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三者間相殺をめぐる判例法理の検討 三者間相殺の要件について 利用統計を見る

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三者間相殺をめぐる判例法理の検討 三者間相殺の

要件について

著者名(日)

深川 裕佳

雑誌名

東洋法学

53

2

ページ

65-96

発行年

2009-12-22

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000709/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

︽論  説︾

  三者間相殺をめぐる判例法理の検討

         三者間相殺の要件について 目次 一 問題の所在 二 援用者拡張型  ︵一︶裁判例の紹介  ︵二︶裁判例の分析・検討 三 責任を負う第三者の相殺  ︵一︶裁判例の紹介  ︵二︶裁判例の分析・検討 四 第三者の債権による相殺  ︵一︶裁判例の紹介  ︵二︶裁判例の分析・検討 五 結論 ︵固有の三者問相殺型ω︶ ︵固有の三者間相殺型α⇒︶

裕 佳

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問題の所在  相殺は、二者間において債務を消滅させる制度として規定されている。しかし、民法には、相殺について、三者 が関係する場面がいくつか規定されている︵以下、﹁三者間相殺﹂という︶。本稿は、この三者間相殺について検討を 行うものである。  わが国の学説では、教科書・体系書においては、相殺要件として同一当事者間に債権の対立があることを掲げつ つ、これは原則であって、例外的に三者間に債権がまたがっている場合にも民法において法定相殺が認められると      ハき 説明している。また、近年の判例では、最三判平七・七・一八判タ九一四号九五頁︵後述の判例︻5︼︶において、 三者問相殺予約の対抗が間題とされており、同判決は、これを消極的に解している。そして、同判決を契機とし て、いくつかの判例評釈および研究が公表され、約定の三者間相殺の法的性質および第三者効の有無を明らかにす るための検討がなされている。しかし、法定の三者間相殺については、二者間相殺の例外規定として理解されてい るのみであり、十分に検討が行われていないように思われる。       パヱ  そこで、筆者は、法定の三者間相殺の要件について検討すべく、深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂にお いて、民法に散在する三者間相殺に関する規定を総合的に検討し、三者間相殺は、①援用者拡張型、②抗弁存続 型、③固有の三者問相殺型の三つの類型に分類できることを明らかにした。このうち、②抗弁存続型については、       パ ロ 深川﹃相殺の担保的機能﹄において、対立する債務の牽連性がその要件となることを検討した。また、深川﹁債権        レ 法改正における相殺制度の検討﹂において、③固有の三者間相殺型では、二者間相殺における債務の相互性要件の        パ レ 代わりに、責任の相互性が存在すること︵責任の対立︶、すなわち、AのBに対して有する債権についてCが責任を 66

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負っており、同時に、CがAに対して債権を有している場合には、AC間で債務の相互性は存在しないが、AもC もお互いに責任を負っているという状態にあることが要件の一つとなっているのではないかと考えた︵責任を負う 第三者の相殺︶。  しかし、前記の考察によっても、さらに、次の二つの課題が残されている。すなわち、①援用者拡張型における 要件を明らかにし、③固有の三者間相殺型における要件に関する前述の仮説を検証することである。そこで、本稿 は、①援用者拡張型および③固有の三者問相殺型に関する判例について検討を行うことを通じて、前述の問題を解 決することを目的とする。 二 援用者拡張型  援用者拡張型とは、第三者Sの債務のために貢任を負っている者Bが自己の責任を免れるために、Sがその債権 者Gに対して行使することによりその債務を消滅させることのできる相殺権を代わりに援用することによって、自 己の貢任を免れることが認められている場面である︿後掲・図1﹀。民法には、主たる債権者の債権をもってする保 証人による相殺︵民法四五七条二項︶および連帯債務者の一人の負担部分について他の連帯債務者が行う相殺︵民法 四三六条二項︶が規定されている。  明文で認められるこれらの場面以外に、裁判例では、物上保証人による債権者の相殺権の援用が争われたものが あり、以下では、これらの裁判例について分析・検討を行った上で、二者間で対立する債務の問の相殺の援用を第 三者に認めるための要件を検討する。 67

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 ︵一︶裁判例の紹介     ︵A︶物上保証人による債務者の有する相殺権の代位行使︵否定︶  ︻1︼東京地判昭四二・一〇・二六金法四九八号四四頁 物上保証人Xらが債務者Aとの間で契約した抵当目的 物の提供期間が終了したことによりAに対して取得した抵当権抹消請求権を保全するために、Aに代位して債務者 AがY信用金庫に預けている預金や積金を自働債権として相殺することを求めた事案︿後掲・図2﹀で、本判決は、 次の理由によってこの相殺を否定した。すなわち、XらのAに対する根抵当権設定契約の解消に協力すべきことを 請求する権利は相殺の意思表示をしなければ保全できない請求権ではなく、また、登記抹消請求権は、抵当権者た るYに対し有すべき性質のものであるから代位の要件を欠くというのである。  本件の評釈においては、債権者代位による相殺権の行使については消極的に解するものの、次のようにして、物 上保証人による相殺を認めるべきであるとする見解が主張されていた。すなわち、①保証人も物上保証人も他人の ために自ら不利益を負担するものであり、この不利益は他人の債務に付従すること、②いずれも主たる債務の弁済 について正当の利益を有する者である点で同じであること、③物上保証人に主たる債務者の時効援用が認められて いること、④保証人の場合には保証債務の履行を請求された上でその債務名義に基づいて自己の財産の上に執行を 受けるのに対して物上保証人は直接自己の財産上に執行を受ける関係にあり、保証人よりも切迫した地位にいると すら言いうることを理由として、﹁相殺権の援用や事前求償についてこれを物上保証人に準用ないし類推適用すべ        レ き十分な実質的理由がある﹂と指摘されている。筆者も、後述のように、責任を負う物上保証人には固有の相殺権 が認められるべきであると考える。  なお、本件では、Xらが相殺を主張した時点で、すでに、YがAに対して有する別の債権によって同預金等を相 68

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殺しており、自働債権を欠いていることも、相殺の代位行使を否定する理由の一つとして挙げられている。このよ うにXらの相殺の主張の時点で、自働債権がすでに消滅しているのであるとすれば、有効な債務の対立を欠くため に、たとえXらの主張する相殺の要件がYの主張する相殺の要件よりも先に満たされていたとしても、Xらは相殺 を主張できないと考えることもできる。その場合には、本件では、Xらの相殺権の代位行使がたとえ認められてい たとしても、すでに受働債権が消滅していることから、相殺の効力が認められないという結論になり、代位行使を 否定した本判決の結論と同様になったものと思われる。     ︵B︶物上保証人自身の相殺権の行使︵肯定︶  学説において、物上保証人への民法四五七条二項の類推適用が有力に主張されるようになったことから、その 後、大阪高判昭五六・六・壬二下民集三二巻五∼八号四三六頁は、次のような事例において、物上保証人による代 位行使を否定しながら、民法四五七条二項︵保証人による主たる債務者の相殺権の援用︶の類推適用によって、物上 保証人が﹁被担保債権を消滅させる限度で、被担保債権の債務者が抵当権者に対して有する債権を自働債権として 自から相殺すること﹂を認めた。  ︻2︼大阪高判昭五六・六・二三下民集三二巻五∼八号四三六頁 AはBから継続的に商品を買い受けており、 BはAに対して有する売掛債権を担保するために、X︵第二審脱退控訴人︶の不動産上に根抵当権を設定した。そ の後、AもBも倒産して廃業したが、両者の間では、相殺適状の債務が対立していた。他方、YはBに対して有す る金銭消費貸借上の債権を保全するために、右相殺適状到来後に右根抵当権上に転抵当を設定し︵民法三七六条の 通知・承諾はない︶、抵当権設定登記を経由した︵この頃、Aは破産宣告を受けた︶。さらに、Xは、Bに対して、物 上保証人としてAに代位して、AB間で対立している債務の相殺の通知をなした。その上で、Z︵第二審当事者参 69

