンして異性と接触」「異 性の友人(恋人も含めて)」等他との社会的関係自体を指向する項目等、 大学に入ることは社会的に過去にも未来にも意味付けられ、深い社会的 関係を指向していると考えられる。このため第一の集まりを「現実社会 性志向」と命名した。 第2の因子は「のんびり生活できる」「何もしないでよい時間が作れる」「自由な時間が多い」「何となく」「親が行けというので仕方なく」「遊び たい」「友達が行くから」、反面マイナスを示したものとして「才能を伸 ばす」「勉強したいことがある」「先生との出会い」「礼儀や規律を重んじ る態度を身に付ける」「憧れている大学がある」等、従来我々教育に携わ る者が本来の大学を志望動機と考えてきた項目を否定する。つまり大学 を志望するのは勉強したいのでも才能を伸ばしたいのでもなく、大きな 疲れが伺え、ただ現在の受験生活から逃れ、のんびり遊び保養したいの である。この第2の集まりを「無目的・保養志向」と命名した。 第3の因子は「異性の友人(恋人を含めて)を作る」「サークル活動を する」「遊びたい」「友人を作る」などの項目を否定し、社会的関係を拒 否していると取れる。この第3の集まりを「孤立志向」と命名した。 第4の因子は「留学をしたい」「教わりたい先生がいる」等、前向きで 学ぼうとする項目と考え、この第4の集まりを「健全志向」と命名した。 第5の因子は「異性の友人(恋人を含めて)を作る」の項目を否定し 「自由な時間が多い」等、まるで家庭生活者が一人の時間を楽しむよう に取れ、この第5の集まりを「シングル志向」と命名した。 第6の因子は「卒業してすぐ就職したくない」「とりあえず大学に入学 し、夢や仕事に対する適性を見つけたい」等、執行猶予として大学を志 望する「モラトリアム志向」と命名した。 次に、本研究で見出された大学志望動機の各因子と浜田(1975)と井上 ら(1975)、渕上(1984)の見出した諸因子を比較したものを表4に示す。 渕上(1984)の見出した「大学の副次的機能」「経済機能」、浜田の見出し た「追惰型」「学歴尊重」、井上らの「学歴尊重」「青春享楽」の因子項目 は本研究では「現実社会性志向」にまとまって見られた。「大学の本来的 機能」「学業志向性」「勉強」等は、本研究では「健全志向」「現実社会性 志向」に分散した。また、「モラトリアム機能」「模索型」は「モラトリ アム志向」に見られる。
本研究によって新たに見出された因子は、「無目的・保養志向」「孤立 志向」「シングル志向」の3つである。 「無目的・保養志向」の意味は、受験生活が孤独で余裕のない、自身 にとって望ましくない生活であり、疲労感と余裕のない生活からの開放 を意味している。どの位の受験生がそれらの項目を選択しているかが表 5「各因子に関する全体の選択傾向」に示される。大学生になって「の んびり生活」「自由な時間」「何となく大学ぐらいは」「遊びたい」等で「か なりある」「少しある」を選択した者の割合はいずれも高い比率を示して いる。 また本研究で新たに見出された「孤立志向」を選択した者の割合を表 5より見ると「異性の友人(恋人も含めて)」「サークル活動をしたい」 「遊びたい」「友人を作りたい」で「殆どない」「全くない」を選択した 者の割合はいずれも5%以下であり、全体の中ではわずかである。学生 生活において友達も恋人も作らず、まったく孤立して生活することを高 校の段階から志向している者が数は少ないながら確実に存在する。 「孤立」を高校生活のうちから志向しているのであれば、学生生活で は孤立した非社会的な生活が予想される。学生生活での非社会的な孤立 は少なくともその楽しさの一要素を放棄することと言えよう。またさま ざまな問題状況での友人からの支援も得られまい。学生相談で問題にな る「アパシー」が発生した場合、「孤立志向」の学生は相談する友人を持 ちえないのである。 その際、学生相談が必要となる。学生相談の機能として、問題状況に ある学生を待つのではなく、高校時代からこのような学生が存在するの であればリサーチし、問題発生自体を防ぐことも対策の1つと考えられ よう。 さらに本研究で新たに見出された「シングル志向」を選択した者の割 合を表5より見ると「異性の友人(恋人も含めて)を作りたい」におい
