Title
循環型社会における「保存」に関するノート
Author(s)
大澤, 正治
Citation
地域研究 = Regional Studies(4): 59-72
Issue Date
2008-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5570
大津正治 :循環型社会における 「保存」に関するノー ト
循環型社会 における 「
保存
」
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2006年度愛知大学中部地方産業研究所 「地域 ・産業 ・大学」研究課題 「山村 における 「保存」 に関する研究」 におけ る家の敷地の中にある倉 に関する研究成果 をふ まえ、対称的に家の敷地の外 に群倉 (ぼれ ぐら)が発達 した沖縄地方 を 比べなが ら、循環型社会 にとって重要な 「保存」 に関 して、気づいたことをとりまとめた。循環型社会研究の有力 な手 がか りではないか と考 えている。 1.循環型社会における 「保存」への注 目1-1
.循環型社会における循環 21世紀 に入る とともに、これ までの大量生産、大量 消費、大量廃棄 を基調 とした社会 に代 わる循環型社会 の実現が期待 され始めた。 1994年 に決定 したわが国の第一次環境基本計画では、 超過負荷 を回避 し、環境容量 を上廻 らない観点か ら、 大気、水、土壌、生物 などの資源及び生態 を保つため、 自然の循環 に適合す る経済活動、 システムの重要性 を 強調 している。以降、わが国では、循環型社会が クロ ーズアップされるようになった。循環型社会の考 え方 は、ハーマ ン ・デー レ-が主張す る、(∋汚染の排 出量 は環境の吸収能力 を上廻 るべ きではない、(∋再生可能 な資源の消費はその再生ペースを上廻 るべ きではない、 ③再生不能資源の消費はそれに代替す る再生可能資源 が開発 されるペースを上廻 るべ きではない、に源流 を 求めることがで きる。ハーマ ン ・デー レ-の考 え方で 重要なことは、循環のペース即 ち時間をまもるモ ノの 消費 とい うことである。 これ までに慣 れ親 しんで きた 大量生産、大量消費、大量廃棄のペースを変 える とい うことは、これ までに積み重ねた経験 あるいは慣 れの 重みに押 しつぶ されそ うで、気が遠 くなるほ ど難 しい ことである。 このためには、環境 と人間 とい うバ イラ テラルな関係 だけではな く、時間 を基準 としている社 会、経済、文化、そ して技術 な どすべ ての分野 にお こ る変化が調整 され、揃 わない とそのチ ェ ンジオブペー スは実現で きないことである。 しか しなが ら、残念 なが ら、わが国では、その難 し さに正面か らぶつかろうとは しなかったのではないか と推察する。 2001年 1月か ら施行 された循環型社会形成推進基本 法では、 ゴール を環境負荷 の低減 と定めている。その 実現のための方策 として、天然 自然資源の消費抑制 と、 循環型資源 (注1)の循環的な利用、お よび廃棄物 として の適正 な処分 を求めている。 しか しなが ら、見定める べ きゴールに大 きな自然の循環 を刻 む時間の流れ を考 慮 しそ こなっている。従 って、その方策 は、いつすべ きか、時間の指定が明確 となっていない。現在 「もっ たいない」、「モ ノを大切 に」 な どの標語が流行 してい るが、時間の止 まった循環型社会論では歓迎 されるか もしれないが、循環のながれを考 える と、それは人間 の腹時計 中心であ り、本 当の循環型社会論 としては焦 点がぼけてみえる。 本来、循環型社会 においては、 この ような時間を基 準 として考 えるだけではな く、地理的に、 自然の循環 の どこで行動す るか も重要 となる。即 ち、時間軸 と地「地域研究」4号 2008年3月
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理軸でわれわれ主体の位置 を確認す ることが重要 とな って くる。 自給 自足、あるいは地産地消の独立型 とし て連想 される循環型社会の イメージは狭 い範囲に限定 されが ちである。そ して、そのイメージは都市型では な く、いわゆるローカル型 とな りがちである。 しか し なが ら、都市、非都市 にか ぎらず、われわれ主体が居 るその位置 における自然循環 との関係 を考 えて、は じ めてその位置 における環境容量が明 らか にな り、回避 すべ き超過負荷がわかって くる。 即 ち、 自然 とわれわれ人間 との関係 を絶対 的な関係 ではな く相対的な関係 で とらえることが循環型社会で は重要なことである。即 ち、循環型社会の経験 は都市、 非都市 どこで も参考 になるはずである。 循環型社会形成推進基本法の重要性 として、Reduce、 Reuse、Recycleの優先順位 を決めていることが一般的 に指摘 されるが、順位 に対 して、時間の概念、地域の 特徴が入っていない ことに気づ くのではないか と思わ れる。私 は、時間によって、その地域性 によってその 順位 は変わるはずだ と考 えている。 また、世間で、循環型社会 に対 して環境 の視点が こ とさら強調 されす ぎていることも私が批判 したい とこ ろである。環境 の視点 をゴールに忘れない ことには賛 成す るが、その施策 において、環境以外 の視点 に配慮 することも重要である。 先 に述べ た時間軸、地理軸へ の配慮 とともに、環境 だけことさら特別視す るタテ割 り的思考ではな く、総 合的なバ ランスの配慮 の もとで環境 を考 えることによ って、私 は循環型社会 に正面か ら対座 した と認めたい と考 えている。つ ま り、循環型社 会の実現 は、社会、 経済 さらには文化の変革 を伴 うことが求め られる。 元来、経済学では、廃棄物 の排 出によ り発生す る環 境問題 も含めて環境 問題の本質は、外部性 にある と考 えている。外部性 の外部 とは何 か。他の環境以外 の こ とも含めて何 で もすべ てが外部 となることを考 えなけ ればな らない。環境対策 とは、環境被害 に関 して被害 者 に補填すれば よいのではない。社会構造、 システム に与 える外部性 に も配慮す る必要がある。