68 2011.9 メディアが健康情報をどんどん取り 上げることは、果たして良いことでし ょうか? マスメディアの持つ力が大きいこと は、議題設定効果として知られていま す。人々は、記事の回数が多く、見出 しが目立つものほど重要な事柄だと思 いやすいというものです。このことは、 健康意識が高まるという点では良いの か も し れ ま せ ん 。 し か し 、 一 方 で は 、 あ る 日 突 然 、「 健 康 リ ス ク あ り 」、 「 病 気」というレッテルが張られる可能性 が増大していることにもなります。肥 満も今やほとんど病気のような扱いで、 偏見や差別の対象にもなりかねない状 況です。しかも、肥満を助長する生活 を送って健康を害した時、 「自業自得」 、 「 個 人 の 責 任 」 と さ れ た ら ど う で し ょ うか。 このような現象を、日常生活の「医 療化」と呼ぶ人がいます。日々の生活 が、医療の対象になったという意味で す。ただ、医療の対象といっても、専 門家が毎日ついていてくれるわけでは ありません。毎日の生活に直面してい るのはあくまでも本人です。 医 療 化 で ま す ま す 情 報 に 目 が い き 、 さ ら に 不 安 を 感 じ る か も し れ ま せ ん 。 かといって、生活を変えるのは大変で す。良いアイデアは浮かばず、ストレ ス解消が大事だなと思うかもしれませ ん。そして、健康情報のかたわらには、 ダイエット食品やサプリメント、睡眠 グッズ、ヨガ教室、資格、海外旅行な どの情報もあるでしょう。 情報は使う人次第です。リスク情報 にうまく対処できる人もいれば、怖く て逃げてしまう人もいます。医療者は、 「 医 療 化 さ れ た 生 活 」 と の つ き 合 い 方 をもっと研究し、それに寄り添い、支 援する方法を考えていく必要がありま す。 日常生活に限らず、医療化はさまざ まな場面で進んでいます。 例えば、かつては親のしつけや教育 の問題とされてきた「落ち着きのない 子ども」 、「子どもの成績不振」が、多 動症、学習障害と呼ばれるようになっ て き ま し た 。 ま た 、 生 ま れ る と き も 、 死ぬときも、かつては家族や地域がみ ていましたが、今はほとんどが医療現 場でのことになっています。 ほかに、これまで周囲の期待通りに 妊 娠 や 出 産 を で き な か っ た 女 性 が 、 「 本 人 が 原 因 」 で あ る か の よ う に 扱 わ れ る こ と が あ り ま し た 。 し か し 、「 リ スクが高い」とか「病気である」とさ
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vol.06
賢い患者・市民に
なるための
「ヘルスリテラシー」講座
Health Literacy
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病
・
病
い
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病
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69 2011.9 れることで非難されにくくなり、医療 者に守ってもらえるようになりました。 死についても、家族は最後までできる 限りの医療を受けさせてあげれば、見 捨てたという気持ちに苦しめられなく てすみます。 しかし、そうした医療化の結果、医 療者任せの傾向が強くなったことも忘 れてはなりません。意思決定を委ねる こ と で 、「 人 と し て 何 が 良 い の か 」 の 判断まで任せてしまうとどうなるでし ょう? 医療が、全てのリスクや病気を解決 できるわけでもありません。それどこ ろか、医療行為には必ずリスクが伴い ます。子どもを産む場所、死を迎える 場所としてどこが良いのかは、本人や 家族がベネフィットとリスクについて 「 語 り 合 う 」 こ と で 、 初 め て よ り よ い 意思決定が可能になります。さまざま な選択肢を選べるように、支援してい くことが求められています。 「慢性疲労症候群( C h ro n ic F a ti g u e S y n d ro m e:C FS )」 と い う 病 気 を 、 ご 存 知 で し ょ う か ? 原 因 不 明 の 強 度 の 疲労が、長期間(6カ月以上)にわた って続く病気です。アメリカではウイ ルス感染が関連しているという研究が 進んできているものの、医学的な解明 はまだ途上にあります。 『 テ ィ フ ァ ニ ー で 朝 食 を 』、 『 ピ ン ク パ ンサー』で知られる映画監督のブレイ ク・エドワーズが患者であったことが 知られています。日本では、医療の対 象としての対応が不十分であると言わ れており、患者が動けないと語ること、 訴 え る こ と ( = ナ ラ テ ィ ブ ) こ そ が 、 この病気に注目する重要なカギとなっ ています。 果たして、医学によって明確に診断 や治療できないと、病気ではないので し ょ う か ? 医 療 人 類 学 や 医 療 社 会 学 は病気とは何かという見方について教 えてくれます。英語では病気に対する 英 語 は 主 に 3 つ あ り 、「 d isea se 」、 「 ill n e ss 」、 「 sic k n e ss」 が 使 わ れ て います。それぞれ対応する日本語で区 別 し て み る と 、「 d isea se = 疾 病 」 は 医 学 的 な 診 断 や 説 明 の 可 能 な も の 、 「 ill n e ss= 病 い 」 は 本 人 が そ れ を ど う 感 じ 受 け 止 め て い る か と い う も の 、 「 sic k n e ss= 病 気 」 は 、 周 囲 や 社 会 が そ れ を ど う 見 る か と い う も の で す ( 図 )。 慢 性 疲 労 症 候 群 は 、「 疾 病 」 と し て は不明な点が残されていますが、患者 さんにとっては紛れもない苦痛を伴う 「 病 い 」 で す 。 そ し て 、 名 称 が 誤 解 を さ れ や す い こ と も あ り 、「 精 神 的 な も のでは」 、「怠けているのでは」などと、 本人の責任ではないにも関わらず、偏 見 や 差 別 の 目 で 見 ら れ る こ と も あ る 「病気」です。 医療化が必要なのに、まだ十分手が 差 し 伸 べ ら れ て い な い こ う し た 「 病 い」や「病気」は、他にも多くありま す。適切な情報を得て、偏見を持たず、 支援をしていくことが必要です。医療 化されているものもされていないもの も 、「 個 人 の 経 験 」 や 「 社 会 の 見 方 」 という視点を忘れてはならないと言え ま す 。 詳 し く は 、『 健 康 を 決 め る 力 』 ( h ttp :// w w w .h e al thl ite ra c y.jp / ) の 「 医 療 だ け に 頼 っ て い て は 健 康 に な れ ない」をご覧ください。