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契約破棄の自由 利用統計を見る

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契約破棄の自由

著者名(日)

三沢 元次

雑誌名

東洋法学

43

1

ページ

21-41

発行年

1999-07-30

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000443/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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契約破棄の自由

東洋法学

  目  次    @ 間接強制の不能と契約破棄の自由    @ その他における契約破棄の自由     ①社会情勢の変化     ②経済原則からの契約破棄の自由     ①思想・社会・経済状況の変化と婚姻の崩壊     ②拒婚・事実婚・非婚症候群と婚姻の破壊 四 結   語  ︵  ー ω 終身婚の矛盾と契約破棄の自由 2  ー ↑D 婚姻制度の崩壊と破壊 1 ︵ 三 身分法的側面      ー ω 民法上契約破棄の自由を認める例 二 財産法的側面 一 序 21

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契約破棄の自由

序  古来契約は法鎖であり︵○び一蒔簿δ①磐置ユω証琴巳⊆B∈○箒8霧一鼠9呂雪吋冒短日貫鑑o巳房ωo一ぎ⇒盆① 声一る9巨身目目ω嘗器o一ξ貫蔚賞轟︶遵守すべきとしたローマ法以来、ドイツでは契約は取引の慣習を顧慮 し信義誠実の要求に従いて之を解釈することを要す︵<R鉾凝①獣区ωo窪旨三①鴨P護Φ曽窪茸α㊤雲び窪 ヨ一什困8冨8拝曽旨象①く①詩①ぼωω葺08R8巳Φヨ︶としている。またフランスでは適法に形成せられたる合 意は之を為したる者に対し法に代る︵い88⇒<窪賦○塁応彊一Φ巨Φ旨8﹃目δ窃江窪器旨一一豊8 巨似8仁図 2=80旨邑け8︶とし、我国でも権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実に之を為すことを要すとして、       パと 契約の誠実な履行を当然の原則としている。  確かに人間関係の基いはお互いの合意による契約によって形成され物資の流通や確保を得て衣食住を満たし社 会生活を営むためにも、社会や国家の秩序と安全を維持するためにも契約とその履行が不可欠となりそれによっ て人の生存も可能となるまさしく契約社会であり、この契約の強制によって国家と法の使命が果されこの法の合 理性は疑問の余地のないものと考えられている。この契約遵守の原則はその当事者の合意の存在の結果として生 ずる債務の誠実な履行であり合意の結果生ずる責任の実現にある。民法上契約には取消・撤回・解約・解除とい う概念で統一された一定のルールがあり、契約解除は債務不履行を原因とする法定解除なり合意にもとづく合意 解除なり、事情変更による解除なりという定められた既成の要件により認められるものである。

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 ここで新たに論ずる契約破棄は必ずしもそれら既成の用語と内容に一致しない部分もあり敢えて破棄の自由の 既念としてまとめたものであり、契約破棄に伴って生ずる損害賠償責任の要否は別個の問題として捉えるべきも のであるので必要な場合にのみ論ずるものである。  そこで当事者の合意によって成立した契約において双方に何らの毅疵も錯誤も不可抗力も存しない場合に、そ の履行前もしくは履行中に一方当事者によってはたして契約を破棄する事が法的に或いは合理的ないし正義に合 致して認めうるのか、もし認める事が可能かつ必要であるとするならば、いかなる根拠ないし法理によるものか 等について論ずる事を試みるものである。

  註

︵1︶ 船田享二﹁ローマ法三巻﹂一一頁、岩波書店、原田慶吉  ドイツ民法一五七条、フランス民法一、一三四条 ﹁ローマ法﹂一四七頁、有斐閣

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二 財産法的側面  qD ω 民法上契約破棄の自由を認める例  民法上いったん確定的有効に成立した契約は契約違反としての債務不履行・合意解除・不可抗力・事情変更等、 法の定める要件に合致する場合以外はその解除を許さず合意の拘束力を認め、厳格にその強制履行︵四一四条︶ 23

