木造建物の被害調査
2016 年熊本地震による木造住宅及び木造文化財建築物の被害
Damage Survey of Timber Structure
Damage of Timber House and Timber Cultural Properties by Kumamoto Earthquake in 2016
○廣石秀造1, 秦一平2, 宮里直也2 *Shuzo Hiroishi1, Ippei Hata2, Naoya Miyasato2
Abstract: The Kumamoto Earthquake occurred in April 2016. In this paper, authors report the damage situation of timber structure, Kumamoto Castle etc.
1. はじめに 平成 28 年 4 月に発生した熊本地震を受け,理工学研 究所を主体として地震被害調査を実施した。本論文で は,平成 28 年 6 月 8 日~10 日に行った現地調査を踏 まえて,木造住宅,熊本城,阿蘇神社及びその他の木 造建物に関する被害状況について報告する。 2. 木造住宅の被害(益城町) 4 月 14 日と 16 日に震度 7 を 2 度観測した益城町で は多くの木造住宅に損壊・倒壊を生じ,木造住宅の倒 壊による人的被害も多く発生した。木造建物の耐震基 準は 1981 年に必要壁量の大幅改定が行われ,また 2000 年に接合金物の仕様規定や耐力要素の配置に関する規 定が新たに設けられている。このため,木造建物の被 害はこの改定の時期を境に,大きな差がみられる。今 回の調査において,倒壊した建物では耐力壁の不足も しくは偏りと考えられるものや,筋交いの破断(Fig.1), 柱頭部の金物の緊結不足による抜け落ち(Fig.2),柱脚 部の腐朽(Fig.3),などが確認された。また,瓦の脱落 や擁壁の崩落も散見された。 国土交通省の「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」の報告書[1]によると,調査対象 1955 棟の木造建物うち,1981 年以前(旧耐震)の建物の被 害が最も多く,およそ 46%(351/770 棟)が大破もし くは倒壊している。一方,旧耐震以降 2000 年以前の建 物は同 18%(157/862 棟),2000 年以降の建物は同 6% (19/323 棟)となっている。また,2000 年以降建設の 建物で倒壊した建物は,柱や筋かい端部の不十分な接 合(仕様ビス本数の不足など),片筋かいの向きの偏り, 隣接建物の倒壊,シロアリによる食害や腐朽,敷地崩 壊に伴う基礎の傾斜等が原因として挙げられている[1]。 3. 熊本城の被害状況 熊本城(熊本市中央区)は慶長 6 年(1601)から同 12 年にかけて建設されたと考えられている。現存する 宇土櫓や城門,塀など 13 棟は国指定重要文化財である。 このうち,東十八間櫓及び北十八間櫓,不開門は石垣 とともに崩落し,長塀は一部が転倒した(全て国指定 重要文化財)。また,現在の天守は 1960 年に再建され た RC 造であるが,瓦や鯱が落下した(Fig.4)。 2005 年に再建された飯田丸五階櫓は櫓台の石垣が崩 落し,わずかに残った隅部の石垣で支えられている (Fig.5)。なお,この櫓の崩壊を防ぐための鉄骨による 補強工事が 8 月までに実施された。 戌亥櫓(2003 年再建/Fig.6)も石垣の中央部が崩落 した他,周辺の石垣が広い範囲で崩壊しており,何箇 所かで地割れも確認された。 1:日大・短大・教員,2:日大・理工・教員 Fig.4 天守の被害状況 Fig.5 飯田丸五階櫓の状況 Fig.6 戌亥櫓の被害状況 Fig.7 宇土櫓の被害状況 Fig.1 筋かいの破断 Fig2 柱の抜け落ち Fig3 柱脚部の腐
朽
平成 28 年度 日本大学理工学部 学術講演会予稿集
9
S1-5
Fig.16 神門の柱脚部のずれ 一方,木造 5 階建ての宇土櫓(Fig.7)は崩壊を免れ たが,昭和 2 年の改修時にアングルによるブレース補 強が行われており,この補強が有効に働いた可能性が 指摘されている[2]。 4. 阿蘇神社の被害状況 阿蘇市の阿蘇神社は社殿が天保 6 年(1835)から嘉 永 3 年(1850)にかけて建設され,6 棟が国指定重要 文化財である。このうち,楼門(国指定重要文化財・ 1849)と,昭和初期に建設された拝殿が倒壊した。そ れぞれの被害の状況を Fig.8,9 に示す。 楼門は,高さ約 18mの総欅造で二重門と位置づけら れる。屋根は大きく広げた形状を有しており,建立当 時は杮葺きであったが,昭和 50 年には銅板葺へと変更 されている[3]。また,倒壊に伴って抜け落ちた可能性 もあるが,楼門及び拝殿共に柱頭・柱脚部の金物の破 断や仕口部がほぼ健全なまま脱落しているのが確認さ れた(Fig.10,11)。 この他に境内に 3 つある社殿も柱の傾斜などが報告 されており[1],斎館では倒壊を防ぐため,補強が施さ れている(Fig.12)など複数の建物で被害を生じた。ま た,石碑の転倒(Fig.13)なども確認された。 一方,神社周辺の住宅などに大きな被害は確認され なかった。この理由として,阿蘇神社近くの K-net 一 宮で観測された地震動応答スペクトルにおいて,3 秒 程度の長周期成分が確認されており,上部の大きな拝 殿などはこの長周期地震動による共振現象が原因で倒 壊したものと予測される。特に阿蘇神社は震源断層か ら北東に延長したほぼ直線上に位置していることから, パルス波による影響を大きく受けた[4]ものと考えられ る。 5. その他の木造建物の被害 益城町の中心部にある木山神宮も本殿,拝殿,楼門 等,境内のほとんどの建物が倒壊した。本殿は江戸時 代に建立されたものと考えられているが,文化財建築 物として指定・登録はされていない。訪問した際には 拝殿・社務所等は既に撤去された後であったが,唯一 残されていた本殿は阿蘇神社と同様に屋根を残して 1 層が完全に崩壊していた(Fig.14)。また,境内の摂社 では,基礎とずれを生じており,柱が置石から外れて いるのが確認された(Fig.15)。 16 日の本震で震度 6 弱を観測した大分県由布市にあ る宇奈岐日女神社(うなぐひめじんじゃ)では,本殿 等に大きな被害は確認されなかった。しかし,石碑の 回転や転倒が確認され,神門は柱と置き石に数センチ のずれを生じていた(Fig.16)。 6. まとめ 益城町を中心として行 った木造住宅の被害調査 及び,熊本城等文化財建築 物の被害状況について報 告を行った。 7. 参考文献 [1] 熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委 員会:第 3 次報告書(案),2016.9 [2] 日本イコモス国内委員会:2016 年熊本地震日本イ コモス調査報告書-文化財建造物の被害状況と復旧 への展望-,2016.6 [3] 阿蘇惟之編:阿蘇神社,学生社,2007.1 [4] 秦一平:免震・制震建物の被害調査,日本大学理工 学部学術講演会梗概集,2016.12 Fig.8 拝殿の被害状況 Fig.9 楼門の被害状況 Fig.10 拝殿の仕口部分 Fig.11 楼門側建物の柱脚 Fig.12 斎館の補強 Fig.13 石碑の転倒 Fig.14 木山神宮本殿の被害状況 Fig.15 摂社の基礎部のずれ 平成 28 年度 日本大学理工学部 学術講演会予稿集