1.はじめに 平成28年8月に示された「次期学習指導要領等に向 けたこれまでの審議のまとめ(案)のポイント」では, 「AIも学習し進化する時代において,人間が学ぶこ との本質的な意義や強みを問い直し,これまで改訂の 中心であった「何を学ぶか」という指導内容の見直し に加えて,「どのように学ぶか」「何ができるようにな るか」の視点から学習指導要領を改善。学習指導要領 が,学校教育を通じて子供たちが身に付けるべき資質・ 能力や学ぶべき内容,学び方の見通しを示す「学びの 地図」として,教職員のみならず,子供自身が学びの 意義を自覚する手掛かりとしたり,家庭・地域,民間 企業等において幅広く活用したりできるようにするこ とを目指す。」としてその指向性を記している(1) 。ま たその中においては,「学び」の本質として重要な要 素に「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指す授 業改善の視点による「アクティブ・ラーニング」によ る学習過程の質的改善を目指すことが説明されてい る。 これら目指すべき教育課程の構造や,新しい時代に 求められる資質・能力の在り方,アクティブ・ラーニ ングの考え方等については,「何ができるようになる か」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」との3つの視 点が要であるとして整理されて図示されている。これ ら3つの視点の中において,生徒たちが主体的な学び を進めていく上でも,また,アクティブ・ラーニング の取り組みを充実させていくためにも,「どのように 学ぶか」の視点は今後の授業改善のポイントとなると も想定される。「どのように学ぶか」では,「深い学び」 が主体的,対話的,アクティブ・ラーニングの全てと 関連が見出せることから(図1),授業改善において 重要な意味をもつものと考えた。 2.研究背景 「深い学び」は今後の学習において重要な視点とな ると考えられる。しかし,どのような状況において「深 い学び」が成立していくのかの研究や実践は,2016 年度に重要な視点として文部科学省より示されたばか りということもあり,少ない状況にあるとも言える。 一方で,知識を深める,学びを深めていくという言葉 は,古くから用いられてきたものであり,そのための 学習の取り組みは様々な学校現場は試行錯誤されてき た。ただ,それらの学習活動の全てが「深い学び」だ と定義して捉えられるかどうかについては,不確定な 要素も指摘できる。 滋賀大学教育学部附属中学校(以下,附属中学校) では,総合学習の充実を図ることで,教科の学習活 動を充実させ,思考力を高めて学習内容が活用され る能力の育成に取り組んできた。総合学習は,年間 75時間の中で「BIWAKO TIME」や「情報の時間」 「COMMUNICATION TIME」などを設定し,学習し た内容が相互に関連し合い,獲得した知識や技術が活 かされる環境を構築すること意図している。このよう な環境において,「深い学び」が成立するのではない かと考えた。 筆者は,附属中学校で総合学習に位置付けられてい る「情報の時間」の学習を通して,情報の見方,考え 方,扱い方を学ぶ学習活動の充実に取り組んできた。 現在行っている中学校版の情報教育は,2007年度よ り開始したものであるが,附属中学校ではそれ以前よ り情報教育の実線を進めていた。例えば,平成11年度 にパソコン(当時はマルチメディアパソコンと呼称し ていた)が41台整備された際,情報教育に取り組んだ 記録が見られる。パソコンの導入によって,処理でき
安谷 元伸
Motonobu YASUTANI
滋賀大学教育学部附属中学校Practice “Deep Learning” through Visualizing with Levels of Thinking
<キーワード> 深い学び 階層的思考 情報の可視化 思考ツール ネットワーク化
図1 学習指導要領改訂の方向性(案)の「どのように学ぶか」抜粋 平成28年度教育課程部会教育課程企画特別部会資料1より筆者作成