て「殆どない」「まったくない」を選択した者の割合はいずれも5%であ り、全体の中では僅かである。あくまで推測であるがすでに恋人を持ち、 その関係に疲労感がある場合に選択される因子と考えられる。 本研究で明らかになった性別の選択傾向を表6より見ると、「現実社会 性志向」において「協調する態度を身につける」「憧れている大学がある から」「社会で役立っ一般教養を身に付けたい」「職業の資格取得」で「か なりある」「少しある」を男子より女子の方が選択した者の割合が高い。 男子が高比率なのは「合コンなどで異性と接触」のみである。また「無 目的・保養志向」では「のんびりできる」「親が行けというので仕方なく」 を選択した者のうち、男子が女子を「かなりある」「少しある」において 上回り、「大学で勉強したいことがある」「先生との出会い」「礼儀や規律 を身に付ける」では逆の傾向が見える。つまり、男子と女子を比較する と男子は無目的で女子の方が前向きに大学生活を志向する傾向がある。 各因子に関する専攻別(文系、理系)の選択傾向を表7より見ると、 「職業の資格取得」で理系が文系を「かなりある」「少しある」で上回っ た以外、「のんびり生活」「何もしないでよい時間が作れる」「自由な時間 が多い」等の「無目的・保養志向」で、「とりあえず入学し、適性を見つ ける」の「モラトリアム志向」では、文系が理系を上回った。 松原は学生相談から「文系に休学者・留年者が多い」「理系に中退者が 多い」ことを指摘している(9)。文系の休学者・留年者は「時間を掛けれ ば卒業できる」という意識があり、理系の退学者は「自分には才能がな い」と諦めるケースが多いと言う。専攻別の各因子に対する選択傾向は 上のケースを裏付けている。
3−2 大学志望動機の因子と高校生のライフスタイル
以上の本研究で明らかになった大学志望動機の因子の特徴はどのよう に形成されるか、一般高校生のライフスタイルとの関連から考察する。 受験生と一般高校生(日本・米国・台湾)のライフスタイルと価値観の比較を表8から見ると、「アルバイトをするのは良いことだ」「活動的 な人間だ」「節約はとてもよいことだ」「自分の欲望をコントロールする ほうだ」「人の喜ぶことをしたい」「先のことを考えず、いまをエンジョ イするほうだ」「コンピュータなど機械が好きだ」「母とは何でも話すほ うだ」「静かに考えたり反省する」「環境問題などに関心がある」「純粋な 恋愛をたくさんしたい」「できるだけ個室に入って一人でいるのを好む」 「相手が間違っているときはそれを指摘して自分の意見を言う」で受験 生は日本の高校生総合より10%以上選択比率を下回った。 日本の高校生は米国の高校生に較べて「今を楽しむ享楽型」と言われ るが、「活動的」「節約はよい」「人の喜ぶことをしたい」「環境問題など に関心がある」「一人でいるときがいちばん落ち着く」は低く、受験生は これらがさらに低い。反対に「先のことを考えいまをエンジョイ」「母と は何でも話す」「静かに考えたり反省したりする」は日本の高校生総合は 米国より高く、受験生は日本の高校生総合より低く米国に近かった。 以上から、恋愛の欲求を抑え、非活動的で反省するのは嫌だが一人で いて、人の喜ぶことはしない、環境問題に関心のない、自分のことで精 一杯の生活、つまり受験生の社会性に欠け、自分の欲望をコントロール する、楽しむことに満たされていない毎日が伺われる。 表9より、受験生の好きなテレビ番組は「マンガ」「ドラマ」「お笑い」 が高校生総合より10%以上少なく、逆に「スポーツ」「科学」「ニュース」 の選択が上回った。 表10より現在自信をもった生活をしているかを見ると、「非常に自信」 で8.2「やや自信」で18.7%も受験生が一般の高校生総合を下回ってい る。また21%の受験生が答えていない。この項目は、米国の高校生に較 べて日本の高校生総合が圧倒的に下回っている。その原因はやはり日本 特有の受験制度にあるのではないか。 表11より「悪い成績は自信をなくす」では「非常に思う」「ややそう思