環境問題 の 本質が外部性 にあるとい うことは、環境問題 は環境だ けではな く、別の存在 に目を向け、別の存在 と環境 と の結 びつ きお よび相乗的影響 を考 えることが重要であ ることを意味 している。環境以外への思いや りが環境 問題 を真剣 にかんがえることだと考 えて もよい。 ところで、経済学では、外部性 について、 さらに、 外部経済 と外部不経済 に分類 している。千葉大学経済 学部の倉阪秀史は、『エ コロジカルな経済学』 (ち くま 新書)のなかで、外部不経済 については 「はた迷惑」 とい う言葉で説明 している。 とか く知 らず知 らずに外 部性が発生す るプロセス、及び加害者、被害者双方の 当事者の気拝 をよ く表現 した絶妙 な説明だ と思 ってい る。一般的に、循環型社会 に関連 して環境問題の外部 性 を考 える場合、外部不経済への指摘が多い ように見 受 け られる。 もしも、環境以外 に視野 を拡大す るなら ば、外部不経済のみならず、 もう少 し、外部経済 も兄 い出す ことがで きる と思 われる。環境対策は、他-及 ぼす相乗的な効果 と相殺的な効果 を上手 に利用 し、気 をつけることである。そのためには、複眼的な思考が 重要 となる。 以上、批判的な私 の循環型社会論 をふ まえ、積極的 に検討すべ きことを指摘す るならば、経済、社会シス テムの地理感覚 を身につけること、時間割 り (タイム スケジュール)の設定 とその総合化 ということになる。 この検討が進めば、社会、経済が必要 としでいるモ ノの価値 はロケーシ ョンの違いによる時差、あるいは 同 じロケーシ ョンで も、時間 とともに変 ることに気づ き、その価値 とその外部性 を総合的に考 えなが ら、モ ノをどの ように使 ってい くべ きか、扱 って行 くべ きか 答が明 らかになって行 く。 例 えば、現在、わが国の どの地域で も自治体が ゴ ミ を回収、処理 している。その回収者はなぜ決め られた 時だけ、定め られた場所の ゴ ミしか回収 しないのだろ うか、 また公道の清掃 は別の車が行 っている。 ドイツ では、廃棄物回収の車が廃棄物 を回収 しなが ら除雪 を 行 っている。わが国の ゴ ミ回収では、廃棄物の通常の 量 と自治体 自身の都合 によって、その カレンダー及び大洋正治 :循環型社会における 「保存」に関するノ- 卜 回収車の大 きさ ・種類の合理性が重要 となってい る。 わが国では、 自治体 の廃棄物焼却場 の多 くにおいて、 稼働率が低い現実がある。即 ち、設備が余剰気味であ る。 このことか ら、経済的合理性 を求めて、 ゴ ミ減量 化 に急 ブ レーキがかかる恐 れがあ る。私 は、む しろ、 設備 の稼働率 を高める観点 と自然循環 との関係 か ら、 廃棄物の革新的かつ総合的思考即 ち、改めて廃棄物 と は何か、 3Rの固定的順位 に柔軟性 を与 える見直 しが 必要だと考える。 この ような総合性 に留意 しつつ、次 に、循環型社会 における私たちの経済 に焦点 をあてる。 これ までの社 会経済では、経済のながれの基本 はカネの循環である と考 え られて きた。 しか しなが ら、循環型社会では、 資源が時間の流れにそい移動 し、 どの ように地理的に 移動 しているか も考 え、 カネのながれ と資源の移動の 相互調整 をはかることが要請 される。 カネは、紙幣 を 運ばな くとも、カネによる価値 を動かす ことはで きる。 しか しなが ら、資源即 ちモノはモ ノを動 か さずにその 価値 だけを動かす ことは難 しい。 カネは銀行 に預 ける ことがで きるが、モ ノのなかには保存が効 くモノと効 かないモノがある。 このため、モ ノにまつわる情報流 通の高度化、交通の発達 によるモノの移動の普及、流 通の普及、あるいはモ ノを占有す る所有欲の見直 し等 の進展 によ り資源 (モ ノ)の移動 を調整す ることが重 要 となる。 ところで、これ までの大量生産、大量消費、大量廃 棄の時代では、限 られた資源の配分 をめ ぐる課題 に取 り組 む 「不足 を心配 しなが ら満足 な状態 を求める経済 学」が主要な経済学テーマであった とす るならば、循 環型社会では、資源即 ちモ ノをいかに円滑 に、滞 るこ とな く循環 させ るかが重要な課題 とな り、各断面 をみ るならば、 フロー とともにフローに適合 しないで不本 意にも蓄積す るス トックあるいはス トックされるス ト レスを気 にする、いわば、「混雑や余剰 を心配する経済 学」が主要な経済学テーマ となる。「混雑や余剰 を心配 する経済学」 において、循環す るモノが どうス トック されるのかの他 に、そのモ ノの質的そ して価値の変化 に影響す る循環の時間 も重要 となる。 これ までの カネ の循環では、時間の概念 は、金利、償却 などであるが、 一元的にカネの基準 をもって統一 して きた。循環型社 会では、 ここの ところを簡単 に考 えるわけには行かな い。現代社会 は、社会経 済の発展 の利益 をえなが ら、 限 られた人間の寿命の範囲のなかで、常 に、われわれ は身勝手 に急 ぐあ ま り、資源が循環す る時間 を人間自 らが早め ようと した り、あるいは都合の良い ように、 遅 らせ ようとす る傾 向がある。循環のペースの人工的 コン トロールは決 して単純で容易ではない。そのため には、わ ざわ ざ追加的なエ ネルギーや資源 を投入 しな ければな らない ことは当然の ことである。 自然の循環 ペースに従 うことをメインに考 えるな らば、その方が エ ネルギーや資源 をかな り節約で きると推察で きるは ず なの に、皮 肉に も、循環型社会 を目指 しなが ら、資 源、エ ネルギーの消費 を増 や して しまう恐 れがあ る。 循環型社会 を考 えるならば、「混雑 と余剰 を心配する経 済学」では、従来の、カネのながれ における取 り引 き に加 えて、モ ノのながれにおける距離 と時間 を考慮 し た取 り引 きさらに、モ ノの移動 を介 して人間同士 と く に離れた ところにいる人間同士 、あるいは人間 と環境 がお互いに時間 を調整 し、時間の取 り引 きをす ること も考 えなければならない。 そのためには、カネでむずばれていた以上 に、人間 同士が信頼 し合 い、お互 いの責任 を尊 び、認 め合 い、 共有することがで きることが必要である。
1-2.
