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趣旨説明

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Academic year: 2021

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―1― 今年度の共通論題では,近年新たな研究成果が 発表されている日本の消費生活に関する研究を参 照しつつ,近現代日本における消費文化の展開と その問題点を論じる.例えば,満薗勇は,日本で は,大正期の都市化の進展とともに,それまでの 勤勉・倹約を美徳とする消費文化に対して,消費 を肯定する新たな消費文化が生まれ,比較的所得 の高い新中間層の登場や基幹労働力層の所得上昇 を前提として,大衆消費社会への胎動が戦前期の 日本で見られたとする1).消費の側面を近現代史 の枠組みのなかで捉える見方は,アンドルー・ ゴードンも提起し,ゴードン自身もミシンを素材 としてその視点からの研究をまとめた2).それら の見方に対して,山口由等はゴードンの視点を評 価しつつも,戦後改革が消費社会の全国化には決 定的に重要であったとし3),寺西重郎も,戦後改 革による所得上昇を前提として,西洋的な移植型 大衆消費社会が現代日本では成立したと戦後改革 の重要性を強調した4).とは言え,両大戦間期日 本に展開した百貨店が新しい消費文化を創り出し た側面は,山本武利や西沢保らの共同研究などに よってすでに指摘されており5),現代日本の消費 文化の成立過程を論ずるには,第二次世界大戦前 からの構造的な展開のなかでみていく必要があろ う. その際,今回の共通論題では,消費の担い手と しての「消費者」に着目した.それは所得の上昇 は必ずしも消費の拡大と同じではなく,所得上昇 分が消費へ向かうかどうかは,消費者の意識や社 会的背景が重要となると考えたからである.その 点で,原山浩介による消費者運動研究は興味深 く6),今日の社会は生産者(労働者)よりもむし ろ「消費者」がその中心に置かれているようにみ える.また「消費者」の観点で日本の近世から現 代までを通して捉える国際共同研究も行われ,そ の成果が『歴史のなかの消費者』として邦訳され た7).そして消費者意識の視点では,消費の主体 となる家計のなかでの役割分担がより重要とな り,その点で,性差に基づく家内分業によって家 計責任が専業主婦に負わされるようになった近代 家族の問題が消費生活研究と大きく関連する.日 本の近代家族は高度経済成長期の都市新中間層 (主に公務員・ホワイトカラー層)からイメージ されているが8),高度経済成長期においても男性 のみでなく女性も働く農村家族や都市でも夫婦共 働きの自営業家族があり,労働と家事を両方とも 女性が負わされ,過重に働かざるを得ない立場に 女性が追い込まれた側面もある.そこで,共通論 題全体のメインテーマは,都市新中間層や労働者 層の近代家族における消費のあり方に置き,地域 社会の視点も含めることで,地域社会のありよう に新たな消費文化がどのような問題を残したかに ついてサブテーマとして考える. 第一報告(中西聡)では,高度経済成長期の前 段階として第二次世界大戦前の時期を取り上げ, 地方資産家が家業と家計と地域社会への貢献のバ ランスを考えて行った消費行動が,地域社会への 新しい文物の普及に果たした役割を論じた.続い て第二報告(満薗勇)では,「かしこい消費者」 という史料用語を糸口として,戦後日本における あるべき消費者像がどのような形で成立したのか を考察した.さらに第三報告(小島庸平)では, 高度経済成長期に勃興した消費者金融企業が,高 度経済成長期の基軸的なジェンダー秩序の担い手 である都市サラリーマン家計の独特な資金需要 を,どのように把握して経営的な発展を遂げたの かを,金融技術の「革新」に着目して論じた.そ して,「生活規範と消費の関係」の視点から倉敷 伸子氏より,「消費生活史研究の射程」の視点か ら浅井良夫氏よりコメントを得て議論の手かがり とする. 現代日本では,人々の生きがいが労働や職場よ 2018 年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会共通論題

「消費生活研究の新展開と経済史学―近現代日本の経験―」

趣旨説明

中 西  聡

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―2― 歴 史 と 経 済  第 243 号(2019 年 4 月) りも,余暇や家族により多く向けられている.そ のことを踏まえると,生産(供給)サイドからの 経済史分析では論じきれない生活世界の視点を入 れることで,現状により適合した経済史分析にな ると考えられる. 注 1)満薗勇『日本型大衆消費社会への胎動―戦前期日本 の通信販売と月賦販売』東京大学出版会,2014 年. 2)アンドルー・ゴードン(大島かおり訳)『ミシンと 日本の近代―消費者の創出』みすず書房,2013 年, 原著 2012 年. 3)山口由等『近代日本の都市化と経済の歴史』東京経 済情報出版,2014 年. 4)寺西重郎『歴史としての大衆消費社会―高度成長と は何だったのか?』慶應義塾大学出版会,2017 年. 5)山本武利・西沢保編『百貨店の文化史―日本の消費 革命』世界思想社,1999 年. 6)原山浩介『消費者の戦後史―闇市から主婦の時代へ』 日本経済評論社,2011 年. 7)ペネロピ・フランクス/ジャネット・ハンター編 (中村尚史・谷本雅之監訳)『歴史のなかの消費者― 日本における消費と暮らし 1850 2000』法政大学出 版局,2016 年. 8)岩上真珠「高度成長と家族」(大門正克ほか編『高 度成長の時代 2 過熱と揺らぎ』大月書店,2010 年).

参照

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