う」が、受験生が日本の高校生総合より23.4%も上回っている。受験生 は成績に捕らわれ、自信のない生活を余儀なくされている。 また表12より「今の生活で何でもできるとしたらどんなことが一番し たいか」については「何もしないでのんびり過ごす」が受験生3.8、日本 の高校生総合15.1%と受験生はのんびりした生活を選択していられない。 この項目は米国の高校生総合の5.8%に近い、しかし米国は活動的な意味 で選択しないのであり、日本の受験生は追い詰められた生活の中で選択 できないと解釈される。 受験生は「音楽をきく」「映画を見る」「買い物をする」等「一人でで きる行動」は日本、米国、台湾の高校生総合に較べて高く、「友だちと遊 ぶ」「好きな異性といる」等「一人でできない行動」は低い。受験生は友 達といることをを避けねばならず、孤独なことを楽しむことで済ませる 傾向が伺える。それらの反動として、大学生活では「サークル活動を行 い友人・恋人をつくり、社会性を身に付ける」ことから構成される「現 実社会性志向」の因子となって現れると解釈できる。 4.おわりに 現在の日本社会では、進学校か非進学校に高校進学するかによって人 生が決まり、結果として進学した学校がさらに大学に進学できるかどう かによって、まったく異なる高校生活(ライフスタイル)を持つ。この 仮説は、考察の大学志望動機の因子と高校生のライフスタイルによって 証明された。「ライフスタイルと価値観の比較」「テレビ番組」「自信を持 った生活」「悪い成績は自信を無くす」「今の生活で何が一番したいか」 などではっきりと出ている。 また受験生活が孤独で余裕のない、自身にとって望ましくないもので あるなら、「受験戦争と偏差値、余裕のない生活から救って欲しい」とい う上の高校生の言葉に示されるように、大学志望動機の中に「その生活
から解放されたい」つまり大学生になることは楽しむことのない辛い受 験生活からの解放であり、偏差値から解き放される意味があるという第 2の仮説は、本稿で明らかになった因子項目「無目的・保養志向」によ って明確に実証できた。 さらに、その受験生活が孤独であるなら社会性を持つ(恋人・友達を つくる、サークル等の集団に帰属する)、社会生活を送る技術(対人関係) を身に付ける等を大学生活に望んでいるという動機は因子1「現実社会 性志向」に現れている。よって仮説3も実証できたと考える。 いわゆる進学校の高校生は、大学を志望した段階で受験生と呼ばれ、 孤独で欲望を制止した生活を強いられる。大学で「のんびりしたい」「友 人・恋人をつくりたい」「遊びたい」と思って大学を志望し、入学する。 受験戦争と偏差値、余裕のない生活は、学校制度ばかりでなく社会意識 に根ざした問題であろう。今一番大切なのは、彼らの意識を理解しよう とすることであり受け容れることである。 本研究は1つに以上の学生理解に寄与することを目的としている。ま た、2つには中学校、高等学校等における進路指導、生活指導への基礎 資料の意味を有する。特に進路指導における今後の研究課題として次の 3つを挙げたい。 一つには日本の社会・教育風土に即した総合的な研 究である。本稿もその一部と考えられる。日本人全体の「価値観」や「性 差の問題」との関連で進路指導の課題を考察する。一例として本稿でも 男子に較べて女子の方が元気であり、自由な傾向が見られた。これはな ぜか。言わばマクロな視点からの研究である。 二つには学校の問題等ミドルな視点からの研究課題である。学校経営 における経営方針、特別活動や進路指導の問題、進学志望動機に学校間 較差はあるのか、それは、前の学校経営上のさまざまな営みによって、 どの程度形成可能なのか、などが挙げられる。 三つには教師一人ひとりの教室場面、対生徒一人ひとりとの指導の問
題である。彼らが疲れているのなら、教師はどう接するべきなのか、教 師のあり方、生徒理解、指導方法、人間関係等に関する問題である。 以上進路指導の課題は「マクロレベル」「ミドルレベル」「ミクロレベ ル」の問題として概観できる側。もちろん、それらは個々独立したもの ではなく、便宜上の区分と言え、相互に影響し合い、入り交じっている と考えられる。ただ我々教師が生徒と向かい合うミクロレベルの事象に おいて、マクロやミドルの状況を理解して行うのとそうでないのでは、 相手を理解して適切な指導を行えるかどうかに大きな差として現れるの は事実である。 【謝辞】 各高校のプライバシーがあり実名を明確にできないが、快く 協力いただいたA、B、 C、 D各校の先生方にお礼を申し上げたい。 【注および引用文献】 (1)奥田真丈 1994年「指導要録の改訂とその意義」『個性が育つ教育方法読 本』教育開発研究所 (2)松原達哉 1994年5月号「大学中退者は全国で3万人も」『学研・進学情 報』学習研究者 (3)日本青少年研究所 1994年『高校生ライフスタイル調査 日・米・台 湾高校生比較』平成5年度調査事業報告書 (4)加藤名帆子 1994年5月17日「『享楽型』とはだれのこと?」朝日新聞声 の欄 (5)麻生誠・潮木守一(編) 1977年『学歴効用論』有斐閣 (6)浜田哲郎 1975年「志望動機の因子構造と因子類型に関する研究」『テオ リア18』 (7)井上健治・上野一彦・野口裕之 1975年「大学受験と高校生活(1)」『東京 大学教育学部紀要 第15巻』 (8)渕上克義 1984年「進学志望の意志決定過程に関する研究」『教育心理学 研究5,1』 (9)松原達哉前掲論文 (10)仙崎武 1992年「進路指導研究の動向と課題」『教育社会学研究第50集』