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      ヱ ないし損害賠償︵四一五条︶の規定を設けその実現を国家機関の強制力と共に保証している。更に法定解除の要 件と行使の方法も詳細に規定し︵四一五条・五四〇条以下︶、それらによる以外の当事者の恣意的な契約の消滅は       パら 認められないものとする。  しかしながら民法上法定解除権の発生する解除・取消等として定める規定の中で、以下のようないくつかの解 除・取消になじまない性質のものが存在している。  @書面によらない贈与の取消︵五五〇条︶。この取消行為はすでに有効に成立している契約を失効させる事、 すなわち一方的意思表示によって破棄する行為であり、相手方は全く無過失でありまさに契約破棄の自由を示す     パゑ 一例である。  回手付の拠棄ないし倍額償還と解除︵五五七条︶。この手付が証的手付であれ解約手付であれ損害金として手 付を拡棄するかその倍額の償還さえすれば契約を解除しうる、すなわち契約を破棄しうる権利を留保している事       ニ であり、これも一方的意思による契約破棄の自由を示している。  @使用貸借における借用物の返還時期︵五九七条③︶、当事者が返還時期又は使用及び収益の目的を定めない 時は、貸主は何時でも返還を請求しうる。これはたとえ他人の物の使用収益でありいずれ返還の必要があるとは いえ、時期のみならず理由を問わず何時でも返還請求の意思表示ができる、すなわちこれも一方的な契約の破棄         ロ を認める例である。  ⑥仕事未完成の間の注文者の解除権︵六四一条︶。これは注文者が請負人に対し損害賠償の支払を要件として 24

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任意に請負契約の解除をなすこと、すなわち一方的意思により損害さえ支払えば契約の破棄を認める規定の例で  パヱ ある。  ㈲委任の解除︵六五一条︶。委任は各当事者において何時でもこれを解除しうるとするのはこの委任が特に対 人的信頼関係を基礎とする契約であり、自己の信頼できない受任者にその事務を処理させるのもまた自己の信頼 できない委任者のために事務を処理するのも、人間にとって共に耐えがたいものである事から双方に時期も理由 も問わず自由に解約を認めており、まさに契約破棄の自由を認める典型であり法律関係としての契約の本質を如         パニ 実に示すものである。  ㈲夫婦間の契約の取消権︵七五四条︶。夫婦間で契約をした時は、その契約は婚姻中何時にても夫婦の一方か らこれを取消ことができるとする。この取消権は夫婦間における全ての契約に適用される画一の原則として認め られ、通常の状態にある夫婦の間でなされる契約は当事者の自由な意思によって解消しうるものであり、これも 契約が一方的に破棄しうる自由を保証した規定である。この点は後に詳述するが婚姻の合意そのものも不確実な 現代において、その継続中の合意の契約も当事者の真に望まないものである以上、当然自由に破棄しうる事を示    すレ している。  更に贈与においてはすでに履行の終了した部分について、本来なら返還請求や意思の撤回は契約法の明認しえ ないところであるが、忘思行為ないし信義則により贈与の解除あるいは取消により返還請求を認める場合さえあ       り り、この事はドイツ・フランス民法等においても当事者の救済として認めている。 25

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 以上の条文以外にも契約の解消の自由を認める規定も存在しており、ここでみられた規定において民法上取消・ 解除・解約等の文言を用いてはいるが、その本質は当事者による契約の一方的な破棄であり相手方に何らの過失 も債務不履行も存せず、契約の破棄の自由を認める証例でありこれらはまさしく法律による人の精神への強制や 拘束が不合理でありなじまず、正義に反する事を明確に証明している。 26  @ 問接強制の不能と契約破棄の自由  契約が成立した以上契約を履行すべき債務者が任意で履行しない時は、相手方債権者は裁判所の助力を得て国 家権力の強制力により契約内容を強制的に実現する事ができ、これを債務の強制履行または現実的履行の強制と いう。今日の法制度においてはこのような強制力は国家の独占するところとなり、私人が権利実現のための自力 救済・自力執行を禁止されている結果の代償である。確かに履行の強制の必要な場合もあり、民法並びに手続法 上直接強制・代替執行・間接強制の制度と手段を認めている。  ここで問題とするのはこの強制履行が認められない部分の存在であり、特に間接強制を法的に認められないな いしそれになじまない場合である.すなわち、①間接強制を許す要件としてその行為の履行が債務者の意思のみ にかかるものであり、債務の履行に外的な障害の存する場合︵例、知事や行政機関の許可承認の必要や受電設備 の完成していない以前の送電義務等︶には認められないものである。②債務者の自由意思に反してその履行を強 制する事が人倫に反したり公序良俗にむしろそぐわない場合︵例、夫婦の同居義務や不代替労務の提供を目的と

