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国際的サプライチェーンとしてみたソフトウェア生産の現状と課題

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09-01014

国際的サプライチェーンとしてみたソフトウェア生産の現状と課題

代表研究者 加 藤 敦 同志社女子大学 現代社会学部 教授 1 はじめに 今日のソフトウェア生産は国際的なサプライチェーンとして捉える必要がある。すなわち人件費削減や要 員補充などを目的として,海外にソフトウェア開発の一部または全部を委託すること(オフショア開発)が 急速に進みつつある。またクラウド・コンピューティングの進展により、グローバルな技術基盤の上に効率 的にソフトウェアを生産することの重要性が増している。我が国ソフトウェア産業は規模の大小を問わず、 国際的な分業生産体制に組み込まれている。そこで経済的・技術的な不確実性が高まる中、我が国ソフトウ ェア産業に在り方についての次の 2 つのテーマに取り組んだ。第 1 に対日オフショア開発に携わる中国ソフ トウェア企業は将来に向けいかなる選択肢をもつかである。これは日本企業が将来の戦略的行動を検討する 際に、頭に入れなければならない大前提である。第2に我が国地方ソフトウェア産業の技術基盤を高めるた め、現在主流のオンサイト派遣から脱皮し、ニアショア開発、中国市場へのアクセス(逆オフショア)をい かに進めるべきか、ということである。首都圏売り上げが 7 割を占めるいびつな市場構造の下、首都圏への 派遣に頼らず、持ち帰り開発であるニアショアを推進したり、中国市場進出を目指したりすることは、我が 国の中ではコスト競争力の高い地方ソフトウェア業にとり重要な課題といえる。なおパッケージ・ソフトの 輸出については規制、現地化に加え、急激な基盤技術変化(クラウド化)に伴い中国における中小企業のパ ッケージ活用動向が不透明となったため検討対象から外した。 これらテーマについて定量的に検討するため、本研究ではまずソフトウェア会社の収益構造をモデル化し、 直面するリスクを明らかにするよう努めた。次にそれぞれのテーマに応じ、検討すべき操業モードを定式化 し、数値例にもとづきシミュレーションを行った。 オフショア開発に関する先行研究には日本情報処理開発協会(2003),高橋・李(2006),神谷・塚本(2008) などがある。日本側の主な問題意識は日本情報処理開発協会(2003)で指摘されたように,①中国台頭で日 本のソフト産業は市場を失い空洞化が一層進展するか,②日本のソフト産業は中国市場拡大の恩恵を受ける か,③低コスト労働力は今後も継続するかである。また高橋・李(2006)はオフショア開発がひとたび本格化 すると競って我が国企業がオフショア開発に頼ることとなるとし,国内市場における請負価格が低下し失業 を生む可能性,競争相手を育て日本のソフトウェア産業が空洞化する懸念を指摘している。これに対し中国 商务部(2005)は中国側からのソフトウェア輸出戦略について検討している。中国政府は市場,技術,人材 面などで互いに寄与するとの認識し,基本的にはオフショア開発を推進する立場である。ただし日本市場向 けが全体の 60%程度を占め依存性が高いこと,下流工程中心で技術要求水準が低いこと,労働集約的で過当 競争に陥りやすいことを指摘している。 いくつかの用語を定義しよう。システム・インテグレーション(SI)とはユーザの求めに応じ,ハード や既存ソフトをとりまとめる元請である。オフショアとは人件費削減や要員補充などの目的のために、海外 にソフトウェア開発の一部(全部)を委託することである。IPA(2010)『IT 人材白書』によるとオフショア 委託先は中国が 80.3%と最も高く、ベトナム 15.8%、インド 13.2%と続いている。次にニアショアとは国 内(遠隔地)のソフトウェア会社が、首都圏のSI会社から開発の一部(全部)を受託し、主として「持ち 帰り開発」を行うことである。要員を首都圏の顧客近隣拠点に派遣することはオンサイト派遣として区別す る。さらに逆オフショアとは 国内のソフトウェア会社が中国など現在の再委託先地域から、開発の一部(全 部)を受託することである。さらに本論では地方ソフトウェア産業とは、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼 玉)、近畿圏、中京圏以外に立地する情報サービス業の事業所を指すものとする。 本研究ではサプライチェーン分析のため、リアルオプションの一つである切替オプションを活用する。切 替オプションは将来価値が不確実な2つの資産について,両者を交換する選択権である。ただし切替費用と は操業モード切替えの際に生じる費用であり,切替オプション保持の対価であるオプション料と区別される。 本報告の構成は次の通りである。まず第 2 節でソフトウェア会社収益構造のモデル化、第 3 節でソフトウ ェア会社が直面するリスクを示す。第 4 節では対日オフショア開発に携わる企業の成長戦略について、第 5 節では我が国地方ソフトウェア産業の活路について、前述のモデルを活用して検討する。

