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<動向>高等教育機関における人権教育をめぐって : 関西学院大学の人権教育の現状より

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Academic year: 2021

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<動向>高等教育機関における人権教育をめぐって :

関西学院大学の人権教育の現状より

著者

舟木 讓

雑誌名

関西学院大学人権研究= Kwansei Gakuin

University journal of human rights studies

16

ページ

17-20

発行年

2012-03-31

(2)

性格の多様化に伴い、人権教育に関する科目成立 の歴史と特質、そしてその本来の目的を理解する ことが困難となってきていた。そのため、本学に おける人権教育の内容と特徴を学内外に今一度明 確に示すための準備を教務委員会ならびに本学人 権教育研究室等で協議を重ね、その結果2009年度 より「総合コース」から独立した「人権教育科目 群」として講義を提供することとなった。また、 それに伴い従来の講義名の見直しも行われ、現在、 「部落差別と人権」「在日朝鮮人と人権」「人権から 見たジェンダー」「障害と人権」「人権と共生」「人 権問題入門」「多文化社会と人権」「差別と人権1 という名称(全ての講義に「人権」という表記を 含む)となっている。また、2009年度より新たに 「セクシュアリティと人権(開講当初は「ヒューマ ン・セクシュアリティ」)」が加わり現在9種類の人 権教育科目が提供されている2 ただし、授業提供責任部署は「総合コース」時 と同じ教務課が継続してその任を担い、これらの 講義が大学全体に課された課題を体現しているも のであることと、大学の一部署や大学構成員の一 1.本学における人権教育への取り組み 2008年3月発行の「関西学院大学 人権研究」に おいて、当時の本学人権担当中道基夫学長補佐に よって「近畿地区国公立・私立大学における人権 教育」の動向が掲載された。その後、本学の人権 教育のあり方も変化し、また日本における人権教 育をとりまく環境も様々に変わってきている。こ こでは、本学の現在の取り組みならびにここ数年 で新しく変化してきている人権教育の現状につい て概観することとする。 最初に本学の現状であるが、今回の本紀要で関 西学院大学における人権教育の歴史と現状に関す る拙論を掲載しているので詳細はそちらを参照し ていただくこととし、ここでは現状のカリキュラ ムと次年度の変更点について報告させていただく。 大学の講義においてなされた「部落差別」発言 をきっかけに、本学では1973年度より「総合コー ス」という科目群で人権に関する講義を提供して きた。「総合コース」は、学際的な研究と教育を目 的にその後も様々な内容をもった講義を提供する こととなったが、講義科目数の増加ならびにその

舟 木   讓

高等教育機関における人権教育をめぐって

― 関西学院大学の人権教育の現状より ―

1 本講義は人権教育科目の履修が神戸三田キャンパスにおいても容易なように総合政策学部・理工学部の合併科目とい う形を取っている。 2 本稿ではその設置の経緯の相違から「教職教育科目」における人権科目には言及していない。