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する雇傭契約上の債務等︶である。③債務者の自由意思を圧迫して強制したのでは債務の本旨に適った給付を実 現しえない場合︵例、演奏出演契約・絵画作成・小説執筆等︶を目的とする作為義務である。④本人のする事が 法律上の効果の発生に不可欠な場合︵例、婚姻届への署名等︶である。  以上のような場合には債務者本人に履行させなければ債務の本旨にそぐわないような行為を目的とする義務で あり、仮に第三者が代って行う事が法律上もしくは事実上不可能であるかないしは可能であっても債権者が目的 を達しえない行為の場合である。このように近代国家における法制上個人の自力救済や自力執行を認めない代償 として、国家による契約の強制履行を認めているが例外的な場合としてもその強制の認められない部分があり、 この部分においては人身の自由・意思の自由を当然に尊重し、権力によって物理的力を加え強制するのを許され       パむ ない場合であり、この点においても契約の自由な破棄を認める必要のある事が立証される。

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 @ その他における契約破棄の自由 ①社会情勢の変化。  約款契約やそれに近い契約関係その他多様な契約関係の拡張されつつある今日の社会で、一方は法的専門家な いし経験豊かな契約の達人により作成された契約内容を有する側に対し、他方は始めてその契約を締結する大衆 消費者であったり、その契約内容や効果についてよく理解していないか或いは理解できないまま契約してしまう ケースも増加している。またつい契約を締結してしまったが、後になって不利な状況に置かれている事に気付い 27

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た場合や締結後に事情や変化が生じた場合、特に継続的契約関係に生じ易いがこれらへの対処と解決も不十分で ある。更にインターネットの普及や通信販売等相手の実情や顔も見えない相手との電子取引の増加に伴って確認 や手続の不知不十分なままの契約で、一方的に不利益を及ぼされる恐れのある不正確な合意による契約関係も増 加しつつある。これらに対する取引法上の整備や救済も遅れがちで民法等契約法のみ優先される現象の見られる 場合や、消費者利用者が自己を守る必要な時の手段の欠落している場合、更にキャッチセールや高額商品の詐害 的販売や賃貸住宅での事後のトラブル等、今後増々クーリング・オフ的な制度なり契約再考の猶予の必要性が広 がっており、これらの法整備も必要であるがその前提としての契約破棄の自由による保護救済が不可欠な社会現 象が増加している。  ②経済原則からの契約破棄の自由.  契約は遵守すべしとする原則はいかなる合理性から合法化され正当化されうるのか、これこそ契約法の根本課 題と言いうるもので単純に論じえないが、ここでは経済的効率の側面から契約の本質的特性を考察するものであ る.まず契約当事者には契約を履行するか契約を破って損害賠償を支払うか、この選択的自由が存するはずであ る。例えばAはB社と一〇〇〇個の商品を買入れる契約を締結した後、C社がより優良な製品をB社の半額の値 で売ると申し出た場合、そしてB社に契約破棄による履行利益を賠償しても十分な利益が得られる場合、Aは当 然にC社と契約しそれを履行するのではなかろうか。同様にDはEに対しD所有の土地一〇〇〇平方メートルを 売却する契約を締結した後、未登記であるうちにFからEの倍額での買入を申し込まれ、その後更にGからEの 28

