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もう一つの旅

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Academic year: 2021

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もう一つの旅

本年度の企画展では、江戸時代に近江国を旅した人々の日記や紀行文、そして眺めたであろう景観 が描かれた絵図や刷り物などを展示しています。このような旅は、物見遊山に類することであり、現代 風に称するならば観光旅行ということになりましょうか。 しかし考えてみれば、この種の旅は少なくとも 旅費・宿泊費が必要なのですから、ある程度の豊かさや生活に余裕ができていることが前提となりま す。また、心の余裕も必要でしょう。江戸時代は、その限りで一般の庶民にも物見遊山を可能にする経 済的な豊かさが成立した時代だといえます。もっとも、時には幕末の「ええじゃないか」のような一種の ヒステリックな旅もありました。いずれにしても、旅は日常から離れて心身をリフレッシュする効果があっ た筈で、それは今も変わりありません。 一方、「可愛い子には旅させよ」という諺があります。何時からこの諺が成立したのかはわかりません が、近江商人の店則にも引用されていますから、江戸時代には確実に言われていたようです。この旅 は、両親の庇護を離れて「他人の釜の飯」を食べる機会を得ることを意味しています。この旅の道中は、 自分本位では生きていけません。他者との関係の中で、多様な価値観を学び、利己主義を改めるため のものです。それは、わがままで自己本位な子供から、多様な価値観や行動規範をもつ大人になるた めの修練の道程を歩むことになります。幼い、十歳前後の我が子を商家の奉公人に出す両親は、その ような成長を我が子に期待して手放したのです。この旅は、道中には辛抱や質素・倹約の実践、あるい は道徳心の修得など、決して楽しいことばかりがあったわけではありません。旅の向こうには、確実に 自分の努力が報われる結果が待っている筈でした。そこへたどり着ける人は、やはり一握りにしか過ぎ ませんでした。しかし、自助努力を続け、志し半ばで夢潰えた者にも、それまでと違う旅が始まるので す。 現在を生きる私達も、形は違えど一生旅を続けるのです。君たちは旅の途中を精一杯努力していま すか。 (史料館長 宇佐美英機)

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