専門委員の説明について―鑑定意見との役割分担に
関して―
著者
清水 宏
著者別名
shimizu hiroshi
雑誌名
東洋法学
巻
58
号
2
ページ
75-104
発行年
2014-12
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006918/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 《 論 説 》
専門委員の説明について
―鑑定意見との役割分担に関して―
清
水
宏
一.訴訟における専門的知見の導入 (一)専門訴訟の意義 いわゆる現代型訴 訟 ( 1 ) の一カテゴリーとして、たとえば、医療過誤訴訟、建築関係訴訟、知的財産権訴訟、IT関 係 訴 訟 な ど、 「 専 門 訴 訟 」 (2 ) と 呼 ば れ る も の が あ る。 す な わ ち、 こ の カ テ ゴ リ ー に 属 す る と さ れ る 訴 訟 に お い て は、 事 案 を 把 握 す る た め に、 裁 判 官 や 弁 護 士 が 通 常 有 し て い な い 法 律 以 外 の 高 度 の 専 門 的 知 見 を 必 要 と す る 事 件 で あ る。これら訴訟においては、まずもって事件そのものが複雑であり、事案の解明や争点の把握が困難であることが 多く、さらには、証拠の偏在現象も見られることから、通常の民事訴訟に比べて、その審理に多くの時 間 ( 3 ) と労力を 要することになることが指摘されてい る ( 4 ) 。そして、こうした訴訟は社会の高度化・複雑化に伴いさらに増加する傾 向にあり、適切かつ迅速な解決のために実効的な対策の必要性が強く指摘されてきた。わけても、これらの事件に東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 お い て は、 裁 判 所 や 弁 護 士 な ど が 適 切 に 専 門 的 知 見 を 訴 訟 に 導 入 し て い く こ と の で き る 訴 訟 手 続 の 構 築 が 検 討 さ れ、実施されてきた。 (二)専門的知見の導入方法 そうした専門的知見を訴訟に導入する方法としては、大きくは、裁判所がその導入に当たりイニシアティブを有 する場合である裁判所委託 型 ( 5 ) と、当事者がそうしたイニシアティブを有する場合である当事者委託 型 ( 6 ) とに分けるこ とができ る ( 7 ) 。前者は、専門的知見を提供する専門家が、言わば「裁判所の補助者」として位置づけられ、裁判所が その者の選任や、意見を述べさせる事項の決定を行うものである。また、当該専門家については、裁判官と同様の 中立性や当事者からの独立性が強く要求されることになる。 こ う し た 裁 判 所 委 託 型 に 属 す る 制 度 の 内、 外 部 の 専 門 家 に 対 し て 専 門 的 知 見 の 提 供 を 求 め る も の と し て、 訴 訟 に お い て 専 門 的 知 見 を 導 入 す る た め の 最 も 代 表 的 な 制 度 で あ る 鑑 定〔 民 事 訴 訟 法( 以 下、 民 事 訴 訟 法 は 省 略 す る ) 二一二条以下〕がある。鑑定とは、鑑定人を証拠方法として、裁判所の知識・判断能力を補充するために特別の学 識 経 験 や 専 門 知 識・ 専 門 的 知 見 を 報 告 さ せ る 証 拠 調 べ を い う ( 8 ) 。 こ の 鑑 定 手 続 に お い て は、 裁 判 所 か ら 委 嘱 さ れ た 鑑 定 事 項 に つ い て、 鑑 定 人 が 口 頭 ま た は 書 面 に よ っ て、 裁 判 所 に 対 し て 鑑 定 意 見 を 述 べ る こ と( 二 一 五 条 一 項 )、 お よ び、 鑑 定 人 へ の 質 問( 二 一 五 条 の 二 ) を 通 じ て、 専 門 的 知 見 の 提 供 が 行 わ れ る。 ま た、 こ の 鑑 定 に 類 す る も のとして、裁判所が、必要があると認めるとき、官庁等または相当の設備を有する法人に鑑定を嘱託する鑑定の嘱 託(二一八条)という手続もあ る ( 9 ) 。上述の鑑定は、証拠方法として位置づけられることもあって、弁論主義の第三 テーゼとの関係から、当事者による証拠調べの申し出が必要とされ る )(( ( のに対して、この鑑定嘱託は職権でもできる
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 点で異なる。鑑定嘱託では、鑑定意見および鑑定書の説明を通じて、専門的知見の提供が行われる。さらに、裁判 所が、必要な調査を官公署、商工会議所、その他の団体に嘱託する手続である調査嘱託(一八六条)もある。この 制度では、嘱託を受けた官公署等が回答することで、専門的知見が提供されう る )(( ( 。 これらに対して、裁判所における常勤または非常勤の職員である内部の専門家から専門的知見の提供を受けるも のとして、まずは、専門調停委員の利用がある。すなわち、専門訴訟が提起された場合に、裁判所が職権で付調停 ( 民 事 調 停 法 二 〇 条 ) を 行 い、 民 事 調 停 委 員 と し て 任 用 さ れ て い る 専 門 家 に よ る 調 停 手 続 の 中 で 専 門 的 知 見 を 提 供 させることが、実務上の工夫として行われてい る )(( ( 。また、裁判官の命を受けて知的財産または租税に関する事件の 審理および裁判に関し必要な調査その他の事務を掌るものである裁判所調査官(裁判所法五七条)制度もある。た とえば、知的財産権分野の裁判所調査官は、特許庁審判官等の経験者や弁理士出身者から構成されてお り )(( ( 、必要な 調査を行い、また、意見を述べることなどを通して専門的知見を提供してい る )(( ( 。さらに、法律以外の専門的知見を 要する訴訟において、専門的知見に基づく説明を行う裁判所の補助者である専門委員制度(九二条の二以下)も、 これに当たる。専門委員は、その説明を通じて専門的知見を裁判所に提供することになる。 こうした裁判所委託型に対して、後者においては、当事者自らが自己の主張・立証に必要な専門知識を導入する べ く、 自 ら 専 門 的 知 見 を 提 供 す る 専 門 家 を 選 任 し、 ま た、 当 該 専 門 家 が 意 見 を 述 べ る 事 項 の 決 定 を 行 う。 そ し て、 この場合に当該専門家が委託してくれた当事者との関係で党派性を有することが多いとされる。 この当事者委託型に属する制度としては、まずは、いわゆる私鑑定がある。すなわち、私鑑定とは、正規の証拠 調べとしての鑑定ではなく、当事者の一方が裁判外で任意に学識経験ある第三者に依頼して、経験則についての専 門知識あるいは経験則についての事実判断をしてもらい、その報告を受訴裁判所に事実認定に供するために提出す
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 るものをい う )(( ( 。提出された私鑑定の取扱いについては、これが書面で提出された場合には書証として取り扱い、ま た、口頭で意見を述べる場合には、これを証人として取り扱うという実務上の対応がなされてい る )(( ( 。もっとも、こ うした実務による書証としての取扱いについては、私鑑定を引き受けた者の専門家としての適格性を争うことがで きず、また、鑑定人であれば認められたはずの忌避の権利(二一四条)が奪われることとなり、さらには、鑑定人 質問の権利(二一五条の二)を潜脱することになるという問題がある。したがって、私鑑定は、当事者としての陳 述の一部として取り扱うべきであ る )(( ( 。それから、特別の学識経験を持つがゆえに知ることのできた過去の具体的事 実について陳述する者である鑑定証人 (二一七条) もあ る )(( ( 。たとえば、 不法行為事件の被害者である原告を診察し、 治 療 し た 医 者 に つ き、 負 傷 の 状 況 を 報 告 さ せ る と き、 当 該 診 察 等 を 通 じ て 知 っ た 過 去 の 事 実 を 報 告 す る と と も に、 医者としての専門的知見をも加味することになるため、一般の証人と区別して取り扱われるものである。鑑定証人 の本質は証人であり、証人尋問の規定が準用され、尋問への回答を通じて専門的知見を提供することになる。その 他、事実の存否や価値の評価に関する争いについての判断を第三者に委ねる仲裁鑑定契 約 )(( ( などもある。この仲裁鑑 定契約に基づき、専門家による鑑定評価を得て、それを訴訟に提出することで、専門的知見を裁判所に提供するこ とにな る )(( ( 。 (三)専門訴訟の問題点-鑑定制度の問題 このように、民事訴訟制度においては、裁判所や当事者に対して専門的知見を提供する制度的枠組みが用意され てい る )(( ( 。そして、専門委員制度が導入される以前は、これらの中でも、専門的知見を要する問題について、専門家 である鑑定人が所見を述べ、これを裁判官が追思考可能であるかという見地から評価を行い、鑑定人質問による批
