斜面流出における非線形効果に関する一考察
(昭和51年8月31日受理)
荻原能男
河西基
On the Nonlinear Effect for the Watershed Runoff
YoshioOGIHARA MotoiKAWANISHI Abstract In the present report, we discuss the algorithm of an analysis applying the method of characteristics for the full momentum and continuity equations and show some examples of this numerical calculation for a single watershed as the assumptive basin. The primary object of this paper is to present the effect of nonlinearlity to which the complexity of r皿off phenomena is supposedly attributed. Uppon these analyses, it is shown that the effect of nonlinearlity on the peak discharge is qualitatively presented with variation of the rainfa11・intensity. Moreover, we are able to bring about a better qualitative understanding on the difference of runoff process between the supercritical and subcritical flow.1.緒
言 降雨・流出系に関する研究は,決定論的解析および 確率統計論的解析の二つの立場に大別され,数多くの 流出解析モデルが提案されている。また最近では,こ れらの両者を融合することにより新たな研究の発展性 を探ろうとする研究もある1)・2)。 一方,流出現象の複雑さの大きな要因として考えら れているのは現象の非線型性であり,この非線型系の 解明が今日における重要な課題となっている。 本論文では,単位図における非線型特性などの本質 を解明する一つのアプローチとして,特性曲線法によ る洪水追跡の手法を用いて,斜面の流れにおける流出 特性を検討した。 特性曲線法の水文流出への応用は末石3)らによって 実用化され,現在では“Kinematic wave法”として 実用的に広く用いられている4)。この方法における理 論上の特徴は,”order”評価に基づいて流れを等流と 仮定することによる近似解を用いることである5)。 また,単位図に関する最近の研究としては,有限要 素法を適用したC.Taylor, G. Al−Mashidani and J. M.Davisの研究6)があり,さらに非線型流出系の理 論解析を行った日野らの一連の研究!)・2)などがある。 本論文では,開水路不定流の基礎方程式において慣 性項や降雨・横流入などすべての項を考慮したη。こ の結果,降雨強度の変化の影響による流出現象におけ る非線型効果などを検討することが可能となった。 著者らは,非線型特性の指標としてピーク流量とピ ーク到達時間の二点を考え,急勾配および緩勾配の斜 面における流出に関して数値実験を試みた。 また,特性曲線法による図解法を進めるにあたって は,特性直線網整網からの乱れを防ぐために近似計算 による格子点の移動修正を後述のように行って,整網 が構成されるようにした7)。 *第31回年講,1976−10,にて概要発表 2.基礎方程式 本論文においては,一様な広矩形断面水路の流れを 仮定して,次の運動方程式(1)と連続の方程式(2)を基礎 式として用いる5)。晋+γ器+・…θ怨
一{・イ+2晋}:一芸+・・i・θ (・)嘉+γ怨旬器一・ゴ+誓 (・)
ここに,V:平均流速, y:水深,ア:降雨強度, f:浸 透率,qL:水路単位長さあたりの横からの流入量, B: 水路幅,τ。:底面摩擦応力,ρ:水の密度,R:径深, g:重力の加速度,θ:水路の傾斜角,x:水路方向の 距離,t:時間である。 なお,開水路流れにおける摩擦抵抗応力τ。は,エネ ルギー勾配Sfを用いて記述すると τo == pgRSf (3) である。本論文では,Manning則に従うと仮定して Sf=n2V2/R4/3 (4) を計算上で用いている。ここに,nはManning粗度 係数である。 3. 特性曲線法についての適用理論 (1)計算基本方式 上述の式(1)および(2)からつぎの特性方程式が得られ る8)。
歴鴎蒜㌶㌶蒜}(・)
繁蹴1認㌶㌶}(・)