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は、新入生の疲れからくる集中力の低下もあり、 居眠りや私語が目立ち、講演者に対して失礼なこ とになることもしばしばであった。 こうした状況の改善の一例として、本学経済学 部では一昨年度より、新入生を少人数(とはいえ 150人前後)に分けて、初年度教育の一環として人 権に関わる啓発プログラムの実施を開始した。全 新入生に対して、春学期と秋学期に出席を義務化 したこのプログラムは、本学の特色でもあるチャ ペル・アワーの時間帯をそれに当てることで、学 生の参加を容易にしている。そのプログラム内容 であるが、一昨年度は春・秋共に「障害者」の人 権に関わる主題を取り上げ、関連のDVDによる啓 発を行った。本年度は、自らの人権にも直接関わ る問題であり、社会問題ともなっている事柄への 啓発を目指し、入学直後は「破壊的カルト」に関 して、そして秋学期には「違法薬物」に関して啓 発のDVDを用いてプログラムを行った。さらにそ の時に、本学の人権教育科目の内容紹介と履修の 勧めがなされる。チャペル・アワーは30分という 短時間であるため、そこで基礎的な啓発を行った 後、一年生の必修科目である「キリスト教学」に おいて、再度詳細な説明を行っている。また、こ のプログラムは一方通行ではなく、全員にレポー トを課し、提出されたレポートはいったんまとめ てその内容をチェックした後、一年生が全員所属 する基礎演習の担当教員に返却され、そこでのフ ォロー・アップがなされる。またレポートに記述 された質問や意見に対しては、1年生の必修科目で ある「キリスト教学」の講義において再度解説が 加えられる。 なお、今年度の春学期に関しては、99%の学生 が出席し、秋学期は87%の学生が出席している。 関西学院大学 人権研究, 第16号 2012.3 部が担うのではないというこれまでの歴史を踏ま えた上での変更となっている。 また、2012年度より、開講以来通年科目として 提供してきた「部落差別と人権(1973年度開講当 初は「日本社会と部落問題」)」を春学期と秋学期 に分離して行うこととした。大学がセメスター制 となったあとも「部落問題」の理解には半期では 不十分であるとの判断の下、今年度まで通年提供 を継続していたが、通年科目であるために負担感 も大きく、学生の履修意欲に影響があるとの判断 の下、カリキュラムの構成も含めて大きな変更を 行うこととした3 2.経済学部の人権教育 以上のように「同和教育」という本学の人権教 育の出発点となった講義の開講形態を大きく変え ることで、次年度以降どのような変化があったか は、後日動向等で報告する。 また、各学部における、特に学生に対する人権 教育も曲がり角に来ていると言えよう。すでに述 べた本学での問題発言以降、教職員への人権に関 する講演会と、1976年からは学部別に「新入生同 和問題オリエンテーション」を開催し、その後は 各学部が独自に「人権問題講演会」という形で新 入生に対する人権啓発を行ってきた。しかし、300 人から学部によっては700人から800人を超える (除く神学部)新入生に向けて、入学直後の過密ス ケジュールの中で効果的な人権啓発がなされてい るのかが近年問題となってきている。実際、履修 登録(カリキュラムの多様化に伴い年々複雑化し ている)やその他オリエンテーション(生活指導 やキャリア形成等のこれまでには無かったプログ ラムも入って来ている)の合間になされる講演会 3 今回の大きな変更に関しては、長年にわたり講義を担当して頂いている友永建三・中村清二・日野謙一の各氏にもご 意見を伺い多くのご負担を強いることとなった。また、本動向執筆に際して、三氏の今年度のご講義から多くの情報 と示唆を頂いた。この場をお借りして心より感謝申し上げたい。