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 判的検討を経て、自由心証主義(二四七条)に基づいてその証拠力を自由に評価することで、正しい専門的知見を 導入することを保障する鑑定手 続 )(( ( が中核をなしてきた。 しかしながら、 この鑑定については、 運用の面での問題点が指摘されてい る )(( ( 。 すなわち、 鑑定を実施するに際して、 そもそも、問題となった専門的な争点について適切な鑑定人を確保することが困難であることが多く、また、鑑定 人 を 得 る の に 時 間 も か か る と い う 問 題 が あ る )(( ( 。 ま た、 鑑 定 書 の 作 成 に 時 間 が か か る こ と が 多 い の が 一 般 的 で あ る )(( ( 。 さらには、専門的知見を有しない裁判官が、専門家による鑑定意見を評価することが難しいという問題もあ る )(( ( 。く わえて、専門訴訟では、争点整理の段階など比較的早期に専門的知見を獲得することが必要であり、そのための制 度として、釈明処分としての鑑定(一五一条一項五号)もあるが、利用上の難点があり、ほとんど利用されていな いという問題もあ る )(( ( 。 このようなことから、鑑定制度の改革を含めた専門訴訟への総合的な対 策 )(( ( が求められるようになった。 二.専門委員制度について (一)導入の経緯 専門訴訟への対応強化については、二〇〇一年の司法制度改革審議会意見書において、さまざまな形態による専 門家の紛争解決手続への関与を確保するとともに、充実した審理と迅速な手続により対処することが必要であると の指摘がなされた。そして、審理期間の半減を目標として、民事事件一般についての計画審理の推進や早期の証拠 収集手段等の拡充といった訴訟制度全般にわたる改革に加え、 わけても専門訴訟に関しては、 「鑑定制度の改善」 「専 門委員制度の導入の在り方の検討」 、「法曹の専門性の強化」の実施が求められ た )(( ( 。そして、専門委員制度に関して
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 は、 「 各 種 専 門 領 域 に お け る 非 法 曹 の 専 門 家 が、 専 門 委 員 と し て、 そ の 分 野 の 専 門 的 技 術 的 見 地 か ら、 裁 判 の 全 部 または一部に関与し、裁判官をサポートする新たな訴訟手続への参加制度については、裁判所の中立・公平性を確 保することなどに十分配慮しつつ、それぞれの専門性の種類に応じて個別に導入の在り方を検討すべきである」と の提言がなされ た )(( ( 。 こうした司法制度改革審議会の意見を受け、法制審議会の民事・人事訴訟法部会では、専門委員制度の導入の是 非 )(( ( に加えて、導入した場合における専門委員の権限、そして関与に際しての手続が問題となっ た )(( ( 。具体的には、専 門委員の権限を争点整理に限定するか、和解や証拠調べへの関与も認めるかが議論され、また、専門委員の関与を 認めるに際して、当事者の同意を必要とするかについて議論がなされた。その結果、争点整理、進行協議、証拠調 べ、および和解という各局面において、専門委員が関与することとなり、また、争点整理、進行協議、証拠調べに おいては、専門委員の関与に際して当事者の意見を聴取するにとどめるものの、人証の尋問において発問する場合 お よ び 和 解 に お い て は 当 事 者 の 同 意 を 求 め る こ と と な っ た。 こ う し た 議 論 を 経 て、 「 民 事 訴 訟 法 の 一 部 を 改 正 す る 法律要綱」が決定され、二〇〇三年の第一五六回通常国会に当該要綱に沿った法案が提出された。そして、両院の 法務委員会において、専門委員の中立性・公平性の確保、手続の透明化等に留意することなどの附帯決議なされた 上で、本会議において提出法案の通り可決された。 (二)制度の概要 こうして導入された専門委員制度を概観しておこ う )(( ( 。 まず、専門委員の位置付けであるが、専門的知見を要する事実に対する裁判所および当事者等の理解を補助する
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 者 で あ り、 任 期 二 年〔 専 門 委 員 規 則( 以 下、 専 門 規 則 と す る。 ) 三 条 〕 の 非 常 勤 の 裁 判 所 職 員 と し て の 性 質 を 有 す る も の と さ れ る( 九 二 条 の 五 第 三 項・ 四 項 )。 そ し て、 専 門 委 員 は 最 高 裁 判 所 が 専 門 的 な 知 見 に 基 づ く 説 明 を す る た め に 必 要 な 知 識 経 験 を 有 す る 者 か ら 任 命 し( 専 門 規 則 一 条 )、 各 裁 判 所 に 所 属 す る こ と に な る( 専 門 規 則 四 条 )。 そ の 上 で、 受 訴 裁 判 所 が 当 事 者 の 意 見 を 聴 い て、 各 事 件 に つ き 一 名 以 上 を 指 定 す る( 九 二 条 の 五 第 一 項・ 二 項 )。 専 門 委 員 は、 裁 判 所 に 所 属 す る 中 立 的 な 専 門 家 と し て の 知 見 の 提 供 を 求 め ら れ る こ と か ら、 裁 判 官 に 関 す る 除 斥・ 忌 避・ 回 避 に 関 す る 規 定 が 準 用 さ れ る〔 九 二 条 の 六、 民 事 訴 訟 規 則( 以 下、 民 事 訴 訟 規 則 を 単 に 規 則 と 表 示 す る ) 三 四 条 の 九 〕。 も っ と も、 専 門 委 員 は、 同 じ く 中 立 の 立 場 で 専 門 的 知 見 を 裁 判 所 に 提 供 す る 鑑 定 人 と は 異 な り、 裁 判所内部の専門家であることから、その説明に際して宣誓は不要とされ、また、当該説明がそのまま証拠方法とし て認められるものではない。 つぎに、専門委員の関与方法であるについては、第一に、裁判所は、争点もしくは証拠の整理または訴訟手続の 進 行 に 関 し、 必 要 な 事 項 の 協 議 を す る に あ た り、 訴 訟 関 係 を 明 瞭 に し、 ま た は 訴 訟 手 続 の 円 滑 な 進 行 を 図 る た め、 必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いた上で、決定で、専門委員を関与させることができることとなっ て い る( 九 二 条 の 二 第 一 項 前 段 )。 当 該 説 明 に つ い て は、 手 続 の 透 明 性 を 図 る た め、 裁 判 長 の 訴 訟 指 揮 に 従 い、 書 面により、または、口頭弁論期日、弁論準備期日、もしくは進行協議期日に、口頭により行うことになる(九二条 の 二 第 一 項 後 段、 規 則 三 四 条 の 二 第 一 項 )。 そ し て、 裁 判 所 は、 手 続 保 障 を 充 足 さ せ る た め、 当 事 者 に 対 し て、 専 門 委 員 が 行 っ た 説 明 に つ い て 反 論 を 述 べ る 機 会 を 与 え な け れ ば な ら な い も の と さ れ る( 規 則 三 四 条 の 五 )。 な お、 期日外において専門委員の説明がなされた場合、裁判所書記官は、説明事項が訴訟関係を明瞭にするうえで重要で あるときは、当事者双方に当該事項を通知しなければならず、また、提出された書面の写しを送付しなければなら