表1被験者分布
学校別 人数 % A高校 188 24.6% B高校 208 27.3% C高校 214 28、0% D高校 153 20.1% 性 別 男 女 123 65 100 108 110 101 107 45NA
31
進路希望 文系 理系 NA 117 62 9 103 93 12 132 56 26 33 101 19小計763100% 440 319
4 385 312 66計763100% 763 763
表2対照となる日本・米・台湾高校生のライフスタイル調査、実施方法、 対象の基本属性 表2−(1)調査の実施方法、対象 日 本 アメリカ 台 湾実施時間
1993年10月 1993年11月 1993年10月 地 域 全国12地点12校 全国22校 全国6地点10校抽出方法
全国の高校から、国 ァ別(国・公立 F私立 3:2)、男 藍ハ(1:1)を層化 オて学校を抽出 日本と同じ 日本と同じ調査方法
学校における W団質問紙法 日本と同じ 日本と同じ 有効回収数 1,002名 1,060名 1,082名 表2−(E)性 別 % 日 本 アメリカ 台 湾 男 性 61.7 45.9 44.4 女 性 37.7 53.1 55.6N・A
0.6 1.0 0.0 表2−(3)学年別 % 日 本 アメリカ 台 湾 1 年 生 26.0 22.2 31.1 2 年 生 54.1 17.5 34.8 3 年 生 19.9 24.5 34.0 4 年 生 0.0 35.8 0.0N・A
0.0 0.0 0.0 表2−(4)学校別(日本のみ) % 表2− (5)専攻科別(日本のみ) %国・公立
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表4本研究で見出された6因子と浜田(1975)と井上ら(1975)、渕上(19B4) の見出した諸因子との対応づけ 本研究で見出 された6因子 渕上(1984)の 見出した5因子 浜田(1975)の 見出した5因子 井上ら(1975)の 見出した3因子 (男子) (女子) 現実社会性 志向 大学の副次的 機能、経済機能、 家族への配慮と 規範機能 学歴重視型、 追随型 副次的、青春享楽、 将来性 学歴尊重 健全志向 大学の本来的 機能 学業志向型 人間形成 勉強 モラトリアム 志向 モラトリアム 機能 模索型、 無自覚型 無目的・ 保養志向 孤立志向 シングル志向
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表9どんなテレビ番組が好きか(受験生・日本・米・台湾の高校生総合)%
日本の受験生 日本の高校生総合 米国の高校生総合 台湾の高校生総合
男子i女子総合 男子i女子i総合 男子i女子i総合 男子i女子i総合 ①マンガ 1 . Q4.8:16.3:21.1 41.4i30.7i37,3 l r T5.4:51.0152.9 ‘ 1 S2.L43.8:43.0 ②ドラマ I l R5.9:69.6:49.9 l l U2.6:86.O:71.4 ‘ . Q0.卍63.4143.4 . 1 Q3.8:48.0:37.2
③スポーツ i iV0.7:38.9:57.1 1 1 i iT6.8:40.2:50.5 r l i iU3.2136.2:49.0 」 . i iS6.6「14.8:28.8 1 1
④音楽 43.4i50.8i46.5 48.4i62.7i53.8 38.6i49.2i44.2 36.0…41.5i39.1
⑤お笑い ‘ ’
S7.7:33.5:41.5 . .
U3.1161.9:62.6 . 1
V8.2:82.2:80.2 47.5i49.8i48.7
⑥伝記 F ,P0.9:13.5;ll.9 … ; 1 .
