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[On the Comparative Study of the Language of Thailand]

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タ イ 諸 語 比 較 研 究 の 展 望

今 日われ われ が タ イ諸語 とい うとき, シャム ・ラオ ・シャ ン ・アホム ・黒 タイ ・自タ イ ・ヌ ンな どのいわ ゆ る<狭義 のタ イ諸語 > を指 す場合 と, これ に加 えて ,雲南 ・貴 州 ・広西 な ど南 中国 の各地 に分布 す るチ ュワ ン ・ブイ ・カム ・マ ック ・ス イとい った諸言語 を も含 めたく 広義 の タイ諸語 > を意 味す る場合 とがあ る。 これ ら諸言語 相互 の間の , さ らに周囲 の諸言語 とこれ らとの間 の歴史的発生的 関係 が どの よ うな ものであ ったか ,互 い に並行 した構造 を もつ これ ら の諸言語 が実 はどの よ うな変化過程 を経て きた もので あるか , とい った問題 を理解 す るために は,比較言語 学的 な方法 が最 も有効 であ るにちがいない。事実 これ まで に も決 して数 多 くはな いがい くつか その よ うな試 みが行 われて きた。 当初 は,南 中国 タイ諸語 につ いて よ く知 られて いなか ったため に,比較研究 は専 ら狭義 の タ イ諸語 を対象 とす る ものであ ったO ここで は言語 間の類似 が ,借用要素 を除 いて ,極 めて著 し く,共通 祖語 の音 素体系 を推 定 す る仕 事 に もさほ どの困難 は伴 わ なか った。 しか しその後 ,新 た に南 中国 タ イ諸語 の報告 がな され るに及ん で, タ イ諸語 全体 にわ た る比較研究 は必 らず Lも 容易 には行 いえな くな って きた。提供 され た資料 が量 的 に決 して十 分 でない こともい うまで も ないが ,多 くの具体 的 な問題 において , タ イ諸語 の内部か ら与 え られ る情報 のみでは解決 で き ず 中国 お よび東 南 ア ジアのすべて の諸言語 の詳細 な比較研究 の結果 にまたなけれ ばな らない も のが少 くない と思 われ る。 今 , これ まで に行 われ たい くつか の試 み をふ り返 って検討 してみ ることは意 味 ない ことでは ない と思 う。 1. 言語 の比較方法 はあ る意 味 で対 象言語 の もつ構造上 の特性 に よって 決定 され る。 いわゆ る<音 韻 法則 > の帰納 を基礎的作業 とす る点 で はた しか にすべて の言語 に対 して普遍 的で あ ろ うが,共通 祖語 を再構 す るための具体 的 な操 作 につ いて いえば,中核的 な構造 が孤立 的 ・分析 的 かつ単音 節語 的で あるタ イ諸語 に とって ,印欧語 比較研究 におけ るよ うに語根 と接辞 とか ら の語幹構成 の様式 とい った形態論上 の問題 は事実上 ない とい って よい1)。 その反 面 ,印欧語 に はない トネー ム (toneme)の存在 が,共通 タ イ語 (CommonTai)の音素体 系 を 推定 しタ イ諸 (1) もちろん 全 くな いわけで はない。 たとえば, シャム語の指 示 詞の体系に見 られるような一種の

t'symbolism"(cf・E・Sapir:Language,1921,Chap.ⅤⅠ)の現象 (例 nan<あれ>,n孟n<あの>)

が,古代タイ語にも同様にあるいはより広範囲に見 られるものかどうかは興味ある問題である。 しかしこ ういった例はごく僅かしかない。

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語 相互 の問 に見 られ る種 々の対応 関係 を よ りよ く説 明す る上 で重要 な役 割 を果 す ことは,他 の シナ ・チベ ッ ト諸語 の場合 と同様 で あ る。

タ イ諸語 比較研究 の唱矢 ともい うべ き,H.Maspero:ttContribution al'6tudedusysteme phon6tiquedeslanguesthai"BEFEO,t.XI,1911.が主 と して トネー ムの対応 に 関す る考察 で