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 ない(規則三四条の三) 。 第二に、裁判所は、証拠調べをするにあたり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要がある と認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で専門委員を手続に関与させ、専門的知見に基づく説明をさせるこ とができる(九二条の二第二項前段) 。この場合も、 期日外における専門委員の説明は当事者双方に開示され、 また、 意見を述べる機会が当事者に与えられることになる(規則三四条の三、 三四条の五) 。また、この場合において、証 人もしくは当事者本人の尋問または鑑定人質問の期日において専門委員に説明させるとき、裁判長は、当事者の同 意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について、専門委員が証人等に対し 直接問いを発することを許すことができる(九二条の二第二項後段) 。 第三に、裁判所が和解の勧試を行うに際し、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者 双方が立ち会うことのできる和解期日に、専門委員を関与させることもできる(九二条の二第三項) 。 その他、専門委員が遠隔地に居住しているなど裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、電話会議 システムを利用することができる(九二条の三、規則三四条の二第二項、三四条の七) 。 ま た、 受 命 裁 判 官 ま た は 受 託 裁 判 官 が 主 宰 す る 手 続 に お い て も 関 与 す る こ と が で き る( 九 二 条 の 七 本 文、 規 則 三四条の一〇) 。 なお、専門委員の手続関与につき、裁判所は、相当と認めるときは、申立てまたは職権により専門委員の手続関 与 を 取 消 す こ と が で き る( 九 二 条 の 四 本 文 )。 ま た、 当 事 者 双 方 の 申 立 て が あ る と き は、 専 門 委 員 の 関 与 を 取 消 さ なければならない(九二条の四ただし書き) 。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 (三)専門委員制度について考察する場合の基本的な視座 こうした専門委員制度について考察する際に、最も重要な視点としては、どのような局面で「誰が何のために専 門的知見を必要としているのか」というものであろ う )(( ( 。こうした大局的視点が定まってこそ、制度の在り方、運用 の在り方といったものが決まってくるのであり、まずは、こうした視点から専門委員制度について考察する姿勢を とることが有意義である。 その上で、留意点をいくつか挙げておくと、第一に、専門委員を通じた専門的知見の導入に際して、透明性を確 保することが必要であ る )(( ( 。すなわち、当事者の手続保障という観点からは、まずは、専門委員の説明内容を当事者 が正確に知ることができることが重要であ る )(( ( 。そして、当該専門委員の説明に対する当事者からの質問や反論の機 会を保障することで、専門委員の見解が無批判のまま裁判官に影響を与えているのではなく、きちんとした検証を 経て、内容の正当性・信頼性を担保されたかたちで導入されていることを明らかにしてこそ、専門委員制度に対す る信頼を維持できるのであ る )(( ( 。 第二に、専門委員の中立性・公平性を確保することが必要であ る )(( ( 。専門委員は、わけても裁判官に専門的知見を 提供することが予定されている。その意味では、上述のように裁判官の判断を補助する者であるということができ る。そして、 鑑定人と比べると、 訴訟における多くの局面で、 機動的に専門的知見を提供することが求められており、 裁判官に対する影響が比較的強いとみることもできる。そうした中で、専門委員の行う説明については、わけても その内容が自己に不利益と感じる当事者にとっては偏頗なものと映る可能性がある。そこで、 上述のように、 除斥 ・ 忌避・回避の制度をおくことによって中立性・公平性を確保することが図られてはいるが、さらに、専門委員を関 与させるにあたっても、その中立性などについて当事者の評価を尊重することが重要であ る )(( ( 。こうした当事者の意
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 向の尊重ということは、手続の性質によって考慮すべき程度も異なるた め )(( ( 、慎重な検討が必要である。また、説明 が与える影響を考慮しながらも、当事者の説明に対するニーズを考慮し、説明として許容される範囲を説明の行わ れ る 局 面 と の 関 係 で 検 討 す る こ と が 必 要 で あ る。 こ う し て「 専 門 委 員 に 人 を 得 る こ と 」 )(( ( も 制 度 に 対 す る 信 頼 を 高 め、その円滑な運用を図るためには大変重要であ る )(( ( 。 第三に、専門委員の専門的知見に基づく説明は証拠ではないため、その説明が裁判官の心証に直接的かつ不適切 な影響を与えることを排除する必要があ る )(( ( 。すなわち、専門委員の説明が裁判官の心証形成に代替するものであっ てはならない。というのは、専門委員は、証拠方法と位置づけられる鑑定人とは異なり、専門的知見を民事訴訟手 続に供給する手続的な工夫であって、その地位は上述のように裁判所の補助者的職員であることから、裁判官が事 実認定に際して、その基礎とすることのできる証拠資料とはなり得ないのである。そして、このことは、上述した 中立性・公平性の確保の要請と密接な関連性を有し、両者が相まって専門委員の行う説明が、特に当事者にとって 受け入れ可能なものとなり、制度の円滑な運用に資することになろう。なお、ここでは、あくまでも裁判官の心証 に代替することが禁じられるのであり、少しでも影響を与えることが禁じられるとするものではな い )(( ( 。 第四に、その他の専門的知見を導入する手段との関係を考慮する必要がある。すなわち、上述のように、専門的 知見の導入手段としては、専門委員以外に、鑑定、鑑定証人、専門家調停委員、裁判所調査官などがある。こうし た各種手段の法的性質や、それが利用される手続の性質などを適切に考慮して、使い分けをする必要がある。もっ とも、役割分担を徹底するあまり、専門的知見の導入が煩雑となり、必要以上の負担が求められることになるので は本末転倒である。したがって、複数の制度がいわば積層的な構造の下に実効的に機能するように配慮することも 必要であ る )(( ( 。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 三.専門委員の「説明」の意義 (一)立法の経緯からの検討 以上のような考察に基づいて、専門委員の行う「説明」の意義について考察してみる。 この 「説明」 の意義について考えるにあたり、 同じく専門的知見を訴訟手続に提供する鑑定人や裁判所調査官は 「意 見」を述べるのに対して、何故専門委員の場合に「説明」という文言になったかについて検討することが一つの出 発点となり得る。そこで、まずは、立法の沿革についてふれておきたい。 こ の 点 に つ い て は、 平 成 一 四 年 六 月 一 七 日 に ま と め ら れ た 民 事 訴 訟 法 改 正 要 綱 中 間 試 案 で は、 「 専 門 委 員 の 専 門 的な知識経験に基づく意見」との表現が提案されていた。この点については、既述のように、医事関係事件との関 係で、原告である患者側に立つことの多い弁護士から、医療界に対する不信感を背景として、専門訴訟では専門的 経験則自体に争いがあるところ、専門家の意見を聴くこととなると、裁判官はその意見により争点についての心証 を形成することとなってしまうことが想定され、それは、手続保障のない鑑定を行うようなものであるとの批判が なされ、専門委員制度の導入そのものに反対がなされ た )(( ( 。そこで、争点についての判断は裁判官自身が行うもので あり、専門員は争点の判断にわたる意見を述べてはならないこととして、最終的に「専門的知見に基づく説明」と いう文言が採用されることになった。そして、この文言の意味するところについては、専門委員の手続は裁判所が 適 切 に 訴 訟 指 揮 権 を 行 使 で き る よ う に す る た め の も の で あ る こ と か ら、 鑑 定 と の 区 別 を よ り 明 確 に す る た め、 「 説 明」という用語を採用したものであり、その実質は専門委員が専門的知見の提供をするものとの趣旨を明確にした ものであるとされ た )(( ( 。したがって、 この「説明」という用語の意味を考えるうえでは、 鑑定との区別を意識しつつ、