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加人︶は、Xから右不動産を譲り受け、登記を経由した。以上の状況において、Zが根抵当権の抹消登記を求めた ︿後掲・図3﹀。  裁判所は、Xのなした相殺の効力について、次のように判断した。﹁破産債権者が破産者に対する債権を保全す るために、破産財団についての破産管財人に属する権利を代位してこれを行使することは許されない﹂ために、X の相殺の意思表示は、民法四壬二条によるものとしては効力を生じない。しかし、右の﹁相殺の意思表示はX自身 が物上保証人としてBに対し相殺する意思も表明されている﹂ものであり、これは、﹁債権者代位する場合とは異 なり、物上保証人の地位に基づき自からの権利として相殺権を行使するものであり、物上保証人という特別の立場 にある者を保護する目的を有するもの﹂︵傍線筆者︶として相殺の効力を認めた。  本件において裁判所が物上保証人の相殺権の行使を認めた理由は、前掲・裁判例︻1︼の評釈とほぼ同じもので あり、次のように説明されている。   けだし、物上保証人は保証人とは異なるから民法四五七条二項が直接に適用されるものではないが、︵一︶物上保証人   は当該担保物件の価格の範囲に限られるとはいえ、他人の債務について責任を負い、その責任が他人の債務に付従する   という点で保証人と異なるところはないし、︵二︶物上保証人も保証人と同様に求償権を有するから︵民法三五一条、   三七二条、四五九条、四六二条参照。︹旧︺破産法二六条三項は物上保証人に対し保証人に準じ将来の求償権を認めて   いる︶、このような相殺を認めることは同様に求償関係を簡明にするものであるし、︵三︶他人の債務について責任を負   つた物上保証人も保証人と同様に、実際上は債務者の提供した担保と類似した効果を有している債権の対立関係につい   て、相殺による利益を受けさせてこれを保護する必要があり、同条の立法趣旨である保証人保護の要請は、そのまま物   上保証人にも妥当するものであるし、︵四︶実質的にみても、保証人の場合は債務名義取得ののちに強制執行がなされ 70

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  るのに対し、物上保証人の場合は直ちに競売がなされるのであるから保証人よりも切迫した立場にあり、相殺による保   護の要請がむしろ強いものというべきであるし、︵五︶物上保証人に同条の類推適用を認めても物上保証の性格に反す   るものではなく、これによる弊害も考えられないからである。  このようにして、本件では、被担保債権が相殺によって消滅したことによって、Aの破産宣告までには少なくと も確定していた根抵当権も消滅したものであるとして、Zによる根抵当権の抹消登記請求が認められた。学説は、       パヱ 物上保証人の相殺に民法四五七条二項の類推適用が認められたことに対して肯定的である。  ︵二︶裁判例の分析・検討  ここまで述べた裁判例では、抵当債権者と債務者の間で成立した相殺権の物上保証人による代位行使は否定され ており︵裁判例︻←および︻2︼︶、これに対して、民法四五七条二項類推による物上保証人固有の相殺権が認めら    パせ れている︵裁判例︻2︼︶。  民法四五七条二項の理論的説明には様々な方法があるが、筆者は、前掲・深川﹁三者間における相殺の類型的検 討﹂において、援用者拡張型では、保証人をその貢任から確実に解放させるために、主たる債務に属している抗弁        パ レ としての相殺の抗弁権を行使することができるものと考えた。これは、民法四二三条に基づく代位行使ではなく、 保証債務の付従性から、主たる債務に属している抗弁としての相殺権を援用すると考えるものであり、このような 考え方によると連帯保証責任を負う連帯債務者の相殺の援用︵民法四三六条二項︶をも説明することができる。ま た、保証人および連帯債務者による相殺権の援用に関する筆者のこの考え方は、物上保証人の相殺権の援用に関す る裁判例の理論とも整合性を有するものである。 71

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 そこで、以下において、債務者Sの債権者Gに対する債務のために責任を負うB︵保証人、連帯保証人、連帯債務 者、物上保証人︶が自らの責任から解放されるために、GS間の債務を相殺するための理論構成について、前述の 考え方以外についても検討した上で、援用者拡張型の要件を明らかにしたい。     ︵A︶補充性を実現するための相殺権の行使  まず、Bが保証人である場合には、SはGに対する執行の容易な自働債権を有しているにもかかわらずGから履 行を請求されたならば、保証債務の補充性から認められる催告の抗弁権および検索の抗弁権によって、先にこの自 働債権から回収すべきことを主張することができるはずである。そうすると、民法四五七条二項は、このような補       ハリレ 充性を実現するための一つの方法として説明することも可能になりそうである。  しかし、このような手段では、Bが連帯保証人や連帯債務者、物上保証人である場合に、相殺権の行使を認める ことができなくなる。     ︵B︶求償権保全のための相殺権の代位行使  次に、Bが、GS間に対立する債務の相殺を代位行使する場面について検討する。  第一に、委任を受けた保証人Bについては、事前求償権を保全するための相殺権の代位を認めることができそう である。  第二に、委任を受けていない保証人Bについては、事前求償権が認められないために、未発生の事後求償権を保 全するための代位が認められるかという問題が生じる。債権者に履行を請求された保証人には、催告の抗弁権およ び検索の抗弁権が認められているため、保証人は、主債務者が弁済するだけの資力を有している間は、これらの抗 弁権によりその補充性が確保されるものといえる。 72

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 しかし、主債務者が弁済するだけの資力を失ってしまった場面においては、債権者が保証人に履行を請求するこ とは必至であり、これにより、保証人が債務を履行した上で、主債務者に求償権を取得することになっても、求償 権を満足させることは困難となっている。そうすると、たとえ未だ保証人が履行をしていないので現実には求償権 が発生していない場面であっても、主たる債務者が無資力の状態にあっては、保証債務の補充性を確保すべく、求 償権を保全するために債務者が債権者に対して行使することのできる相殺権を債権者代位権によって援用すること が認められるべきものと考えられる。このように考えることが可能であれば、委託を受けていない場合にも、保証 人には、補充性を保全するための相殺権の代位行使が認められるものと説明することができる。  また、このような間題は、判例上、委任を受けた物上保証人であっても事前求償権の行使が否定されていること から︵最三判平二・二丁一八民集四四巻九号一六八六頁︶、物上保証人Bについても相殺権の援用を認めるべきであ ると考える場合にも同様に生じるものと思われる。この場合にも、債務者の無資力の場合には、求償権の確保のた めの代位行使が認められるものと考えられる。  さらには、連帯債務人Bによる相殺権の代位行使についても、同様に説明することが可能になるだろう。  しかし、前記のように、理論上、事前求償権および代位行使の時点で将来発生する事後求償権を債権者代位に よって保全することが可能であると考えられるにしても、Bの相殺の代位行使によって、実際には、Bによる弁済 もなく、求償権も発生しないこととなるのであるから、技巧的な説明にならざるをえない。すなわち、事前求償権 を保全するためであるとすると、相殺を認めることによってBの弁済がなされずに主債務が消滅してしまうため に、事前求償権を保全する必要性はなくなってしまうし、また、民法四五七条二項についても、民法四三六条二項 についても、事後求償権を保全するために、GS間で対立する債務を相殺するSの権利をBが代位行使すると考え 73