あ ったの は当然 の ことで ある。 これ は,タ イ諸語 の形態素 の基本 的 な音 節様 式 CIV(C2)/T 〔Cl: 初頭子音 (子音結合 を含 む),Ⅴ :主核 母音 ,C2:,末尾 子音 ,T: トネーム〕 において , トネー

ムの対応 系列 が原則 と して初頭子音 の古代音 にお け る有声 ・無 声 の対立 に よ って分類 され るこ とを示 し,そ こか ら一 部 の音素 に対 して逆 に共通音素 の推定2)を試 みた ものであ った。

K.Wulffは この議 論 を さ らに押進 めて ,Chinesischund Tai,sprachvergleichendeUnter -suchungen,K¢benhaⅥ1,1934.において ,共通 タ イ語 が 中古漢語 と同 じ く CIV 型 音節 で は 3 荏 ,CIVC2型 音節 で は 1種 の トネームを もつ もの と推定 した。 これ は正 しい と思 われ る し,そ の他 の点 で も Wulffの研究 は資 料 の分析 が綿密 であ って初期 の 業績 の うちでは最 も充実 した ものであ る。 しか し各 音素 の古代音 の推 定 に際 して は, シャム語 な どの正書法 を根拠 とす る こ とが多 く,諸言語 間の音韻対応 に もとづ いて共通 タ イ語 の音素体 系 を全般 的 に明 らか にす ると い った方法 は必 らず Lも十 分 に行 われて いない。 タ イ諸語 で は一般 に形態素 の形 の対応 の仕方 が単純 で あ って ,音節 CIV(C2)/T において , あ る言語 の Clに対 して他 の言語 の Cl′が ,Ⅴ(C2) に 対 して も Ⅴ′(C2′) が対 応 す る3)。 した が って ,初頭 子音 と トネーム との基本 的 な通 時的関係 ,す なわ ち共通 タ イ語 におけ る初頭子音 の有声 ・無声 の対立 の解 消 に伴 って4種 の トネームの各 々が2種 に分裂 した とい う仮定 を前 提 と して ,初頭子音 ・主核母音 お よび末尾 子音 のそれ ぞれ の対応 系列 を定立 す ることによ って共 通 タ イ語 の音素 体系 を明 らか にで きるに ちがいない。

A.G.Haudricourt:ttLesphon8mesetlevocabulairedu thai commun,"JA,236,1948.は こうい った立場 か らな され た ものであ る。共通 タ イ語 の音素体系 と相 当数 の形態素 あ るいは単 語 の共通形式 が再構 されて い る。 もっとも定立 され た対応 系列か ら共通音素 を推 定 す るのに際 して対応 す る諸言語 の音素 の弁別的特徴 , と くに散発 的 な特異方言 形 のそれ が十 分 に考慮 され て お らず ,Haudricourt 自身 もその後 い く度 か訂正 して い る4)。 ともか く細部 の問題 を除 けば 狭 義 のタ イ諸語 に関す る限 りこの よ うな簡単 な作業原則 によ って共通 タ イ語 の一応 の輪廓 が明 (2) シャム語 b-,a-の系列を トネームの対応様式から無声音に近い *b-0 0,*d一に由来するとしたこと等。 なお現在ではこれらはttglottalization"を弁別的特徴とする音素と考えるのが最も妥当と思われるo た とえば*?b-,*?d-0 (3) モン ・クメル諸語,ムンダ諸語の比較研究に おいて ttRaput・W8rter''とよばれ るものが ある。こ れにはたとえばA言語のCIVIC2V2C3に対 して,B言語では Cl′Vl′C2′が,C言語で C2′′V2′′C3′′が対 応するといった場合がある。このような場合は対応関係を 見出すことは難か しい。 (cf.HJ.Pinnow: VersucheinerhistorischenLautlehrederKharia-Sprache,Wiesbaden,1959,pp.17-19.) (4) cf.id.:Les consonnes pr6glottalisdesen lndochine,BSL,46,1950;id.:Les occlusives