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 専門的知見の提供がどのようにあるべきかを検討する必要があるといえ る )(( ( 。 (二)専門家に説明を求める事項からの検討 こ う し た 点 を ふ ま え て、 「 説 明 」 の 解 釈 に つ い て 検 討 す る に、 つ ぎ に、 専 門 委 員 に よ る 専 門 的 知 見 の 提 供 は ど の ような内容であるべきかという点について検討する。これについては、いくつかの段階に分けて考えることができ る )(( ( 。 す な わ ち、 第 一 に、 ① 裁 判 所 が 適 用 す る べ き 経 験 則 を 一 般 的・ 抽 象 的 に 提 供 す る こ と が あ る。 す な わ ち、 「 こ うした経験則が存在しますよ」などと、専門的知見に関する情報の存在を知らせることである。第二に、②専門用 語を解説したり、当事者の主張の意味について解説をしたりすることがある。これは、裁判官や当事者の知らない 専門用語の意味などを解説することで、裁判官および当事者が主張の意味するところなどを理解できるように、詳 細な意味を明らかにすることである。第三に、③専門的経験則を事実に適用した一般的な推論結果を報告すること がある。これは、当該専門委員の関与している事件を離れて、一般論として、特定の経験則に一定の事実をあては めると、どのような帰結を引き出すことが可能であるかを、客観的に説明することである。第四に、④当該専門委 員の関与している事件における具体的事実を、経験則に当てはめた場合の推論を聴くことがある。これは、当該事 案の具体的事実関係を前提として、 専門的経験則を適用した場合、 どのような帰結を引き出すことが可能であるか、 自己の価値判断に基づいて示すことである。 これらのどの内容まで許容されるかについては、上述のように、専門委員の「意見」ではなく「説明」という文 言が採用された経緯に照らすならば、意見のような価値判断はもとより、推論をも含むものではなく、客観的知識 の提供にとどまるべきものとすることが考えられる。すなわち、①、②が説明の意味するところであるとする理解
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 が可能である。 ま た、 法 解 釈 の 出 発 点 で あ る 文 言 解 釈 に よ る こ と も 考 え ら れ る。 す な わ ち、 国 語 辞 典 に よ れ ば、 「 説 明 」 と は、 ご く 一 般 的 に は、 事 柄 の 内 容 や 意 味 を、 よ く 分 か る よ う に 解 き 明 か す こ と で あ り、 事 実 の 描 写 や 確 認 に と ど ま る 「 記 憶 」 と の 対 比 に お い て「 説 明 」 の 意 味 す る と こ ろ を 検 討 す る と、 事 物 が 何 故 こ の よ う に な っ て い る か と い う こ との根拠を示すことであるといえ、さらに、科学的研究の文脈では、個別事象を一般法則と初期条件から導き出す こ と で あ る と い え る。 そ こ で、 あ る 事 象 を 因 果 法 則 に よ っ て 演 繹 的 に 把 握 し、 こ れ を 報 告 す る 客 観 的 推 論 ま で が、 説明に含まれると理解することも可能であ る )(( ( 。すなわち、③までも含める見解である。 もっとも、こうした考え方を採用し、説明内容を限定的に捉えることについては、批判もないわけではない。す なわち、元々、 「説明」 と 「意見」とを明確に区別すること自体が難しいという問題があ る )(( ( 。また、実務上の経験 か ら、 専 門 訴 訟 に お け る 専 門 的 知 見 の 導 入 に 際 し て は、 具 体 的 事 実 を 離 れ た 一 般 的 な 説 明 は ほ と ん ど 意 味 が な く、 当 該 事 案 に お け る 具 体 的 事 実 を 経 験 則 に 当 て は め た 場 合 の 推 論 こ そ が 求 め ら れ て い る と い う 事 情 も あ る よ う で あ る )(( ( 。 こうしたことから、専門訴訟における専門家の説明には、争点についての見通しを付けるための説明を求める場 合のように、具体的事実関係に専門的経験則を当てはめ、評価的な要素を加えた「評価的説明 」 )(( ( も不可避であると して、これを含める見解もあ る )(( ( 。 たしかに、敢えて「説明」という文言を採用した立法の経緯や、わけても医事関係訴訟において専門家に対する 不信が未だなお存在することに鑑みれば、 「説明」の意義はある程度限定的に捉えるべきとも思われる。もっとも、 いわゆる「評価的説明」が実務上の工夫として行われていることは、実際上のニーズに基づくものであり、一概に
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 否定してしまうべきではない。 そこで、単純な択一的課題としてこの問題を考察するのではなく、専門委員が説明を行う局面ごとに、どこまで の説明が許容されるべきかという観点で検討するべきである。 (三)専門家の関与する局面からの検討 専門委員の関与する局面は、上述のように、イ 争点整理の場面、ロ 進行協議の場面、ハ 証拠調べの場面、ニ 和 解 勧 試 の 場 面 が あ り、 こ れ ら に 加 え て、 理 論 上 は、 ホ 判 決 作 成 の 場 面 も あ る )(( ( 。 こ れ ら の う ち ホ の 局 面 に つ い て は、 口頭弁論終結後であることから、上述の基本的視座の内、専門家の関与の透明性の点で問題があり、また、心証形 成に影響を与える可能性が大きいことから、これも説明が裁判官の心証形成に代替する者であってはならないとい う命題に抵触するおそれがあり、妥当でな い )(( ( 。こうしたこともあってか、現行法では採用されず、イ~ニまでの範 囲となった。こうしたことを前提とし、専門委員の関与の在り方が議論されている。 この点につき、一つには、専門委員の関与は、本来争点整理に限定されるべきものであるから、証拠調べおよび 和解については謙抑的であるべきであるとする見解があ る )(( ( 。すなわち、イおよびロの局面では専門委員が比較的積 極的に訴訟に関与し、説明を通じた専門的知見の提供をある程度広く許容し、それが裁判官の心証に影響を与える ことも肯定するのに対して、ハ、ニの局面では、専門委員の説明はあくまで一般的なものにとどめるべきであると する見解である。この見解は、専門委員の説明と鑑定との役割分担を重視する考えでもある。これに対して、専門 知識が必要な局面は、争点整理に限定されないとして、証拠調べや和解においても専門委員の積極的関与を認める べきであるとする見 解 )(( ( もある。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 後者の見解からは、前者に対して、たとえば証拠調べへの関与が裁判官の心証形成に影響を与える可能性につい て、極端なケースを想定してそうしたデメリットを云々すべきではなく、専門委員の中立性や専門的知見の導入に 関する透明性により、そうした不都合は想定されないとの批 判 )(( ( や、訴訟実務における心証形成の実体に鑑みて、主 張段階と証拠調べ段階とを時期的に分離して、証拠調べ段階においてのみ心証を採ることができるというような硬 直的な考え方は訴訟の実情に合わな い )(( ( とする批判もある。 もっとも、こうした批判は、そもそも、専門委員は、鑑定人に代替するものではなく、あくまでも争点整理を補 佐 す る 者 と い う 位 置 付 け で 議 論 が な さ れ て き た )(( ( こ と を 軽 視 し て い る き ら い が あ る の で は な い か と 思 わ れ る。 ま た、 証拠調べや和解における専門委員の説明が裁判官の心証形成に及ぼす影響は直接的でありうるのに対して、争点整 理における説明は証拠調べによる事実認定の対象の絞り込みということでは、心証形成への影響は間接的なものに とどま る )(( ( 。さらに、そもそも専門委員制度も民事訴訟法上の制度である以上、民事訴訟の構造に適合的であるべき であるとこ ろ )(( ( 、集中証拠調べの段階では専門的知見の導入方法として鑑定制度が存在するのであり、それによるの が民事訴訟法の予定する審理構造にふさわしいと解すべきであ る )(( ( 。その上、専門委員の説明については反論の機会 が与えられるものの、鑑定人質問と比べると同等の手続保障が与えられるか不明であること、証拠調べでの説明が 弁論の全趣旨として扱われると、裁判官の心証を代替するおそれがあること、専門委員の説明には記録化の義務付 けもなく、宣誓も不要であるなど、大きな違いがあり、専門委員の説明を安易に鑑定に代替させることは問題であ る )(( ( 。加えて、 後者の見解は、 前者の見解について、 イ、 ロについては一般的な説明のみを認め、 ハ、 ニについては、 ほとんど関与を認めないかのようにきわめて制限的にとらえているかの感があるが、前者の見解も現行法を前提と する以上、ハ、ニについて専門委員の説明を全く認めないわけではなく、イ、ロとの比較において、謙抑を求める