ここh二;㌫鷲R)+,、i。θ}(・)
である。 さて,上式を差分化することによる特性曲線法にア ルゴリズムは次のようになる。すなわち,図一1のよう に2つの既知点AとBでの諸水理量を用いて,未知点 Pの緒量が次の計算式から求まる。 tp =(XCB−XC.A)/(B乙1A−BDA) (8) κP=(BU.・XCB−B1)B・XCA)/(BU.−BL)B) (9) yp=(VCA−VCB)/(AYG十BYG) (1◎ Vp==(VCA・B}アG十「VCB・ノIYG)/(AYG十BYG) ⑪ ここ¥R亡願劃 ⑫
T C+ A ●known point ounkown point P C−△t △x B Y 劾Pl㌫1鶏;}
露::=:劉
隠二㌃二lil㌫㌶;:1;1:劉
であり,添字は各水理量の格子点位置を表す。 (2)初期条件と境界条件 a3) ⑭ ⑮ γu=(ξ+η、/9COSθ/y) γ(、1=(ξ一η顧) γu(A) B’B γdCB) 本論文においては,次のような条件を仮定した。 a)初期条件 まず,水路全域において一定の初期流量(基底流量) が与えられる場合を仮定し,水面形の数値計算によっ て各分割格子点における初期水深を決定する。ただ し,初期の流れの状態が射流の場合には,上流端で等 流水深として下流側へ計算を進め,また常流の場合に は,下流端でほぼ限界水深を与えて上流側へ計算を行 った。他の諸水理量の各点における初期値について は,この水深の計算値から定められる。 b)上流端境界条件 本論文では単一斜面の流れを対象として上の理論を 適用しており,上流端の境界条件として常に基底流量 (Q*)が与えられる場合を仮定した。この結果,次の 計算式を得ることができる(図一2参照)。 yp={−V『CB十㎡γcβ2十4Vg cosθんM・(Q*/B)}/ (2∼/豆cosθ/2/M) (16) Vp=Q*/(B・yp) a7) tp=−XCB/BI)M as) ただし,流れの状態が射流である場合,特性曲線が 下流側へ向くために上流端において交点が得られなx
τ △κ P △1⊥
C一 駕=0M
x
A C+、 P A A’ P △x 図一1基本計算スキーム VCPi v T △t」
図一2上流端ス キーム X −一GiillE}y7−一 ll}1$−i+L en.3下流端_ムい。このような場合には,上流端のさらに上流側にお いて仮想的な流路の延長を考え,この領域から特性直 線を出すことにした。仮想延長流路の区間において は,降雨・浸透・横流入の影響がなく,常に基底流量 が等流水深で流れていると仮定した。この場合の計算 プロセスは,次章で述べる特性直線網の補正計算に従 う。 c)下流端境界条件 流れの状態が射流の場合には,中間点計算と同様に 2本の特性直線を用いて計算できるが,常流の場合に 下流端の条件が必要となる。そこで,下流端境界条件 として図一3のような支配断面の存在を仮定すること により,限界水深を与えることにする。特性直線C+上 の式(5)の関係から,次の計算式が得られる。 Vp=={−1−{一㎡1+4β・VCA}/(2β) 2/P=(VCA、−Vp)/Vg cosθ/YA tp・=(L−XCA)/BU. ここに,L:水路長, β=1/{cosθ・∼/㌫} である。 ⑲ ⑳ ⑳ ?2) 4.特性直線網の乱れに対する補正処理について7) 上述のような特性曲線法においては,特に射流の場 合などにおいて,特性直線網の乱れが大きくなる結 果,計算上の困難を生じることがある。そこで,次の ような通常行われる近似計算により,あらかじめ定め られた規則的な格子網を組むように図式計算を進め る。 図式解法の1つのステップは,上流端→中間各点→ 下流端,の順序で構成されているが,代表的な中間点 の補正計算を例として簡単にに述べる。 図一4のx−t座標平面において,規則的な整網格子 点の未知座標位置をRとする。時刻tlにおける各格 子点の諸水理量は既知であり,これらの隣接する整網 格子点間の諸量が直線的に変化すると考える。 すなわち,既知点AおよびBからまず未知点として Pが得られたとする。点Rに交差するように,点A, Bのそれぞれをはさむ格子点の間における特性直線勾 配の比例配分によって点A’,B’を決定する。計算式 としては, XA,一
Q霊詰票蒜誓1≒評)閻
XBt一命送?」;辮≧難宍)21i
が得られる。ここにDTは時間ステップであり,精度 と計算時間との関係において最適のものを選ぶ必要が ア P R A・∼一一一一一一≡≡ 一一一一一一一一怦鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈黶怦鼈鼈鼈鼈 A” @ B” @ ’ 鼈黶レ一_
,ゲ’ Cづニプ’ f一一一一一一一 怦鼇S一一一一一一ゲ7
ソ一一・一一一一一●一一一一一一 一一@…