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2 . ソフトウェア会社収益構造のモデル化 受注ソフトウェアを主とする情報サービス業事業者の収益構造について、年間フリーキャッシュフロー (FCF)がいかに生じるかモデル化しよう(図 1 参照)。 プロジェクトA の契約人月 Bの契約人月 Cの契約 人月 プロジェクトAの実績調達人月 1年間の総調達人月(太枠内) 非稼働人月 (余裕係数につながる) 期間 (1年間) 外部 直営要員 図1 総調達人月と契約人月 基本的考え方は次の通りである。第 1 に「人月単価ベース契約」を基準とする。受注ソフトウェアに限っ てみると,パッケージ・ソフトと異なり需給を反映した市場価格が成り立ちにくく,「人月単価ベース契約」 が中国でも広く用いられる.また当面はこの形態が主流である可能性が高い。 一般にSIでは全要員のS E対PG比率は2対1程度であるが,下流工程の場合は1 対2程度になる。企業は自然減の補充採用や内部 育成により要員構成「高度化」を進めるが,移行期に受注減が生じるという機会費用を負担しなければなら ないとする。第3 に総工数増加リスク(仕様変動・技術者生産性リスク)を危険係数として定式化する.小 論では技術者の質を反映した技術者生産性リスクは,社内要員か外部調達か,プロジェクト開始時からか追 加投入か,によって変わらないとする。従って危険係数の違いは,ITプロジェクト類型(オフショア下流, オフショアSI,中国下流,中国SI)によってのみ生じる。 モデル企業は年間k 件のプロジェクトを担当しているとし,第 i 案件の契約人月を P_mmi ,実際の調達人 月をmmi とする.また1 年間の総契約人月を P_MM,総調達人月を MM とする。まず危険係数βを,各プロ ジェクト契約人月合計に対する実績調達人月合計の増加率(年間平均値)と定める。次に余裕係数sとして 1 年間の総調達人月MMを,各プロジェクトの実績調達人月の合計で除したものを考える。これは採用,調 達,退職,教育訓練,営業活動などで生じる非稼動人月(Slack)に対応する。 ここで要員稼働率αを1 年間の総契約人月 P_MM を 1 年間の総調達人月 MM で除したものと定義しよう。 するとαは個々のプロジェクトの契約人月P_mm ,個々のプロジェクトの調達人月mm,プロジェクトの危 険係数β,及び余裕係数s を用いて次の通り表される。要員稼働率αは危険係数βが大きいほど,余裕係数 sが大きいほど小さくなる。本研究では危険係数βは各操業モードの生産性リスクに対応した確率変数とし, 余裕係数sは定数とする。

当該企業の1 年間の営業利益 OperatingIncome は,売上高 Sales,調達労働コスト LaborCost,販売管理費 SGA とし,平均契約人月単価UnitSales, 平均調達人月単価 UnitLabor とすると以下の通り示される。ただしλは 契約人月単価と調達人月単価の比である。一般に契約人月単価には調達労働コストに販売管理費並びに非稼 働人月コスト,利益が上乗せされる。