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る場合には、条文によってBの相殺によって煩雑な求償関係の発生を事前に回避するということが認められたにも かかわらず、理論的には、現実に発生することのない事後求償権を前提とせざるを得ないという奇妙なことになっ てしまうQ  このように考えると、Bが、GS間に対立する債務の相殺を代位行使するという理論構成でも、Bの相殺を説明 する理論としては不都合なものであると考えられる。したがって、前述の裁判例において、相殺の代位行使が否定 されたことは妥当であると思われる︵しかし、いずれの場合にも、次に述べるように固有の相殺権が認められるべきで ある︶。     ︵C︶責任を負担する者に固有の相殺権  ここまで検討したように、補充性による説明も、債権者代位権による説明も、Bの相殺を説明する理論としては 困難がある。  そこで、筆者は、保証人︵民法四五七条二項︶や連帯債務者︵同四三六条二項︶だけでなく、また、先に紹介した 二つの裁判例のように物上保証人にも、GS間の相殺について、次のようにその固有の相殺権が認められるものと 考える。そして、裁判例は存在しないようであるが、担保不動産の第三取得者にもこのような相殺権が認められる べきである。すなわち、GのSに対する債権︵受働債権となる︶の掴取力に服するBには、GS間で相殺適状が生 じてその債権が受働債権として相殺しうるものとなった場合に、その受働債権の責任を負担している自らの地位に 基づいて相殺権を援用し、対立する債務を消滅させることができる。このような相殺を認めない場合には、GS問 で相殺によって容易に債権を満足させることができるにもかかわらず、その相殺を利用せずに、貢任を負っている Bに負担を負わせることになってしまうし、その後に、SB間に求償関係を生じさせることになってしまう。Bの 74

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      ハヨ 相殺が認められれば、これらの間題を回避して、GSB三者の間の法律関係を簡易に清算できる。     ︵D︶援用者拡張型の要件  援用者拡張型においては、債務は、GS問で対立しているために、Bが援用する相殺は、GS二者間において、 Sが相殺権を取得するための要件と等しいものと考えられる。したがって、GS間で相殺適状が生じており︵二者 間の相殺の場合には、受働債権の期限の利益を放棄して相殺することが認められるが、これとは異なって、保証人であるB は、受働債権の弁済期を放棄することはできないものと考えられるため、両債権の弁済期の到来が必要となる︶、Bが受働 債権の責任を負担している場合に、Bは、相殺権を援用することができる。  このように援用者拡張型では、GS二者間で相殺要件が間題となり、GS問の債務が消滅することから、これ は、二者間相殺のようにもみえる。しかし、この相殺は、次の点で二者間相殺とは区別されるべきものと考えられ る。まず、本類型では、二者間において相殺適状を満たした後に、Bが相殺の意思表示をする点で、民法五〇五条 以下の通常の二者間相殺とは異なっている。次に、相殺が簡易な決済手段であるという観点から、本類型において 現実の履行がどのように省略されるのかを検討すると、①Bによる保証債務の履行、②Gによる債務︵受働債権︶ の履行、③Sによる求償債務の履行という三者間の三つの現実の履行がCの意思表示のみで簡易に実現されること   パど になる。すなわち、本類型では、Sの相殺の援用は、三者問の現実の履行を意思表示のみで簡易に実現する手段と なっている点で、二者間の現実の履行を意思表示のみで簡易に実現する二者間相殺とは異なるものと位置づけるこ とができる。 75

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三 責任を負う第一一一者の相殺︵固有の三者間相殺型ω︶  固有の三者間相殺型とは、二つの債務が最初から三当事者間で対立しているという構造にあっても、他人Sの債 権者Gに対する債務のために責任を負っている者B︵保証人の地位にある者︶が自己の責任を免れるために、自己 の債権者Gに対する債権を利用して、その他人Sの債務を相殺により消滅させることが認められる三者間相殺の一 類型である︿後掲・図4﹀。なお、このような場面とは異なり、債務者Sが債権者Gに負う債務を受働債権として、 第三者DのGに対する債権を自働債権として相殺を主張する場面︿後掲・図9﹀も、固有の三者間相殺型に含めう る。これについては、後述﹁四 第三者の債権による相殺﹂において検討を行うこととして、ここでは、責任を負 う第三者の相殺について検討を行う。民法では、私見によれば、責任を負う第三者の相殺に属する条文として、債 権者に対して債権を有する連帯債務者の一人による相殺︵民法四三六条一項︶が規定されている。  ︵一︶裁判例の紹介     ︵A︶保証人の債権を自働債権とする主債務の相殺︵肯定︶  明文の規定のある連帯債務者の一人による相殺だけでなく、債権者に対して債権を有する保証人による主債務の       おレ 相殺も三者間相殺として認められる。たとえば、裁判例でも、次のようにして、実質的に保証人の地位に立つ者の 相殺が認められている。  ︻3︼東京高判昭五〇・六・二六判タ三三〇号二七八頁 Xは、積との間で、租鉱権設定契約を締結した。施が 本件採掘工事を請け負い、その機材を購入するための事業資金として、Xから施に融資が行われた。この融資は、 76

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採掘された硅石代金によって回収される予定であったが、第一期工事では予期に反して生産実績が上がらなかった ため、第二期工事において、採掘場所を拡大するために、変更施業案認可申請を得て新しい坑口までの道路開設工 事がなされた。しかし、Xは、Yらと協議することなく変更施業案認可申請を取り下げて工事を中止させた。そし て、XがYらに対して貸金の支払いを求めたところ、施は抗弁として、第二期工事の原状回復のために必要となる 復元費請求権を自働債権として、右貸金債権を受働債権として相殺を主張した。さらに、保証人である猶は、自己 の有する債権を自働債権として、右貸金債権を受働債権として相殺することを主張した︿後掲・図5﹀。  このような事案において、裁判所は、Yらの主張する相殺の効力を認めて次のように述べた。   狛が自己の反対債権金一四万一、四〇〇円をもつて相殺の意思表示をしており、その効果は施においても援用している   ものと解すべきこと弁論の全趣旨から明らかであり、前記残存した主債務は保証人︹邑の出掲により全額消滅したも   のと認めるべきである。けだし保証人と債権者との間に生じた事項は、原則として主たる債務者に影響をおよぼさない   けれども、保証人の弁済その他の出絹により債権者が満足を得たかぎり、主たる債務もまた減少又は消滅すべき筋合で   あるからである︵爾後は主たる債務者と保証人との関係で求償の問題を残すのみとなる︶。  なお、狙と施のそれぞれの主張する相殺の充当関係については、次のようにして、施の相殺による残額債権につ いて猶の相殺の主張を認めている。   Xの狛に対する本訴貸金請求は主たる債務が主債務者たる施による相殺の結果前記の限度に減少し、このことは保証人   としてぬの相殺を援用している積にも効力をおよぼすものであり、これに対し、さらに猶は自己独自の反対債権⋮をも   つて、さきに第一審において相殺の意思表示をしているから、その効果について判断するに、保証債務は主債務に附従   するものであり、保証人が自己の債権をもつて相殺に供するのは、主たる債務が存在し、その責任が自らにおよぶ保証 77