A’ B’ 1 AA’ J B’B K 0 ムユ ムユ x ζ、v 図一4 特性曲線網の補正スキーム ζ(』 ’L−一一..“1。 一一一」J 図一5 諸水理量の直線近似
ある。 ところで,以上の補正計算において,XA’あるいは XB’が上流端よりもさらに上流側(x<0)に求められ た場合,t軸上における同様の近似補正により点A”, B”を新たな移動既知点とする。 さて,上述のようにして移動既知点A’,B「などが 求められた場合,その点をはさむ隣接格子点間におい て図一5のような比例配分により諸水理量(ζ)を与え る。たとえぽ,点A’については次式となる。ζ…Ci+(CJ一ζ・)(㌘三㌃) 陶
上流端補正については点B,または下流端補正につ いては点Aの補正を考慮すれぽよく,これらの既知量 として第3章の計算式により未知量を求めて,計算ス テップを順次に進行させる。 5.解析の結果と考察 特性曲線法を実際の流出解析に適用する場合,流域 をいくつかの部分流域に分割して,それらの流域構成 の段階的プロセスを結合する,いわゆる洪水追跡が行 われる9)。 本論文においては,流域構成の基本的単位ともいえ る図一6のような単一斜面を対象として,前述の理論を 適用することにより単位図の非線型効果に関して検討 図一6 計算流域モデルを行った。 図一7は,降雨継続時間を1秒として余剰降雨:r* (この場合,r*=r一ア+2qL/Bとして浸透,横流入も 含めて考える)を3段階で増加させた場合の流出ハイ ドログラフの計算結果例である。用いた諸定数につい ては,図中に記入してあり,2Vは水路の格子分割数で ある。ここで,図のaは急勾配水路の場合に相当し, 図のbは緩勾配水路としての例である。特に前者の計 算においては,2Vが小さいほど計算値に不安定要素が 多くみられ,採用したN−400程度でほぼ安定化した 結果が得られた。この場合には,流れの状態が射流で あるので,C+およびC一の両特性直線がいずれも下流 側方向へ傾くことになり,その結果として格子点間隔 が大きくなり,計算の精度に影響が及ぶからであろう。 図一7のaとbを比較すると,ハイドログラフの逓減に おいて両者の特徴がよく現れている。すなわち,急勾 配の場合において比較的急な減衰を示しているのに対 して,緩勾配においては急な減衰の後になだらかな減 衰が続いている。また,ピーク流出量については,急 勾配の方が緩勾配の場合よりも大きくなっている。と ころで,流出ハイドログラフの非線型効果に関して, 著者らは,ピーク到達時刻とピーク流量の変化に注目 した。前老については,降雨強度の増大とともにピー ク到達時刻が早まることを期待したが,いずれも降雨 2. 三2・o 》1. 亘 (ン 1.0 0.5 slope l’磨≠R000 1・B(mm/hr) ノS:1(m) :10(m) :O.Ol Q*:10(mソhr) 、’F400 終了時において一様にピークに達し,非線型性はみら れなかった。一方,後者の判断の目安として,図中の 〔〕内にr*−1000m3/hrの場合に対するr*−2000, 3000m3/hrの場合におけるピーク流量比率の概算値を 示した。ある程度の計算誤差を考慮しなけれぽならな いが,降雨強度の倍増にともなってピーク流量がわず かずつ割高で増大しており,非線型効果が示されてい ると考える。図のaとbにおける比率がちょうど一致 しているが,ここにおいては偶然性によるところが大 1.05 t=15sec 1.0 ◆一一●:Q/Q* ●一一・一●:y/Vo o……心:yん。 ・*=1000(mm/h・)一一一1・ec l/100 .ロニづ8 1.05 t二12 1.0 _.’一’・・’〇 一_ ,_一一一◆ i”:’, 1.as t;8 1.0 1.05 t=5 1.0 ,一一..一一“一一一一一’一〔o −・=一二1.: 9iニー一一一一一“一“’一一一● 一一一一一一一x 1.05 ’=1 1.0 2,; eL=二=8ニー^二二二‡二==9
1。。1.。L______−x
O L/4 L/2 3/41J L L−___L___一.一__.一」一_____」_一 _一一一一」 図一8(a)諸水理量分布の時間的推移(急勾配) r*−1000(mm/h・)一一1 sec,1/1000 1.5 ,t=20sec 1.0 0.5」 1.5 //024681012141618
T(sec) t=15 1.0 / 、− 図一7(a)r*と計算hydrographの関係(急勾配) 1.5 主1.0 ㌻5
ge O.5 r*(mm/hr) B:1(m) L:10(m) n:0.01 Q*:10(mソhr) ,IV:400 /● 002468101214161820
T(sec) 図一7(b)r*と計算hydrographの関係(緩勾配) t=10 t=5 t−1 t・=O o.5] 1.5 _一____一 一 一x 、ro/
/ 1.0 、、00。5 1.5 /● //;:: 一・一・V
iliトー…÷
iii /三
