原 著 〔書女医雄、瀞63巻平緊翻字〕
イメージテストを用いた「遺伝病」に対する意識調査
静岡県立こども病院遺伝染色体科 回気ガワ トモ コ イガラシ タケ ヤス長谷川 知 子・五十嵐 健 康
(受付 平成5年6,月22日) Popular Image of the Term‘‘Genetic Disease’, TOmoko HASEGAWA and Takeyasu IGARASHI Division of Clinical Genetics and Cytogenetics, Shizuoka Childreゴs Hospital Genetic diseases, even the most common ones, are caused by gene mutations。 We have gained an impression that many clinicians in Japan do not know how to treat patients with genetic diseases, perhaps because of inadequate education in medical genetics. In order to ascertain the image people have of the term‘‘genetic disease”, we carried out a survey of. attitudes toward genetic disease, in comparison with attitudes toward cholelithiasis as a representative hereditary d量sease. The par・ ticipants in the survey were nursing students, midwives, profess童onals圭n the training and educat三〇n のof handicapped children, medical students and non・medical students. They described the images they held of these terms, and took one minute to describe each. No specific instructions were given, in order to encourage free expression. The total number of participants was 424(398 for cholelithiasis), rang童ng in age from 19 to 85 years, and comprising 56 males and 202 females(176』for cholelithiasis);the remaining 166 did not enter their sex. Most participants said that their image of genetic disease was a feeling of dreadfulness, p童ty, hate or avoidance, and that there was no treatment or pr6vention. Objective images of genetic d童sease were a heavy burden on the family and a ser圭ous disease for which there is no cure. Many participants, however, mentioned diseases that are not so sehous medically,. such as hemophilia and color blindness, as examples of ind量vidual diseases。 In contrast to the bad image of genetic disease, that of cholellthiasis was quite mild, even though it has a hereditary background. These results show that even professionals have insufficient knowledge of medical genetics, and that education in this field is badly needed in Japan. 緒 言 遺伝病(遺伝性疾患)とは,本来,遺伝子変異 という生物学的現象が原因となる疾患で1),発症 には環境要因の影響も加わることが多い2).人間 にみられるほとんどの病気は多かれ少なかれ遺伝 子変異を伴っており,遺伝病は特殊な病気ではな い.