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  債務に対してであることは事の性質上当然であるから、保証人が裁判上いつたん自己の債権をもつて相殺を主張したと   しても、当該裁判が確定する以前に主たる債務が別の理由で一部消滅したときは、その残存する主債務の限度で自己の   債権を相殺に供したものとしてその充当を処理するのが相当である。     ︵B︶抵当不動産の第三取得者による相殺権︵否定︶  古い判例ではあるが、次のように、抵当不動産の第三取得者の債権による相殺を否定したものが存在する。  ︻4︼大判昭八・一二・五民集一二巻二八一八頁 XはA所有の土地を譲り受けたところ、同土地には、Y銀行 のAに対する貸金債権を担保するための根抵当権が設定されていた。Xは、Y銀行に対して預金債権を有していた ため、この預金債権によって、AのYに対する貸金債務を相殺したと主張して、Yに対して抵当権設定登記の抹消 を求めた︿後掲・図6﹀。  このような事案において、裁判所は、Xの相殺を否定して次のように述べた。   抵当権は従たる物権にして主たる債務の弁済に因り当然消滅に帰すべきを以て抵当不動産の所有権を取得したる第三者   は債務の弁済を為すに付、正当の利益を有し民法第四百七十四条の規定に依り之が弁済を為し得ること勿論なるも抵当   不動産の所有権取得に因り自ら債務を負担するに至りたるものと解すべき何等の理由なく而かも相殺は当事者互に同種  ・の目的を有する債権を有する場合に於て互に給付を為さずして其の対当額に於て債権を消滅せしむるものにして弁済と   其の性質を異にするが故に抵当不動産の所有権を取得したる第三者が偶々抵当権者に対して債権を有する場合に於ても   該債権を以て自己の債務に属せざる抵当権者の有する債権と相殺を為すが如きことは法律上之を許さざるものと解せざ   るべからず。  その後、大判昭一四・一二・二一民集一八巻一五九六頁では、﹁抵当権の條除を為さんとする抵当不動産の第三 78

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取得者が抵当権者に対し金銭債権を有するときは他に抵当債権者存せざる限り該金銭債権を以て提供金額と相殺を 為すことを得るものとす﹂として、條除を要求する第三取得者の相殺が認められている。ただし、これは、第三取 得者と抵当権者の二者間に対立する債務の相殺と考えられているために、判例では、抵当不動産の第三取得者が自 己の債権者に対する債権によって行う三者間相殺を認めるものは存在しないようである︵最高裁判例においても、こ のような事案は見当たらなかった︶。そして、右判決の法理は、その後、大判昭一七・二・二四法学一一巻一一八一 頁においても踏襲されている︵ただし、事案は、抵当不動産の第三取得者に関するものではない︶。  これに対して、学説では、第三者の弁済が許されるすべての場合に相殺を認めるとすれば、自働債権の債権者が 他の債権者に先立って弁済を受けることになるので債権者間の公平を害するが︵特に受働債権の債権者の財産状態が 悪化しているとき︶、物上保証人・抵当不動産の第三取得者のように、他人の債務につき責任を負う者については相       ど 殺を認めるべきであるとする見解が通説となっている。     ︵C︶子会社の債権を自働債権とする親会社の債務の相殺︵第三者効否定︶  さらに、近年、子会社の債権によって、親会社の債務を相殺する旨の相殺契約に基づく相殺の第三者効を否定し た次の判例が存在する。  ︻5︼最三判平七・七・︻八判タ九一四号九五頁 A︵Yの子会社︶は、Yの運送業務の下請作業を継続して請け 負っていたBに対し、運送用車両の燃料石油を継続して販売しており、石油代金債権︵α債権︶を有していた。α 債権の発生前、AおよびBの二者は次のとおり合意した︵以下、﹁本件相殺予約﹂という︶。   一︵期限の利益の喪失︶ Bにおいて︵a︶手形小切手の不渡りが発生し、又は、支払を停止したとき、︵b︶差押、仮   差押、仮処分、競売の申立を受けたとき、︵c︶破産、和議、会社更生、整理の申立がなされたとき、︵d︶営業を停止 79

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  したときのいずれかに該当する場合は、Bは、Aからの通知催告なしに期限の利益を失い、直ちにAに対する債務のす   べてを支払わなければならない。   二︵相殺︶Aは、Bに対する債権︵α︶をAの親会社であるY各支店にある債務︵β︶と相殺することができる。  その後、Bは不渡りを出した。当時、BはYに対して、作業代金債権︵β債権︶を有していた。X︵国︶は、租 税債権を徴収するために、β債権を差し押さえ、債権差押通知書をYに交付送達し、Yに対してβ債権を請求し た。これに対して、Yは、Aによって、差押後に本件相殺契約に基づいてBに対しXの差押前に取得したα債権を 自働債権として、β債権を受働債権として相殺する旨の意思表示がなされたため、β債権は消滅したと主張した ︿後掲・図7﹀。第一審は、第三者の弁済と同様に、相殺もYの意思に反しない限り有効であるとした上で、約定相 殺の担保的機能について無制限説にたつ最大判昭四五・六・二四民集二四巻六号五八七頁を引用して、本件相殺予 約を差押債権者に対して対抗しうることを認めた。原審は、本件相殺予約の有効性については、第一審と同様にし てこれを認めたが、三者間には両債権が対当額で簡易、公平に決済できるとの信頼関係が形成されるものではない ためにその対抗力は認められないとした。  最高裁は、本件相殺予約の第三者効を次のように述べて否定した。   本件相殺予約の趣旨は必ずしも明確とはいえず、その法的性質を一義的に決することには間題もなくはないが、右相殺   予約に基づきAのした相殺が、実質的には、Yに対する債権譲渡といえることをも考慮すると、YはAがXの差押え後   にした右相殺の意思表示をもってXに対抗することができないとした原審の判断は、是認することができる。  本件では、三者間相殺契約に基づいてなされたAの相殺の意思表示の効力がXY間で間題とされているものであ るが、Aが自己のBに対する債権を自働債権として、YのBに負う債務を相殺することができるかということが問 80

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題とされていることから、以下では、本稿の問題の視点に則して、責任を負う第三者の相殺として検討を行う。  本件については、いくつかの評釈がなされている。これらの評釈を大きく分けると、本件相殺予約を二者間相殺       パピ の担保的機能に近づけて理解するものと、債権質や債権譲渡担保、代物弁済予約などの担保権設定契約として理解    パお するものとが存在する。本件は、YAB三者間にまたがる債権について、ABの二者において相殺予約がなされて いるものではあるが、そのような相殺契約の対内的効力については有効であることに異論がない。しかし、これを        パぜ 二者間相殺の担保的機能と同様に理解することについては批判が存在する。AによるYの債務の引受けやAの債権 のYへの譲渡がなされた後に、相殺が行われたのであれば、二者間相殺の間題として解消することが可能となる ハゆレ が、本件にはそのような事情は認められず、民法五〇五条に定められた二者間相殺として本件で行われた相殺の意 思表示を理解することは困難である。そうすると、従来の学説では、本件相殺予約を担保権設定契約として捉える       のロ 途が残されることになるが、いくつかの評釈が指摘しているように、本件の合意を第三者︵X︶に対抗するには対 抗要件を備えることが必要であるものと考えられる。そのため、なんらの対抗要件も備えられていない本件相殺予 約は、Xに対抗することができないものと考えられる。  このように、本件においては、約定相殺をXに対抗することは困難であるものと考えられるが、なお、三者間の 法定相殺を検討する余地が残されている。そこで、以下において、本件において三者問の法定相殺が可能かどうか を検討する。 81