循環型社会における 「保存」
この ような循環型社会 において、実際 には、私 たち の暮 らしは どの ようになるか、暮 らしをまもり、支 え るルール、制度 は どの ようになるか。 この ような課題 を考 えるにあた り、い くつかの鍵 となる行動 に注 目す ることが大切 になる。 これ らの行動 は、これ までの大 量生産、大量消費、大量廃棄の時代 に も普及 していた 行動であるが、それ らの行動 は多様 なイ ンターフェー スをもつ ことか ら、外部性 を考 える際には重要である。 鍵 となる行動 の様式 を見直す ことによ り、循環型社会「地域研究」4
号
2008年3月
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垂 空 き )
に相応 しい社会の枠組みが見 えて くると思われる。 その行動 とは、これ まで に説明 して きた循環型社会 の特徴 か ら、モ ノに対す る人間の係 わ り方 について、 距離並 びに時間 を制御 す るための行動 であ る。 また、 これ らの行動 は、周辺で、あるいは直接的 にそれぞれ の行動 に変化 をもた らす技術 の発達 を伴 い、変化が現 実的 に起 こ りうる潜在性が高 まっているために、注 目 しなければならない。 私 は、以下の行動 を見直す ことが循環型社会 にとっ て大切 だと考 える。 (1) 多様 な取 り引 き 経済の基本 となる取 り引 きについて、単 にモノと カネの取 り引 きだけではな く、時間を考慮する多様 性が求め られて くる。 このためには、時間の経過及 び距椎による価値の違い、あるいはその価値の違い を保証す る情報 をか らめた取 り引 きに注 目すべ きで ある。 とくに、情報の技術変化 に連動する金融技術 の変化 を背景 として考察すべ きである。 (2) 分解 と合成 モノは分解す ることも、合成することもで きる場 合が多い。分解 と合成 によって、モノの寿命は変化 し、価値 も変化する。分解 と合成 によってモノの寿 命や価値 をコン トロールすることも可能である。 し か しなが ら、そのためにはコス トが発生 し、ため ら う場合 も多い。分解 と合成の技術進歩 とともに、循 環型社会ではその分解 と合成 を自然循環 との係わ り か らどの ようなタイ ミングで、 どこで、 どの ように 行 うか、 または分解 と合成 をどの ように使 い分ける かに注 目することが大切 となる。 どのように、分解 と合成す るかによって、後述す る移動 と保存の選択 に影響 を及ぼす。 (3) 情報 情報技術及びシステムの発展 を背景 として、情報 が人間の判断能力 と予測能力 を高める。 この情報の 効果 を循環型社会へ適用することが求め られる。 と くに、時間、距離 とモノの管理への寄与が期待 され る。ただ し、情報 は距離、時間により有効性が異 な り、その ものの管理 も重要な課題であ り、そ もそ も、 情報はだれが もつべ きか、だれ もが もたぎるべ きか の判定 も重要である。 (4) 共有 モノに対する人間の係 わ りについては、かつては 共有であったが、私有が普及 し、所得の拡大に寄与 した。 しか しなが ら、その後、人間の信用形成 と情 報の技術の発達によって、共有の合理性が再び見直 されて きた。共有 とは、モノを共に所有するととも に、モ ノに係わる時間をシェアすることで もあるこ とに注 目する。 また、所有する者 とモノとの距離に 加 えて、共同者間の距離 も重要である。共有はモノ に対する複数の人間の係 わ り方であるが、複雑 なだ けに、様 々な問題 を引 き起 こす。(5)
移動 循環型社会の地理軸では、重要な行動 はモノの移 動である。モノを移動することのコス ト、および移 動の価値 をモ ノの価値 に連動 させることが重要 とな って くる。 この場合、モ ノを移動 させることと、さ せないことの比較 とともに、モ ノではな く人間が移 動す ることとの比較 も重要 となって くる。 とくに、 輸送技術、輸送効率技術の向上 を背景 として考察す べ きである。 (6) 保存 循環型社会の時間軸では、重要な行動はモノの保 存である。モノに対する人間の係わる時間を制御で きるのは、保存 とい う行動である。 しか しなが ら、 そのためには設備投資及びメインテナンスのコス ト が発生する。循環型社会にとって最適な時間とコス トのバ ランスを求めて、保存 を考えることが必要で ある。 また、時間 とともにモ ノの質的変化がお き、 モノの価値が変わる。時間 とコス トのバランスにつ いては、その変化 に対 して も考慮す る必要がある。 最適 なバ ランスに対応する保存技術 と保存のロケー シ ョンを選択 し、保存 を考 えることが必要である。 今 回は、循環型社会 を目指すために注 目すべ き行動大津正治 :循環型社会における 「保存」に関するノー ト のなかか ら、「保存」 に焦点 をあてて、検討 した。「保 存」 は大量生産、大量消費、大量廃棄の時代 か ら様 々 な工夫が なされていた行動であ り、保存のための施設 (Facility)にも多 く投資 され、つ くられて きた。 保存するための施設 (Facility)と保存 されるモノ と の関係 は気候条件 など地域性 に左右 され、 ロケーシ ョ ンの問題 も提起す る。 また、その施設 (Facility)も、 モノでで きている。従 って、「保存」の問題 は、保存 さ れるモ ノと保存す るためのモ ノの二つのモ ノに関す る 問題 を考えなければならないことになる。 循環型社会時代 の保存 を考 える場合 に、前時代 か ら のFacilityを引 き継 いでいることを忘れてはな らない。 これ までの保存のためのFacilityを上手 に活用す るか、 活用で きなければス クラ ップ した上で新 たな保存 をビ ル ドしなければな らない。スクラ ップ しなければ、不 要物がその まま存在 しているだけである。そのFacility が立地 している土地 も有効活用で きない。 これ までの 保存するFacili【yとシステムが大量生産、大量消費、大 量廃棄の量的規模 にあわせてつ くられ、余剰 を生み出 している現実が循環型社会が進展するにつれて明 らか になって行 く。 この事実が循環型社会の保存 を考 える ために重要なこととなる。既存のFacility、経験 を活用 で きることが良い ように思 えるが、何 もない方が新 し いことを考 える上では容易である場面 も多い。 保存の効果 は、経過す る時間に対 して、モ ノの質お よび質に依存 している価値 ない し寿命 を自由にコン ト ロールすることである。その性質 を活か して、 自然 の 循環に対するモノが与 える環境負荷 を軽減す ることが 期待 される。モ ノの質 を維持す ることも意図的 に変化 させることも期待で きる。循環型社会 に とって、保存 は重要な役割 をはたす。 保存のためには、モノとFacilityがあれば良いのでは ない。大切 なことはモノとFacilityの関係が どうなって いるかである。 この関係 に注意 して考 える と、保存の ためのFacilityは何 も追加的に投資 し、新 しく設 けるだ けが方策ではな く、既存のFacilityの新 しい活用 を考 え ることも有力 な方策 とな りうることが考 え られる。保 存のためのFacilityを物理的設備 の面 として考 えるとと もに、そのFunctionの面か らも考 えなければならない。 以降、Facilityとい う言葉 は、保存 のための入れ物の 器 その もの を表現 したい。パ ッケージ とい う言葉 は入 れ物の器の もつFunctionを表現 したい との意 を くんでほ しい。 モ ノは保存 しない と、遅かれ早かれ、様 々な変化 を 引 き起 こす。ただ し、モノが保存 される とその変化が 制御 されることになる。モ ノの価値 あるいは寿命 もパ ッケージ次第 とい うことになる。モ ノに対 して、弱い パ ッケージ、小 さす ぎるパ ッケージでは寿命 は短 くな る。