しかし一般的には特殊で忌むべき重病という 印象が強く,遺伝病をもつ人への偏見も日常的に みられる.遺伝相談を行う際にも,この偏見が正 しい疾患理解を妨げているように思、う.この印象 をより客観的に捉えるために「遺伝病」という言 葉に対して人々がいだいているイメージの調査を 行った. 対象と方法 今回のイメージテストは遺伝,先天異常,発達 障害関係の12用語について行ったが,そのうち, 「遺伝病」および比較としての「胆石症」の2語に ついて検討した.テストはすべて遺伝学講義を行 う前に実施した. イメージテストの対象者は,表1の通りである. 年齢幅は19歳から85歳,性別は男56名,女202名 (「胆石症」では176名),無記載166名であった.表1 対象者(4群) 表2 遺伝病の感情をあらわすイメージ(回答数) 1(看護)群:127名,「胆石症」では101名 看護学生,助産学生,助産婦 n(療育)群:220名 言語障害児指導研修会における幼稚園教諭,言 語指導員 療育研究会における医師,療法土,心理士,学 校教諭,幼稚園教諭,保育園・療育施設保母, 大学教育学部学生 養護学校講演会における養護学校教諭 保健所研修会における保健婦,保育園・療育施 設保母,心理相談員 III(医大)群:67名 臨床遺伝学・先天異常学講義における医科大学 5年生 IV(一般)群:10名 遺伝病患者との関連の浅い大学生(栄養学科) と栄養士 記載にあたっては,長時間の思考結果ではなく イメージ連想を求めるため,各語に費やす時間は 1分とし,用語を順番に読み上げ直ちに記載をし てもらった.イメージテストの主旨について開始 前によく説明した.記載にあたっては語句数を問 わず,思いついたまま幾つ書いてもよいことにし た.また,自由な発想を妨げないために無記名と した. 結 果 「遺伝病」のイメージを,まず,①感情をあら わすイメージ,②対応をあらおすイメージ,③概 1 II III IV 総数 恐怖 13 27 3 3 46 回申ノ同情 12 6 7 1 26 嫌悪/逃避 8 11 1 0 20 不安/心配 1 6 1 0 8 悲観/痛惜 3 2 1 0 6 ショック 1 0 1 0 2 計 38 52 14 4 108 1:看護群,II:療育群,1『医大群, IV:一般群. 念をあらわすイメージの3項目に大きく分類し, 各項をさらにイメージの種類により細分した.比 較語として,身近な疾患であるが多因子遺伝病の 「胆石症」を選び,記載結果を同様に分類した. 1.「遺伝病」の感情をあらわすイメージ 表2に回答数を,図1に総回答数に対する構成 比を示したが,「恐い」という恐怖イメージが最も 多く,次いで,憐欄/同情感(「かおいそう」「つら い」),嫌悪/逃避感(「嫌な感じ」「遺伝してほしく ない」「結婚するとき困る」など),不安/心配感(「不 安だ」「出産まで心配」など),悲観∠痛惜感(「悲 しい」「悔しい」など),ショック,という順になっ ていた. 各回の比較では(図2),1(看護)群とII(医 大)群に比べて,III(療育)群とIV(一般)群で 恐怖感の連想率が高かった.さらに,1(看護) 群では嫌悪/逃避や悲観/痛惜を感じた率が比較的 1 臼.9 図.8 0,7 9.5 ㊨.5 0,4 0.3 ㊨,2 0..1 図 0.91 @\、 _ 、. \ \ }、、、 0.43 献.\ ミ\ 024 \ 0.19 ミ 0.07 0,06 、L 0.05 0.01 0・02 0.01 0・02 \.. _ 恐怖・ 憐欄 嫌悪 不安 悲観 ショック 癒痛感 苦痛 恐怖 同情 逃避 心配 痛惜 否定 ■遣伝病 圓胆石症 図1 感情をあらわすイメージ,遺伝病と胆石症の比較(構成比)
図,8 臼.7 図.6 ㊤.5 臼.4 図.3 曾.2 図.ユ 臼 ジ 笏 笏’ \ 致 \.\ ’ ! . { ! ㍗、 / / / / 、 / ’ ! 、 髪 笏 f / ㍉ ! 1笏 / .× ! / 髪 \ 恐怖 憐欄 同情 嫌悪 逃避 不安 心配 悲観 痛惜 シヨツク 翅看護群 圓療育群 騒医大群 躍 般群 山2 遺伝病の感情をあらわすイメージ,各群の比較(構成比) o.9 図.8 ㊥.7 ㊥.6 働.5 臼,4 ㊨,3 9.2 0.ユ 印 0.86 0.77 \ “ \ 、§ ミミ 0.23 ミ 賦 0.07 0.04 0,01 &\ ㌧ 、 ※ 、 N 対処不能 妊娠出産 治療 〃困難 抑止 希望 告知 困難 治療法 予防法 対処 可能 ■遣伝病 國胆石症 図3 対応をあらわすイメージ,遺伝病と胆石症の比較(構成比) 高かった.II(療育)群では嫌悪/逃避と不安/心 配が比較的多かった.III(医大)群では憐欄/同情 が高率であった.IV(一般)群は対象数が少なかっ たが,恐怖と憐欄/同情のみであった. 2.