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 ︵二︶裁判例の分析・検討     ︵A︶責任を負う第三者の債権による相殺  前述において大審院判決︻4︼では、第三者弁済について正当の利益を有する者の相殺であっても二者間相殺で ない場合には否定するものとする判例法理が示されているが、前掲・裁判例︻3︼では、保証人の相殺が認められ ており、このことをどのように位置づけるかということが間題となる。  一方で、前掲・裁判例︻3︼において、保証人の主張した相殺が保証債務との相殺であると考える場合には、二 者間に債務が対立している場面において相殺が認められたものであるから、右の大審院判決︻4︼の法理と矛盾す るものではないと理解することができる。他方で、保証人は主たる債務の肩代わり責任を負うだけであると考える 場合には、大審院の判例法理とは異なって、保証人の債権と主債務とによって三者間相殺を認めるという判断が下 されたものと考えることも可能である。  前掲・裁判例︻3︼において指摘されているように、﹁責任を負う第三者の相殺﹂では、先に検討した援用相殺 型と異なって、保証人Bによる相殺を認めても、最終的にBから主債務者Sに対する求償関係が残ることになる。 このために、Bにとっては、たとえ相殺しても、Sの無資力についてリスクを負担することには変わりがない。し かし、BS間には、親会社・子会社関係、継続的取引関係などのなんらかの既存の関係が存在する場合が多いもの と思われ、このような求償関係は、実際には、このBS間に存在する債権によって相殺されるために問題は少ない ものと思われる。また、たとえBS間にこのように債務の対立が存在しない場合であっても、Bが自らの意思に よって、債権回収リスクを引き受けることは、Gの利益も、Sの利益も害するものではない。そこで、このような 場面において、自働債権と受働債権の弁済期が到来している場合には、Bの相殺を認めることは問題がないものと 82

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思われる。     ︵B︶無関係の第三者の債権による相殺  次に、第三者の弁済が認められていること、また、債権は譲渡禁止特約さえなければ債務者の意思に関わらず譲 渡できることを考え合わせると、前述のように、Sの債務のために責任を負担するBだけでなく、無関係の第三者 ︵Sの債務のために責任を負うBと区別して、以下﹁A﹂と表記する︶が、自己のGに対する債権によってSの債務を        パ  相殺することも認められるかどうかが問題となる。  Aによる相殺を認める場合には、Gの意思にも、Sの意思にも関わらずに一方的意思表示のみで相殺を行えるこ とになり、これは、第三者の弁済とも、債権譲渡とも異なる。通説は、先に述べたように、無制限に第三者による 相殺を認めるものではなく、貢任を負担する者が主張する場合において、その債権による相殺を認めることが主張 されている。筆者も、Gの債務者Sのために責任を負う者Bについては、BのGに対する債権によって、SのGに 負う債務の相殺を認めるべきであると考える。すなわち、この場合には、GB間には、二者間相殺の要件とされる 債務の対立は存在しないが、責任の対立が存在している。このような責任の対立によって、Gの意思にも、Sの意 思にも関わりなく、Bが相殺を行使することが正当化されるのではないだろうか。したがって、無関係のAは第三 者の相殺を行うことができないものと考えられる。     ︵C︶責任を負う第三者の相殺の担保的機能  さらに、Bが自己のGに対する債権によって、SのGに負う債務を相殺しようとする場合には、BのSに対する 求償債権が残るにもかかわらず、そうすることが単に自己の責任を消滅させるだけでなく、Bにとってより積極的 にこのような相殺を主張すべき事由が存在すること、たとえば、BのGに対する債権を保全する必要性が存するこ 83

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とが考えられる。このような局面では、Gに対して債権を有する他の債権者Eとの間で、GのSに対して有する債 権からの回収をめぐる債権者問の競合間題が生じることも考慮に入れる必要がある。すなわち、責任を負う第三者 の相殺では、Bの相殺を認めることによって、①BのGに対する債権が消滅し、②GのSに対する債権が消滅する が、③BからG、GからSへと向かっていた債権関係は、BからSへの求償債権へと一本化される︵さらに、場合 によっては、この求償債権を保全するために、GのSに対する債権への法定代位が認められることになる︶ために、結果 として、④GのSに対する債権をBが譲り受けたのと等しい状態が作り出されることになり、BとGの他の債権者 Eとの間での競合が問題となる。責任を負う第三者の相殺における要件を検討する場合には、このように、三者間 相殺の担保的機能が問題となる局面をも考慮する必要がある。  このような三者間相殺の担保的機能を考えるには、債権者代位権と直接訴権︵民法六一三条参照︶とが参考にな るものと思われる。先に述べたように、Bによる相殺を認めることにより、BからG、GからSへと向かっていた 債権関係は、BからSへの求償債権へと収敏されるからである。  まず、右に述べたBGS間において、Gが無資力の場合には、Bは自己のGに対する債権を保全するために、G のSに対する債権を行使することができる。この場合には、同様に、Eも債権者代位権を行使しうるのであり、G が無資力であるというだけでは、BE間の優先関係を決することはできない。そこで、この場合には三者間相殺の 担保的機能を認めるべきではなく、債権者代位制度によって解決されるべきだろう。  次に、BのGに対する債権と、GのSに対する債権との間に密接な関係が認められる場合にはどうか。民法六一 三条は、賃料と転貸賃料との間の牽連性から、転貸人の資力にかかわらず、賃貸人の転借人に対する直接の請求権 を認めている。また、二者間相殺の担保的機能においても、対立する債務の牽連性が優先弁済権を付与するものと 84

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東洋法学第53巻第2号(2009年12月)        む 考えられることはすでに検討したとおりである。これを参考にすると、BのGに対する債権とGのSに対する債権 とが牽連性を有する場合には、BはEに先立って自己の債権を回収することが認められてよいように思われる。そ うすると、先に述べたように、無関係のAは第三者の相殺を行うことができず、Sの債務のために責任を負うBの みが相殺を主張できると考えられることを考慮すると、BのGに対する債権と、GのSに対する債権とが牽連性を 有する場合において、Bには、相殺の担保的機能が認められるものと考えられる。  前掲・判例︻5︼では、子会社︵A︶と親会社︵Y︶という関係が存在していること、また、自働債権は運送燃 料としての石油代金債権であり、受働債権は長距離運送作業代金債権であって、両債権の問に牽連性が認められる ことを考えるとAによる第三者の相殺の担保的機能が認められてよいように思われる。ただし、本件では、裁判所 による事実認定はなされていないが、次のようにXによる相殺権の濫用の主張がなされており、もしもこのような 事実が認定されれば相殺の主張が制限される可能性があるものと思われる。すなわち、①本件相殺予約の締結時に おいて、Bの代表取締役が逮捕され、また、Bの租税滞納に基づくXによる差押えがなされたことをYおよびAは 知っており、そのために、Bの信用の悪化を承知していたこと、②差押時には、YはBとの継続的取引を終了させ るつもりであり、Aは実際にはすでにBとの取引を停止していたにもかかわらず、AB間の取引をさらに継続させ ることを前提とした本件相殺予約を締結しており、これは、受働債権となる請負代金債権を増加させることを目的 として行ったものであるから相殺権の濫用にあたるとXは主張している。裁判所はこのような事実を認定していな いが、もしもこのような事実が認定されていたとすれば、すなわち、YABの三者間の正常な取引の一環としてY B問の請負契約がなされていなかったものとすれば、相殺の主張が制限される可能性があったと考えられる。 85