モ ノの価値 あるいは寿命 を知 るためには、モ ノ自 体 を見 ることよ りもモ ノとそれ を包 むパ ッケージの関 係 をみ るべ きである。モ ノの寿命 は、モ ノとパ ッケー ジの関係 を分析す ることによって予測す ることがで き る。 この予測 とい うことも、 タイムスケジュールが重 要 となる循環型社会では大切 なことである。一方、パ ッケー ジがモ ノに対 して大 きす ぎる と、他 のモ ノをそ のパ ッケージに収容す る工夫 もで きる。 この場合、混 雑状態 を招 かない ように、モノとモ ノの組み合わせ を 調整す ることが要請 される。その要請 は、モ ノとモ ノ の構造 を調整す るだけではな く、パ ッケージ される時 間を調整す ること、保存 によるリス クも調整す ること が大切 になる。 この調整の結果 に従 って、保存の コス トはシェアされるべ きである。 また、モノ とパ ッケージの関係 は、気候、気温 な ど その 自然環境 によって も大 きく左右 される。即 ち、保 存 は地域性 によって異 なる とい うことになる。 この地 域性 は自然環境 だけではな く、人文環境である風土 な い し文化 にも基づ く。私 は、モノ とパ ッケージの関係 は、 この ような地域性 との関係 も含めて考 えなければ ならない と考 えている。 この地域性 をエ ア と私 は呼ん でいる。モノとパ ッケージとエ アの関係が循環型社会 に とって重要 と考 えている。モ ノ、パ ッケー ジ、エア それぞれ独 立 して完全性 を求め る価値観 は大量生産、 大量消費、大量廃棄の時代 に終わっている。 これ まで も、モ ノの保存のために、パ ッケージ、そ
「地域研 究」 4号 2008年3月
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垂垂と ±)
してFacilityに関 して、地域 によって地域性 の優位性 の 利 を活か し、 また、克服す るために、様 々な工夫、知 恵 な どが経験 されて きた。その経験 は、新 たな技術 を 組み合わせ ることによって、他 の地域 に も適合す る可 能性があるので、循環型社会の保存 を考 えるにあた り、 この経験 を分析 し、地域 固有性 を普遍化す ることが重 要である。即 ち、保存の考 え方 を地域 に閉 じ込めるべ きではな く、他 の地域 と共有す るオープ ンな雰囲気で とられることが大切である。 モ ノが どの ようなパ ッケージに包 まれ、そ このエア が どの ように流れているかが重要である。その関係の 最適化 をはか るこ とが保存 を考 える上 で重要であ る。 最適 な保存 とは、 自然環境 との関係か らモノの価値 を 最大限に引 き出す ことである。そ して、循環型社会 に おいては、特定 の地域 に限定す るこ とだけで はな く、 それぞれの地域の経験 を社会全体 に役立てることも重 要である。 この ことによって、地域 にあるモノの価値 は社会全体 として、最大限に引 き出 されることになる。2.保存のFacilityとそのパ ッケージFunction一豊根村 の倉調査をふ まえて ここでは、具体的 にどの ようにモ ノを保存す るのか を考 え、改めて保存の効果 について考察する。 これ までは、モ ノを保存す るには、モ ノをまもるた めのFacilityが必要であ る との考 え方が広 まっていた。 Facilityの要件 として、モ ノの質 を維持す る (モ ノの質 の変化 を待つ場合 もある)ための密 閉性 と安全性が求 め られて きた。 これか ら言及す る倉 はその代表的なモ ノでつ くられたFacilityである。 一方、 自然環境 はモ ノを保存す るFacilityである との 考 え方 も継続 して きた。考 えてみれば 自然循環 自体 、 種 の保存 を実現 して きた。最大かつ最強のFacilityか も 知れない。沖縄 の保存 は 自然環境 をFacilityとして きた と言える。 今 回 は、 モ ノで つ くられ たFacilityと自然 環境 の Facilityが単 に、地域性 に依存 している と結論 をださず に、保存 とい う物理的な機能の他 に、社会的に どの よ うなFunctionの違いをもたらしているのか、違いがなけ れば共通性があるのか考 える。 この ことによって、 こ れか らの循環型社会 にとって、最適 な新たな保存 シス テムを導 く手がか りを探 したい と考 えている。 先ず、モノでつ くられたFacilityとして、愛知県の山 村 における倉調査 (大津正治 による2006年度愛知大学 中部地方 産業研 究所 「地域 ・産業 ・大学」研 究課題 「山村 における 「保存」 に関す る研究
」
)
の結果か ら整 理することとする。 「山村 における 「保存」 に関する研究」 は、過疎が 進 む典型的な山村である愛知県豊根村の暮 らしの変化 と環境-与 える負荷の関係 を調べ ているうちに、数多 く見受 け られた倉 に関心 をもつ ようになったのが きっ かけで始めた。生活様式の変化 に伴 い民家の構造 に変 化が生 じたにもかかわ らず、倉 をもつ ことに関 しては、 依然 として変化が生 じていない ように思われた。その 理 由は、倉が豊根村の 自然環境 に依存 してお り、その ために、 ライフスタイルが変 って も倉のFacilityが残 っ ているのではないか と推測 した。 このことに分析 を加 え、倉の新 たな役割 を兄いだす ならば、現存す る倉 を 活かす ことによって、循環型社会における保存の新た なシステムに行 きつ くのではないか と思いをめ ぐらせ た。2-
1.豊根村の概要 豊根村 は、愛知県の東北部 に位置 し、長野県、静岡 県 に接 している。愛知県豊橋市か ら約60kmの地にある。 気候 は、年 間平均気温が12度前後であ り、面積の9割 が山林であ り、典型的な山村である。 大正時代 には、豊かな山林資源である雑木がパルプ 材 や製炭 として活用 され、養蚕 とともに経済 を支 えて いた。 これ らの一次産品の交易 を中心 として信州三河 間の重要 な交通経 由地 となっていた。 しか しなが ら、 昭和の時代 には、林地 において 自然林か ら経済林への 転換 を目指 して、杉、桧、の植林 (人工林率8
割、ほ とん どが私有林)が促進 された ものの、木材の不況な どの影響 を受 け、 また、電源地域 となったために、豊大洋正治 :循環型社会における 「保存」に関するノー ト 橋市への分村計画など集団離村が進んだ。様 々な農山 村救済施策がなされたに もかかわ らず、わが国山村の 特徴である人口減少、高齢化が進むこととなった。 平成17年11月27日に人口200名程度の富山村 と合併 し たが、平成18年10月末現在、人口1500名程度6(泊世帯規 模であ り、高齢者比率が
4
割 を越 えている。かつては 第一次産業就業者が就業者の3
割 を超 えていたが、現 在では、 2
割 を下廻 っている状況である。 また、農家 数、耕地面積 も減少 してお り、豊根村 においては、林 業の衰退 とともに農業 も衰退 している。人口減少率、 高齢者比率、財政力指数か ら新過疎法による過疎団体 となっている。 平成17年の合併 に際 して、人口の少なかった旧富山 村は、地方税、消防防災、広報広聴、医療事務、社会 教育、 コミュニテ ィ施策などにおいでは旧豊根村の制 度 を適用することとなったが、豊根村 における人口減 少は、財政に苦 しさを与 え、公共サー ビスの縮小化 を もたらしている。現在では、警察は設楽警察署の管下 にあ り、労働基準監督署は豊橋市 にあ り、公共職業安 定所は新城市 にあ り、社会保険事務所は豊川市 にあ り、 登記所は新城市にあ り、社会公共サー ビスの不便 さが 募っている。 合併以前の豊根村 においては、小字 などの集落規模+
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)2-2.