〇 L/4 L/2 3/4L L 図一8(b)諸水理量分布の時間的推移(緩勾配)20
三15
☆ 旦 くy 10 5 1/1000 r。(mm/hr) duration of rainfal1 :15sec :25sec0481216202428323640
T(sec) 図一9継続降雨と計算hydrographの関係(緩勾配) きいと思われる。 次に,図一8においては,図一7のaおよびbに対応し てr*−1000mm/hrの場合における水深,’平均流速さ らに流出流量の時間的推移の様子を示した。縦軸は各 水理量の上流端における初期値に対する割合を示し, また,横軸は水路の流下方向距離である。この図のa からは,急勾配水路において,上流端境界条件のみに 束縛されて上流側から押し出されるように流出する様 子が理解される。一方,bの緩勾配水路においては, 上・下流端の両境界条件に影響されて,各水理量が非 常に緩慢な変化を示し,全体的にゆるやかな流出が続 いている。後者については,いわゆる不定流効果が表 現されていると言えよう。 さらに,図一9においては,不定流効果の強い緩勾配 の場合について,降雨継続時間を長くすることによる 非線型効果への影響をみようとした。図中の記号およ び諸定数については図一7のbと同じであり,降雨継続 時間が15秒と25秒の場合の下流端ハイドログラフをそ れぞれ実線と破線とで示している。ピーク到達時刻に ついては,1秒の場合と同様に非線型効果は示されな かった。ピーク流量の伸び率については,15秒の場合 が1秒の場合に比べて大きな割合であるのに対し,25 秒の場合では逆に小さな割合になっている。この場合, 初期に降った雨が斜面長を流下するに要する時間は15 秒付近であり,降雨継続時間の相違によって図一9ある いは図一7のbにおけるハイドログラフもおのおの異な った特徴を示している。すなわち,降雨継続時間が斜 面流達時間と同等程度である場合に,ピーク流量に関 する非線型性が最も強いことになるが,計算例の少な いことから,明確な傾向を論議することはできない。 しかしながら,降雨強度の増加にともなってハイドロ グラフのピーク流量が非線型的に増加する傾向は示さ れたと言えよう。 以上のように,特性曲線法を用いて単位図の非線型 特性に関する定性的な検討を行ったが,つぎのような 問題点を指摘しておく。まず,流れの状態が射流の場 合においては計算が不安定になる場合が多い,これに 対しては格子分割数を多くして計算を安定化すること ができる。ただし,この種の計算においては計算時間 が長くかかるということも問題点の一つであり,無制 限に分割数を大きくすることはできない。 また,本論文においてはr*としてかなり大きな値 を用いているのであるが,計算の対象流域を非常に小 さく仮定したので,非線型効果などを議論する上で十 分な流出流量を得るための必要性による。対象流域を 河道とすれば,r*に横流入量が含まれるのである程度 説明もつくし,実際の流域系を考慮する場合はこのよ うにr*を大きくとる必要はないと考える。ただし, 結合された流域構成においては時間おくれなどの要素 が流出現象にかなりの影響を及ぼすようになると考え られ,今後,方程式の無次元化などによりさらに研究 を発展させたい。 一方,斜面流を河道流と同様に扱ういわゆる“rout・ ing”の問題も依然として残されている。 なお,本論文における数値計算は東京大学大型計算 機セソターのHITAC8800・8700を利用した。6.結
語 著者らは,“full term”の運動方程式と連続の方程 式に関して特性曲線法の適用により解析を行った。本 論文においては,降雨強度の変化による単位図の非線 型特性について特に注目し,仮定した単一斜面を対象 流域として計算を示した。 この結果,ピーク到達時刻に関しては非線型性が示 されなかったが,ピーク流出量について非線型効果の あることが定性的に示された。実際的な流出現象にお いてこの非線型効果がどの程度影響するかについて は,実際流域への適用あるいは“Kinematic wave法” などとの比較・検討によってさらに研究を発展させた いと考える。 一方,急勾配と緩勾配の二つの場合におけるハイド ログラフと諸水理量の変化の過程を示したグラフか ら,両者の流出プロセスの相異を理解することができ た。 本論文においてはこのように降雨強度による流出の 非線型効果についてのみ議論を進めたが,これらの解析方法は,関係する水理学的条件や幾何形状条件が流 出波形に及ぼす影響などに関する研究を行う上で有効 であると考える。したがって,従来の解析方法によっ て明確な把握ができなかった個々の問題に関しても, より水理学的な立場から新たな方向へ研究を進展させ ることが期待されよう。 最後に,本研究を進めるにあたり山梨大学工学部水 理研究室の各位に多くの御協力をいただいたことを記 して謝意を表する。 1) 2)