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らか に され たわ けで あ る。 2. -万 ,南 中国 の タ イ諸語 を も考察 の対 象 に含 めた場合 ,事情 は この よ うに単 純 で はない。 当初知 られて いた もの は Dioi語5)のみで あ ったが ,Wulff は この言 語 とシャム語 との対応 関 係 をか な り詳細 に調査 して い る。 しか しその対 応 を よ く説 明す るよ うな共通音 素 を推 定 す る こ とに は成 功 して いない。 そ の後 ,新 たな言語 調査 に よ って南 中国 タ イ諸語 の事情 が明 らか に され , タ イ諸語 の意 味が 広 義 のそれ に拡 大 され るに及 ん で , タ イ諸語 内部 の各 要素 の対応 関係 も相 当複 雑 な種 々性 を も つ ことが明 らか にな った。 トネーム と初 頭子音 との関係 につ いて も,基本 的 な関係 は変 らないが , トネームに関す る初 頭 子音 の範 境 は単 に有声 ・無声 の両 類 ではす まされ ない。李方 桂教授 は, 自ら調査 したチ ュワ ン語 群 の諸方言 を分析 して , ttThe hypothesis ofa pre・glottalizedseriesofconsonantsin primitiveTa主"集刊 ,ll,1947.において ,有声 ・無 声 の両 類 とは異 った 一 連 の子音 音 素 *?b, *?d,*?j,*つの グル ー プを仮 定 した。 また西 田龍雄 「TonematicaHistorica, トネーム に よるタ イ諸語 比較言語 学的研究」言語 研究25,1954.で は,狭 義 の タ イ諸語 につ いて は無声 出気 ・気 声無気 ・有声 の3グル ー プ,マ ック, ス イ語 6)で は さ らにい くつか の グル ー プが仮定 され て い る。 したが って ,初 頭子音 と トネーム との関係 は ,弁別 的特 徴 の相違 に よ って分 け られ る初頭 子音音 素 のい くつか の グル ー プが その対 立 を解 消す るに伴 って トネー ムが二 分 あ るい は三 分7) され た とい うことにな ろ う。 しか もこれ には種 々の事情 が絡 ん で くるため に複雑 さを増 して い る8)

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定立 され る対応 系列 の数 も著 しく増加 す る。前述 の Wulffの シ ャム 語 と Dioi語 との 比較 において も対応 系列 の種 々性 のため にそ の由来 を十 分 に説 明す る ことが で きなか った と思 われ る。初頭子音 ,主 核母音 お よび末尾子音 の各 々につ いて得 られ た対 応 関係 が著 しい種 々性 を も っ ことのない場合 は,対 応 す る諸言語 の音 素 の弁別 的 お よび余剰 的特徴 あ るいはその位 置 にお け る allophoneと して もつ種 々の特 徴 に照 らして , また他 の対応 系列 との関係 を考慮 す ること に よ って ,共通音 素 の推 定 は大 した困難 な く可能 で あ る ことが多 い。 しか し対応 系列 の数 が余 りに多 か った り,い くつか の対応 系列 が相互 に余 りに類 似 して い る場合 は,われ われ は単 に対

(5) Dioi語はブイ語冊亨方言 (cf.J・EsquiroletG・Williatte:Essaidedictinnairedioi3-franPis,

1908).またブイ語 (布依語,Pu-Ⅰ)は貴州省に分布するチユワン語群に属する言語で,中国科学院少数 民族語言研究所主編 『布依語調査報告』1959.ほかに詳細な報告がある。 同 じ語群に属するものは広西憧 族 自治区のチュワン語 (憧語,Chuang)のほか雲南省の一部の言語がある。 (6) マ ック語 (英語 Mak) スイ語 (水家話,Suュ) はともに貴州省に位置する言語で, しば しばカム語 (恨語 Kam,でong)とともにカム ・スイ語群に属するとされる。cf.李方桂 「英語記略」集刊19. (7) チュワン語群の剥陰 (Po-ai)の方言では,たとえば *?b-,*hm-,*m-がすべて m-となっており, トネームは逆に三分されている。cf・李方柱:ttTheJu主DialectofPoai:Phonology''集刊28.