= − = k i k i mm P mm 1 1 _

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3 ソフトウェア会社が直面するリスク 次にソフトウェア会社が直面するリスクについて考える。リスクは大きく市場リスク,技術・知識リスク 並びに競争リスクに分けられる。市場リスクはITプロジェクトの事業価値を形づくる市場性商品の価格変 動に関する不確実性で,多くの企業にあてはまる一般リスクである。また技術・知識リスクとは,技術・知 識的な要因から生じるITプロジェクトの成否や経済性に関する不確実性で,個々の事業毎に異なる個別リ スクである。さらに競争リスクとは競争相手の戦術についての不確実性で、寡占市場では特に重要である。 本研究は小規模なソフトウェア企業を対象とするため,主に市場リスクと技術・知識リスクを扱う。 3-1 市場リスク 第 1 に日本市場については我が国IT産業の動向とオフショアへの取り組みを併せて考える必要がある。 我が国の情報サービス産業は世界同時不況を契機としたIT投資停滞により厳しい状況が続いている。一方, オフショア開発の進展によりソフトウェア受注価格は長期低落傾向にある。IPA(2010)は各社とも増加 させたい意向をもっているとして 2010 年度は 106,196 百万円に達し,2011 年度,2012 年度と増加する予想 している。またオフショア委託先は中国が 80.3%と最も高く,ベトナム 15.8%,インド 13.2%と続いてい る。このように日本の IT 市場が厳しい状況にある中,コスト削減が期待できる限りオフショア委託意欲は高 いとされる。第 2 に為替変動については人民元対米ドル,米ドル対円という 2 つの相場を考えなければなら ない。対日オフショア開発は円建てが原則であり,中国企業にとり人民元が円に対し割安である方が手取り 増につながる。2004 年 1 月以降の RMB/$ の平均変化率は-3.1%、標準偏差 2.1%に対し、RMB/円は平均 変化率 0.9%、標準偏差 9.9%である(出所 SERCHINA)。両者の相関係数は 0.22 である。2005 年 7 月の「改革」 を経て人民元は対米ドルベースで徐々に上昇してきた。しかし中国企業からみて日本円(10000 円)当たり の手取り額(人民元ベース)は余り変化がなく,最近むしろ増えている。これは円高が続く円ドル相場が反 映されているからである.この 10 年間の平均円ドル相場は約 110 円/$で年間ボラティリティは 10%程度 である。中国企業からみると,円安に転じれば,手取り額が大きく目減りするという危険がある。第 3 に中 国ソフトウェア市場における契約単価並びに中国の労働コストについての不確実性である。受注ソフトウェ アの契約単価はコスト・ベースになる傾向があるので,中国のソフトウェア市場における契約単価の上昇率 と平均賃金の伸長は軌を一つにすると考えることができる。中国はいち早く世界的経済不振から抜け出し 2009 年に 8.7%の GDP 成長を達成し,2002 年から 2009 年の平均 GDP 成長率は 10.4%に達している。一方, 中国の労務費をみると,2009 年の民間を除いた全産業ベースの 1 人当たり年間平均賃金は 32,736 元で前年 29,229 元に対し 12%増加した。また 2001 年の 10,870 元から 2009 年までの伸長率は年率 13.8%である。 3-2 技術・知識リスク この範疇には総工数増加リスク(仕様変動,技術者の生産性),セキュリティリスクが入る。またオフショ ア開発に特有のリスクとして「異文化リスク」がある。第1 に総工数増加リスクは,開発規模変動(仕様変 動)と規模当たりの生産性変動に分けられる。規模指標ファンクションポイント(以下FP)を用いると,前 者はFP 自体の変動,後者は FP 当たり工数変動である。実際の開発においては,ユーザとの元請契約(SI 契約)段階では仕様が確定せず,開発中途で確定することが一般的である。従ってSI 事業者が大きな仕様変 動リスクにさらされる一方,下流工程を受託する事業者にとって仕様変動リスクは小さい。また技術者の生 産性についても,SI事業者はIT 計画,要件定義,設計,製作,テストといった各プロセスを併せたリスク を被るので,下流工程を受託する場合に比べ不確実性が大きい。総工数増加リスクについての我が国案件の 実証研究はIPA(2006),IPA(2007) ,IPA(2008) ,IPA(2009)がある。また Yang et al.(2008)は中 国企業を対象とした調査研究である。これら調査では予算対実績で明らかな総工数増加が認められる。すな