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 に過ぎな い )(( ( 。その他、和解において専門委員の説明を受けて形成された心証が、和解不調となった場合、判決のた めの心証として利用されるとき、かつての和解兼弁論に対して抱かれた懸念がここでも妥当しないわけではな い )(( ( 。 専門委員の関与する局面の内、争点整理・進行協議においては、そこでの議論を活性化 し )(( ( 、適切に争点を把握す ることで、もって効率的な審理を実現するためにも、専門委員が機動的に的確な専門的知見を提供することがきわ めて重要である。これに対して、 証拠調べの段階においては、 原則として鑑定を通して専門的知見を得ることとし、 専門委員の説明は、その補完と位置づけることができれば、専門的知見を導入するための諸制度の関係の明確化に も資するといえよう。 したがって、前者のように①②の局面においては専門委員の説明の内容を比較的緩やかに解し、③④の局面にお いては、 鑑定に代替することや裁判官の心証に代替することを避けるためにも、 比較的制限的に捉えるべきである。 (四)小括 ①争点整理期日・進行協議期日における専門委員の説明 このように解するならば、まず、争点整理期日・進行協議期日における専門委員の説明は、裁判所および当事者 が専門的知見を要する問題を適切に理解して、争点整理や進行協議を行うのに必要な限りにおいて、上述した①専 門的経験則の一般的提供、②専門用語の解説、③専門的経験則を用いた客観的推論のみならず、④いわゆる評価的 説 明 ま で も、 「 説 明 」 と し て 行 う こ と が で き る も の と 解 す る )(( ( 。 な お、 評 価 的 説 明 を 行 う 際 に は、 当 事 者 に そ の 点 に ついて教示を行い、理解を求めておくのが望ましいであろ う )(( ( 。 その上で専門委員の説明することになる事項としては、主張の整理、証人尋問事項の整理、鑑定事項の整理、鑑
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 定人の選 定 )(( ( 、証人尋問や鑑定を実施する次期などが挙げられる。また、弁論準備手続期日において、書証の取り調 べ(一七〇条二項)をする際に、専門委員の説明を聴くことも、争点整理のための説明と解され る )(( ( 。さらには、専 門文献や私鑑定の意味を明確にしたり、その記述内容の評価の説明を求めることも可能である。 な お、 専 門 委 員 の 説 明 に 関 し て 当 事 者 か ら 異 議 が 述 べ ら れ る よ う な 場 合 に お い て は、 釈 明 処 分 と し て の 鑑 定 (一五一条一項四号)によってその当否を明らかにすることも考えられよ う )(( ( 。 ②証拠調べ期日における専門委員の説明 繰り返しになるが、この段階における専門的知見の導入方法は、原則として鑑定である。費用の問題などを考え ると、鑑定以外の方法は一切認めないとすることは合理的ではないにしても、その潜脱がなされないようにするべ きである。 したがって、 この局面において専門委員の説明は、 基本的に上述の①および②に限定されることになると解する。 ③の客観的推論についても、抽象的な一般論として行うのであれば、許容する余地もないではないが、謙抑的であ るべきである。具体的には、鑑定意見や証言に現れた用語の意味内容を明らかにすることを中心として、裁判所や 当事者が鑑定意見、証言、書証を理解する補助的な説明をすることになる。 なお、証拠調べの段階において、争点整理の段階では予想できなかったため、裁判所も気付かず、また、当事者 も主張していない争点に専門委員が気付いた場合、専門委員がその点を説明によって明らかにすることが許される かという問題がある。こうした場合に証拠調べの段階であることをもって、その説明を許さないとするのは行き過 ぎであり、適正な裁判の理想にも違うであろう。そうした場合には、裁判長が釈明権を行使する前提として、説明 を行うものとみて肯定するべきであ る )(( ( 。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 ③和解期日における専門委員の説明 和 解 期 日 に お い て は、 当 事 者 間 の 合 意 形 成 に 資 す る こ と を 目 的 と し て、 専 門 委 員 の 説 明 が 行 わ れ る こ と に な る。 その文脈では、和解による紛争解決の実効性の観点から、専門委員の説明を広く捉えることにも合理性がないわけ ではない。しかしながら、上述したように、仮に和解が不成立であった場合に、そこで形成された心証がその後の 証拠調べ等にどのように影響するかという点で疑問なしとはなしえない。したがって、この局面における専門委員 の説明は、証拠調べ期日におけると同様の内容ということにな る )(( ( 。 (五)説明の弁論の全趣旨としての斟酌 なお、専門委員の行った説明を弁論の全趣旨として事実認定に用いることができるかという問題もある。わけて も、争点整理手続や進行協議期日において行われた評価的な説明が、弁論の全趣旨として心証形成に用いられるこ とが認められるかは、重大な問題である。この点について、専門委員の説明は、当該専門委員が関与した弁論準備 手続等の結果陳述により口頭弁論に上程されれば、弁論の全趣旨となり、事実の認定に当たってこれを斟酌するこ とができるとの見 解 )(( ( も存在する。たしかに、理論的には専門委員の説明も口頭弁論に現れた一切の事情として取り 扱うことが可能であり、弁論の全趣旨に含めることが解釈上できないわけではない。しかしながら、弁論の全趣旨 は 当 事 者 の 主 張 の 内 容、 態 度、 訴 訟 の 情 勢 か ら 当 然 す べ き 主 張・ 証 拠 の 提 出 を 怠 っ た こ と、 な ど 口 頭 弁 論 に お け る一切の積極・消極の事情を指すものであ り )(( ( 、当事者が口頭弁論において発信する情報に限定することが相当であ る )(( ( 。また、そもそも、専門委員の説明が鑑定の潜脱にならないようにすべきであり、専門委員の説明が裁判官の心
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 証に代替しないようにすべきことに鑑みれば、専門委員の説明を弁論の全趣旨として考慮するべきではないと解す る )(( ( 。 四.結びに代えて 以上により、現行民事訴訟法の構造を前提とするならば、専門委員の説明は、争点整理手続期日や進行協議期日 においては、専門的経験則の一般的な提供に加えて、具体的な事案を前提とした推論である評価的説明にまで及ぶ ことが許容されるものと解する。これに対して、 証拠調べ期日や和解期日においては、 裁判所や当事者が鑑定意見、 証言、書証を理解する補助的な説明をすることにとどめるべきである。 なお、こうした専門委員の説明について考察するに際し、民事訴訟では当事者主義が原則であることから、当事 者による専門的知見の収集の努力を重視するべきであるとの指摘もあ る )(( ( 。たしかに、専門的知見導入の最たる方法 である鑑定が証拠方法とされ、弁論主義が原則であることなどに鑑みれば、当事者や訴訟代理人弁護士が専門的知 見を提供するための努力というものの重要性は言うまでもないであろう。しかしながら、そうした専門的知見への アクセスが容易ではないという事情も無視できないのではないだろうか。そうした観点からは、当事者が証拠や情 報を収集する制度の一層の拡充を図るか、あるいは、専門参審制度へと展開するこ と )(( ( を考える必要もあるものと思 われる。 以上、