(8) 狭義のタイ諸語,チュワン ・ブイ語,マ ック ・スイ語の全体について,初頭子音と トネームの 関 係, それから推定 される若干の子音結合 といった問題の詳細は稿を改めて論 じたいと思 う。

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応 系列 の指 標 (index)を措定 す るに とど ま り, 仮 りに これ を共通音 素 とみ な さざ るを得 な い9)0 西 田助教授 の 「マ ック ・ス イ語 と共通 タイ語 」言語 研究 28,1955.において ,狭 義 の タイ諸 語 の比較 に よ って得 られ た共 通 タイ語 とマ ック語 ・スイ語 と比較 が な され て い るが ,子音 母音 の全体 にわ た って約 130種 の対 応 系列 が定立 され て い る。 チ ュワ ン語 を間 に入 れ て考察 すれ ば よ り多 くの対 応 が見 出 され るで あ ろ うか らこの数 は- そ う大 き くな る可能性 が あ る。 これ らに 対 して は多 くが単 に対 応 系列 の指 標が措 定 され るに とどま って い るが ,やむ を得 な い こ とと思 われ る。 これ に対 して ,チ ュワ ン語 諸方言 と狭 義 の タイ諸語 とを比較 した李方 桂 ttConsonantclusters in Tai''Langnage,30,1954.で は, 初頭子音 結合 のみ につ いて約30種 の 対 応 系 列 を定立 して い るが ,そ の各 々に対 して共 通形 式 が推 定 され て い る。 しか し多 くの場合 にそ の推 定 を支持 す

る根拠 は薄 い よ うに思 われ る。 た とえば ,

く風 > Wu.rum31Po.lum55Di.zumllT.C.*lom (1)

く:水> ram51lam33Zam31*nam (3)

(Wu.武鳴 チ ュワ ン語 ,Po.剥 陰 チ ュワ ン語 , Di.Dioi語 ,T.C.共通 タイ語 )

にお いて ,共通 チ ュワ ン語形 式 は と もに *r- で あ る。 李方 柱 は この *r-,と共通 タイ 語 形 式 *11*n- の対応 を説 明す るため に *1r-,*nr- を共通 形式 と して 推 定 した10)。 しか し これ は タ イ諸語 の音 素配 列様式 か らも考 え艶 い ことで あ る し,一般 に共通 チ ュワ ン語 *r-あ るい は*hr -が どの よ うな音 素 ない し音 素 結合 に由来 す るか を決定 す る ことは容 易 で はな い。 常 に-r-を第 二 要素 とす る子音 結合 とは限 らないか らで あ る。事実 ,マ ック語 く風 > lum13,く水> nam44 はそ の トネー ムか ら 考 えて ,*Cト,*Cn- とい った子音 結合 が予想 で きるので あ る。 われ われ は,(狭 義 の)タイ諸語 ,チ ュワ ン ・ブイ語 ,マ ック ・スイ語 のすべ て を説 明す るよ うな共 通 祖 語 を再構 す る ことは現 在 の段 階 で は十 分 に可能 で はな い ことを知 らねば な らな い。 3. ここで タイ諸語 と周囲 の非 タイ系諸言語 との通 時 的 関係 につ いて考察 して お く必 要 が あ る。K.Wulff は前掲書 において , タイ諸語 と中古漢語11)との比較 を試 み た。 そ して 明 らか に ∨ (9) たとえば,<雨> S・fanLu・phanSh・phonといった対応において,S・f-<*ph-と思われるか ら共通音素に*ph-を推定 したいが,他に <人,男> S.phGuLu.pau Sh.phu<*ph-があるた めに,いずれかを *ph2-とせねばならない。 *ph2-は*f/ph-を意味させて もよい。 (S.シャム語, Lu.龍州ヌン語,Sh.シャン語)なお,p.17参照。 (10) 実際には李教授は (狭義の)共通タイ語 と共通チュワン語 との対応系列を定立するという方法をとら ず,シャム ・ラオ ・アホム ・龍州 ・武鳴 ・剥陰 ・田州を一律に比較 しているOこのこと自体が方法論的に 問題である。なおこの論文では *1/r-,*n1-(?) としてい るが,ttTheJuidialectofPo-aiandthe northernTa主"集刊29,で *1r-,*nr-と改めている。