2.2 「深い学び」とディープ・ラーニングとの相違 また,松下は「深い学び」を成立させるための学び としてディープアクティブ・ラーニングという言葉も 用いている。また,海外では,ディープ・ラーニング という名称で松下が説明する内容と同様の取り組み, 研究も見られている。しかし,日本においては,この ディープ・ラーニングという言葉を用いる場合,「深 い学び」の直接的な訳語と異なる解釈も見られる。 ディープ・ラーニングという言葉については,人工 知能の研究分野で「深層学習」という訳語として用い られてきた言葉でもある。情報白書によれば,その概 念は1980年前後から成立を見てきたもので,2010年 代に画像認識技術の応用などにより活発化したとされ ている。脳の神経細胞の電気信号回路をコンピュータ 上で再現し,そのネットワークを何層にも重ねる手法 を指してディープ・ラーニングと呼ぶのだとする。ま た,新聞などのマスメディアでもディープ・ラーニン グは人工知能の研究に関する用語として扱われてい る。文部科学省でも平成28年5月26日に中央教育審議 会初等中等教育分科会の参考資料に示された『教育の 強靱化に向けて』では,「AIは,人間が物事を深く理 解する過程(個々の知識を関連づけて概念を理解して いく学習過程)を模した「ディープ・ラーニング」を 取り入れ飛躍的に進化する」としてディープ・ラーニ ングという語を用いて説明している。以上のような 状況を踏まえると,「深い学び」とカタカナ語で記す ディープ・ラーニングは異なるものとして捉えられる。 そのため,これらの語を同意として用いることは適切 ではないと考えた。以上より「深い学び」のみを本稿 では用いる。 2.3「深い学び」を成立させる実践 学習した知識や技能,経験の組織化と思考過程の可 視化を行うことが学習を構造化することとなり,「深 い学び」へと転じられるならば,「情報の時間」を中 心に取り組む「学びの内容を意識的に関連付けて活用 していく」活動も「深い学び」を成立させることが可 能となる。学んだ内容を活用する学習環境は,「情報 の時間」のみで完結することはできず,多様な学習時 間との関わり,接続性により実現する。なぜなら,学 習内容が多面的に学習内容を活用する場が存在するこ とで,外的にも内的にも学習の組織化の機会を得るた めである。 「情報の時間」では,総合学習「BIWAKOTIME」(以 下,BT)の学びを充実させるため様々な取り組みを 行ってきたが,「思考ツール」の多様な活用もその1 つであった。そこで,本年度の「情報の時間」では,「深 い学び」を成立させ,「BT」の学びをさらに充実して いくことを目指し,「思考ツール」の活用の研究を進 めた。 る作業の幅が広がり,教師が研究する内容の増加,コ ンピュータ操作能力の高い生徒の登場,インターネッ ト接続で生じる光と影,機器の維持や管理といった4 点が新たに校内の問題として議論された(2) 。「特設コ ンピュータ学習」や「メディア講習会」等の時間で対 応してきたものの,断片的であったことから成果を集 約し,情報を見抜く力やインターネットマナー等の学 習を含めた実践として再設定して平成12年度に「情報 生活科」を開始した(3)。 この「情報生活科」では,目的として「情報を読み 解く力」,「人とのコミュニケーション」,「情報機器・ 手段を主体的に使いこなす力」,「情報モラル,マナー の育成」を「育てたい4つの力」として設定し,この 目的に準じて学習する内容と年間の学習時間を定め た。しかし,年間カリキュラムに設定する上で,年度 によって学習時間が変動することになり(表1),そ れによって学習内容や担当する教師も対応していく必 要にせまられた(4)。 