豊根村の倉 山村である豊根村の地形か ら、豊根村の家屋 は散在 し、各家屋の敷地は狭 い。敷地 を広 げるために石垣 を 積むケース も多い。 敷地内の建物は、母屋、納屋 の他 に隠居屋 に加 えて 倉が配置 されているのが一般的であった。母屋の構造 は、かつては入母屋茅茸が多かったが、明治以降には、 ソギ葺 き、杉皮葺 きなど切妻屋根 も普及 した。 母屋の出入 り口は、多 くの家が平入 りであった。壁 豊根村の各区「
地域研究
」4号 2008年3月煙 草 ∠± づ
は板壁が多 く、土壁 はまれであった。板壁 の材料 は地 元産の杉が多 く、この傾 向か ら、倉 も基本的 に板壁が 基礎 になった と考 えられる。 母屋 の間取 りは、 くい遠い型が主流であった。内庭 (ドジ) は大戸 を入 った ところにある広 い土 間であ り、 取 り入れ時 には穀物の一次収容の場 に使 われた り、作 業場 ともなった。 土 間 と座敷の境 には、冬 の間にさつ まい もを入れて 保存す るイモム ロが掘 ってあ った。豊根村の気候 を考 慮 した食保存 の工夫である。大 きさは畳み 1、2
枚分 程度で、深 さ3、 4尺程度であった。 また、土 間に続 くカ ッテバ は ドジに続 く一種 の土 間であ り、料理用の ク ド、ナガシ、物置な どがあった。現在では、ダイニ ングキ ッチ ンとなっているところが多い。 豊根村 の家屋 で は、母屋 とい うパ ッケージの中は、 使 い勝手 の良い この ような間取 りで整理 されてい る。 さらに、寒冷 に厳 しい豊根村 の環境 に適合す る工夫 も なされている。 一般的に、建物の外 か ら内-、あるいは内か ら外へ、 熱 は温度の高い方か ら低 い方へ流れるが、建物 の外皮 の熱抵抗が大 きいならば、そのながれは緩やかになる。 建物内外 の温度差 があ って熱のながれが生 じて も、熱 容量が大 きければ温度の変化 は遅い。 この ことを利用 して室内の温度が調整 されている。 また、建物の断熱、 機密 に留意 し保温性 を高めること、室内に蓄熱部位 を 設けることの他 、集熟窓は南向 きにす ること、庇 をつ けること、通風 をはかることな どの工夫 もなされてい る。 豊根村家屋 の間取 りの他 、板壁 や深い庇 な ど熱容量 の小 さい部材 な どのエネルギー対策が なされたことを 指摘することがで きる。 豊根村 に多 く散在する倉は、土塗 りされているもの、 漆喰 を塗 り込め られた もの、なまこ壁が施 された もの と様 々であるが、基本的には、板倉が主流である と判 断 した。地元産の杉 などを使 い、厚板 に加工 し、それ を積み上 げた板倉である。豊根村 の個人が所有す る倉 は、 2- 3Kの5坪程度の小型が標準化 されていたが、 そのサ イズに制約 を与 えている一つの要因 として壁材 の長 さがあった と思 われる。 もっ とも、なかには、壁 の中ほ どに中柱 を立てて部材 を継 ぎ足す工夫でサ イズ の制約 を乗 り越 えた例 もある。 内側が ほ とん ど厚 い板倉の構造であることが認め ら れた。 また、土壁 が剥がれ落 ちた板倉、崩壊 した倉で は、倉 の躯体 にコマ イのかわ りに トンボまたはウグイ ス として竹 な どを削 った木杭が数多 く打 たれてお り、 それ を支持体 に屋根下か ら垂 らされる縄 と絡 ませなが ら土が塗 られていた。一見、土倉の ようにみえるが実 態は板倉が多い と判断 した。 しか しなが ら、あ くまで倉 として機能 をえるために、 土蔵 に近づ こうとした形跡 は、歳の上部が土で塗 られ ていることで理解で きる。倉 をハ コとして耐火効果 を 求めた置屋根 と接続 させ るためであ り、断熱効果 を高 めるためであ り、仮 に、板倉であって も、経済的に余 裕が生 まれれば、土塗 り-進みたい とい う意向をもっ ていた と思われる。倉はまさに人々の暮 らしとともに 成長す る ものである。今回の調査で も、 まだ倉 は土倉 にす るのが最初の 目標であったが、い まだに完成 して いない との説明 を数箇所で受けた。 一般的 に、倉 は耐火効果 を求めるもの と考 えられて いる。その点か ら、土倉が好 ま しいが、板倉が選択 さ れた背景 には、地理的条件 か ら、赤土の調達が不利で あ り、天竜杉 な ど資材が豊富 に調達で きたこと、倉の 目的が耐火及び防火 よ りも冬 の寒 さに対する対策ある いは防湿 にあったのではないか と推測で きる。 構造的 に夏 にその良 さがあ らわれる茅葺 き型民家に 対 して、蔵づ くり型民家の特徴 は、閉鎖的、遮熱、防 雨のための二重雨屋根 、大 きな熱容量の厚い土壁 を多 用 していることであ り、保温効果が高いことにその良 さがあ らわれる。 いずれに して も、季節 による変化 に対応するために、 補助的な手段 としてエ ネルギーを投入することが求め られる。建築の設計 と省エネルギー を組み合わせ るこ とが望 まれる。 豊根村 の気候 を考 えると、蔵づ くりの保温効果のメ大洋正治 :循環型社会における 「保存」に関するノー ト リッ トを享受す る期 間は長 く、その点で倉が普及 した といえる。板倉である豊根村の倉 は、豊根村の気候 と 自然資源 を活用 した傑作 といえる。 豊根村 にある倉のゾーニ ングについては以下の特徴 が認め られた。倉 は母屋 の別棟 となってい る。納屋 、 便所 など別棟 の一棟であった と思 われる。ほ とん どの 倉 には下屋がついている。開口部の雨避 けが 目的であ るが、開口部のスペースは脱穀 な ど農作業 に使 われて いた との ことで、そのスペースは他の建物 とのゾーニ ング調整 として理解すべ きである。 豊根村 にある倉の内部 を調査 したところ、かつては、 蚕、 タバ コ、 しいたけなど換金産物が主流の商業用倉 もあったが、ほとんどは生活用品を収める倉であった。 一般的 には、倉 の 1階 には米、穀類 お よびひっ な ど、 そ して 日用品が保存 されてお り、 2階には、衣類、寝 具などとともに冠婚葬祭用具が収め られている。 その収納状況か ら豊根村 の倉 の大 きな目的 は本来、 湿度管理お よび保温である と推察す るこ とがで きる。 板倉が普及 したことを裏付 けている。 現在、倉は、納屋の代替 となっているケースが多い。 メインテナ ンスコス トをかけていない こと、整理のた めに必要な倉が 「ランゴク」 (乱雑 な状態)な置 き場 と なっているか らである。生活様式の変化、電化製品の 普及など社会の変化の影響 を倉 は大 きく受 け、本来の 湿度管理お よび保温の要請は少な くなっている。 豊根村の倉 は、それほ ど古い ものではな く、明治時 代以降に立て られた ものが多いが、母屋が改造 されて も、倉はまだ使 えるため、その まま取 り残 された もの が多い。その結果、倉の敷地内におけるゾーニ ングの 変更 によって倉の役割が変わって きている。