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三倍の価額で買入を申し込まれた場合、おそらく誰しもがそうするであろうようにDはGに土地を売却し登記を 済ませることになるだろう。この場合にDは損害賠償を支払う以外、契約法上どれだけの非難をあびる必要があ るであろうか。この事は民法上当然の原理として二重契約三重契約の合法性を契約の特質として認めており、不 動産においては登記を︵一七七条︶動産においては引渡しを︵一七八条︶対抗要件と定めていて、これは契約の 成立が必ずしも特定履行の強制に結び付けるべきでない事の現われでもある.  これらは契約の締結の本質がそもそも自由な破棄を含むものである事の証明でもあり、更に債権者平等の原則 を認め債権に排他性なしとする原理によって補強されている。  このように自由主義経済の社会においては人々の自由な財物の交換取引の実現が重要な課題であり、履行の強        ど 制がむしろ経済的な合理性に反する場合もあり実質的にも損害賠償を原則とする傾向にあるのではなかろうか。  確かに債権の効力の実効性の必要上強制力を不可欠とし、そのために民法は強制履行を認める規定︵四一四 条︶を設けているが債務の性質がこれを許さない場合は除かれ、結局いかなる場合に強制履行が必要なのか問題 となる。これは自力救済・自力執行を許さない結果、国家機関の権力により債務者の意思いかんにかかわらず債 権の内容を実現することであり、債務者に代って給付結果をもたらす事である。そしてこのような方法で実現が 可能な給付だけが直接強制の対象となり、それには金銭債務・物の引渡・明渡に限られる事になる。この強制履 行は債務者自身への給付行為を強制することではなく、国家の行う実現行為としての強制執行行為を債務者が妨 げない事への強制となる。それ故動産を引渡すべき債務ではその物を債務者が占有する場合は、執行官がその物 29

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を債務者から取り上げて債権者に引渡すことになり、不動産の明渡の場合は執行官が債務者の占有を解き、その 占有を債権者に取得させること等となる。  ドイツ法では強制履行を前提としておりまた不代替的行為であって債務者の意思のみにかかる場合、債務者は 罰金︵N毒碧暢鵯§または拘禁︵N壌き鵯ぎ包によって履行を強要され、不作為義務または忍容義務でも同 様に罰金或いは拘禁を認めている。またフランス法においては﹁作為・不作為債務は全て債務者の不履行の場合 には損害賠償に帰する﹂としドイツにおけるような直接強制は認めず、ただ罰金強制︵霧霞①冒8︶を認めるの みである。これはフランス法において自由意思の尊重とか人格の尊重ということの内容が、人身への強制力を一 切禁ずるという事ではなく、債務者はその意に反して国家の強制により行為の強要をされない事を意味している。  以上の点から考えると我民法の履行強制は金銭執行が損害賠償と同次元のものと考えると残された強制の範囲 は限られたものとなる。我国での立法段階での不正確さもあるが、本来この民法の強制の規定は不当なもので、 むしろ損害賠償の必要性を強調する方が望ましいものと思われる。そうであるなら実質的には一般人に対し契約 は尊守すべしH履行の強制を伴うのだとする心理的効果でしかなく、この強制の効果は心理的圧迫であり、むし ろ精神的自由への拘束ないし剥奪として人格尊重の理念からも不当なものであり実効性も疑わしく、ここにも契        パ レ 約破棄の自由の根拠が認められるところでる。 30

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        12 11   10 9  8  7  6  5  4    3  2 ) )    ) ) ) ) ) ) )    ) ) ︵13︶

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) 註 奥田他﹁注釈民法︵10︶﹂二六三頁、 奥田他﹁注釈民法︵10︶﹂二二六頁、 谷口他﹁注釈民法︵13︶﹂六四二頁、 柚木他﹁注釈民法︵14︶﹂四五頁、 柚木他﹁注釈民法︵14︶﹂一七五頁、 幾代他﹁注釈民法︵妬︶﹂二六頁、 幾代他﹁注釈民法︵16︶﹂一六一頁、 幾代他﹁注釈民法︵16︶﹂二七九頁、 青山他﹁注釈民法︵21︶﹂三八二頁、  九六六条。 奥田他﹁注釈民法︵10︶﹂二六三頁、 qOO ゆ甲目①    ﹁アメリカ統一商法典﹂    ﹁アメリカ契約法﹂四三頁、 ドイツ民事訴訟法八八入条1、九一  三〇五頁、  有斐閣  有斐閣 有斐閣 有斐閣 有斐閣 有斐閣 有斐閣 有斐閣 三五三頁、有斐閣  最判昭五三年二月一七日判夕三六〇1一四三、ドイツ民法五三〇条∼五三三条、 条、        有斐閣 渋谷年史       一五五頁、木鐸社 樋口範雄       弘文堂        三条、フランス民法一、一四二条 ≧鋤ぎ一WぎぎΦ旦90津〇三一一Φω○び一お&gρ一。。刈も白。 三 身分法的側面 (イ) 婚姻制度の崩壊と破壊 フランス民法九三一条、九五三 31