表1 「情報生活科」 2000年度~ 2006年度の年間学習時間表 平成12 平成13 平成14 平成15 平成16 平成17 平成18 (2000)年度 (2001)年度 (2002)年度 (2003)年度 (2004)年度 (2005)年度 (2006)年度 1年生 20時間 35時間 20時間 20時間 20時間 22時間 24時間 2年生 20時間 36時間 22時間 22時間 20時間 23時間 21時間 3年生 15時間 37時間 35時間 35時間 27時間 28時間 21時間 また,学習時間の変動によって,学習内容が作成・ 作製が主となる傾向が見られ,その結果「情報機器・ 手段を主体的に使いこなす力」の比重が大きくなった ことも反省として挙げられた。そのため,学習時間を 年間カリキュラムに盛り込み,継続的な学習を行う必 要性が論じられて,2007年度より情報の見方,考え 方,扱い方を主体とする「情報の時間」を開設した(5)。 そして,新しい視点より構築を進めた情報教育では, 総合学習を中心として学習した内容を活用することを 意識するに至った。この学んだ内容を関連付けていく 学習姿勢の中に,「深い学び」との関連性が見出せる のではないかと考えた。 2.「深い学び」について 2.1 「深い学び」の定義 「深い学び」の定義についてはどのように考えるべ きか。溝上は,知識や経験の組織化,思考過程の可視 化などを通した学習の構造化であるとして説明してい る(6)。また,松下は,外的活動の能動性だけではなく, 内的活動の能動性も重視した学習活動であると定義付 ける(7) 。これらの定義では,学習した知識や経験を 整理し,見える化することで外面的にも内面的にも学 びを継続できる学び,思考,知識の構造化が重要とな る。そこに「深い学び」が成立する要因が見出せる。
4. 思考ツールによる抽象概念の可視化と思考の階層化 4.1 1年生の実践 1年生で学ぶ「情報の時間」は,山田がその重要性 を指摘している「情報のみかた・考えかた」に意識を 向けることを,2007年度より継続してきた(9)。また, 「情報の時間」の学びはじめとなることから,「思考ツー ル」との出会い,扱い方を学ぶことも目的としている。 前述の通り,本年度はこれまで利用してきた「思考ツー ル」についても,用途や目的に応じた利用方法や段階 による差異の示し方などを意識して,思考過程や発想 の可視化を複数の単元で進めた(写真1) 写真1 「アイデアを練ろう」イメージマップの指導 状況や課題解決の段階などのレベルを意識して書き 出す分解の木も可視化情報の操作を意識する思考ツー ルとして用いた(写真2)。 写真2 「分析をしよう」分解の木の使用法の指導場面 抽象概念を可視化する際,段階や重みといった要素 に意識を向ける事で発展的に思考を拡散させる。それ らの関係性への気付きを1年生の段階から意図して, 「思考ツール」を用いる場面などを設定した。このよ うな段階を意識した活動により,階層的な思考の定着 が行えるのではないかと考えたためである。段階的に 3.2016年度「情報の時間」」の概要 3.1 カリキュラム 2016年度の「情報の時間」の各学年の年間カリキュ ラムは,以下の表に示す通りである(表2)。2015年 度と比べて,学習時間,単元配置などに大きな変更は 加えていない。 表2 2016年度「情報の時間」各学年年間カリキュラム 単元の担当教員については,複数の単元で交代を 行った。これは,2007年度より継続していることで, 多くの教員がかかわる教科横断型学習時間とするため でもある。2016年度から新たに附属中学校に赴任し た教員も含めて単元を担当する教員を定め,これまで の取り組みと同様,多様な視点,知見,経験が学習内 容に盛り込まれることを意図した。各単元の内容につ いては,蓄積した教材や授業評価などのデータの引き 継ぎ,研究会における教員間の交流や議論などを通し て行い,単元の指導中も随時,前年度の担当者との情 報の交流によって単元についての実施状況や方法の共 有を進めた。 3.2 2016年度「情報の時間」の取り組み 前述の通り,学習内容を活用し,他の学びとの接続 性を強めるため,多様な「思考ツール」の模索と研究 を進めた。各ツールと思考スキルの関連性については, 黒上らが指摘していることから,同じ「思考ツール」 であっても,目的,状況,用途に応じて異なる活用に も取り組んだ(8)。思考の段階を意識すること,そして, それぞれの関係を把握することを「思考ツール」によ る情報を可視化により認識し,学習した内容や思考の 結果,知識や発想を他の学習に接続していく学びが行 えるか,「情報の時間」を通して教員の協働により様々 な実践を行った。
