4 5
私の「研究」履歴書
■音声×教育?
Q. 先生の研究分野は「音声データ処理」とのことですが、ど
のようなことをしているのでしょうか。
大学に来るまでは企業にいたのですが、そこでは主に、音声
認識に必要なニューラルネットワークを改善する研究をしてい
ました。今後は、教育に関する音声データ処理もやろうとして
います。今も東京大学のCoREFの先生と一緒に、グループワー
ク中の中高生にマイクをつけてもらって、学びの過程を音声認
識の技術で可視化する研究をやっています。ただグループワー
クでは、複数の生徒の声が同時に入ってくることで音声データ
が複雑になるので、その信号処理にも取り組んでいます。さら
に、滋賀大学教育学部と共同で、生徒と先生の発話から授業
がどれくらい活性しているかを可視化する研究も画策していま
す。以前は音声認識そのものの改善が会社への貢献になるので、
基礎の部分をかなりの時間を割いてやってきましたが、滋賀大
学に来てからは応用にフォーカスが当たってきているような気
がしますね。
■エンジニアとリサーチャーの壁
Q. 市川先生はなぜ研究者になったのですか?
そこに市川の人生があるんですよ! 中学生の頃からコン
ピュータやものづくりに興味があって。大学に入ったあとも、
航空工学を学びながらもその興味は衰えず、IBMにエンジニア
として入りました。でもこのままじゃだめだと数年で思って…
というのも、大きな企業のエンジニアはものをつくるといって
も自分のアイデアを活かせない。それがフラストレーションで。
そこで研究職になろうと考えるようになって。ただ、エンジニ
アとリサーチャーの壁がものすごく高いんですよ。ゼロからも
のを起こすのはものすごーく大変だった。けれども何のバック
グラウンドもないのに自分を売り込んで料理研究家になった妻
をみて、なんでも挑戦すればドアが開かれることを学びました。
そこで自分もまずは動こうと、社内の論文大会に参加して五年
連続で賞をもらったり、特許をとったり、週に一度大学に通っ
て学術論文を書いたりして、やっと会社の基礎研究所に異動で
きました。そのあとは思い通りの研究活動ができたと思います。
ずっとそこにいることもできたのですが、教育にもすごく興
味があったので、教える仕事をすることを次の目標にしたので
す。自分の子どもからも、教えるのがうまいと言われてそその
かされました(笑)。会社で学んだこともフィードバックした
かったし、大学にくれば好きな研究ができる。それで滋賀大学
に応募したら、偶然受かったわけです(笑)。
―確かに先生の講義は
わかりやすいと学生の
間でも評判です(笑)
ほ ん と に? う れ し い
なぁ!そう言ってもら
わないと自分でいうだ
けじゃちょっとね(笑)。
そういう言葉をきくだ
けでも励みになります。
■パニックモードになるな
Q. これからデータサイエンティストになる方々に一言メッ
セージをお願いします。
常にストレスを減らすような暮らしをして、アイデアが湧くよう
なマインドを持ってほしいです。「パニックモードになるな」って
いう言葉があって。パニックモードっていうのは例えば、テニス
をやっていて、相手に振り回されてボールを追っているだけになっ
てしまって何の戦略も考えられない状態のことを言うんだけど、
状況をコントロールできる状態に自分自身をもっていくことが大
事。状況をコントロールできるようにして、自由なアイデアが湧く
ような人間になってほしいなと思っています。
(聞き手 データサイエンス学部1期生/3年 江口公基)
企業のエンジニアからリサーチャーを目指すことは僕
にとって高い壁でした。
実は、その壁に挑戦する精神はゼロから料理研究家に
なった妻から学んだんですよ(笑)
■Interview 003
滋賀大学 データサイエンス学部 教授
市川 治
研究分野:音声データ処理
Introduction
コミュニケーションロボットの「Pepper」やスマートスピー
カーの「Amazon Echo」「Google Home」、パーソナルア
シスタントの「Siri」などのAIが用いられたデバイスが普及
してきている現代において、AIと人間を繋ぐ一番の媒体は
「音声」であり、その媒介を可能とする音声認識システムが
注目を集めています。いわばAIと人間の通訳ともいえるこ
の行為には音声をどのように正しく認識するか、音声デー
タをどのように扱うのか、などの音声データ処理技術が必
要不可欠です。このような技術の研究内容や、他の分野に
おいてどのように役立つのか、また、市川教授の研究者に
なるまでの道のりも含め赤裸々に語っていただきました。
データサイエンス2019.indb 4 2019/05/20 11:38:05