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    ︵D︶﹁責任を負う第三者の相殺﹂の要件  ここまで検討したことから、責任を負う第三者の相殺が認められるためには、次の要件を満たす必要があるもの と考えられる。  まず、第三者の相殺が認められるためには、相殺を主張するBがGのSに対する債権の掴取力に服している、す なわち、SのGに対して負う債務の責任を負っているということが必要であり、その場合に、B︵保証人、連帯保        パま 証人、連帯債務者、物上保証人、担保目的物の第三取得者︶は、自己のGに対する債権によって、弁済期の到来したS の債務を相殺することができる。  次に、Gに対して債権を有する他の債権者Eが存在する場合に、このようなBのなす第三者の相殺に担保的機能 が認められるためには、前述の要件に加えて、BのGに対する債権とGのSに対する債権との間に牽連性が存在す ることが必要となるものと考えられる。    四 第三者の債権による相殺︵固有の三者間相殺型G の︶  前述のように、債務者Sが債権者Gに負う債務を受働債権として、Gの債権者であるDのGに対する債権を自働 債権として相殺を主張する場面も、固有の三者間相殺型に含めることができる。このような場合に、三者間相殺は 認められるか。  民法は、﹁前項︹連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合︺の債権を有する連帯債務者が相殺を援用し ない問は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる﹂︵民法四三六条 二項︶と規定しており、連帯債務者間であっても、他人Dの債権者Gに対する債権によって自己Sの債務︵負担部 86

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東洋法学第53巻第2号(2009年12月) 分︶を免れることが認められていない。また、現行民法では削除されているが、旧民法では、﹁主たる債務者は自 己の債務と債権者が保証人に対して負担する債務との相殺を以て債権者に対抗することを得ず﹂︵旧民法財産編五二 一条一項前段︶とも規定されていた。ここからすると、第三者の債権によって自己の債務を相殺することは認めら       パぞ れないようにも思われる。  しかし、民法四七九条が﹁前条︹債権の準占有者への弁済︺の場合を除き、弁済を受領する権限を有しない者に対 してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する﹂と規定していること は、一見すると相殺が利用されているのではないようにも見えるが、以下のように同条の趣旨を考慮すると、第三 者の債権による相殺を認める場面と考えることができる。  ︵[︶裁判例の紹介  ︻6︼大判昭一八・二・=二民集ニニ巻一一二七頁 XはYと運送契約を締結し、保証金をYに支払った上で、 Y所有の船舶甲による運賃前払いとして、甲船長Aに対して金銭を支払った。Aは、受け取った金銭を船の燃料代 食物代船員の給料修繕代等に使用していた。そこで、Xは、本訴としてYに対して保証金から支払済運賃を差し引 いた残額の返還を請求し、これに対して、Yは、反訴として、XY間ではYに運賃を直接に支払う旨の特約が存在 しており、また、YはAに代理権を授与していないため、弁済として効力を生じないとして運賃の支払いを請求し た︿後掲・図8﹀。  原審は、﹁仮令Aが該金員を甲の航海の必要費等に充て此の限度に於てYが其の出掲を免れたるものとするもX の出掲とYの利得との間には因果関係なきを以てXの不当利得の主張は理由なしと判断し、従て⋮Yの支払を受け 87

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たる金九百四十円を控除したる残額千五百二十六円八銭に対しX交付の保証金千円を支払に充当し残額五百二十六 円八銭はXに於てYに支払ふべき義務あるものなりと判断し因て以てXの本訴請求は理由なくYの反訴請求は此金 額の範囲に於て正当なり﹂と判示した。  大審院は、次のように述べて、原審を破棄し、差し戻した。 按ずるに弁済受領の権限を有せざる者に為したる弁済は本来無効のものたるべしと錐其者が弁済として受けたる物を債 権者に交付し又は之を債権者の利益の為め消費したるが如き債権者が之に因りて事実上利益を受けたる場合には債権者 は自ら弁済を受けたると同様の満足を得たるのみならず此弁済を無効と為すの結果債権者は利得を返還して更に弁済を 請求すべく弁済者は給付したるものの返還を受け更に債権者に給付を為すべきものと為すは徒に法律関係を繁雑ならし むるに過ぎざるを以て民法第四百七十九条は右の場合に弁済は債権者が利益を受けたる限度に於て有効なる旨規定した るものとす。故に同条に依り弁済受領の権限なき者に対する弁済が有効なるには単に債権者が之に因り利益を受けたる 事実あるを以て足り該債権に付、債権者本人に弁済すべき特約あり、従て弁済受領者に其権限なきことを弁済者に於て 知りたるときと錐同条の適用を妨げざるものとす。⋮当事者間に運賃支払に付、右の如き特約あり、且、AがYの為本 件運賃受領の代理権を有せざる者なりとするもXに於て︹船舶︺の航海の必要費に充つる為運賃若は其の前払等の名義 の下にAに交付したる金員にして若しYの負担すべき航海の必要費として支払はれたる結果同人に於て其の支出を免れ たりとせんか⋮其の限度に於てYは右弁済に因り利益を受けたるものとして本件運賃の弁済は循ほ有効のものと云はざ るを得ず。 88

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 ︵二︶裁判例の分析・検討  大審院判決︻6︼は、民法四七九条について、起草者と同様の次の見解に立つものである。梅謙次郎は、民法四 七九条について、﹁理論上は︹無権限者Dへの︺弁済は無効なりと錐も若し之を無効とするときは債権者︹G︺は ︹①Dまたは②Sに対して︺其受けたる物を返還せざるべからず。而して弁済者︹S︺は更に弁済を為さざること を得ざるに至り頗る無用の煩雑を招くに過ぎざるを以て寧ろ債権者︹G︺が受けたる利益の限度に於ては弁済を有 効とし若し債権者︹G︺が未だ其全部の利益を受けざるときは其不足の部分に付てのみ更に弁済を請求することを       パぞ 得るものとせり﹂と説明している︿後掲・図9﹀。Dに対する弁済が無効となる場合に、①DはGから返還を受け、 SはDから返還を受け、GがSから弁済を受けること、または、②SはGから返還を受け、GはSから弁済を受け        さ ることは迂遠であるから、これを一挙に解決したのである。通説も、同条を梅謙次郎と同様に考えている。  これを債権関係の簡易な決済手段と考えると次のように説明することができる。すなわち、前述①のように考え ると、Gが利益を受けた限度で弁済の効力が生じてSに対する債権が消滅するということは、SがGから請求され た場面において、SのGに負う債務を受働債権として、DのGに対する債権を自働債権として相殺することが認め られたと考えることができる。また、前述②のように考えると、二者問の相殺の間題に還元できる。  大審院判決︻6︼では、AのYに対する必要費償還請求権について、Xによる第三者弁済が行なわれたとして、 XとYの間で求償債権︵同時に、Xは、必要費償還請求権に代位する︶と運賃の間の相殺が行われたとして、前述② のように二者間相殺の間題に還元する方法も存在する。しかし、ここでは、本稿の問題意識に則して、前述①のよ うに、三者間相殺の問題として、さらに同判決を検討する。そうすると、同判決については、X︵S︶がY︵G︶に 直接に弁済すべき旨の特約が締結されており、このためにA︵D︶への弁済は準占有者に対する弁済と認められな 89