単元によっては,思考ツールの全体共有を図る際, タブレット端末などの利用にも取り組んだ。それまで, 実物投影機を用いてツールの内容や結果を意見交流や 情報交流に行っていたが,教室環境を考慮した場合, 無線環境で行えるタブレット端末による撮影,提示は ツールとの親和性が高いことが把握されたためである (写真5)。学習成果の即時的な提示により,自分自身 との比較や振り返りが行えるようになるため,多角的 な考察を生徒が進める際の補助ともできた。2年生の 「情報の時間」では,多様なメディアの利活用を目的 としていることから,教師にもICTを用いた試行を行 いやすい環境が生まれている。可視化した情報を構造 化するためには,他者との比較や分析,考察といった 活動時間が必須であるため,昨年度よりも多様なICT を活用した学習の設定を進めた。 写真5 タブレットによる全体共有のためのツールの成果の撮影 4.3 3年生の実践 3年生では,本年度もこれまでと同様に論理的思考 の理解と定着を図る学習を中心に進めた。「なぜ」や 「その理由は」といった根拠,論拠を明確にする学習は, 国語科を初め全ての教科で必要とされる力である。3 年生の「情報の時間」では,意見や考えの根幹を可視 思考や意見,発想を操作していく「思考ツール」は複 数あり,1年生学習単元の内容との関係も強いことか ら,ほぼ全ての単元で試行錯誤を行った。「発表しよう」 の単元で活用したステップチャートも,思考を段階的 に発展させていくものであり,学習した内容と他の情 報との関連性の気づきに有用なツールとなった(写真 3)。このように,本年度の「情報の時間」の1年生の 単元では,「思考ツール」による可視化の際に段階を 認識していく学習展開を多く取り入れていった。 写真3 「発表しよう」ステップチャートの利用場面 4.2 2年生の実践 2年生では,例年主にパソコンなど情報機器の性質 や機能,操作の理解深める学習中心とした単元で構成 している。本年度もこれまでと同様に,演習形式の授 業内容に多くの時間を割いている。その一方で,本年 度は思考活動を充実させるための取り組みを盛り込ん だ実践も進めた。例えば,プレゼンテーションデザイ ンが学習の主たる目的にあるため,単元の後半はパソ コン操作が中心であった「情報を表現しよう」では, 常にマトリクスや+-シートによる情報の分析,可視 化に努めた(写真4)。 写真4 「情報を表現しよう」+-シートによる全体交流の場面 写真6 「論理的に理解しよう」ピラミッドストラクチャ―利用場面
思考活動の目的を明確化し,思考を広げられることを 意図した「思考ツール」の利用に複数の単元で取り組 んだ。 思考ツールの情報を可視化する機能について,再確 認再認識した上で授業内容の改善に取り組んだもので あるが,そこに階層的思考が行われるように思考ツー ルを利活用する状況の設定,意識化などを取り入れた のである。それが,思考の構造化や内面的,外面的双 方の学習の接続性に発展するものと考えた。 「深い学び」の実現は,思考や発想などの抽象的概 念を「思考ツール」を用いて単純に見えるようにした だけでは成り立たない。可視化された情報同士がさら に接続されること,それぞれの関連が強く意識される こと,そして,さらに発展させようとする認識が必要 だと,これまでの「情報の時間」の取り組みから感じ てきた。 そのために本年度に取り組んだものが,階層的思考 を思考ツールによって可視化することであった。可視 化した情報の関係性への気づきが学習活動の発展につ ながる。また,思考の結果として,学習した内容を他 の知識に接続して,自分の知識や思考結果の関係性が 確立される学びの構造化から,「深い学び」が成立し ていくものと考えたためである。