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わち平均でみると10%から 20%ほど増える傾向にある。また 1.0 超の案件数と 1.0 未満の案件数を比べると 前者が明らかに多く、対数正規分布に近い形である。 第 2 にセキュリティリスクは,システム開発期間中の 不正アクセス,ウィルス感染,顧客情報漏洩などのリスクである。顧客情報漏洩対策として中国版「プライ バシーマーク」取得に力を入れている中国企業も多い。第3に「異文化リスク」はオフショア特有のリスク で工数や経費追加をもたらす。一方,中国側にも日本語人材育成費用,安全なネットワーク開発構築費用, 日中開発チームの間を調整するブリッジSE(開発コーディネータ)費用,緊急対応出張費用等が発生する。 4. 対日オフショア開発に携わる企業の成長戦略 地域ソフトウェア会社の立場からみて、ニアショア開発は将来性があるのだろうか。また中国市場の需 要を取り込むことは現実的だろうか。本節では,エンタプライズ系受注ソフトウェア生産において対日オ フショア開発に携わる中国ソフトウェア企業の立場にから,将来に向けいかなる戦略をとるべきか定式化 し第 2 節のモデルを活用して収益状況について考察する。 4-1 中国ソフトウェア業と対日オフショア開発の位置づけ 中国政府はソフトウェア産業発展のため,ソフトウェア・アウトソーシングを積極的に後押ししてきた。 これは中国のソフトウェア市場がまだ十分に成長していない中で需要を確保し,技術者など人材を育成し, ソフトウェア企業を成長させるためである。また日本からのアウトソーソングも重要な役割を果たしてきた. しかしながら対日オフショア開発においては,低スキル者でも対処可能な下流工程が圧倒的に多く,高度な 知識・スキルが求められる上流工程に携わる機会は乏しい。中国側からみると下流工程再委託は収益性の点 から魅力的であるが,元請(SI)の経験・実力を蓄えることにつながりにくい面がある。またスキルアッ プを願う中堅システム技術者にとりモチベーションの維持が難しくなる。さらに先述の通り,中国商务部[17] は日本への過度の依存を課題として掲げている。実際に昨今の金融危機の影響により受注が激減したソフト ウェア企業が続出した.なお中国の中小ソフトウェア業は零細規模の会社が多く 2002 年時点で従業員 50 人 以下が 67%を占めている。 ここで中国ソフトウェア業側の対日オフショア開発の捉え方について,日本企 業の子会社・合弁企業,中堅・大企業ならびに中小企業に分け述べよう。第 1 に日本企業の子会社・合弁企 業は原則として下流工程に携わる.業務変動は比較的小さいが,システム・インテグレータとしての組織的 技術力は蓄積されにくく,組織的な技術力を示す CMMI 取得には不利である。 一方,個人情報保護等のセキ ュリティ関連の認証には力を入れている.また親会社との取引条件が比較的恵まれているため,グループ外 の受注に必ずしも積極的でない。第 2 に中堅・大企業は既に国際基準や政府認証を取得し中国市場でSI業 者としての地位を築いているが,技術的・収益的に魅力があるオフショア開発案件を主に元請として選択受 注する傾向がある。第 3 に中小ソフトウェア業については大半が,日本のSI会社から下流工程を受注して いるが,一部企業は日本に営業・開発拠点を設け,SIや上流工程への参入を目指している。彼等にとりオ フショアは収益的に魅力がある一方,業務量の変動が大きくなりやすいため,「ラボ契約」など一定期間内の 発注保証を求めることも多い。この他にソフトウェアパッケージの開発に取り組んだり,組込み系ソフトウ ェア生産への進出を考えたりしている企業もある。 4-2 操業モードと成長戦略 対日オフショア開発に携わる中国企業の操業モードは概ね次のように類型化される(図2 参照)。 a オフショア下流モード:日本のIT企業から下流工程を再委託する。下請型。 b 中国下流モード:中国国内のIT企業から下流工程を再委託する。下請型。 c オフショアSIモード:日本拠点において日本のユーザのシステム開発を元請・一貫開発(SI,システム・ インテグレーション)し,主に中国国内で開発する。 d 中国SIモード:中国のユーザのシステム開発を元請・一貫開発する。 4-3 操業モードの変更に伴うコスト 第 1 にオフショア下流から中国下流への変更は比較的容易である。大連などオフショア拠点には多くのI T企業が立地しており,互いに要員を融通しあうことが可能である。ただし日本語能力,業界や企業に特有 な慣行・スキル等の取引特殊資産は使う機会を失う。逆に中国下流からオフショア下流に変更するには,取 引特殊資産を獲得する必要がある。第2 にオフショア下流からオフショアSIに変更するためには営業面と