遺伝病め対応のイメージ(表3,図3) ほとんどが「治らない」,「どうしょうもない」, 「こどもが生めない」という対処不能(困難)を表 現していた.ごく少数に,妊娠・出産の抑止(「こ どもを生まないほうがよい」,「中絶」など),治療 の希望(「なんとかしたい」,「遺伝子治療」)といっ た記載がみられた. 各回の比較では(図4),いずれもほとんどが対 表3 遺伝病の対応をあらわすイメージ(回答数) 1 II III IV 総数 対応不能・困難 D娠・出産抑止 。療希望 崇m困難 サの他 16 P011 25 D1 O00 18 Q300 51000 64 T311 計 19 26 23 6 74 1:看護群,II:療育群, III:医大群, IV:一般群. 処不能・困難のイメージであったが,1(看護) 群で1名ずつに「説明は慎重に」(告知困難の項) と「注意が必要」(その他の項)という記載がみら
ユ 巳.9 日.8 日,7 日,6 ㊥,5 0,4 臼.3 0,2 0.ユ 自 ・1\ }、 / \ / 諒’ \ 彪 / \、
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?E :、 / 父 / 多z N、\ xx z彰 ∠ ㌔ z z 多 タ 舞z 醍 ^ \ 蟹 丁 / 対処不能 〃困難 妊娠出産 抑止 治療 希望 告知 困難 その他 医] 看護君羊 國 療育君羊 翻 医大君羊 彫鶉 一舟量君羊 図4 遺伝病の対応をあらわすイメージ,各群の比較(構成比) ㊥,6 o.5 ㊤.4 z.3 o.2 o.ユ 。 堀 x x ’ ♂ / 〆 ! ! ! × ! ン / / 〆 / 1 蒔 / 幽 〉’ 〆 、 ! 〆 ’ ン ! N ’ ’ ’ 、」 、. ’, ’、 ’、 ! ㍉ ノ 純 / 、.’ 異常 遺伝的 家族 遺伝子 運命 疾患名負荷 山L縁 異常 不可避 原因 重荷 自己 難病 理解不能,備見 資任 責任 暗黒 その他 発症 近親者 重病 神秘柱 否定 肯定 特性 可能性團看護群 國療育群 團医大群 匿】一般群
図5 遺伝病の概念をあらわすイメージ,各群の比較(構成比) れた.II(療育)群では対処不能は対応イメージ 回答数の96.2%であり,他は「優性保護の問題」 (妊娠・出産抑止の項)を1名が記載したのみで あった.III(医大)群でも対処不能・困難と妊娠・ 出産抑止については他群とほぼ同様だが,3名 (13%)が治療の希望や可能性について述べてい た.IV(一般)群での連想は対処不能のみであっ た. 3.遺伝病の概念イメージ(表4,図5) 最:も多くあげられていたのは種々の異常(疾患) 名であり,次いで「親から子に伝わる」という遺 伝的負荷,家族や結婚や血縁の連想が多かったが, これはIII(医大)群では比較的低率であった.一 方,遺伝子・DNA・染色体異常の連想はIII(医大) 群のみで,運命/不可避の連想は一般群に多く,III (医大)群と1(看護)群に少なかった.その他の 概念イメージは少数であったが,難病/重病観が医表4 遺伝病の概念をあらわすイメージ.(回答数) 1 II III IV 総数 異常・疾患名 67 120 25 4 216 遺伝的負荷 41 40 4 0 85 家族/血縁. 27 36 11 2 76 遺伝子異常 0 0 71 0 71 運命/不可避 7 13 6 5 31 原因ノ発症特性 5 8 11 1 25 重荷 4 5 1 0 10 自己・親近者可能性 3 6 1 0 10 難病/重病 5 1 2 0 8 理解不能/神秘性 5 0 0 0 5 偏見 2 2 0 0 4 責任否定 2 1 0 o 3 責任肯定 2 0 0 0 2 暗黒 0 1 0 0 1 その他 1 4 3 0 8 計 171 237 135 12 555 1:看護群・II:療育群 HI:医大群 IV:一般群 療群(1,III)に比較的多く,1(看護群)だけ に「不思議で理解しにくい病気」というイメージ と「親の責任」の記載がみられた. 概念イメージの異常・疾患名(表5)で「遺伝 病」として連想されたのは色盲・色弱と血友病が 最:も多く,特に1(看護)群では半数の人があげ ていた.他はそれぞれ職業上知り得た疾患が多 かった.な釦,1(看護)群とII(療育)群の一 部は環境原性疾患をあげていた. 4.広義の遺伝病である.r胆石症」につい七 「胆石症」の場合,「遺伝病」.の語から受けた印 象とは全く違う結果であった.胆石症の感情イ メージ(表5,図1)はほとんどが「痛い」であっ て,嫌悪/逃避,恐怖や不安/心配の感情はごく少 数であり,「恐くない」という記載すらあった. 対応イメージ(表7,図3)にして.も,記載は すって具体的な治療や予防法,または「治る」「○ ○法によって治す」(対処.可能項)というもので あった. 概念イメージ(表8,図6)では,石の形態・ 組成.や胆道・胆汁関係のもの(実体/病因)が多く 記載され,.遺伝よりも環境が重視されていた.自 分や親近者.