「情報の時間」を中 心にそのような学びが結実する環境の整備を複数の単 元で進めた。しかし,本年度より模索を始めた実践に おいて,生徒たちが思考の段階を明確にして把握する ことが難しい面も確認された。生徒の思考活動の方向 は一定ではなく,広がる場合も集約する場合もあり, また,それぞれが関連し合い,洗練された発想からま た戻って再び練り直すなどを繰り返した。段階的に可 視化した思考結果の情報が,必ずしもすぐに構造化さ れるわけではない。だが,階層的に思考する,その情 報を可視化する,可視化した情報を考察,分析し他の 学びや知識に接続発展させるという学習を継続するこ とで,思考の幅が広がり自分の意見を客観的に認識で きるようになった3年生の姿なども見られた。 それは特に「BT」で顕著であった。例えば,3年生 が主となり行うグループ交流,議論の場において利用 される思考ツールが,イメージマップやピラミッドス トラクチャ―など,「情報の時間」で学び方を獲得し てきたツールのみではなく,多様化している状況が見 られた。KJ法に加えて+-シートを組み合わせたよ うなシートを作成し,それぞれの要素に重みを付けて 再配置するなど,ツールの機能を組み合わせて情報の 可視化に利用するグループが複数見られた(写真7)。 「思考ツール」利用の定着,思考を可視化することの 意義の理解に加えて,段階的な思考や発想に取り組む 姿勢も見られつつあるとも考えられる。 化によって具体的に認識できるようになることを目指 してきた。その中で,本年度は,ピラミッドストラク チャ―を用いた課題解決や自分の意見の考察を行う場 面の時間を増加させ,思考過程の詳細化や段階を意識 して可視化する作業に取り組む時間を多く設けた。 3年生は,総合学習「BIWAKO TIME」において異学 年合同による研究グループを率いるリーダーの資質が 求められる。「情報の時間」では,そのような3年生が 活用できる内容を中心に設定をしてきた。グループ学 習の場面では,可視化した情報をグループ内の1年生 や2年生に伝達する技術や能力も必要となる。そこで は学習成果を活用できる能力の成長が必要だと考えら れた。これまで,そのような場面で情報を「思考ツー ル」で可視化しても伝えられない,自分自身しか伝わ らない状況も見られていた。可視化した情報が段階的 に分けられ,分類できる状態となれば情報を伝える際 の焦点がぶれることも減り,明確に伝達する力が高ま るとして「思考ツール」を模索した(図2)。 図2 「論理的に理解しよう」で用いたステップチャート例 5. 実践の成果と課題 「情報の時間」において「思考ツール」を用いた学 習では,抽象的な思考過程や概念を可視化して整理す る活動を1年生から3年生までで行ってきた。本年度 は,それらの場面において情報の強弱や段階などを意 識づける学習なども進めた。段階を意識づけることで
考(Hierarchy of Thinking)の関係性や接続性が 把握され,思考や学びの成果の構造化が可能となり, 発展的にその他の学習に活用できると仮説付けた。こ れは,本年度の「情報の時間」内でこれまでとは異な るアプローチも含めた「思考ツール」活用の試行錯誤 に授業担当者たちと共に取り組むことで至ったもので ある(写真9)。 写真9 タブレット端末による思考ツールの利用の場面 「思考ツール」による情報の可視化は,これまでの 「情報の時間」でも取り組んできたこともあり,段階 的に情報を表現する,認識することについても生徒た ちは戸惑うことなくスムーズに行えた。一方で,階層 的思考を可視化したその内容の関係性について,段階 の重みづけをする根拠や関連の把握などはできていた のか,また,思考した内容を構造化したことで得られ た結論や発想は,他の学習を進める過程でどれほど活 用できたのか,それらの追跡方法については模索の段 階であり明確化できなったことは今後の課題である。 6.