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今後、欠席した学生への周知をめぐって検討中で あり、マスプロ化し、多様な背景を有している学 生諸君に対してどのような内容の人権啓発を行う かを継続的に学部で話し合っていく予定である。 また、この「成果」をどのように検証していくか は、専門家を交えた研究が必要であろうと考えて いる。 3.人権教育をめぐる取り組みの状況 一方、日本全体における人権教育は、「人権教 育・啓発に関する基本計画」が、2002年3月に閣議 決定されてから、文部科学省によってその具体化 が図られてきている。2003年度には「人権教育の 指導方法に関する調査研究会議」が設置され、そ の後第一次(2004年6月)より第三次(2008年3月) まで「とりまとめ」が順次公表されてきたのは周 知のことである。 特に第三次とりまとめでは「指導等の在り方編」 と「実践資料編」の二編に分割したより具体的な 提言がなされている。「指導等の在り方編」は「第 Ⅰ章 学校教育における人権教育の改善・充実の 基本的考え方」ならびに「第Ⅱ章 学校における 人権教育の指導方法等の改善・充実」の2章から構 成されている。 第Ⅰ章では最初に「人権」理解をめぐる定義が 「人権教育、人権感覚」も含めて改めてなされてい る。そしてその定義の上で学校における人権教育 の意義と目標が語られる。そして、第Ⅱ章は「第1 節 学校としての組織的な取組と関係機関等との 連携等」「第2節 人権教育の指導内容と指導方法」 「第3節 教育委員会及び学校における研修等の取 組」の三項目からなり、それぞれにさらに具体的 な対象への提言が記載される。 特に人権教育を行う主体となるべき教員ならび に職員に対する研修の責任主体として教育委員会 の責務について紙面を割いて言及されており、現 場と一体となった人権教育の重要性が強調される 内容となっている。 この第三次「とりまとめ」をめぐって、多くの 人権団体が検討を行ってきており、2010年11月に は、一般社団法人全国人権教育研究協議会によっ て「活かそう〔第三次とりまとめ〕−文部科学省 『人権教育の指導方法等の在り方について』−」が 発刊されている。ここでは、「とりまとめ」に沿っ た形で総括的な説明と評価がなされ、さらにそれ ぞれの項目における実践教育例が掲載されており、 より具体的な活用への指針が示されている。 例えば、学校構成員の関係性を越えた同一目線 での学級経営の実践例として、大阪市立神津小学 校の例が紹介されている。この小学校は校区内に 児童養護施設が存在し、家庭的な背景が大きく異 なる児童と共に学級運営を続けるという環境であ った。2名の具体的な児童の様子が記された後、い わゆる自尊感情の育成に向けた教育の実践例が掲 載されている。 また、「児童生徒ができるだけ主体的に、協力的 な方法で学習に取り組める工夫」を実践した学校 の例としては、大阪府八尾市立桂中学の実践例が 「教職員集団」という象徴的な名前で報告されてい る。各学年2学級の小規模校であるこの中学には、 「被差別部落出身の子ども、在日韓国/朝鮮人の子 ども、中国帰化の子ども、障害のある子ども、一 人親家庭の子どもなど、数多くの被差別の立場に ある子どもたちが多数在籍している学校」とのこ とである。そしてここでは、一年次の地域フィー ルドワークや「水平社宣言」創作活動から始まり、 二年次の水平社発祥の地での宿泊活動といったこ とを通し、自らの事柄として人権問題をとらえ、 そして自尊感情の涵養を行っていくことが報告さ れている。 こ の よ う に こ の 冊 子 に お い て は 、 第 三 者 的 に 「とりまとめ」を論評するのでなく、これまでの人

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関西学院大学 人権研究, 第16号 2012.3 権啓発・教育活動と「とりまとめ」において報告 されていることを常に関連づけて評価し、さらに は実際の教育現場での「成果」をもとにより具体 的な活用の指針が示されている。 結びにかえて:一般社会における人権教育 大学における教育が初等教育あるいは中等教育 と決定的に異なるのは、多くの学習者にとって最 後の公的教育を受ける機会であり、その後多くの 学習者が一般社会に出て行くという点である。そ ういう意味では、時間をかけてじっくりと考え、 自らの価値観を構築していくための経験や知識を 得る最後の時とも言いうる。しかし、それと同時 に、就職活動や試験を受けて何らかの職に就き、 自立しなければならないという極めて切実な現実 がある。そのため就職に必要な知識・技術とは何 なのかということに学生ならびに保護者の意識は 向かいがちであり、そうした状況で「人権」につ いて学ぶことの意味が改めて問われざるを得ない のが切実な現状である。 しかし、昨今CSR(企業の社会的責任)が注目さ れはじめ、2010年のISO26000(社会的責任企画) の制定によってCSRに本格的に取り組む企業が増え てきている4。昨年のオリンパスや大王製紙の不祥 事に象徴されるよう、倫理観や人権感覚(国際的 な人権感覚)に鋭敏でないと大きな不祥事につな がることは火を見るよりも明らかである。実効性 があるから人権を「学ぶ」というのは主客転倒し た考え方であるが、高等教育機関においても人権 を「学ぶ」ことが自らの利益を守る事につながり 社 会 を 真 の 意 味 で 豊 か に す る も の で あ る と い う 「当たり前の事実」に今一度立ち返り、その教育の あり方を今日改めて検証していくことが焦眉の急 であることを再認識することが必要であろう。 4 より充実したCSRの体制づくりに取り組み、すでに公表している企業も少なくない。各企業のCSR体制やより相応し い指針作りに関しては、「(社)部落解放・人権研究所」のホーム・ページに詳細が記されている。

参照

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