(ll) 中古漢語は B.Karlgren の再構 したものによっている。 中古漢語の 再 構成に あたって Karlgren は基本的に広韻の体系に基礎をおいているが,今 日では一般に広韻あるいは切鶴は一言語ない し-方言の 音素体系を示すものではな.いと考えられている。漢語諸方言や少数民族言語における漢語借用語に対 して 比較方法を適用する努力がさらに望まれる。

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共通 の来源 を もつ と思われ る形態素 のかな りの数 を発見す る ことには成功 して い る。 しか しそ こか ら対応 の規則性 を見 出 し音素 の対応系列 を定立 す るにはいた って いない。Wulffはタイ諸 語 と漢語 におけ る ttlnfixbildung''の共通性 を 証 明 しよ うと してい るが , 今 の ところタイ諸語 お よび漢語 の初頭子音結 合第二要素が挿入辞 で ある根拠 はほ とん どな く,それ-の考察 に先立 って,両言語が ともに形態素 の音 節様式CIV(C2)/Tを もって い るためにいずれ の要素が互 に対 応 す るかが比較的わか りやす い とい う利点 を利用 して, まず対応系列 の定立 に努 め るべ きであ った。Wulffは また遺稿UberdasVerhaltnisdesMalayo-polynesischenzumlndochinesischen,

K¢benhavn,1942.において ,マ ライ ・ポ リネ シア語 との関係 を取 り上 げて い るが , ここで も 対応 の規則性 を発見 す る ことには成功 して いない。

タイ諸語 の系譜 に関 して , これ を漢語 か ら離 して他 の東南 ア ジアの言語 に結 び付 けよ うとす る意見 の中で特 に有名 な ものの一 つ は P.K.Benedict:ttThai,KadaiandIndonesian,A new alignmentinSoutheasternAsia,"Am.AnthrHⅤ.44,1942.で ある12)。 これ は ラカ語 ・ラテ ィ語

・ケ ラオ語 ・リー語 (ダイ語) とい った南 中国か ら トンキ ン地方 に 分布 す る 言語 を Kadai語 群 と し, これ を媒介 にタイ諸語 とイ ン ドネ シア諸言語 とを系譜的関係 につ な ぐことを意 図 した ものである。一方 A.G.Haudricourtもこれ と独立 に類似 した 意見 を主張 した ことが ある

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タイ諸語 が漢語 と共通 して もつ形態素 の多 くは高度の文化語嚢 のそれ であ って言語接触 による 借 用の可能性 のあるもので あ り, タイ諸語 の substratum はむ しろラテ ィ語 な どの南 ア ジア諸 言語 に求 め るべ きで あるとい うもので あった。西 田助教授 は これ を批判 して よ り基礎的な語嚢 において もタイ諸語 と漢語 との共通語 根 を見 出す ことが で きると主張 されてい る14㌔ ともか くタイ諸語 が漢語 は もとよ り広 く東南 アジア諸言語 と,それが系譜的発生的な もので あ るか言語接触 によるもので あるか ば別 と して ,何 らか の しか も相 当深 い歴史的関係 にあるこ とは もはや疑 いの余地が ない 。この仮定 を実証 す るためには,タイ諸語 と他 の諸言語 との言語形 式 の間 に規則的 な対応 関係 を見 出 し,そ こか らい くつか の対応系列 を定立 して さ らに可能 な ら ばそれ に十 分な音韻史的説 明 を加 え るとい う比較言語 学的な操作 を よ り広範囲 にかつ厳密 には どこさねばな らない。 したが って叉 ,同時 にその仕事 は前節 で述 べた よ うな狭義の タイ諸語 と 南 中国 タイ諸語 との全般 的な比較考察 における種 々の甑難 を も解 決す るものでなければな らな い。いいかえれ ば,タイ諸語 の比較研究 自体が 中国 および東南 ア ジアの諸言語 の全体的 な比較 研究 の中で行われ なけれ ばな らないわ けである。前 にあげた く風> *1-r-<*Cト,<水> *n ∼rく*Cn一 に対 して も,漢語く風 > *pjwam <*pト,原 イ ン ドネ シア語 <水> *danam を比 接 す ることによ って問題 の解 決の手掛 りが得 られ るもの と思 われ る。 (12) cf.松 山納 「タイ語 の系統 に関す るP.K.Benedictの異説 について」東京外大論集3,1953. (13) cf.前掲論文 (1948) (14) cf.西 田龍雄 「タイ語 と漢語」東西学術研究所論叢49,1960