おわりに 情報を整理して,それらを接続させて活用できる知 識や新たな情報とする思考活動は,思考の構造化のた めには必須となる基本的な活動であると考えられる。 しかし,考えた内容を整理した上でその関係性を見出 し広げる階層的な思考を抽象的に進めていくには,中 学校の発達段階では難しい活動となる。「思考ツール」 は情報を整理する際に有用な教材であり,思考スキル の成長にも活かすことができる。これまでも「情報の 時間」の中で「思考ツール」の模索や研究を進めてき たが,本年度は思考の階層化を可視化することに複数 単元で取り組み,学びの接続性を強化していくことを 目指した。先述した,指摘を伴う生徒の質疑による意 見交流の活発化など,昨年度までなかった生徒の情報 発信の姿も見られ,「情報の時間」だけが主たる要因 ではないものの,階層的に思考を進めていく学習への 取り組みが,一定の効果があったことも期待できる。 「思考ツール」により可視化された階層的な思考の 写真7 「BT」の研究活動で見られた複合型の思考ツールの事例 また,「BT」のまとめの発表において,昨年度と比 べ質疑応答で変容も見られた。これまで,質疑の時間 では主に質問や感想が中心であり,教師側としてはそ れをいかに充実させるべきか模索してきたところも あった。しかし,本年度はその質疑において,指摘と それに対する応答の場面がこれまで以上に見られるよ うになったのである。研究の結果や研究方法への指摘 のみならず,研究の前提や仮説に対する疑問なども見 られた。指摘は主として,発信者は3年生の姿が多かっ たものの,2年生の姿も少なからず認められた。 写真8 「BT」まとめの発表の質疑の時間における研究内容への指摘 このような発表の場面における変容は,必ずしも「情 報の時間」の取り組みによるものだけではないものの, 思考の可視化とそれを段階的に認識して,広げていく 学修活動が多少なり影響を与えた可能性は指摘でき る。それは,他者の発信する情報を分解して再び繋げ, 理解することが必要なためであり,その点においてこ れまでの階層的思考の学習の取り組みや,構造化への 意識づけの成果があったことも期待できる。 本 実 践 を 通 し て,「 思 考 ツ ー ル 」 を 用 い て 段 階 的 に 思 考 を 進 め る こ と で 階 層 的 思 考(Levels of Thinking)は成立し,その結果として階層化した思
情報教育の模索を継続してきた素地もあった。これら を多くの学校で行う汎用的方法とするには,組織面や 学習時間,費用面から判断が難しい部分がある。その ため,更なる研究と実績を積み重ねることが必要だと 判断できることから,今後も継続して研究実践に取り 組み,可視化された階層的思考の活用状況の確認や「深 い学び」の模索を続けていきたい。 参考・引用文献 1) 文部科学省:『次期学習指導要領等に向けたこれま での審議のまとめ(案)』http://www.mext.go.jp/ b_menu/shingi/chukyo/ chukyo3/004/siryo/ icsFiles/afieldfile/2016/08/29/1376580_2_1_1. pdf. 2) 滋賀大学教育学部附属中学校(2003):『豊かな 学力をはぐくむ「必修」・「選択」・「総合」の一体的 カリキュラムの開発~環境・情報・人間のつながり を求めて~』,研究紀要第46集,pp155-pp165. 3) 滋賀大学教育学部附属中学校(2005):『豊かな 学力をはぐくむ教育課程の開発~環境・情報・人間 からのアプローチ~』,研究紀要第48集,pp113-pp117. 4) 滋 賀 大 学 教 育 学 部 附 属 中 学 校(2006):『 豊 か な学力をはぐくむ教育課程の開発~教科等および 「BIWAKOTIME」が育む生きる力~』,研究紀要第 49集,pp112-pp117. 5) 滋賀大学教育学部附属中学校(2007)「情報学に 基づいた教育課程の開発(1年次) ~新教科“情報科”の 創造~」,研究紀要第50集,pp103-pp108. 