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  ①思想・社会・経済状況の変化と婚姻の崩壊  従来の婚姻制度は家族制度のもとに家と家との結びつきの関係や地域的な関係或いは親族縁者との付合い関係 等、非常に複雑な要因がからんで社会的・身分的拘束が強く特に女性にとって家事労働や多数の育児と共に、負 担の大きなものであった。更に家長としての夫の権限も強く妻の能力さえ制限せられたし、家を守るという大義 名分のため舅や姑のいじめや強制にも従わねばならない苛酷な立場の女性も多かった。戦後の民主化で核家族も 進行し古い因習からも苛酷な労働からも開放され、女性は次第に自由な時間と精神を取得しうるようになってき た。しかしながら今日の社会制度としての法律婚主義の世の中で、次第に離婚が増加し或いは家庭内離婚や別居 という離婚予備軍の増加の現象もみられ、まさに破綻主義の傾向が強くなってきている。特に女性の高学歴化は 社会進出を促しまた高度な知識や専門的技能は、女性の自立を可能とし女性自身の有する経済力が、男社会の過 去の因習を打破し変革を求め始めているようである。  今日では女性も男性同様に対等に教育され、高い進学率と高度の教育は女性達に能力を訓練し開発し発展させ うる機会を提供し、自らの努力次第で男性と互角に競争し活躍しうる社会である。人の能力や才能は個人的に生 れもった各種の特性や差異もあるが、むしろ知識や経験や訓練によって変化する可能性の方が大きく、教育の程 度や環境に応じて今後も女性が更に多様に発展・成長していく事になるだろう。  今日でもすでにアメリカでは専門職において女性上位が証明され、史上初めて全米での専門職を占める女性の 数が男性を上回っている。アメリカ労働省統計局の発表によると、専門職労働者総数千三百八十四万七千人のう 32

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ち、女性が六百九十三万八千人で女性の方が約三万人多い。この専門職の定義は知識情報の開発・生産・配布・ 応用に従事する者をさし、技師・建築家・コンピュータ技術者・学者・医師・薬剤師・教師・社会事業家・弁護 士・作家・芸術家・広報・スポーツの専門家等が含まれる。女性の進学率は一九六二年の二一パーセントから四 〇パーセントを越える増加となり、会社の管理職に占める女性の率は三六パーセントに達している。日本の女性 がアメリカの女性に比して無力なわけでもないし日本の男性が特に有能なはずもなく、いずれ日本もこのような 結果となるだろう。  ところで今日、かつて確立されてきた男社会の制度の名残りと風潮の影響が女性の十分な成長と発展を阻害し、 結婚制度と育児のハンディから男社会の従属的役割に縛りつけられざるを得ない部分が存在している。結婚制度 がその一例であり、良妻賢母・専業主婦・亭主関白・家庭は女が守るもの等男には都合の良い従来からのしきた りや因習が、次第に死語となりつつあるが未だにそれを信じる男達の多いのも世間がそれを承認している部分の あるのも事実である。確かに従来の家族制度においては、代々引き継がれてきた家を存続させていく土地や田畑 の財産と、名誉・長子相続による継続性・安心して出来る育児・老後の介護を含めた一生の保証が存在した。こ のような社会的経済的背景のもとに結婚の制度が確立し、女性達の苛酷な労働や古いしきたりや老親の世話もあっ たが、この終身婚は女性にとって永久の保証でもあった。今日女性達は大いなる自由とゆとりの時間を得て、妻 の座の苛酷さから解放された代償に右の全ての保証を失ってしまった。残されたのは古い因習の影のちらつく保 証なき終身婚の制度である。 33