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ただ ここで問題 なのは,タイ諸語 におけ る形態素 の音韻形式 のいずれ の構成要素が他 の諸言 語 のそれ に対応 す るか とい うことが , タイ諸語 内部 の対応 の場合 のごと く単 純 な原則 をなす と は予想 できない ことである。音節様式 のほ とん ど等 しい漢語 との 間で さえ, タイ諸 語 の CIV 音 節 に漢語 の Cl'Ⅴ′C2′が対応 す るとい った例 は数多 くあ る。 ま してイ ン ドネ シア語 の よ うな 多音節形態素 を もつ言語 との対応様式 は著 しく複雑 であるにちが いない15㌔ したが って こうい った研究 はそれが成功す ると して も極 めて繁雑 な もの とな らざるをえ ない ことと思 われ る。

4・

さて,タイ諸語 の比較研究 に とって利用す ることので きる古文献資料 は今 までに余 り多 くは知 られて いない.Ramkhamhang 碑文 をは じめ とす るシャム ・ラオ語 碑文 , 『百夷館訳語』 『遅羅館訳語

『八百館訳語』 とい った華夷訳語 がその主 な ものであるが16), これ らの資料が どの程度 に比較研究 に価値があるかは問題 である。 しか しこれが シャム語 ・ラオ語 あ るいは シ ャン語 とい った個 々の言語 ない しはそれ を中心 とす る小語群 の歴史的な研究 にとって は大 きな 意義が あるにちが いない。それが また比較言語 学的研究 の 目的 の一部 を果 たす ことも事実であ る。 従来行われて きた これ ら古文献資料 の研究 は専 ら解読研究 とい った ものであって,その資料 に用 い られてい る言語体系 を再構 しよ うとす る ものではなか った。音韻 について も結果的 には ただ原語 の文字 を ローマ字転写 す るに終 っていた。 これ には,当時比較研究 が未 だ十 分 な成果 をあげていなか ったとい う原 因のほか に方法論上 の問題 が あ るが,その詳細 は資料毎 に異 る。 それ に対 して,西 田龍雄 「十六世 紀 におけるパ イ ・イ語一 漢語 ,漢語- パイ ・イ語単語集 の 研究」 東 洋学報43.3,1960.は比較研究 の 新 たな成果 を取入れ るとと もに, 方法論上 の再検 討17)が行われてい る。 これ は, シャン語 ・現代 パイイ語 と同助教授 自身 の再横 による共通 タイ 語 との関連 において 『百 夷館訳語』 の言語 を考察 した もので あ って ,結 果 的 にはシ ャン語群 の 音韻史的研究 とい うべ きもの とな ってい る。 『百夷館訳語』 は シャン語 に, 『遣羅舘訳語』 は シャム語 に, 『八百館訳語』 はチェ ンマイ ・ラオ語 に当た ると思 われ るが ,後二者 について も 同様 の検 討 を加 え る ことは 意義 あることで ある。 特 に 『八百館訳語』 は北部 タイ (Phayap) 地方 の諸方言 の研究 にとって 大 きな役割 を 果 すにちがいないO 碑文 , と くに Ramkhamhang 碑文 もまた,部分的に方言的特徴 を もってお り, シャム ・ラオ語群 の歴史的研究 には不可欠 な (15) 仮りにタイ諸語と漢語とが本来は多音節語でありながら互に異 った過程をへて単音節化したものとす れば,対応の様式はいっそうこみいったものとなるであろう。