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技術面での壁を克服しなければならない。技術力底上げには,上流工程を担当できるSE,経験豊富なプロ マネを育成(採用)するのみでなく,開発環境整備など組織的技術を強化する必要がある。ただし移行期に 十分な受注が期待できないなど機会費用の発生が避けがたい。第3 にオフショア下流から中国SIの変更の 場合も,営業面と技術面での壁を克服しなければならない。まず営業面については,中国も日本同様に人間 関係が重視され,やはり移行期に十分な受注を期待するのは難しい。第4 にオフショアSIから中国SIへ の変更については,技術面での問題はなく,営業面での壁も比較的低いとみられる。というのはオフショア 開発でSIの事績を挙げた企業は,中国においても高く評価されているからである。ただし日本語スキル, 日本企業独特のスキル等の取引特殊資産が生かせない。第5 に中国下流から中国SIへの変更では,営業面 と技術面の壁がある。技術面は先のケースと同様,人材育成と組織的技術力向上が必要である。 図2 中国企業の成長戦略と操業モード 4-4 数値例にもとづくシミュレーション 第 2 節のモデルにもとづき,初期状態で対日オフショア(下流工程)に携わっている企業を想定してシミ ュレーションする。市場リスクとして為替変動,日本並びに中国市場の単価変動を,技術・知識リスクとし ては生産性変動リスク(危険係数)をそれぞれ勘案する。主なパラメータは表 1 の通りである。 パラメータ 備考 日本市場 SE契 約人月単価 初期値 800 千円,年間成長率は期待値 0%,標 準偏差 1%の正規分布に従う. 日本市場 PG契 約人月単価 初期値 600 千円,年間成長率は期待値 0%,標 準偏差 1%の正規分布に従う. 経済調査会『積算資料』2010 年 10 月号 (東 京都) 上級 SE 842 千円,SE 740 千円 PG 625 千円 中国 SE労働コ スト 初期値 8 千RMB,年間成長率は期待値 12%, 標準偏差 1.2%の正規分布に従う. 中国 PG労働コ スト 初期値 6 千RMB,年間成長率は期待値 12%, 標準偏差 1.2%の正規分布に従う. 『中国統計年鑑 2008』(遼寧省)より 2010 年水準を定め,SE対PGの人数比を 1:2 として初期値を算出. 為替 RMB/U S$ 初期値 6.7 RMB/$,年間成長率は期待値-3%, 標準偏差 0.3%の正規分布に従う. 2004 年以降の平均成長率 -3% 為替 円/US$ 85 円/$,100 円/$,110 円/$の3つのシナ リオにもとづき平均回帰過程を想定. 危険係数 対数平均 0.09,対数標準偏差 0.24 の対数正規 分布に従う.ただし中国下流は対数平均 0.04, 対数標準偏差 0.24 の対数正規分布に従う. Yang et al.(2008)にもとづく. 表 1 シミュレーションのパラメータ 4-5 シミュレーション結果 85 円/$、100 円/$、110 円/$を中心として推移する場合、各操業モードの企業価値見通しを図 4 に示 す。現行操業モード(オフショア下流)は、数年後にFCFがゼロ未満になる可能性が高い。またオフショ アSIモードは,上流工程を担当し大きな FCF を生み出すことができるが,10 年以内に同様に FCF がゼロを 市場 日本市場 中国国内市場 元請型 システム・イ ンテグレーシ ョン(SI) を担当 サービス 下請型 下流工程を中 心に担当 d 中国SI a オフショア下流 (初期操業モード) b 中国下流 c オフショアSI