暮 らしに おけるシステムの一翼 を担 った倉か ら、暮 らしとは分 離 して、モ ノを押 し込めて、時間の経過 を待つ ところ に倉の役割は変化 した。 豊根村上黒川老平 にある熊谷家住宅 は昭和49年重要 文化財 に指定 された。 熊谷家の歴史は18世紀 に始 まる。以来、19代続 いた 旧家である。古 くは醸造業 を営み、庄屋 も勤め、 この 地域 において リーダーシップを発揮 した。 熊谷家主屋 の中の間の天井 には養蚕用の開口が残 っ ている。 また、屋敷地の北 にはこな し小屋 と酒蔵が残 ってお り、醸造業 を忍 ばせ ている。倉 は、主屋前方南 側 に穀倉 と新倉が残 っている。 熊谷家の新倉 で も、穀類以外 の生活用 品が収納 され ていた。その構造は、以下の とお りである。 土蔵造 り2階建、桁行5メー トル、梁間4メー トル、 切妻造、置屋根板茸、西面庇付。1階は根太天井、 2 階は化粧屋根裏、1階2階 とも軸部柱毎 に根太、 2階 床根太 を配 り、床 は板張 りである。 内部壁 は、真壁漆喰塗 り、外部 は大壁 であ り、垂木 (波形)、破風板 を含 め漆喰塗寵である。東面、南面 は 基礎石か ら高 さ約1.6メー トルの水切 り位置 までなまこ 壁であ り、西面 は漆喰塗 り墨塗 り仕上げである。妻面 には鐘絵が施 されている。 屋根 と倉本体 との間には野地板上 に杉皮茸の上 に置 土が施 されている。 以下の図面は熊谷家 よ り提供 された ものである。 豊根村 においてこの ような板倉が普及 した理由には、 以上の ような背景の他 に、地産の資材 を使 い、地元の 職人の技 によって組み立て られる自立型地域 システム が確立 していた ことがある。豊根村村 内に標準化 され た板倉づ くりには様 々な工夫があ り、経済 システムに おける生産機能及 び技術基盤 を担 っていた。 と くに、 厚板 の加工技術 の進歩 につれて部材の加工法 には顕著 に工夫が施 されるようになった。隅部分の仕 口の省略、
「地域研 究」4号 2008年3月
(垂軍 ノこう)
熊谷 家 穀倉 と新倉 (20051123撮影) 水平方向にヌキや胴差 しの導入 などである。 また、扉 に取 りつけ られている大阪錠 も豊根村村内では標準化 されてお り、 これ らの工夫 には、地域 システムが確立 されていた裏付 けをみることがで きる。 また、板倉 である とい うことは組み立 て分解が可能 な建築物であ り、売買 も可能である。今 回、調査 した なか に も移設 した倉 である との説明 を受 けた もの もあ った。経済的な豊 か さに連れて倉 は動 くものである と の話 も聞いた。 北巨摩 か ら上諏訪 にかけての地域で も豊根村 と同様 の倉 をみかける。 この地域での特徴 は、土倉 を家がか かえこんでいるようなつ くりであ り、抱 き蔵 とも、た て ぐるみ とも呼んでいる。 倉 に とって屋根 は雨 よけである。従 って、母屋 の屋 根がその役割 をはたす ことは合理的なことである。 ま た、入庫 も出庫 も母屋のなかでで きれば便利である。 しか しなが ら、倉 にとって重要なことは耐火である。 もしも母屋で火災が発生 した ら大変である。倉が別棟 になっているのは母屋か ら延焼 を くい とめる との理 由 を考 えると、たて ぐるみは奇妙 な発想である。 たて ぐるみのなかには、表面 だけ倉 をみせているが、 なかは倉ではないケース もある。倉 にはステータスの 機能がある と考 える と、たて ぐるみでは十分 に倉 の役 割が果たされているといえる。 一方、東北地方では、通常 は、母屋 にある座敷 に倉 を持 ち込 んでいる。蔵座敷である。耐火性 、通気性 の 特徴 よ りもステー タス機能の特徴が重視 された例 と考 えるべ きだ と思われる。 蔵 には鏡絵が よくある。豊根村の重要文化財熊谷家 住宅の新倉 に もみ ることがで きる。普通の家屋が大工 を棟梁 とした組織 によってつ くられるのに対 して、倉 は左官 を棟梁 とした組織でつ くられる。そこで、左官 が 自分の作 品であることを記すために、自らの鎧 さば きでつ くった レリーフが鎮絵 である。 この鎧絵がステ ー タス としての倉 の特徴 をさらに際立 たせ る効果 とな っている。蔵造 りの家 に も、たて ぐるみの家 にも鍍絵 をみることが多い。 また、諏訪地方 には、雀お ど りと呼ばれる民家の棟 端飾 りがある。屋根端部の坂 をぶっ違いに交差 させて、 そ こに扇形 や菱形 な ど様 々な形の細工 を加 えている。 これ もステー タスの一種 と考 えることがで きる。雀お ど りは、 この地で倉 をどの ように考 え、たて ぐるみが 普及 したのか理解するヒン トを与えている。 結論 として、豊根村 にある倉 は、今回の調査 におい てその施設の設計 、部材、使 い方 を分析 した結果、豊 根村の経済発展 の歴史 と自然環境 との良 くかみあった 工夫の歴史であると言いたい。 また、豊根村 でみかける倉 は他 の地方でみかける倉 よ りも小型である特徴がある。 しか しなが ら、倉の建 設時期が経済的に余裕がで きた時である傾 向、道路か ら見渡せ る位置 に配置 されている傾向は、諏訪地方の たて ぐるみの影響 を受 けつつ、倉のステータス として の特徴が形成 されたのではないか と考 えられる。 豊根村 は、南信州 を経 て、諏訪地方 とも交流が盛 ん であった。豊根村の蚕 は、三河へ も流通 したが、諏訪 地方へ も運ばれた。 このため、豊根村の倉 は諏訪地方 の影響 を受けた と考 えられる。 ステー タスは、物 を通 じて人間に精神的なよ りどこ ろを もた らし、個性 を磨 かせ、 自立 を促す。そ して、 それ を誇示することに関 しては様 々な見方がある。誇 示 とい うことは他 人 との関係 において生 じることに注 目す るな らば、倉が新 たな外部か ら来客者 を迎 える観 光資源 として も認識で きることになる。大洋正治 :循環型社会における 「保存」に関するノー ト 豊根村 における倉 は、一般的な耐火、防火 を目的 と していたのではな く、地域の気候 を反映 し、防寒、防 湿の機能 に主たる目的 を置いていた。その防寒、防湿 の機能 を昭和
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年代 に普及 した家庭電化製品等 に譲 る とともに、倉のFunctionが暮 らしか ら分離 し、個人の存 在 を誇示す るあるいはプライバ シーを維持す ることに 移った。つ まり、倉のFunctionよりFacilityを重視するよ うになった。 倉 と蔵の区別 をはっきりさせた定義 はないが、一般 的には、倉 は生活用であ り、Functionに重 きを置いて使 われていることが多 く、蔵は商業用であ り、Functionと ともにその規模か ら施設 としてのFacilityに重 きを置い て使 われ ている。 この ことか ら、豊根村では倉の蔵化 が進んだといえる。2-3.