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 しかし主婦達は次第に目覚めて、夫の能力や責任を疑い結婚に失望し将来や老後への不安がつのりだす頃、離 婚への序曲が始まり、子供のためとか老後のためとか我慢し犠牲となっている場合も、離婚予備軍として潜在す る家庭内別居・家庭内離婚そして別居の増加の状態が生じている。   ②拒婚・事実婚・非婚症候群と婚姻の破壊  昭和四〇年代の女性運動の活発化と共に主婦の蒸発事件や夫婦の別居が増加し、今日では離婚率も三五パーセ ントに達していてそのうえ残りの六五パーセントのうち約半数が離婚予備軍とも言われており、このような離婚 の増加や離婚同然の関係の増加が、現行婚姻制度への不信と不安となり拒婚・非婚の大きな原因となっていると 思われる。  次第に社会情勢も変化し今なお不十分ではあるが男女の平等・職業選択の自由は男女雇用機会均等法の成立と 改正を促し、更に女性の特性や能力を活かしうる職種や領域を拡大し、女性の経済的社会的自立を可能にする。 女性が自立に目覚めウーマン・リブの運動やキャリアウーマンの続出を見て、男性への期待や結婚への願望も薄 らぎ或いは離婚の可能性のある結婚に夢を託せない現実を知った時、専門知識や高度の技術の修得に努力し自己 の能力の開発と訓練に勤しみ、個性化の時代に相応しい自由なスタイルでの生活や職業を求めるのも当然の成り 行きである。  昭和四〇年代に一世を風靡した同棲という現象は、当時通常の結婚関係しか認めない人々には驚愕であったに 違いないが、それは反面従来からすでに保たれていた男女関係の一面をクローズ・アップさせたものである。こ 34

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れは多くの若者や事情があって結婚できない人或いは結婚という形式を望まない人達に歓迎され、そういう人々 を救済した現象でもあったし、現在も更に形を多様化させ或いは事実婚として存続しているし増加している。そ こには女性の側からの理由として結婚に不安・愛情の確認中・再婚に踏み切れない・未婚の母を希望・離婚係争 中・老婚・拘束より仕事を優先・結婚そのものを否定等、様々な事情なり原因に基づく関係であるがまさしくこ れらは拒婚・非婚状態といいうる現象である。  これらの現象の増加は、まさに現行婚姻制度を外側から破壊しつつあり、男性優位の男社会と制度への反撃と して、女性達の自らの目覚めとあらゆる拘束からの解放に向かわせつつある事を示している。

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 ω ω 終身婚の矛盾と契約破棄の自由  かつてヨーロッパ社会を支配した宗教婚主義も次第に法律婚主義へと改革され、更にその厳格主義が否定され る傾向は少しずつ破綻主義を正当化しつつある。我国においても離婚原因を有責主義に基づく制限主義をとりな がら、次第に破綻主義の傾向と実態が強まっている。今日認められつつある有責配偶者側からの離婚請求や、国        パど 会でも議論されるであろう五年別居で離婚を認めようとする法案等はこの事を如実に示している。  すでに述べたように婚姻制度の内側からの崩壊が離婚の増加・別居・家庭内離婚等の現象によって進行し、更 に外側からの破壊が若者達による結婚の拒否・事実婚或いは非婚症候群といった法律的婚姻の拒絶の現象の増加 に現われており、これらは婚姻制度に内在する不合理と矛盾の存在を明らかに示すものであり旧態然のまま放置 35

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しうるものではない。このような離婚の増加にしても拒婚・非婚の拡大にしても個別的には各種の事情や様々の 原因がありその当否は別として、ここでは何故に離婚・拒婚・非婚が増加するのか、今日の法制度としての婚姻 に内在する原因なり根拠なりを明確にする事が必要である。  今日の婚姻制度は歴史的所産として由来し家産と子孫の保護を第一としてきた男優位の社会体制の中で確立さ れ維持されており、その名残の因習の存するのも理由の一つではあるが、矛盾の最大の原因は終身婚に由来する のではなかろうか。婚姻は両性の本質的平等と自由な意思に基づいて成立し維持されるものである事は、法制度 として確立し人々も承認しており形式的に整い万全であるかの如きである。  確かに本質的な男女の平等と結婚の自由は憲法上も自由な合意H結婚として、男女の結合の自由を保障してい るし、従来は社会的拘束も強く世界各国でも一般的に承認される現象でもあり何の矛盾も感じず、子育ての不可 欠性や全体社会の安定と秩序の維持の目的から当然の事と考えられてきた。  しかしながら、結婚におけるこの結びつきの自由とは単なるゴール・インのための自由だけではないはずであ り、本来この結びつきすなわち婚姻の成立の合意と共に婚姻継続中の合意の存在と、更に継続中における合意の 自由をも保障したものでなければならない。それが論理的にも実態的にも正しいとするならば、すでに自由なる 合意の存在しなくなった結合すなわち夫婦関係には、自由なる離別も保障されているはずである。更にすべての 契約には﹁もし事情がこのままで存続するならば﹂という、黙示の約款を含んでいて事情の変更による解除も可 能となる。なぜなら人の意思に基づく継続的契約関係の合意は永久絶対のものではなく、常に解除権を留保して 36

