氏 名 Sadhana Shrestha 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第300号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年9月25日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 環境社会創成工学専攻
学 位 論 文 題 目 Analysis of Microbial Pollution in Shallow Groundwater and Its Health Impact at Household Level in a Developing Country
(開発途上国における浅層地下水の微生物汚染と世帯レベルの健康影響の解析) 論 文 審 査 委 員 主査 准教授 西 田 継 教 授 坂 本 康 教 授 風間 ふたば 教 授 新 藤 純 子 准教授 石 平 博 准教授 市 川 温
学位論文内容の要旨
上水供給体制の不足は開発途上国、特に人口増加が著しいネパール・カトマンズ盆地の ような都市部では深刻な問題である。浅層地下水を取得するための開放井戸や掘り抜き井 戸は、設置と維持が容易かつ安価であることから各世帯の私的水源として広く普及してい るが、政府や地域の各種公式統計から除外されていることが珍しくない。地下水の使用目 的は、飲料水の場合もあるが、多くは水浴、家事等である。地下水の微生物学的汚染は多 くの開発途上国で報告され、同時に下痢症発症が重大な健康問題となっている一方で、空 間分布や季節変動を踏まえた効果的な地下水汚染対策を支援するための十分な研究成果は 得られていない。また、世界保健機関により、あらゆる種類の水源に対する公衆衛生学的 な安全性の評価が推奨されているが、汚染地下水を利用することによる健康リスクの定量 化については議論の余地がある。特に、地下水の微生物学的水質と下痢症発症の関係を世 帯レベルで検証した例はこれまでほとんど無いと言って良い。 上記のような背景に基づき、本研究の目標を次のように設定した。a)ネパールカトマンズ地域における浅層地下水の微生物学的水質の空間分布と季節変動の把握及びその機構の
検討(第3 章)、b)地下水中の腸管系病原微生物による下痢症発症リスクの推定(第 4 章)、
c)世帯レベルで潜在要因を調整した地下水の微生物学的水質と下痢症発症の関係解析(第 5 章)。2009 年から 2012 年までの乾季と雨季に、開放井戸と掘り抜き井戸の水に含まれる
大腸菌(
Escherichia coli: E. coli
)と総大腸菌群を定量した。2009 年と 2010 年の雨季については、数地点の井戸水データを対象に、腸管系病原微生物であるジアルジア(Giardia) シストとクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)オーシストを定量した。 第 1 章では、開発途上国における水不足と地下水汚染の現状を整理し、本論文での研究 スキームを設定した。第2章では、研究対象地域、地下水採取、微生物学的分析等の基礎 データの取得方法を記述した。 第3章では、浅層地下水中の微生物濃度が乾季に比べて雨季に有意に高いことを示した。 異なる季節で降雨量と大腸菌濃度を比較した結果、一つの可能性として、高濃度の糞便由 来物質が雨季に地下浸透して季節変動を示しているとした。また、 大腸菌と地下水位の間 に中程度から強度の相関が見られたことから、別の可能性として、雨季の水位上昇が地表 近い汚染源と地下水の接触を増大させるとした。 第4章では、飲料と水浴の両方の暴露経路について、開放井戸に含まれる腸管系病原性 大腸菌(EPEC)と、開放井戸と掘り抜き井戸の両方に含まれる原虫(クリプトスポリジウ ムおよびジアルジア)による下痢症発症は世界保健機関の指針(10−4/人・年以下)を超過 していることを示した。また、これらの原虫は大腸菌に比べて健康リスクが 1 万倍高いた め、これを無視することは全体の水系感染リスクの深刻な過小評価につながること、水浴 は健康リスクを顕著に増加させること、使用時点での水処理は健康リスクを1/6 に下げ、全 体のリスク低減に大きな効果があることを示した。 第 5 章では、地理情報システム上で疫学データを投影させる解析手法を開発し、データ 不足地域を対象とした研究の可能性を広げた。地下水を利用する世帯は、それ以外の水源 を利用する世帯と比べて下痢症発症の確率が有為に高く、強度に汚染された地下水を水浴 目的で使用している世帯は、さらに高いリスク(調整オッズ比=5.21)を負っていた。 本論文を通して得られた成果は、当該地域における地下水の微生物学的水質が重要な健 康リスク要因であることを支持していた。また、水浴が重要な暴露経路であることも示し、 下痢症発症リスクを低減する方策を開発するために、小規模介入研究の導入を提案した。