豊根村の倉 と沖縄高倉の比較 亜熱帯気候の沖縄 におけるモノの保存 で、最 も重要 なことは防湿であるO豊根村の倉の 目的 と同 じであるO しか しなが ら、山村である豊根村の倉 は保温 も重要で あるのに対 して、沖縄では通風が重要 となる。従 って、 沖縄 の保存のFacilityは防火、耐火あるいは盗難対策の 目的 と併立す ることは難 しく、沖縄地方では、蔵 ない し倉はほとん どみない。通気性 をえるために自然の風 を利用 して、 自然環境 を積極 的 に取 り入れ ることは、 自然 と隔離 しようとするモノでつ くるFacilityではな く、 あたか も、 自然環境 自体がFacilityであるとい うことに なる。 沖縄 において、倉 と比較すべ き保存のFacilityは高倉 である。 しか しなが ら、現存す る高倉 は少 ない。少 な い高倉の うちの一つ を名護市我部祖河 (旧羽地村)の 宮城家 に見 ることがで きる。 この高倉 は県指定有形民 俗文化財である。 高倉 は、高床式で、屋根 は寄棟で茅葺 きである。脚 柱 は固い木4ない し6本 である (我部祖河宮城家高倉 は9
本)。床組は柱の上部 に平桁 を渡 し、根太 を組 んで いる。四方の壁 は水平 に近 く、竹の網代 で組 むなど通 風 に配慮 している。高床式にする狙いは防湿であるが、 その他 に動物の新入 を防 ぐ 榊3)狙い もある。脚柱 に丸 太 を使用 して登 りに くくした り、ねずみ返 しと呼 ばれ る侵入防止の工夫がなされている。 高倉は穀倉であ り、稲 の穂 の まま保存 し、必要 に応 じて脱穀 していた。豊根村 の倉 も基本的には穀倉であ るが、保存する米の状態が異 なっている。 沖縄 では、高倉 を北 中城 の 中村 家 (国指定文化財) で も見 ることがで きるが、 ここの高倉 は、床 の下部 に も板壁がある。中村家 は豪農の家であることか ら、沖 縄 において も倉か ら蔵化の傾向、倉 をステー タス とし て位 置づけることが行 われていたのではないか と注 目 する。 沖縄 の高倉 と豊根村の倉 を比べ る と、共通 して穀倉 であるが、構造上、開放型 と密 閉型の違いが明 らかで ある。 また、関連 して、米の保存状態 も違 っている。 また、倉の構造上の違いは、沖縄、豊根村の社会構 造の違いに も関連 している。豊根村 においては、各家 が比較的離れて独立的 に建 っていることもあ り、倉が 各家屋 の一部 とな り、 ゾーニ ングが確 立 し、個 々の 家 々の独立性が高かった。そのために、Facilityである 倉 は時代の変化、生活様式の変化 によって、Functionが 変更 されて も、それは家の中での用途変更です まされ、 また、家 のステー タスに結 びついた まま、壊 されず、 残 された。 しか しなが ら、沖縄 の高倉 は、当初 は、家屋 よ りも 田畑 の近 くに設置 され、倉 の共同使用形態 も普及 して いた。 奄美大島大和村の群倉 (ほれ ぐら) は、各家の高倉 が特定の場所 に集 中 して建 て られていたことを伝 えて いる。沖縄 で も集落 を構成す る字の名称 に蔵が使 われ ているところがあるが、かつて沖縄 に も群倉が存在 し ていたことを推察 させ る。集落共同体の特色が濃い沖 縄 の社会構造及び地割制度が倉 の連携 を導いている と 考 えることがで きる。倉 の開放性 と気密性の違 いは単 に気候条件か ら選択 された結果だけではな く、集落の あ り方即 ち、人々の暮 し方 に も影響 を受 けた結果で も ある。「地域研究」4号 2008年3
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もっとも、中村家の高倉 の ように、経済力 の拡大 に 伴い私有 を誇示する傾向を沖縄で もみることがで きる。 しか しなが ら、沖縄 の社会構造 か ら、け して倉のあ り 方 として主流ではない と思われる。 豊根村の倉 と沖縄の高倉 を比較 して、保存のFunCtion には気密性 と開放性があることを指摘 したが、保存 シ ステム とい うゴールか らみれば、 これ らの性質は二つ の異 なったアプローチであ り、一つの要因に よって、 どちらかのアプローチが決め られているわけではない。 どち らのアプローチ を選ぶか、あるいはその中間のア プローチ を考 えるのかは、地域性、技術適用性 の変化 などを保存対象時間 とともに十分、考慮 し、柔軟 に判 断すべ きである。 我部祖河宮城家高倉 (200793撮影) 2-4.沖縄 における食の保存 高倉 を通 じて、沖縄 における保存 は、人々 と共有す るとい う意味 も含めて広 い範 囲に及 び、開放的である ことが理解で きた。広 い範 囲を対象 として保存す るこ とを考 えると、モノによってつ くられるFacilityではな く自然環境 その ものがFacilityである との考 え方 に近づ いている。 沖縄 、 とくに、山原地方では、森が海 を育てる との 考 え方や、風水説 による計画的な風水村落 な どの特徴 があ り、 自然環境の中に自分 たちを配置す ることを基 本 としていたために、 自然環境 その もの をFacilityとす る考 え方 に馴染んでいた。 沖縄 において、 自然環境 を利用 した食保存が進んだ のは、その良い例である。豊根村 において も、一種の 保存技術 を活用 した金 山寺味噌が名物 となった り、秋 か ら春 にかけて畑 の土の中に山い もや里芋 を埋める保 存方法、あるいは床下の冷気 を利用す るなど自然環境 を利用す る食保存 の工夫 はある。 しか しなが ら、沖縄 においては、ほ とん どの食材 に、 自然環境 を利用する 工夫があると言 って もよい。 沖縄 では、豚 は大切 な食材である。鳴 き声以外 はす べて食べ ると言 われているが、 日持 ちの しないモ ツな どか ら食べ る習慣 はすでに自然環境の時のながれに順 応 した保存 と考 えることがで きる。ス-チカー (塩漬 け)、 ア ンダス- (油みそ) は豚 肉の保存 である。水 の中で冷蔵保存 しない島豆腐 も貴重であった水状況 に 照 らした保存の工夫である。沖縄の食生活では昆布の 消費量が多い。沖縄 では昆布 は とれないが、乾燥保存 食品 として評価 されていた。 豊根村 と沖縄 では、当然、気候条件の違いか ら、 自 然環境 を利用する食保存の技術 は違 う。しか しなが ら、 同 じように自然豊かな条件下で も、モノでつ くられた Facilityを取 り入れない沖縄 において、 自然環境 を利用 した食保存が盛 んであ り、豊根村では、モノでつ くら れたFacilityに依存 し、食の保存 も自然環境 を利用する よ りも、Facilityの中にいれて保存する傾向があったこ とに注 目 したい。3.
