178 氏名(生年月日) 本 籍
学位の種類
学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件学位論文題目
論文審査委員
(28) スズ キ ヨシ ピコ鈴木吉彦(昭和
博士(医学) 乙第1275号平成4年5月15日
学位規則第4条第2項該当(博士の学位論文提出者)
糖尿病性神経障害における自律神経機能検査としての心拍変動指標 (主査)教授 大森 安恵 (副査)教授 丸山 勝一,太田 和夫論文 内 容 の 要 旨
目的 糖尿病性神経障害を有する患者では心拍変動幅の減 少が見られ,その定量化には様々な指標が知られてい るが,どのような指標が自律神経機能異常を最もよく 反映するかは定かではない.本研究は,従来報告され ているこれらの指標に独自に作製した指標を加え,糖 尿病性神経障害の程度と最も強く相関する指標を比較 検討し,より優れた指標を得ることを目的とした, 対象および方法 対象は40歳代糖尿病患者56名(男37名,女19名,イ ンスリン依存型9名,インスリン非依存型47名)であ る.各人の安静時と深呼吸時における心拍から30種の 心拍変動指標を作製し,起立時血圧降下度および神経 伝導速度に対する相関係数から各指標の神経障害に関 わる強さを比較した. 30種の心拍指標には,従来から知られていた指標群 の心拍数の最大値と最小値との差,RR間隔の変動係 数などの他に,分布を非正規分布として捉えてその幅 を示すヒンジ散布度(四分範囲:interquartile range とも言う)という新しい概念の手法を取入れ,これを 一指標として加えた. 結果 1.心拍数の最大値と最小値との差,最大値と最小値 との比,連続データの平方の平均値では,いずれも相 関係数が対照立時血圧降下度で0.33以下,対神経伝導 速度で0.20以下と小さく,有意な相関も少なかった. 2.深呼吸時の指標は安静時の指標よりも,対起立時 血圧降下度および対神経伝導速度とのいずれの関係に おいても,危険率5%以下の有意な相関係数を示す指 標の数が多かった. 3.対応する心拍数指標とRR間隔指標とを比較し た場合,後者のほうが前者よりも,対起立時血圧降下 度および対神経伝導速度とのいずれの関係において も,相関係数はより濯ぎい傾向を示していた. 4.深呼吸時RR間隔のヒンジ散布度は,対起立時血 圧降下度(r=0.41)でも,また対神経伝導速度(r= 0.50)においても,最も大きく有意な相関係数を有し ていた, 考察および結論 対神経伝導速度および興起立時血圧降下度に対し て,深呼吸時の指標は安静時の指標よりも有意な相関 をより多く示しやすく,RR間隔指標は心拍数指標よ りもより大きな相関を示しやすいことが分かった.ま た,全体として相関係数が大きかった指標はヒンジ散 布度を用いた指標であり,特に深呼吸時のヒンジ散布 度は,対起立時血圧降下度,対神経伝導速度の両者に 対して有意で最も大きな相関係数を有していた.これ は,ヒンジ散布度を用いた指標は,本来正規分布には そわない偏りのある心拍データ分布に対し,その分布 幅をより正しく反映している事や,不整脈に影響され にくい事などの優れた特徴を持っている為と推察され る. 以上より,本研究で扱われた計30個の指標のうち, 糖尿病性神経障害に最:も関連が強く,表現として優れ ている指標は,深呼吸時のRR間隔のヒンジ散布度で ある事を示した.このため今後この指標は,糖尿病の 一812一179 神経障害評価の一手法として広く応用されうるものと 考えられる.なおヒンジ散布度指標について検討した 報告はこれまでになく本研究が最初である.