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いる事を前提としなければならない。現在社会は多様で変化の激しい時代であり、五〇年も六〇年も適合もせず 望みもしない人々を制度と法律の拘束で縛りつけておく事こそ無謀であり、夫婦の間に生じてしまった歪みは三 年は耐えうるとしても三〇年は無理だろう。神の意思でも多少変化する時代で先年バチカンも二千年の掟を破棄 し離婚を認め、永久婚の拘束を押しつけるのは無謀である事が実証された。  この自由なる結合と離別の自由こそ、人間の生存に最も尊重されるべき不可欠の原則であり、人間結合や共同 の前提要件でもある。近年世界各国で次第に認められつつある無過失離婚や、一年ないし二年の別居の後離婚を        認めようとする制度は、当事者の意思の確認が得られた段階で、結婚の自由なる破棄としての離婚を認めうべき 事を証明している。婚姻が合意によって成立するものであるとするならば、すなわち合意“婚姻契約である以上、 ここに自由なる合意の存しなくなった場合は、自由なる婚姻の破棄を認めうるのでなかろうか。  このように先に述べた思想社会経済的変化による婚姻制度の崩壊・破壊の実態とこの法的合理的根拠は、終身 婚の自由な破棄を認めうる前提となるが、更に今日の婚姻制度の欠陥と矛盾を正し新たなる婚姻制度の創設の不 可欠性を如実に物語るものでなかろうか。

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︵14︶ 註 中川博﹁民事法学辞典﹂下 一六四五頁、有斐閣 青山他注釈民法︵21︶ 一五〇頁以下、有斐閣 37

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四 結 駈ロロ  契約は遵守すべし︵勺8鈷豊筥ωR<き3︶の原則は近代における法制度の整備と法理論の発達に伴って厳格 化したものと思われるが、今日その社会的経済的文化的諸背景と諸条件も大きく変化し、更に優位的立場を利用 した契約自由の濫用が契約自由の観念や内容を変質させ、﹁契約の危機﹂と言うべき現象もみられるところであ る。確かに従来の契約自由の修正ないし制限により伝統的な契約概念の中でも新たな契約形式︵例、保険契約・ 運送契約等︶を発生させ、また複合的な形式︵割賦販売・賃借不動産の債権化・動産信託等︶を創設し、契約法 の領域の拡大と発達も認められるところである。また経済的弱者の利益保護や自由性の公平等の視点から、契約 自由の実態的側面での主観的要素︵性別・年令・環境・成立情況等︶への配慮により合意の当事者意思の尊重も 必要とされるようにはなってきているが、むしろ個人意思の自治ないし新たな契約思想の確立と人間性の尊厳の 保護が必要な時期である。  ところで、特に日本に於ける法の原理は契約を遵守すべしとする格言の通り、あらゆる契約を定めた以上はそ の通り履行の強制をなすべき事を要求し、その違反は許さないと特別法を増加させ更に規整を強化しつつある。 勿論法の論理は実質的な精緻さをモットーにあらゆる矛盾を排斥して例えばパンデクテン方式の民法典の如く、 論理的前提と帰結を統制し齪齪も欠鉄も許さずその守備範囲は特別法の名のもとに次第に拡張し、陣容を整えて いく傾向をもつものである。この事は一面経済的社会的強者にとっては有利に作用しいかなる契約も締結された