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下回る可能性が高い。一方で,中国下流モードでは FCF 自体はそれほど大きくないが堅調なFCFの伸びが 予想され,中国SIモードでは中国市場の成長を最も有効に享受することが期待できる。100 円/$並びに 110 円/$の場合も基本的な傾向は同じである。 オフショア下流モードにとどまると企業価値(NPV)はゼ ロ未満になるが、操業モードの切替オプションを考慮すると改善する。オフショア向け操業モードと国内市 場向け操業モードはともに不確実性が高いが,両者の間に正の相関関係が認められず,かつ切替費用が合理 的な範囲内に収まると考えられる。切替オプションを行使するとマイナスのFCFを甘受する期間が限定さ れるので,収益は大きく改善する。オフショア下流から国内下流,オフショアSIから国内SIへの変更は 比較的容易であるので,中国企業はそれぞれ切替オプションを保持していると言える。 図 3 中国ソフトウェア会社の収益見通し(オフショア下流モード) 次に各操業モード毎にモンテカルロ・シミュレーションを行う(図4)。オフショア下流モードを続ける会 社は企業価値はマイナスになる可能性が高く,不確実性も高い。これに対しもし切替オプションを保持して いると,企業価値がプラスに転じるだけでなく不確実性が大幅に低下する。またオフショアSIモード(含 む切替オプション)は,生産性リスクの大きなSI業務を担当するため不確実性が大きいが,オフショア下 流(含む切替オプション)と比較すると,これより企業価値が低くなることは少ない。 図4 各操業モードの企業価値分布図 5 我が国地方ソフトウェア産業の活路 地方ソフトウェア産業が首都圏で発注される業務の「持ち帰り開発」を進めることが、地域における人的 資源地区積につながる。地方のソフトウェア会社からみると、需要が集中する首都圏業務へ参画するには、 要員をオンサイトに派遣するか、ニアショアで持ち帰り開発をするしかない。ニアショアの盛んな地域は首

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都圏に比べ労務費が安価で、事務所賃貸料など経費が割安な地方である。本節ではSI能力をもち「持ち帰 り」開発の実力を備えた中核的な地域ソフトウェア会社を念頭に、その戦略を以下の手順で定式化する。 5.1 地方ソフトウェア会社の操業モード 操業モードとして3×3 の 9 通り考えられるが、本研究では首都圏市場からのSI会社を経た持ち帰り開 発であるニアショア、SI会社の首都圏拠点への要員派遣であるオンサイト派遣、中国市場からの中国SI 会社を経た持ち帰り開発である逆オフショアの 3 つの操業モードを定式化する。逆オフショアにおいては、 開発要員の多くは中国語仕様にもとづき日本国内で作業する。日本人に親しみやすい漢字が使われるので、 中国語理解は教育研修を経れば十分に対処可能と考えた。また地域SI、地域再委託、地域内派遣の3 つの 操業モードは、大変重要なものであるが、これだけではソフトウェア産業が十分な競争力を確保するだけの 規模に達しないので対象にしない。また中国の官公庁や企業に対するSI(元請)は、語学力の問題や営業 活動の難しさ等からまだまだ日本企業の実例が少ないことから対象外とする。さらに中国市場に向けた派遣 契約は、かなりの語学力を要求され、組織的に実施することは現実的でないと判断した(図5 参照)。 図5 地方ソフトウェア会社の操業モード 5.2 切替オプションの定式化 要員規模年間120 人月の開発部隊を想定しよう。初期操業モードはオンサイト派遣である。教育後、派 遣要員として経験を積ませる。ここでは派遣受注単価が低いため、実際の雇用コストとの関係で逆ザヤが生 じてしまうこともある。数年後、この開発部隊はオンサイト派遣、ニアショア、逆オフショアという 3 つ の操業モードの中で最も収益性が高いものを採用する。例えば中国労務費の高騰並びに中国市場活況という 状況が起きた場合、中国市場への参入機会が生じる。また中国労務費の高騰並びに中国市場の活況が一定の とき、首都圏市場(ニアショア)の再評価が生じる。さらに務費上昇並びに中国市場の活況が不十分な場合、 首都圏市場(ニアショア)は不調のため派遣を継続する。 各操業モードの特性並びに切替費用をみよう。オンサイト派遣は、技術者の契約単価が委託(請負契約ま たは準委任契約)に比較し最大で 3 割ほど安くなる。SI会社側の指揮命令系統に入るので、生産性リス クや規模変動リスクは原則として負担しない。いわば「低リスク低リターン」である。次にニアショア再委 託モードでは生産性・規模変動リスクをある程度まで負担する。SI契約ではないものの、現実には仕様確 定やシステム概要設計などの上流工程に派遣されて、SI会社の技術者とともに将来自社が受託する部分の 設計業務に携わるからである。技術者の契約単価は、東京地区の市場価格に準じた値に定まる。いわば「高 リスク高リターン」である。 逆オフショアモードも生産性・規模変動リスクをある程度まで負担する。技 術者の契約単価は中国市場における市場価格に準じる。しかし人民元建ての契約になることが予想され、為 替リスクを負担しなければならない。3 つの操業モードの中では「高リスク高リターン」と言えるが、アジ ア新興国の巨大市場を考えると将来性が豊かである。 5.3 数値例のよるシミュレーション結果 最初に日本市場の技術者契約人月単価、中国労働コスト、為替、危険係数について確率変数でなく定数と して捉え、オンサイト操業モード、ニアショア、逆フショアについて10 年間の収益性をみてみよう(図 6 参照)。 今回の数値例では日本市場の単価上昇はないとみているので、オンサイト派遣の収益性は為替水準にかか わらず10 年間同じレベルである。またニアショアは、受注単価が中国ニアショアの 1.2 倍と首都圏水準の