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かったが、民法四七九条を適用することによって、X︵S︶はY︵G︶からの運賃支払請求に対して、第三者A ︵D︶のY︵G︶に対する債権︵判例の事案では、あらかじめ必要費償還請求権が存在しているために、これによるものと 考えられる︶による相殺を認めたものと考えることができる。  また、民法四七九条の特徴を検討すると、Sは、自己のGに対して負う債務を免れるために、SのDに対する不 当利得返還債権によって相殺したとも考えられる。なぜならば、民法四七九条では、三者にまたがる三つの債権が Gの利益の限度において一挙に消滅しているからである。このように民法四七九条は三者間相殺とはいっても、三 者にまたがる二つの債権を満足させるのではなく、循環的求償が生じる三者において、それぞれの当事者をつなぐ 三つの債権関係を一挙に消滅させるものである。  以上の検討をふまえると、固有の三者間相殺のうち、第三者の債権による相殺について、民法では、主債務者が 保証人の債権によって相殺を主張することが認められていないように、第三者の債権による相殺が一般的に認めら れているわけではないと考えられる。しかし、たとえば民法四七九条に見られるように、一つの事由︵誤った弁済︶ から三者間に循環的請求関係︵SがDに請求し、DがGに請求し、GがSに請求する関係︶が生じる場合には、三者に またがる﹁三つの債権﹂の同時決済が認められる。    五 結論  本稿では、裁判例を通じて、援用者拡張型と固有の三者間相殺型︵ω﹁責任を負う第三者の相殺﹂およびσの﹁第三者 の債権による相殺﹂を含む︶の要件を検討した。その結果として、次のことが明らかとなった。  援用者拡張型と責任を負う第三者の相殺︵固有の三者間相殺型ω︶との共通点は、受働債権を自ら負う者ではな 90

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いが、その掴取力に服している者が相殺の意思表示をすることによって、二つの債務を同時に消滅させることがで きる点にある。一方で、援用者拡張型は、受働債権について貢任を負う第三者Bが自らの地位に基づいて、GSの 二者問で対立する債務の間に生じた相殺適状を相殺することができるものである。他方で、責任を負う第三者の相 殺︵固有の三者問相殺型ω︶は、他人の債務のための責任を負担する第三者Bが、SのGに負う債務を受働債権と して、BのGに対して有する債権を自働債権として、両債権の弁済期が到来したときに相殺することができるもの である。そして、ここでは、Bと、Gに債権を有する第三者Eとの競合が問題となるために、二者間相殺の担保的 機能と同様に、Gの他の債権者Eとの間で、Bによる相殺の担保的機能が問題となりうることも明らかとなった。 本稿では、この第三者の相殺の担保的機能が認められる要件として、対立する債務の問に牽連性が必要になるもの と考えた。  また、第三者の債権による相殺︵固有の三者間相殺型6 の︶については、三者にまたがる二つの債権の間で認めら れるものは存在しなかったものの、三者に循環する三つの債権の間では認められるようである。このように、三つ の債権を同聴に消滅させる手段については、さらに検討が必要となるものと思われる。  最後に、以上の本稿による検討結果をこれまでの筆者の研究に位置づけて本稿を終える。  まず、筆者は、二つの債権が三者にまたがって存在する場面を類型化して、二者間相殺へと還元する方法を検討   ぞ した。そこにおいて、二つの債権の存在から三者間相殺を分類すると、Aが相殺を主張する場合には、次の三つの 場面が存在した。すなわち、①AのBに対する債権︵α債権︶を自働債権として、AのCに負う債務︵Cのβ債権︶ を免れることが間題となる類型︿後掲・図10﹀、②AのBに対する債権︵α債権︶を自働債権として、CのBに負う 債務︵Bのβ債権︶を免れることが間題となる類型︿後掲・図11﹀、③BのCに対する債権︵α債権︶を自働債権と 91

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して、AのCに負う債務︵Cのβ債権︶を免れることが問題となる類型︿後掲・図12﹀である。        ハざ  次に、筆者は、民法では抗弁存続型が規定されていることを検討した。これは、Aが相殺を主張する時点では、 AB間で対立していた債務のうちの受働債権が譲渡によってCに移転することによって、債務が三者間にまたがっ        て存在することになっており、①類型に該当するものである。そして、ここでは、対立する債務の牽連性から認め られる先取特権者の相殺︵相殺の担保的機能︶が間題とされる。また、本稿において検討を行った固有の三者間相 殺型には、受働債権の掴取力に服する債務者以外の者︵他人の債務のために責任を負う者︶が行うことのできる相殺 ︵固有の三者間相殺型ω︶があり、これは、②類型に含まれる。さらに、③類型に該当する三者間相殺としては、た とえば、三者問で循環的な給付関係が生じる場合のように、第三者の債権による相殺︵固有の三者間相殺型σ⇒︶が 認められる場合が存在する。なお、一見すると、援用者拡張型も③類型に含まれるようにも思われる。しかし、筆 者は、援用者拡張型においては、責任を負う第三者が二者間相殺を援用するものと考えるために、これは、③類型 に含まれるものではないと考える。すなわち、保証人および連帯債務者が、主債務者または他の連帯債務者の債権 によって、自己の固有の債務︵保証債務または連帯債務のうちの保証部分︶を免れることができると考える場合は、 援用者拡張型は③類型に含まれる。これに対して、筆者は、この場合には、保証債務との相殺がなされるのではな く︵保証人は責任のみを負うものと考える︶、債権者・主債務者間または債権者・他の連帯債務者間の間で対立する 債務を相殺するものと考えるため、援用者拡張型は、③類型には含まれないということになる。このように考える ことにより、物上保証人や担保不動産の第三取得者についても、保証人や連帯債務者と同様に、直接には債務を負 わないが、特定の財産について掴取力に服する者として債権者・債務者問に対立する債務の相殺を主張することが できると考えることができる。 92