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 ( 1) 現 代 型 訴 訟 と は、 た と え ば 製 造 物 責 任 訴 訟、 医 療 過 誤 訴 訟、 環 境 訴 訟、 会 社 訴 訟 の よ う に、 対 象 と す る 紛 争 が 複 雑 で あ る、 専 門 的 で あ る、 巨 大 で あ る と い っ た 特 質 を 有 し、 伝 統 的 な 事 件 類 型 で あ る 土 地 所 有 権 を め ぐ る 訴 訟 や 動 産 売 買 を め ぐ る 訴 訟 と は 異質なものの一般的な呼称である。小島武司 「現代型訴訟の役割と特質」 三ヶ月章=青山善允編 『民事訴訟法の争点 [新版] 』(有 斐 閣、 一 九 八 八 年 ) 二 八 頁。 現 代 型 訴 訟 に 関 し て は、 な お、 徳 田 和 幸「 現 代 型 訴 訟 の 役 割 と 特 質 」 三 ヶ 月 章 = 青 山 善 允 編『 民 事 訴訟法の争点[第三版] 』(有斐閣、 一九八八年)二四頁、 新堂幸司「現代型訴訟とその役割」同『民事訴訟制度の役割』 (弘文堂、 一九九三年)二九一頁など参照。 ( 2) 専 門 訴 訟 と い う 用 語 の 意 味 す る と こ ろ に つ い て は、 加 藤 新 太 郎「 専 門 委 員 の 制 度 設 計 の あ り 方 ― 民 事 訴 訟 の 専 門 化 対 応 推 進 のために」判タ一〇九二号三六頁、 笠井正俊『 「計画審理」および「専門訴訟」について』NBL七四一号三八頁以下、 伊藤眞「専 門訴訟の行方」判タ一一二四号四頁以下、 笠井正俊「専門訴訟への対応」法時七四巻一一号三五頁、 秋山幹男=伊藤眞=加藤新太 郎=高田裕成=福田剛久=山本和彦『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ第二版』 (日本評論社、二〇〇六年) 二三七頁以下、村田渉 「専 門訴訟」 大江忠=加藤新太郎=山本和彦編 『手続裁量とその規律』 (有斐閣、二〇〇五年) 二〇一頁、加藤新太郎 『民事事実認定論』 (弘文堂、二〇一四年)二八七―二八八頁などがある。 な お、 専 門 訴 訟 に は 上 述 の よ う に、 医 事 関 係 訴 訟、 建 築 関 係 訴 訟、 知 的 財 産 権 訴 訟 な ど 専 門 性 の 高 い 訴 訟 が あ り、 こ れ ら を 総称して専門訴訟と呼ぶことができるものの、 それぞれにおける専門的知見の導入に対する考え方には異なるものがあり、 単純に ひとまとめにして論じることには困難もある。長谷部由起子「専門委員、 鑑定」ジュリ一二五二号三〇頁、 奥宮京子「専門委員制 度 の 実 情 と 課 題 」 松 嶋 英 機 = 伊 藤 眞 = 福 田 剛 久 編『 門 口 正 人 先 生 退 官 記 念 論 文 集・ 新 し い 時 代 の 民 事 司 法 』( 商 事 法 務、 二 〇 一 一 年 ) 五 六 三 ― 五 六 六 頁、 杉 山 悦 子「 専 門 委 員 制 度 の 現 在 と 未 来 」 小 野 秀 誠 = 滝 沢 昌 彦 = 小 粥 太 郎 = 角 田 美 穂 子 編『 松 本 恒 雄 先 生 還 暦 記 念 論 文 集・ 民 事 法 の 現 代 的 課 題 』( 商 事 法 務、 二 〇 一 二 年 ) 一 〇 三 九 ― 一 〇 四 二 頁、 座 談 会「 専 門 委 員 の 活 用 に つ い て 」 判 タ一三七三号六一二頁〔鈴木利廣発言〕など。 ( 3) た と え ば、 二 〇 一 二 年 度 に お い て、 専 門 訴 訟 の ひ と つ と さ れ る 知 的 財 産 権 関 係 民 事 事 件 の 平 均 審 理 期 間 が 一 五 ・ 七 カ 月 で あ っ た。 荒 井 章 光 = 高 橋 彩 = 松 川 充 康「 知 的 財 産 高 等 裁 判 所、 東 京 地 方 裁 判 所、 大 阪 地 方 裁 判 所 知 的 財 産 権 部 各 部 の 事 件 概 況 」 曹 時
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 六 五 巻 一 一 号 三 七 頁。 こ れ 対 し て、 地 裁 に お け る 既 済 事 件 の 平 均 審 理 期 間 は 七 ・ 八 カ 月、 未 済 事 件 の 平 均 審 理 期 間 で も 九 ・ 三 カ 月 で あ っ た。 曹 時 六 五 巻 一 一 号 六 七 頁。 そ の 他、 こ う し た こ と を 示 す 統 計 資 料 と し て、 司 法 研 修 所 編『 専 門 的 な 知 見 を 必 要 と す る 民事訴訟の運営』 (法曹会、二〇〇〇年)八頁以下、笠井前掲注二NBL・三九頁など参照。 (4) 加藤前掲注二 ・ 三六頁、笠井前掲注二法時・三五頁、伊藤前掲注二 ・ 四頁など。 (5) この用語法については、杉山悦子『民事訴訟と専門家』 (有斐閣、二〇〇七年)三四一頁以下を利用させていただいた。 (6) 同上。 ( 7) 専 門 的 知 見 の 導 入 に 関 し て、 専 門 家 の 地 位 お よ び 手 続 規 律 に つ い て 詳 細 な 考 察 を 行 い、 現 行 の 制 度 を 分 析 し た も の と し て、 杉山前掲注五 ・ 三四一頁以下がある。 (8) 新堂幸司『新民事訴訟法第五版』 (弘文堂、 二〇一一年)六四三頁、 高橋宏志『重点講義民事訴訟法【下】第二版補訂版』 (有 斐閣、二〇一四年)一一七頁、杉山前掲注五 ・ 三六一頁以下など。 (9) 高橋前掲注八 ・ 一二〇頁、杉山前掲注五 ・ 三七三頁以下など。 ( 10) こ の 点 に つ い て は、 職 権 に よ る 鑑 定 を 許 容 す る べ き で は な い か と い う 議 論 も 存 在 す る が、 立 法 論 と し て は と も か く、 解 釈 論 としては許されないと解する。新堂前掲注八 ・ 六二一頁、高橋前掲注八 ・ 九六―九七頁注(八七)など。 ( 11) なお、 調査嘱託と鑑定との関係、 特に、 鑑定に調査嘱託を代替させることができるかについては、 議論がある。杉山前掲注五 ・ 三七四頁以下参照。 ( 12) 特 に、 建 築 関 係 訴 訟 な ど で は、 専 門 家 調 停 委 員 が 事 件 の 解 決 に 大 き く 寄 与 し て い る と さ れ る。 た と え ば、 座 談 会「 民 事 訴 訟 の新展開 [上] 」 判タ一一五三号二五頁 〔斎藤隆発言〕 、高部眞規子 「専門委員制度の更なる活用のために」 判タ一三六八号二九頁、 河 野 清 孝「 建 築 関 係 訴 訟 等 の 審 理 の 現 状 と 課 題 に つ い て 」 民 訴 雑 誌 五 八 号 一 七 〇 頁 な ど。 も っ と も、 民 事 調 停 の 手 続 を 目 的 外 に 使 用 す る も の で あ っ て、 制 度 本 来 の 趣 旨 に 反 す る と の 批 判 も あ る。 高 部 同 上、 山 本 和 彦「 専 門 訴 訟 の 課 題 と 展 望 」 司 法 研 修 所 論 集一〇五号四九―五〇頁参照。 ( 13) 高部前掲注一二 ・ 三〇頁。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 ( 14) な お、 知 的 財 産 権 に 関 す る 事 件 に お け る 裁 判 所 調 査 官 の 事 務 等 に 関 し て は、 民 事 訴 訟 法 九 二 条 の 八 に 定 め が お か れ て い る。 秋山ほか前掲注二 ・ 二七七頁以下など。また、その分析については、杉山前掲注一二 ・ 三七九頁以下。 ( 15) 中野貞一郎「科学鑑定の評価」同編『科学裁判と鑑定』 (日本評論社、一九八八年)五三頁。 ( 16) こ う し た 実 務 を 擁 護 す る も の と し て、 野 田 宏「 鑑 定 を め ぐ る 実 務 上 の ニ、 三 の 問 題 」 中 野 貞 一 郎 編『 科 学 裁 判 と 鑑 定 』( 日 本 評 論 社、 一 九 八 八 年 ) 九 頁、 一 一 頁 注( 三 三 )、 加 藤 新 太 郎「 民 事 鑑 定 の 今 日 的 課 題 」 同『 手 続 裁 量 論 』 二 五 七 頁 以 下、 杉 山 前 掲 注 一 二 ・ 三 八 三 ― 三 八 四 頁 な ど。 な お、 民 事 訴 訟 法 の 解 釈 上 こ れ が 可 能 で あ る か を 検 討 し た も の と し て、 福 永 清 貴「 私 鑑 定 の 証 拠 法上の取扱い」早法七三巻一号二一五頁以下がある。 ( 17) 中 野 前 掲 注 一 五 ・ 五 七 頁、 木 川 統 一 郎「 争 点 整 理 過 程 で 提 出 さ れ た 私 鑑 定 書 の 取 扱 い に つ い て 」 同 編『 民 事 鑑 定 の 研 究 』( 判 例 タ イ ム ズ 社、 二 〇 〇 三 年 ) 八 六 頁、 木 川 統 一 郎「 専 門 訴 訟 に お け る 書 証( 専 門 文 献・ 私 鑑 定 ) と 自 由 心 証 主 義 」 判 タ 一 一 五 六 号 六 六 頁 以 下。 ま た、 高 橋 前 掲 注 八 ・ 一 二 六 頁 注( 一 二 八 ) で は、 実 務 と し て の 便 法 で あ る と し な が ら、 理 論 的 に は 問 題 が あ る と の指摘をされている。なお、 中野貞一郎「私鑑定について(再論) 」判タ六八九号二三―二四頁では、 書証としての申し出があり、 正 規 の 鑑 定 を 不 当 に 潜 脱 す る 趣 旨 で な け れ ば、 書 証 と 認 め る べ き と 若 干 の 修 正 を さ れ て い る。 