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労務政策はなぜ劣化したのか(PDF:125KB)

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Academic year: 2021

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日本労働研究雑誌 1 日本企業の労務政策が劣化を続けている。それ は労働者にとって望ましくないだけではなく,企 業をも弱体化させている。製造現場では正規従業 員が減らされ,非正規従業員が増えている。工場 の海外移転も進められている。このままでは日本 のものづくりの力が低下する危険があるのではな いかと危惧する声が高まっている。流通の現場で は従業員のほとんどはパート・アルバイトである。 パート・アルバイトでも仕事がこなせるように情 報武装化が進められている。現場では,「社員 さん」と「パートさん」の処遇の違いが差別だと 感じられつつある。間接事務部門では人減らしが 進められる一方で,派遣作業者が増えている。情 報武装をしても,間接部門の仕事遂行力は低下し ている。そのために正規従業員への仕事の負荷が 大きくなっている。残業が増え,メンタルな問題 を訴える人も増えているようだ。正規従業員の処 遇も劣化している。ボーナスが減っているだけで なく,給与も増えなくなっている。社宅や寮も廃 止されている。なぜこのようになってしまったの だろうか。バブル後の不況から立ち直るプロセス で,強引なリストラが進められ,その後も労務コ ストの削減と変動費化が進められたからである。 このままでは日本の安定した労使関係が維持でき なくなってしまうのではないかと,私は危惧して いる。日本企業の競争優位を支えていた基盤の1 つが崩れてしまうのではないかと感じるからだ。 一部の企業では,この問題に気付いて ES(従 業員満足)を測定し始めた。従業員の不満が高 まっているという実感があるからだろう。ここで 注意すべきなのは,よい不満と悪い不満との違い を理解しておくことである。不満が一概に悪いと は限らない。かつて日本企業が元気だったころも 日本の従業員の会社への満足度は,アメリカより も低かった。アメリカでは不満のある従業員は企 業から離れていくが,日本ではそのまま残るから, 満足度の平均値が低くなるのである。それだけで はない。日本の企業は,現状への不満を変革への エネルギー減として使っていた。不満を変革への エネルギーに変えるためには,自分はこの企業で 長期にわたって仕事をすることになるはずだとい う期待が必要である。雇用が不安定化するととも に,この期待は持てなくなり,不満は,よい不満 から悪い不満に転化しつつある。 このようになってしまった原因として大きいの は,金融制度改革と会社統治制度改革である。か つての日本の銀行は,企業が経営危機に陥りそう になると,企業を救済するためにさまざまな支援 を行ってくれた。しかし,金融改革以降はこのよ うな援助をする余裕が銀行からなくなってしまっ た。支援をすると銀行自身の自己資本を毀損し, 銀行の存続自体が危うくなるからだ。危機のとき には,銀行に頼る代わりに,企業再生支援機構の 支援を受けるという仕組みになっている。多くの 経営者は,企業再生支援機構の管理下に入るのは 倒産の一種だと見ており,このような状態に陥る のをできるかぎり避けようとする。そのために投 資を極力抑え,十分な余裕資金を持っておこうと する。固定費を抑えるために,正規従業員の削減 も進められた。会社統治制度改革も,経営者のリ スク回避の傾向を強めた。株主代表訴訟の制度改 革は,経営者のリスク回避の性向を強めた。また, 四半期決算制度の導入は,企業経営者の視野を短 期化してしまった。長期の利害得失を考える代わ りに,四半期ごとの利益に目を向けざるを得ない 状況になってしまった。株主代表訴訟の制度は再 改革が行われ,乱訴が避けられるようになってき たが,四半期決算制度に関して規制当局はまった く動こうとしていない。 このように考えれば,労働者の待遇改善の鍵を 握っているのは,労働行政を司る厚生労働省では く,金融制度と会社統治制度を管轄している金融 庁なのである。労働組合は,金融庁の動きをきっ ちりとモニターし,そこへの影響力を高める努力 をしていかなければならない。 (かごの・ただお 甲南大学特別客員教授)

提 言

労務政策はなぜ劣化したのか

加護野 忠男

参照

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