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0.9 倍のいずれか低い方と置いているので、前者が後者を上回る間は受注単価がアップする。この数値例の 場合は2~3年間は収益水準が上昇し、あとは一定となる。また逆オフショアの場合、現在の日中労務費の 格差の下では収益的に大幅な赤字だが、利益が生じる状況が考えられる時期を迎えるのは意外に早く、85 円/$では第5 年目、100 円/$では 4 年目まで、110 円/$では 3 年目にこうした可能性が生じる。 図6 操業モードの収益性(円高継続,85 円/$) 次に技術者契約人月単価、中国労働コスト、為替、危険係数を確率変数として捉え、オンサイト、ニアシ ョア、逆オフショアについて第5 年目の収益状況の分布をみてみよう。先に 10 年の長期トレンドを述べた が、少なくとも第 5 年目までは中国の労務費上昇が続く可能性が高いと考えられるからである。オンサイ ト派遣は派遣契約であるため工数増加リスクを原則として負担しないことに加え、為替水準などの確率変数 の影響をあまり受けないため、分布のバラツキが明らかに小さい。また逆オフショア並びにニアショアは、 かなり収益分布の幅が広がっている。両者を比べると、この時期に限ってみると、ニアショアの方が逆オフ ショアよりも25 パーセンタイル、50 パーセンタイル(中央値)、75 パーセンタイルとも高収益値となっ ているものの、円/$が円安に振れるほどその違いは小さくなることがわかる。逆に切替オプションの効用 が最も大きいのは、両者のブレが大きい円高が継続した場合(85 円/$)である。 6 結果と考察 第 1 に対日オフショア開発に携わる中国ソフトウェア業は将来に向けいかなる選択肢をもつのかだろうか。 本研究では中国企業がとりうる操業モードとして,オフショア下流,オフショアSI,中国下流,中国SI の4つを収益性,リスクの面から比較し,操業モード間の「高度化」並びに切替費用を検討した。その結果、 オフショア下流モードを続ける中国ソフトウェア企業の企業価値はマイナスとなる可能性が高いが、中国市 場への切替オプションを保持するならプラスに転じる。またオフショアSIの方がオフショア下流に比べ収 益的に好ましく,「高度化」が「切替オプションの高質化」につながることが確認された。対日オフショア開 発に携わる中国ソフトウェア企業が将来にわたり持続的成長を続けるため以下の指摘ができる。まず切替オ プションの実効性を高めるべくオフショア市場から国内市場への切替コストを下げる努力を続けるべきであ る。日本企業との取引でのみ価値がある取引特殊的な資産でなく,国際基準に沿ったスキル・技術目標を掲 げる必要がある。次に機会を見て対日拠点を築くなどしてSI経験を重ね,中国市場にSI業者として進出 する可能性を追求することが望ましい。 第2 に地域ソフトウェア会社からみて、ニアショア開発は将来性があるのだろうか。また中国市場の需要 を取り込むことは現実的だろうか。まずニアショアから安定的収益を得る可能性は十分にある。中国労務費 の高騰が続くなら、受注単価がオフショアに引きずられて下がる事態は解消するだろう。またオフショア進 展により「持ち帰り開発」が広く認められたことは追い風である。ただしオフショア開発は、請負契約であ り技術・知識リスクが高い。技術力向上に努めないと、大きなリスクを抱えることになるだろう。一方、中 国市場の需要を取り込む戦略は決して非現実的ではない。中国における労務費上昇については国内輸出産業 の競争力を低下させる面がある一方、省力化を目的とした情報システム導入が進むという観測もある。