ま た、 福 永 清 貴「 民 事 訴 訟 に お け る 私 鑑 定 の 限 界 」 企 業 法 研 究 一 三 号 一 〇 三 頁 以 下、 同「 民 事 訴 訟 に お け る 私 鑑 定 の 限 界 」 民 訴 雑 誌 四 八 号 二 二 六 頁 以 下 は、 私 鑑 定人を鑑定人として選定し、鑑定人質問を行うべきであるとしている。 ( 18) 高橋前掲注八 ・ 一一九―一二〇頁。 ( 19) 仲 裁 鑑 定 契 約 に つ い て は、 た と え ば、 豊 田 博 昭「 仲 裁 鑑 定 契 約 の 法 構 造( 一 ) ~( 三 完 )」 修 道 法 学 一 三 巻 一 号 八 九 頁 以 下、 同一四巻一号三九頁以下、同二号三六五頁以下、杉山前掲注五 ・ 三八四―三八五頁などがある。 ( 20) それが、裁判所を拘束する旨の訴訟契約を締結した場合の問題について述べるものとして、杉山同上。 ( 21) な お、 制 度 的 な も の で は な い が、 裁 判 官 も、 訴 訟 代 理 人 と な る 弁 護 士 も、 自 ら 専 門 文 献 を 入 手 し、 研 究 す る こ と で 私 知 と し て の 専 門 的 知 見 の 獲 得 の た め の 努 力 を 図 っ て い る の が 通 常 で あ る。 こ う し た 努 力 が あ る か ら こ そ、 上 述 の 専 門 的 知 見 を 提 供 す る 諸制度が機能しうることは言うまでもない。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 ( 22) 木 川 前 掲 注 一 七 判 タ・ 六 六 頁。 ま た、 現 行 法 の 下 で も、 集 中 証 拠 調 べ の 段 階 で は、 専 門 的 知 見 は あ く ま で も 証 拠 方 法 と し て の 鑑 定 人 か ら 得 る と す る の が 審 理 構 造 に ふ さ わ し い と す る 見 解 が あ る。 笠 井 前 掲 注 二 N B L・ 四 二 頁。 そ の よ う に 考 え る の が 理 論的に正当である。 ( 23) 加 藤 前 掲 注 二 判 タ・ 三 六 頁、 伊 藤 前 掲 注 二 ・ 二 一 - 二 二 頁、 秋 山 ほ か 前 掲 注 二 ・ 二 三 八 頁、 笠 井 前 掲 注 二 法 時・ 三 五 頁、 村 田 前掲注二 ・ 二〇二頁、 加藤前掲注二民事事実認定論二八八頁、杉山悦子 『民事訴訟法重要問題とその解法』 (日本評論社、 二〇一四年) 一五四一五五頁など。 ( 24) この点については、 近時、 裁判所、 弁護士会、 そして各種専門家の団体の努力により、 鑑定人候補者のリストが作成されたり、 また、 鑑定制度への理解を得ることで改善されている。こうした取り組みについては、 たとえば、 名古屋地方裁判所民事四部「名 古 屋 地 方 裁 判 所 医 療 訴 訟 集 中 部 - 発 足 後 二 年 の 歩 み 」 判 タ 一 一 四 八 号 六 八 ― 七 〇 頁、 七 二 頁、 大 阪 地 方 裁 判 所 専 門 訴 訟 事 件 検 討 委 員 会「 大 阪 地 方 裁 判 所 医 事 事 件 集 中 部 発 足 五 年 を 振 り 返 っ て 」 判 タ 一 二 一 八 号 六 四 ― 六 五 頁、 一 志 泰 滋 = 松 葉 佐 隆 之 = 本 田 能 久 = 荒 谷 謙 介 = 三 島 聖 子 = 福 田 敦 = 坂 本 隆 一 = 南 毅 彦 = 松 藤 達 也「 福 岡 地 方 裁 判 所 医 療 集 中 部 発 足 三 年 間 の 取 り 組 み 状 況 」 判 タ 一 二 二 一 号 五 〇 頁、 太 田 雅 之 = 中 島 真 希 子 = 多 田 雅 子「 横 浜 地 裁 に お け る 医 療 訴 訟 の 審 理 の 実 情 」 判 タ 一 二 九 五 号 五 七 ― 五 八 頁 な ど。 こ う し た 努 力 に も か か わ ら ず、 専 門 家 の 数 が 少 な い 地 方 に お い て は な お、 鑑 定 人 確 保 が 困 難 な 課 題 と し て 存 在 す る よ う で ある。 ( 25) こ の 点 に つ い て も、 鑑 定 事 項 の 明 確 化、 鑑 定 人 マ ニ ュ ア ル の 作 成 な ど に よ っ て、 鑑 定 人 の 負 担 を 軽 減 す る こ と で 対 応 が 図 ら れてはいる。 ( 26) こ の 点 に つ い て は、 野 田・ 前 掲 注 一 六 ・ 一 八 頁 以 下、 中 野 前 掲 注 一 五 ・ 三 〇 頁 以 下、 木 川 統 一 郎「 民 事 鑑 定 に お け る 心 証 形 成 の構造」木川統一郎編『民事鑑定の研究』 (判例タイムズ社、二〇〇三年)五頁以下など。 ( 27) 証 拠 調 べ と し て の 鑑 定 と 同 様 に、 鑑 定 人 の 確 保 を め ぐ る 困 難 さ が あ る と と も に、 意 見 陳 述 の 方 法 が 証 拠 調 べ の 規 定 に よ る こ と か ら、 争 点 整 理 に お い て 適 時・ 適 切 に 専 門 的 知 見 を 入 手 す る こ と が 難 し い、 職 権 で 行 う 場 合 に 鑑 定 費 用 を だ れ が 負 担 す る か と い う 問 題 が 生 じ る、 な ど の 点 が 指 摘 さ れ て い る。 長 谷 部 前 掲 注 二 ・ 三 一 頁 加 藤 前 掲 注 二 判 タ・ 三 六 頁、 伊 藤 前 掲 注 二 ・ 二 一 - 二 二
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 頁、 笠井前掲注二法時 ・ 三五頁、 村田前掲注二 ・ 二〇二頁、 杉山悦子『民事訴訟法重要問題とその解法』 (日本評論社、 二〇一四年) 一五四一五五頁など。 ( 28) 山 本 前 掲 注 一 二 ・ 五 二 ― 五 七 頁。 こ う し た 問 題 は、 我 が 国 固 有 の も の で は な く、 た と え ば 母 法 国 ド イ ツ に お い て も、 長 ら く 問 題 と さ れ て い る。 ド イ ツ に お け る 議 論 に 関 す る も の と し て、 H elm ut Pie pe r , Richter und Sachverständigen in Zivilprozessrecht. Z Z P 8 4-1 f. ( 19 71 ), D irk O lz en , D as V er hä ltn is vo n R ic ht er n un d Sa ch ve rs tä nd ig en in Z iv ilp ro ze ß un te r be so nd er er Berücksichtigung des Grundsazes der Freien Beweisbürdigung. ZZP 93-66f. ( 1980 )などがある。そこでは、鑑定人を合議体の構 成員として裁判所を構成することや、 法律以外の専門的知見を有する者を裁判官として採用すること、 裁判所職員としての鑑定人 を 採 用 し て お く こ と、 裁 判 官 に 対 し て 法 律 以 外 の 専 門 教 育 を 施 す こ と な ど が 検 討 さ れ て い る。 も っ と も、 ほ と ん ど 実 際 の 改 革 に は 結 び つ い て お ら ず、 数 度 に わ た る 法 改 正 を 通 じ て、 判 例 を 基 に 鑑 定 人 の 役 割 が 明 確 化 さ れ た に と ど ま っ て い る。 杉 山 前 掲 注 五・ 一四四―一五二頁。 ( 29) さらには、 知的財産権関係事件について、 「東京 ・ 大阪地方裁判所の知的財産関係事件専門部の専門的処理体制の一層の強化」 、 「 弁 理 士 へ の 侵 害 訴 訟 代 理 権 の 付 与 」、 「 知 的 財 産 権 関 係 の A D R の 拡 充・ 活 性 化 」 等 の 対 策 を 講 じ る よ う 提 言 が な さ れ た。 笠 井 前 掲注二法時・三五頁など参照。 ( 30) こ う し た 提 言 の 背 景 に は、 専 門 訴 訟 に お い て 早 期 の 機 動 的 な 専 門 家 に よ る 関 与 が 求 め ら れ て い る こ と や、 実 務 に お け る 専 門 家調停員や司法委員の活用などがあるとされる。笠井前掲注二法時・三六頁。 ( 31) 特 に、 医 事 関 係 訴 訟 に お け る 導 入 に つ い て は、 主 と し て 原 告 代 理 人 を 務 め る 弁 護 士 か ら、 医 師 に 対 す る 不 信 感 に 基 づ き、 裁 判 所 が 専 門 委 員 で あ る 医 師 の 意 見 に よ り 心 証 形 成 を 行 う と、 原 告 で あ る 患 者 に 不 利 益 に 作 用 す る お そ れ が あ る こ と な ど を 理 由 と し て、 強 い 反 対 が な さ れ た。 笠 井 正 俊「 専 門 委 員 に つ い て 」 曹 時 五 六 巻 四 号 八 三 一 頁 な ど。 こ う し た 傾 向 は、 専 門 委 員 制 度 が 導 入 さ れ た 現 在 で も 一 部 残 っ て お り、 こ の 種 の 訴 訟 に お い て は、 原 告 側 が 専 門 委 員 の 選 任 に 反 対 す る た め、 結 果 と し て 専 門 委 員 が 利 用 で き な い こ と が 多 い よ う で あ る。 池 田 辰 夫 = 浜 秀 樹 = 揖 斐 潔 = 村 田 渉 = 徳 岡 由 美 子「 医 事 関 係 訴 訟 に お け る 審 理 手 続 の 現 状 と課題(上) 」判タ一三三〇号一八―一九頁〔村田渉発言〕など。