との関連イメージも,遺伝病の「自分 も(誰でも)なりうる」という漠然としたものに .表5 遺伝病として想定された異常・疾患名 1 II III IV 総数. 色盲/色弱 16 27 1 1 45 血友病 20 14 7 0 41 ダウ.ン症 3 9 3 0 15 がん 4 9 0 1 14 染色体異常 3 5 2 0 10 筋ジストロフィー 0 9 0 0 9 精神病 1 6 0 0 7 奇形 4 0 3 0 7 アレルギー 2 4 G o 6 てんかん 0 5 0 0 5 先天異常 1 1 2 0 4 障害 o 2 2 0 4 みつくち 1 3 0 0 4 糖尿病 0 3 0 0 3 肥満 1 1 0 1 3 知恵遅れ(精神薄弱) 0 1 2 0 3 らい 1 2 0 0 3 鼻炎 0 2 o 0 2 斜視 0 2 0 0 2 盲目 1 1 0 0. 2 舞踏病(ハンチントン病) 1 0 1 0 2 ミトコソドリア脳(筋)症 1 1 ⑪ 0 2 突然変異 1 1 0 0 2 結核 1 1 0 0 2 口蓋裂 G 1 o 0 1 多指症 0 1 0 0 1 少指症 0 1 0 0 1 白子 1 0 0 0 1 緑内障 1 0 0 0 1 脳血管疾患 0 0 0 1 1 くる病 0 正 0 0 1 膠原病 1 0 0 0 1 どもり 0 1 0 0 1 ろうあ者 0 1 0 0 1 麻痺 0 0 1 0 1 白血病 0 0 1 0 1 代謝異常 0 0 1 0 1 背が低い 0 1 0 0 1. 歯並び 0 1 0 0 1
PKU
0 0 1 0 1 ウェルドニツヒ 0 1 0 0 1 コルネリア症候群 0 1 0 0 1 リー脳症 1 0 0 0 1 ターナー症候群 0 1 0 0 1 フォン・ビレブラソト病 0 0 1 o 1 FAP 0 0 1 0 1 .原爆での被爆 1 0 0 0 1 放射線 0 1 0 0 1 性病 0 1 0 0 1 風土病 0 .1 0 0 1 67 123 29 4 223 1:看護群,II:療育群, III:医大群, IV:一般群.表6 胆石症の感情をあらわすイメージ(回答数) 1 II III IV 総数 痺痛感 47 129 30 5 211 苦痛 1 10 0 0 11 嫌悪/逃避 1 4 0 0 5 恐怖 0 2 0 0 2 不安/心配 1 1 0 0 2 恐怖否定 1 0 1 0 2 計 51 146 31 5 233 1:看護群,II:療育群, III:医大群, IV:一般群 表7 胆石症の対応をあらわすイメージ(回答数) 1 II III IV 総数 治療・予防法 ホ処可能 86 46 U 35 00 57 P7 計 14 52 8 0 74 1:看護群,II:療育群, III:医大群, IV:一般群 比べ,「○○がなった」と名指しで具体的に書かれ ていた.少数ながら,1(看護)群とII(療育) 群に「軽い病気」のイメージもみられた. 考 察 イメージとは,心理学用語で「心の中につくら れる像(心像)」という.イメージは過去の体験の なかでっくられ,心のなかに蓄えられ,合成され, 比較され,入れ換えや組合せがなされ,類別され て“イメージ操作”となり,必要に応じて取りだ すことのできるものとなる3).心(脳)のなかに蓄 表8 胆石症の概念をあらわすイメージ(回答数) 1 II III IV 総数 実体/病態 22 55 29 21 127 環境要因 17 21 18 3 59 合併症 7 6 20 0 33 年齢・性別特性 7 4 11 0 22 自己・親近者罹患 3 10 2 0 15 理解不能/神秘性 1 2 0 2 5 遺伝/体質 2 3 0 0 5 疑問 1 2 0 0 3 軽症疾患 2 1 0 0 3 計 62 104 80 26 272 1:看護群,II:療育群, HI:医大群, IV:一般群. えられたイメージが外部に投影されるとき,言葉 が一つの媒体となる(図7)..その言葉とは保持さ れているイメージの一部であり,イメージテスト で表出される語句以外に隠れているものが大きい が,語句として投影されたものは,その中でも強 く印象づけられたイメージとみてよいと思おれ る.遺伝病についてのイメージも,人の成長過程 において作られ操作され,保持されてきたもので あるが,テストの結果からみると対象を越えた共 通性が認められる.遺伝病のイメージに多くみら れた「恐怖,下欄,嫌悪/逃避」などの語句からは, 悲痛な病気というイメージが浮かび上がる.さら に「治療や予防も不可能で手の施しようがない」 という諦めの暗い印象も伝おってくる.それにし ては,思いつく疾患として,色覚異常や血友病が ㊥.9 図.8 0,7 図.6 臼.5 B.4 日.3 図.2 0.1 9 ミ 実体 環境 合併症 年齢 自己 理解不能 遺伝 疑問 軽症 病態 要因 性別 近親者 神秘性 体質 疾患 特性 罹患 囮看護群 圏療青群 團医大群 翻一般群. 図6 胆石症の概念をあらわすイメージ,各群の比較(構成比)