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地方ソフトウェア業が下請けに頼ったビジネスモデルから脱却し、地域社会のIT化要請に応えるには、 上述のように国際的サプライチェーンの中で存在感を高めるとともに、「ものづくりとITの融合」視点か らの個別プロセスデザイン力、激動する技術環境を踏まえたソリューション提案力を蓄積することが求めら れる。一方、我が国大手SI会社は、安定した分業生産体制を継続するため、為替変動の影響を受けず異文 化リスクの小さいニアショアの重要性を再確認すべきである。我が国ソフトウェア産業の競争力という視座 からみると、生産コスト(労務費、オフィス賃貸料)が割安な地方においてIT人材蓄積が進まないと、今 後のアジア市場進出に際しコストが鍵となることを鑑みると、機会損失につながりかねない。

【参考文献】

Jones, C.,(1998). Estimating Software Costs. McGraw-Hill .(邦訳「ソフトウェア見積りの全て」,富 野壽訳,構造計画研究所,2001 年,共立出版)

Yang , Da et al.(2008) . ” A Survey on Software Cost Estimation in Chinese Software Industry ” . Proceedings of the Second ACM-IEEE international symposium on Empirical software engineering and measurement

神谷芳樹・塚本英昭(2008)."新しい発展の段階を迎えた中国のソフトウェア産業”「SEC ジャーナル」,15, pp.6-11 坂下栄人,中山興(2006).”中国における企業借入のパネル分析”.日本銀行ワーキングペーパーシリーズ 情報サービスのパフォーマンスベース契約に関する研究会(2009).「情報サービスのパフォーマンスベース契 約に関する調査研究報告書」 http://www.meti.go.jp/press/20090731004/20090731004-2.pdf 、2010 年 8 月 1 日閲覧 情報処理振興機構[IPA](2006,2007,2008,2009).「ソフトウェア開発データ白書」 情報処理振興機構[IPA](2010).「IT人材白書 2010」 高橋信弘, 李美多(2006).”日本の情報サービス産業における海外アウトソーシングの進展”.「経営研究」57-3 , pp.79-97 中国商务部(2005).「中国软件出口研究報告 2005」.人民出版社 中国産業地图編集会,上海市信息化委員会(2006).「上海软件产业地图 2006」.社会科学文献出版社 日本情報処理開発協会(2003).「わが国が行う情報技術研究開発のあり方に関する調査研究(その7)」

〈発 表 資 料〉

題 名 掲載誌・学会名等 発表年月 地方中小ソフトウェア業の課題 - 地域ニーズにどう応えるべきか ― 『商工金融』第 60 巻第 9 号 pp.4-20 平成 22 年 9 月 切替オプションの高度化 - 対日オフショア開発と中国ソフトウェ ア企業の戦略 - 日本リアルオプション学会『リア ルオプション研究』4 巻 1 号 pp.77-100 平成 23 年 2 月 国際的分業生産体制下における地方ソフト ウェア産業の活路 - 高まる不確実性と「ニアショア開発」 の中期的意義 ― 日本中小企業学会西武部会 平成 23 年 7 月

参照

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