(16) これまでに,これらについてBurnay,Coedbs,Bradley,泉井久之助博士 らの先駆的研究がある。 cf.C.B.Bradley:ttTheoldestknownwritinginSiamese,"JSS,6,1909;G.CoedBs:ttNotes critiquessurl'inscriptiondeRamaKhambeng,''JSS,12,1918;泉井久之助 『比較言語学研究』1949

所収諸論文その他。

(17) 資料自休から与えられる情報のみを手掛 りとするclosedな方法を捨てて openな方法をとりQ又, 文字言語と音声言語との混同を避けるために漢字による音表記を重視するといった立場がとられている。

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資料 であるが未だ言語学的な新 たな研究 はない。

資料 に関 して一 つ付加 え るな らば,い うまで もない ことだが ,興 味 あ る特徴 を もった未調査 の方言 が末 だ数多 くあるにちがいない とい うことである。 たとえば,S.Egerodはい くつかの 方言調査 の報告 をな して い るが19),ttStudiesinThaidialectology,''AO,26,1962.においてい

くつか の興 味 ある事実 を示 して いる。一例 をあげれば ,未だ十 分説 明 されていない *f/ph-の 系列 に対 してマ ライ 半 島 シャム語 では k甲-,kw- とい った 音素 が 対応 して お り, これか ら *qw'-,*GW- を共通音素 と推定す ることが で きるとい うので ある。 この推定 には問題が あるけ れ ど も重要 な事実 であるにはちが いない。われわれ は可能 な限 り多 くの タイ諸語 ,諸方言 につ いて少 な くともその音素体系 ,基礎語嚢 および比較研究上 に大 きな手掛 りを与 え ることが予想 され るい くつか の語嚢 を採録記述 して お くことが望 ま しい。 5. 東南 ア ジアの諸言語 を研究す る目的 には種 々の ものが あるであろう。 この地域の文化, 社会 を総合 的 に理解 しよ うとす るいわゆ る 「地域研究」 のための手段 とい う場合が ある。 もち ろん この時 は実用語 学的傾 向が最 も強 くなるであろ う。 またそれ 自体 を地域研究 の一部 と して 行 うこともあ りうる。 これ は言語 の研究 を通 じて この地域の民族 の思考方法 のタイ プとか社会 構造 を研究 しよ うとい うものであるが, この場合 には<言語 構造> よ りも<言語 の使用> の問 題 と して取 り上 げ るべ きよ うに思われ る。 ある民族が どの よ うな構造 を もった記号体系で伝達 を行 うか とい うことよ りも, どの よ うな場合 にいか に表現 しどの よ うな言葉 を受容 した場合 に いか に反応 す るか とい う事実 の方が その民族 の文化や社会 の型 との相 関度が高 い と考 え られ る か らである。ただ しこの よ うな研究 の方法論 は末だ確立 していない。一方 また,民族 の宝庫 と もい うべ き東南 ア ジアの研究 において,民族 の源流 とい う問題 は確か に一つ の大いに興味 ある 課題 である。 これ は上 の よ うな地域研究 とは異 った先史学的人類 学的研究 の問題 である。東南 ア ジア諸言語 の相互 の geneticな関係 を 究 明す ることが この よ うな 研究 の 重要 な一部門 をな す ことは明 らか である。最後 に全 く言語 学的な立場 か らこれ ら諸言語 の歴史的比較言語 学的研 究 をす る場合 が ある。 以上 に述 べて きたタイ諸語 比較研究 は概ね第三 ・第四の立場 であると思われ る。 しか もそれ な りに一応 の成果 が あげ られてい ると考 えて よいQ それが どの よ うに評 価 され るか とい うこと は今後の タイ諸語 比較研究 の結果 とともに将来 の東南 ア ジア研究 の在 り方 によって決定 され る であろ う。

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