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図7 イメージの投影,言語化して表現 最も多くあげられている点に注目したい.この2 疾患は医療上は重篤な疾患ではないことから感情 イメージとの不一致のようにみえるが,一般に「遺 伝病」というと学校で習ったこの2疾患がまず頭 に浮かぶのかもしれないし,社会的受容面の問題 点が表出しているのかもしれない.また,「代々伝 わっていく」とか「血」のつながりなど俗説の遺 伝の連想も多く,突然変異や遺伝様式の知識を啓 蒙する必要性も感じた.概念イメージも全体的に 否定的な印象が強く,これらによって構成され実 体を離れたイメージが,恐怖・嫌悪・不安などの 感情をひきおこし,それが遺伝病や罹患者に対す るステレオタイプの評価をもたらし,差別・偏見 の意識に育っていくと考えられる4).一方,遺伝病 の一種であっても,実体の明確で対処可能な胆石 症のイメージは全く異なっており,「症状はつらそ うだが治療は簡単」というイメージが読みとれる. 4群の比較では,遺伝病に対しての恐怖と不安 感は,看護群・医大群よりも療育群と一般群で高 率になっていた.不安とは漠然とした危険に対す る自我の無力感であるので4),この結果は,医療関 係者以外では遺伝病だけでなく,実体を知らない 疾患に直面したときの対応についても教育を受け ていないことを示唆していると考えられる.この ような状態は,先天障害をもつ児を保育および教 育する立場のことを考えると問題ではないかと思 う. 看護群と医大群の特徴としては,「憐欄の情」が 比較的多く,医療者としての優しさを感じる.し かし,先天異常児の家族は憐欄や同情を不快に感 じ,理解を求めていることから,特に医療や療育 に携わる人には「かわいそう」という感情の段階 で留まってほしくない.しかし,遺伝病の対応で, 治療法や治したいとの希望を述べたのはさすがに 医大生である.遺伝病の概念イメージからも医大 群に遺伝子関係の知識の連想が多かったのは当然 であろうが,看護群でテスト以前に遺伝の知識が ほとんどなかったことを示すものの,親に責任が あるとの答は少数とはいえ問題である.経験上, 社会的立場を異にしても,遺伝病に対する反応は 共通であり,これは実体と離れた主観的・原始的 な反応であろうという印象をいだいてきたが,こ のイメージテストに表された傾向はそれを裏づけ るものと思う.このテストは1県内で行ったが, 日本全国,さらに世界各地で行った場合どのよう であろうか.欧米などで遺伝相談が普及している ことは,一般の人々が遺伝病を恐れ不安をいだい ているための対策と考えられるので,おそらく結 果に大きな差はないと推測している.遺伝病に対 する負のイメージは文化として伝承されてきたも のであろうが,その根底には原始的・本能的な反 応があり,実体についての教育が欠如しているこ とから無知も加わって主観的な恐怖心や不安感が つくられていると考えられよう.すなわち,幽霊 への恐怖に似たものではなかろうか.このような, 人々のもつ実体と遊離したイメージの独り歩きFに より,ほとんど問題のない障害さえ受容できずお びえたり,遺伝病即避妊や出生前診断即中絶とい う短絡的解決にいたる単純な発想法が医師にすら 多いということにもつながっていると考えられ る. 結 語 医療・療育・保健などの関係者を対象に遺伝病 の用語のイメージテストを行った.その結果,遺 伝病罹患者と接する機会の多い専門分野にいる人 でも,遺伝病に対しては悪いイメージを短絡的に 連想しがちであることがわかった.誤ったイメー ジを取り除き,正しい理解と対策を知るために最 も重要なことは臨床遺伝の教育である.教育の場 としては,学校教育(集団・個別対応),マスコミ 情報による啓蒙(集団対応),および遺伝相談によ る個別対応が必要であるが,日本ではこの3つとも不十分な状態であり,このデータが今後の遺伝 教育の発展を促す資料になることを期待したい. 本論文を福山教授記念論文集に捧げます. 本研究は厚生省心身障害研究,「発達障害児の早期 ケアシステムに関する研究」の助成により行った. 文 献 1)King RC, Stans盆eld WD:ADictionary of Genetics,3rd e(垂, p175,0xford University Press, New York.Oxford(1985) 2)Thompson MW, Mclnnes RR, Willard HF: Thompson&Thompson Genetics in Medicine. 5th ed, p4, Saunders, Philadelphia(1991) 3)中沢和子:イメージの誕生.NHKブックス,東京 (1992) 4)我妻 洋:社会心理学入門(下).pp34−70,講談 社学術文庫,東京(1992)