これからの保存 システム Facilityに依存す る保存 と、 自然環境 に保存す る保存 は、社会的視野で考 えると、前者は気密性が高い保存、 後者は開放性 の高い保存 となる。 さらに、気密性が高 い ことは 自主性 の強化 につなが り、開放性の強化 は共 有 システムにつ なが っている と考 えることがで きる。 前者が山村豊根村 である とすれば、わが国における林 業経営が背景 として浮かび、後者が沖縄であるとすれ ば、島にあること、集落共同体、あるいは集落 に住 む 人々による協 同組合 で経営す る共同売店が背景 として 浮かぶ。大洋正治 :循環型社会における 「保存」に関するノー ト この ように対称 的な保存 システムであるが 、今後、 これ らの保存 システムが どうなるか検討 してみ る と、 従来型の保存 システムが継承 される とは限 らず、循環 型社会の枠組みの もと、お互いの要素 を同時に取 り入 れる可能性 も入れ替 える可能性 もある。 Facilityに注 目 してみたい。 豊根村では、過疎化の進展 、社会環境の変化 におい てFacilltyの遊休化が進んでいる。公共施設の ように人 口の減少によ り、単 に利用者が減少 してFacilityが遊休 化 しただけではな く、生活ス タイルの変更、技術 に進 歩、あ るいは情報流通 の進歩 に よって、個 人の もつ Facilityの遊休化 も加速 している。豊根村 の倉 は、後者 によって事実上、遊休化 している と言 える。本来であ れば、諸々の変化 に従い、Facilityも積極的かつ柔軟 な メインテナ ンスによって追随す ることがで きるはずで あるが、追いつ くことがで きず に遊休化する場合が多 い。豊根村 においては、 スクラ ップ化 の道 を選ぶか、 さもなければ、ただ残すのであればFacilityが遊休化す るだけではな くその中で混雑が生 じることを恐れなけ ればならない。エ ン トロピーの増大 を招 く。Facililyの 新 たなFunctionを探す ことが重要である。 一方、沖縄 においては、生活のス タイル等諸 々の変 化 に対応するために、経済的合理性 を求める観点か ら も、Facilityの新設が求め られる場合が多い。 しか しな が ら、米軍基地問題 に関連 して、突然の ように、米軍 基地が残す大型 なFacilityを迎 え入れる生活 に大転換 を はか らなければな らない ことも将来、ある。 ここで も Facilityに適合するFunctionを探す必要があ り、Function が問題 となる。 Facilityの余剰 、Facilityの不足 、いず れ に して も、 Facilityをどの ように利用 し、運営するか とい う問題 を 抱 えるとい う点で、共通 な悩み と考 えることがで きる。 ハー ドか らソフ ト- といわれて久 しい。ハ コものの 設置 に熱心であった 自治体が、整備後Functionのあ り 方 に悩 んでいた時 もあったが、今や、地域格差解消の ために、再 び、Facility依存型経済社会 に戻 る可能性 も ある。FacilityとFunctionの関係 は古 くて新 しい問題 で ある。FunctionとFacilityは、同時 に考 える必要がある. とくに、時間 とともにFacilityは古 くなることを考 えな ければならない。 循環型社会では、モ ノに依存す るFacilityを追加的 に 新設す る前 に、余剰のFacilityを有効 に利用 し、稼働率 の低 いFacilityのFunctionを改善す ることが重要 となる。 アイデ ィアは現実 にある。対極 にある概念の気密性、 開放性の融和 を求めることである。サー ビスの専門化、 標準化 によ り、保存 に関す る責任の所在 を明確 にす る。 そ の結 果 、家 の 中 にあ るか つ て倉 が は た して い た Functionは倉が な くとも、専 門化 した トラ ンクルーム に安心 して頼 むことが、普及 している。利用頻度 の低 い図書の廃棄 を避けるため に、図書館 の ネ ッ トワー ク 化、図書の共同保存 システムであるデポジ ッ トライブ ラリーが現れ始めている。その地域 の人 しか利用 で き ず気密性が高かった図書館 の共有化が始 まったのであ る。 この背景 には情報 システム技術 の発達がある。 保存 され るモ ノを輸送 コス トに配慮 しなが ら保存す る場所 を広 げて探す ことも重要である。 と くに、都市 と山村の関係 か ら、都市 において保存 で きないモ ノを 受 け入れることも可能である。その場合 は、山村 と都 市の共有化 された保存 システムが編み出 されることに なる。気密性 の高い保存の特徴 を活か し、都市部 にお ける災害対策の引 き受 けな ど。 この ことは、他者 を受 け入 れ る広域 システムの もとに実現 す る と思 われ る 他 、環境権の取 り引 きに発展す る可能性 もある。 責任の分担 と共有 を取 り入れた保存 システムの改善 を通 じて、モ ノが今 まで以上 に保存 され,保存 された モ ノが適切 に消費 される。そのため には、保存 システ ムの改善 を受 け入れる責任 の分担 と共有 に基づ く循環 型社会の社会基盤が整備 される必要がある。
4.
最後 に 本報告 にあ た り、多面 にわた り協 力 をいただい た (秩) アークポイン トの寺島薫氏 にこの紙面 を借 りて感 謝の意 を表 したい。「地域研究」4