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︵1︶たとえば、我妻栄﹃債権総論﹄︵岩波書店、新訂、一九六四年︶三二二頁以下。 ︵2︶深川裕佳﹁三者間における相殺の類型的検討−三者間相殺に関するフランス民法との比較﹂東洋法学五二巻二号︵二〇〇九 年︶二一頁。 ︵3︶深川裕佳﹁相殺の担保的機能﹄︵信山社、二〇〇八年︶。 ︵4︶深川裕佳﹁債権法改正における相殺制度の検討﹂経営実務法研究一二号︵予定︶。 ︵5︶抵当不動産の第三取得者も、債権者に対する関係では、保証人などと同様に、債権の掴取力に服する者であるから、ここに含 めることができるものと考えられる。 ︵6︶本件の評釈である浅沼武﹁判批﹂金法五一七号︵一九六八年︶九頁以下︵特に、一二頁︶では、代位弁済について正当の利益 を有する者である点において物上保証人は保証人と同様であり、さらには、債務名義なしに強制執行を受ける点で物上保証人は保 証人よりも切迫した状況にあることから、物上保証人について民法四五七条二項の類推適用を認めるべきであると主張されている。 ︵7︶古館清吾﹁判批︵大阪高判昭五六・六・二三︶﹂金法一〇三五号︵一九八三年︶二一頁以下︵特に二四頁︶、坂本武憲﹁判批︵大 阪高判昭五六・六・二三︶﹂ジュリ七七七号︵一九八二年︶八六頁以下︵特に八九頁︶、椿寿夫﹁判批︵大阪高判昭五六・六・二 三︶﹂判例評論二九五号︹判時一〇八二号︺︵一九八三年︶一八三頁以下︵特に一八五頁︶、平井一雄﹁判批︵大阪高判昭五六・六・ 二三︶﹂法時五五巻六号︵一九八三年︶一四五頁以下。本件の評釈については、椿久美子﹁判批︵大阪高判昭五六・六・二三︶﹂担 保法の判例H︹ジュリスト増刊︺︵一九九四年︶三〇五頁以下も参照。なお、本件では、破産財団に属する債権の相殺についても 判示されているが、本稿において検討する問題とは直接にかかわらないために、ここでは言及していない。 ︵8︶物上保証人に固有の相殺権を認めているとの理解については、前掲注︵7︶・平井︵一︶﹁判批﹂一四六頁および小杉茂雄﹁判 批︵大阪高判昭五六・六・二三︶﹂西南学院大学法学論集一七巻一号︵一九八四年︶一〇三頁以下︵二一頁︶も参照。 ︵9︶前掲注︵2︶・深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂三二・三三頁、四七頁。 ︵10︶福田誠治コ九世紀フランス法における連帯債務と保証︵七・完︶﹂北大法学論集五〇巻四号︵一九九九年︶七五五頁を参照。 前掲注︵2︶・深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂三一・三二頁も参照。 93

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︵n︶民法四五七条二項について梅謙次郎﹁民法要義巻之三﹄︵有斐閣、補訂増補三〇版、一九一〇年︶一七二・一七三頁を参照。 ︵12︶前掲注︵2︶・深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂二七頁も参照。 ︵13︶旧民法では、財産編五二一条一項に﹁訴追を受けたる保証人は債権者が⋮自己︹保証人︺に対して負担する債務の相殺を以て 対抗することを得﹂とする明文の規定が存在したが、保証人の債権による相殺の文言は現行民法においては削除されている。通説 は保証債務を主たる債務と別個の債務と考えるために、このような場面においても、二者間相殺が認められると考えることになる だろう。筆者のように、保証責任と考える場合には、物上保証人などの場合と同様にして、三者間相殺に分類されることになる。 ︵14︶前掲注︵1︶・我妻﹃債権総論﹄三二三・三二四頁。 ︵15︶債務が対立しているのと同程度の期待があればよいとする吉田光碩﹁判批︵大阪高判平三・一・三一︶﹂判タ七八六号︵一九九  二年︶三二頁、公知性を基準にすべきとする山田二郎﹁判批︵大阪高判平三・一・三一︶﹂ジュリ九九五号︵一九九二年︶一二〇 頁、三者間に継続的な債権・債務関係が存在していて、かつ、両取引相互間に牽連性があることが必要とする松本崇﹁判批﹂判タ 七七三号︵一九九二年︶七三頁。深谷格﹁相殺における相互性要件について﹂西南学院大学法学論集二六巻丁二号三一三二三 四頁︵一九九三年︶は、フランス法を検討して相殺における債務の相互性の本質的重要性を指摘しながら、弁済期の到来を補うよ うな牽連性よりも、より密接な牽連性が存在する場合、または、自働債権の債権者と受働債権の債務者とが法人格否認の法理が適 用されるほどに同一視されうる場合には三者間の相殺を認めうるとしている。 ︵16︶新美育文﹁判批︵大阪高判平三・丁三一︶﹂判タ七七一号︵一九九二年︶三六・三七頁、山田誠一﹁判批︵大阪高判平三・  一・三一︶﹂金法コニ三一号︵一九九二年︶三二頁、千葉恵美子﹁判批︵最大判平七・七・一八︶﹂金法一四六〇号︵一九九六年︶  三八頁、平野裕之﹁判批︵最大判平七・七・一八︶﹂銀法二一・五二七号︵一九九六年︶一〇頁、本間靖規﹁判批︵最大判平七・ 七・一八︶﹂判時一五九四号︵一九七七年︶二二頁。 ︵17︶たとえば、中舎寛樹﹁債権の差押えと相殺予約に基づく相殺の優劣﹂民商一一五巻六号︵一九九七年︶二〇一頁。なお、同﹁多 数当事者間相殺契約の効力﹂伊藤進先生古稀記念論文集﹃担保制度の現代的展開﹄︵日本評論社、二〇〇六年︶三五〇頁も参照。 ︵18︶二者間相殺へ還元する方法については、前掲注2・﹁相殺の担保的機能﹄二〇八頁以下において検討を行った。 94

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︵19︶前掲注︵16︶・新美﹁判批﹂三六頁、前掲注︵16︶・山田︵誠︶﹁判批﹂三二頁、前掲注︵16︶・平野﹁判批﹂一一頁、前掲注  ︵16︶・本間﹁判批﹂二一一頁。 ︵20︶民法︵債権法︶改正検討委員会編﹁債権改正の基本指針﹄別冊NB﹂一二六号︵二〇〇九年︶では、三・丁三・壬二条︵債 務者以外の者による相殺︶において、﹁相殺は、第三者のする弁済︹同三二・三・〇二条︺の例により、債権者に対し債権を有 する第三者もすることができるものとする﹂という規定を新設することが提案されている。民法︵債権法︶改正検討委員会編﹃詳 解・債権法改正の基本方針皿﹄︵商事法務、二〇〇九年︶四七頁には、﹁第三者による相殺は、受働債権を担保する担保権の負担を 受けているなど法律上の利害を有する者がする場合に限ることが相当である﹂とされている。 ︵21︶前掲注︵3︶・深川﹃相殺の担保的機能﹄を参照。 ︵22︶BはSの債務について期限の利益を放棄することができないと考えられるため、受働債権の弁済期の到来が必要となる。 ︵23︶前掲注︵3︶・深川﹃相殺の担保的機能﹄二一四頁以下においては、民法四四三条一項および四六三条・四四三条について、① 類型として検討を行った。しかし、前掲注︵2︶・深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂三四頁以下において検討を行った結 果として、これらの条文は、債務消滅原因としての三者間相殺を定めるものではないと考えられる。 28  27  26  25  24 前掲注︵11︶ 前掲注︵1︶ 前掲注︵3︶ 前掲注︵2︶ 前掲注︵3︶ される場面をこの類型には入れていないが、 検討を行ったため、 ・梅﹃民法要義﹄二四八頁。 ・我妻﹃債権総論﹄二八四頁。 ・深川﹃相殺の担保的機能﹄二〇八頁以下。 ・深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂三三頁以下。 ・深川﹃相殺の担保的機能﹄二〇八頁では、最初から債務が三者にまたがっている場面を検討して、債権譲渡がな       深川﹁三者間における相殺の類型的検討﹂では、債権譲渡と相殺も三者間相殺として  援用者拡張型を①類型に分類しておく。 [付記]本稿は、科学研究費補助金︵若手研究⑬課題番号21730094︶の助成を得て行われた研究成果の一部である。 95

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