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 ( 32) 法制審議会における議論については、笠井前掲注二法時・三六―三八頁、笠井前掲注三一 ・ 八三〇―八三二頁など。 ( 33) 制 度 の 概 要 に つ い て は、 小 野 瀬 厚「 民 事 訴 訟 法 改 正 の 経 緯 と 概 要 」 ジ ュ リ 一 二 五 二 号 九 ― 一 〇 頁、 舘 内 比 佐 志「 改 正 民 事 訴 訟規則等の概要」判タ一一三六号五―七頁、 餘多分宏聡=藤田敏之「改正民事訴訟規則および専門委員規則の概要」NBL七七八 号 二 七 ― 二 八 頁 秋 山 ほ か 前 掲 注 二 ・ 二 三 七 ― 二 七 六 頁、 最 高 裁 事 務 総 局 民 事 局 監 修『 条 解 民 事 訴 訟 規 則〔 増 補 版 〕』 ( 司 法 協 会、 二〇〇四年)六七―七一頁など。 ( 34) 杉山前掲注二 ・ 一〇三二頁、一〇五六―一〇五七頁。 ( 35) 加藤前掲注二判タ ・ 三七頁、 笠井前掲注三一 ・ 八四四―八四五頁、 秋山ほか前掲注二 ・ 二四三頁、 村田 ・ 前掲注二 ・ 二〇五頁など。 ( 36) こ の 点 に つ い て、 対 席 主 義 を 遵 守 す る こ と が 最 も 大 切 で あ り、 そ れ に よ っ て 裁 判 官 お よ び 当 事 者 が 専 門 委 員 か ら 入 手 す る 情 報 が 全 く 同 じ と な り、 持 っ て 弁 論 の 活 性 化 を 図 る こ と も で き る と の 指 摘 が あ る。 西 口 元「 弁 論 活 性 化 方 針 と し て の 専 門 委 員 の 活 用」判タ一一九一号五〇頁。 ( 37) 専 門 委 員 の 関 与 の 在 り 方 に つ い て は、 裁 判 所 調 査 官 が 当 事 者 か ら 見 え な い と こ ろ で 働 い て い る た め、 活 動 実 態 が 分 か ら ず 当 事 者 が 反 論 で き な い と い う 不 満、 ま た、 裁 判 官 の 判 断 よ り も 調 査 官 の 判 断 の 方 が 優 越 し て い る の で は な い か と の 疑 心 を 生 ん だ こ と を 反 省 し、 透 明 化 が 図 ら れ た 面 が あ る と の 指 摘 を な す も の と し て、 高 橋 宏 志「 民 事 訴 訟 法 の 平 成 一 五 年 改 正 」 同『 重 点 講 義 民 事訴訟法下〔補訂版〕 』(有斐閣、二〇〇六年)五五四頁。 ( 38) 笠井前掲注三一 ・ 八四四頁など。 ( 39) 伊藤前掲注二 ・ 一七頁。 ( 40) 村田前掲注二 ・ 二〇五頁。 ( 41) 加 藤 前 掲 注 二 判 タ・ 三 七 頁、 秋 山 ほ か 前 掲 注 二 ・ 二 四 三 頁、 村 田 同 上、 加 藤 前 掲 注 二 民 事 事 実 認 定 論・ 二 九 一 頁 な ど。 な お、 座談会前掲注一二 ・ 二五頁〔大森文彦発言〕 。 ( 42) なお、 かつては第一級の専門家であったとしても、 現時点では、 その有する専門的知見が利用に耐え得ないものとなっており、 専 門 性 と い う 観 点 か ら は 疑 義 が あ る と 言 わ ざ る を 得 な い 者 に つ い て は、 当 然 の こ と な が ら 専 門 委 員 と し て の 適 格 を 欠 く こ と に な
東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 専門委員の説明について〔清水 宏〕 る。加藤前掲注二判タ・三七頁、秋山ほか前掲注二 ・ 二四三頁、加藤前掲注二民事事実認定論・二九一頁など。 ( 43) 加 藤 前 掲 注 二 判 タ・ 三 七 頁、 秋 山 ほ か 前 掲 注 二 ・ 二 四 三 頁、 村 田 前 掲 注 二 ・ 二 〇 五 頁、 座 談 会 前 掲 注 四 七 ・ 一 三 頁〔 鈴 木 発 言 〕、 同一三―一四頁〔徳岡由美子発言〕など。 ( 44) 笠 井 前 掲 注 二 N B L・ 四 二 頁、 村 田 前 掲 注 二 ・ 二 一 八 頁 注( 三 五 )、 百 谷 要 一 = 辻 野 隆 三 = 西 田 寛 = 中 本 敏 嗣 = 本 多 俊 雄 = 矢 尾渉=石原雅也=浦上薫史=杉原哲治 「大阪地裁における専門委員と裁判官のパネルディスカッション」 判タ一三七一号一四頁 〔矢 尾渉発言〕など。 ( 45) こ の 点 に 関 連 し て、 専 門 委 員 制 度 と 調 査 官 制 度 と の 役 割 分 担 に つ い て は ど の よ う に 考 え る べ き か 議 論 が あ る。 す な わ ち、 専 門委員と裁判所調査官はいずれも専門的知見を訴訟手続に導入する裁判所の補助者的な位置付けになる点では同じである。 しかし な が ら、 た と え ば、 専 門 委 員 は 外 部 専 門 家 を 非 常 勤 の 職 員 と し て 関 与 さ せ る の に 対 し て、 裁 判 所 調 査 官 は 常 勤 の 職 員 で あ り、 ま さ に 裁 判 所 内 部 の 専 門 家 と し て 関 与 す る こ と に な る。 ま た、 専 門 員 の 関 与 に つ い て は、 当 事 者 の 意 向 を 尊 重 す る 必 要 が あ る の に 対して、 裁判所調査官は裁判所の裁量によるものである。さらには、 専門委員は、 訴訟において必要とされる専門的知見であれば、 原 則 と し て そ の 分 野 を 問 わ な い の に 対 し て、 裁 判 所 調 査 官 は、 知 的 財 産 関 係 や 租 税 関 係 な ど 一 定 の 分 野 に 限 定 さ れ て い る。 こ う し た こ と か ら、 A. 裁 判 所 調 査 官 に は、 幅 広 い 専 門 的 知 見 の 供 給 を、 専 門 委 員 に は、 そ の 訴 訟 特 有 の 行 動 の 専 門 的 知 見 の 供 給 を 求 め る こ と を 前 提 と し、 裁 判 所 調 査 官 の 関 与 が 原 則 で あ っ て、 専 門 委 員 は 必 要 に 応 じ て 関 与 さ せ る べ き で あ る と す る 見 解 が あ る。 また、 B.専門委員にも一般的専門的知見の供給を求める形で関与させることとし、 両者の関与形態は、 裁判所の適宜な判断に委 ね ら れ る と す る 見 解 も あ る。 さ ら に は、 C. 専 門 訴 訟 に つ い て は、 専 門 委 員 と 裁 判 所 調 査 官 と を い ず れ も 原 則 関 与 と し、 専 門 的 知見のレベル ・ 内容についても相互乗り入れをしてよいとする見解などがある。これらの見解については、伊藤前掲注二 ・ 二一頁、 秋 山 ほ か 前 掲 注 二 ・ 二 四 四 頁、 加 藤 前 掲 注 二 民 事 事 実 認 定 論・ 二 九 一 ― 二 九 二 頁 参 照。 専 門 委 員 の 関 与 に つ い て は 当 事 者 の 意 向 が 尊 重 さ れ る も の の、 裁 判 所 調 査 官 の 関 与 に 際 し て は、 そ れ が 要 件 と さ れ て い な い 以 上、 両 者 の 併 用 は 当 然 に あ り う る こ と で あ る。 ま た、 専 門 委 員 は 非 常 勤 で あ る の に 対 し て、 裁 判 所 調 査 官 は 常 勤 で あ る こ と か ら、 臨 床 研 究 ま た は 文 献 研 究 な ど を 通 じ た 専 門 的 知見の獲得には相違があることが考えられる。このことは、 提供される専門的知見の内容の相違に結びつくこともあろうし、 また、