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東洋法学

以上は確実にその履行を確保でき、その契約の時点から自己の意思の実現が可能となり変更も解除も損害も無用 なものと保証される。他面弱者にとっては大きな拘束となり契約が対等・平等の形で成立・履行されない場合や、 内容において不利益や不合理の結果が後に判明しても対処の仕方も残されない場合もある。このような問題は特 に継続的契約関係において起り易いものであり、法学徒は事情変更の原則や解釈と運用方法によってその修正に 努力もしてきた。  そこで自由なる契約意思とその尊重の本質を確認するためにまた今日的な意思自治の原則の確立のためにも、 財産法的側面と身分法的側面から、契約の自由なる破棄の可能性について検討してきたが、それぞれの側面にお いて十分な論拠と実益の存する事が明白となった。  特に財産法的側面では民法上契約破棄の権利を留保している諸規定や、贈与や夫婦間契約の取消権・間接強制 の実質的不能における契約の破棄・社会経済情況の変化に伴うクーリング・オフ的規定の増加の不可欠性・二重 契約の合法性と経済的効率の有効性・直接強制の不合理性等は、破棄の自由の論拠を十分に示しその必要性を証 明している。また身分法的側面においては、婚姻制度の崩壊と共に拒婚・非婚の実態が示す婚姻制度の破壊に根 拠づけられるが、その主要な原因として永久の拘束となる終身婚とその解消の為の離婚制度に不備と欠陥があり、 時代の要請に合致しない事も明白となり無過失離婚とその手続を容易にすべき事も判明した。更に婚姻における 合意について解釈が誤っており、成立の合意のみに限定してより重要な継続中の合意の必要性と共に継続終了の 為の自由なる意思の合意を欠落させ終身婚を前提としてきた事が、このような結果をもたらした理由でありここ 39

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契約破棄の自由

に十分な婚姻破棄の自由の根拠が立証される事になる。  勿論本質的にこの婚姻破棄の自由は今日の制度においても存在するが、このままでは混乱を招く恐れもなしと しないので婚姻制度を改め、婚姻における契約制を導入し双方の合意と内容を詳細に明記した契約書を作成する つまり﹁契約結婚﹂の制度を導入して、五年でも十年でも期間を限定しうる事・その他子供を産むか産まないか・ 離婚の際の条件等、婚姻前にお互いの合意を確認しうる契約書とその登記の制度等を設ければ、今日の婚姻制度 の混乱を除去しうる事になるだろう。最近ではアメリカにおいても婚前契約が一般市民にも広がり始め、この婚 前契約は離婚における泥仕合を避ける有効な手段で、結婚の半分が離婚で終わる昨今二度目三度目の子連れの再       ハを 婚で、自分に何かあった時、前の結婚で生まれた子供に有用で希望をはっきりさせておく必要もあるとする。  ところで我国において契約の遵守や約束を守れとする厳しい規定や強い風潮はドイツ法継受の影響よりも、む しろ東洋儒教思想や封建遣制の名残りを原因とすると思われるが、これは今日求められている行政改革や規制緩 和とも共通する現象でもある。現代社会は次第に変化の推移も早まり複雑化多様化し社会経済情勢も社会におけ る契約実態も大きく変容しつつあり、経済の効率性の原則や社会変化の点からみても、従来の契約遵守の原則が 神との契約であった時代ならともかく、今日では対等な人間同士の契約であり、これを維持し強制履行を原則と するよりも必要不可欠でない限りむしろ契約は変更でき破棄しうるという原則を確立する事の方が、契約領域を 拡大し契約技術を多様化しこの激しく変化する不確定な社会においては有効ではなかろうか。なぜならこの変化 する社会と時代に応じ契約内容の変更なり破棄の自由を認めることで、人々は安心して自己に有利な契約関係に 40

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容易に参加し、時の推移や情況の変化に対応しうるし、より有利で効率的な契約関係を望む人心に一致し安心し て気楽に契約を結び、この契約締結行動の促進ことこそより重要な課題なのではなかろうか。  以上のような契約自由と合意をめぐる諸問題のみならず、人間関係の規格化ないし平準化を強いる管理社会と 拘束が拡大しつつある現代において、いかにして各個人としての人間性とその尊厳を守り、また真の契約自由を        パを 実現し契約理論を発展させ﹁契約の再生﹂を期するためにも、この契約破棄の自由の確認は有効と思われる。 1615 註 日本経済新聞平成十年五月二日 三漢庵 明﹁契約結婚﹂、講談社

東洋法学

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参照

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