6) 溝上慎一他,河合塾編著(2013):『「深い学び」に つながるアクティブラーニング』,東信堂. 7) 松下佳代,等教育研究開発推進センター(2015): 『ディープ・アクティブラーニング』,勁草書房. 8) 黒上晴夫,小島亜華里,奏山裕(2012):『シン キングツール~考えることを教えたい~』,NPO法 人学習創造フォーラム. 9) 山田奨治(2005):『情報のみかた』,弘文堂. 謝辞 長期にわたって教科横断型カリキュラム「情報の時 間」に取り組み,共に研究を深め,様々なご助力を頂 いた滋賀大学教育学部附属中学校国語科の井上教諭, 北村教諭,社会科の七里教諭 数学科の高橋教諭,山 下教諭,理科の原田教諭,英語科の林教諭,澤田教諭, 音楽科の森教諭,美術科の西田教諭,保健体育科の沖 本教諭,技術分野の宮内教諭,そして関係者の先生の 皆様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。 また,本研究における深い学びや思考ツールの模 索,情報の視覚化を通した階層思考に関する研究は, JSPS科研費16H00075の助成を受け進めています。 結果や成果を活用していく学びは内的活動であり,溝 上の述べる「知識や経験の組織化,思考過程の可視化, 学習の構造化」を伴うものと考えられる。結果,外的 活動において交流の活発化や交流で得た情報整理,分 析,表現の手段と成り得るものとなる。生徒たちに学 びの成果を活用する状況が定着することは,「深い学 び」の一面としても捉えることができる。「深い学び」 は学びの外面的な構造化と学習者による内面的な学び の構造化であるが,構造化は我々の身近にあるネット ワークとして置き換えても考えられる。ネットワーク は接続によって広がりを見せるもので,学びのネット ワーク化,思考のネットワーク化とは,接続すること, 即ち知識や情報を繋げていくこととなる。思考は繋が りにより階層性を生む。関係性を重ねて構築すること でネットワークの層は厚くなる。このネットワークの 層の厚さを「深さ」に換言して考えることも出来る。 すなわち,「深い学び」は,思考や学びの階層的な構 造化の厚みによって生じるネットワーク化によって成 立するとも考えた。 中学校段階では,抽象的に階層的思考を捉えるよ りも認識できるように可視化して情報を整理する方 が,思考を具体的に把握しやすい。また,「思考ツー ル」の利用などで獲得した学習技能や知識を活用する 場の存在も重要である。習得,探究,活用の場が設定 されることでネットワーク化した思考は有効に機能す る。また,「BT」の存在が「深い学び」を形成する 学習環境の構築の大きな要因となっている。「深い学 び」として学びをつなげていくには,体験や学習とい う知識や技術との出会い(知る)それを理解する(わ かる)既知の情報(知識や技術,体験等)を目的や環 境に応じて適切に表出させる,活用する,発信する(で きる)という学習の流れが必要である。そのために, 学ぶだけではなく学びを活用できる場,確認する場, 認識を修正する場が必要である。知識,体験はため込 むだけでは,活用にはならない。学ぶ場と活用の場を 明確にすることで,学修者は学びを構造化することが 可能となる。これは学びのネットワーク化であり,学 びのネットワークをさらに広げる主体的な行動によっ て,内面的なネットワークとしての知識や行動の多様 性も増す。それもまた学びの「深さ」だと換言できる。 しかし,中学校でこのような教科横断型の情報教育 を据えて,生徒に学びの関係性を気付かせる学習環境 を構築することや,階層的思考の可視化を意図した学 習実践を行うことは,授業時間の確保,教員の問題な どを解決しなければならない課題も多い。附属中学校 では,総合的な学習の時間内に「情報の時間」を設定 することで時間を捻出して,全教科教員交代で単元を 担当する形態と教科横断型の学習時間として設定,情 報教育の助言やTTを担う講師を運用する方略により それらの問題に対応している。また,2003年度以降,