X.5:8.7:9.3 i i l lP4.8:19.4:17.3 i i コ FP2.7:9.3110.8 i :
⑦科学 18.0:13.2116.0 ‘ , 11.3:3.7:8.5 1 ぐ 26.5:14.0:19.8 1 1 30.2:ll.8:20.O l ‘
⑧戦争 13.9…5.31102 14.7i 5.oill.2 32.4i 7.lil8.8 20.6i 3.8…11.3
⑨ニュース 26.6i30.1…27.9 1 4 Q8.0:20.6:25.5 23.8i25.gi24.7 4 . Q9.4:18.1123.1 ⑩その他 9.8i10,0…9.8 1 , 6.1i 4.8i 5.6 15.6il2.3il3.7 1 1 , 1X.4:ll.0:10.3 1 1 表10自信を持った生活(受験生・日本・米・台湾の高校生総合) % 日本の受験生 日本の高校生総合 米国の高校生総合 台湾の高校生総合
男子i女子i総合 男子…女子;総合 男子i女子i総合 男子i女子i総合
①非常に自信を持って @生活している。 : ‘ W.0:4.7:6.6
@i i
: : P7・9奄X・2i14・8 1 : R7.9i24.5…30.9 : : : : P7.4…1⑪.7i13.6 : : ②やや自信を持って @生活している。 r l R5.7:46.7:40.2 : . : …55.3:65.0:58.9 1 , ’ : ‘ . T2.0:55.4:53.6 . . : F T0.6…49.7150.1 , . ③自信のない生活し @ている。 : .Q2.7i30.4i26.0 : : 1Q1.8i22.6i22.0 : … . 1W.3…17.7il3.4 : 1 , :
Q9.1…36.9…33.4 @ 1 : ④全く自信のない生活 @している。 1 : ‘ . V.514.7:6.3 1 . , i5.0:3.214.3 1 1 : 1 . ‘ P.9:2.3:2.2 : 」 : 1 , ‘ Q.9:2.7:2.8 : :
NA
1 . Q6.1:13.5:21.0 l l C 12.3 傷F 、1.2 ‘ 10.5 表11悪い成績は自信をなくす(受験生・日本・米・台湾の高校生総合) % 日本の受験生 日本の高校生総合 米国の高校生総合 台湾の高校生総合男子i女子i総合 男子i女子i総合 男子i女子i総合 男子i女子i総合
①非常にそう思う。 26.6i23.8:25.3 1 ‘
P1.6:6.7:9.8 l l
P5.9:23.3:19.9 19.4i16.4i17.7
②ややそう思う。 1 ,S2.3:55.5:47.8 i i 1 ‘R6.9144.8:39.9 : i 1 ,Q8.6:342:31.6 i i 42.4i38.7i40.4
③あまりそう思わない。 17.7:17.2:17.7 ‘ r
28.8i35.4i31.3 31.7i32.Oi31.9 i iQ7.3:36,1:322 1 1
④全く思わない。 11.6i 2.2「7.6 22.6i13.1i19,0 23.8ilO,6il6.7 10.gi 8.8i 9.7
表12今の生活で何でもできるとしたらどんなことが一番したいか
(受験生・日本・米・台湾の高校生総合) %
日本の受験生 日本の高校生総合 米国の高校生総合 台湾の高校生総合
男子i女子i総合 男子i女子…総合 男子…女子i総合 男子:女子i総合
①なんにもしないで @のんびり過ごす。 : R・6奄R・8…3・8 : :P3.3…18.Oi15.1 @ : : 6・4…5・2i 5・8 「 :P1.0…14.1i12.7 . :
②音楽をきく。 ‘P3.9il5.Oi14.3 4.oi 2.5i 3.4 i …U.2i 3.2…4.6 7.5…12.4i10.2
③スポーツする。 6.6i 4.7i 5.9 8.7i 3.8i 3.4 22.9i 6.5…14.2 9.gi 4.716.9
④買い物をする。 . ‘
P3.6:11.9:12.8 3.2i 6.oi 4.3 1.7…7.gi 5.0 0.4i 4.oi 2,4
⑤友だちと遊ぶ。 1.6…11.gi12.8 1 i 3.2i 6.0…4.3 1 :
1.7…7.gi 5.0 0.4i 4.oi 2.4
⑥映画を観る。 12.7:14.4「13.4 1 ‘ 2.3:2.2:2.3 . 1 … iP.5:1,1:1.3 1 1 i iP.815.2:3.7 . ,
⑦眠る。 3.6i 5.6…4.5 8.6…6.6i 7.8 1.7i 2.6i 2.2 3.7…5.5i 4.7
⑧面白い本を読む。 7.5i 7.5i 7.6 l l R.7:3.3:3.5 l l P.1:4.312.8 ‘ ト R.9112.9:9.0 ⑨好きな異性と一緒 @にいる。 . : Q4.8…17.gi21.8 . : 、 : Q7.5i28.4i27.9 F : : : Q6.5i33.8…30.4 1 : :R7.gilO.3i22.5 :
⑩勉強する。 1.4i1.3iL3 1.0…1.6i 1.2 0.4i1.1iO.8 0,4iO.2iO.3
⑪その他。 10.7il1.6…11.1 1 1
P3.3:11,2:12.5 10.8i 6.4i 8.4 F ’